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第一次偶像戦争 【640】 [ミク]
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第一次偶像戦争 【640】 [ミク]

2020-05-28 22:44

    いつもなら絶対に浴びない熱いシャワーがミクの頭を叩く。
    髪を伝い、顔を横切り、毛先から、鼻から、唇から、ぼたぼたと熱い雫が落ちていく。
    どうして泣いてしまったんだろう。
    確かに怖かった、不安だった。
    いぬ美ちゃんを見て、いぬ美ちゃんの声を聞いて
    ミクがやってしまった事の大きさが、重さが、実体を持ってミクを押しつぶしてきて。
    でも、涙が落ちた時、どうして泣いたか分からなかった。
    痛みや苦しみと、涙が繋がっていなかった。
    ただ、蛇口の栓が開いたように、眼からこぼれた涙がミクの顔を濡らして落ちた。
    それが情けなくて。
    それが腹立たしくて。
    こうやってわざわざシャワーまで浴びて、泣いていた事を消そうとしている自分が醜くて。
    ミクも辛い、もう既に罰は受けてると、アピールしている様な自分が浅ましくて。
    今、泣くのは分かる。自分の不甲斐なさ、どうしようもなさがミクの心を押し潰してる。
    でも、シャワーからの熱い雫は落ちていくけれども
    今のミクの目から、涙が出てくるような事は無かった。
    ……それは、涙を見せる誰かがいないから?
    ぐッと手に力が込められる。ぎゅうぎゅうに握りつぶした拳を
    シャワーをかけている壁に打ち付けたくなる。
    違う。だからそうじゃない。
    物に当たっちゃいけない。せめてミク自身に……
    ……それもダメ。自分を傷つけるのなら、先にいぬ美ちゃん達と別れてから……
    …………
    ……ミクは罰して欲しいのかな……?
    ……でも、誰かからそれを咎められる事に怯えてる様にも思える。
    自分で処理するから、お願いだから何があったかは聞かないで、ミクを見捨てないで……
    ……違うにゃ。そんな切実なものじゃない。
    ミクが恐れてるのはきっと、見下せなくなるから。
    上か下かの順位が変わるから。見下される事に耐えられないから。
    頑張ってるミクは評価されるべき。
    頑張っていない子を非難できる立場にあるべき。
    見下して、馬鹿にして、許されるべき。
    そういった者を踏みつけて、ミクは勝ち残っていくべき。ミクは勝者であるべき。
    ……で、結果は?
    …………
    ……
    ……色々考えるのはもう止めよう。
    飲み込めてる事とそうでない事はまだあるみたいだけど
    とにかく、いぬ美ちゃんには話さないといけないし
    いぬ美ちゃんに話す事で、またミクの中で処理しないといけない部分は変わるんだから
    今ここで全部片付けても仕方ない。
    幸い今は感情も涙も落ち着いてるから、顔も髪も、体も洗ってリセットしよう。
    いつもと同じ行動をして、体も心も騙そう。
    いつもと同じなら、もうお湯の温度から違うんだけど。
    …………
    ……それでもカランに手は伸びず、シャワーは熱いまま
    ミクは自分のシャンプーのボトルに手を伸ばす。
    隣。
    いぬ美ちゃんのシャンプー。
    シロウ君も使うから、ミクやシズクちゃんのよりも大きなボトル。
    ……欠けたり、減ったり
    今まで暮らしてきた中で生まれたバランスは、これからどうなるんだろう。
    ……変えたくないのなら、こっちから戦争に参加なんかしちゃダメだよね。
    ……もう既に戦争は始まっているからとか
    このまま隠れ続けても安全とはいえないとか、倒しきれば問題無いとか……
    根拠というよりは言い訳なんだろうけど、ちゃんと考えた上で動いてた。
    ……けれども、本当は分かっていなかった。
    想像も、思考も、全てが甘すぎた。
    そしてこれから先も、この場所を危険に晒す様な事をミクは選ぼうとしていて……。
    …………
    ……ミクも出て行けば、ここは安全?
    いや、ミクがいぬ美ちゃんについてる事は皆も知ってる。
    だからミクが何かをやらかしたのなら、いぬ美ちゃんにヘイトが行くのは自然な流れ。
    ……あんだけボロ負けしたミクに、やらかせるだけの力がある?
    迷惑とか、嫌がらせとかなら?
    ……シロウ君はそこまで覚悟して出て行ったのかな?
    ……ミクも、これから外で戦うのならちゃんと責任を……
    …………
    ……責任をどうやって取るの?
    今日負けてきたミクに、責任を負う資格がそもそもあるの?
    …………
    ……いぬ美ちゃんと話して、いぬ美ちゃんに許可を貰って……
    …………
    ……負けてきて、更にミクの我が儘に付き合わされて……
    ……ごめんね、いぬ美ちゃん……
    止めたり、諦めたりする選択肢は無い。
    ここで諦めると、ミクがミクで無くなってしまう。
    だから、別れる事も覚悟しておかないといけない。
    何の恩返しも出来ず、足を引っ張ってしまってごめんなさい。
    今まで楽しかったです。ありがとうございました。
    それをちゃんと伝えて、出て行かないといけない。
    胸が痛む。目にシャワーよりも熱い熱が入り、涙が出てくる。
    今度は理解出来る涙。ちゃんとミクと繋がっている涙。
    だから、泣くなバカ。
    もう、本当に……。
    シャワーに向けて顔を上げる。
    熱くて痛いお湯が、顔に叩きつけられる。
    暫く我慢した後、シャワーから顔を外してブルブルと頭を振って。
    目。涙。
    もう出てない事を確認したミクは、自分のシャンプーを手に取って、両手で泡立て始めた。


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