「アニメ制作会社に社会見学」(「夢見市物語」 ~第26話~)
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「アニメ制作会社に社会見学」(「夢見市物語」 ~第26話~)

2014-07-24 21:48

     ある時、夢見市立アゲハ小学校では、希望者を募って、アニメ制作会社に社会見学に出かけた。

     夢見市では、結構な額の資金を出してアニメ制作会社に資金援助を行っている。
     最初は、その計画も、かなり反対された。
    「そんなわけのわからないものにたくさんのお金を使ってどうするんだ?」
    「ただでさえ、市は財政難で苦しんでいるのに!」という具合に。
     でも、市長さんが自分の給料を減らしたり、みんなにわかりやすくこの事業の重要性を説明したりして、どうにか説得に成功したのだった。
     結果的に、アニメ制作は夢見市の3大産業の1つとなる。ただ、それはもうちょっと先のお話。

     夢見市のアニメ制作会社では、全ての作業を日本国内で済ませる。海外委託は全くしない。その方が質的にも金銭的にも満足のいくものができるから。韓国などに委託しても、優秀なアニメーターは日本以上の給料を要求される。かといって、資金をケチると、非常に質の低いモノが返ってくる。それで、全ての作業を日本国内で行うようになったのだ…というのが、社会見学でされた説明だった。
     それから、新人を住み込みで雇ったりもする。昔の丁稚奉公のようなもので、住む場所と食事の心配はしなくて済むようになっている。

     それは学校代わりになっていて、授業料は全く要らない。その代わりに給料も払われない。それでも、希望者は後を絶たないのだという。どうしてかというと、アニメ制作の学校に通って絵の描き方を習ったとしても、あんまり上手くならないコトがほとんどで、その後の人生にもプラスになるコトは少ないらしい。それに引き換え、この会社では毎日飛躍的に能力が向上していく(なにしろ、実戦で鍛えられているのだから)
     そうして、実力が一定の水準に達したと認められたら、即雇用される。雇用されれば、衣食住は完全に保証され、給料も出るようになる。一般に企業に比べれば少ないが、それでも他のアニメーターの平均給与よりは、かなりマシなレベルで。社会保障も、かなりシッカリしている。
     実力が身についていけば、それに応じて給料も上がっていき、最終的には人並み以上の暮らしができるようになる。さらには、DVDやキャラクターグッズなどの売り上げにより、ボーナスが支給される。それは、現在の日本のアニメーターとしては、信じられないほどの待遇、まるで夢のような環境なのだそうだ(逆をいえば、それほど日本のアニメーターは冷遇されているというコトでもあるのだけど…)

     そのアニメ会社の社長さんが、こんな言葉を残している。
    「いい作品を作ろう!そう思うのは金の為だけじゃない。それ以上にプライドがあるんだよ。そして、恩があるんだ、この街には。オレ達みんな恩があるんだ。だから、これは恩返しなのさ。オレ達を救ってくれたこの街と、あの人に対する恩返しなのさ」
     あの人というのは、もちろん、この街の市長さんのコトだ。



     その後、夢見市のアニメ制作会社で働いているアニメ監督さんが、小学校に講義に来てくれた。その監督さんは吉見潤(よしみじゅん)という全国でも有名な人で、物凄く忙しい合間を縫って、学校にやって来てくれたのだった。
     吉見監督は、喋り方はたどたどしい部分もあったけれど、なかなかに熱い人だった。

    「最初に言っておきますが、アニメーターなんてろくな商売ではありません。毎日長時間労働しなければなりませんし、お給料もあまりよくはありません」
     吉見監督は、みんなにこう質問した。
    「それでも、私はこの仕事を続けています。なぜだと思いますか?」
     生徒の1人が小さな声で答える。
    「好きだから?」

    「そう!!好きだから!!心の底から愛しているからです!!」
     監督は続ける。
    「それに、この街に来て随分と環境はよくなりました。昔は、それはそれは大変でした。何が大変かというとお金です。本当に信じられないくらい貧乏でした。その頃と比べたら今の生活は夢のようです。まるで天国です!!なにしろ、帰る家があって、3食まともに食事ができるのですから!!」

     みんなシーンとしている。吉見監督は構わず続ける。
    「何を大げさな、と思っている人もいるかも知れません。でも、あの頃は本当に大変でした。毎日、食事がないのがあたり前でした。そこから、いかにして食事にありつくかを考えていました。それが毎日です。そりゃ、1日や2日ならどうとでもなるでしょう。でも、それが何日も続き、そんな時間が何年も続くのです。いつ終わるかも知れずに!!」
     吉見監督以外は誰も一言も言葉を発しなかった。監督は、まるでそこに誰もいないかのように遠い地点を眺めながら喋り続ける。

    「ある時、この街がアニメ会社を設立してくれました。だから、この会社はこの街の持ち物です。完成した作品の権利は会社が持っていますが、会社の株は、夢見市が持っています。つまり、完成した作品は、君達のモノであり私のモノでもあるのです。ここは重要です!!その辺の自覚をシッカリ持ってもらいたいと私は思っています!!」
     なんだか、ぎこちのない喋り方だった。おそらく、吉見監督は人前で話すのはあまり得意ではないのだろう。それを無理をして、ここに来て講演してくれているのだ。でも、心がこもっていていい話し方だった。話を聞いている誰もがそんな風に感じていた。
    「この街はアニメ会社の権利を持っています。その代わりに、住む所と食べるものと最低限の給料とを保障してくれるようになりました。ここまででも、僕らアニメーターにとっては非常に素晴らしい待遇だといえます。ところが、この街は利益に応じて制作に関わった人たち全員にボーナスまで払ってくれるのです!!これは日本のアニメ業界においては前代未聞の出来事です!!そんな会社は他にはありません!!そして、それはやる気になります!!なにしろ、自分たちの作った作品が世の中の人たちに評価されれば、それがダイレクトに僕らスタッフに返ってくるのですから!!」
     監督は大きな声をさらに大きくして、こう叫んだ。
    「だけど、それはお金の問題ではありません。もちろん、お金は大切です。それは確かです。でも、僕らはこの街とこの街のやり方に、それ以上のモノを感じました!!そこに感動しました!!だから、命を削ってでも働くのです!!もっともっとよい作品を作ろう!!この街に恩返しをしよう、と!!」

     最後に監督は一言こう言って講義は終わった。
    「これで、ぼくの講義はおしまいです。どうもありがとうございました!!」
     そして、一斉に会場中に拍手が巻き起こった。
     小学校の生徒達は、年齢的には子供だったけれど、それでもこの講義の意味は凄くよくわかっていた。そして、この街がどんなに素晴らしい街なのかも。

     でも、本当の意味でそれを理解するコトになるのは、もっとずっと大人になってから。彼らが一度この街を出ていってからなのだけど。他の街と比べてみて、初めてその意味を理解するコトになるのだった。


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