第一次偶像戦争 【590】 [シュウコ]
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第一次偶像戦争 【590】 [シュウコ]

2020-02-18 22:22

    全身の全ての細胞と、奥に秘めた魂が揺れる。
    魔力で起こした空間の揺れが、その魔力ごとあたしのすべてを揺らし
    あたしのすべてに力を響かせて、瞬間、景色が変わる。
    暗い森は、もうどこにもない。あるのは朝日に照らされた靄と揺れる木漏れ日。
    あたしの腕が抱くもの。その重さ。感触。肌で、魂で感じる魔力。漂ってくる血の臭い。
    よっし!飛べた!
    いや、重すぎでしょ、マジで。テレポートするだけでこんな疲れるとか。
    ……まぁでも、悪くはないかな。
    簡単な仕事だったけど、やり遂げたという充実感はある。
    …………
    ……充実感か。
    確かにそれに包まれてるけど、開放感っていうのも大きいわな。
    戦場はろくに参加してなくても集中するし、緊張もするから
    それから開放されたってだけでも全然違う。
    …………
    ……これからあんなんが続くんかなぁ……
    ……はぁ……憂鬱……
    …………
    ……確かに憂鬱。確実に面倒。考えただけで疲れる。マジで。
    ……ただ、何か妙に楽しみな自分も居るってのがねぇ。
    まっ、いいや。とりあえずアズ君が逃げて帰ってくるのを待ちましょ。
    そう思って、立ち上がろうとして、腕の中にある重さを再び感じて。
    あー、そうだ、これだ、これがあった。
    この重い死体をもっていかないといけないのか。
    ていうか、わざわざ家まで直じゃなくてワンクッション置いたのも、このせいだし。
    この魔力の強さ。感知妨害かけて飛んだとしても速度は出せないか。
    ……仕事全然終わってないじゃん。むしろこっからが疲れるし大変。
    あー、これ下手したらアズ君のが先に帰ってんじゃない?
    必死こいて帰ってきたアズ君と、トマトとチーズにバジルが香るピザを肴に
    グビグビワインを飲むつもりだったのに、絶対無理じゃん。
    萎えるわ~。マジでガン萎え。
    こうなったら逆に無茶苦茶遅れて帰って
    ついたらもう即座にお酒とお風呂みたいな感じでいくのがいいかな。
    それが一番楽だし

    【Flight】に回す魔力。思考よりも前に動く体
    抱えた星井美希の重さに悪態をつくよりも前に体に熱が走る。衝撃が叩きつけられる
    ぐうっ!
    久しぶりの痛みと、突然の攻撃で出る嫌な汗
    でも、今のあたしの背中には、汗を出す器官も
    それを感じとる感覚器官も無くなってしまった様で
    体の前半分だけで搾り出された様な汗を感じるという不快な情報が
    緊急事態でフル回転してる頭と、必死に抵抗しようとしている魂に入り込んでくる
    そんなことは
    どうでもいいから

    頭から足先まで
    抜ける
    もうない
    止まって展開する領域
    振り返りながら描くスペル
    後ろ

    あたしがさっきまで居たところ
    地面が光っていた
    熱で揺れる景色の向こう、炎が踊り、糸引くチーズの様に溶けた大地が見えた
    パチパチと近くで音がする
    周囲を見ると、原型を留めている木々もなぎ倒され、点いた火がその身を焼いていた
    【緑】で描いた【Refresh】の魔法陣が輝く
    そこから生まれた暖かな光の粒はあたしの体のダメージを負った部位に入り込み
    細胞一つ一つに溶け込んでいく
    うん。体治さないと
    そんで

    急に開けた煙が立ちのぼる空
    攻撃された
    上から
    感覚からしてレーザー?ビームはもっと重いし
    蒸した風呂場みたいに熱が纏わり付いてくるよね
    てか、こんなタイミングで、こんな攻撃が出来るのな
    ッ!
    なんかヤバい!
    あたしは描いていた防御系スペルに意識を集中させると同時に
    体に通わせた魔力を、体の下にある大地のマナの流れへと繋げる
    一気に広がった感覚を確かめようとした時、強い光があたしの目に飛び込んできた
    目の奥を通り越し、脳まで光が届いた直後、同時に、沢山の方向から入ってくる衝撃と熱
    あたしは星井美希の体を庇うように抱きかかえる
    やっぱ、伊織ちゃんか、伊織ちゃんの所のゲンブ君かミヤコちゃんが狙ってきてる
    てことは、あたしが逃げられる訳は無い。少なくともこの死体を抱えては絶対に無理
    この状況
    あたしに出来る事
    抱えて耐えるか
    捨てて逃げるか
    あたしは捨てて逃げるに一票
    いや、捨てても逃げられないんだけど
    何とか逃げる方法を思いついて、実行して、成功させないとマズいんだよね
    ここで耐えた所でいつまで持つか分からんし
    アズ君が逃げきった時に、人質みたいに扱いになるかもしれんし
    でも、どうする?
    どうやる?
    パッと出てこない
    それならここは
    体の向こう。大地に広がった感覚に、意識と力を合わせる
    体が揺れる
    触れている大地が、あたしを揺らす
    爆発による細かい揺れとは違う、もっと深い所から来る揺れ
    流石に地の底とは言わんよ。そこまで干渉してないし
    ズンと、あたしの体が落ちる
    音が、光が、全部遠くなる
    強いマナの流れが、アタシの頭上を走る
    隔てても感じる細かい揺れと衝撃音の中、あたしはふぅと息を吐いて
    自分の能力の応用だけど、どんだけもつか
    死体と一緒に地面の下。自ら望んで生き埋めとかね
    しかもいっちゃん親しいプレインズウォーカーはネクロマンサー
    ようできてるわマジで
    あたしはまた息を吐く。今度はさっき吐いた息とは別の、完全な嘆息
    さて
    どうしようか
    ズンと、またあたしの体が下に落ちた
    僅かだけど、確実にあたしは地の底に落ちていっていた


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