第一次偶像戦争 【611】 [東豪寺麗華]
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第一次偶像戦争 【611】 [東豪寺麗華]

2020-04-01 22:11

     「さてと、で、どうしよっか?」
    言葉と視線。
    私たち全員への問いに見えて、その実、舞さんが聞いているのは独りだけ。
     「如何いたしましょうか?」
    その対象は、ほぼ首から上一つ分大きい私に向かって下から視線を投げてくる。
     「私が殺しあえって言ったらやってくれるの?」
    嫌な言葉。でもまぁ、そういう事なのよね。
    あえて嫌な言葉を使うあたり、お里が知れるって奴だけど。
     「ボクを信用している感じですか?」
    瞳の光が映す、サチコちゃんの内にある自信。
    戦っても負けない、生きて帰ってくるという確信。
     「信用できるかどうかも分からないから
      とりあえずぶつけてみるって感じかしら。
      少なくとも私は現状維持でも問題ないから。」
    そう。私は別に現状維持でもいい。
    そこに救いが無くても、構わない。
    ただ、私は涼君が救われて欲しいだけ。
    そして、それを私が出来るとは思えないだけ。
     「そういう事でしたら、今回は遠慮しておきます。」
    視線が外れる。日高舞の元へ帰る。
    今、サチコちゃんの瞳には何が映っているんだろうか。
     「あらそう?それじゃあ、いつかは相手してくれるのよね?
      この戦争の期間中に。」
    理不尽に思える言葉と、それについてくる圧。
    今更ビビる訳でも無いけど、鬱陶しいと感じながら、仕方ないとも思ってしまう。
    このレベルから脱却するのに、どれぐらい私は強くならないといけないのだろう。
    そして逆に、日高舞に圧をかけられるように
    単独でも勝てる様になる為には、どれ程の時間と、死線が必要なんだろう。
     「ボクの方でも分かりかねる感じですし
      この戦争が終わるまでに一度は必ずでは足りませんか?」
    舞さんの要求は、最初に無理難題をふっかけて、そこを話の基点にする事で
    相手の譲歩込みで自分に有利な所に着地させる様な交渉術にも思えたけど
    この人の場合、そういう何やかんやが無くとも無理矢理振り回してくるわよね。
    大体、こっちの都合とか納得とかに興味があるとも思えない。
    今だって、交渉してるのはフリだけで、あの人の中じゃ
    自分が決めたラインより引き下がる様な譲歩なんてあり得ないんだから。
     「ん~、まぁ、それでよしとしましょうか。
      ひとまず面白そうな事が起こることは確定したんだし。」
    ざっと敗者を撫でる日高舞の視線。
    買ったばかりの奴隷でも見る様な瞳。
    趣味が悪い。日高舞も、そう感じてしまった私も。
     「不満ですか?」
    サチコちゃんはちらりと横目をこちらに流してきて。
     「どうなんでしょうね。
      この場で戦闘が起きたのなら、私も割り込む気だったから
      そういう意味では残念かしら。」
    試す場を失ったのは、幸か不幸か。
     「あぁ、それならよかった。ボクの判断は間違ってなかった様です。」
    サチコちゃんの判断。この場では戦わないという選択。
     「そういう事なんでしょうね。」
    まぁ、そりゃそうよね。
     「えー、それならそうと先に言ってよ。」
    非難か子供のおねだりか、この無邪気さだと多分後者。
    いろいろと一児の母がやる事とは思えないけど、やっぱり後者で合ってると思う。
     「弱者をいたぶるチャンスを逃した感じです?」
    そういう事よね。
     「楽にいたぶれる程弱くないのによく言うわ~。」
    笑う瞳に混ざる、鋭く凍える氷の刃。
     「ボクとの共闘はどうなるか分かりませんが
      少なくとも次に会う時はもっと強くなってると思いますよ。」
    さらっと。その内容は私も全く聞いていなくて。
     「おっ?割とがっつり関与する気なの?」
     「強くなってもらわないとボクも困るので。
      もっとも、その前にやるべき事がありますが。」
    私に何を期待しているのか。少なくともあのバカとは違う視点で見てくれている様だけど
    それを喜ぶ程、私はサチコちゃんに期待していないし
    私自身に対しても、同じかそれ以上に期待していない。
     「中々大変そうだけど大丈夫?」
     「さぁ、自分とは違う他の存在を説得するという経験は少ないですし
      その少ない経験から考えても得意では無い様なので
      平たく言えば、前途多難という奴でしょうか。」
     「だってさ。」
     「らしいですね。」
     「うん、こりゃ前途多難だわ。」
    そう言って笑う日高舞。サチコちゃんもきっと似たようなもんだろう。
    …………
    ……こちら側。そちら側。
    強者側。弱者側。
    サチコちゃんの感性で、敵の側。サチコちゃんの感性で、味方の側。
    舞さんはどっちなんだろう?
    前に律子には「涼君の種が欲しいのか?」とか聞かれてたけど。
    ……あれからもう随分経つわね。
    あの時の涼君と、今私が知り得ている一番新しい、一番近い涼君。
    目指す場所がどこであれ、涼君は自分の意思で進んでる。
    そんな涼君を否定する事を、サチコちゃんは良しとしていて。
    舞さんは……。
    ……一番近いのは、四条貴音かしら。
    涼君が……堕ちていく様を見て楽しんで居る者。
    ……だとしたら日高舞はサチコちゃんにとって敵側。
    でも、戦いにはならなかった。殺す方向では動かなかった。
    戦う約束はしたわけだから、それが宣戦布告である可能性もあるけれども
    動きを変えてきたという事は間違いない。
    ……一体何が違うのか。
    ……舞さんが強いから?
    それとも私が居るから?
    それか……
    ……涼君にとって、舞さんもまた特別な存在か。
    …………
    ……
     「はいはい。適当な雑談は一旦切るわよ。」
    パンパンという手を叩く音と共に、伊織が会話の手綱を取る。
     「まだ話し足りないかも知れないけど、こっちは緊急だから続けるわね。
      ミチルがこっちに戻ってきてる。
      そういう事だから、アズ、頼むわよ。」
    あぁ、そういやそうだったわね。
    視線が下がる。
    チラリと見る整えられた紫陽花色の髪。
    ……これで終わって、これから始まるのね……。

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