「トランジットモール」(「夢見市物語」 ~第23話~)
閉じる
閉じる

新しい記事を投稿しました。シェアして読者に伝えましょう

×

「トランジットモール」(「夢見市物語」 ~第23話~)

2014-07-21 21:14

     夢見市の市議会で、会議が行われている。
     今回の議題は“トランジットモール”について。トランジットモールというのは、自動車の通行を制限し、公共の交通機関や自転車などを使ってもらおうという試みだ。
     ヨーロッパやアメリカなどのいくつかの都市で採用されているやり方で、環境にやさしく、自動車による事故も減らせるという利点がある。自動車が吐き出す排気ガスの量を減らし、ガソリンなどの資源も節約できるわけだ。

     いろいろなやり方があるのだが、たとえば、郊外の駅前に巨大な駐車場を作り、そこで自家用車から電車に乗り換えてもらう。もちろん、駐車料金は無料。電車賃も格安に抑える。ある街では、この方式を採用してから、移動に使っていたエネルギーが3分の1に減ったという報告もある。
    「自家用車の普及は、かなりの割合となっている。さすがに、全面禁止はやり過ぎではないか?」
    「もちろん、全面禁止とはいっても、地域は限られている。また、休日だけとか、この時間だけといった感じで試験的に実施してみるのも手ではないだろうか?」
    「排気ガスの量を減らせるのはいいわね。最近、ガソリンの価格も高騰しているし、使う量が減れば、将来的にガソリンの価格も下げられるかも」

    「自動車による事故も見逃せない。自家用車が全て、バスや自転車に置き換われば、事故の量も減らせるだろう」
    「そうしたら、今度は自転車の事故が増えるんじゃないか?」
    「それにしたって、危険度が全然違うだろう。車なら死んでるような事故でも、自転車ならばケガで済むなんてコトは、ザラだろうし」

     このような議論が進められていく。
     夢見市の議会は、常にインターネットを使って生中継されており、後から録画された映像を見るコトもできるようになっている。さらに、メールなどを使って、一般市民も意見を述べるコトができる。寄せられた意見は、積極的に活用されていく。

     議論は、トランジットモールから“レギオカルテ”へと移っていた。
     レギオカルテというのは、定期券の一種で、これ1枚あれば、電車やバスが乗り放題。また、休日には、家族で使え、他人にも貸与できるという、至れり尽くせりの制度なのだ。ドイツのフライブルクなどで利用されている。

    「いくらくらいで利用できるものなの?」
    「日本円で、月額4000円ちょっとですね。それを家族の誰かが持っていれば、休日には家族4人が電車・バスが乗り放題で、かなり遠くまで出かけられます」
    「フライブルクでは、毎年、結構な額の赤字が出ているそうだが、その辺はどうなっているのか?」

    「それは、完全に税金で補填ですね」
    「いくらくらい?」
    「毎年10億円ほどです。夢見市で換算すれば、2億円前後になるのでは?と予測されております」
    「結構な額ね」
    「けれど、それによる利益は計り知れません。お金には換えられないかと」
    「お金も大事よ」

    「それはそうですが…税金というのは、このようなコトに使われるべきかと。料金の方は、もう少し高めに設定するコトも可能ですし」
    「夢見市には、電車はほとんど通ってないんだけど」
    「将来的に路線を増やすという計画も可能ですが。昔に比べれば、安価に車体も購入できるようになっていますし。他にも、バスだけに絞るという手もございます」

    「みんながバスを利用したら、満員になっちゃうんじゃないの?」
    「それは、本数を増やせばいいでしょ。そこから、新たな雇用も生み出せるだろうし」
     夢見市では、このような議論が日々続けられている。

    広告
    コメントを書く
    コメントをするには、
    ログインして下さい。