第一次偶像戦争 【487】 [トキコ]
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第一次偶像戦争 【487】 [トキコ]

2019-07-22 22:00

     「とても大きいですね……。」
    玄関の先、赤々としたトマトが実る畑の前でフミカは空を見上げながらそう言った。
     「あれが元のサイズらしいわ。あの女の。」
    強い陽の光が端から入ってきているテラスの下
    膝の上に置いたニルヴァーナに緩く魔力が通う。
    刻まれた魔法陣やルーン、それらが連動し生み出す効果は基本的な部分は全て抑えた。
    ただ、それ以上……北斗の魔力が必要なブラックボックス部分は未だ何の進展も無い。
    ……基礎は教えたんだから、それ以上は自分で創り育てろって事かしら?生意気ね。
    気配。玄関のドアの向こうから。
    そのままガチャリと扉は開き、中からセイジが現れる。
     「コーヒーを淹れるんだが、飲みたい者は居るか?」
    セイジはそう言いぐるりと外を見まわしたあと
    空を見上げるフミカに釣られる様な形で陽の光の下まで歩いて行って。
     「あれがそうか……。」
     「元のミズキさんの大きさらしいです……。」
     「なるほど……。
      近くで見たらさぞ壮観なんだろうな。」
     「10秒で飽きるわよ。
      バカみたいなサイズだから真っ正面に据えると大きな翡翠の固まりでしかないし
      あとは左右と上を見て、ああ大きいと思うだけ。それだけよ。」
    ミズキは本当に程度というものをわかってないか、あえて無視している節がある。
    かぶのすけの件もそう。独りで勝手にやる分にはどうでもいいけど
    自分とは別の存在にも同じ思考で立ち回れると迷惑でしかない。
     「……しかし、やはり興味はあるな。……失礼に当たるかもしれないが
      元の姿のミズキさんも一度お目に掛かってみたいものだ。」
     「甲鱗のワーム……現存する個体は少ない様ですね……。」
     「冬眠してるだけじゃない?
      北斗とミズキの出会いはそんな感じだったでしょ。」
     「ほう。」
     「……そう……なんですか……。」
    知らなかったというのは以外ね。まぁ、ああいう女だから
    遠目から見て空気が合わないと踏んだら避けるでしょうけど。
     「それで?コーヒーは淹れてくれるの?」
     「おっと、そうだった。
      トキコさんは必要という事でいいか?」
     「ここまで持ってきてくれるのならお願いするわ。」
     「では、私も……。」
     「分かった。それじゃあいっそのこと、そのテーブルで淹れようか。」
    私の前にあるテーブルには何も置かれておらず
    コーヒーを淹れるスペースは十分にあった。
     「それなら私は何かお菓子を持ってきますね……。」
     「お願いする。」
    二人は私に軽く会釈をすると、家の中に入っていった。
    程なく、窓のガラスの向こうから豆をひく音が聞こえてきた。
    音。
    豆をひく音じゃ無い。
    翡翠の塔の方向から僅かに聞こえた爆発の様な音。
    こんなに離れてるのに音が届くとか、派手にやってる様ね。
    サナエもよくやるわ。あの女に付き合うとか。
    飲み友達以外の部分をろくに知らずに動いたのなら運が無かったわね。
    あの女の地を知ってからも、同じ関係を続けられるかしら?
    他人の交友関係なんてどうでもいいけど、妙な空気になるのは鬱陶しい。
    そうなった時はさっさと出た方がいいわね。
    あの女が原因なのに私が出て行くというのも癪に障るけれども
    どうせ集合日が近づいてくればここを出る事になるんだし、早いか遅いかだけ。
    私にとって今一番重要なのはニルヴァーナの解析。
    それ以外は全てメリットとデメリットを比べて判断していけばいい。
    そう、それだけのこと。
    私は目を瞑り、ニルヴァーナに流れる自分の魔力に集中する。
    膝の上に置いた長大な杖。そのすぐ上に
    下に置いた杖に流れる魔力をリアルタイムで写し取っていく。
    私の得物。
    私の杖。
    がちゃりとドアノブが回り、扉が開く。
     「お茶請けに……マフィンと……クッキーを持ってきました……。」
     「ありがとう。」
    テーブルのすぐ下の空間に描いていた魔力を回収し、目を開けて。
     「……お邪魔……でしたか?」
    椅子に座ったフミカが少しの申し訳なさを浮かべながら問うてくる。
     「邪魔なら邪魔と言うわ。」
     「そうですか……。なら……よかったです。」
    浮かぶ緩い微笑み。こういう表情はミズキやサナエには絶対に出来そうに無いわね。
    扉がまた開く。
    外へ出てきたセイジの両手には
    銀色のケトルとネルドリップ用のサーバーが握られていた。

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