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第一次偶像戦争 【636】 [ミク]
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第一次偶像戦争 【636】 [ミク]

2020-05-20 21:12

    青白く輝くゲートの向こうに見える暗い森と、ゲートの光に照らされて輝く草葉の緑。
    水の下にある様に映るそれを見た瞬間、懐かしさと、悲しさと、情けなさと
    どうしようもない怒りがミクの中で湧いて、ぐるぐると渦巻く。
    それに反応して、シロウ君に殴られた所から痛みがジンジンと広がっていった。
    今日一番痛かった一撃。
    この痛みはいつ無くなるんだろう。
    肉体だけを取り出せば、怪我はもう残っていない筈。
    それなのに、未だにぶりかえしてきたこの痛みは
    ミクの魂に刻みつけられた痛みなんだろうか。
     「ミクさん?」
    隣から声は、不思議に思う様な色をおびていた。
    そりゃ、開いてくれって言って開いたのに、立ち止まったまんまなんだもんね。
     「ん、何でもないにゃ。心配かけてごめんにゃ。」
    そう言って、隣のミヤコちゃんに笑って
    ミヤコちゃんの言葉が返ってくる前に、ミクはゲートに飛び込んで。
    【緑】
    肌で感じるマナ。慣れた匂い。空気。温度。
    痛みがまた強くなる。指先からゾワっと鳥肌が立って、背中に消える。
    あぁ、やっぱり……。
    ゲートからの気配。
    ミクは笑顔を作り、振り向く。
     「ミヤコちゃんありがとうにゃ。」
    ミヤコちゃんの後ろで開いていた楕円のゲートが消えた。
    辺りが暗くなる。星の光しかなくなる。
    それでもミヤコちゃんはよく見えて。
    ミヤコちゃんの向こうにあるフェンスも、その向こうの基地も、全部見えてしまって。
     「いえ、今日はお疲れさまでした。」
     「折角呼んでもらえたのに倒せなくてごめんね。」
    途中から勝敗はもうミヤコちゃん達にとってはどうでもよかったかもしれないけど。
     「こちらこそ、夜遅くに失礼しました。」
    夜。遅く。
    ……帰ったらいぬ美ちゃん達起きてるよね。
    そう考えて、また痛みが殴られた所から伝播していって。
    ……やっぱり負けたとか、シロウ君を止められなかったとか
    そういうトラウマで痛くなってるんじゃない。
    この森に入れば。深い深い森の奥にある、ミク達の家まで帰ってしまったら。
    ミクはミクのやらかした事を、ミクの口で、ミクの声で説明しないといけない。
    勝手に出て行った事も、負けた事も、シロウ君がもう帰ってこない事も
    全部、全部、ミクが、いぬ美ちゃんに話さないといけない。
    ……そして、これからどうするかも……。
    …………
     「次、またここに来る時は分かんないけど
      多分、そんなに時間は空かないと思うにゃ。
      ミヤコちゃんは明日とかでも大丈夫にゃ?」
    先にいぬ美ちゃんの許可を貰わないといけないのに。分かってるのに。
     「えぇ、問題ありません。
      この基地を使ってもいいのですが、ミクさんに不都合があるかもしれませんし
      こちらでいくつか戦場として利用できそうな場所を考えておきますね。」
     「ありがとうにゃ。本当に。」
    こんなミクの為に。
    星の光。
    暗い森。
    静かな夜。
    …………
     「……それじゃあ、また今度……。」
    また傷口が痛む。ぎゅっと閉じてない傷口に固いものが押しつけられる。
     「はい。お待ちしております。」
    ミヤコちゃんはそう言うと、まるで高級旅館のチェックアウトか
    高い買い物をした時の店員さんの様に、深々とミクに頭をさげて。
     「そんなお辞儀こっちが恥ずかしいにゃ。」
    本当に。本当に。
    恥ずかしさと惨めさが。
     「これは、失礼しました。」
    頭を上げたミヤコちゃんは、恥ずかしそうにそう言うと指先で頬を掻いた。
     「じゃあ、今度こそ、ばいばいにゃ。」
     「はい。」
    手を振り返してくれるミヤコちゃんに最後にもう一度笑顔を見せた後
    ミクはふり返り、暗い森の中へと入る。
    笑顔が消える。痛みがぶり返す。
    これからやらなければならない事。その整理を頭の中で始める。
    最初、森に伊織ちゃんの所の端末が降ってきて。
    シロウ君と一緒に出掛けて。
    シュウコちゃんと相対して。
    …………
    ……【色】的な相性は決して悪くは無かった。
    むしろ【白】使いでもあるミクは
    土地のマナをフル活用するシュウコちゃんの天敵にもなり得た筈。
    ……それなのに、負けたのは、ミクが自分の苦手な事を放っておいたから。
    あまり好きじゃないからといって、練習もしなかったし
    使ったら負けの様な気がして、シュウコちゃんとの戦いでも
    ハッタリですら使わなかった。
    ……そんな小細工をする必要なんてないって、思い込もうとしていた。
    ……じゃあ、使ったら勝てた?
    【Armageddon】を描いていれば、結果は変わっていた?
    …………
    ……今のミクの、描きなれてない感じをわざとと思うかどうか……。
    ……わざとだとすると近づかない?
    本当に描きなれてないとバレたのなら、耐える方を選ぶ?
    ……やっぱり分が悪いにゃ。
    近づいてくれる様に仕向ける事が出来ないのなら、何の意味もないにゃ。
    ただでさえ強い魔力を流し込まないといけないし
    その上描き慣れてないとなると、高速で移動しながら描くなんて無理だし。
    ……そこら辺の引き出しの無さはミクの弱点の一つ。
    小細工だと嫌って、切り捨てていたから、こうやって負けて帰ってる。
    考えれば考えるほど気が重くなり、陰鬱さは増していく。
    でも、痛みは無かった。やっぱり、痛みの原因はそこじゃなかった。
    そういう悔しさは、ここに帰ってくるまでに、涙と一緒に全部処理しちゃった?
    じゃあ、話してしまえば、この痛みは消える?
    ……だとしたら、ミクはどれだけ子供なんだろう。
    内容よりも、それを伝える事で自分を見る目が変わるという部分に恐怖するミクは
    シロウ君なんかよりもずっと、子供。
    ……そう、ずっと……ずっと、子供。

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