• 【有機化学】構造と反応性 -熱力学と速度論-

    2020-04-02 22:02
    こんにちは。えーたです。

     今回は、前回までと趣向を変えて、有機化学における化学熱力学と化学速度論について解説しました。




     化学熱力学では、物質のエネルギーに着目します。高いエネルギーをもつ化学種はそのエネルギーを放出しようとする傾向にあります。よって、高エネルギー状態の化学種は低エネルギー状態の化学種に比べて不安定です。ここで、高エネルギー状態から低エネルギー状態へと変化する際に、エネルギーを熱として放出しようとします。しかし、熱を放出できる物質が速やかに熱を放出するとは限りません。エネルギー的に有利な反応が非常に速いこともあれば遅いこともあり、全く起こらないことさえあります。

     ここで重要なのは、熱力学と速度論は大きく異なるものであるということです。空気中に置かれたマッチ棒は、自然に燃え始めることはありません。これはこの反応の速度が非常に遅いからです。室温では酸素と反応する化合物の量が少なすぎるせいで、実際に反応起こっていないように見えます。しかし、マッチを擦ると、摩擦でマッチの頭が熱せられることによって燃え始め、燃え尽きるまで燃え続けます。

     ほとんどの有機分子と酸素の反応は、最終的にはエネルギーを放出することになるにもかかわらず、開始させるのにエネルギーを注入する必要があります。それは、ほとんどの反応において古い結合が切断され、新しい結合が形成されますが、そのタイミングは正確に同時というわけではないからです。いくつかの古い結合の部分的な切断が何より先に起こらなければなりません。そのためにエネルギーの注入が必要なのです。ひとたび結合が切断され始めると、新しい結合の形成が促され、エネルギーが放出されます。この放出されるエネルギーの量は、次々と古い結合を切断するのに十分で、余ったエネルギーは燃焼の炎や熱の形に変換されます。最初に注入されるエネルギーは反応の活性化エネルギーにあたり、速度論、すなわち反応の速度を支配する鍵となる要素となります。
     化学熱力学と化学速度論は、ある化合物を合成しようと思った時に、その反応条件を検討する際に重要になってきます。目的の化合物を得るために、原料をどの程度使えばよいのか、反応温度をどのくらいにすればよいのかといったことを決めるための指標となります。



     それでは動画の問題の解答です。



     (1)は反応のエンタルピー変化を求める問題です。エンタルピー変化は、出発物質において切断される結合の解離エネルギーDHの総和から新しく生成する結合の解離エネルギーの総和を引いた値になります。



    (i)ではC=C二重結合がC-C単結合に変化し、またBr-Br結合が切断され新たにC-Br結合が二つできました。ここから解離エネルギーの差をとると、

    {(C=C)+(Br-Br)}-{(C-C)+2(C-Br)}
    =(611+193)-(347+2*285)
    =-113

    よって ΔH=-113 kJ mol^-1 です。

    (ii)も同様に考えましょう。C-H結合が一つC-Br結合へと変化しています。また、Br-Br結合はH-Br結合へと変化しました。よって、

    {(C-H)+(Br-Br)}-{(C-Br)+(H-Br)}
    =(414+193)-(285+364)
    =-42

    ΔH=-42 kJ mol^-1 です。

    どちらも発熱反応で、(i)の方がより発熱的だということが分かります。


    (2)はエントロピー変化の問題です。ここで重要なのは反応の前後での分子数の変化です。化学においてエントロピーとは、エネルギーの分散度を示す量でした。分子数が多くなるほど系のエネルギーは各分子に分配されるため、エントロピーは大きくなります。(i)は2分子から1分子ができる反応で、反応後の方が分子数が少ないためエネルギーの分散度は小さくなります。つまり、この反応はエントロピーが小さくなると考えられます。一方(ii)は反応の前後で分子数が変化しません。よってエントロピーもほとんど変化しないと考えられます。以上のことから、(i)がΔS=-147 J K^-1 mol^-1 で、(ii)がΔS=0 J K^-1 mol^-1 となります。


    (3)はギブズエネルギーを求める問題です。ΔG=ΔH-TΔSに(1)、(2)で求めた値を入れましょう。

    <25 ℃(298 K)>
    (i) ΔG=-113-298*(-0.147)≒-69 kJ mol^-1
    (ii)ΔG=-42-298*0=-42 kJ mol^-1

    <600 ℃(873 K)>
    (i) ΔG=-113-873*(-0.147)≒15 kJ mol^-1
    (ii)ΔG=-42-873*0=-42 kJ mol^-1

    ここで(ii)の反応は温度によらずΔG<0で熱力学的に有利な反応ですが、(i)の反応は高温になるに従ってΔGの値が大きくなり、600 ℃ではΔG>0になるため熱力学的に不利であることが分かります。よってプロペンに臭素を付加させたい場合は、あまり高温にしてはいけないということですね。


     以上で解説は終わりです。深く掘り下げると難しい話もたくさん出てくるのですが(特に反応速度論)、最低限の部分は今回で解説できたと思います。熱力学の方は物理系の先駆者様方によって多くの解説動画が存在しますので、速度論の方は少し踏み込んでみたいかなとは思っていますが、毎度のごと未定です。次回は化学結合について解説しようかと考えています。

     それではまた次回。ありがとうございました。
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  • 有機化学 有機化合物の命名法 -シクロアルカン-

    2020-03-02 21:41
     こんにちは。えーたです。

     前回から3ヶ月以上も経ってしまいました。この調子では解説したいことが全然話せません。名前つけてるだけでは全然面白くありませんからね。

     ということで今回はシクロアルカンの命名です。前回の内容は理解してるものとして進むので、初学者の方は前回を見ることを推奨します。今回は環状の飽和炭化水素として、単環、多環およびスピロ化合物を取り上げました。しかし正直、多環アルカンやスピロ環くらいになると慣用名や慣用名を元にした命名がされることが多いので、「こういう命名法もあるんだなあ」位に思ってもらって構いません。前回で重要なことは大体解説しきってるので、命名法だけだと内容がどんどん薄くなりますね…。それでは以下の動画の最後につけてある問題の解答です。

                




     (1)シクロアルカンが置換基となったシクロアルカンです。最も大きい環が母骨格となるので、語幹はシクロヘプタンです。置換基はシクロブチル、シクロペンチル、シクロプロピルメチルの3つです。アルファベット順だとシクロブチルが最初ですが、これを1番にしてしまうとシクロプロピルメチルが6位になってしまいます。置換基の番号はなるべく小さくするので、次に優先順位の高いシクロプロピルを1番にします。これで、シクロブチルが3位、シクロプロピルメチルが5位にきます。あとは優先順位の通りに接頭辞を並べて、

    3-シクロブチル-1-シクロペンチル-5-(シクロプロピルメチル)シクロヘプタン
    3-cyclobutyl-1-cyclopentyl-5-(cyclopropylmethyl)cycloheptane

    です。

     (2)2置換シクロアルカンで、立体も表記されています。くさび形で書かれているのは手前側に、破線で書かれているのは奥側に置換基があることを示しています。今回は二つの置換基が互いに反対側にあるので、これはトランス体です。母骨格はシクロヘキサンで、置換基はクロロ基と1-ブロモエチル基です。あとは優先順位の通りに並べましょう。

    trans-1-(1-ブロモエチル)-3-クロロシクロヘキサン
    trans-1-(1-bromoethyl)-3-chlorocyclohexane

    です。ちなみに、絶対配置表記をすると、(1R,3R)- となります。この絶対配置については次回以降に解説したいと思います。

     (3)立体的にかかれてありますが、構造が読み取れたでしょうか。とりあえず上についている2つのメチル基を無視します。すると、シクロヘキサンの1,4位を1個の炭素で架橋した構造であることがわかります。よって、これは架橋二環系で炭素数は7。橋頭位を繋ぐ橋の長さはそれぞれ2,2,1です。よって母骨格は、ビシクロ[2.2.1]ヘプタンとなります。さて、メチル基が置換している炭素は最も短い橋なので、番号をつける際は最後になります。よってこの炭素は7位です。あとはいつものように頭に接頭辞をつけて、

    7,7-ジメチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン
    7,7-dimethylbicyclo[2.2.1]heptane

    です。ちなみに、ビシクロ[2.2.1]ヘプタンには、「ノルボルナン (norbornane)」という慣用名が許容されており、

    7,7-ジメチルノルボルナン
    7,7-dimethylnorbornane

    もOKです。





     (4)スピロ化合物です。スピロ炭素を結ぶ原子の数を数えると、それぞれ5と2です。よって母骨格はスピロ[2.5]オクタンです。スピロ化合物では小さい方から並べましょう。位置番号は、スピロ原子の隣から、また小さい環から始めるので、3員環側から数えます。


    よってフルオロ基の置換している場所は6位になります。よって、答えは

    6,6-ジフルオロスピロ[2.5]オクタン
    6,6-difluorospiro[2.5]octane

     (5)ポリスピロ環化合物です。端っこの環から始めるので、3員環のどれかが1番となります。実は、スピロ原子を繋ぐ橋の長さはどれも2なのでどこから始めても構いません。ぐるっと一周してきましょう。



    スピロ原子は3つなのでトリスピロ、橋の長さは2,2,2,2,2,2です。また、3つめの橋を渡ると6位に、5つめの橋を渡ると11位に、6つめの橋を渡ると3位に二回目に来ることになるので、




    となります。上付き文字って出せないんですかね?




     (1)ハロゲンが3つ置換したシクロペンタンです。ブロモを基準に位置を数えて確認しましょう。



     (2)シクロブチル基とフルオロ基が置換したシクロデカンです。これはシス体なので、二つの置換基は互いに同じ側にあります。なので両方ともくさび形、もしくは破線でかきます。



     (3)ビシクロなので橋を3つ架けましょう。それぞれの長さはすべて2なので、下図のようになります。


    問1の(3)のように立体的に書くこともできます。その場合は下のようにかきましょう。



     (4)一般に、スピロ[m.n]の場合は、m+1員環とn+1員環をくっつけてやるだけでできます。今回はスピロ[2.4]なので、3員環と5員環をくっつければOKです。



     (5)括弧の中を見ましょう。最初が2なので3員環ができます。またこのスピロ原子の番号は3です。次の橋は2なので3位と次のスピロ原子との間が2、つまり次のスピロ原子は6位です。その次は橋の長さが2で6位に戻ってくるので、3員環ができます。最後に長さ6の橋を渡って3位に戻ってきます。

     以上で解答は終わりです。問1も問2も(1)と(2)が分かれば問題ありません。(3)-(5)はこういう風に命名することさえ知っていれば、コンピュータが勝手に命名してくれます。

     次回は命名ばっかりだと飽きるので、もっと有機化学らしい事やりたいです。まずはアルカンと塩素のラジカル連鎖反応とかやろうかなとは思っていますが。基礎的なとこから話し始めると物理化学や量子化学についてもやりたくなってくるので次回は未定です。3ヶ月もは空かないようにしたいです。

     それではまた次回。ありがとうございました。

  • 有機化学 有機化合物の命名法 -アルカン-

    2019-11-08 00:13
     はじめまして。えーたと申します。
     ↓の動画を見てくださったでしょうか?見て下さった方はありがとうございます。見てないという方はどうか見て下さると嬉しいです。



     学術系解説動画を投稿されてる方が増えてきて、面白い動画がたくさん見れるようになり、毎日たくさん勉強させていただいております。しかし、物理・数学系の動画は盛んに投稿されているのに、化学(特に大学学部レベル以上)に関してはあまり多くないように感じます。(面白い動画があったら教えて下さい。) 私は中学生の頃にどこだったかでベンゼン環を見て、「何だこのカワイイ幾何学模様は!?」と興奮し、そこから有機化合物の構造式にハマりました。特に好きだったのがペニシリンのペナム骨格です。


     この4員環と5員環がくっついたフォルムがなぜか好きでした。そんなこんなで有機化学に入り込み、大学でも有機化学を専攻しました。私はこのほぼ炭素(と水素)しかないのに無限大の可能性のある有機化学の分野はとても面白いと思うのですが、どうやらあんまり解説動画はないようで…。ということで、少しでも化学分野も賑わってほしいという淡い期待を込めて動画作成に着手しました。レベルとしては大学で有機化学を学び始めたぐらいを想定して作ってます。といっても今回の動画はただ名前をつけるだけなのでそんなに難しくないとおもいます。ただ、有機化学では直線を使った簡略構造式を多用するので、慣れてない人にはいきなりハードルが高かったかな?一応高校でもベンゼン環は省略してかくのでそれと同じように考えてもらえればいいんですけど、簡略構造式の解説っていりますかね?必要であれば検討しようと思います。

     さて、今回の動画はIUPAC命名法についてです。今でも慣用名いっぱい使ってますし、IUPAC名だと長すぎて使いづらいので、むしろある程度の大きさの分子以上は慣用名ばっかり使ってると思います。しかし化合物は膨大な数があり、それを系統立てて整理するのは困難です。慣用名だけではデータベースから目的の情報を得ることは難しいでしょう。そこで、化合物の構造と名称が一義的に対応する、体系的な命名法が1892年スイスのジュネーブで開かれた化学会議で初めて提案されました。それ以来、主に国際純正応用化学連合(International Union of Pure and Applied Chemistry, IUPAC)によって改訂され続けています。これにより、化合物の名前だけを見て正確な構造を描くことが可能になりました。

     今回の動画では有機化合物の最も基本となるアルカンの命名法について解説しました。有機化合物は中心となる母体の水素原子が何かしらの置換基で置換された誘導体として命名されます。今回分枝アルカンの命名法のところで解説したのは、IUPAC命名法のうち置換命名法と呼ばれるものです。このほかにも命名法は存在するのですが、IUPACは「置換命名法を優先して用いる」ように勧告しています。つまり、今回解説した内容を少し応用するだけで、かなりの化合物を命名することができるようになります。(おまけでつけたハロアルカンの命名もすぐ終わりましたよね?) なので動画の最後につけた問題は是非解いて理解してもらいたいと思います。それではこのあと問題の解答と少しの解説をしたいと思います。














    問1 次の化合物(1)~(5)をIUPAC規則に従って命名せよ。



     まずは 構造 → 化合物名 の変換です。

    (1) 直鎖アルカンです。炭素数は9なので、ノナン (nonane) です。さすがに炭素数10以下の直鎖アルカンの名称は覚えてもらうほかありません。

    (2) 慣用名はイソブタン (isobutane)ですが、IUPAC規則に従って命名すると、2-メチルプロパン (2-methylpropane)です。

    (3) 主鎖の取り方、番号の付け方は大丈夫ですか?最も長い炭素鎖は下図の赤で示した部分です。炭素数は5なので、主鎖はペンタン (pentane)です。また、メチル基のついた炭素の番号が小さくなるように番号をつけるので、答えは2,3-ジメチルペンタン (2,3-dimethylpentane)です。


    (4) 主鎖は炭素数7のヘプタン (heptane)です。4位に分枝のあるアルキル基がついていますね。置換基の番号は、主鎖に直接結合した炭素が1になるので、これは1-メチルエチル基 (1-methylethyl)です。今回の置換基は methyl と 1-methylethyl です。methylが完全に被ってますけどその場合は当然名前が短いmethylが優先です。よって答えは、2,5-ジメチル-4-(1-メチルエチル)ヘプタン (2,5-dimethyl-4-(1-methylethyl)heptane)です。


    (5) 複雑ですが頑張って主鎖を見つけましょう。主鎖は炭素数10のデカン (decane)です。5位に分枝アルキル基がありますね。置換基に番号をつける時は、主鎖に直接結合した炭素が1なので、これは2-メチルプロピル基 (2-methylpropyl)です。あとはアルファベット順に並べて、4-エチル-3,4,5-トリメチル-5-(2-メチルプロピル)デカン (4-ethyl-3,4,5-trimethyl-5-(2-methylpropyl)decane)です。名前長いですね。


    問2 次の化合物名(1)~(5)に対応する構造式をかけ。




     次は 化合物名 → 構造 の変換です。

    (1) ウンデカン (undecane)の炭素数は11です。炭素数を数え間違えないようにしましょう。単結合は自由回転できるので、問1(1)のノナンのように曲げてかいてもOKです。


    (2) まずは主鎖を確認しましょう。主鎖はヘキサン (hexane)なので、炭素数は6です。そこに位置を確認しながら置換基を生やしていきましょう。


    (3) 主鎖はペンタン (pentane)です。2,4-位にメチル基、3位に1-メチルエチル基を生やして完成です。置換基に番号をつける時は主鎖に直接結合した炭素が1となるので、1-メチルエチル基のメチルは主鎖と結合した炭素からすぐに分枝します。対称的な構造がかけましたか?


    (4) トリクロロメタン。慣用名クロロホルム (chloroform)ですね。母体がメタンだと簡略構造式をかくと変になるのでCもHも全部かきましょう。


    (5) 主鎖はペンタン。ハロゲンがいても変わらず、どんどん置換基を生やします。


     解答は以上です。比較的単純なものを選んだつもりなのですがどうでしょう。何かの有機化合物をWikipediaで検索すると大抵IUPAC名がデータのとこに書いてます。スクアレンのIUPAC名は「2,6,10,15,19,23-ヘキサメチルテトラコサ-2,6,10,14,18,22-ヘキサエン」だそうです。最後のエンというのは2重結合を意味します。というヒントだけでスクアレンの構造がかけますか?勘のいい人はもうかけると思います。これ以降は今回説明した内容に少しずつ要素を足していくだけです。見知らぬ化合物にもちゃんと名前をつけてあげられるようになりましょう。

     さて、次回は作りたいとは思うのですが、正直動画を1本作るのは思った以上に大変でしたので…。いつになるかは未定ですが、せっかくなので命名法の続きとして環式化合物や立体にも触れていきたいと思います。(あと需要があれば簡略構造式も…)

     最後までお付き合いいただきありがとうございました。