第一次偶像戦争 【658】 [冬月律]
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第一次偶像戦争 【658】 [冬月律]

2020-07-04 22:22

    強い魔力と、猛烈な風。
    それから一夜あけて、昨日と同じ場所で綺麗に晴れているのに、気圧は下がったまま。
    まぁ、そういう事なんだろう。そういう事だったんだろう。
     「……嫌な風は止んだのに、嫌な空気はそのままですね……。」
    真っ白いビーチに立つフウカちゃんは、遥か彼方の水平線を眺めながらそう呟く。
     「この空気が最後まで続かないことを祈りたいけど
      ちょっと厳しそうだね。」
    動いた。舞さんが。
    襲われたか襲ったか、どっちかは分からないけど
    残りの日数を考えると、これからの舞さんは襲う側だろう。
     「……戦う……んですよね……。」
    どんなにスッキリと空が晴れようと、海が輝こうと
    心の曇りまでは、なかなか照らせない時はある。
     「逃げられるものなら逃げたいかな。
      まぁ、参加した以上、そこは仕方がないね。」
     「……そうですよね……。」
    意地悪な言葉になってしまったかな?けれども、事実だから仕方がない所はある。
    この戦争への参加を拒否する事は出来たし、実際来ない事を選んだ子も居る。
    しかし、自ら望んで参加して、今ここに立ってしまっているのなら
    戦わないという選択肢を取るのは、一種の造反……
    ……いや、そこまではいかないか。ただ、不義理や不誠実と取られかねないし
    今後の付き合いに、少し影を落としてしまうかもしれない。
    ……まぁ、こんだけ他人を振り回し、不信だの、不愉快だのを振りまこうとも
    何やかんやで人はついてきてくれる舞さんが居る訳だから
    あまりセンシティブに考えるのもアレか。
    舞さんのそれは天性のものがあろうが
    フウカちゃんだって、そういったものを持っている可能性は十分にあるだろう。
    個人的にはフウカちゃんに、舞さんの様な
    傍若無人を地で行く様な存在にはなって欲しくないが
    傍若無人なフウカちゃんというのも、一度見てみたいという気持ちもある。
     「……私、そんなに不安な顔をしてますか……?」
    こちらの視線に気が付いたフウカちゃんはそう言って。
    そしてその言葉が、より不安の色を強めた様で
    フウカちゃんの表情は完全に曇ってしまう。
     「おっと、ごめん。そういう感じで見てた訳じゃないんだ。
      完全にこっちの話で見てたから、不快だったのなら謝るよ。」
    想像したら割と面白かったけれども、冷静に考えたら結構ヤバい。
    外からは想像と妄想の違いなんて分からないし
    どっちにしろ、いい気分な訳は無いから、悟られない様な努力はすべきだった。
    慣れって怖いな。いつもの彩音ちゃんとのノリは
    彩音ちゃんとの関係性があってこそという点を完全に失念していた。
     「……いえ、私の方こそ……過敏になってるみたいで……ごめんなさい……。」
    心にかかる厚い雲。雨は降らないとは思うが
    だからこそ雲は、ずっと残りそうで。
     「今はそういうタイミングだから仕方が無いよ。
      ただ今回は、消えるか残るかの戦いではないし
      発表会とか大会とか、そっち寄りにイメージすると
      緊張も少しはいい方向に変わるかもしれないね。」
    我ながら当たり障りの無い所に着地させたと思う。
     「……努力してみます。」
    まぁ、そうなるよね。
     「少なくともフウカちゃんは、ちゃんとやることはやった訳だから
      終わりに悩むよりも、もう残りの休みは少ないかもしれないから
      今のうちにやりたい事をやっておこうぐらいの気構えでいいと思うよ。
      何も思いつかない、手につかないのなら
      こういった状況での自身のコントロールを課題にすれば
      心配し続けるだけよりも確実に、前に進めるんじゃないかな。」
    確実に前よりも強くなってる。後はそれを発揮できるかどうかだけ。
     「……ご心配をかけてしまい、すみません……。」
     「大丈夫。語弊があるかもしれないけど、正直そこまで心配はしてないから。
      フウカちゃんは本番に強いタイプだし
      始まってしまえば、あとはどうとでもなるよ。」
    どうとでもなる事は、どうとでもなる。どうにもならん事は、どうにもならん。
    大事なのは、どうとでもなる部分で取りこぼさない事。
     「……その言葉、信じてみます。」
     「うん、信じちゃって大丈夫。
      まぁ、頑張ってもダメだった時は、お酒でも入れながら反省しよう。」
     「……反省するのにお酒いれるんです?」
     「そっちの方が楽しくない?」
    フウカちゃんはプッと噴き出した様に笑って。
    そうそう、それぐらい軽く考えても大丈夫。
    問題は偉そうに講釈垂れてる俺の方。
    舞さんの相手をどうするか、そもそも出来るのか
    想定はしているけれども、その通りに行く筈は無い。
    さて、どーなるかね。本当に。
    改めて、舞さんと戦う場面を想像していると
    海の向こうにクーラーボックスを引っかけたナナミちゃんが見えた。

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