『オタク is LOVE!』の構造解析 ~推しの鼓動は愛~
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『オタク is LOVE!』の構造解析 ~推しの鼓動は愛~

2020-05-10 16:39

    ○序論

     本稿は、デレステで初披露となった虹色ドリーマーのユニット曲『オタク is LOVE!』やそのイベントコミュなどを読解し、またそれらに関していくつか論考したものである。



    ○虹色ドリーマーのおさらい

     まず、虹色ドリーマーというユニットについて軽くおさらいしよう。メンバーは荒木比奈、神谷奈緒、安部菜々の三人。ユニット曲が『オタク is LOVE!』であることからも察せられるであろうが、いずれもいわゆるオタクである。つまりは「オタク」がテーマのトリオユニットだ。

     とはいえ、オタクという語は今や相当に広範な意味を持つ。虹色ドリーマーの三人もその例に漏れず、オタクとしての有り様は少なからず異なる。荒木比奈は同人漫画描きで、安部菜々はアイドルへの憧れが強い元地下アイドル。そして神谷奈緒は、あまり表に出さないがアニメ鑑賞を趣味と明記している。
     趣味に浅い深いを言い出すのも無粋とは思うが、慣用的にディープという表現を用いるなら、同人誌を出している荒木比奈CDを自費出版してアイドル活動を行っていた安部菜々は、オタクと呼ばれる人たちの中でもディープ寄りであろう。一方で神谷奈緒のオタクらしい行動といえばアニメ観賞くらいで、オタク趣味の範囲においては自ら率先してコンテンツを作る側に立つことはなく、故にディープとは些か言い難い。また、その神谷奈緒と比べればディープな部類に入る荒木比奈と安部菜々も、どちらもある種の表現者でありながら「作品を作って発表する」と「自らステージに立つ」という風に手段や媒体が大きく異なる。
     オタク系ユニットとして規定されている虹色ドリーマーは、だが実のところ三者ともに、オタクとしての特徴にはいくらかの違いがある。この「異なる『好き』を持つオタク三人」という特徴は後にも出てくるので覚えておくように。

     さてこの虹色ドリーマー、公式ではどのように描かれているかというと、どちらかといえば「ステージで歌い踊るアイドルユニット」よりも「オタク仲間のアイドル達」という一面を押し出すことの方が多いように感ぜられる。

    虹色ドリーマー - 荒木比奈wiki - Wiki3


     聖地巡礼だのアニメ鑑賞会だの、温泉での謎の光だの……アイドルユニットとしてどんなパフォーマンスを見せているのか、どういう歌やダンスを披露するのか、モバマスのテキストだけではいまいちピンと来ない(二次元に迷い込んだようなキラキラなステージを演出する、という程度か?)。とはいえシンデレラガールズにおいてそのようなユニットはそれほど珍しくなく、デレステのユニット曲実装によってようやく明確なイメージが描かれたという例も多々ある。
     加えて、アイドルユニットとしての描写が少ないことは必ずしも悪いことばかりでもない。その分、メンバー三人の単なるオタクとしての会話を増やせる、つまりプライベートでの付き合いや仲の良さの描写に比重を寄せることができる。それでも絶対量としては多いとは言えない文章量だが、少なくとも「描写をオンよりもオフの方に大きく偏らせている」という点は押さえておきべきだ。

    ○『オタク is LOVE!』の分析


     「異なる『好き』を持つオタク三人」、そして「主な描写をオンよりもオフの方に大きく偏らせている」。虹色ドリーマーのテーマであるこの二点は、楽曲『オタク is LOVE!』とそのイベントコミュでも如実に表現されている。

     たとえばMV。「異なる『好き』を持つオタク三人」は、歌い出しから「アニメ、漫画、アイドル」と三人の好きなものをそれぞれ名指ししてOKと全肯定して表現しているし、好きの気持ちに上下などないと啖呵を切ってみせている。極めつけはサビで、愚直なまでに「好きだ、好きだ、大好きだ」と連呼しているくらいだ。
     「主な描写をオンよりもオフの方に大きく偏らせている」に関しては、あからさまに中野ブロードウェイやオタクショップを意識しているステージと、「神」「尊い」という俗っぽい歌詞に分かりやすく表現されている。全体的に直截で地に足ついた表現の多い言葉選びも、観客が描かれているデレステのMVにしては圧倒的に人数が少ない代わりにアイドルとの距離や目線が非常に近しい構成も、「オフの比重が大きい≒心理的にも物理的にもファンと近しい」ことの表現と考えれば腑に落ちる。イベント終了後に公開された2DリッチモードのMVでも、モブがかつてないほど目立つ構成になっている。



     イベントコミュはもっと明示的だ。コミュの大部分が虹色ドリーマー三人の作る同人誌のストーリーと、それを作るべくあーだこーだとアイディアを出し合っている様子に終始している。そしてその同人誌を形作るのは「安部菜々が大好きなアイドル要素」「神谷奈緒が大好きなアニメらしい演出やお約束が山盛り」「荒木比奈が大好きな漫画という表現媒体」。どこを切り取っても「異なる『好き』を持つオタク三人」「主な描写をオンよりもオフの方に大きく偏らせている」の、少なくとも片方のテーマは見出せる。

     『オタク is LOVE!』は、歌詞もステージも随分とキャラソンに寄せた作りとなっているし、コミュにしても定番の結成秘話や絆を深める様子、ぶつかり合いやレッスンなどは悉くオミットされている。良く言っても変化球、悪く言うとウケ狙いやネタ特化とも揶揄されかねない。だがしかし、それもこれも全て「虹色ドリーマーらしさ」を表現する、ただその一点に愚直なまでに集中した結果なのだ。

    ○歌詞の意図、メッセージ

     『オタク is LOVE!』の歌詞について、もう少し突っ込んで論考してみたい。確かに『オタク is LOVE!』は、たとえば近ごろ発表された藤原肇のソロ曲『あらかねの器』のような、壮大な歌詞やメロディではない。それどころか対極にあるほど明け透けでポップな曲調になっている。そして軽快な曲というものは得てして重厚なそれに比べると高評価を得るのが難しい、感動もののストーリーが真面目と称賛される一方でコメディが不真面目と冷やかされるように。しかし、先述したように私は『オタク is LOVE!』は虹色ドリーマーらしさを表現するために心血が惜しみなく注がれた結果の産物だと確信している。「作曲家の人、そこまで考えてないと思うよ」という発想は一切排除しているので、そのつもりで読み進めるように。

     本稿の序盤で述べたように、オタクという語は今や非常に広い意味を持つ。元来は差別語だったことを知らない人も今や珍しくないだろう。だからなのか、『オタク is LOVE!』の歌詞では、Aメロ冒頭で「オタクという語の定義付け」を行っている。学術論文などで「本稿において○○は□□とする」と前置きしてから本題に入るようなもので、そう考えると存外に実直な作りになっているとも言える。

     『オタク is LOVE!』の言うオタクとは何か? 何かを愛している人のことだ。何を愛しているかは問うていない――何度も繰り返し述べているように、虹色ドリーマーの三人からして好きの対象や深さに少なからず違いがある。けれど少なくとも、何かを好いて(愛して)いる、その気持ちに相違はない。オタクという語の持つ意味の広さを逆手に取って、オタクと呼ばれる人たちが共通して持つ「何かを好く(愛する)気持ち」に焦点を絞った。『オタク is LOVE!』においては虹色ドリーマーの三人は己の好みを反映し「アニメもOK 漫画もOK アイドルもOK」と歌うが、当然のことながらオタクの好くものはこの三つに限定されない。プラモやフィギュアなどの立体物、小説や動画など漫画以外の表現媒体、旅行に鉄道に軍事に電子機器に……挙げていけばキリがない、そんな全てを虹色ドリーマーは「なんでもいいんだ」とひっくるめて肯定してみせている。『オタク is LOVE!』のタイトルが、ド直球なまでの答えだったのだ。

     そして、オタクを「何かを愛している人」などという極めて広範な対象をとりうる語として定義したがために、「世界は愛でできている(何かや誰かを愛し大切にする人は世界中にいる)」→「世界はオタクでできている」というなんとも大袈裟な話にまで飛躍している。「何かを愛するのがオタクであり、何かを愛する人が世界中にいるのなら、オタクは世界中にいる。換言すると、世界はオタクでできている」……整理してみると意外なほどに筋道立った論理と言えよう、無駄に大仰な言い回しをしているあたりも含めてオタクらしい。

     このように「好きの気持ちを最大限に肯定し尊重すること」が『オタク is LOVE!』のテーマだとすれば、「ジャージャー」という所謂オタ芸に近い要素が加わっていることにも特別な意味を見出せる。以下、筆者自身はリアルアイドルのオタ芸の類いにはまったく明るくないので幾分か的外れな分析になってしまうかもしれないことを予め明記しておく。
     私が把握している範囲では、アイマスライブのコールにリアルアイドルのそれが加わるのを快く思わない人はそれなりに見受けられる。MIXとかジャージャーとかイエッタイガーとか、仔細はいまいち分からないのだが敵視かそれに近い姿勢を取る人も珍しくない。そんな中に、あえて「いかにもリアルアイドルっぽい(≒従来のアイマスライブには必ずしも馴染まない)コール」を公式で入れたのは、「そういった類いの応援が好きだという気持ちをも肯定し受け入れるため」ではあるまいか。何せ安部菜々は、虹色ドリーマーどころかシンデレラガールズ全体を見渡しても「アイドルという文化そのもの」への思い入れが特に強い層に属する。『オタク is LOVE!』の「ジャージャー」は、安部菜々を含む、オタ芸の類いが好きな人々の気持ちにも応えるために盛り込まれたのだ

     ……と、ここまでほぼ手放しで絶賛してきているが、個人的に首を傾げたところもないではない。その最たるものは、好きを全面的に肯定しようというテーマそのものが微妙に古臭いことだ。
     オタクと呼ばれる層が世に認知され、気味悪がられ、しかし認知度が上がって偏見が徐々に薄れ、堂々と名乗る人も徐々に増えて……。あくまで筆者の感覚としてだが、昨今のオタクと呼ばれる層は「趣味や嗜好を明け透けにしすぎるのも考え物、特に節度はきちんと守ろう」がトレンドであるように感じられる。少なくとも、好きなものを好きだと公表するのは、今やそう真新しいテーゼでもない。「好きだという気持ちを肯定し、隠さなくていいと説く」という『オタク is LOVE!』のテーマに、些かの今更感を覚えたのは、きっと私だけではあるまい。
     古臭いといえば、上述したオタ芸についても、一昔前の流行を踏襲していないか? という疑念が拭いきれない。とはいえ、繰り返しになるがリアルアイドルの事情やトレンドには詳しくないので、これ以上の分析は避けておく。

     ただ、念押ししておくが、古臭いからといってテーマが悪いと主張したいわけではない。手垢がついている分、普遍的なテーマだとも言える。長いことオタクをやっている身であれば、これまでに何かしらの形でオタクである自分を肯定する(少なくとも何かしらの形で受け入れる)機会はあったかもしれないが、もしかしたら中には『オタク is LOVE!』で初めて「オタクである自分を恥じる必要はない」「好きという気持ちに正直であっていい」と理解する人もいるかもしれない。
     そして荒木比奈は――奇しくも『オタク is LOVE!』でセンターに立つこのアイドルは――そういう人たちにそっと寄り添い、背中を押せる存在でありたいと、望んでいるのだ。

    少しの勇気が明日を変える…。だから、私は、その背中を押すお手伝いを

    SSR[ご注文はひなですか?]荒木比奈+ ホーム台詞より引用




    ○個人の所感
     ここまではなるべく主観的な評価よりも客観的な分析に重きを置いてきたので、ここからは私個人の私感をつらつらと述べていく。

    ・曲調
     曲のテンポは全体的にポップで楽しく、しかしその中でも緩急の付け方が巧妙だ。イントロに僅かに入った行進曲のような箇所やサビ前でふっと沈むところなど、ゲームサイズであっても存外に飽きない。筆者はイベント開始日にEXエリア解放までこぎ着けるにあたり、『オタク is LOVE!』のみを集中的にプレイしたのだが、思っていたほどには苦痛にならなかった(この点に関しては、担当アイドルである荒木比奈の歌唱パートがいくらか多めだったからという理由もあるかもしれないが)。




     フルバージョンにもなればもっと変化に富むだろうと容易に予想できる。何せ『オタク is LOVE!』で作詞作曲を務めたヒゲドライバー氏は『あんきら!? 狂奏曲』も手掛けている。こちらもこちらで、ゲームサイズからは予想もつかないようなフルバージョンで度肝を抜かれた人も少なからずいるだろう、「アレが泣き曲、エモ曲になるなんて」と。シングルCDもそう遠くない内に発売されるだろう、今からまったく楽しみで仕方がない。

    ・壁サーの花との関連性
     ツイッターを見ていると「『オタク is LOVE!』は壁サーの花のユニット曲なら納得できた」という声がいくらか見えた。壁サーの花といえば荒木比奈と大西由里子のデュオユニットである。私としてはその発想は、ツイッターを見るまで思いつきもしなかった。

     これまで何度も述べているように、虹色ドリーマーの特徴は「異なる『好き』を持つオタク三人」「主な描写をオンよりもオフの方に大きく偏らせている」に集約できる。そして『オタク is LOVE!』はこれらの特徴に即した楽曲およびMVだとも。そして壁サーの花は、オタク趣味のアイドルユニットという点では一致しているものの、相違点も多々見受けられる
     たとえば「オタク」としての方向性。壁サーの花は同人誌文化にとりわけ馴染み深い二人組で、この時点でオタク三人組でありながら好きの種類が異なる虹色ドリーマーとは一線を画す。そして範囲が狭い分、より深くニッチなテーマを楽曲で表現することもできるだろう、好きという極めて普遍的な気持ちに焦点を当てた虹色ドリーマーとは違って。ついでに言うと、腐女子趣味のある大西由里子がいる分、明るくポップな『オタク is LOVE!』よりも耽美な、あるいは退廃的な雰囲気さえ似合ってしまうだろう
     広くて浅いオタクが虹色ドリーマーなら、狭くて深いオタクが壁サーの花だ、と対比できる。これが『オタク is LOVE!』が、そのままでは壁サーの花のユニット曲には相応しくないと私が考える理由だ。とはいえ壁サーの花のユニット曲としては不適というだけで、大西由里子自身はこの曲に思うところはない、どころか応援する気満々であることは、報酬SRや楽曲選択画面の背景などにおける隠然とした存在感からも察せられる。


    ○終わりに


     モバマスからデレステと、連続して荒木比奈の出番があった四月半ばから五月初旬。190人ものアイドルを擁するシンデレラガールズにおいて、別ゲームとはいえここまで出番が連続するとは、去年どころか四月頭の自分ですら思ってもいなかったろう。しかも待望の虹色ドリーマーのユニット曲が発表された、その上、内心の自由および表現の自由を全面的に肯定し応援するメッセージ込みときた。これほどまでに贅沢な時間があっていいのかと、今なお夢見心地なところがある。
     何かと息苦しく、先も見えない情勢ではあるが。いつか『オタク is LOVE!』をステージで歌い踊る様に、そしてそれにあらん限りの声援で応える機会に、接することができるのを願ってやまない次第である……と、いったところでいったん筆を置かせてもらおう。





























     あ、でも一点だけ。


    もーちょっとおへそ映えするMV構成だったら文句ナシだったなー!
    (へそ顔ダブルピース)


    ので、モルフェウスチルドレンか夢色パレットか壁サーの花のユニット曲が出る時はもっとおへそアピールしよう! へその人との約束だ!




     


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