スライムとぼくやみ  やみのなかの緑地
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スライムとぼくやみ  やみのなかの緑地

2016-04-10 19:37
    そのスライムを倒した直後、僕は動くことができなかった。
    何か運命的なものを感じたからだ。
    それは滝のように頭のてっぺんから僕を襲った。急に。唐突に。激しく。

    スライム「うん?どうかした」

    スライムは起き上がって言った。

    スライム「経験値ならあげたし。ゴールドもあげた。あなたがここにとどまる理由はないの。どこかに行って」

    確かにスライムの言うとおりだ。とどまる理由はない。
    けれど僕はその場から動けずにいた。

    スライム「ねえ、どうかしたの?」
    はすいけ「どうかしてる」

    僕はかろうじて声を絞り出した。

    はすいけ「こんなことを急にいうのは失礼だし、不躾だということは分かっている」

    スライム「はい?」

    はすいけ「モラルだってないし、鞭で君を叩いたあとにこんなことをいうのは、本当にどうかしていると思う」

    スライム「だからなんなの?」

    はすいけ「僕の仲間になってくれませんか?」


    サポート仲間のマイヤはもう次のモンスターに舌なめずりをしている。ゆぶんは斧の鈍い光に妖しく笑っている。僕は足が震えてスライムの前に立っていた。

    スライム「確認しても?」

    はすいけ「構わない」

    スライム「私に仲間になってほしいと?」

    はすいけ「そういった」

    スライム「やれやれ」

    スライムは辟易した顔で言った。

    スライム「あなた正気?今しがた倒したモンスターに、仲間になれって」

    はすいけ「自分でもどうかしていると思ってる」

    スライム「経験値も奪って」

    はすいけ「あまつさえ、1Gも奪った」

    スライム「私があの1Gをためるのにどんなに苦労したか知ってる?」

    はすいけ「わからない」

    スライム「やれやれ」

    スライムは首を振った。

    はすいけ「分かっている。僕だってそういう。滑稽なことだってこともわかっている。でもいうしかなかったんだ。今言う必要があったし、今でないと言えなかった。そういう問題なんだこれは」

    スライム「あなたの問題でしょそれは」

    はすいけ「恥を承知で」


    スライムはそのまましばらく僕を見つめ、ため息をついた。本当に深いため息だった。レーナム緑地の草が揺れる。


    スライム「分かったわ。あなたが失礼な人だということは分かった」

    はすいけ「すごく」

    スライム「凄く失礼なひと」

    はすいけ「返す言葉はない」

    スライム「いくつか質問をさせて。それであなたの言うことに従うか決めるわ。いい?」

    はすいけ「もちろん」


    もちろん構わない。僕はこのスライムを強く欲しているからだ。
    これ以上のない熱量で、強く欲している。
    ばくだん岩のように固く、マグマロンのように熱い意志で。


    スライムは僕に質問をしてきた。

    スライム「それで、あなたの仲間になるとどんないいことがあるの?その、ええと」

    はすいけ「はすいけ」

    スライム「はすいけさん。教えてくれるかしら」

    僕はしばらく考えた。
    いままで深く考えたことはなかったけれど、僕はこのスライムに、いったい何をしてあげられるのだろう。

    はすいけ「まず、きみを強くしてあげることができる」

    スライム「ふうん」

    はすいけ「一緒に冒険して、レベルを上げるんだ。きみのレベルはたぶん1だと思うけれど、どんどん強くなって、他のモンスターにだって勝てるようにしてあげる」

    スライム「強く?スライムベスよりも?」

    はすいけ「もちろん」

    スライム「ほかには?」

    はすいけ「いろんなところに連れて行ってあげられる。きみはこのウェナ諸島から他の大陸にいったことは?」

    スライム「ない」

    はすいけ「他にもたくさんの大陸があるんだ。列車で移動して、他の大陸を見て回ろう。ドワチャッカ大陸っていうごつごつしたところだってある。海にだって連れて行ってあげる」

    スライム「ふむ」

    はすいけ「服だっていいのを買ってあげられるし、友達は……、友達はまだ全然いないけれど、いつか友達のスライムとも会わせてあげたい。もしかしたら、きみもそのスライムと友達に」
    スライム「ねえはすいけさん」

    スライムはため息をつきながら僕の言葉を遮った。

    スライム「もういいわ。あなたは私たちのこと、全然理解してないのね」

    僕はスライムの悲しげな瞳を見ていた。

    スライム「私はね、強くなりたくなんかないの。そりゃ、強いに越したことはないけれど、だてにスライムやっているわけではないの。スライムってどういうモンスターか知ってる?」

    はすいけ「知っているつもりだ」

    スライム「ほら、つもりなのよ。モンスターがみんな強くなりたいわけではないの」

    はすいけ「たしかに」

    たしかにそうだ。スライムが強くなったら、僕はアグラニの町から旅立てなかったかもしれない。

    スライム「他のところに連れて行ってくれるといったわね」

    はすいけ「言った」

    スライム「素晴らしいことだと思う。でも、このレーナム緑地もいいところよ。緑があって、穏やかで。それに、さっき海にも、と言ったけれど、ここにだって海はあるのよ」

    僕はただ黙るしかなかった。

    スライム「仲間にしたい、という気持ちはうれしい。それは本当。でも、私はここで」
    はすいけ「名前」

    スライム「名前?」

    はすいけ「名前を付けてあげられる。きみに。きみだけの名前だ。ほかの誰でもない。スライムAでもスライムBでもない。きみの名前を付けることができる」

    スライム「名前……、たとえばどんな?」

    はすいけ「『やみ』」

    スライム「なにそれ」

    はすいけ「分からない。でも、きみを見た瞬間から、頭に『やみ』というのが浮かんだんだ」

    スライム「やみ」

    はすいけ「そう、やみ。もしよかったら、だけど。きみのことはずっと、その名前で呼びたいんだ。名前を呼びあいながら、冒険がしたい」

    スライム「……ねえはすいけさん」

    はすいけ「うん?」

    スライム「気が付いていないかもしれないけど。実はね、それってとても素敵なことなのよ」

    僕は顔を上げた。
    青いつやのあるスライムが、こちらを見ていた。

    スライム「たしかに、ずっと思ってたのよ。私はスライムで。ずっとスライムで。これからもずっと。私はね、きっとスライム以外のなにものにもなれないんだろうって」

    スライムは乾いた笑いをしながら続けた。

    スライム「名前。名前ね。気が付かなかったわ。バカみたい。そうね。名前さえあれば、私はスライムのままで、スライムではなくなることができるのね。こんなに簡単なことだったのに。バカみたい。本当に」

    僕はスライムの言葉を静かに聞き続けた。

    スライム「いいわ、はすいけさん。あなたの仲間になってあげる」

    はすいけ「本当に?」

    僕は少し驚いて聞いた。

    スライム「このレーナム緑地に思い入れがあるわけでもないし。実はね、少し退屈していたの。何かしたいと思ってた。でも、それが分からなかったの。そこにあなたが来た。これって、そういうことじゃないの?」

    はすいけ「そうかもしれない」

    といって、僕は言い直した。

    はすいけ「きみにとって、そうだとうれしい」

    スライム「きっとそうなのよ」

    はすいけ「そうに違いない」

    スライムは笑った。

    スライム「ねえ、これからはどうするの?」

    はすいけ「まず、ジュレットの町から列車に載ってほかの大陸に移動しよう。僕がよく行く街にいって、少し観光でもしよう」

    スライム「ほかの大陸っていったことないわ。この『祈りの宿』の海の向こうに行くわけね。世界が広くなるのね」

    はすいけ「実をいうとね、この『海』はね、湖なんだ。海はもっと大きい。この100倍は大きい」

    スライム「やれやれ。恥ずかしいわ」

    といってスライムは僕のそばまで寄ってきた。
    心なしか、初めて会った時よりも優しく、穏やかな表情をしている。
    うぬぼれかもしれないけれど、どことなく仲間になりたそうにこちらを見ているようだ。
    僕はスライムに向き合い、笑顔で言った。

    はすいけ「これからよろしく」

    スライム「こちらこそ」

    そして僕はスライムを仲間にしようとちからを込めた。


    ピ。

     ∇ なかまモンスターが いっぱいです。

     ∇ これいじょう なかまにすることは できません

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