第一次偶像戦争 【532】 [東豪寺麗華]
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第一次偶像戦争 【532】 [東豪寺麗華]

2019-10-22 20:44

    声も無く、ただ命も魔力も失っていく馬鹿と
    歯を食いしばり、必至に奪われることに抵抗している四条貴音。
    共にダメージは大きいはず。でも、この差。
    ……地力の差と言えばそれまでだけど、これは馬鹿が弱いんじゃなく
    四条貴音も化物に片足突っ込んでるせいだと思う。
    同じ状況なら私もここまで抵抗出来るか……。
    …………
    ……抵抗……するわよね?
    …………
    ……隣のサチコちゃんに視線をやって。
    激しい苦痛の中に居る者達に向けて、柔らかい笑みを浮かべるその顔。
    その顔を見ながら、もう一度考えても答えは……。
     「……どうかしましたか?」
    するりと移動する視線。私に向けられる瞳。光。
     「……なんで私だけこうやって平気で立ってるか分からなくなってるのよ。」
    これも本当の気持ち。
     「倒れてもらっては困るからですよ。」
    困る。
     「私は生かされたという事ね。」
     「そういう観点も間違いでは無いでしょうね。」
    そういう観点。
    ……それとは別の何か、それ以上の何かがあるのかしら?
     「ボクが嫌いです?」
    いつもと同じ微笑。
    その手に握られた鋭く、そして太く、長く、冷たい刃。
    入り込んで。えぐりこんで。
     「……多分、そういう事になるんでしょうね。」
    だって貴女は、私の愛する人に一番近くて。
    だって貴女に、どんどん近づいて行っている。
     「ボクは麗華さんに悪い感情はありませんよ。
      好きとはまた別だと思いますが。」
    そりゃ、私は露骨な敵意みたいなの出してないもの。今さっき嫌いって言ったけど。
    ……私の『嫌い』の半分は嫉妬。
    だからサチコちゃんは半分は悪くないし、残りの半分だって……。
     「色々お話したい所ですが、外野が騒がしいですね。」
    伊織が本気で相手をするようになって減ったとはいえ
    今も星井美希の銃弾はこちらに飛んできてるし
    新たに爆発による強い光や轟音が生まれるようになって
    騒がしさという点では、さっきよりも酷くなっていた。
     (麗華さんにお話があるので、少し黙っていてくれませんか?)
    強いテレパスが走る。
    銃弾と爆炎の光と音が、少しの間を置いて消える。
     (……黙れ……ですって……。)
    伊織の呟きに滲む熱と炎。
     (はい。今の状態をキープして頂くと助かります。)
    あっ、これ伊織キレるわ。
     「いきなり出てきて何様よアンタ!
      美希も!」
    揺れる炎を吹き飛ばすような伊織の声。
     「えっ?美希もなの?」
     「当たり前でしょ!
      何なのアンタ達!この場でやり合おうってんなら買うわよ!その喧嘩!」
    もう十分やりあってる様に思うけど、やっぱり何か引っかかってるのね。
    それでも迷わずしっかり動いていたし、今も本当は怒りにかこつけて
    美希から情報を引き出そうとしてる感じかしら?
     「組んでるとかそんな事は無いよ。
      ただ、響が落ちそうだったから見に来たの。」
     「なら隠れて見てりゃいいでしょ!
      そこらに居る連中と一緒に!」
    さっき『目』が炸裂してたし、伊織は誰が来てるかを全部把握してるか。
     「だってここで誰かが落ちたらつまんないの。
      美希的には全員残って、ぐじゃぐじゃにやり合って貰うのが一番だし。」
     「アンタ変な知恵つけてんじゃないわよ!」
     「美希が勝つためには当然の事なの。
      だから響と貴音も返して貰うね。」
    星井美希が持つアサルトライフルの形をした得物がサチコちゃんに向けられる。
     「分かりました。それでは少し待っていて下さい。」
    ほう?
    瞬間、馬鹿の周囲にルーンが現れ
    そのまま黒いスモークが張られたガラスの様な球体に包まれる。
     「あっ!」
    星井美希の声。
    私の中の重み。
    さっきまで感じていたものはとれた
    でも、今度は別の刺々しい重さが上から落ちてきた。
     「響さんはこれでいいとして……。」
     「サチコ酷いの!」
     「嘘はついていませんよ。
      大体、本気で止めたいのならボクの言う事なんて聞く必要無いですし
      会話をするにしても距離ぐらいはつめますよね?」
    ごもっとも。
     「……美希。」
     「……分かってるのデコちゃん。」
     「デコちゃん言うなって言ってるでしょ!」
    ジリジリと警戒を続けながら近寄ってくる二人。
     「お二人に聞かれるのが嫌でしたら、排除しますね。」
    二人に聞こえる声で。
     「サチコちゃん的にはどうなの?
      内密の方がいいっていう話ではない?」
     「全く関係無いお二人ですから。
      ……むしろ話を聞かせるべきはそこに転がってる二人ですね。」
    半透明の黒い球体の中で倒れたままの馬鹿と
    未だ【Cruel Ultimatum】に苦しめられ続けている四条貴音。
     「……本当に私はこのままでいいの?」
     「むしろ嫌いな相手と話さなきゃならない訳で
      麗華さんには心苦しさがあるぐらいですよ。」
    サチコちゃんの微笑みの中にある瞳。
    やっぱり嘘とか言ってる風には見えない。
     「……来たわよ。」
     「来たの。」
     「これはどうも。」
    不満そうな二人の声と、どうでもよさそうなサチコちゃんの声。
    ……一体どういう事なんだろう?
    何が始まるんだろう?
    とても胸が苦しくて、痛くて、
    ……でも、逃げたいとは思わなかった。
    それが不思議だった。
    不思議でたまらなかった。

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