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第一次偶像戦争 【851】 [三浦あずさ]
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第一次偶像戦争 【851】 [三浦あずさ]

2021-08-01 21:12

    朝日の中、薄く輝きながら、黄色いサバンナの上に浮かぶ巨大な球体。
    その境界に、ゆっくりと指先を伸ばす。
    小さい魔方陣やルーン、魔力のラインが、私の指から逃げる様に、さぁっと離れていく。
    それを見て、驚くと同時に、私は安心を得て。
    安心。
    程なく、その意味を理解して、また嫌なものが自分の中を覆いだす。
    ……あぁ……やっぱり、手を伸ばすのがゆっくりなのは、慎重に進もうとしている訳じゃなく
    恐る恐る、嫌だけれども、何とか手を伸ばしているだけなんだ。
    舞さんは好意でやってくれているのに、私は信用も出来ずに……。
    明るく、まだ柔らかさが残る朝日が照らす、広大で美しい世界。それなのに私の心には
    暗く淀んだものが広がっていく。
    このままでいいんだろうか?こんな私が、触れていいものなのか?
    ここまでしてもらう貰う資格が、私にはあるんだろうか?
    迷う心が、言い訳を探す。どうにかやらなくてもいいように。
    誰も傷つけずにすむように。
    あと少しで境界という所で、手が止まろうとする。伸ばしていた筈の指が
    内側へと折曲がろうと僅かに動く。
    ……いや、違う。ここで立ち止まっちゃいけない。
    やらないと。進まないと。フミカちゃんとセイジさんも後で来るし
    呼びに言ったヒデオさんにも申し訳ない。
    それに、もし私が死んでしまったら、消えてしまったら……。
    ……きっと律子さんは悲しむ。伊織ちゃんだって泣いちゃう。
    亜美ちゃんには、どう説明する?事務所の皆にも……。
    ……こういう世界。私が今居る場所は。今の私の世界は。そういう世界。
    もう戻ることは出来ない。
    …………
    ……戻れるのなら……。
    …………
    ……分からない。戻れるのなら、私は人間に戻るのか。
    ……確かなのは、死んでしまったら、消えてしまったらそこで終わりという事。
    だから、手を汚してでも……。
    ……いえ、汚しきってしまわない様に。
    ……だから、結局は自分の為。
    アイドルの時と一緒ね。あの時は、運命の人に見つけてもらいたくて……。
    ……だから、きっと出来る。進める。自分の為なら。
    閉じかけていた指がピンと伸び、巨大な球の内と外を隔てる膜のような光に触れる。
    波。水面と言うよりは、なびく布のような、柔らかい波。
    触れた指先から広がっていって、綺麗だった球の形を歪ませる。
    触れて、僅かに凹んでいた境界に、指先が入り込む。
    ずぶずぶと入り込む指は、そのままへ手へ。
    球体に走る波も、それに合わせて、大きく複雑になっていく。
    腕が、肘が、肩が境界の先へ、そして、鼻の頭に、顔に、瞳が。
    球体の中。その世界。
    何も変わらない。ただ、舞さんの土地の【白】いマナと、舞さんの魔力を
    さっきよりも身近に感じる。
    スペル化しているから、刺激レベルでも、今の私には反応はしていないわね。
    ……すごいなぁ……私にはこういうのは、絶対に出来ない。
    【白】のエンチャントも、自分やサナエちゃん達にかける
    オーラ系は、何とかなるけれども、それ以外は……
    ……傷つけずにどうにかする手段は、攻撃系スペルの威力の調整だけじゃない
    それなのに、私はこの戦争の間、何も……。
    キュッと心の奥が縛られる。縛っている痛みは確かに今もあるのに
    きつく締めた筈の口から、後悔が漏れ出てくる。今更遅いと、苛んでくる。
     「半径500メートルぐらいで作ってるけど
      あずさちゃんの好きな場所でやっていいから。」
    声。外から。
     「あっ、はい~。分かりました~。お待たせしてすみません~。」
    えっと……やっぱり中央?でも外からでも大きすぎて分からなかったのに
    中に入っちゃうと中央がどこだか本当に……
    あっ、下に今もある魔方陣を見ればいいのね。
     「あずさちゃん、私も中入って大丈夫?」
     「えっと……どうでしょう……最初は様子を見ておいた方がいいかもしれません~。」
     「むぅ……まぁそうね。あたしが居たら余計に遠慮するだろうし。
      そんじゃ、ヒデオ君が来るまでは、あずさちゃんに任せるわ。
      調整がんばって。」
    応援してくれるサナエちゃんに手を振って、私は球体の中央へと向かう。
    えっと……最初から全力……は無理よね。
    やっぱり普段使ってる所からスタートしましょ。
    舞さんが作ってくださった練習場所だもの、大事に使わないと。
    ……それに、私もどこまで強いスペルを描けるのか、分からないし
    描けたとしても、どれだけの威力になるか……。
    …………
    ……あっ、いけない通り過ぎちゃう所だったわ。
    えっと……ここが中心?
    ……下の魔方陣の中央なのは確かだけれども、高さはよく分からないわね……。
    ……でも、多分ここらへんじゃないかしら。
    …………
    ……うん。始めましょうか。

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