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第一次偶像戦争 【827】 [東豪寺麗華]
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第一次偶像戦争 【827】 [東豪寺麗華]

2021-06-12 22:11

    見送る影が遠くに消える。日高舞がこの地から去る。
    それでも、私の中に現実感は、まだ戻ってきてはいなかった。
    突然、日高舞が来て、一緒にお風呂に入った事もそうだけれども
    日高舞を殴った時に感じたものが、自分の中での涼君という存在が
    それを抱える私の意思を、心地よく微睡ませていた。
    間違い無く、自己満足と自己陶酔の類。
    ろくな物では無いし、涼君に知られたら、困惑されるか、引かれるかもしれない。
    ……でも、確かに、本当に、やってよかったと思える。
    本当に好きなんだと、今の涼君も、本当に愛しているんだと、改めて分かった。
    どうしたいのかはまだ分からない。でも、確かに私の中に愛はある。
    私は涼君を愛してる。
    それだけでは何も解決しない。けれども、それだけで満たされてしまう。そんな甘い毒。
    ……この飲みやすくて、ゆっくりと蕩ける、お酒の様な毒に溺れていてはダメ?
    ……でも、これ以上は、エゴが入ってしまう。
    ……私のエゴ……。サチコちゃんが私に求めたもの……。
    ……まだ、そこに答えはだせない。
    私一人じゃ出せる訳は無い。
    肌を重ねることは無理でも、せめて涼君を近くに感じられる場所じゃないと。
    涼君の声が、心が、触れられるような距離にないと。決められる訳なんて。
     「本当にお風呂入って帰って行ったわね。」
    楽しく、たらふく飲んだ次の日の朝に流し込む、冷たい水の様な伊織の声。
     「それと洗濯ね。
      プレインズウォーカーの血って相当ヤバいけれども大丈夫かしら?
      汚れた下着洗ってる所を、横から覗く訳にもいかなかったし。」
    現実感は徐々に戻ってくるだろうと思うけれども
    いきなりエグい所が口から出たわね。まだまだ全然酔ってるわ。私。
     「殴られた拍子にって事なら、多少なりとも
      肉体側に付随していた魔力は壊れてるでしょうから
      そこまで問題じゃないんじゃない?
      というか、アンタの土地でアンタの城なんだし
      今すぐにでも確認出来るでしょ?他者の魔力の存在なんて。」
     「まぁね。
      ……で、私は正常に見える?正常に見えた?」
    今も正常であるとは思うけれども、微睡んでいる。浮ついている。
    これが日高舞の魔力のせいで無いとは言い切れない。
    こういったプラスの感情を利用した方が幻覚は見せやすいし。
     「異常よ。異常。
      アンタも律子も、この戦争に入ってからおかしいわ。」
    伊織は吐き捨てる様にそう言って。
     「律子は大分変わったと思うけれども
      私はそうでもないと思うわよ。
      あのバカも居るし、個人の間にある問題だから、伊織が避けてきただけじゃない?」
    触れていい所と、触れてはいけない所。
    友達同士で出来る距離感と
    同じ目的を達成する為に組んだ仲間同士で必要な距離感は別。
     「だとしたら、アンタはずっと前からおかしくなってるって事ね。」
    また吐き捨てる様に。……でも、今度は少し悲しみがある様に思えた。
     「……でしょうね。」
    個人の愛と、意志ある者としての正しさを天秤にかけてる。
    間違いか、そうでないか、分かっているのに、否定できないでいる。
    ……結局、嫌われるのが怖いからなのかしら?
    それとも、私も……。
     「……とりあえず、そこは置いておくわ。
      一朝一夕でどうにかなる問題でも無いし
      当事者が居ないんじゃ、そもそも話にならないでしょ。」
    強い語気と、それについてくる瞳。
     「話をさっさと先に進めたいけど、しこりを残しておくのもアレだし
      先に聞いておくわ。
      どうして日高舞を殴ったの?そこからなんでお風呂を貸す事になったの?」
    ……こういう伊織のハッキリした性格には助けられてる所が多いわね。
     「殴ったのは日高舞が涼君をレイプしたから。
      お風呂を貸す事になったのは、私が負けたからよ。
      プレインズウォーカーとしても、アイドルとしても。」
    アイドルとしてではなく、人として、意志持つ存在として負けたのかもしれないわね。
     「レイプって……あの女、涼を襲ったの?」
    伊織の声からは、耐えがたい嫌悪感がにじみ出ていた。
     「無理矢理襲ったとかじゃないとは思うわ。
      そういう意味で、レイプは適切な言葉じゃなかったかもしれないわね。」
     「……でも、アンタはその事で怒った訳じゃないんでしょ?
      殴りたいと思って殴った訳じゃないって言ってたじゃない。」
    …………
     「涼君は望んで日高舞と体を重ねた訳じゃないって、勝手に確信しちゃったのよ。
      行動に移してないだけで、涼君に拒絶する心、嫌悪する気持ちはあったって。」
    ホント、無茶苦茶よね。
    ……でも、やっぱり間違ってるとは思えない。
     「で、殴ったと。」
     「そう。涼君がやらなかったから、私がやった。それだけね。
      ……無茶苦茶でしょ?
      肉親でも、恋人でもないのに、涼君を理解しているだなんて、自惚れも甚だしいわ。」
     「無茶苦茶よ。アンタも日高舞も、そんで涼も。」
     「巻き込んで悪いと思ってるわ。」
     「もういいわ。そこからどうしてお風呂になったの?
      というか、アンタが殴って、反撃とかも無かったのに、アンタが負けたの?」
     「そう、私の負け。
      本当に体を千切り飛ばすつもりで殴ったのに、出来なかったし
      その後の対応もね。私の無茶苦茶な理論を笑って許して……。
      ……あぁ、この人の事、嫌いになれないんだろうなぁって、思っちゃったの。
      ……羨ましいのかもしれないわね。」
    何も恐れなくて、何よりも自由で。何だろうと受け止められる強さがあって。
     「私からすれば、ああなってはいけないっていう見本よ。」
     「……確かに、ハッキリと別れるでしょうね。」
    日高舞を好きだという人でも、日高舞の様に生きたいと思う人は少ないかもしれない。
    ……涼君には、日高舞の様なタイプのパートナーの方がいいのかな?
    支えるとかじゃなく、引っ張っていく様な。
    ……それを涼君が望まないとしても、涼君が心地よいと思えるのなら。

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