• 【機動戦士ガンダム・センチネル】第2部■月面攻防編 第5章 DREAM OF THE MOON 月面の夢

    2016-05-05 19:39

    第二部 月面攻防編

    第五章
    DREAM ON THE MOON 月面の夢

     月面白治都市 "エアーズ" 。月の裏側に初めて設けられた観測基地から発展したという特殊な性格を持ったこの都市は、住人たちのほとんどが、かつての観測基地隊員を祖としているために月面自治都市の住人にしては珍しい地球回帰願望を持ち、さらにニ度と地球を見る事が出来ないという立地・環境条件という、2つの地球崇拝から生まれた地球至上主義に支えられていた。そう、エアーズ市は月面自治都市群の中でも特に異彩を放つ、超保守的な都市なのである。
     グリプス戦争におけるコロニーレーザーの攻防戦の際、都市の防衛の為に予備役兵で組織されていたいわば警察軍であるエアーズ市民軍は、ティターンズ側の後方兵力としてコロニーレーザーの警備の任に就いていた。地球の為に尽くす事が市民の務めであると信じて生きてきた彼らが、地球至上主義を名目に掲げたティターンズに組みしたのは当然の事と言えよう。この攻防戦は周知の如くエゥーゴ側の辛勝に終わり、敗兵となったエアーズ市民艦隊は傷ついた兵士たちと共に戻ってきた。しかし、この艦隊には行く当てのなくなってしまった他のティターンズ将兵たちも同乗していたのである。
     エアーズ市々長、カイザー・パインフィールドはこれらの将兵たちをエアーズ市に受け入れ、再三に渡る地球連邦政府からの彼らの引き渡し要求を自治都市への内政干渉として拒否し続けてきた。もちろんパインフィールドが、現行の地球連邦政府はエゥーゴの愧儡政権であるとみなしていたからである。今やエアーズ市はティターンズの残党にとって、唯一の希望の地となっていた。この動きの陰に1人の人物が暗躍していた。その男の名をマイク・サオトメと言う。しかし彼の本名も経歴も実際は、地球連邦軍に登録されているデーターとは全く違ったものであった。
     サオトメはペズンの反乱の際、クレイによって地球連邦軍の不満分子―エイノー提督の様な、現在の地球連邦軍や地球連邦政府に不満を抱く者たち―や月面自治都市群に対する煽動工作を命じられ、地球と月を飛び回っていたのである。彼は教導団のMSパイロットでは無く情報将校であり、教導団に配属になる前は連邦軍情報部に勤務していたので、その経歴をクレイに買われたのだ。今、彼はエアーズ市のすっかりさびれた展望エリアのベンチに腰掛けていた。
     プレキシグラスの展望ドームには相も変わらぬ星空だけが見えていた。サオトメ以外の人影は見あたらない。昔からエアーズ市民の誰もが宇宙を見る事を拒否し続け、居住区画のちっぽけなドーム天丼に投影される見せかけの青空にすがっていたからだ。サオトメの視線の先には彼の生まれ故郷が小さな光の点として有った。サイド3。月の異側のラグランジェ・ポイント(L2)に浮かぶ宇宙植民地である。かつてジオン公国を名乗り、地球連邦政府に独立戦争を仕掛けたこのコロニーも今では "共和国" に名称を改め、地球連邦政府の強力な監視下に置かれていた。
    「いつの日か……」ポツリと彼はつぶやいた。
     いつの日か祖国に栄光を取り戻す。その日を夢見て「1年戦争」の後、彼はヤミで連邦軍兵士の軍籍を得て潜伏していたのである。今の名前は「1年戦争」で全滅した連邦軍部隊に所属していた東洋系の兵士のものだった。ジオンの残党狩りを名目とした部隊に極めて近い所にジオンの残党が居たとは皮肉な話である。
     雌伏8年。「1年戦争」後、ジオンの残党が避難していた小惑星基地 "アクシズ" の地球圏帰還により、ネオ・ジオンと。名乗る旧ジオン軍部隊は最近、次々と各コロニーに制圧部隊を送り込みつつあった。後見人のハマーン・カーンが実質的な指導していたとは言え、かつてジオン公国を支配していたザビ家の遺児、ミネバ・ザビを戴く以上、ネオ・ジオンもジオンには変わり無い。祖国に再び栄光が蘇る日は近い、と彼は確信していた。その為にもこの事件を拡大させるのは連邦の戦力を弱める上では有効だった。
     サオトメは立ち上がり、地下の居住区へと下りるエレベーターに向かって歩いて行った。この事件にもまた、様々な人の "思い" が交錯していたのである。

     ペズンの爆破にもろに巻き込まれることは避けられたものの、その爆発によって生じた岩塊によってα任務部隊と月軌道艦隊の何隻かの艦艇は損害を受けていた。月軌道艦隊は最寄りの宇宙植民地サイド2に寄港し、現在、応急修理を行なっている最中であった。さらにこの艦隊はパトロール航宙中に急遠、戦闘に参加する事になった為に推進剤は底を突きかけており、その補給もしなければならなかったのである。だが、α任務部隊にはそんな余裕は与えられなかった。地球連邦軍総司令部はすぐにニューディサイズ艦隊の追撃を命じたのである。だがα任務部隊は、ペズン爆破の岩塊を避ける為の退避行動によって、広大な宙域に展開せざるを得なかった為に艦隊陣形の立て直しの時間がかかってしまい、ニューディサイズ艦隊に半日から1日の遅れを取ってしまっていた。本星艦隊の2つの分遣艦隊はニューディサイズの行方が掴めるまでペンタからの出港は見送られる事になっていた。
     時に宇宙世紀0088、2月10日。
    「 "王の入城" か……」
     ペガサスⅢの艦長室のモニターに映し出された白と茶のチェス盤。ヒースロウは自分の指す白い駒で作った陣地の端に置かれたキングの正面に、「サーゴン20」というチェス・ゲーム用ソフトウェアの黒いポーンが置かれると、キーボードのキーを叩いて盤の1番右端に置かれていたルークと入れ換えた。この、チェスにおけるキングとルークの特殊な入れ換えを行なうルールのことを "王の入場" と言う。
    CHESS CHESS CHESS

          歩 歩 歩

        王     城

            ↓
          歩 歩 歩

          城 王

    CHESS CHESS CHESS
     この結果、ヒースロウのキングはルークと位置を取り換え、一瞬のうちに他の駒で作られた四角い壁の中の安全地帯へと逃れる事になった。
    「ペズンを捨てて逃げた、か……。問題はどこのマス目に逃げたか、だ」
     ヒースロウはニューディサイズの戦略をチェスになぞらえた。ペズンをルークに、ニューディサイズ本隊をキングに当てはめてみたのだ。
    「エイノー艦隊は、さしずめルークというところか……」依然として行方の掴めないエイノー艦隊を、チェスの中でも機動力を取り柄とする駒として考えてみた。その時、来客を告げるインターホンのブザーが柔らかな音を立てた。
    「艦長、マニングス大尉であります。入ってもよろしいでしょうか」インターホンから良く通る低い声が聞こえてきた。「よろしい、入り給え」と、艦長室のドアロックを開けてやる。
    「少しお話ししておきたいことが有りまして……」
    「うむ、掛け給え。ペンタを出てから色々と忙しかったからな。こちらもそろそろ、君とゆっくり話をしたいと思っていた所だよ」
     ヒースロウが椅子を勧めると、マニングスは右足をかばうようにして椅子に腰掛けた。
    「ところで君の話とは?」

    「実に個人的な問題です。これが今後の戦略にすぐに結び付くというものでは無いでしょうが、我々の敵の側についている、ある男の事です」
    「ほぅ。興味深いな。全体戦略に結び付かなくても、敵のクセを知っておくのは重要だからな。 "気付け薬" は飲るか? 12年物の良く効くヤツだ。医務室からもらってきたんだ。艦長の役得でね」
     ヒースロウは部屋のキャビネットに首を向けた。マニングスが見ると "ネイビー・ラム" の青い瓶が有った。軍艦内では禁酒であるのは旧世紀の頃も今も変わりはない。しかし、旧世紀の海軍艦には船酔いの薬とか気付け薬と称して医務室の鍵がかかったキャビネットに酒が備えてあり、この鍵は通常、艦長が管理する。宇宙時代の現在でも、宇宙艦はこの伝統を踏襲していた。
    「いえ、結構。自分は酒は飲りませんので」マニングスの答えにヒースロウは少し恨めしそうな顔をした。彼自身、特に酒が好きだという訳では無い。彼の知っている "歴戦の部下" という存在は例外無く酒好きであり、酒を飲ませることで打ち解けてきたのだが、マニングスに対しては "酒を持っている" という小さなイニシアチブは無意味だったので、少々がっかりしたのだ。
    「それでは聞こうか。その敵の男の話とやらを……」と、今度は紅茶のチューブを差し出す。チュープを受け取るとマニングスは話し始めた。
    「前の戦争の時、その男は私と同じ部隊に所属していました。言うなれば戦友ですな。そいつは何故、MSパイロットなんかに甘んじているのか皆から不思議がられているほど頭の切れる男でした。自分の信じる独立国家を作ると言うのが彼の口癖でしてね」
    「独立国家……? 仲々、壮大な話だな。コロニーでも乗っ取ろうと言うのか」
    「いいえ。何でも彼が学生時代に三流政治雑誌に発表した論文が元になっているとか言っておりました。"真コロニズム" とか言うタイトルの筈です。彼によれば人間は土の上で暮らすべきであり、自治独立宣言できる真の宇宙植民地とは居住可能な様に改造、開発された地球以外の天体でしか有り得ないと言う物です。スペースコロニーの宇宙島は人工の生活空間である以上、経済的にも政治的にも決して地球からの支配を脱することが出来ないというのです。なぜなら人工都市国家であるスペースコロニーには独立国家として地球と対等に交渉できる様な経済基盤が無いからだそうです」
    「それは一面では正しいかも知れないな。確かに現状では、一部のコロニーでは自前の太陽発電衛星を使って地球への電力供給や、移送した小惑星を削って鉱物資源を供給したりといった事業は行なっているが、地球との決定的な交渉材料にはならない。コロニーが供給する資源を削った位では地球経済はビクともしないだろう。だが、現実としてコロニー自体でならば自給自足が行なえる様になりつつある点も見過ごせない」
    「艦長。率直に申し上げて、私はその男が敵の側に居る限り、ニューディサイズは月へ向かっているのだと思います」
    「なるほど。私もその可能性は漠然と考えてはいたが、君の話で確信に変わったよ。私はニューディサイズが単なる反連邦意識から、サイド3やジオンの残党と手を組む可能性も考えていたのだが、その男の性格からして可能性は極端に低いな。我々はまんまと連中の反連邦アピールにだまされてしまったのかも知れん。いや、最初から反連邦イコール "ジオン" と短絡的に決めつけていた我々の失態だ。彼らはジオンでは無い。ジオンとは異なった、反連邦の明確な意志を持っている。それは反宇宙民だ。更に我々は戦略上、ものの見事にナイトに振り回されてしまった」
    「何の事です?」
    「エイノー艦隊だよ。提督の反乱行為が意図的なものかどうか分からないが、月軌道艦隊が我々の宙域に出撃してきたお蔭で、現在、月の周囲が無防備の状態になっているのは事実だ。おまけにサイド4の駐屯部隊に打撃を与えているからニューディサイズは楽々と月に入れるわけだ。サイド3の駐屯部隊は最近のネオ・ジオンのコロニー制圧部隊の侵入に備える為に動く訳には行かない。何しろジオンの故郷だからな……」
     ヒースロウはモニターのチェス盤に再び目をやった。月か……。流血は避けられそうにない。
    「マニングス大尉。その男、えぇと、名前は何と……」
    「トッシュ・クレイと言います」
    「そのクレイという男の事をもう少し詳しく聞かせてくれないか?」

     ペズンを脱したニューディサイズ艦隊は一路、月へと向かっている。月の周回軌道を基準に南、即ち月の下側に向かっているのだ。一方、サイド4の駐屯部隊と交戦したエイノー艦隊はまだ月へは向かわずに、ニューディサイズとの合流のタイミングを見はからう為にそのままL1の暗礁宙域に居座り続け、現在、損傷艦の応急修理を行なっていた。暗礁宙域。それは「1年戦争」の際の残骸やコロニー建設時の字宙塵が多量に浮遊し、8年前に比べれば薄くなったとは言え、レーダーをはじめ電子機器に悪影響を及ぼす、ミノフスキー粒子の密度が非常に高い宙域である。その為、この様な宙域ではレーダーは全く使い物にならず、宇宙艦やMSの航宙は目視に頼らざるを得ない。艦隊が身を潜めるには絶好の宙域であった。
     ニューディサイズ側に身を投じる決意を固めたエイノーにとって、その艦隊の目的地は最初から月であった。自分のもとを訪れた教導団の隊員の話からすれば、彼らの目的地は最終的には月以外には有り得ない。その、月に近い暗礁空域に身を潜めて彼らと合流しようというのは最初からのエイノーの思惑である。サイド4の駐屯部隊との交戦はある程度の予想はしていたが、"パナマ" と "ドルトムント" の2隻の巡洋艦を失ったのは痛手だった。特に "パナマ" は主器使用不能に陥りつつも "ブル・ラン" の楯となって散って行ったのである。ところが幸運にも、この交戦で月へ向かっているニューディサイズの負担が軽減されたとは、エイノー自身、知るよしも無かった。
    「提督。ペズンが爆破されたそうです」
     自室のインターホンの向こつから、ブリッジで応急修理の陣頭指揮に立っている艦長の声が飛び込んできた。
    「討伐隊が爆破したのか?」
    「いえ。ニューディサイズのようです。彼らは脱出し、新政府側も行方を掴んでおりません」
    "新政府" とは現在の地球連邦政府を指した蔑称である。もはや、この脱走艦隊の中では誰一人として現在の連邦政府を認める者は居ない。
    「そうか。彼らとの連絡はまだ取れないのか?」
    「今、通信士官にやらせていますが、通信レーザーの同期が取れません」
    「うむ。まぁ、彼らが最終的に月に向かうことは間違いない。損傷艦の修理の方を急ぎ給え」
     エイノーはインターホンのマイク・スイッチを切ると、フゥッとため息をついた。まだニューディサイズはエイノー艦隊の反乱を知らない筈だ。同士討ちだけは何としても避けなければならない。

     宇宙世紀0088、2月12日……。
     ニューディサイズ艦隊は月に近付くにつれて警戒体制を強めて行った。まさかペズン攻略の主力が月軌道艦隊だとは知らず、月軌道艦隊に対する備えをしていたのである。
    「おい。各突撃隊の発進待機は終了しているだろうな?」コッドはノーマル・スーツのヘルメットをクレイのそれに押し当てて尋ねた。
    「15分待機にさせてある。大丈夫だ」
    「例の "ツヴァイ" な、調整は済んだのか?」
    「どうした、急に? ははぁ……」クレイはコッドのヘルメットの奥の顔色を伺った。
    「貴様、久しぶりに出撃したくなったのだな。図星だろう?」
    「解るか」とニヤリとした。まるで欲しいものを買ってもらえる時の子供だ。
    「貴様の顔に大きく書いてあるぞ。だがな、ブレイブ。貴様はニューディサイズの首領だ。酷いようだがそれは駄日だ。万が一でも首領を失う訳には行かん」
    「貴様、俺が新政府の腰抜けどもに殺られると思っているのか?」コッドは少しがっかりしたようだ。
    「貴様は戦闘になると一兵卒に戻ってしまって、首領なのだという事を忘れてしまうからな」
    「つまらん。俺には所詮、組織のまとめ役は務まらんのだ。頭で考えるのはあまり得意では無いからな。その役目はトッシュの方が似合っている」
    「そんな事はない。貴様は俺よりも行動力が有る。その行動力が今の我々の組織には必要なのだ。頭を使う人間はいくらでも見つかるが、行動力は天性の物だ。指導力とかカリスマ性と置き換えても良いだろう。頭では人は使えん。だからこそ首領は貴様でなければならんのだ。その能力を一兵卒として、ただの戦闘で無駄に使って欲しくはない」
     クレイが言った事はワン・マン企業の社長像と同じだった。システマチックな大企業が地球連邦軍だとすれば、それに対抗するには同じように大規模な組織を作るか、小規模組織でも一人のカリスマに従って、全員が目標に向かって一丸となるワン・マン体制のどちらかしか無い。クレイはニューディサイズに後者の組織論を適用したのである。
    「月軌道に達します!」航宙士が個人回線でコッドに告げた。
    「おかしいな。そろそろ月軌道艦隊が迎撃に向かって来そうなものだが……」
     第1級警戒体制のまま、ニューディサイズ艦隊は浅い角度で月の周回軌道に進入して行く。そこへ通信士が割り込んだ。
    「コッド大尉。先程から通信レーザーが、この辺りをスクエア・サーチ(方形探索)しているのですが……」
    「おなじみの降伏勧告じゃ無いのか?」
    「分かりません。かなリサーチ・エリアを絞っていますし、発振も不定期です」
    「それでは一般広域通信ではなさそうだな。同期を取ってくれ」とクレイが口を挟んだ。
     通信士はパネルのスイッチを操作すると "キリマンジャロ" の指向性通信アンテナを発信原へと向ける。
    「発信原をサイド4の方角に特定。文字通信です。読み上げます……。"ワレ カイライセイフニ シタガウ ヲ イサギヨシト セズ。 にゅーでぃさいずニ "ギ" アリト シンズルモノナリ。 ワレラ トモニ タタカワン。 イズコニテ ゴウリュウ スベキヤ?"」通信士はここで言葉を切ると一段と明るく大きな声で発信者の名前を読み上げた。「地球連邦軍提督、ブライアン・エイノー」
    「エイノー閣下か……!」コッドの顔がパッと明るくなった。
    「サオトメの説得工作が成功したんだ。もう俺たちはこれで一人じゃないぞ!」滅多に喜びを顔に表さないクレイが笑った。表面では冷静を装っていても、彼もまた1部隊だけで抗戦するのは不安だったのだ。
     それから30分後。ニューディサイズ艦隊はエアーズ市の軌道連絡ステーションに到達した。
    「こちらニューディサイズ艦隊旗艦 "キリマンジャロ" 。早急に艦隊の寄港を許可願います」
     月面、エアーズ市の中央政庁ドームに有る入港管理局。モニターに疲れきった若い通信士の顔が映った。中年の管制官は市長から彼らのことは伝達されていたが、あいにく定期連絡シャトルが先に入港する事になっていたので規則に従うことにした。
    「20分ほど待機していてくれ。定期連絡シャトルの入港が有るんだ。悪いが港は現在、手一杯の状態でね」と管制官は残念そうに応答して見せた。だがその時、彼の肩を背後から不意に男の手が掴んだ。
    「彼らをすぐに入港させるんだ。定期便の方を待たせれば良い」そう言われ、振り返って見て驚いた。
    「市長……」
     管制官にうむと領くとエアーズ市々長、カイザー・パインフィールドはコンソールのモニターに向かった。相方向画像通信なのでモニターの中の若い通信士はパインフィールドの姿を見てハッとなる。
    「市長閣下、でありますか。ただ今、司令に代わります」次にモニターに映ったのはノーマル・スーツのヘルメットに大部分が隠されては居たが戦闘的な男の顔であった。ニューディサイズ首領、ブレイブ・コッドだ。
    「御苦労だった……」市長はそう言った。
    「市長閣下こそ、我々なぞに御協力頂き、感謝の念に絶えません」
    「礼には及ばん。諸君はもう既に残り少なくなった我々の同志、いや、家族だ。サオトメ君から諸君の決意は聞いている。心から歓迎させてもらう。それが唯一、あの戦闘から逃げた私に出来る事なのだ」
     コロニーレーザー攻防戦の際、パインフィールドはエアーズ市民軍の陣頭指揮に立っていたが、いざ戦闘が始まるという直前に彼の身を案じる部下たちによってエアーズ市へ連れ戻されてしまったのであった。事情はどうあれ、端から見れば敵前逃亡である。彼はそのそしりを甘んじて受け入れていた。部下たちを、市民たちを裏切ってしまったのだと自分を攻めなければどうして良いのか分からないのである。その彼にとって、ニューディサイズの申し入れは敗軍の将となってしまった己の恥辱をそそぐ最後のチャンスだった。今度は絶対に部下たちや市民たちの信用を裏切ってはならないと固く自分に言い聞かせていた。

    「ほぅ、大した戦力じゃないか。巡洋艦4隻とはな。我が艦隊の6隻にエイノー閣下の艦隊を加えれば大艦隊になるぞ。これなら月を制圧するのもた易い」
     コッドはプリッジから見える連絡ステーションに停泊中の、エアーズ市民軍艦艇を見て狂喜した。
    「ブレイブ。我々は武力で月を制圧するのではないぞ。それにここの艦艇はいささか旧式のようだ。単一戦闘力は新政府側艦艇の4割程度と見積もった方が良い。過大評価するのは危険だぞ」とクレイが水をさす。
    「なぁに戦は兵器で勝つもんじゃあない。技量だよ、技量。それに先ほどの話ではエイノー閣下はしこたま新兵器を運んできてくれているそうじゃないか。心配は無用だ。ここらで一発、会戦でもすりゃあ兵どもの不満も吹き飛ぶことだろうよ! その上で貴様の立案してくれた "月面都市連合" 構想とやらを実現できりゃあ万々歳だろう?」
     「月面都市連合」構想。クレイの立てたこの計画は大胆な物であった。宇宙に住みながらも重力の有る大地の上で生活しているという特殊な立場にある月面自治都市を連合国家として独立させ、地球連邦政府に対抗させようと言うのだ。ある意味、これはジオンの再来と言えよう。
    「本当は貴様が一番、会戦をしたいのだろう? 分かったよ。無理をせぬと約束するなら出撃しても構わん。決して貴様が指揮官なのだと言うことを忘れぬのならな」
     それを聞いたコッドの顔に子供っぽい笑みが広がった。
    「心配無い。贅沢ついでにだが、エイノー閣下の運んでいる新兵器とやらを俺にもらえぬか?」
    「Mk.Ⅴとかいう奴か?」
    「あぁ、そうだ。優秀なパイロツトとMSの組み合わせは戦争の大局をも変えられる可能性が有る。"1年戦争" のアムロ・レイの働きを思い出しても見ろ。俺たちなら、やれる。俺にくれれば、やってみせるさ」コッドは豪放に笑った。

     同12日、ニューディサイズ艦隊、月軌道に出現す。この報は追撃中のα任務部隊にもすみやかに通報された。一方、出撃待機中であったペズンの本星艦隊も月へ向けて出撃したが、通常の巡航速度では月到着までにあと2日はかかりそうだった。
     月を挟んでL4と正反対に位置するラグランジェ・ポイントL5。そこに有るスペースコロニー、サイド1の近傍の宙域に浮かぶ "コンペイトウ" 。かつて「1年戦争」時代にジオン公国軍の宇宙要塞ソロモンとして機能していた小惑星である。理屈で言えばここに駐留している連邦軍艦隊をも派遣してしかるべきである。だが、この艦隊はアクシズの動きに備えて迂潤にこの小惑星を離れることが出来なかったのである。
    「よくよく運に見放されているな」ブリッジのキャプテンズ・フロアーにある艦長席に座ったヒースロウはそうつぶやいた。これと言うのもペガサスⅢの艦速が速いのがいけないのだ。高性能だと重宝され過ぎる。それはこの艦に所属しているガンダム・タイプのMSパイロットたちも思っていたことだ。
    「艦長。あと24時間で月軌道です」航宙士が声をかけた。
    「艦隊全艦に制動命令。マニングス大尉を呼んでくれ給え。降下作戦の打ち合せが有る。それから各艦のMS部隊指揮官をこちらに移乗させてくれ」
     マニングスを呼び出すと、ヒースロウは艦長席から下りてブリーフイング・ルームヘ向かう。
    「艦長はブリーフィング・ルームヘ!」彼の背中を見送って、当番兵がブリッジ内に響き渡るように大声を張り上げた。
    「第1にニューディサイズの艦隊を叩く。それも奴らが完全に展開を終える前にだ」とペガサスⅢのブリーフィング・ルームに集まった、艦隊の各MS中隊指揮官を前にして、マニングスはそう言い切った。
    「我々の艦隊は奴らに約24時間の遅れを取っている。これを埋め合わせるには急襲しかない。24時間では艦隊周辺とエアーズ市の防衛体制を整えるのは難しいからだ。今回はさすがに敵にも質量弾や砲台を配備する時間の余裕はない。自らの艦艇、MS、エアーズ市民軍の艦艇を使った防衛行動しか取れないはずだ。諸君の技量をもってすれば、鈍重な艦砲を突破してエアーズ市への降下ウィンドウを確保するなぞた易いことだろう」
     ここで一同から忍び笑いが漏れた。
    「司令、脱走艦隊の動向は?」とチュンユンが挙手をして質問した。
    「現状では掴めておらん。だが、軌道とサイド4駐屯部隊との交戦からの回復時間を推測すれば、まだ我々の24時間前後、後方に位置していることだろう。あの艦隊は我々とほぼ同一の軌道を取って我々の後方からペズンに向かっており、最後にサイド4での交戦が確認されている。恐らく、反乱とペズン爆破を事前に何らかの方法で打ち合せしたわけでは無かったろうから、一旦は目視距離まで入ってペズンが爆破された事と最終目的地を確認した筈だ。それゆえに脱走艦隊の到着は我々よりも遅いわけだ。心配はない」
    「しかし、反乱と爆破が打ち合せ済みだったという可能性も考えられませんか」
    「それは確率的には低いだろう。そもそもニューディサイズとしては、ペズンにある程度の籠城を考えていた筈だ。SガンダムでSOLが破壊されなければな」
     一同は安堵のため息をついたり領いたりして、少しざわついた。
    「2日後に到着予定の本星艦隊は、同じ頃に到着するであろう脱走艦隊を十分に押えられる戦力を持っているが、互いに総力戦になれば互角の戦力だ。それだけに我々が出来る限リニューディサイズ艦隊の戦力を減殺しておく必要が有るのだ……」
    「結局は露払いじゃねえか!」声を上げたのはルーツだ。彼らガンダム・タイプのパイロットたちはMS中隊指揮官たちと同一の資格で任務説明に出席していた。
    ORDER ORDER ORDER ORDER
      第110MS戦隊(ペガサスⅢ所属)
      *ガンダム・チーム(2個中隊扱い)
       Sガンダム×1
       Zプラス ×2
       FAZZ1個中隊
      *ネロ1個中隊
      第112MS戦隊(レパルス所属)
      *ネロ3個中隊
      第114MS戦隊(スティキスホルム所属)
      *ネロ3個中隊
      第206MS戦隊(ユリシーズ所属)
      *ネロ3個中隊
      第207MS戦隊(カンバーランド所属)
      *ネロ3個中隊
    ORDER ORDER ORDER ORDER
    「露払いで悪いか、小僧! 司令がやるしかねえと言ってるんだ。"ハイそうですか" って言うことを聞きゃあ良いんだよ!」
     睨みつけて怒鳴ったのはチュンユンである。他の中隊指揮官たちもこの2人に注目した。
    「俺は手前ェのやり方を指図されるのが大ッ嫌いなんだよ。あんたたちや、そこの偉そうな奴がよォ……」と立ち上がってマニングスにアゴをしゃくる。"死ね" って言えば喜んで死んじゃうわけね。あぁ、嫌だ嫌だ。手前ェが納得ずくで死ぬならともかくさ。他人に命令されて死んだら浮かばれねェえよな……」
    「そいつが軍隊なんだよッ! 軍隊は組織だ。貴様が入隊した以上、貴様も組織の歯車の一つなんだ!」
    「嫌なこった。じゃあ、あんたたちだけで勝手に死んじゃえば?」
     やりとりを見ていたマニングスは、このままではルーツは同じ艦に所属するMS部隊指揮官だけではなく、他の指揮官たちとも問題を起こし兼ねないという危機感を抱いた。この大事な時に不協和音が聞こえるのは大変にまずい。「私は諸君らを殺しはせん。安心しろ」と一喝した。
    「本作戦の主攻、艦隊撃滅はスペリオル、プラス、FAZZの各ガンダムをもって行なう。各MS中隊は艦隊周辺に展開した敵MSに通常のフォーメーションであたる。作戦開始は地球標準時12日、1000時。諸君の健闘を祈る!」艦隊の全MS部隊から浮き上がってしまったルーツ
    たちの問題を抱えつつ、作戦は決行の時を迎える……。

     明けて13日、西欧では兇数である。まさしくα任務部隊にとってこの日は兇数となろうとしていた。
     この日、地球標準時0400。ニューディサイズとの連絡をとり、L1の暗礁宙域を出発したエイノー艦隊が球陣形を組み、細く長い推進剤の光の尾を引いて月軌道に到着した。これは最大の戦略ミスであった。α任務部隊の軌道到達前に二つの艦隊が合流してしまったのである。
     エイノー艦隊に所属する2隻の強襲揚陸艦はエアーズ市の宇宙港へ向けて巨大な推進ノズルを地表側に向け、爆発的な炎の固まりを吹き出しつつ大きな角度をとって減速しながらゆっくりと降下を開始した。その腹の中にはGMを始めとするMSが満載されている。
    「 "ブル・ラン" の発光信号です!」とブリッジの監視員が "キリマンジャロ" に接近してくる小さな光を捉えてコッドに伝えた。
    「エイノー閣下か!」
     点滅する小さな光はブリッジの窓外に広がる宇宙空間で次第に戦艦のシルエットとなり、エイノーの座乗する "ブル・ラン"が現れた。"ブル・ラン" は "キリマンジャロ" の左舷側に並ぶ。乗組員たちは左舷窓にワッと駆け寄った。
    「コッド大尉。前の戦争以来だな」
     レーザー通信の音声が "キリマンジャロ" のブリッジに響くと同時に、エイノーは敬礼を送った。コッドはかつて「1年戦争」の際、エイノーから直接、部隊感状を受け取ったのを思い出していた。
    「エアーズ市民軍とニューディサイズ諸君に手土産を少々、持参した。それからもちろん、例の新兵器もだ……」
     この瞬間、α任務部隊の戦力だけでは戦局は打開出来無くなってしまったのである。

     地球標準時13日、0100時。
     ペガサスⅢのブリッジから見ると、宇宙に沢山の蛍が舞ちているかのようだった。Sガンダムを始め、艦隊所属の全MSが出撃したのだ。そのほとんどはネロである。艦隊搭載MSの全戦力中の1/3、15機を艦隊の直衛に残し、他のMSはニューディサイズ艦隊が展開しているとおぼしき宙域に向かう。敵艦隊を撃滅し、エイノー艦隊の到着前にエアーズ市を制圧する。この目的のためにさらに半数の15機のMSがランディング・ディバイス(月面降下装置)を装備していた。もちろん彼らはその前に待ち受けている運命を知らなかった……。
     最初の悲劇が降りかかったのは、攻撃隊の第112戦隊の9機のネロだった。先行していた1機のネロが突如として醜く膨れ上がり、爆発した。
    「なんだっ……」
     青白いビームがネロ隊を包むように飛び交い、死のショータイムがその幕を開ける。
    「待ち伏せか!?」
    「3個中隊はいるぞッ!」
    「どこから射ってきやがるんだ!」
     ネロ隊はたちまち混乱の渦に叩き込まれた。部隊間通信に怒号が飛び交う。シュッと "何か" が通り過ぎた瞬間、2機のネロが続けざまに爆発した。パイロットたちは自分が一体、何者にやられたのか分からぬまま無酸素の地獄に堕ちて行った。
     生命の炎が消える時に放つ、一瞬の輝きの花があちこちで咲く。第112MS戦隊はものの数分で文字通り消滅してしまった。もしこの光景を遠くから見られれば、光の花が咲く前に断続的に様々な方向から降り注ぐ光のシャワーが見えたに違い無い。
     かつて第112MS戦隊だった残骸の中にゴゥッと周囲を震わせて、身体中に白いイレズミを施した様な青いMSの機体が姿を現した。その姿は鬼神の様であったが、まさしく "ガンダム" であった。その "ガンダム" の両肩にヒュンと小さな円盤が二つ戻ってくる。円盤がガチッと収納されると "ガンダム" の両眼が怪しげな光をたたえた。
     秘匿名称、新器材 "G"。通称をG-Ⅴと呼ばれたこのMSは、連邦軍内では正式にはガンダムMk.Ⅴと言った。
    「インコム・システムか。上々だな」
     パイロットのコッドはそう言うと舌なめずりした。
    「第112戦隊、消滅しましたっ!」
    「な、何だと?」
     ペガサスⅢのブリッジのモニターからその部隊のIFF(敵味方識別信号)が突然に消えた。
    「待ち伏せされたと言うのか!? 連中はもう展開を終えているとでも……!? まさか……」
     報告を聞いたヒースロウの脳裏に最悪のケースが浮かんだ。待ち伏せを仕掛けられたのなら、それ相応の数のMSが遊撃軍として存在している筈だ。エアーズ市民軍のMS戦力など取るに足らない……。導き出された解答はただ一つ。エイノー艦隊だ。
    「いかん!全機に侵攻ルートの変更を指示するんだっ!!」ヒースロウは立ち上がりざまに叫んだ。その拍子に艦長帽が脱げ、宙に漂う。
    「駄目です。奇襲効果のために通信封止を徹底させていますッ!」
     通信士官の返答に、一同の顔が見る間に蒼ざめて行った。


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  • 【こどもの日記念】MOTHER ゲームBGM~Pollyanna (I Believe In You)~ 子供が歌える和訳歌詞

    2016-05-05 19:26

     MOTHERの、BGMであるPollyanna (I Believe In You)を和訳してみました。
    色々なサイトでPollyanna (I Believe In You)の和訳をしている方々がいらっしゃいますが、気楽に歌えるような和訳が無いのが現状です。理由は、Pollyanna (I Believe In You)の歌詞が英語と日本語の言語表現の違いによるものです。
     今回のPollyanna (I Believe In You)の和訳は、こどもの日ということで子供でも歌える歌詞を考えました。こじつけた部分も多いですが気楽に歌える様な歌詞にしました。


    Pollyanna (I Believe In You)

    I believe in morning sun
    朝日を信じて
    Always gonna shine again and
    いつでも昇ってる
    I believe a pot of gold
    金のツボを信じてる
    Waits at every rainbow's end, goes
    虹の端っこにある
    I believe in roses kissed with dew
    バラが朝露とキスするのを信じてる
    Why shouldn't I believe the same in you?
    あなたを信じてもいいでしょう?

    I believe in make-believe
    空想を信じて
    Fairy tales and lucky charms, and
    おとぎ話 幸せの呪文
    I believe in promises
    約束を信じてる
    Spoken as you cross your heart, oh
    あなたと心を通わせた約束
    I believe in skies forever blue
    空が果てなく青いって信じてる
    Why shouldn't I believe the same in you?
    あなたを信じてもいいでしょう?

    You may even say I'm a fool
    馬鹿だっていうかも
    Feelin' the way that I do
    正しいって感じる
    You can call me Pollyanna
    楽天家って言っていいわ
    Say I'm crazy as a loon
    頭がおかしい馬鹿
    I believe in silver linings
    希望の光を信じてる
    And that's why I believe in you
    あなたを信じる理由

    I believe there'll come a day
    あの日が来るって信じて
    Maybe it will be tomorrow
    明日かもしれない
    When the bluebird flies away
    青い鳥が飛び去り
    All we have to do is follow
    その後を追うだけでいい
    I believe a dream can still come true
    夢はまだ叶うって信じてる
    Why shouldn't I believe the same in you?
    あなたを信じてもいいでしょう?

    You may even say I'm a fool
    馬鹿だっていうかも
    Feelin' the way that I do
    正しいって感じるの
    I believe in friends and laughter
    友達 笑い声
    And the wonders love can do
    愛の奇跡
    I believe in songs and magic
    魔法 歌を信じてる
    And that's why I believe in you
    あなたを信じる理由

    You may even say I'm a fool
    馬鹿だっていうかも
    Feelin' this way about you
    私のすることを
    There's not much I can do
    これっぽっちしかできない
    I'm gonna be this way my life through
    この方法で生きていくわ
    'Cause I still believe in miracles
    まだ奇跡を信じてる
    I swear I've seen a few
    少し見ちゃった
    And the time will surely come
    その時はきっと来るわ
    When you can see my point of view
    私の気持ちがわかるなら
    I believe in second chances
    次のチャンスを信じて
    And that's why I believe in you
    あなたを信じる理由



  • 【機動戦士ガンダム・センチネル】第1部■激動編 第4章 CONQUEST OF PEZUN ペズン制圧

    2016-05-04 22:40

    第4章
    CONQUEST OF PEZUN ペズン制圧

    SOLの破壊によって浮き砲台へのエネルギー供給が絶たれた結果、ペズンの防衛線は若千の後退を余儀無くされてしまった。しかし、この様な状況に黙っているようなニューディサイズでは無い。この劣勢を挽回するべくペズンでは新たな防衛作戦が立案され、実行に移される事となった。
     一方、「ペズンは宇宙要塞なり」というα任務部隊の報に触れた地球連邦軍はペズン攻略の為に地球本星艦隊の本格的な投入を決意、ブライアン・エイノー提督摩下の地球本星艦隊、X分遣艦隊が先鋒としてペズンに向けて出撃する事となった。
    ORDER ORDER ORDER ORDER ORDER ORDE
      地球連邦軍総司令部―地球本星艦隊┬*エイノー艦隊―α任務部隊   
                      |X分遣艦隊
                      |
                      ├Y分遣艦隊
                      |
                      └Z分遣艦隊     
    ORDER ORDER ORDER ORDER ORDER ORDE
     猛将エイノー。彼は将兵たちから、その容貌と行動に親しみを込めて "ハゲタカ提督" というニックネームを奉られていた。エイノーは地球連邦軍高等士官学校の校長に任じられ、実戦部隊を退いていたのだが、今回の事件に際して再び実戦部隊の司令官として返り咲いたのである。連邦政府内での評判が良く無い彼を司令官に据えたのには、連邦軍内部の事情が絡んでいた。ペズン、及びニューディサイズの武力制圧を決意したとは言え、まだまだ連邦軍内部では彼らを穏便に投降させようとする意見も根強く、将兵からの人望の厚いエイノーを司令官に据えることで最後まで交渉を試みようと言うのである。「人を尊敬する」という意識にはイデオロギーの差異は無縁である。しかし、彼の人望を利用してペズンを無血開城させようという姑息な「読み」が見事に裏切られる結果になろうとは、まだ誰も考えてはいなかった。
     また連邦軍は政府に対して、グリプス戦争における戦力の疲弊、実戦経験指揮官の不足といった面で「現状ではエイノー以外に適任者は無し」と説明し、政府はこの決定を受け入れる他には無かったのである。

     小型作業艇に乗っているまだ若い作業員は「威容」という言葉はまさに、この光景の為に存在するに違い無いと思った。
     今、低軌道連絡ステーション "ペンタ" には宇宙要塞コンペイトウ駐留の艦艇を加えた、地球本星艦隊のほとんどが集結していた。不釣合いなほど大きなコンテナを曳いたちっぽけな作業艇は、1時間後に出港が予定されているX分遣艦隊の各艦艇が係留されている係留ブームヘと向かう。出港の最終調整に慌ただしいこの時期になって、若い作業員は上司から訳の分からないコンテナを旗艦の "ブル・ラン" まで搬送するようにと命じられた。サイズからするとMSか大型の武器なのだろう。出港直前にこんな荷物を積むなんてどうかしている。推進剤の計算をやり直さにゃならんだろうに、と彼は思った。荷請書には「新器材 "G" 」とだけ書かれていた。秘匿名なのだろう。GってことはGun(大砲)の略なんだろうな。彼は漠然と新式の大砲だろうと思ったきり、後は気にもかけなかった。
     他を圧する "ブル・ラン" と "マレンゴ" の2隻のマゼラン級(改)宇宙戦艦を中心に、 "パサデナ"、"ヴォルゴグラード"、"パナマ"、"カシマ"、"ブラジリア"、"ダナン"、"ストックホルム"、"ドルトムント" の8隻のサラミス級(改)宇宙巡洋艦、そしてMS揚陸艦として改装を受け、補助空母化された "イオージマ"、"イワン・ロゴフ" の2隻のコロンブス級(改)輸送艦、並びに通常の補給任務に就くコロンブス級輸送艦6隻が整列している。その周りを、多くの小さな作業艇が忙しく飛び回っていた。
     ニューディサイズ討伐隊の旗艦である戦艦 "ブル・ラン" には提督の座乗を示すフラッグ・プレートが誇らしげに掲げられている。この艦は、かつてのマゼラン級戦艦にMS運用能力を持たせた物だ。かつての海上艦で言えば航空戦艦にあたる。その艦内、自分用に与えられた士官室で、エイノーは歴戦の宇宙戦艦につきものの、懐かしい、腐ったタマネギと酸っぱい匂いが混じった臭気をかいでいた。ペガサスⅢの様な新造艦は真新しいペンキとプラスティックや金属の匂いが充満しているからまだ良いのだが、歴戦の艦は一般に、慣れない人間にとっては気が遠くなりそうなほど異様な匂いがする。なにしろ周りは宇宙空間である。匂いを抜くために窓を開けるという訳には行かない。かと言って、空調設備に頼れるかというとそうではない。なにしろ軍艦なのだ。客船ではないから人間の快適さなどは二の次なのである。これはMSにも言えた。歴戦の乗組員たちにはこの匂いが染み着いているからすぐに判るのだ。脱臭剤などクソの役にも立たない。長期の戦闘航宙ともなれば、シャワーも浴びられないので乗組員の匂いは一層ひどくなる。「優秀な宇宙艦乗りはゴミ屋と乞食である」というジョークは古参乗組員が新米の乗組員に対してよく使うものだった。これよりひどい匂いはノーマル・スーツのヘルメットだけだとすら言われている。
     そんな中、エイツーは今からひと月ほど前に地球で自分を訪ねてきた男の事を思い返していた。

     その男は最初、月のアナハイム・エレクトロニクスの者だと名乗った。スマートと言うよりも、ひょろりと長細く見える体型が低重力下で生まれ育った者である事を物語っている。強烈な太陽光には慣れていない為、地球上ではサングラスを外さないのも宇宙生活者特有のものだった。仕立てのあまり良く無い、黒いジャケットをみっともなく着ていることから対人関係の仕事では無さそうだと推測出来る。エイノーはその男に軍人の匂いをかぎ取った。男の足元に目をやると、まだ地球の重力に慣れていないのが分かる。軌道から下りてきたばかりなのだろう。その男の顔にはどこと言って特徴は無い。強いて言えば、やや角張った輪郭ぐらいだろう。椅子を勧めると男は札を言って大儀そうに腰掛けた。
    「手短かに願えんかな。また宇宙に戻らねばならんのだが、その準備で忙しくてな……」
    「ぶしつけですが、閣下は "宇宙人" であられますか?」
    「儂は、自分が掛値無しの "地球人" だと信じておる。最近の月ではそんな挨拶が流行しておるのかね?」
     男はニヤリと笑うと、あっさりと自分の素性を明かした。彼はサオトメという名で、これからエイノーが艦隊を率いて対決しようとしている、例の教導団の人間だと語った。
    「ならば、コッドやクレイ、パーシュレイたちにおとなしく投降するように伝えてくれんかね。互いに無用な流血は避けたいとは思わんか? 増して、君らのような優秀な兵を失うのは心苦しい」
    「自分には投降の勧告は出来ません。なぜなら、自分は閣下に我々の意志を知って頂きたくて、連邦軍憲兵による逮捕の危険をおかしながらも地球まで参上したのですから。それに、我々は負ける気は有りません。現在、教導団隊員に匹敵する技量を持ったパイロットは、連邦軍内にはほんの僅かしかいないでしょう。それは閣下の方が良く御存知の筈ですが」サオトメは続けて、教導団の隊員たちがなぜ、このような行動に走ったのかを詳細に熱っぽく語った。
    「我々は最後には、地球と "地球人" の為に腹を切る覚悟であります。閣下、なにとぞご理解を頂きたい……」
     腹切りとは古風な例えだ。確か、原典は "サムライ" という戦士が使う東洋の古い言葉の筈だ。この男、祖先は東洋系だなと漠然と思った。しかしサオトメの説明には一種、異様な迫力が有り、知らず知らずの内にエイノーは彼らの主張に賛同して行った。それは彼が現在の連邦軍に愛想をつかしていたからかも知れない。彼は軍隊に生まれ、軍隊で育ったような男だった。だが現在の地球連邦軍は、彼の信じるような軍隊ではなく職業訓練校だった。そんな中にもこのような男たちが未だに居ることを誇らしく思っていた。国を守ってこそ軍隊である。少なくとも自分の国は現在の軟弱な地球連邦政府では無い。私は国家の存続の為に戦って死ぬのだ。老提督の心の中の、軍人特有の下らないヒロイズムに火が着いた。やがて彼は自ら進んで彼らの計画に耳を傾けていた。
    「月。そこに政権を樹立するのか……。とんでもないことを考えたものだな。クレイ大尉も」
     教導団から来た男、サオトメはエイノーの瞳の中に言い知れぬ興奮の光を見てほくそ笑んだ。彼の真の姿を知る者は、教導団の中にすらまだ居ない……。

     本星艦隊の到着を待つ間にも、α任務部隊のMS隊は交代で戦闘訓練を続けている。ペガサスⅢ所属のガンダム系MSのパイロットたちはそれぞれ実戦を経験したものの、彼らの練度はマニングス大尉にとっては全く不満なものであった。特にリョウ・ルーツには協調性のかけらも見あたらなかった為、彼にそれを教え込むことに主眼を置いていた。
    「ルーツ! 次はFAZZ隊、プラス隊と梯団を組め」
    FORMATION FORMATION

             ▲

           △   △

         ↑   ↑   ↑


    FORMATION FORMATION
     マニングスの命令に従い、Sガンダムは2機のZプラスの前方に位置する。最後列には3機のFAZZが着いて、6機のMSはSガンダムを頂点とする三角形を成す編隊を組んだ。
    「今度は上下へ変換! 3機づつのフィンガーチップ隊形だ」
     コクピットに次々と飛び込んで来る命令に、ルーツはすっかり嫌気がさしていた。やはり他人に命令されるのは嫌いな質なのだ。上になったり下になったりとさっきから1時間も同じ事の繰り返しだ。「マニングスの野郎め……」と何度も心の中で毒づいてみた。「ルーツ! リョウ・ルーツ! 聞こえんのかッ!」
    FORMATION FORMATION

             ▲

               △ △

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       ↑   ↑

    FORMATION FORMATION
     ルーツが心の中でマニングスに対する罵詈雑言を次々と浴びせかけるのに没頭している間に、他の5機はもう編隊を組んでいた。慌ててSガンダムをウェストのZプラスの左前方につけた。
    「やめちまえ、パイロットなんかやめちまえ、このクズがッ! 貴様はクビだ! 貴様がボーッとしている間に編隊は敵ビームの直撃を2、3発は食らっているぞ。敵さんは待っちゃァくれんのだからな。今のが実戦だったら、私は "不幸にも御子息は戦死されました" なんて手紙を貴様の親に書くつもりは無いぞ。逆に、"あんたのクズ息子のお蔭で艦隊は全滅です" と苦情を一言ってやるからそう思えッ!」言ってから、マニングスは人事ファイルに有ったルーツの家族構成を思い出し、しまったと思った。
     マニングスの言い様にルーツは激怒した。
    「うるせェー、アホンダラ! 残念だったなァ、おっさん、俺の両親はとっくの昔にあの世に行ってんだよッ!」
     確かに、自分のミスを弁解する余地が無いのは分かっていたが、いかにここが軍隊であり相手が上官とはいえそこまで言われる筋合いは無いと思った。何しろ彼の両親を奪ったのは他ならぬ連邦軍ではないか。マニングスの言い様にも腹が立ったが、それよりも同僚パイロットたちの忍び笑いが彼の自尊心を大きく傷つけた。
    「ギャアギャアと艦のブリッジから指図するだけで、手前ェは何もしねぇってのは気に食わねぇな! そんなに偉そうな態度が取れるほど強いんなら、俺と勝負しろよッ!」
    「私に勝つつもりか? 面白い。よし、プラスとFAZZ隊は帰投しろ。ルーツ、私に勝てたら前言を撤回してやろう。小便を漏らすなよ」
    「よ、余計な事を言うんじゃねぇ!」
     Sガンダムを残して5機のMSは反転すると、噴射煙の青白い航跡を残しながらペガサスⅢへの帰投コースに乗った。
    「せいぜいがんばれよ、ダンナ」と帰り際にFAZZのクリプトが憎まれ口をきいた。

     その頃、エイノー提督の率いるX分遣艦隊の各艦は軌道高度脱出用ブースターを装着し、予定通りにペズンヘと出撃して行った。予定外だったのは、出港直前、旗艦 "ブル・ラン" のMSハンガーに「新器材 "G" 」とだけ書かれた一つのコンテナが運び込まれたことだけだった。そのコンテナの中身はMSであり、"ガンダム" であった。このMSは実はコロニーレーザー戦の為に用意されていた物であったが、実戦に使用されることなくペンタに保管されていたのである。未調整の機体ではあったが今回の事件の発生により、ペズン宙域に先行しているペガサスⅢに搭載されたSガンダムをはじめとする "ガンダム" タイプの各MSと共に、急遠、実戦投入が決定されたのである。それはいつの時代、どこの軍隊にも見られる、「存在する兵器を使わずにはいられない」という軍人たちの危険な好奇心だった。

    「どうした、まだ私が発見できんのか? ルーツ……」
     さっきからコクピットにはマニングスの声が響いているのだが、肝心の機体が見あたらない。ルーツは苛立っていた。
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     マニングスめ……何処だ、と思った瞬間、Sガンダムの左脚にビシッと軽い衝撃を感じた。クソッ、下か!?
    「左脚部のパワーを全てオフにしろ。貴様の機体の左脚はもう使えん」
     Sガンダムの左脚にマーカー弾の赤い塗料がベッタリと染み着いていた。
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     グォーッとSガンダムの左下方からマニングスの駆るMS、"ネロ" の教官用特別改修機が真上へと上がってくる。ルーツがモタついている間に、ネロはSガンダムの後方ヘバレルロールを繰り返しつつ上昇し、Sガンダムが発射するペレットを避けながらピッチバック機動に移るとSガンダムのコクピット目掛けてペレットを1発、発射した。
    「貴様は戦死だ。ルーツ……」
     ルーツは唖然とした。カタログデーターでは明らかにSガンダムの方が優っているのに……。パイロットの腕前、いや人間の技量は機械的な優位性をこうも簡単に覆してしまうのか……。皮肉なことにルーツの感想は、SガンダムのSOL攻撃の際にニューディサイズのMSパイロットたちが感じたものと "人間の技量" と "優秀な機械" が入れ替わっただけの同じものだった。
    「もう1回だ! マニングス、もう一度チャンスをくれっ!」
     ルーツ自身は気が付かなかったが、彼は連邦軍に入隊して以来、初めて上官に素直に物を頼んだのだ。この変化はマニングスにとって心地よいものだった。
    「よし、良いだろう」
     この小僧にも、少しは肝っ玉と真剣さって奴が身についてきたようだな。戦争はヒーローごっこじゃ無いってことを、もう少し分らせてやろう。彼は目を細めて一人ニヤッとした。

     宇宙世紀0088、2月6日。X分遣艦隊がペンタを出港して2日目。α任務部隊がSOLを破壊してから5日後の事である。
     エイノー提督は "ブル・ラン" の艦橋に据えられた一段高いシートから、艦長に日配せした。戦艦 "ブル・ラン" の乗組員はほとんどエイノーのかつての子飼いの部下だった者たちであり、彼は既にこの艦を掌握していた。この辺りまで来ればペンタのMSや艦艇には追撃不可能な宙域である。またα任務部隊はペズンから動くことは出来ない。
    「提督」と、艦長はしっかりとエイノーにマイクを手渡した。互いに顔を見合わせて領く。
    「地球連邦軍本星艦隊、X分遣艦隊の全艦艇将兵諸君に告ぐ。私はブライアン・エイノーである。これより本艦隊は連邦軍総司令部からの命令を変更し、現在、ニューディサイズと名乗る教導団将兵たちと合流する。今回の事件に於て、小官は "義" はニューディサイズに在りと見た。彼らの主張する通り、地球圏は飽くまで地球の物であり、地球こそがその中心なのである。先の紛争の混乱に乗じて台頭してきた "宇宙人" にそそのかされ、"宇宙人" の言いなりとなった政権の、いや、実体は "宇宙人" どもの愧儡政権が下した命令に地球連邦軍は従うことは無い、と小官は判断する。また "地球人" である誇りが有るならば、決して従ってはならない。故にこれは地球連邦政府、及び地球連邦軍への抗命ではない。地球連邦軍は地球の為に戦う軍隊なのである。あの「1年戦争」を想起せよ。正義は地球とコロニーのいずれに在ったのか? 小官の決定に不服な者は12時間以内に艦隊より退去せよ。真に地球人たる誇りを持つ者のみ、小官と共に行動せよ。諸君の英断を期待する。地球連邦万歳。以上」
     放送は "ブル・ラン" のブリッジ要員の拍手と歓声で締めくくられた。
     この放送が流されると同時に、将兵の間には動揺が走った。提督は発狂したのでは無いか? しかし地球連邦が "宇宙人" の言い成りになる事は出来ないという話も分からないでも無い……。"ブル・ラン" には間い合わせが相継いだ。だが発狂ではないと判ると "ブル・ラン" 以外の艦艇間の通信が多くなった。互いに判断がつきかねているのだ。"パサデナ" と "ダナン" が艦隊を離脱する旨を伝えてきております」
     艦長は通信士からのメモを見ながらエイノーに伝えた。提督は領き、「各艦ごとの離艦希望者は輸送艦に移乗させよ」と告げる。この艦隊の中で離脱を希望したのがたったの2隻だけであったというのは、エイノーが連邦軍高等士官学校の校長としての在職期間が長かったことが幸いした。艦隊のほとんどの艦長や上級士官は彼の教え子だったからだ。
     12時間が経過した。"パサデナ" と "ダナン" は2隻のコロンブス級輸送艦を引き連れて艦隊を離脱する。これが後に、「提督の謀反」と呼ばれる事件であった。以降、エイノー艦隊は連邦軍司令部と接触を絶ち、行方をくらました。

     エイノー艦隊脱走の報がもたらされると、地球連邦軍司令部はパニックに陥った。もはやこの艦隊は追撃は出来ない宙域へ進出してしまっていたからだ。また、この強力な艦隊が反旗を翻したことにより、ペズン攻略の戦略は根底から覆されてしまったのである。
     エイノー艦隊は現在、α任務部隊の背後へと向かいつつある。交戦すればα任務部隊とてひとたまりもないだろう。「提督の謀反」のニュースはα任務部隊に速やかに伝達された。
    「何ッ? では我々の主力部隊が、ほぼまるごと敵側に!?」
     ヒースロウの全身から力が抜けて行った。
    「それで、総司令部は何と言ってきているのだ?」
    「α任務部隊は現宙域より離脱し、正対宙域まで速やかに移動。エイノー艦隊は月軌道艦隊が追撃するとの事です」
    「月軌道艦隊か……」
     月軌道艦隊は月のフォン・ブラウン市に司令部を置き、月の公転軌道を周回しているパトロール艦隊である。この艦隊は地球本星艦隊とは戦力的に劣るもののエイノー艦隊に匹敵するだけの戦力はある。総司令部はこの宙域に最も近い宙域を哨戒中だった月軌道艦隊をエイノー艦隊にぶつけるつもりなのだ。また、ペズン攻略の主力はこの月軌道艦隊がエイノー艦隊に代わって受け持つ事になった。 一方、ペンタでは本星艦隊の残りであるY及びZ分遣艦隊の出港準備が急がれていた。今まで連邦軍内の「事件」で片付けられていたものが、にわかに「戦争」の観を呈し始めた。これは地球連邦軍にとって、避けねばならなかった最悪の事態である。グリプス戦争でティターンズとエゥーゴの抗争を抑止出来なかった無能組織とみなされた連邦軍は、失墜した権威をまたしても失うハメになりかねなかったからである。

    「俺に遊撃隊を編成させてくれ。巡洋艦を1隻預けてくれれば良いのだ」
     ドレイク・パーシュレイは先ほどから何度もコッドに哀願していた。
    「どう思う。トッシュ?」と協に立つクレイに意見を求める。
    「まるで話しが通らんな。たかだか巡洋艦1隻の戦力で、大艦隊を相手に一体何が出来るのだ? 艦隊戦力不足の今、単独艦での作戦行動は理屈に合わないがな」クレイは冷やかな視線をパーシュレイに投げかけた。パーシュレイはニューディサイズ結成の元となった反乱の中心メンバーの一人である。
    「まさか……、臆したのでは無いだろうな?」コッドの問いにパーシュレイはハッとなった。通信暗号を変えられ、レーザー通信を妨害されて連邦軍の動向が掴めないニューディサイズは、隊員のサオトメを地球へ潜入させてエイノーヘの事前工作を行なったとは言え、提督が、まさか本当に反乱を起こしたとは知らなかった。事前工作は単なる時間稼ぎくらいにしか考えていなかったのだ。もちろん彼らはエイノーの指揮するこの艦隊が、今まで通りにペズン攻略の主力艦隊だと思っていたのである。その艦隊は単独部隊で連邦軍全体を敵に回さざるを得ないニューディサイズの将兵たちにとって、実体以上に巨大なものに思われたのだ。地球連邦軍に投降した方が良いのではないかと考える者が出てきても不思議ではない。
    「臆してはおらんよ。そう取られるとは心外だ。浮き砲台が沈黙させられた今、ペズンの前進位置で機動砲台として作戦を行なう部隊を編成すると言っているんだ。MS部隊も一緒に回してくれとは言っておらんぞ」
    「それが違うのだ、ドレイク。たったそれだけの任務に割ける艦艇の余裕は我が方には無い」
     クレイを睨むとパーシュレイは司令室を出て行った。
    「ヤツには監視を付けた方が良い。臆病者の目だ」
    「そうだな、トッシュ。兵たちが動揺しているのは分かる。このまま敵と睨みあいを続けていれば、士気が崩壊するのは日に見えているしな。ここらで……」
    「粛清か。確かに組織には規律が必要だ。この先の計画にも関わってくるしな。見せしめにドレイクを使うのか……。つまり私にドレイクを斬れ、と言うのだな……」
    「そういうことだ。心配はしていないが、貴様にも忠誠を見せて貰わんと兵たちが納得せん」
    「分かった。ジョッシュと私がやろう。ところで例のプランだがな、コッド。あれと、ペズンを利用する方法を思いついたのだ」
    「ほぅ。何だ?」
    「ペズンは連中にくれてやって、我々は脱出する。もぬけの空になったペズンに敵艦隊が近付いたら、ここを核で爆破してダメージを与える」
    「なるほど。しかし、それでは我々の撤収をうまくカモフラージュする必要が有るな」
    「その援護と揚動をパーシュレイにやらせれば良いのだよ。敵と通じようとした所を討たれるのだ。皆んな納得する」クレイの青い瞳が不気味な茶色の光を発した。(注:茶色には「人をだます」という意味が有る)
    「抜け目が無いな」
    「少ない戦力は有効に生かさんとな……。奴には我々の正義の為に死んでもらう」
    「ところで我々が撤収するとしても、エアーズ市の方とは連絡は取れているのか?」
    「サオトメが工作している。うまく行きそうだという通信ドローンを回収した。皮肉なものだな。外界との通信手段は手紙の時代に逆戻りだ」
     クレイは小さな光学ディスクを右手の親指と人指し指で摘まんでヒラヒラと振った。
    「フフ、敵はもう決して月面には降りられん。勝算は有るさ……」

    「艦長、月軌道艦隊より通信が入りました」
     命令通りに、ヒースロウは艦隊をペズンを中心とした180度反対の宙域に展開させた。エイノー艦隊の来襲に備えて、既に全艦、第1級戦闘体制である。そこへレーザー通信が入った。
    「うむ」
    「エイノー艦隊の艦影は見えず。針路を変更した模様なり」
    「変針した? ペズンには来ないのか……? そんな事は有り得ない」
    「その様です。月軌道艦隊は、こちらと合流してペズン攻略戦を開始するとの事です」
    「馬鹿な! 攻略戦の最中に、その艦隊が我々の背後を衝いたらどうするつもりなのだ!?」
     正統に考えればヒースロウの言う通りである。しかし、地球連邦軍は一刻も早く事態の収拾を付けたがっていた。
     9時間後、月軌道艦隊8隻の艦艇がペズン宙域に姿を現した。作戦計画は既に連邦軍司令部が立案していた物を、そのまま使用する事になっている。簡単に言ってしまえば、2つの艦隊をもって互いに正反対の方向からペズンを挟み打ちにするのだ。
     時を同じくしてサイド4駐留部隊から緊急通信が入った。エイノー艦隊を発見したというのである。この部隊はエイノー艦隊と交戦し、少なくとも2隻を撃破したらしい。幸いにしてサイド5にはコロニーレーザー戦の後に応急修理を行なっていたエゥーゴ艦が有ったため、通常の駐屯部隊より戦力が増強されていたのである。しかし味方の損害も激しく、追撃の余裕は無かったようだ。交戦した後、エイノー艦隊は再び姿を消したという。
    「エイノー艦隊はどこへ向かうつもりなのだ? 月か。サイド3か。それとも "コンペイトウ" なのか……」
     エイノー艦隊の予測針路を見ても、ヒースロウには彼らの目的地は判断がつきかねた。どれも可能性が有るのだ。だが、少なくともペズン戦の最中に背後から襲われる心配だけは無くなったようだ。実はこのエイノー艦隊とサイド4駐屯部隊との交戦は、大局的に見ると予定された行動であった事が後に判明する。
    「攻撃開始は翌、7日。地球標準時0600。艦砲、MSの2段階で行なう」
     ヒースロウはエイノー艦隊の針路を気に掛けながら、総司令部からの命令を全乗組員に告げた。

     翌、2月7日。ペガサスⅢのパイロット・ピットには、これからの作戦に備えて全パイロットが集合していた。SガンダムやZプラス、FAZZのパイロットたちに加え、ペガサスⅢ所属のもう一つのMS中隊である、3機のネロのパイロットたちも一緒なのだ。ネロ隊の隊長はチュンユン中尉という叩き上げのベテランであった。ルーツたちから見ればマニングスと同類の口うるさいヤツである。
     マニングスはおもむろに作戦説明を始めた。
    「0600時。本艦隊、及び月軌道艦隊の二つの艦隊は、ペズンの両翼から艦砲の有効射程へ前進、砲撃を開始する。我々MS隊は3パルス目の艦砲射撃と共に順次射出発進、ペズンの港口を占拠する。本艦の射出順序は次の通りだ。リョウ・ルーツ、Sガンダム……」
    「俺が1番かよ! 御免だね」
    「じゃあ、俺が代わろうか? 今のところ、俺の所だけ戦果が無いからよォ、一番乗りで敵をブッ殺してきてやるよ」とクリプトが口を挟む。
    「よく聞け! これは命令だ。貴様らの都合で射出順を変える訳には行かんのだ。さて、次はプラス隊の2機……」
     ウェストは浮かない顔をしていた。SOL攻撃の際の敵の弾幕は彼の生涯最高の恐怖だったのだ。
    「お前ェ、ビビッてんのか?」と、ウェストの顔色を察したクリプトが大きな態度で彼の頭をポンと叩く。
    「あーあ。結局、俺たちが勝手に戦って真っ先に死にゃぁ良いんでしょ」
     ルーツがクリプトの肩を叩いてそう言った時、二人の顔面にボコッと鉄拳が飛んだ。
    「痛てェえな、畜生ッ!」
     顔を上げた二人の前にネロ隊のチュンユンが立っていた。
    「俺たちに対する当てつけか? バカに、殺人狂に、腰抜けときてやがる。これでカンザスの田舎娘が居りゃぁ、まるで "オズの魔法使い" だぜ。いいか、ヒヨッ子ども。貴様ら何様だと思ってるんだ? ちったあ良いMSに乗っけてもらってるからって思い上がるんじゃねえよ。残念ながら貴様らはこの艦のMSの主力なんだ。主力がそんな奴らじゃ俺の部隊も他の部隊も、貴様らと一緒に組んで仕事は出来ねェな! 俺が今すぐにエアロックから放り出してやる!」
    「それ位にしておけっ!」
     物凄い剣幕で怒るチュンユンに対しマニングスの怒声が飛んだ。しかし、一旦生まれた相互の不信感は、そんな事では埋まるような物では無かった。

     飽くまでも黒く、深い宇宙の間を閃光が切り裂いて行く。0600時。ペズン攻略戦の幕は切って落された。α任務部隊、月軌道艦隊の各艦艇から強力な艦砲射撃が行なわれる。
    BEAM BEAM BEAM BEAM
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    BEAM BEAM BEAM BEAM
     各艦ごとの砲撃は数分の1秒づつ遅れて発射するように調整されていた。ビームは次々とペズン周辺の衛星ミサイルを破壊して行く。 α任務部隊が手こずらされただけに、衛星ミサイル化されていそうな残骸は片っ端から吹き飛ばされて行った。ペガサスⅢの艦砲の3回目の斉射を合図にカタパルトから次々とMSが射出されて行く。
     艦砲射撃から生き残った衛星ミサイルが艦隊を目指して移動を開始した。それを知ったクリプトのFAZZ隊はすかさずこれをハイ・メガ・カノンで撃破して行く。前回はMSを発進させる時間が無く、むざむざと2隻も沈められてしまったが、今回は違う。
    「チッ、石っころだけかよ! いけねぇ、遅れを取っちまう……」
     艦隊と協力してあらかたの衛星ミサイルを撃破したFAZZ隊はペズンヘ急いだ。
     ルーツのSガンダムは今回は人型のノーマルなMSモードだ。これはZプラスも同様である。
    「おかしいな……」
     機能を失った浮き砲台の漂う宙域に入った時、ルーツは戦場の余りの静けさにいぶかしんだ。反射的に索敵データーを見る。
    ENEMY ENEMY ENEMY ENEMY
    索敵半径:13, 000
    セクターA:グリーン
    セクターB:レッド ― 距離:4, 000
    セクターC:グリーン
    セクターD:グリーン
    セクターE:グリーン
    セクターF:イエロー― 距離:10, 000
                          ■

    ENEMY ENEMY ENEMY ENEMY
    「右かっ!?」
     そう思った瞬間、ビームが飛んできた。Sガンダムの機体を右下方にひねる。ビームは脇を過ぎ去った。
    「クッソーォォ!」ルーツはビームの飛来方向に機首を向ける。
    「リョウ、編隊を崩しちゃ駄目だ!」ウェストの声だ。
    「うるせぇっ! 敵が居るんだっ!」
    「目標はペズンの制圧じゃないか」
     赤いビームはますます、その本数を増してきた。ボンッとビームが右側の宙域を通過していたネロの1機に命中し、機体が炸裂する。
    「味方が殺られてんじゃねェかッ! 俺は行くぞ!」
     Sガンダムはゴウッと加速するとビームの飛来する宙域へと向かった。
    「どこへ行く、ルーツ。貴様の目標はペズンだぞ!」
     ペガサスⅢのブリッジで、作戦モニターのルーツ機の輝点が脇に反れて行くのを見たマニングスは、とっさにマイクに怒鳴った。
    「敵のビームだ。そのままにしてたら損害が増えるだろうがよッ! 艦砲、俺に当てるなよ!」
    「友軍の損害を考えるのは貴様の仕事じゃ無いぞ!」
     ルーツはマニングスの怒声を無視して機体を進めた。前方にペズンの爆発光と艦砲のビームの照り返しを受けて見え隠れする青いMSが有った。それが教導団―ニューディサイズ―の専用機である事はルーツにも分かった。
    「手前ェっ!」Sガンダムの両肩のビームカノンがうなる。
    「ガンダムタイプ、か!?」
     その青いゼク・アインのパイロット、ジョッシュ・オフショーは迫ってきたMSを見て驚きの声を上げていた。SOLへの攻撃の時には余りにもかけ離れたイメージだった為に、ガンダム・タイプのMSだとは思わなかったのだ。オフショーはその間にも敵の攻撃を予期して機体を素早く上昇させる。ビュウッと光条が2本、空を切った。
    「俺の方が上なんだよォッ!」ルーツにそんな台詞を吐かせたのは、相手の―オフショーの―技量が自分よりも明らかに上だと直感した悔しさである。Sガンダムはゼク・アインの前に出て、進路を押さえようとした。何事も直線的なのだ。
    「何いッ、ガンダムのパイロット……? 素人だとでも言うのか!?」その機動を見てオフショーは嘲笑った。
     彼が見てきたMSパイロットたちとは動きが全く違って、まるっきり甘い。心の中に余裕が生まれた。
    「フンッ、ガンダムに……」目の前に出たSガンダムにオフショーはすかさず照準する。至近距離だ。
    「乗っていれば……」ゼクの射撃管制装置へ信号がすさまじい早さで流れる。
    「強いと言うものではないっ!」一秒もなくマシンガンから弾丸が吐き出された弾丸はSガンダムの胸を撃ち、その弾着は明るい青や黄色の塗料の皮膜とガンダリウム合金のクズを撒き散らした。
    「痛でェっ……!」コクピットに衝撃が走る。もちろん、ルーツ本人が痛みを感じた訳ではなく、本能的な言葉だった。
    ALARM ALARM ALARM ALARM 
     胸部被弾:   損害60%
     コンディション:レッド
    戦線離脱の要を認める 戦線離脱の要を認める 戦線
    ALARM ALARM ALARM ALARM 
    「ピーピー、ガーガーとうるせぇぞ!」ヘルメットに鳴り響く警報に向かってルーツは怒鳴った。
    ALICE ALICE ALICE ALICE
      ………‥イタイ?………いたい………痛い
      ………不快………‥
      ………‥‥ウルサイ?…‥うるさい……‥
      不快……………‥  
    ALICE ALICE ALICE ALICE
     不意に警報が鳴りやんだ。ルーツはちょっと気にかけたが回路の不調を疑っただけでSガンダムを操縦し続ける。もう目の前のゼクしか見えていなかった。Sガンダムが射撃位置に着こうとすると、ゼクは激しい機動で難なく逃れてしまう。
    「何者なんだ。素人なのか、本当のバカか?」オフショーは諦めずに追尾してくるSガンダムに焦りを感じていた。彼の部隊と第2突撃隊はペズンにニューディサイズが未だに立てこもっているように見せる為に、敵MSの2~3機に被害を与えたら離脱して、ペズンを脱出する艦隊と合流する手筈になっていたからである。しかし、もう一つ。クレイから命じられた裏切り者の始末という重要な任務が有った。クレイとの接触の時間に遅れてはならない。
    「この辺で片付けないと面倒だな……」
     オフショーが再び射撃しようとした時、2条のビームが至近距離に走った。三角形の機体が2機、グングンと迫ってくる。
    「Z、量産機!」SOL攻撃の後にクレイから聞かされた新鋭機だ。
    「大丈夫かい、リョウ!」
     ウェストは自分も命令違反になるのを覚悟で戦線を大きく逸脱したルーツを追ってきたのだ。
    「いらねぇお節介、焼きやがってよ! 手前ェの心配でもしてろよ!」ルーツが悪態をつく間に、高機動形態に変換したZプラスは脇を行き過ぎた。このモードではAMBACの効果が薄れ、実は人型の時よりも小回りが効かない。正確には高加速形態と呼ぶべきものだ。Zプラスの援護に気を取られている隙に、ゼクは最大加速で距離を開き、宇宙の間に姿を消してしまっていた。
    「あぁッ……!」
     加速による慣性でSガンダムに先行してしまったウェストは、日の前の光景に声を上げた。艦隊の攻撃方向の真下に向けて、ペズンからニューディサイズの艦艇が最大戦速で続々と発進して行くのが見えた。これは出撃ではない。脱出だ、と気が付いた。
    「敵が逃げている……」ウェストはレーザー通信の発信方向をペガサスⅢに同調させると、この光景の事をすみやかに報告した。
    「攻撃軸の真下だな。分かった」連絡を受けたマニングスは、ヒースロウにそれを伝達する。直感だった。艦隊とMSを引き上げるからには何か裏が有る。あの男―トッシュ・クレイ―が敵に居るのだから。
    「罠だな。すぐに作戦中止を指令しよう。どうりで奴らの艦隊の姿が見えないはずだ」
     ヒースロウは決断し、作戦中止の命令が緊急周波と全方位レーザー通信で全部隊に伝達された。
    「何ィ? 戻ってこいだって!? 罠だと? んなバカな……」
     散発的なビーム兵器の抵抗を受けながら、あともう少しでペズンの外郭に取り付くという所で、クリプトのFAZZ隊は帰還を命じられた。「俺はまだ1機も殺ってねぇってのに!」戦果の無い悔しさがこみあげてきた。
     ヒースロウは通信士に命じて、事後承諾になるが、月軌道艦隊の司令と連邦軍司令部にも改めて撤退の事情説明報告を行なわせた。
     月軌道艦隊からは一隻のニューディサイズ巡洋艦が停戦信号を発しながら艦隊に接近してきたが、随伴していた2機のMSが艦隊に攻撃を加えてきた為、この巡洋艦に反撃を加えて撃破したという報告があった。もちろん、この巡洋艦に乗り組んでいたのはパーシュレイ以下のニューディサイズ反乱分子であり、「随伴していた」2機のMSが彼らを始末するために向かったオフショーとクレイのゼクであったとは、誰も知るよしも無かった。

    「何ッ、気が付かれたのか?」
     コッドは艦隊旗艦の "キリマンジャロ" のブリッジで、連邦軍艦艇とMS部隊の動きを追っていた。MS部隊はペズンより撤退し、各母艦の方向へ向かっている。
    「仕方がないな、ブレイブ。気が付かれた以上、ペズンを爆破しても大した効果は無いだろう。それに、まだ我々の艦隊は爆破の安全圏に到達していない。爆破を早めれば我々も傷つく」クレイは失望を怒りの色で表現しているコッドの肩に手を置いてそう言った。
    「ペズン爆破は無駄に終る、か……」
    「いや、無駄じゃない。我々の意志を示す打ち上げ花火だよ。この借りは返してやれば良い」
     ニューディサイズの艦隊は "約束の地" へ向けて航行していた。それはあたかもモーゼに率いられたユダヤの民の如く、重く、しかし確信に満ちた航宙であった。
    「これよりペズンを爆破する。地球を "宇宙人" から我らの手に取り戻す戦いの決意として!」
     艦隊が安全圏に到達すると、コッドは放送で全隊員にそう宣言し、爆破のリモート・スイッチを入れた。もう帰る場所はなくなるのだ。彼らには新天地への前進しか残されていない。各艦に分乗した隊員たちは自分たちの "我が家" の最期を一目見ようと、外の景色が少しでも見える場所やモニターに殺到した。
     ペズンに仕掛けられた核爆弾が少しのタイム・ラグの後に爆破信号を受信して一斉に爆発し、この小惑星を宇宙の塵に変えてしまった。その光は夕暮れを迎えつつあった地球からも肉眼で確認される程のものであった。
     この光が、ニューディサイズの意志であった。そして同時に、やがて月面都市をも巻き込む事になる悲劇の遠い足音でもあった……。