「カントさん」(連載小説 ~第53話~)
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「カントさん」(連載小説 ~第53話~)

2014-02-21 23:14

     ここ超巨大シェアハウスには、老若男女様々な人が住んでいる。カントさんも、その1人だ。カントさんは、常に難しいコトばかり考えて生きている。元々は大学の教授だったらしいのだが、今は引退して、1人でここに住んでいる。
     ほら、そうこう言っている内に、向こうからカントさんがやってきた。
    「ウ~ム…我思う、ゆえに我あり。では、その我とは何者や?」
     いつも通り、ブツブツと独り言を呟きながら歩く不審な老人。それが、カントさんである。
    「私が存在するから、世界が存在するのか?世界が存在するから、私が存在するのか?卵が先か?鶏が先か?あるいは、重要なのはそこではないのか?」

     カントさんは、いつも同じ時間に散歩に出かける。雨の日も、風の日も、雪の日も、台風の日も。
    「もう、いい年なんだから、いい加減やめなさい!」と言われてもやめない。どんな状況下でも、必ず自分の部屋の扉は出る。それも、毎日決まった時間に。日に3度。

     さすがに、これは無理だと判断した天候の日には、建物から出るコトはない。幸い、超巨大シェアハウスは、建物の大きさだけは尋常ではないので、歩き回るにはうってつけだ。
     それ以外の日には、近所の海が見える公園まで歩いて行く。ただし、散歩コースは決まっていない。決まっているのは、目的地だけ。その過程は意図的に変化させるように気をつけている。思考も同じ。最終的に同じ結論に至ろうとも、思考の過程は常に変えるようにしている。
    「だから、人々はいつまで経っても幸せになれないのだろう。意識が足りないのだ。“幸せになろう”という意識が。あるいは、それは幸せでなくとも構わない。何者かになろうとする意識が足りないのだ…」

     海が見える公園のベンチに2人並んで座っていたソフィアとレユレユの前をカントさんがブツブツ言いながら通り過ぎていく。
    「何、アレ?変な人」と、ソフィア。いつも通り、心に浮かんだコトをすぐに言葉にしてしまう。

    「そんな風に言っちゃいけないよ。あの人は、なかなか賢い人だよ。世間の人は変人扱いするけどね。僕は、かなり優秀な人だと踏んでいる」と、レユレユ。
    「そうかな~?私には、ただの変な人にしか見えないけど」
     こうして、今日も平和な1日が過ぎていくのだった。


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