第一次偶像戦争 【612】 [三浦梓]
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第一次偶像戦争 【612】 [三浦梓]

2020-04-02 22:44

     「伊織ちゃん、質問があるんだけどいいかな?」
    場の空気が解けて、一気に解散へと流れた直後
    皆が思い思いに動き始めようとする中
    俺は伊織ちゃんだけを釣り上げる様に声をかける。
    ふり返った伊織ちゃんは俺を見るとキッと強い視線を投げてきて。
     「何よ?言ってみなさい。」
    多少の不機嫌さは、まぁ、デフォ。
    ただ、この声の下にある苛立ちは八つ当たりっぽい感じだな。
     「ありがとう。聞きたいのはシュウコちゃんがどうなったか。」
      端的に言えば、シュウコちゃん生きてる?」
    大丈夫だとは思うけれど、一応の確認。
    仕留めてるなら先に伊織ちゃんのほうから言ってきそうだしね。
     「生きてるわよ。よく耐えたものね。」
     「そうか、よかったよかった。」
    て事は、一応合流ポイントの小屋に向かった方がいいか。
    あそこなら食料とかもあるし丁度いいな。
     「現状伝えたら、サッサと退場しといた方が楽だったとか言われそうね。」
    意地悪な返しがついた言葉と視線が、俺の反応をひっかけに来る。
     「あ~……
      ……確かに無い事は無いかな。」
    ただ、多分、今回は俺に非難が飛んでくるパターンだと思う。
    そして、挨拶代わりの非難からスムーズに金品の要求へと流れを持ってかれそう。
    そういう目敏さは、もはや本能レベルで持ってる。
    流石女の子って感じだわ。そこら辺ホント。
     「まぁ、せいぜい嫌味でも言われてきなさい。」
    俺の反応は悪かった筈なのに、伊織ちゃんは楽しそうで。
     「っと、そうだもう一つあった。
      こっちはお願いになるんだけど。」
     「日高舞とのなんやかんやなら約束は出来ないわよ。」
    さっきまでの笑みは消えて、伊織ちゃんは俺をじっと見つめてきて。
     「なんやかんややってもいいわよ。」
    向こうから跳んでくるヤジ。
     「舞さんは黙っててくれます?」
     「なんか言葉が怖い~。舞ちゃん泣いちゃう。」
    舞さんが一体どこへ向かおうとしているのかは放っておくとして
    「約束は出来ない」と来たか……。
    ……まぁ、先に色々と話し合って決めておくべきことがあるから、その後だな。
     「さっきお願いした俺が退場した後の事だけど
      あの約束は今も続いてると考えていいかな?」
     「アンタが退場した後でアンタん所のミチルを私の所で引き取るってアレ?」
     「そうそう、それ。」
     「えっ!?あたし伊織さんの所に行くんですか!?」
    隣からの声。今度はヤジとは違うもの。
     「ミッちゃんは特に伊織ちゃんの所が一番適性があると思うからね。
      勿論、ミッちゃん自身が行きたい所に行けばいいから
      伊織ちゃんには申し訳ないけど、この約束は
      あくまでさっきの戦闘時の色が強いかな。
      伊織ちゃんとは戦闘状態だったし
      そのままなし崩しで共倒れするよりかは
      そっちの方がいいと思って。」
     「なるほど!」
     「で、お願いはその約束の延長?」
     「それもあるけれど、ミッちゃんだけでなく
      シュウコちゃんも含めて欲しいかな。」
    頼んではみたものの、ミッちゃんと違ってシュウコは自分で勝手に選びそう。
    それでも選択肢が増えるんだから、悪くは無い筈。
     「……分かったわ。
      少なくとも話も聞かないで門前払いはしないでおいてあげる。」
     「ありがとう。それで十分。」
     「ありがとうございます!」
    ミッちゃんの元気な声が、焼け焦げた森に響く。
     「今から負けた時の事考えるなんて男らしくないわね~。」
     「心残りがあると集中できないタイプなんですよ。」
    俺の言葉に舞さんがニィと笑う。
     「それならよかったわ。
      それじゃ私は帰ろうかしら。
      皆またね、楽しみにしてるわ。」
    舞さんはそう言うと、今も火が燻る森が作り出す
    薄く煙が張った空を一気に突き抜け、綺麗な青空だけを残して消えてしまって。
     「嵐ね。」
     「天災のそれよ。」
    勝者側の二人の感想。
     「面倒な事になったの。」
    不貞腐れる美希ちゃんと、見守る眷属の面々。
    っと。
     「そうだ、ショウマ君奥に居るから助けに行ってあげて。
      俺じゃアレだから自然治癒に任せる形になっちゃってるんだよね。」
    俺の言葉にバッとアズキちゃんとカリンちゃんがふり返る。
     「どこですか!?」
     「あっちの方向の崖の上の木の根元。
      会話できるかは分からないけど、こちらから話しかけたら
      魔力を解放してくれるんじゃないかな?」
     「分かりました!」
    ビュウと森の中を二つの風が走る。
     「で、貴音はどうする気なの?」
    美希ちゃんの興味が移る。軽く瞑想でもしている様な貴音ちゃんに声がかかる。
     「はて……如何いたしましょうか。」
    ……誰も言わないか。
     「それじゃあ、一度俺の所に集まって今後の事でも考えようか。」
    スッっと貴音ちゃんの視線が上がってくる。
    そのまま何も言わず、真顔でジッと俺を見つめてきて。
    ……まさか、さっき貴音ちゃんの血を使った事でなんか言われたり?
    いや、そりゃそうだよな。幼児の自分を勝手に創り出された様なもんなんだし
    そりゃ気持ち悪いよな。
    唇。
    貴音ちゃんの唇が、口が動く。
    息。
    飲み込んで。
    覚悟を決めて。
     「集まる場所には、食べ物とお酒はありますでしょうか?」

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