「市長さんの仕事」(「夢見市物語」 ~第27話~)
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「市長さんの仕事」(「夢見市物語」 ~第27話~)

2014-07-25 21:18

     市長さんは、星流君の住んでいるアゲハ地区に、大体2週間か3週間に1度くらいやってきた。でも、決まって2週間か3週間に1度やって来るわけじゃなくて、3日くらい続けてやって来たかと思ったら、2ヶ月くらい全然来なくなってしまう時もあった。

     ある時、市長さんが子供達に尋ねてきた。
    「みんな、何かやりたいコトはある?」
     そう尋ねられて、子供たちはみんな、口々に勝手なコトを言い始めた。
    「遊園地に遊びにいきた~い」
    「あたし、お菓子が好きなだけ食べたい!」

    「学校で馬を飼いたいな~」
     市長さんは、ちょっと困ったような顔をしながら、それでも嬉しそうにこう答えた。
    「フ~ム。なるほどね。みんな、いろいろやりたいコトがあるんだね~」
     その頃には、星流君の妹のアノンちゃんも、すでに保育園の園児ではなく小学校1年生になっていた。星流君はファーマーやメタ子ちゃんやアノンちゃんだけでなく、もっといろいろな友達と一緒に遊ぶようになっていた。

     それからしばらくして…
     みんな、その頃にはそんなコトをいったなんてスッカリ忘れていたのだけど、市長さんはそうではなかった。
    「夢見市の会議の席でみんなに提案してみたけど、お菓子食べ放題はダメだって言われちゃったよ」

     そう市長さんが言ったので、子供達はみんなビックリした。
     その時、星流君は“この人は、冗談みたいなコトを本気でやってしまう人なんだな”と思った。そして、“どんなつまらない約束でも、約束をちゃんと守ってくれる人なんだな”とも。
     さらに市長さんは続けた。

    「お菓子と遊園地はダメだったけど、馬はオッケーになったよ。来年から学校に馬がやってくるからね。みんなで大切に育ててあげるんだよ」
     それを聞いて、みんな一斉に歓声を上げた。
    「ワ~イ♪市長さん、ありがとう~♪」
    「それが市長の仕事だからね」

     その時は、みんな、そういうモノだと思っていた。それが、本当に市長さんの仕事で、本当に当たり前のコトなのだと。
     でも、その一見、当たり前に思えるコトを実現させるのが、実はとんでもなく難しいコトなのだと知ったのは、彼らが大人になってからだった。



     ある猛烈に暑い夏の日。市長さんがアゲハ地区に来ていた時、星流君達がアイスをおねだりしたコトがある。
    「ねえねえ、アイス買ってよ」
    「買って買って!」
    「おねが~い♪」
     みんなで一斉に頼むと、市長さんは苦笑いしながらもこう言ってくれた。
    「仕方がないな~」

    「やった~!!」と、みんなでバンザイして、この辺に1軒しかない駄菓子屋にアイスを買いに押し寄せた。
     買ってもらったアイスキャンディーを片手に、みんな笑顔で市長さんの周りに集まっていた。そうして、こんな話になった。
    「でも、市長さんってたくさんお金もらえるんでしょ?みんなにアイス買うくらい、どうってコトないよね?」

    「たくさん?給料はそんなに高くないよ」
    「え?そうなの?」
    「そうだよ。たぶん、君らのお父さんとかお母さんなんかよりも貰ってる額は少ないんじゃないかな~?だって、市の職員の中でも一番低いくらいだもの」
    「え~!そうなの!?」

    「ま、住む所と食べる物だけは保証してもらってるけどね。後は、ほんとにお小遣い程度だよ。市長をクビになったら、食べていけないかもね」
    「じゃ、その時はうちにおいでよ。ご飯食べさせてもらえるようにママにいったげるから」
    「僕も僕も」
    「あたしもお願いしてあげる~」
     子供達のそんな言葉に市長さんは嬉しそうに応える。
    「それはそれは、みんなどうもありがとうね♪」
     子供達の質問は続く。

    「それにしても、どうしてそんなにお給料少ないの?」
     市長さんは、丁寧に答える。
    「夢見市は、以前はいくつかの町や村だったんだけど、その頃から大きな赤字を抱えてたからね。市になってからも、その借金は引き継がれたわけ。だから、市長や他の職員の給料を下げて、借金を減らそうとがんばってるんだよ。ま、今どき、どこもそんな感じだけどね。どこの市町村も、どこの都道府県も。そもそも、この国自体が大赤字なんだから」
     夢見市は元々、町や村だったのだが、資金不足や過疎化などの理由により合併して、1つの市として生まれ変わったのだった。

    「他の街の市長さんも、そうなの?」
    「どうだろうね?他の街の市長さんは、そんなコトないんじゃないかな?たぶん、たくさんお給料を貰ってると思うよ」
    「フ~ン」
    「正直いってね。市長の給料がどんなに安くなったって、市の予算からしたら大したコトないんだよ」
    「じゃ、なんでもらえるお金下げちゃったの?」
    「それはね、そうするコトで他の人たちに払う分も下げやすくくなるからだよ。市長さんがアレだけしか貰ってないのに、私たちがそんなに貰うワケにはいかないわ…ってコトになるでしょ?そうすると、職員の数はかなり多いから、それら全部合わせると結構な額になっちゃうわけ」

    「フムフム」
    「それにね、市の職員が給料減らしてまでがんばってるんだから、他の部分で無駄遣いはできないよ、って節約しようって意識も働くでしょ?電気代とか、水道代とか、ゴミ代とか、細かいコトも含めて。そうすれば、極端な無駄遣いは絶対しなくなるしね」
    「じゃ、学校で馬を飼ったりするのもいけなかったね」
    「どうして?」

    「だって、無駄なお金でしょ?僕らの夢見市がお金に困ってるのに、そんな無駄なコトにお金を使っちゃいけなかったんだ」
     その言葉を聞くと、市長さんは即座に大声で反論した。

    「それは、無駄なお金なんかじゃない!確かに節約するというコトは大切だけど、必要な場所まで削っちゃいけない!それじゃ、何のために節約してるのかわからなくなっちゃうもの。いい?これはとても大切なコトだから覚えておいて。“必要な資金は決してケチってはいけない!将来への投資にだけは惜しんじゃいけない。それはお金だけじゃなくて時間も”ね」
     みんな驚いていた。市長さんが、あんな大きな声を上げて叫ぶなんて、今まで見たコトなかったから。でも、それは子供たちの前だけで、大人たちとは、いつもあんな風に大きな声で戦っているのだと、みんな後になってから知るのだった。
     それから、市長さんは穏やかな声になって続けた。

    「だからといって、お金を無限に使っていいってわけじゃないんだよ。何事にも限度ってモノがあるからね。人の一生だってタイムリミットがあるだろう?それと同じで、お金だって無限じゃあない。何でもかんでも好きな物を全て買えばいいというわけじゃないんだ」
     みんな黙って聞いていた。
    「たとえば、物凄く高い機材を購入して研究したとするでしょ?でも、必ずしもそれが役に立つとは限らない。それよりも、お金はかからなくても森で虫の観察でもしていた方がよっぽどいい勉強になるかも知れない。ただ、どうしても必要な時には資金を削っちゃダメだって、そういうコトが言いたいんだよ」

    「フ~ン」
    「わかった?」と、市長さんは念を押すように尋ねた。
    「うん、わかった」と、子供達はみんなで答えた。

     その考え方は、とても大切なモノだった。それをすぐに理解して、実践できたわけではなかったけれど。その時の市長さんの言葉は、その後の子供達の人生を左右するとても重要な教訓の1つとなった。
     それと、その話を聞いてからは、みんなは市長さんにお菓子やアイスをあんまりねだらなくなった。でも、それからも市長さんの方から言い出して買ってくれるコトは何度もあったのだけど。


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