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第一次偶像戦争 【776】 [フウカ]
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第一次偶像戦争 【776】 [フウカ]

2021-03-01 22:11

    もし次があればと思っていた。決めていた。覚悟していた。
    でも、それが現実になると、上っ面の覚悟で決めた心なんて
    砂で作った城の様に、サラサラと崩れていって。
    目の前に広がる光景。
    強い日差し。海の匂いに混ざる、慣れない木の匂い。
    真っ白い浜に打ち棄てられた瓦礫。砂浜に突き刺さってるものもある。
    ……あれは一番大きなコテージの柱だったもの……。
    今はもう、折れて尖った断面と、海水と砂で薄く汚れた肌だけ。
    心が重くて、苦しい。
    やっぱり守るべきだった。
    ここで誰も居なくなった家を守り続けても何にもならないと思ったから
    次に海に何が起こっても、何もしないと決めた。
    決めた。
    結果がこれ。
    全部壊れた。
    過去に触れる事も出来なくなり、思い出の終わりに最悪の絵が追加された。
    これが終わり。
    私達の、私の、思い出の終わり。
    目の奥の痛み。それが熱と一緒に溢れて、世界を歪めて外へと落ちてくる。
    お腹の奥が動く。ねじくれた腸が胃や他の内臓にも
    同じようにぐるぐると捩れる事を要求してきたように、内臓が動く。
    喉の奥から熱せられた空気が逆流してくる。
    吐きそう。
    何か食べていたら、絶対に吐いてた。
    食欲なんて無くなってて助かった。
    けれども、私は口を抑えて、そのまま下を向いて。
    頬を伝っていた涙が、下に落ちていく。
    私の足元、半径一メートルに限って言えば、まだ残っている綺麗な真っ白い砂浜に
    私の涙がぼたぼたと落ちていく。
    あぁ、これでこの砂浜にも新しい絵が加わってしまった。
    情けなく泣く私が、綺麗な思い出に混ざりこんでしまった。
    ここに居てはいけない。
    これ以上見てはいけない。汚してはいけない。
    でも、どこへ?
    私は、どこへ行きたい?
    どこへも行きたくなかったから、残ったんじゃないの?
    でももうここは、そう、ここも。
    律さんの所も。
    ここではないどこか。
    私は、どこなら許される?
    どこなら、私は私を許せる?
    私が戦わなかったから、律さんとナナミさんは……
    私が動かなかったから、私はこうやって独りで……
    ……変えたい?
    変えないといけない?
    戦う様に?
    戦える様に?
    それが嫌で、律さんについてきたのに?
    戦う事を分かっていて、この星に、この戦争に参加したのに?
    …………
    ……殺しはしない戦いだから、出来るかもしれないと思った。
    私も前に立って、敵対する者を直接……
    ……直接、この手で……
    …………
    ……私だけが後ろにいて、直接戦わないのは、やっぱり不公平だと思った。
    ヒーラーという職業の意味も、重要さも分かってるし、嫌いでもない。
    でも、やっぱり恐怖が分かる。戦場に居れば、絶望が伝播してくる。
    前は、海に落ちた者、海の中に居る者しか分からなかった。
    それが今は、海がなくとも分かってしまう。伝わってしまう。
    味方だけなら、何とかしようと頑張れる。
    でも、相手もなら。
    恐怖に、絶望に、怒りに、嫌悪に。
    それが私に、それが皆に向けられて。
    そして、実際に傷ついて、傷つけて。
    皆が傷ついた時、もし、私が戦えたのなら、前に出る事が出来たのならと考えて。
    それが出来たのなら……。
    未だに涙で砂浜を汚す私の手に、魔力が集う。
    ……私に意志さえあれば、勇気さえあれば、傷つかなかったかもしれない。
    ……でもそうすると、私が誰かを傷つけてしまうのは間違いない。
    明確な感情が、私を否定する意志が、必ず私に向けられる。
    知っている人たちから、向けられる敵意、殺意。
    身内だからこその怖さ。
    殺しはしないからこそ、残ってしまう恐ろしさ。
    本当じゃないから。試合みたいなものだから。
    それで皆、割り切れるの?
    それで私は、禍根を残さずに居られるの?
    傷つくことは、傷つける事は、恐ろしくないの?
    何度考えても、答えは出なかった問い。今考えても、やっぱり答えは出ない。
    じゃあ、失う事は平気なの?
    私が動きさえすれば、絶対に解決できるなんて保証は無い。
    誰であろうと勝てる強さを、私は持っていない。
    だから、皆失わない様に努力してる。強くなろうとしてる。
    大切なものを守るために、我慢して、それ以外を切り捨てて……。
    ……嫌われても、居場所を失っても……。
    ……私の一番大事なもの……
    ……私の居場所。私の繋がり……
    …………
    ……やっぱり答えなんて出せそうにない。
    …………
    視界の滲みが少し弱くなる。
    踏みしめていた砂の感触が離れる。
    砂浜に残る私の足跡。消していきたいけれども、それ以上に
    もうこれ以上、何かをする気にはなれなかった。
    浮かぶ体と、離れていく砂浜。
    私は残骸が視界に入る前に目を閉じて、空を見上げて。
    太陽の光。痛みを感じる眩しさ。
    ……行こう。
    私は真っ直ぐに空を昇る。
    慰めてくれる人もいるだろうし、一緒に悩んでくれそうな人も知ってる。
    でも、答えを出すには。
    答えを知ってそうなのは。
    雲を超え、更に加速する体。
    まだ視界には空の青。
    星の海まで、あとどれぐらいだろう。

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