「夢見市の誕生」(「夢見市物語」 ~第2話~)
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「夢見市の誕生」(「夢見市物語」 ~第2話~)

2014-06-30 22:08

     21世紀が始まって何年か過ぎた年に、夢見市は誕生した。
     それまで、いくつかの市や町や村だった場所が統合されて1つの市になったのだった。その際に、そこは“総合特区”とされ、この国の中でも特に自由な活動が許された実験的な場所となった。

     もしも、ここで上手く行った政策は、全国の他の場所でも導入される。夢見市は、この国の未来を背負った、そんな理想の街になるはずだった。いわば、“モデル地区”
     だが、スタートした時点では、そこからは程遠い、理想からは、かけ離れた存在に過ぎなかった。

     そこから数年が過ぎて、この物語は始まる。
     ここに新たな夢見市の住人がやって来る。それは、星流(せいりゅう)君と、アノンちゃんの兄妹。そして、2人の母親。星流君とアノンちゃんは、母親に連れられて、この街に引っ越して来た。
     元は、遠い大都会に住んでいたのだが、いろいろと理由があって、この街へとやって来たのだった。

     星流君とアノンちゃんは、お母さんの運転する軽自動車に乗って夢見市に入った。引っ越しの荷物は、後から別の大きなトラックで運ばれて来る。
     その自動車の中で、こんな会話が交わされている。
    「おにいちゃん。こんど、すむのはどんなところなの?」
     幼いアノンちゃんが、たどたどしい喋り方で、そう尋ねる。

    「さあね?お母さんに聞いてみたら?」と、兄の星流君は答える。
    「おかあさん。こんど、すむのはどんなところなの?」
    「そうねえ。名前の通り、夢のような街よ。できたばかりで生まれたばかりの赤ちゃんみたいな街なの。でも、住んでいる人達がみんなで力を合わせて、一生懸命に住みやすい街にしていこうとがんばっているのよ」
     そう、お母さんは説明してくれる。

     それを聞いて、星流君は考える。“みんなで力を合わせて”か…
     前に住んでいたのは、大きな街で、いろいろな物があったけれど。何だか、街の雰囲気はギスギスしていたな。今度は、そんな所じゃなければいいんだけど。
     学校では仲良くやっていけるだろうか?友達はできるだろうか?ちょっとばかし、そんな不安もあった。

             *

     その日、星流君は妹のアノンちゃんを連れて、近所に探索に出かけた。母親は、引越しの片付けがあるからと家に残っていた。
     まずは、アノンちゃんの通う保育園。それから、星流君の通う小学校。
     季節は春。今は3月で、星流君は3年生が終わった所。春休みが明ければ、4年生になる。アノンちゃんは、この春から保育園の年長さんだった。

     保育園と小学校は並んで建っていて、保育園には誰もいなかった。保育園の庭には、小さいけれど鳥小屋があって、ニワトリが何羽かいた。
     小学校には、ニワトリの他にブタやウシもいた。“学校に動物がいるだなんて、変わってるな”と星流君は思った。

     星流君が妹と一緒に小学校の敷地内を探検して回っていると、最初は誰もいないと思っていたのだけど、ふと気がつくと、校庭の端っこに知らない男の人が立っているのが見えた。年は30代くらいだろうか?もしかしたら、もうちょっと若いかも知れない。青年はゆっくりと2人の方へ近づいて来る。そうして、気さくに、こう話しかけてきた。
    「やあ。君たち、この学校の生徒かい?」

     星流君は、母親から「知らない人と無闇に会話するのはいけない」と教えられていたけれど、声をかけてきてくれているのに何も話をしないのも失礼かなと思って返事をした。
    「僕たち遠い街から引っ越してきたばかりで、僕は4月からこの学校に通うコトになっています。妹は、まだ小さいので保育園です」
     アノンちゃんは、人見知りが激しいせいもあって、星流君の後ろに隠れていた。
    「そうか。この学校はちょっと変わってるかも知れないよ」
    「お兄さんは、この学校の先生なんですか?」
     星流君は、そう尋ねてみた。

    「あ…いや。そういうワケじゃないんだけどね。でも、ま、全然関係なくもないかな~?」
     それが、星流君とその人との初めての出会いだった。

     家に帰ってから、母親にそのコトを話すと…
    「怪しい人ね。あまり知らない人と喋ってはダメよ」と言われた。
     でも、何だか星流君にはあの人が悪い人には思えなかった。
     確かにどこか怪しげな雰囲気もあったけれど、同時になんだか遠い昔にどこかで出会ったコトのあるような懐かしさのようなモノも持っていた。何がどうというわけじゃないんだけど、不思議と警戒心を解いてくれるような雰囲気を持った人だな~と。そんな風に感じていた。


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