第一次偶像戦争 【556】 [四条貴音]
閉じる
閉じる

新しい記事を投稿しました。シェアして読者に伝えましょう

×

第一次偶像戦争 【556】 [四条貴音]

2019-12-10 22:55

    舞嬢が麗華に向かって言った「埋め合わせはする。」という言葉。
    あれは美希とわたくしのトドメに関するものであると見て間違い無い。
    だとするならば、全てが終わった後、舞様の手で美希とわたくしを退場させるか
    もしくは、再び瀕死まで追い込まれるか……。
    ……他にも色々と考えられますが、その全てに共通するであろう部分は
    美希とわたくし、共に、良い方向へ転ぶ様なものではないという所。
    このまま場の流れに身を任せているだけでは
    この戦争から退場か、それに近い状態になるのは明白。
    ならば動いた方がまだ良い筈。
    潔く終わる事を良しとする考え方もありますが
    まだわたくしはこの戦争に参加しておりたいのです。
    それ程、この戦争を楽しんでいるのです。
    わたくしを貫く刃の痛みが
    わたくしを殴る拳の苦しみが
    たまらなく愛おしく、たまらなく味わい深いのです。
    今までもわたくしを苦しめる者はおりました。
    しかしながらここまで真っ直ぐにわたくしに向かってきて、生き残った者は
    わたくしが何も出来なかった者は、今までおりませんでした。
    今、わたくしは未知に触れて居るのです。
    わたくしを打ちのめす力も
    誇りも全て打ち砕かれた、わたくし自身も
    そして、わたくしに触れ、傷つけた者達の心も、分からぬ事だらけ。
    それを知りたいのです。
    そして、乗り越えたいのです。
    乗り越えたとき、わたくしに触れられる者達がどうなるか、何を想うのか
    それを見てみたいのです。
    ですから、ここで終わる訳にはいきません。
    終わらせる訳には、いかぬのです。
     「問題ないわ。他には何か先に言っておきたい事がある人とか居る?」
    舞嬢と伊織の会話が終わる。
    ここ。
    ここしかない。
     「実はわたくしからも少し……。」
    わたくしが切り出した事が意外だったのか、舞嬢は少しの驚きと興味を表情に出して。
    それとは対照的に、先ほどまで舞嬢と会話をしていた伊織はわたくしに向けて
    少々強い視線を流して。
    ……やはり気付いておりましたか。
    しかしながら、もう伊織には止める事は出来ぬ状況。
    これから先どう転ぶかは分かりませんが、わたくしにはもはや進むしか道はありません。
    伊織も覚悟ありきで律子からあのお酒を受け取った筈。
    その覚悟、今ここで試させて貰います。
     「貴音ちゃん、何かしら?」
     「舞様の所から持ち出されたお酒についてなのですが……。」
    ボッと音を立てて、舞嬢の瞳の中に黒く暗い炎が灯った。
     「あれ知ってるんだ?
      ていうか、知ってたの?あの時。」
    ギラリと覗く刃。
     「いえ、あの時は知り得ていませんでした。
      わたくしがその事実を知り得たのはその後……ですよね伊織?」
    強い視線から嫌な視線へ。伊織はわたくしに向けて明らかな嫌悪を見せて。
     「へぇ、伊織ちゃんも知ってるんだ。」
    ゆっくりと動く舞嬢の視線。
     「貰った酒はもう飲んでしまいましたか?」
    ダメ押し。わたくしも既に飲んでおりますから、自爆に近いですが。
     「私も知ってますし、お酒貰ってますよ。律子から。」
    声。
    意外な者から。
     「律子ちゃんから?」
     「ええ、律子から。
      律子は北斗さんと小鳥さんから貰ったんですよね?」
    流れ。
    わたくしの想像とは別の方向に。
     「そうね。あの二人が初日に私の所のお酒を全部強奪していったの。
      タバコや葉巻に、お気に入りのソファも持って行かれたわ。」
    ……小鳥嬢に北斗……貴方達は本当に……。
     「美希ちゃんとサチコちゃんは知ってた?」
     「知らなかったの!そんなことがあったなんて!
      何で誰も教えてくれないの!?」
     「そりゃアンタが放浪決め込んでるからでしょ。」
     「それは貴音も一緒でしょ!」
     「こればかりは運……だと思われます。
      ただ、美希よりも僅かばかり積極性があったからその運を掴めたとも……。」
    ……今こうやって現状を打開する鍵にもなっておりますし
    冬馬の刃の存在も、動かなければ知り得る事が出来なかったかもしれません。
    ……わたくしは本当に運がよかったと思います。
    すぐに体を創り直す事になりましたが、料理も大層美味で……。
    …………
    ……しかし、麗華はどうして自分も持っていると……。
    まさかサチコから……。
     「ボクも初めて聞きました。
      結構動きがあったんですね。」
    さらっとした声色。
    知らなかったし、知った今も興味が無いといった所でしょうか……。
    だとしたら本当にどうして……。
     「おーけーおーけー。状況を整理しましょう。
      私の所から奪われたお酒は、もう結構な人数に行き渡ってるって事ね。」
     「それで合ってるわ。
      そしてもう戻らないボトルもあるわよね?貴音。」
    …………
     「……えぇ、承知の上で頂きましたから。」
     「ほう……。」
    舞様の視線が帰ってくる。
    覚悟していた事。ここまでは。
     「日高舞の酒と分かって飲んだのね。」
     「はい。
      大変美味なお酒でしょうから、堪えることが出来ませんでした。
      伊織と違い、今のわたくしの生活ではかさばりますし
      お土産を貰わなかったのを今でも少し後悔しております。」
    飲んだのは事実。そしてわたくしはお土産を貰わず
    伊織が貰って帰ったというのも、また事実。
    舞嬢相手だと、ここで明確に戦う意思を見せた方が
    この場でどうこうという流れから遠ざかるかもしれませんが
    先の「埋め合わせ」と結びつけられる恐れがありますし、今一度様子をみましょう。
    何か今後のわたくし達の行動に条件をつけるという形での「埋め合わせ」なら
    その条件さえ知らなければ、聞かなければ、無いものと一緒ですし。
     「他人のお酒をお土産ねぇ……。」
     「私はお土産レベルを超えるぐらい貰ってますよ。」
    また。
    ……麗華、貴女どうしたいのですか?
    貴女は一体何を……
    視界。
    存在。
    あっ!

    広告
    コメントを書く
    コメントをするには、
    ログインして下さい。