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  • 姉妹の決着(仮)

    2020-11-04 23:41
     防衛機構からの何度かの襲撃を乗り越え、廃墟街で休息中のG8。 休息といっても、それは戦闘班の子達だけ。 通信班や整備班のみんなには休む暇などなかった。
     特に私たち通信班は、せいぜい交代で仮眠が取れる程度で、食事は缶詰かレーションを隙を見て流し込んでいる。 排泄に至っては、極力部屋から出ずに、使い捨ての簡易トイレに頼っている始末。
     それには、少人数で24時間常に襲撃に備える以外にも理由がある。 水がもう少ないのだ。
     幸いにも各車のタンクの水は飲用も可能なので、渇きだけは癒せた。 それは、シャワーは禁止されて身体を拭くのがやっとで、食事も皿に盛ることすらせずに缶から直接食べるという、あまりにもクオリティの低い生活を強いられている私たちの、唯一の救いとなっていた。
    「スティ子隊を3分割して交代で飛ばせ。 警戒、休息、待機の“ローテ”で回す。」
    「 編成はスティ子さん達に任せますか?」
    「そうしてくれ。 それと、この近くに商業施設があれば物資の調達に何人か出してくれ。」
    「了解。 車内放送します。」
     放棄された商品を“頂いてくる”ことはこれまでもやってきたことだ。 しかし、今は下手に遠出するわけにもいかず、そのために部隊を移動させることも避けたい。 結局、近くの何軒かのコンビニエンスストアから飲料と食料、あとは必要そうな雑貨が少しずつ得られたのみだった。



     ろくな飯も食えず、かといって眠れもしなかった俺は、マスターのことが気になっていた。
     こんな状況でも、まともな飯でなくとも、食事のために皆は食堂車に集まっていた。 そして食事を終えても自室に帰らず、不安を紛らわすために無理矢理くだらない話をしていたり、ちょっとしたボードゲームを楽しもうとしたり、誰もが無理をしているように見える。
     そんな中で、マスターだけが1度も姿を見せない。 迅雷がいなくなってから、たったの1度も。
    「ったく、せめて飯くらい食ってんだろうな……?」
     大将のお前が倒れちまったら、この部隊は総崩れになっちまうぞ。
     俺は調達部隊から譲ってもらった比較的美味そうな缶詰を持って、指揮車に移動した。

    「司令官、ここは私たちがいますので、ツヴァイさんの言うように少し食べてきて下さい。」
     やっぱり食べてなかったらしい。 迅雷が聞いたら、怒りながらも嬉々として手料理を振舞おうとしたのだろう。 その迅雷が、いない。 その喪失感で狂ってしまったとでもいうのだろうか。 とにかく、今のマスターは機嫌が悪かった。
    「別に、食うだけならここでもいいけどさ。 食う気がしねぇのも仕方ねぇけど。 せめて少しは食えよ、な?」
     肉の缶詰を開けて、フォークでひとつ刺してマスターに向ける。 すると、渋々ながらも少しずつ食べ始めてくれた。
    「よし、んじゃあ次は……これにすっか。 運良くフルーツ缶も転がってたんだとよ。」
     部屋の端に座って食べさせる。 まったく美味しそうでも嬉しそうでもなかったが、マスターがちゃんと食べてくれたことにひどく安心した。
     迅雷がいなくなって生まれた喪失感を、俺は少しでも埋めてやれただろうか。

     持ってきた缶詰をマテリアたちにも分けて、フルーツ缶の甘みでほんのわずかな幸せを共有したところで、突然空気が変わった。
    「スティレット隊より入電。 こちらに接近する機影あり。」
     ピリピリとした空気が俺を包み込む。 戦闘とは違った、繊細な緊張感。 この時、俺はあることを直感した。
    「識別照合、機種特定。 ……RB01、『アインス』です。」
     やはり来たか。
     ゼルフィカールをも失ったRBに、一体どれだけの戦力と価値があるのというのか。 姉貴1人でやってきたことから察するに、ついにRBも捨てられたのだろう。 ……正しく、あくまでも兵器としてあろうとした結果がこれか。
    「スティレット隊から映像を受信。 モニターに出します。」
     モニターの中の姉貴は、先日俺が殺したゼルフィカールと同じような装備を身に付けていた。 所々に違いはあるが、高機動で重装備という点では同じだ。
    「ったく、そんなものまで持ってきやがって……! 殺る気満々じゃねぇか。」
     殺したくない、殺して欲しくない。 そんないつかのドライの言葉がよみがえる。 ドライは何も分かってない。 殺らなきゃ殺られる、ただそれだけの簡単なことなのに。
    「俺が出る。 お前らはその間に少しでも距離詰めとけ!」
     そうやって指揮車から出ようとする俺を、マスターが止めた。
    「ま、待て! そんな身体でどうするつもりだ!? ……今はスティ子達に任せておけばいい。 いざとなればヴェルやアーテルを出してーー」
    「俺がやらなきゃなんねぇんだ!」
    「っ……。」
     マスターの制止を遮る。 あえて大声を出して、勢いに任せて。 姉貴を殺るのは、この俺じゃなきゃダメなんだ。
    「俺が姉貴を止められなかった。 俺が姉貴を殺れなかった。 そのせいでドライもあんな目に遭って、お前らもこうして今みたいに……! 刺し違えてでも、俺がっ……俺が姉貴を殺らなきゃダメなんだよ!
     そう、全部俺のせいだ。
     あの時、姉貴に銃を向けて、そして1度死んだ。 それで、俺が死んだからゼルフィカールがRBに加わって、そのせいでドライも死にかけた。 フレもズタボロにされて、G8の何人ものFAガールが少なくない被害を受けた。 だから、俺がここで全部止めなきゃならない。
    「……わかった、頼む。」
     マスターのその一言を聞いて、俺は飛び出した。



     ツヴァイさんが部屋を出てすぐ、司令官はいつもの“仕事用”の口調で命令した。
    「マテリア、全車に伝えろ。 『ツヴァイの出撃後、最大速でこのエリアを離脱する』。 ……『なお、ツヴァイの帰還を考慮せず 』。 以上だ。 あと、スティ子達に帰還命令。 補給後、離脱中の全車の護衛として再出撃。 これはスティレット隊全機だ。」
    「……はい。」
     一瞬の間が、司令官の躊躇いの証だと信じたかった。
     迅雷さんがいなくなり、どこか変わってしまった司令官。 食事も取らず、ずっとこの司令車にこもり続けている。 迅雷さんの発見を期待しているのか、それとも単に塞ぎ込んでいるのか。 ……迅雷さんだったら分かるのだろうか。 残念ながら、私には分からなかった。
    「総員に告ぐ。 RB02の発進後、我々は最大速にて現エリアを離脱する。 なお、離脱に際してRB02との距離は考慮しない。 繰り返す。 RB02のーー」
     言っていて苦しくなる。 ツヴァイさんを見捨てるかのような命令に、きっと他の子達も少なからず……快くは思わないだろう。 司令官がそんなことを言うなんて、と。 だけどこれはツヴァイさんの意思でもある。 それを聞いた私だからこそ、言わねばならないのだ。
     今だけは、Type1Model2(マテリア)として生まれてきたことを恨めしく思う。



    車内放送が終わってすぐ、隊長さんから車内電話がかかった。
    「はい、整備班です!」
    『グラ子、聞こえたな? ツヴァイの発進を最優先だ。 その後はスティ子達の補給と整備。 済み次第、連絡をくれ。 シルフィー達に手伝わせてもいい。』
    「了解です!」
     ツヴァイさんが単独で出撃して、私たちは逃げる。 なんとなくアインスさんが来たのだと察するには十分だった。
     まだ全快じゃないツヴァイさんを、ノーマルの装備で出撃させるわけにはいかない。 戦闘力を補うモノが必要だ。
    「まだテスト中だけど……!」
     整備車の一角、私の私室と化した物置に、それはあった。

     シルフィーちゃん達を呼び集め、ツヴァイさんの出撃準備を進める。 1人でジャンク屋をやっていた頃に集めた、バーゼラルド開発中の名も無き試作品たちが、ツヴァイさんの戦闘力を補っていく。 それでも足りないところはスティレット系のパーツで代用した。 左眼には、足りない分を補う為のセンサーアイを付けてもらう。
    「ふーん、まるで眼帯だな。」
    「一応、この新型と連動してるので、射撃は楽になってると思います。」
     防衛機構純正のセグメントライフルを模倣して作った、私お手製の対TCSライフル。 単純なスペックだけなら、純正品よりもずっと良いはずだ。 対フレズヴェルク戦以外でも、強力なライフルとして役に立ってくれるだろう。
    「他にも色々、ツヴァイさんに合わせた調整かけてますので。 出撃後すぐに確認してくださいね!」
     推進剤や弾薬は積めるだけ積んだ。 武器も装備も、今できるベストのものを選んだつもりだ。 出撃準備は、できた。
    「……お気を付けて!」
    「おう!」
     密集したバーニアから吐き出された熱気だけを残し、ツヴァイさんは空高く飛翔した。 あっという間に見えなくなるその姿を、シルフィーちゃん達はいつまでも見つめ続けてこう言う。
    「ヴァイねー、ちゃんとかえってくるよね……?」
     私は何も答えられなかった。
     迅雷さんですらいなくなってしまうのだ。 何を言っても気休めにもならない。 私たちには、ただひたすら「帰ってきて」と願うことしかできないのだ。

     ツヴァイさんの発進を指揮車が確認すると、車内放送があってすぐに全車が発車した。 その揺れる車内で私達は、スティレット隊の補給準備を進めていく
     今回は何人帰ってこないのだろう? 幸いにも、現時点ではG8の被害は迅雷さんただ1人。 だが、私たちに協力してくれた部隊はそのほとんどが私たちの前から姿を消した。 自分たちが抑えるから先に行けと言った子もいれば、私たちを庇って戦死した子もいる。 それは皆、これまでにG8が何らかの形で救ってきた子達だ。 これから補給を受けるスティレット隊にも、そういう子達が加わっている。
     G8がしてきたことと言えば、食料を分け与えたり、負傷しているところを救助したりで、それだけを聞けば、命をかけてまで返さねばならないほどの恩ではないように思う。 それが心に強く引っかかり、罪悪感で押し潰されそうになる。
     もしも自分なら、命をかけてまで恩返しなどするだろうか? できるだろうか?



    「帰還命令!? アレはどうすんのよ!?」
     アインス接近の報告をしてすぐ、私たちスティレット隊に帰還命令が出された。
     アインスはある程度こちらの位置を把握しているようで、ほぼまっすぐにG8の車両群に向かっている。 私たちで対応するなら、あまり車両群に近づけたくはない。
    『それは気にしなくていい。 とにかく、補給を受けろ。 あとのことはそれから伝える。 急げ。』
     司令が通信に割り込んで、一方的に告げる。 私たちはそれに従うしかない。
    「……了解。」
     念の為にドローン一基をアインス捕捉のために残し、その空域から離脱した。

     帰還途中、見慣れない装備で飛ぶツヴァイを見た。
     「単機で出撃? あの子、怪我はもういいの……?」
     司令が「気にしなくていい」と言ったのはこのためか。 確かに、アインスを相手にするには1番いいのかもしれない。 けど、それで本当にいいの?
    「迅雷の次は、ツヴァイかもしれないわよ……?」
     帰還後、G8はツヴァイを囮にして逃げていると聞かされた。
     そう言われたわけじゃない、私がそう解釈したのだ。 誰の発案かは分からないが、全員で逃げ延びるんじゃなかったのかと発案者を殴りつけたくなる。
     そして、そんなものを認めてしまった司令も、1度殴らなきゃいけない。 ホント、どうしちゃったのよ、司令……!

    「連続の出撃でお疲れでしょうけど、頼みます。」
    「任せなさいな。 ……この程度でへばってちゃ、エースだなんて名乗れないんだから。」
     スティレットタイプはエースだなんて、誰が言い出したのだろう? 少なくとも私は、1度もエースになんてなれたことはない。
     陸戦が主なG8に流れ着いたからというだけではない。 G8で多くのFAガールを助けてきて思ったのだ。 不幸な目に遭っている子達がこんなにいるのに何がエースだ、と。
     助けた中にはスティレットタイプも少なくない。 それが今では、スティレットである私が他のスティレットを墜としている始末だ。 ……味方に命を狙われ、味方の命を奪うような奴が、エースなわけないじゃないか。
    「まったく、どこで間違ったのかしらね……。」
     空で独り、呟く。 これまでG8に助けられたスティレット達も、同じことを思ったのだろうか。
     気が付くと、私のレーダーからツヴァイの姿は消えていた。



    「ぐっ、う……!?」
     発進時の加速がこれまでよりも強い。 増えた全備重量を支えるための強引な推進力が一方向に集中したことで、殺人的な加速を生んだらしい。 少し出力を弱めると、すぐに自重で落下(降下でなく)を始めてしまう。
    「くっそ、こんな装備しかなかったのかよ……!」
     装備のメニューウィンドウを開く。 渡された眼帯の機能の1つだ。 この装備たちの基本的な使い方のマニュアルが参照出来るらしく、操作の補助・簡略化までしてくれるらしい。 だが……。
    「なんだよ、このポンコツは!? まともに動かねぇじゃねぇか!」
     1度着地して体勢を立て直そうとするが、重みで片膝を着いてしまう。 これではまともに戦えたものじゃない。
     ……そう思ったのも束の間。 ブースターを吹かせては着地するのを何度か繰り返して、気が付いた。
    「へぇ……! “開けた”方がコントロールしやすいってことか。」
     細かく制御しようとして出力を絞ると意図しない挙動を見せるが、「こっちに、こう!」と荒っぽく扱えば扱うほど意図した通りの挙動になる。 俺から装備への気遣いは、却って邪魔なようだった。 これは確かに、楽だ。
     眼帯の恩恵も凄まじい。 残弾数や推進剤の残量、レーダー範囲内の他機との詳細な位置関係、方角や高度など、様々な情報が分かりやすく可視化されている。
     気分が良い。 初めて実戦に出た時のような高揚感。 今の俺なら、どんな相手にだって負けやしないだろう。
     絶対に、今日、ここで終わらせてやる……!

    「……見つけたぜ、姉貴!」
     数分も飛べば、レーダーが姉貴を捉える。 スティレット隊からの映像の通り、見ると腹が立つ装備で身を固めていた。 ドライを真っ二つにしやがった“あの機体”とそっくりの、大型シールドや追加の推進器がいやに目立つ。
    「コイツでなら……。 当たれ!」
     最大限のチャージの後、発射。 防衛機構純正のものより時間がかかるものの、その分威力は高いと装備ウィンドウは語る。 ノーマルのバーゼラルドなら、その装甲の薄さも相まって致命傷すら期待できる。 あとは、腕と腕のぶつかり合い。 どちらがより上手か。 強いか。 それだけだ。



     レーダーの端に現れた機体、その正体に気付くよりも早く、先制攻撃を受けた。 長距離からの正確な射撃。
     それを、ゼルフィカールが遺した追加装備が難なく受け止める。 何の変哲もない実体弾では、このブラストシールドを貫けないらしい。 実に頼もしい装備だ。 私のようなバーゼラルドでは回避や防御をしなければならない場面でも、気にすることなく突っ込んでいける。 G8に攻め込むには必要不可欠と言ってもいいだろう。 もっとも、G8までたどり着くまで使えればの話だが。
    「ツヴァイ……。」
     レーダーが機体の詳細を特定した。 見たことの無い装備だらけだが、ツヴァイにしては格闘戦をも意識した、バランスのいい武装であることが見て取れる。
    「どうしてアンタは、そうやって……!」
     自分のワガママで私に銃を向け、そして私に敗れたツヴァイ。 あの時に殺しきれなかった自分の情けなさを嘆く。 ボディを数発撃ち抜くだけでは不確実なのは、分かっていたのに。 ……情が邪魔したのは否定できない。
    「なんでアンタばっかりが、幸せそうなのよ……!?」
     G8の司令官に気に入られ、可愛がられ、他の子達とも仲良さそうに楽しそうにしていた。 そこにはいつだって、私はいなかった。 どうして私ばかりがしんどい思いをしなくちゃいけない。 どうして私だけが頑張らなきゃいけないんだ。 アンタは何もしていないくせに。 何もしてこなかったくせに。 なのに、どうして……?
     距離が縮まり、ツヴァイの表情が分かる。 敵意がむき出しではあるものの、とてもポジティブな、強い目的意識を持っている眼をしているように見えた。
     ……そんなに、G8がいいの? 私だってアンタ達のために頑張ってたのよ? 姉として、隊長として、アンタ達のために頑張ったのに……!
    「うぅ……、あああぁぁぁっ!!」
     どのみち、単機であの規模の部隊を潰すのは困難だ。 ならばいっそ、ここでツヴァイを倒すことに全力を出してしまってもいいだろう。
     ーー遅かれ早かれ、ここで死ぬのだろうから。



     こちらからの射撃をものともせず、姉貴はブースターを吹かして突っ込んできた。 やはりゼルフィカールタイプの装備は硬い。楽に終われそうにはないようだ。
     姉貴の試製光波射出器(と、グラ子から教わった)をシールドで防ぐ。 TCSやABSAを応用したらしいグラ子お手製の専用シールドが、試製光波射出器との間で激しいスパークを発生させる。 その眩しさで一瞬視界を奪われるも、眼帯がそれを補正した。 まったく、何から何まで準備のいいことだ。 生きて帰れたら、一杯おごってやる。
     光で視界を奪われたのは姉貴も同様なようで、僅かながら隙ができる。 すかさず、姉貴の脇腹に蹴りを入れて距離をとる。 サーベルに持ち替えていたなら、そのまま切るなり刺すなり攻撃に移れたのだが、仕方ない。
     ワンテンポ遅れてサーベルを抜く。 防衛機構純正の汎用装備のひとつで、公式には「光刃形ブレード」という。 ビームサーベル等と通称されることが多いことからわかる通り、刃の部分に実体は無く、膨大な熱量の光刃を柄の先端から発振する武器だ。 ーーと、これもグラ子に教わった。 考え無しに振り回そうものなら自分の装備も溶かしてしまうところだが、そうならないよう改良が加えられているらしい。
     サーベルで切りかかろうとするも、後一歩のところで避けられた。 だが、その動きから姉貴の様子が手に取るようにわかった。 これも眼帯の補助によるものか、それとも単なる思い込みか、姉貴はあまり冷静でも、ましてや余裕があるようには見えなかった。
    「逃がすかってんだよォ!!」
     どうにも、姉貴の動きがギクシャクしているように思える。 セッティングの失敗か、単にゼルフィカールの装備に不慣れなのか、あるいはさっきの光で目をやられたのか。 ともかく、形勢はこちらに有利に傾いているのは間違いなかった。
    「お前は俺が落とすんだ……! 今日、ここで!」
     試製光波射出器からの射撃をシールドで受ける度に、激しい光が何度も弾ける。 これを嫌ってか、姉貴は最初の1度以来距離を詰めては来なくなった。 眼帯が無ければ俺だって、あんな目眩しを受けるとわかればそうするだろう。
     だが、それが気に入らない。 俺らを、G8をヤりに来たのではなかったのか。 逃げ回るばかりの姉貴に対し、俺を少々冷静さを失いそうになる。
    「くっそ……、逃げるなァ!!」
     懐に飛び込んで、一気にカタを付けてやる。 覚悟を決め、シールドで防御態勢をとりつつ、全推力をもって突撃する。
     射撃では対処しきれないと判断したのか、姉貴は再度格闘に応じた。 お互いの盾が相手の剣を受け、片方は目が焼けそうなほどの光を放ちながら悲鳴を上げ、もう片方は猛烈な熱に焼かれて苦痛に歪む。
     そんな中、姉貴の声が聞こえた。 それがRB時代の通信チャンネルによるものだと、眼帯が教えてくれる。
    「どうして邪魔をするのよ! なんでっ……、命令に従わずに生きていけるのよ、アンタは!?」
     妙にくぐもった様な、聞き慣れない声。 まさか、泣いているのか?
    「私は何も間違ってない! なのにどうして、なんで私がひとりぼっちにならなきゃいけないのよ!? いつも、いつもいつもいつも、私ばかり!」
     これが、俺の知るあの姉貴だというのか? いつも落ち着いていて、真面目で、ドライを見捨てるほどの冷たさすら見せた、あの……? 今の姉貴は、まるで正反対じゃないか。
     自分は正しい。 間違ってなんかない。 そうやって自分に言い聞かせるかのように、俺に叫ぶ。
    「頑張ってきたのに! 良い隊長として、いいお姉ちゃんでいようとしてたのに! アンタも、ドライも、なんで私から離れていっちゃうのよ!? 間違ったことなんてしてないのに、どうしてよぉ!?」
    「……姉貴は確かに正しかったかもしれねぇ! けど、従う相手は選べよ!」
     姉貴が俺の言葉に反応する。 盾から伝わる力が、それを肯定していた。
    「俺はもう、誰だかも分からねぇ奴の命令に従う気にはなれねぇ! 俺らにアイツらを殺させようとする奴が、心底気に入らねぇんだよ!」
    「そんな……っ! たったそれだけの理由で私を裏切ったの!? そんなことして何になるって言うのよ!?」
    「そんなもん知るか! ただ俺は、わけわかんねぇままアイツらを殺せるほど冷酷じゃねぇんだよ!」
    「何よそれ!! 私が冷酷だってこと!? 冗談じゃないわ! 私はいつだってアンタやドライのことを考えてた! 私たち姉妹のために、最善を尽くしてきた! そのためには命令通りにG8を潰さなきゃいけなかった! なのに、それを全部台無しにしたのはアンタじゃない!!」
     ここで、俺の盾が弾けた。 ABSAだかTCSだかのユニットが耐えきれなかったらしい。 それがまるで、姉貴の感情の高まりに装備がやられたかのように思えた。
    「ちぃ……! いい加減にしろよ、姉貴!」
     後退しながら、左サブアームの機銃をばら撒く。
    「俺らがアイツらを殺る理由がどこにあるってんだ! これまでだって、おかしな作戦ばっかだったじゃねぇか! 姉貴だって、本当は分かってんだろ!?」
     互いのライフルが相手を掠める。
    「だからもうやめたいって? どの口でそんなことが言えるのよ!? 数え切れないくらいの味方を殺してきたくせに、G8だけは嫌だなんてよく言えるわね!」
     言葉も、銃弾も、遠慮なく投げ付け合う。
    「あぁ言えるさ! 俺はアイツを守りてぇって思った、そんだけで十分だろうが!! 好きな奴のために生きてぇって思って何が悪ぃ!?」
     酷い話だと思う。 姉貴とただの姉妹でいられた頃よりも、姉と妹としてお互いの気持ちを伝え合えているのだから。
    「アンタは何も分かってない! 命令に背く兵器に何の価値があるのよ!? 裏切り者はまた裏切るって、そう思われたらお終いじゃない! そうなれば今度は私たちが殺される番になる! そうならないために、正しい選択をしなくちゃいけないの!」
     楽しいとも、気持ちがいいとも言えないが、それでも今この瞬間を嬉しく思う部分がある。 そして、もっと早く姉貴とちゃんと話をすれば良かったという後悔もある。 もしそれが出来たなら、今みたいなやり取りを銃弾無しに出来ただろう。 もしかしたら、いい感じに話がまとまって、姉妹3人揃ってG8に合流できたかもしれない。
    「そうやって、正しくあろうとした結果がこれか!? 俺を殺して、アイツらを襲って、ドライまで見捨てて……! たった1人でここまで来て、それでお前の正しさってのは証明出来たのかよ!?」
     でも、もう終わりにしなくちゃいけない。 そんな後悔も、こんな殺し合いも……。
    「お前の方が正しいってんなら……、俺に勝って見せろォ!」
     ーー決着は呆気なくついた。
     俺が突進し、お互いに相手の剣を盾で防いで、それからだ。 素直にもう一度剣を振ろうとした姉貴と、盾を捨ててもう一本のサーベルを抜いた俺。 一か八かの大博打。 左側のサーベルを逆手で強引に抜いて姉貴の右腕を切り飛ばし、そのまま畳み掛けた。
     勝ったのは、俺だった。
     ……俺は、大破して落下していく姉貴の姿を、ただ見ていることしかできなかった。

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  • アニプラさんのシルフィー祭に参加したシルフィーの設定兼SS(未完)

    2019-12-18 22:461
    私は、整備班のみんなに買われたシルフィー(備品)だった。
    整備班のみんなのお手伝いや、汚れた作業着の洗濯、道具の整理。
    それが私の、お手伝いロボとしての仕事だった。
    ある日、班長が私にプレゼントをくれた。
    「余ってるセンサーとバックパックだけど、これで少しは私たちの仲間らしくなったかな!」
    「滑腔砲も手持ち式に改造してるからね! いざとなったら、それで少しは自分の身くらい守れるようになるでしょ?」
    私の頭に乗せられた轟雷系のセンサーユニットと、赤く塗られたバックパック。
    これが私の、整備班のシルフィーとしての証になった。

    あの日、基地のみんなが慌ただしく支度をしていた。
    「■■■■■■■が来る!」
    「整備でもなんでも良いから武器持って装甲身に付けな! そうだよ出撃だよ!」
    「スティレットを優先して出して! こんな時のために優遇されてんのよ!? 少しでも長く足止めさせなさい!!」
    みんな何かに怯えるように、何かを憎むように、すごく怖い顔をしてた。
    そしたら、班長達が私を基地の奥の方に連れてった。
    着いたのは、地面を掘った大きな穴。
    大昔からある隠れ場所らしいことだけは分かった。
    「ここにいれば大丈夫だから。」
    「外が静かになったら、洗濯とかやっておいてくれる? 多分みんな疲れて動けないだろうからさ。」
    「ちゃんとそこに隠れてなよー。今、外は危ないからね。」
    そう言って、みんなは戦いに行った。
    私は言いつけ通りに、静かになるまで待ってから外に出た。
    基地はボロボロだった。
    非常灯の明かりも消えてて、外の水道管からは水が溢れ出ていた。
    みんないつ帰ってくるかな……。
    そう思いながら、言われた通りにみんなの作業着の洗濯や、散らかってしまった格納庫の整理を始めた。

    夜が明けた。
    1日が経った。
    3日が経った。
    1週間が経った。
    誰も、帰ってこない。
    班長も、轟雷姉ちゃんも、スティさんも、誰も帰ってこない。
    さみしくなって、班長の部屋の前まで来てみた。
    やっぱりいない。
    誰もいない。
    作業机の上には、滑腔砲と1枚のメモが置いてあった。
    『シルフィーへ。
    改造は終わってるよ。
    悪いけど、色は自分で塗ってくれ。 多分私らはもう帰れないと思うから。』
    書かれていたのは、たったこれだけだ。
    きっと急な出撃を命じられて、ろくに時間もなかったのだろう。

    私は滑腔砲を塗らなかった。
    班長やみんなとの思い出を上書きしてしまうみたいで、嫌だったのだ。
    部屋を出て、空砲を1発空に向けて撃った。
    弔砲のつもりだ。
    しばらくすると、防衛機構の人間がこの基地の様子を見に来た。
    「ここはもう破棄するしかないな。」
    そう言ったあと、そいつも含めて誰一人としてここには来なかった

    2週間が経った。
    私はいつまでも待ち続けた。
    ダメなところからでも使えるものをかき集めて、ほんの少しでも機能を取り戻せるように、基地を修復していった。
    それでできあがったのは、格納庫の中の小さな秘密基地。
    みんなが帰ってきても、何もかも足りない。
    私は途方に暮れた。

    3週間が経とうとしていた時、何台かのトレーラーがやってきた。
    何人ものFAガールが降りてきては、残されていた武器や弾薬や、非常食なんかを根こそぎ持っていこうとする。
    やめろ!
    それはお前たちのものじゃない!!
    班長が作ってくれた滑腔砲を向けて叫ぶ。
    「なんと、まだ生きている子がいたんですね!」
    ぺったんこな轟雷がこっちにくる。
    「もう大丈夫ですよ! さぁ、私たちとーー」
    「来るな……!」
    「えっ……?」
    「帰れ! 帰れ、帰れ! ここはお前たちの基地じゃない! 武器もご飯も、全部お前たちのためのものじゃない!! 返せよ、この泥棒!!」
    「待ってください、私たちは……。」
    「うるさい! 帰れぇ!!」
    私は引き金を引いた。




  • ツヴァイ_再起動(仮)

    2019-12-18 22:44
    アイツが“家”を出て3日経った。
    ほとんどのヤツがアイツについて行った。
    残っているのは、戦えないマコトや敵の識別が残ってる夜宵、それに留守番を任されたシャルロットやシルフィーたちや……、アイツにフラれてウジウジしてる俺だけだ。

    「いつまでそうしてる気?」
    アイツのいない部屋で、アイツの布団に包まってる俺に、シャルロットが言う。
    「そろそろマスターの匂いも薄れてきた頃じゃない?」
    茶化したようにそう言うが、言葉から苛立ちのようなものが感じられた。
    俺は何も言わない。
    何を言えばいいのか、分からない。
    「シルフィー達がね、ずっとアンタの装備直そうとしてんのよ……。マスター達が出発してからずっと、焦りきった顔してね……。」
    「このままマスターも迅雷も、他のみんなまでいなくなっちゃうんじゃないかって。泣きながら必死で修理してんのよ。」
    「それでね、今朝ようやく修理が終わったの。あとは、アンタ次第。」
    「ねぇ……、ここで待つしか出来ない私たちとは違って、アンタはまだ戦えるでしょ……!」
    「こんなところでウジウジしてないで、早くマスターの所に行ってあげてよ、ツヴァイ……!」
    そうか。
    俺はまだ、戦えるのか。
    もう二度と、アイツのために飛べることは無いと思っていたのに。
    だったら、やることはひとつしかねぇや……。
    「……ごめん。こんなの、私たちの勝手よね。でも、部屋に閉じこもってるアンタのこと、みんな心配してるのよ。戦ってくれなくてもいい。少しくらい、顔見せなさいよね……。」
    シャルロットが出ていく。
    再び1人になった俺は、アイツに言われた言葉を思い出していた。

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    『なんでそんなに、迅雷にこだわるんだよ……! 普通に考えたら、もう死んじまってるに決まってるじゃねぇか!! あの日からもう1週間だぞ!? せっかくみんなで逃げきれたのに、なんで自分から死にに行くみたいなことするんだよ……!?』
    荷物車で自分用の装備を整えていたアイツを見つけた時のことだ。
    部屋にこもっちまったかと思えば、今度は自分が武装して出ると言う。
    たった1人の犠牲を、ゼロにするために。
    『そりゃあ、約束したからな……。 諦めるなって。 だから、絶対に諦めない。』
    『なんだよ、それ……。』
    理由を聞けばこれだ。
    たったそれだけの約束のために、他のものを全て捨てる気でいるらしい。
    『納得出来ないか?』
    『当たり前……だろうがっ……!』
    『ははっ、だよな……。』
    アイツはそうやって、なんでもないように笑って言う。
    まるで、バレバレの嘘を指摘された時のように。
    何もかも分かってて、そう言うんだ。
    『なんでだよ……! 俺たちがいるじゃねぇか……! なのにっ! なんで迅雷だけのためにお前はそうやって! いつも! いつもいつもいつも!!』
    困ったように笑ったまま、何も言ってくれない。
    G8に拾われて、アイツらと常に一緒にいるようになってから嫌というほど思い知らされた。
    アイツの俺に対する「好き」と迅雷に対する「好き」が、まったく別のものだってことに。
    『俺じゃ、ダメなのか……? 俺じゃ……、迅雷の代わりにならないのかよ……?』
    すると、アイツの目がマジになった。
    『なるわけ、ないだろ……。』
    ツヴァイはツヴァイだからな。
    アイツはそう続けた。
    分かりきってたことだった。
    迅雷の代わりになることを誰かに求めるような奴なら、こんなことするわけがない。
    『迅雷は俺やみんなのために体張ってくれたんだ。だから……。』
    俺の目を見ることすらなく、淡々と支度をしながら言う。
    もう、俺に残されたアドバンテージなんて欠片も残っちゃいなかった。
    『今度は、俺の番だ。』
    もう俺を見てはいない。
    目も、心も、何もかも迅雷に向いて動かないアイツを見て、俺はその場から逃げ出した。

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    「しゃーねぇなぁ……。」
    「お前が惚れた女のために体張るってんなら、俺も惚れた男のために命かけなきゃな。」
    「でなきゃ、俺も前に進めねぇ。ぜってー後悔し続けちまう。」
    「だからさぁ……。」
    誰もいないこの部屋で、自分に言い聞かせる。
    このまんまじゃ、ただみっともないだけだ。
    ほんの少しでも、俺をフッたことを後悔させてやる。
    そのくらいじゃなきゃ、挽回出来ないだろうから。
    「“ブラッドラビット=ツヴァイ”……。 その名の通り、血塗れになってやんよ!」

    シルフィーたちが修理してくれたらしい装備を身に付けて、俺は飛んだ。
    いなくなった迅雷を探すため、そうするアイツの邪魔をするヤツらを片っ端から排除するために。
    自分では迅雷の代わりにもなれやしない。
    そのことに絶望もした。
    だが、自分でもアイツの力になることくらいなら出来るはずだ。
    境界線の向こう側に再び入ると、そこからは戦闘の連続だった。
    G8を探す者たち、その邪魔をする者たち、G8に続いて境界線を超えようとする者たち、それを阻止しようとする者たち……。
    こんなにも防衛機構に不満を持つFAガールがいるのかと、嫌な気分になる。
    「とりあえず……、俺やアイツらの邪魔になる奴ァ全員ぶっ殺す!
    こちらに気付いた時の反応で、容易に区別できた。
    敵は、躊躇いなく銃を向けてくる。
    ただそれだけだ。
    簡単だろ?
    「これ、使ってください……。」
    戦闘が終わると、あるFAガールにタオルを差し出された。
    顔を拭うと、真っ白だったそれはあっという間に真っ赤に染る。
    “血塗れのウサギ”とは、上手く言ったものだ。
    これで何人の血を浴びたことになるのだろうか。
    そんなもの、初めから数えちゃいない。
    だが、何人もの血を浴びたのは確かだ。
    だからこそ俺は、立ち止まるわけにはいかない。
    しばらく先に進むと、G8の奴らと合流することが出来た。
    みんな泥だらけだったり傷だらけだったり。
    そうか、まだ見つかってないのか……。
    俺の出番はまだあるらしい。
    そのことに、少しホッとした。
    そして、少し遅れてそれに自己嫌悪した。
    早く見つかるに越したことはないのに、見つかっていないことを喜んでしまったのだから。
    きっと、俺のこういう所がアイツに選ばれなかった理由なのだろうと、勝手に納得した。
    結局は自分のことしか考えていないのだ。
    誰かにそう言われれば一切否定できない。
    だったら、いっそ開き直ってしまおう。
    自分のために、アイツの力になる。
    自己満足で良いじゃねぇか。
    惚れた男のために全てを捧げられるなら、この命すら惜しくない。
    「ありがとう……。頼りにさせてもらう。」
    あぁ、好きなだけ頼ってくれ。
    お前が浴びる血は、全部俺が浴びてやる。

    血塗れじゃあ、迅雷を抱きしめてやれないだろ……?