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第一次偶像戦争 【778】 [フウカ]
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第一次偶像戦争 【778】 [フウカ]

2021-03-04 22:22

    気付かれてる。見られてる。それは当たり前。
    ……だから最初の声もこんなに小さかった?
    気付いて貰えると、今の私を分かって貰えると、察してくれると
    そう思ったから、そう考えたから
    誰かに聞かせるような、伝えるような、そんな大きさではない声で挨拶をした?
    黒く汚れた自己嫌悪が、渦を巻きながら私の中へ落ちていく。
    そしてその感情が、背後からの声と魔力に、これ以上無いぐらい驚いた上に
    そこから更に、慌てふためきそうだった私を押さえつけていた。
     「驚かせてごめんごめん。
      まぁ、敵地に来るって事はこういう事よ。
      で、何か用があって来たんでしょ?」
    敵地。
    そう、ここは敵地で、相手は私が独りになる原因を作った人で。
    その人に、私は自分の方から会いに来た。
    答えを知りに、私は来た。
     「……はい。」
    声。しっかり出る。返事も出来てる。
    ここにきてやっと、私の中にあった緊張と勇気が意識と繋がった気がする。
    ここは恐ろしい場所。勇気が必要な所。
    声が小さかったのは、察して欲しかっただけじゃないよね。
    ほんの少しの言い訳。でも、気持ちは確かに、楽になって。
    体を動かす。体。動く。
    くるりと振り向いて。視覚がとらえる。
    あぁ、やっぱり。目の前に居るのは、日高舞そのもので。
    日高舞本人で。
     「と、突然すみません……。」
    発した声の一音一音が、自分の中の緊張の上限を突き上げ
    もう喉の奥、指で触れそうな位置まで勝手に上がってきてる。
    自分の声でもこれ。じゃあ、他人の、敵地の、舞さんの声なら。
     「連絡手段も中々無いしね。
      そこは気にしてないわ。」
    そこは。
    じゃあ、そこ以外は。
    突然押しかけてくるのは平気。じゃあ、私が会いに来るのは?
    いや、敵だから、嫌われるのは当たり前だから。
    …………
     「ええっと……ま、舞さんにお聞きしたいことがあって来たんですが
      こ、ここで聞いても構いませんか?」
    聞きたいこと。
    言える?
    頭働いてる?
     「いいけど、長くなりそう?」
    長く?
     「長く……なるんでしょうか?
      わ、私が聞きたいことは、た、多分ひろこ……一言で……終わります。」
    一言。
    一言?
     「分かった。
      私の返答が長くなりそうなら、中でって感じだけど、そっちは大丈夫?」
     「あっ……はい。
      わ、私は大丈夫です。」
    中。城の中だよね。それ以外無いし。
     「それじゃ、どうぞ。」
    どうぞ。
    一言で。
    どうぞ。
    …………
     「……舞さんは怖くないんですか?」
    一言。
    一言で表すのなら、これ。というか、これ以外浮かばなかった。
     「怖く?」
    目の前に居る舞さんは、私の問いにキョトンとしたような表情でそう返してきて。
     「あっ、すみません……。具体的には、戦う事とか、失う事とか……。」
    伏せようとした瞳が止まる。
    舞さんのニィとした笑みが、私の落ちようとしていた視線を掴む。
     「中々面白い質問ね。」
     「……すみません。突然来て、そんな事聞くとか
      頭おかしいですよね。」
     「全然。あっ、でも、その質問は純粋に受け止めていいのよね?
      お前頭イカれてんじゃねーのっていうのの遠回しな嫌味って線は無し?
      それともアリ?全部じゃなくて、半分ぐらいはそれ?」
     「えっ?
      あっ、そんな意味は無いです!本当です!」
    私の反応が面白かったのか、舞さんは声を出して笑って。
    ……あれ?舞さん酔ってる?少しアルコールの、多分ジンの匂いがする。
    でも、舞さんの所にお酒は……。
     「ウソウソ。冗談よ。ごめんなさい。フウカちゃんはそういう子じゃないわよね。」
    そういう子。
    舞さんにとって、私はどういう子なんだろう?
    わざわざ訪ねてきて、こんな質問をする子は、舞さんにとって意外だったんだろうか?
     「……丁度いいわ。
      中でその問いの答えを言いたいんだけど、シューコちゃんも一緒で平気?
      フウカちゃんと同じように今日来て、今一緒にお酒飲んでんのよ。」
    えっ?
     「シュ、シューコさんは、あのシュウコさん……ですよね。」
     「そそ、アズ君の所の。多分だけど、私の所の所属になるわ。」
     「えっ?……でも、アズ君さんは、舞さんが……。」
    聞いた話だけれども。
     「そうよ。だから、昨日の戦いだと絵理ちゃんの所に居たのよね。シューコちゃん。」
    …………
    ……倒した相手。そこへ……
    ……軽い事。そんな事……この戦争……
    ……私だって、仇と言える相手が前に居るのに、平気で……
    ……緊張に誤魔化されるだけ?憎しみがある?殺せるのなら、殺したいと……
     「シューコちゃんが苦手だったり
      質問のやり取りを他に聞かれたくないなら、別の部屋用意するけど。
      そうね、ここでのやり取りでもいいわね。フウカちゃんが望むなら。」
    ……
     「だっ、大丈夫です。
      シュウコさんと一緒でも。」
    大丈夫?本当に?お願いされたからって流されてない?
     「分かった。それじゃ、案内するわ。」
    舞さんが私の横を抜ける。
    視界から舞さんが消える。途端、押さえが外れた様に、後悔が溢れてきた。
    私は何を言ったんだろう?
    私は何を言われるんだろう?
    私は何を期待しているんだろう?
    何も分からない私の後ろで音が鳴る。ギィと重く軋む音が、森に、空に消えていく。
     「今ならまだ帰れるわよ。」
    ズッと、重く厚い刃が、背中から刺さる。
    痛い。苦しい。
    あぁ、でもそうだ。そうだった。
     「……帰る場所はもうありませんから。」
    私に帰る場所なんてもう無かった。
    無くなってしまったんだ。

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