• 第一次偶像戦争 【610】 [シュウコ]

    2020-03-28 22:44

    広がる葉の僅かな隙間を抜け、森の中に入ってみれば
    ボコボコと歪に膨れた巨大な樹の幹があたしたちを迎えてくれた。
    元の世界だと樹齢千年とか余裕みたいな樹が、そこかしこに生えてる森だけど
    中は木漏れ日が十分に差していて明るくて
    足下には白く小さい花を付けた草が
    ふかふかとした地面の上に、ずっと先まで群生していた。
     「いーところだな。」
    子供の言うセリフじゃないけど、あたしも割とここ気に入ってるんだよね。
     「シロウ君所とは違う?」
     「ん~、うちはもっと樹がヤバい感じ。
      地面じゃなくて絡み合った根の上で生きてるイメージ。」
     「あー、やっぱ相当【緑】が濃い所に拠点作ってたんだ。」
    そんで伊織ちゃんと接点があったって事を考えると
    基地周辺の可能性は高いよね。
    大体絞れてきたかな?今更、大した意味は無いし
    森を特定したとしても、その中に隠れてる訳だから
    砂漠にゴマ一粒は極端だとしても
    大都会で窓を除いた部屋の写真から目的の建物を探すぐらいの難易度はありそう。
     「シュウコねーちゃん達も隠れながら?」
     「そゆこと、幾つか隠れ家作ってる感じ。
      ただ、余所を監視する時間も多かったし
      作ったはいいけどってなってる所も多いわ。」
    折角あたしがマナの流れを繊ッ細に調整してバレない様細ッ心の注意を払ったのに
    使ってないとか、勿体ないオバケが出るわ。見た事ないけど。
     「いいなー、オレなんてこっち来てから殆ど森しか見た事ねーぜ。」
     「外出なかったん?」
     「ミクねーちゃんがあんま動くなってさ。開戦してからは全く。
      そんで外へ出る事は勿論、ギターの練習すらろくに出来ねーんだもん。
      準備期間から今日までやったことを日記につけてたら
      寝て起きて飯食って授業受けたで8割方埋まりそうだぜ。」
     「授業て。」
    いや、授業て何よ。マジで。
     「ミクねーちゃんも暇だったんじゃね?
      普通の人間の子と変わらない様にって、色々叩きこまれた。
      普通の人間と変わらない様にってんなら
      子供同士の関係が無い時点でおかしいのになー。」
     「うわ~……
      ……もしかして殴ったのって……。」
     「ん?あれは全く関係ねーよ。
      好きな事は出来なかったけど、別にそこまで嫌じゃなかったから
      俺も暇つぶしにはなったしなー。」
    比較対象がノース君とカノン君だからシロウ君は凄く活発に映るけど
    別にシロウ君も問題児とかそんなんじゃないのよね。
    今日だって、先生やってたミクちゃんよかずっと大人……
    ……とはまた違うか。考え方がドライだから大人っぽく見える感じ?
    このドライさは割と好み。年下は今ん所範疇じゃないけど。
     「っと、そろそろだから静かにね。」
     「ん?なんで?」
    聞き返してはきたものの、シロウ君はちゃんと音量を下げてくれていて。
     「驚かせる気だからよ。」
     「あぁ、なるほど。
      じゃあオレはシュウコねーちゃんの後ろに隠れてた方がいい?」
     「お願い。」
    あたしが先に突入して適当に話した後
    唐突に呼び寄せるってのもアリだろうけど
    会話してる横からひょいと出てきた方がシロウ君らしいっちゃあらしいよね。
    ……うん、それでいこう。
    隣。
    速度を落とすシロウ君に目をやって、気が付く。
     「っと、あとその死体はあたしが預かるわ。
      持ってきてくれてありがと。」
    途中で渡した後、ずっと持っててくれたもの。
     「別にいいよ。オレ男だし。」
    特に悲しくも嬉しくも無い平常の表情のまま
    お姫様抱っこの形で渡される死体のシュールさったら無いわ。
     「紳士やねー。ミクちゃんの教育の賜物?」
    あたしは受け取った星井美希の死体を小脇に抱える。
    アズ君の魔力のおかげで、まだ死体は暖かかった。
     「ミクねーちゃんにも言われるけど
      そこらへん一番面倒なのはアリスの方だなー。」
    あー、ミクちゃんが直接なら、アリスちゃんは嫌味言ってきそう。
    北斗君の影響か、ノース君がそこら辺、本当に徹底してるから余計にね~。
     「アリスちゃんも今何してるのかしらね~?」
    ちょっとつついてみて。
     「知らねー。
      正直、会ったらまたなんか言ってくると思うから最後まで会いたくねーわ。」
    ミクちゃんの小言はオッケーでアリスちゃんの小言はアウトっていうのは何だろ。
    やっぱあったり?いろいろあっちゃったり?
     「案外すぐに会うかもしれないよ。」
     「そんときゃ敵として会うことを祈ってる。」
    敵か~、まぁ、会うとしたら、どちらかというと味方側よね~。
     「ほぼほぼ確定で敵として会うモモカちゃんはどーよ?」
    どーよ?どーなのよ?
     「どーよ言われてもオレが戦うか分かんねーしな。
      あ~でも、実力的には一番下だろうから、オレに回ってくる率は高いのか。」
    ちがう。そうじゃない。聞きたいのはそこじゃない。
     「……どうだろな……
      ……やっぱ今の強さが分かんねーことには、勝てるかわかんねーな。」
     「まぁ、そりゃね。」
    気持ちの方はどーなんよってのは聞かんとこ。
    あたしも大概アレだし、年下相手にしつこいのも問題。
    少しは時間あるだろうしね。今ウザかられたら後が面倒だわ。
     「舞さんとこと戦う時は、いきなり生きるか死ぬかになるだろうし
      そん時までに出来る限り強くなっとかなきゃなー。
      体も訛ってるからまず感覚取り戻す所からになるけど。」
    ミクちゃん助けた動きを見る限り心配してないけど
    本人はなんかあるんかな?引っ掛かりとか違和感みたいなん。
    …………
    ……さて。
     「そろそろだから。」
     「分かった。」
    声が消える。背後のシロウ君の速度が落ちる。
    無言のまま進む、森の中。
    感覚。
    確かに触れて、抜ける。
    視覚が得るもの
    嗅覚で感じるもの
     「お帰り。
      んで、お疲れ様でした。」
    驚かすよか前にかけられる声。
    …………
    ……
     「……何やってんの?」
    ピザ窯にピザピールを入れるアズ君に向けて、あたしは最もな言葉を投げた。

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  • 第一次偶像戦争 【609】 [シュウコ]

    2020-03-26 22:55

     「分かる?」
    指さす先にあるのは、ゆっくりと流れる川のほとり。
     「ん~……
      ……ちょっとわかんねーわ。」
    シロウ君は結論を出しても、まだ目を凝らしていて。
     「アタリ。だってそこじゃないもん。」
    ちぇっ、つまんねーの。
     「あっぶねー。嘘つくところだった。」
     「嘘つき。シロウ君がそんな事するわけないじゃん。」
     「どうだろ?シュウコねーちゃんだけだったからかもな。
      ノースが居たら嘘ついても分かるって言ってたと思うぜ。」
    へぇ。
     「ノース君に負けたくないの?」
     「まーな。こっち来たのもそれがメインだし。」
    全部が全部、強ければ勝つし、弱ければ負けるっていうスタンスじゃないんだ。
     「ノース君の現状とか知ってる?」
     「今何やってるかは知らねーけど、何が起こったかは知ってる感じ。」
    ほう。
     「それって初日の事?」
     「そうそう。まぁ自分で見聞きした訳じゃなく
      ゲンブのあにきからの情報なんだけどな。
      オレは信用してるから、そのまんま受け取ってるわ。」
    前から伊織ちゃんの所とは接触してたんやね。
     「そこら辺の情報はあたし達にも教えてくれるんかな?」
    一瞬、甘えた様な声が出そうになって、慌てて引き留めた。
    ホント、子供相手って苦手だわ。
     「まぁ、問題ないんじゃね?舞さん先に倒さねーといけねーんだろ?」
     「嘘であって欲しいけどね。」
    考えるだけで嫌になる。
     「嘘だったらどーしよっかな。
      一度合流したらオレも帰れねーだろうし
      帰ったらミクねーちゃんが居るし
      かといって、ぬみねーちゃんとの敵対だけはしたくねーしなー。」
     「悩んどけ悩んどけ。」
     「……う~ん……でも、やっぱそんときゃ帰るわ。
      引き留めるならそのまんま戦闘だな。うん。」
     「早いなー。しかも半分自殺よ?その選択。」
    アズ君が動かなくても、あたしとミッちゃんが居るし。
     「敵対するぐらいなら死んでもらってた方が楽じゃん。」
     「ごもっとも。」
    ただまぁ、感情的には相手側でも生きていてもらったらってのはあると思う。
    いぬ美ちゃんだと特に、アズ君殺せば、その下に居るあたしたちは解体だし。
     「で、シュウコねーちゃん達の拠点ってどこなの?
      オレの合流に先に確認かなんかが必要なら、ここで待ってるけど。」
     「あー、そこは心配しなくていいよ。
      ただ、あたしの方でちょっとね。
      とりあえずさっき指さした所行くよ。」
     「ういー、了解。」
    やる気の無い様な返事だけど、期待してるのか楽しんでるのか
    僅かに上に揺れる感情が感じ取れた。
    舞さんがチラついて落ちがちなあたしのテンションも
    シロウ君のおかげで何とか通常レベルは維持出来てるから
    あたしの方でも、今ん所居てくれて助かってはいるんよね。
    ……で、問題はこっから。
    近づく大地。
    スニーカーの先端が背の低い草に触れる。
    あたしの足は、そのまま一帯を覆うラベンダーの様な紫の花を踏みつけ
    倒れた草と地面の反発を感じ取った。
     「すぐ終わるからシロウ君は降りなくてもいいよ。
      あっ、でもコレは持ってて。」
    隣に降りようとしていたシロウ君に抱えていた星井美希の死体を差し出して。
     「分かった。……ていうか、オレが持って大丈夫なんだよね?」
     「外に強く魔力を出すのは遠慮して欲しいかな。
      まぁ、短い間だから大丈夫だよ。」
     「そっか、それならいけそう。」
    差し出された体をお姫様だっこするシロウ君。
    子供が死体を抱くという、おっそろしくアレな絵な筈なのに
    妙な微笑ましさみたいなんが沸くのは何でやろ?本人が気にしてないからかな?
     「ありがと。んじゃ、すぐに終わらせるわ。」
    息を吐いて、感覚を落としていく。
    足の裏で感じる感触の先。大地を走るマナの流れ。
    それを辿って、辿って。
    ほんの少しの違和感を得て、そしてその先に。
    その中は。
    …………
    ……
     「……嘘じゃ無いみたいね。」
     「おー、ならよかった。」
    楽しそうなシロウ君とは反対に、あたしのテンションはやっぱ下がって。
    あーマジか。マジなんか。
    こうなりゃ意地でも奢らせないと気が済まない。
    ただ、重い空気や、暗い雰囲気の中、交渉出来るかってなると……
    でも、後日って訳にもいかんしなー、こういうのって……
    …………
    ……やっぱ、場合によっちゃあたしが空気変えなきゃならんのか。うわー面倒。
    もうホントあれだわ。全部奢らせよう。あたしの欲しいもの全部。
    そんぐらいやって貰わないと割に合わない。
    あたしはね、自分のペースに誘導するタイプなの。
    わざわざ起点を起こすタイプじゃ無いの。アズ君も分かってるでしょ?
    いや、まだ合流もしてないんだけどさ。

  • 第一次偶像戦争 【608】 [ミク]

    2020-03-24 22:55

    泣いて、泣いて。
    それでも空は青くて。
    ミクの想いなんて、ミクの苦しみなんて、全く意に介さなくて。
    きっと世界はそんなもので、ミクの存在なんて、その程度のもので。
    ……分かってる。でも、それでも
    ミクはミクを通してしか、この世界を感じる事は出来なくて。
    ミクがミクである限り、ずっとこれは変わらなくて。
    諦めることも……多分、出来なくて……。
    自暴自棄にも……既に半分そうなってるかもしれないけど……。
    ……それでもきっと、ミクは全てを投げ出す事も、全てを諦めることも……。
    …………
    ……
     「……ミヤコちゃん……迷惑かけてごめんにゃ……。」
    声。出る。喉が痛いけど、しっかりと声は出せる。
     「迷惑だとは思っておりませんので、どうぞお気にせず。」
    落ち着いた声。嘘のない色。
     「……うん……それでも、ごめんね……
      ……そして、ありがとう。」
    ミクの方から先に謝ったのは、ベッドに寝かせて貰った上に
    勝手に大泣きして、迷惑をかけたかもしれないと思ったから、というのも確か。
    けど、きっと一番大きな所は
    ミヤコちゃんに迷惑だと、こんなミクはみっともないと、思いたかっただけ。
    またそうやって、他人を利用して自分を形作ろうとしてる。
    だから、ミクは独りでいるべきで。
    でも、独りだと今もずっと泣いていたと思えて。
    ミクはそんな奴。どうしようもない子。
     「……あの基地まで行ったら、いつでもミヤコちゃんとは連絡とれる?」
     「大丈夫だとは思います。
      少なくともミクさんの方からアクションがあった事はこちらに伝わりますし
      私が手一杯の状況なら、それをちゃんとミクさんの方に
      お伝えする事も可能ですので
      何の反応も無いという事は無いと思われます。」
     「そっか……
      ……ひょっとしたらだけど、また連絡とるかもしれないにゃ。」
    今ミクの中にあるもの。
     「分かりました。お待ちしております。」
     「……うん。ありがとう。」
    ミクがミクである事を、辞めることが出来ないのであれば。
    ミクがミクである事を、諦められないのであれば。
    ミクがミクを、変えられないなら。
    ……それなら、ミクがミクの手で、この世界の方を変えるしかない。
    馬鹿の発想だし、現実問題出来るとも思えないけど
    今のミクが前に進むには、そこを目指すしかない。
    その為には、こんな所で負けてなんていられない。
    ミクはまだ消えてない、ミクはまだミクのままで変わってない。
    なら、ミクは負けてない。シロウ君を失いはしたけれども、負けてない。絶対に。
    だから次は勝つ。
    勝って変える。周囲を、世界を変えてみせる。その為に。
    手、腕、指先に血が、力が通う。
    ……うん。
    浅く頷いた後、ミクは体に引っかかっていたタオルケットを畳み
    両足をベッドの外へと出した。よく見たらベッドの下にミクの靴が綺麗に置かれていた。
     「……ベッドありがとうにゃ。
      ……ミクはお家に帰るにゃ。」
     「追わなくてよろしいのですか?
      必要なら情報の提供も可能だと思われますが。」
     「……それは次に取っておくにゃ。
      ミクの方から借りばっかり作る形になっちゃってるけど。」
     「……分かりました。
      帰りのゲートは如何いたしましょう?」
     「お願いするにゃ。」
    シロウ君の件もあるし、一度帰って、いぬ美ちゃんに伝えておいた方がいい。
    そこから先は……。
    ……いぬ美ちゃんの所から離れる気は無いけど、ここで立ち止まる気も無い。
    そうなると……。
     「……ミヤコちゃんやゲンブ君、それに伊織ちゃんって
      やっぱずっと忙しいにゃ?」
     「忙しい……のでしょうか?
      常に仕事はしておりますが、そこにあまり感情は持ってない様に思います。」
    むぅ、AIだから命じられて動いてが当たり前なのかにゃ?
     「それじゃあ、ミクの相手をお願いしたら来てくれる?」
     「……確約は出来ませんが、マスターの許可含め恐らく大丈夫だと思われます。
      しかしながら、状況如何によってはお断りするタイミングもあり得ますから
      その点をご留意して頂くことになります。」
     「十分にゃ。ありがとうにゃ。」
     「いえ、許可に関する部分を今すぐマスターに聞いてみた方がいいですか?」
     「う~ん……
      ……うん、お願いするにゃ。」
    こういう会話をしたっていうのは遅かれ早かれ伊織ちゃんに伝わるだろうし。
     「それでは……。」
    スンとミヤコちゃんの意識がミクから離れた気がした。
    靴に落としていた視線が上がる。
    青い空。まだ朝の青。
    ……シロウ君はもう別の空を見てるのかな?