「代わりのいない存在」(「伝説の悪魔」 ~第57話~)
閉じる
閉じる

新しい記事を投稿しました。シェアして読者に伝えましょう

×

「代わりのいない存在」(「伝説の悪魔」 ~第57話~)

2014-06-25 21:56

    「代わりのいる者になるなよ」と、マディリスは、よく周りの人間に語っていた。もはや、それは口癖のようなものだった。
     “生きる意味”というものを突き詰めて考えた時、マディリスにとって、それは“向上心”ということになる。能力を極め、常に成長を忘れない生き方。その形は、人それぞれで構わない。とにかく高みを目指す。それこそが生きるということ。人として生まれてきた意味なのだと。

     だから、マディリスには“ただ生きる”ということが理解できない。目の前の幸せを追って、ただ単に生きるという行為に意味が見出せない。それで、このようなセリフを吐いたりする。
    「ただ単に楽しいから、幸せだから、そういうのは生きているとは言わない。生存しているだけだ。人として生きてはいない。家畜のように、動物のように、生存しているに過ぎない」
     そこに悪意はない。人を傷付けようという意志もない。心の底から、純粋にそう思っている。そう信じているのだ。だからこそ、余計に厄介だとも言える。余計に人の心を傷付けるのだ、とも。

    「せっかく、人として生まれてきたのだ。代わりのいない存在になれ。誰にも、お前の代役は務まらぬという、そういった存在に。実際にそうできるかどうかは別としても、少なくともそれを目指せ。それこそが、生きていくという行為そのものなのだから」
     そのようにも語る。

     そこにある言葉。それは幸せや楽しみを否定しているわけではなかった。むしろ、肯定すらしていた。ただし、それ“だけ”では駄目なのだ。“楽しみながら上を目指せよ”という、そういう意味なのだ。
     苦痛を感じながら努力を続けても、能力の向上には、なかなかつながらない。それは、効率の悪い努力の仕方。そもそも、それでは続かない。苦しみながら努力しても、継続することすら難しい。

     そうではなく、心の底から楽しんで努力する。それが能力の向上へとつながっていく。まずは、そういった分野を見つけること。人には向き不向きが存在する。自分がどの分野に向いているのか、見極める。それが一番最初にやるべきであり、かつ最も重要な行為である。
     そのような考えがあって、最終的に先程のようなセリフとなっていく。だが、時としてその言葉が人の心を大きく傷付けるのも、また事実。
     1つには、説明不足というのもあるだろう。マディリスは、あまり多くの言葉を語らない。最小限の言葉で、最大限の情報を伝えようとする。「それで、充分理解できるだろう」と考えている。だから、言葉足らずで相手に上手く意図が伝わらず、人を傷付けたり怒らせたりといったコトが頻繁に起こった。


    広告
    コメントを書く
    コメントをするには、
    ログインして下さい。