第一次偶像戦争 【712】 [秋月律子]
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第一次偶像戦争 【712】 [秋月律子]

2020-10-22 22:55

     「そう……美希も、もう落ちたんですね。」
    最後の最後まで生き残ると思っていたのに
    こんなタイミングで落ちたという事は、不測の事態が発生した様ね。
    初日に邪魔をされた身からすれば、ここで不確定要素が排除された事は
    喜ばしいのかもしれないけれども、もう今は戦争終盤で
    舞さんが終わらせようと動いているタイミングだから
    美希の存在がマイナスに働いたかどうかは、正直分からない。
    ……まぁ、今の私のなら、消えてくれた方が安心か。
    美希のおかげで助かった、勝てたとしても、多分、苛立ちの方が大きいでしょうし。
    ……それにしても、美希がねぇ……。
    前に舞さんがあからさまに挑発してきた時、私は迷わず美希に名を出した。
    それなのに、こんなに早く落ちるとか……。
    ……あの時は、アイドルとしての実力や才能云々という内容の話。
    だから、この戦争……
    プレインズウォーカーとしての強さは、関係無いといえばそうだけど
    そちらの面でも、美希は私よりもセンスがあって
    舞さんにも負けてないと思っていたのに、現実はこんなもの。
    ……才能……努力……
    頭の中で描かれる美希の姿。美希の強さ。
    やっぱりプレインズウォーカーとしての才能も、私より美希の方が上に思える。
    私に美希の様な戦い方は難しい。でも、美希が私の様な戦い方をする事は可能。
    それだけで十分、美希の強さの証明になる。戦いに幅があるのは、そのまま強さに繋がる。
    …………
    ……それでも舞さんに負けて。
    ……負けて……
    …………
    ……今はまだ届かなかったという事。
    でもそれは、美希に時間が……
    ……いえ、時間が足りなかったのも含め、美希の性格の問題ね。
    あとは……巡り合わせかしら。
    貴音とアズ君も同時に相手をして、全員が落とされたと聞くし
    聞いた全てが事実であるならば、日高舞がそれ程までに化物で
    参加したメンバーは、相当に運が悪かったという事。
    美希は特に普段からムラっけがあるから、好まない状況で本気を出させるには
    メンタル面での他者のサポートは必須。
    逆に舞さんはそこら辺本当に強い。楽しい事を自分で探して実行する行動力と
    目的と手段が入れ替わっても、それがどうしたと開き直れる、ふてぶてしさがある。
    美希は自発的な欲求が、睡眠に寄りすぎてるのよね。
    直感的に物事を処理出来るし、効率化も本能的に出来てしまうから
    凄く時間単位の効率と燃費がいいけれど、自ら動こうとする意志が希薄すぎる。
    狂った毎日を送る事に快楽を見いだせる舞さんと、どうしてもそこで差がついてしまう。
    ……そう、だから負けた。負けてしまった。
    これがキッカケで少しは変わってくれるといいけれど。
    …………
    ……ある程度整理が出来て、納得もしていると思うのに、妙に私の心が重いのは
    美希が日高舞の対抗馬になると思っていたのに
    そうならなかった現実の非情さのせいかしら。
    今、私の心にあるものは悲しみでは無い様に思うから
    居なくなったこと自体への反応という訳では無さそう。
    この一戦だけで、舞さんと美希の優劣みたいなのがつくとは思えないけど
    やっぱり、こんなに早く落ちるなんてね……。
    結局、この戦争中、話も出来ずか……。
     「……私達の所に来たのは、身を寄せる場所の確保のためですか?」
    思考を切り、ソファに座る二人に向けて飛ばす視線。
    私の視線に反応して、リナちゃんが少し背筋を伸ばしたのが見ていて面白かった。
     「出来るならば、そうして貰えると助かる。」
    うん、やっぱりいつもの口調のミチオさんの方がやりやすいわ。
    私も気を遣う必要が無いし、話も早い。
     「……貴重な情報を齎してくださったのに申し訳ないのですが、私の所は無理です。
      あくまで私の所では無理という話なので
      冬馬がいいというならば、私は強く反対派出来ません。
      しかし正直な所、今、他の誰かを抱えるのは個人的には避けたいです。
      お二人にしても、終わるまで軟禁状態では、大した意味もないでしょうし。」
    隣に座る冬馬への牽制。大丈夫だとは思うけれども、冬馬は押しに弱い所がある。
     「律子さんが避けたいというのなら、俺の所も無理だ。
      ただ、戦闘後だし、疲れている様なら今日は休んでいっても。」
    ちらりと冬馬はこちらを向いてきて。
     「そうね。今日は休んでいって貰っても大丈夫です。」
    優しいわね。
     「配慮して下さり感謝する。移籍の件も了解した。
      ただ、ひとつ質問があるのだろうが、構わないだろうか?」
    まっすぐに私を見たままミチオさんはそう言った。
     「どうぞ。」
     「舞さんに勝つつもりなのか、それとも違うのか聞いておきたい。」
    僅かに部屋の緊張が上がる。
     「勝つ気ですよ。」
    一言だけ。
     「……分かった。
      ……今日の滞在は大丈夫との事だが、我々はこれで失礼しておこう。」
    ミチオさんはそう言ってソファから立ち上がった。
     「すみません。」
     「そちらが謝る事はなにも無い。
      突然来た我々を迎えてくれただけでも、十分にありがたい事だ。」
    言葉のあと、しっかりとしたお辞儀が二つついてくる。
    それに釣られて、私と冬馬も頭を下げて。
    上がってくる顔は、いつもと同じミチオさんとリナちゃん。
    情報持ってきたのに拒絶された事で、怒りや失望があるかと思ったけど
    そうではない様で、少し安心する。
    ……これからどんどん、こんな難民じみた訪れが起きるのかしら。
    ……勝たなきゃいけないわね。日高舞に。

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