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第一次偶像戦争 【826】 [水瀬伊織]
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第一次偶像戦争 【826】 [水瀬伊織]

2021-06-10 22:00

    人工皮膚を通して感じるお湯の温度、感触。
    デジタルデータとアナログな感覚の共存にも、もう慣れたわね。
    この戦争が始まってからは、ほぼほぼマシナリーの体だし
    元の世界に戻った時の違和感の方が大きそうだわ。
    基本、プレインズウォーカー相手の戦闘か
    色んな情報の処理の時以外は、別の次元での冒険だろうと生身だったから
    ここまで長時間、マシナリーの体で居続けたのは初めてなのよね。
    生活と呼べるものを、この体で行ったのも。
    ……ごっこ遊びの延長かもしれないけれども、それは私以外もそう。
    汚れたのなら、創り直せばいい。食事だって必須じゃない。
    それでもやるのは、まだ心の安寧があの世界にあるって事よね。
    ……こんな女でも。
     「何やかんや、結構会ってるわね。」
    隣からじっと見る私に、日高舞は不敵な視線を絡ませながら言葉を吐いて。
     「そうですね。お久しぶりとも言いがたい、微妙な期間会ってないだけですね。」
    私のこの明らかにトゲがある言葉に、日高舞は満足そうに笑う。
    胸の奥にあるパワーストーンが疼く。私の不快感に同調する。
    これが強者?これがスタァ?ホント気に入らないわ。
    誰だろうが、私を嘲笑せない。誰だろうが、私を見下させない。
    そんな事をしてくる奴は、誰だろうが、殺す。
    その為に力をつけた。誰にだろうと負けない様に、強くなった。
    強く……
    …………
    目の前に居る女を改めて見る。改めて計る。その強さを。彼我の差を。
    ……やはり、まだ足りない。
    まだ、私の刃は、私の弾は、この女に届かない。
    会う度にそう思う。縮まらない、縮まっていない力の差を感じる。
    それが情けなくて、どうしようもなく悔しくて。
    ……今のアンタは違うの?麗華。
    そして律子、アンタは今も、私と同じ感情を日高舞に持ってるの?
    ……それとも、アンタはもう追いついたの?
    ……だとしたら、未だに力の差を感じる私は……
    ……この戦争を経ても、大して変わっていない私は、正しい選択をしたと言えるの?
    アンタや麗華みたいにみたいに狂ってしまわないと……
    ……いや、やっぱり納得できない。認められない。
    というか、なに気弱になってるのよ。
    今の私が、日高舞と戦って勝つ事が難しいのは確か。
    でも、それはあくまでまっさらの状態からの一対一での戦闘の場合。
    私には今まで準備してきた兵器がある。
    日高舞には得られない情報だって、私なら観測し、即座に処理をして
    目の前で行われる戦闘に利用が出来る。
    強さというのは、単純な力比べだけじゃない。私はそれを理解してる筈。
    だから、個の強さと勝負の勝ち負けは別。
    ……別……だけれども……。
     「伊織ちゃんの、その態度助かるわ。
      今の所、がっつりと私と戦おうっていう人は
      伊織ちゃんと、律子ちゃんしか居ないみたいなのよね。」
    相変わらず、私の敵意なんて意に介さない、余裕ぶった態度。
     「最初から乗り気な人は殆ど居なかったってのは、分かってますよね?
      戦争に入ってしまえば、乗り気でない人達も変わるとか思ってました?」
    ならこっちも遠慮しないわ。
     「ちょっとはね。もっと色んな意図が絡まって
      否が応でもっていう流れは期待してたわ。
      ……抑止力がなければ、どうなってたんでしょうね。」
    ……私のせいって訳ね。
     「大して変わらないと思いますよ。
      結局、組んでる所が強いですし、組んだ両方が好戦的というパターンは無いですから。」
    律子と冬馬の所は、律子の意志一つだろうけど、他はそうじゃない。
     「そうなると、私を倒さない事には戦争に勝てないとしても
      いつか確実に襲ってくるであろう私を待ち構えて
      そこで迎撃する方が確実って事になるわね。」
     「よくお分かりで。」
    仲間内の序列に興味があるのも、私と律子ぐらいだろうし
    この戦争で負けても、別にどうでもいいっていうのが大半っていうのも
    救いようがない点の一つ。
     「律子ちゃんは、まぁそう来るかなとも思ったけど
      伊織ちゃんは、もうちょっと積極的に来てくれると思ってたわ。
      あと、貴音ちゃんも。」
     「それは……。」
    日高舞を挟んだ向こうに居る麗華を見る。
    ……ていうか、なんでアンタ話に入ってこないのよ。
     「下手に動いて、麗華ちゃんに迷惑をかける事を嫌った?」
    間に入り込んでくる様な言葉。
     「……それもありますが、全体の動きを常に把握できますし
      それなら、こちらからわざわざ動く必要も無いと。
      日高舞を倒す為の準備を優先させた結果ですね。」
    これで満足?
     「倒せそうかしら?」
    また胸がざわつく。
     「無駄な努力はしない主義ですので。」
    やる気?そっちがやる気なら……。
    ……
    睨むような視線の焦点が、奥へとズレる。
    まだ黙ったままの麗華を、私は睨みつけて。
     「麗華ちゃんは、今ここで戦闘が起こったらどうするの?」
    麗華の方に振り返る日高舞。湯船に少し波が立って。
     「……とりあえず、舞さんを外へ出す努力はしますね。
      お城を壊されるのも、うちの子達が倒れるのも嫌なので。」
    私に加勢するとかは無し?
     「確かに、ここが壊れちゃうのは勿体ないわね。」
    日高舞はそう呟くと、湯船を囲う岩に頭を預けた。
     「伊織、やるの?」
    やる?
     「やる?」
    私の中に湧いた言葉と同じ言葉を
    期待と興奮が混じる視線を向けてくる日高舞が口にする。
     「……今日はやらないわ。
      この前と違って、私の方が逃げたみたいになるのは癪だけど。」
     「残念。それじゃあ、次は総力戦で来てくれるって事でいいの?」
    次。数日後に起こるであろう事。
     「……出来る限りの事はするつもりです。」
    出来る限り……。
     「期待してるわ。」
    …………
    ……ここ、麗華と話し合っておかないといけないわね。
    …………
    ……私の全力……
    …………
    ……もし、私が独りなら。独りになったのなら……。
    ……私の目標。麗華の願い。
    ……同盟解消もあり得るわね。

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