第一次偶像戦争 【664】 [冬月律]
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第一次偶像戦争 【664】 [冬月律]

2020-07-16 22:00

    魔力が広がっただけなのに、はじき出されそうな圧を感じる。
    ほんの軽く開放したという感じでこれ。
    ……やっぱヤバいな。
    こうやって舞さんの魔力を直接肌で感じるのは初めて。
    そしてそんな今の俺の中にあるのは、むちゃくちゃ逃げたいという思いと
    逃げた方がいいという思考が大半。
    本能に近い部分も、今の所まだ冷静に判断しているであろう理性の方でも
    同じ判断を下しているという事は、それが一番確度が高い生き延びる方法なんだろう。
    逃げる……
    ……まぁ、欲張らなければ十分いけるな。
    欲張ったとしても、同時に彩音ちゃんを逃がすぐらいは出来ると思う。
    そこから更に眷属の子達も含め、全員無事で……となると、ちょっと厳しい。
    舞さんから逃げるにはやっぱり速度と
    極大範囲系スペルのダメージを受けても一発じゃ致命傷にはならない潜在的な魔力量
    あと、俺がどこまでサポート出来るか分からないし
    強度の高い感知妨害を素早く自分で描ける事も……。
    ……やる気が無い事を、今ここで考えても仕方が無いな。
    ただ、いつかそういう判断をする時が来るかもしれないから
    これから起こるであろう戦いが終わった後、ゆっくりと考えよう。
    肌で、魂で直接感じた日高舞を相手に、どうすれば逃げられるのか
    どうやれば逃がす事が出来るのか、ちゃんとした答えを出そう。
    ……終わっても暇する事は無さそうかな。
     「そういや二人は自分の能力の名前云々って聞いてる?」
    巨大な魔力の中心から聞こえる声。
    心の内の臨戦態勢が少し崩れていたのか
    巨大な魔力に晒されているのに、自分の魔力を展開していないせいか
    下から見上げていた像が急に話しかけてきた様な、驚きと恐怖が一瞬吹き上がる。
     「聞いてマスよ。」
    彩音ちゃんの声はいつもと同じ、驚いてそこから取り繕った様なノイズは無い。
    もう目の前の敵を倒す事に集中してるって事かな。
    俺もしっかりしないと。
     「お~、それじゃ教えて。
      ていうか、今の所、教えてくれた子誰も居ないのよね。」
    舞さんの顔に見える不満の色。
     「だってハズいジャないですか。
      名づけるとか今更ですし、自分で自分の能力にとか、センス出ますシ……。」
     「だから面白いんじゃない。」
    ニヤニヤ笑いながらそう言った舞さんも、自分の能力の名前を口にはしていない。
    自分で付けた名に自信があるのなら、先に言ってこっちが断りにくい状況にも出来るのに。
    ……そんな大層なものでもないか。今は待ちのタイミングだから暇潰し程度だろう。
    なら……。
     「こういうのって後に残った方が恥ずかしいですよね。」
     「一般的にはそうみたいね。」
    日高舞は別ですか。
    これは、何が何でも先に言わせるつもりだな。
     「そんなに言わせたいです?」
    白けさせる方向はどうだろう?
    空気悪くなるけど、舞さんの思惑通りになるよりかはマシだと思う。少なくとも俺は。
     「言わせたいわね。
      逆に聞くけど、そんなに言うのが嫌なの?
      小っ恥ずかしい名前でもつけた?
      なら私が名前考えてあげようか?」
    そう来るか。
    纏うスタァのオーラが、急に面倒くさい親戚の様な色を持ち始める。
    本当に的確に嫌な所突いてくるな。この人。
     「律クン、もう諦めまショウ。
      多分、アタシ達の正解は、とっとと降参して名前言っちゃう事だったンですよ。」
    彩音ちゃんはそう言うと大きなため息をついて。
     「半分はそれで合ってるわね。
      私としては恥ずかしさとか、投げやりとか
      そういう感情を引き出せるかどうかだったから
      自信無く能力の名前を言ってくるなら、そこを突いて
      さっさと名前を言われて満足出来なかった部分を補完する方向に動いたわね。」
    ……てことは。
     「今から名前を言っても、まだ終わらないんですね。」
     「まね~。元ネタとかあるなら聞いてもいいでしょ?
      自分の口で説明してくれるわよね?」
    自分の口で。
    別に変な名前をつけている訳じゃなし、堂々と言えばいいんだろうが
    なんというか、ボケの説明を求めてきてる様な感じになりそうで
    そうなると、説明する側は、もはや血みどろで。
    ……いや、ボケの説明とは違うか。
    あれはお前ら笑かしたろみたいな意図があっての恥ずかしさだから
    そういうのが無いのなら、血みどろになる様な事は無いだろう。
    センスを嘲笑される可能性は十分にあるが。
     「そこまで凝った名前じゃないですよ。」
     「アタシも同ジです。」
     「前振りはいいから、はよ言え。」
    笑顔。有無を言わさぬ、残酷な。
     「……僕のは《Caster's High》です。」
    ……うわぁ……。
     「アタシのは《Wake Me Up》ですネ。」
    ……何というか、痛みと苦しみを伴う赤色の雲が、自分の内に広がっていく感覚がする。
    ステージに立つ存在なんだから、他人に評価される恐怖は日常茶飯事だけど
    ほぼ他人の目に触れず、自分だけが納得しているモノを
    他者に評価されるというのは、本当に久しぶりだった。
     「へー。」
    へー。
    ここで放置か。そうかよ。
     「舞サンの能力の名前は何なンです?」
    声はそうではないものの、彩音ちゃんの表情が若干引きつってるように見えた。
     「私のは
      ……っと残念。」
     「舞様!」
    遠くから声。確かに聞こえた声。
    なんてタイミングの良い。
    なんてタイミングの悪い。
    これがスタァか。
    これが日高舞か。
    これが俺達が今から戦う理不尽か。

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