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  • OTOMAD TRIBUTE Original Soundtrack - Self Liner Notes

    2021-02-28 17:07

    R.M.です。
    この動画たちについて書きます。


    この記事は、合作をみてくれた視聴者のみなさんと音MAD作者のみなさんだけでなく、ニコニコメドレー作者のみなさんに向けたものでもあります。


     制作経緯 
    事の発端は平成十選告知合作でした。音MADの名作をカバー・リメイクして企画を告知するという内容の企画で、主催が何人かのメドレー作家を呼んでの合作にしようとしていたところに、「複数人でメドレーを合作するより自分ひとりに任せてくれたほうが絶対いいものになる」とワガママを言って、紆余曲折あって自分がメドレーを担当させてもらえることになりました。主催の方にはご迷惑おかけしました。ありがとうございました。
    今回のOTOMAD TRIBUTEは、この平成十選告知合作と同様、過去の音MADのリメイクを主軸とした合作です。企画当初からメドレー担当として迎えていただき、運営チームと綿密な打ち合わせをしながら制作を進めることになりました。
    この時点で2020年2月末。


     作業の流れ 
    今回採った、ニコニコメドレーの制作技法を紹介します。選曲が先に決まっている場合に使いやすい技法ですが、どんなニコニコメドレーでも制作前に選曲は決めておくべきと今の自分は思っています。どういう選曲でも大抵なんとかなります。

     準備 
    まずは曲をスプレッドシートを活用してリストに書き出し、つづいてメドレーで採用したい区間を切り出してDAWに並べます。
    各曲のBPMとスケールをチェックしてリストに追記したら第一段階が完了です。

     曲順を考える 
    どんな曲にも、メドレーのどの位置に持ってくるのが最良か/どの位置にもってくるべきでないかという属性があります。
    位置というのは例えば次のような分類です。
    • 一曲目。
    • イントロからしばらくの、楽しく盛り上がる区間。
    • 明るい区間を抜けた、一旦落ちつく区間。
    • 再び盛り上がる区間。
    • ラッシュ。
    • 大トリ。
    otoMAD-synthesis.midはこの手法に基づいた設計になっています。例えばドゥヴァンホドモエシティはだいぶ過激なアレンジをしないかぎり一曲目や大トリを務められないでしょう。曲の音楽性以外にも、曲のもつ文脈が位置どりに関連してきます。愛は備長炭は一曲目を務めることはできますが、流石に大トリは任せられなかったでしょうね。
    これらの情報を加味すると、属性の似た曲同士で曲のクラスタリングができるようになります(このときにBPMやスケールの情報が役に立ちます)。そこで、各クラスタに100刻みの値を振ります。100番台は最序盤属性、900番台は最終盤属性、500が真ん中くらい、300ならそれより前....
    そして、それぞれのクラスタのなかでさらに音楽性や文脈を加味して具体的なつなぎを練っていきます。つなぎが確定した組みあわせは10の位の値を適当に振り、1の位の大きさでつなぎの順を表示します。たとえば、曲Aと曲Bがともに500番台で、500番台でも中盤くらい、曲Aから曲Bにつなぐべきだ、と判断できれば、531: 曲A / 532: 曲B と表記できるわけですね。
    全部の曲にこれが適応できたら、振った数字の順番にソートします。はい曲順完成!
    もしこの段階でどうにも繋がらないなという曲は、とりあえずどこかのクラスタに入れておいて次の工程でつなぎを考えます。

     原曲を並べて練る 
    曲順がおおむね完成したら、各クラスタごとにBPMを適当に決めます。原曲の情報を見ながらそれらしい数字に落ち着けましょう。原曲のBPMから倍率を計算して原曲の再生速度を変え、DAWの上で原曲を並べながら細かいつなぎを練っていきます。
    原曲をつないで設計を行うことは次のようなメリットがあり、オススメです。
    • プロトタイプの完成が早い。音MAD合作など共有すべき相手がいる場合に特に有効。
    • 原曲からキーとBPMの変更をするにあたって、どれくらい無理があるかわかる。
    • 1パートあたりの長さを俯瞰してみることができ、メドレー全体の長さを管理しやすい。
    • オーディオがまとまるので耳コピがちょっと楽。
    • 「やっぱり曲順を変えよう」と思ったとき、原曲の段階ならすぐ入れ替えられる。
    デメリットもあります。
    • 拍子を変えるなど、凝ったアレンジを想定して準備するのは手間がかかる。
    • コード進行のアレンジが必要になったとき、想像しづらい。
    • 原曲だけつないで満足しがち。
    アレンジ面がわかりづらい問題に関しては、打ち込みの段階で先にドラムとベースだけを完成させておくことでだいぶ緩和されます。もちろんスプレッドシートにメモを取っておくのも有効。原曲だけつないで満足しがち問題は、抗え

    ▲抗えずに遊んでいる様子

    この作業は楽しいですが、締切を意識しないとマジで一生遊んで終わってしまうのでさっさと完了させましょう。合作につかうメドレーの場合は、通話などで主催者と相談しながらリアルタイムに詰めていくのがいいと思います。OTOMAD TRIBUTEでもそうしました。
    完了したらオーディオを出力しておきます。つなぎで音がかぶる部分やマッシュアップになる部分が被らないように2トラックに分けましょう。この状態でシェアしておけば音MAD制作担当のみなさんもどんな構成にするかを考え始めることができます。できるはずです。実際にやっているのかどうかは定かでない。
    ちなみに、この時点で原曲に動画をつけたまま編集しておくとメドレー単品動画を作るときに楽ができます。

     耳コピ祭りだワッショイワッショイ 
    書き出したオーディオを再度DAWに持っていき、耳コピ大会を開催します。前述の通り、アレンジに目処をつけるため先にドラムとベースを打ち込み切ってしまうのがオススメですが、まあここはなんでもいいと思います。あとは気合いです。走りきれ。自分は耳コピしながらアレンジしてしまうので、ここまで漕ぎ着けていれば一ヶ月〜二ヶ月くらいで完成させられます。マスタリングして完成。お疲れ様でした。今回のメドレーが一旦完成したのは2020年4月末


     今回取り入れた技法 
    原曲からのサンプリングを全面的に解禁しました。
    • Witch Doctor のバンジョー区間
    • bass 2 bass のドラムフィルイン
    • Insane Techniques の声ネタ
    • レーザービーム のレーザー音
    • Trash の声ネタ .... これはたまたま同じサンプルを手に入れただけ。
    • ファランドール .... 演奏会の音源を台詞合わせと同じ要領でタイミング揃えた。
    • KAMAITACHI のドラムフィル、一部シンセとエフェクト
    • Star!! のサビ後のフィル
    • ふぃぎゅ@謝肉祭 の入りのポン!
    • キルミー .... ほぼすべてべおさんの作です。カラオケ版もらってそのまま置いた。
    加工して使っているところが大半ですが、ぜひ原曲と聴き比べてみてください。



     今回工夫した部分 
    メドレー担当として呼ばれたとはいえ、メドレーを一人で勝手に作ってハイ終わり、というわけには行きません。音MADの音声担当者や運営のみなさんと必要に応じて打ち合わせをし、つなぎや区間や尺、各曲のアレンジの方向性などを細かく詰めました。今回のように参加者が選曲するスタイルの合作では、各作者がやりたいことを最大限に発揮できるように配慮するのも当然の義務だと思っています。
    一方、合意のもとでお遊びできた部分もあります。危険な〇〇シリーズのイントロのパーカスをめっちゃリッチにしたり、念願かなって剛竜馬のテーマをメドレーに組み込んだりできました。


     各曲ひとこと解説 
    ビガビガ
    打ち込み終わったあとに急にリバイバルになってびっくりしました。音MADの音声も担当。

    和田アキ子「ウーwwイwーウwーアッwアッーwwwwwwwwww」
    原曲サンプリングあり。運営と相談して実質一曲目はこれで行くと最初に決めました。

    作打ち★HAPPY
    原曲の声ネタによるリードとシンセによるリードを打ち込み分けました。

    ゆっこのチャレンジャー
    原曲の原曲はチップチューン。今回はstym版のギター音源を再現。

    ホモのゴローリィ64 ボス戦
    元MADイントロの刻みを再現。ウラの音までしっかり採譜。

    おどれナチスの糞親父【やったぜ。の音MAD】
    鼓と三味線を導入。たまたまあとのパートでも役に立った。転調部分はCkiroさんの希望。

    危険なルーニー荒川
    原曲からさらにグレードアップを図り、パーカッションが鬼リッチ。


    一人でクリスマスしましょ
    原曲の音を全部拾った上で、存在しない対旋律をうまいことつけられたので嬉しかった区間。

    すたこらごらく部
    音の数が結構多くて大変だった、序盤の壁。原曲でピアノの部分をオルガンに任せている。

    ゴークロソーサー
    録 画 失 敗

    缶コーヒーBOSS 2 BOSS 贅沢微糖mania
    原曲サンプリングあり。ラップ区間のストリングスがキモ。

    Insane Windows.exe
    声ネタは原曲サンプリング。ディレイラマが大活躍。エレクトロ系は毎回勉強になる。

    イチローがPerfumeのレーザービームに合わせて人類を滅亡させたようです。
    この区間専用のシンセを2発インサートしているお気に入り区間。

    Trash箱にフタがあってよかったな~
    原曲感を出すためにここだけサイドチェインを強めにしたりキックを変えたりしている。

    バイオハザードでドーナツホール
    サビでエレキギターとシンセを重ねているのは音声担当・絶望さんの希望によるもの。

    オハヨゴザイマース
    この区間のためだけにバイオリンとディストーションをインサートしている気合のパート。

    課長と恋の実験室
    サビは爆音喘ぎ声を想定して4つ打ちにしたら本当にそうなった。

    どんえんベース
    synthesisのコロブチカを意識した入りからコンサート音源サンプリングへの怒涛の勢い。

    味仙+KAMAITACHI
    原曲の雰囲気を出すために大胆なサンプリングを行っている。

    【東方】 本振りサディスティック 【松岡修造】
    中盤のストリングスのトリルがこだわりポイント。エレキギターで熱めのアレンジ。

    LOVE Y.R.P
    おせっかいで打ち込んだ赤い電車区間は駅メロ版のアレンジを踏襲したコード。大胆な転調。

    じゃんらく 【カンクロウ×じょしらくED】
    鼓と三味線再び。原曲に存在しない静かめの入り方もうまく決まった。

    カビキラメキラリ
    このMADには絶対この区間が必要、という要素を盛り込んでサビ前から。

    巨人小笠Swar!!
    音が多すぎる。アイドルが歌うことを想定して心を鬼にしながら可能な限り耳コピした。

    ふぃぎゅ@浦和高校
    前後に負けないように音を増やした。メロディを書いたら期日前投票になって帰ってきた。

    ねずみフレンズ ~ようこそディズニーランドへ~
    音が多すぎる。フィナーレらしい盛り上がりが感じられるよう、可能な限り耳コピした。

    キルミー
    この合作で自分のMADがエンディングに選ばれるの感動ものすぎるでしょ………… べおさんには感謝しかない。音声も映像もマジで元MAD超えなので俺の動画はいいからこのパートを見てくれ。ものすごい細かいところまで研究されてコピーされてるので初見のとき震えがとまらなかった。音声補佐ということになっているが、一部エフェクトと一部音合わせとサビでちょっとだけ聞こえるストリングス・ピアノ以外はべおさんの作業なのでほとんどべおさんの作品。(早口)(一行)メドレー担当としてはマジでなにもしていない。



    以上です。なにかの参考になれば。
    それじゃあ合作本編とメドレー単品をよろしくな!






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  • 【制作後記】My Greatest Hits of OTOMAD - Non-stop Eurobeat Remix

    2020-11-06 21:00
    R.M.です。この動画について書きます。




    経緯
    みなさんも年に一度か二度くらい「あ~~~ユーロビート作りてえな~~~~~」って時期が来ますよね。
    そのたびに挑戦するんですけど毎回うまく行かないんです。ユーロビートは難しいジャンル。
    • 音数が少ないのにまあまあの音圧感
    • キックとベースのバランスが何度やってもよくわからない
    • ボーカルありが基本だがそこは得意な分野ではない
    • オケヒやエレキギターなどこだわり始めるとキリがない
    • シンセリードのフレーズをかっこよく作り切るには丁寧な作業が必要
    こんな課題が毎回出てきます(成長しないので)。2019年にも同様に挑戦して、そのときはたまたま良さげなものができて、こう決めました。
    「この調子で満足行くものを5曲作って練習にしよう!」
    5曲くらいあればミニアルバムっぽくなるし、全部繋げば動画としても良さげな感じになるんじゃね?(曖昧)

    題材の決定
    せっかく作るなら音MADに関連した曲がいいかな~と思ってまず最初に柴又で作りました。
    好評をいただけたので、じゃあこの感じでもう4つくらい作るかと思って軽い気持ちで方針決定。
    あとはつないだときにキーが自然になるようにCminの曲Dminの曲Eminの曲と選んでいって終わり。さあ作るぞ!

    時は流れて2020年
    2019年の1月にスタートしたはずのプロジェクトが、一曲一曲をゆっくり作ってるうちに2020年の9月になってしまいました。あんまりダレるのは良くない。
    最初に作ったときは手持ちで適当にごまかしていたギターの音源も、今やProminyのV-Metalを導入済み。
    5曲目が難産になっていましたがこれを10月中にえいやっと乗り越えて公開の運びになりました。
    曲作って体力がなくなってしまったので動画は手抜き。許してね。

    各曲解説
    1. SHIBAMATA (HS REMIX)
    FunkotをEurobeatにするという暴挙。方針もサクッとかたまっていい感じ。
    柴又は音MADメドレーにも入れたことなかったので楽しかったです。
    原曲のコードもEurobeatと相性良し。終盤をDmに転調させてつなぎもばっちり。
    ところでHSって何の略なんでしょうね? ヒントは「日中は毎時3本」です。柴又は毎時4本あるのにね。

    2. SARDINES GROW FROM THE SOIL
    この曲を触るのは前にGotta2Recordsの規格でDnBアレンジを作って以来になりますね。
    採用は早い時期に決まってましたが方針はなかなか決まりませんでした。
    もとが歌ものだったのでそれっぽくはなったかな……

    3. YO-KAI Disco (Digi-Versatile-Disco Remix)
    原曲よりはちょっと速いけど音MADでよく使われるテンポからは少し遅いアレンジです。
    シンセの音づくりは一番うまく行ったと思います。音MADのソースとしても他の4曲よりは使いやすいのでは?
    タイトルはまんまです。

    4. 大丈夫?声ネタにされない?(MEMEME-SARENAI)
    FunkotをEurobeatにするという暴挙(2)。
    次のメドレーに入れたいけどmememe_diceを優先するからきっと入れられないだろうな……と思って今回やりました。
    全フレーズがサビみたいな曲なので途中で休憩できずひたすら押し切るアレンジになっちゃいましたね。
    ちなみに動画投稿前にももも味さんから直接許可を取りました。快諾ありがとうございます。

    5. SOLAR SECT - KAKUBUTSUDAN (Eurobeat Remix)
    かくぶつだん好きすぎるだろ。



    5曲つくったことでだいぶ成長できました。次のメドレーはここで学んだ要素を活かしていくから期待してくれよな! 公開がいつになるかはわからないけど……
    よろしく!


  • 音MAD視点の読書記録 2020年4月編

    2020-04-17 19:02
    こんにちは、R.M.です。

     先日 音MAD雑アダン#3 をやった際に、文化論の諸概念にとても詳しいリスナーさんがいました。
     恥ずかしいことに、私はその方が提示してくれた概念をほとんど知りませんでした。自分の知識の浅さと勉強不足を反省し、これを機会に本を読んで少しでも勉強しておこうと思い立ち、何冊か本を読みました。
     この記事は、そうして読んだ本についてまとめるとともに、諸概念と音MADについてR.M.がどう考えたかを記録しておくものです。
     間違ってるぞ! ということがもしあれば、ぜひコメント欄で指摘してください。後学のためにも、よろしくお願いします。


     1. カルチュラル・スタディーズ入門 上野俊哉・毛利嘉孝 ちくま新書 2000年 
     大学在学中に音楽文化論について興味を持ち、人間と音楽の関わりや社会と音楽の関わりについて考えていたときに先輩からおすすめしてもらった本で、それから2年たってようやく読むことにした。もっと早く読んでおけば良かった。
     私はカルチュラル・スタディーズの専門家になるつもりはないし、カルチュラル・スタディーズの考え方のみによって音MADの全てに説明がつくとも思っていないが、それでもいくつか参考になるトピックがあった。カルチュラル・スタディーズの表面をなぞるだけだが、それらをかんたんに紹介したい。

     本の内容 
     本書は三章構成である。
     第一章では、カルチュラル・スタディーズとはなにか、どのような歴史で発達してきた分野なのか、どういった人間がどのような考え方をしてきたかが紹介される。
     第二章では、一章での歴史を踏まえて、カルチュラル・スタディーズとはどのような内容を取り扱う学問であるかを具体的な例をあげつつ説明される。
     第三章では、カルチュラル・スタディーズの現在と題して日本におけるカルチュラル・スタディーズの受容と展開について書かれている。
     書名のとおり、この本が書かれた2000年までのカルチュラル・スタディーズについて俯瞰できる本であり、カルチュラル・スタディーズが成立するまでの諸概念にかんたんに触れることができる内容になっている。

     音MAD的に注目したい概念の紹介 その1 コード化と脱コード化 
     前述のとおり、この本の第二章ではカルチュラル・スタディーズの取り扱う内容について記されており、その第二章の最も最初に触れられるのがメディアについてである。第二章の書き出しで、「メディア研究はカルチュラル・スタディーズの中でも最も重要な領域のひとつである」(p.39)と書かれている。
     音MADを芸術の一分野とみなす(注1)とき、それがメディア・アートのなかに位置づけられるのは間違いないだろう。また、素材の出どころや発表方法や加工の手法を考えた際、音MADとメディアの間には強い関係性がある。したがって、メディアに関する議論は音MADにとって切り離せない。

    *

     カルチュラル・スタディーズの代表的理論家であるスチュアート・ホールは、メディアにおける情報のやりとりにエンコーディング・デコーディングという概念を導入した。エンコードとデコードは音MAD作者には馴染みのある単語かもしれない。直訳すれば符号化・復号化という意味だが、ここでは本文での書き方に倣って、コード化・脱コード化と表現することにする。
     コード化とは、情報を発信する側が、情報にメッセージを含ませるために行う加工のことである。たとえばテレビのニュース番組を例に取ると、事件の起きた現場にスタッフが赴いて撮影をし、リポーターが状況を言葉に起こし、テロップやBGMをつけて番組としての形が成立する。そしてようやく、素材がメッセージを持った情報として自立する。
     テロップも解説もなしにただ映像を編集するだけでは、視聴者は何が起こったのか理解できないだろうし、BGMの選択を間違えただけでニュースはパロディになってしまう。つまり、素材はあくまでも意味をもたない素材にすぎず、それを編集することによって素材はある構造に組み込まれ意味を与えられるのである。(p.96)
     ホールによれば、コード化には3つの条件が必要であるという。
    1. 知識の枠組み
    2. 生産関係
    3. 技術的インフラストラクチャー
     知識の枠組みというのは「お約束」「暗黙の了解」のことである。例えば、我々はテレビ番組と全く無関係なコマーシャルが突然放送されても番組内容の理解に支障を来さない。それは私達視聴者がコマーシャルがどういう存在であるかを「お約束」として、知識として持っているからである。
     生産関係とは、平たく言えば誰がなんのために制作したかということである。とくにマスメディアの場合、労働力を用いて商品として生産されたものであるということを前提におく。経済的な価値をもとめて作られた製品であって、情報の流れる向きが決まっており、そこには思想や信条(イデオロギー)が含まれる。
     技術的インフラストラクチャーは言うまでもなく、これらの加工を可能にする技術のことである。

     さて、そうしてコード化された情報を受け取った視聴者は、脱コード化をしてそのメッセージを読み解く。ここで重要なのが、脱コード化は消費ではなく、また別の生産であるというホールの考え方である。
     あるニュースに触れたとき、それに対する人々の反応は様々だ。ニュースに特定のイデオロギーが含まれていたからといって、全員が全員そのイデオロギーを受け入れるとは限らない。ホールはこの反応、つまり脱コード化のやり方を、3種類に分類した。
    1. 優先的読み
    2. 対抗的読み
    3. 交渉的読み
     優先的読みとは、込められたメッセージや支配的イデオロギーに迎合する読み方である。一方、対抗的読みでは支配的イデオロギーに反してことごとく逆に読み替えていく。
     本書では鉄道ストライキに関する例が挙げられている。「連日の鉄道ストライキで国民は困っています」というニュースに対して、全くそのとおりだ、迷惑をかけるストは許せない、という素直な解釈が優先的読みにあたる。一方同じニュースに触れたとき、労働者には権利がある、本当に問題があるのは国や会社の方だ、と読み替えるのが対抗的読みである。私の所感では、今日ではどちらの読みもTwitterでたくさん見ることができる。
     交渉的読みは、このふたつの読み方を媒介する。メディアのメッセージを切り取ったり別の文脈に置いたりすることで、優先的読みによる脱コード化の結果と対抗的読みによる脱コード化の結果をぶつけて政治を生む。この本が書かれたのは2000年だが、今風にいうなら炎上の原理でもあるかもしれない。
     ホールはこのように分析して、ひとつのメッセージからいくつもの解釈が生まれる様子を、消費ではなく生産であるとした。

    *

     この考え方に基づくと、私が以前から抱えていた音MADに関する課題をいくつか解くことができた。
     課題の一つは、音MADと音MAD風の商業作品との違いは何か、ということである。音MADはコード化されたメディアの一つだが、現状では個人またはそれに準ずる小規模な制作集団が無償で作っているため、国や社会を由来に持つ強いイデオロギーを持たない。強いイデオロギーを持たないので、3種類あるはずの脱コード化も大きく分化せず、音MADが炎上するということもない。かたや商業作品の場合には、商品やキャラクターの宣伝という大目標があって、これにそぐわない要素は排除する必要がある。もし音MADを商業的に成功させようと思うなら、望まれる支配的なイデオロギーを音MADに純粋な形で乗せるための努力が必要になるだろう。一方でそれは、面白い音MADにはならないだろうなという予感がある。
     もう一つの課題は、視聴者に音MADがどのように受容されているのか、ということである。前の段落で「音MADはコード化されたメディアの一つ」と書いたが、音MADは脱コード化の結果でもあると私は考えている。メディアの一部を恣意的に切り取って別の文脈に置く、というプロセスを見ると、音MADは「交渉的読みによる脱コード化」に他ならない。ただ前述の通り、交渉的読みとはいっても、多くの場合そこにイデオロギーの対立が持ち込まれることはあまりなく、メディアについて作者個人がどんな解釈をしたのか、その結果どんなものが生まれたのか、ということだけが純粋に見られているように思う。素材ソースについて自分がどう解釈したかという脱コード化の結果と、出来た音MADをどう見てほしいかというコード化の結果が絡み合っているところが、音MADを含む二次創作物全般の面白さのひとつかもしれない。

     音MAD的に注目したい概念の紹介 その2 サブカルチャーと"儀礼" 
     この本の第二章では、メディアに続いてサブカルチャーについて論じている。この本ではサブカルチャーを厳密に定義づけることはしていない(注2)が、音MADがサブカルチャーの一部に含まれることは私達当事者にとって明白であるので、この部分も短く取り上げる。

    *

     カルチュラル・スタディーズを含め、若者文化を扱う社会学や文化研究では、"儀礼慣習行為(ritual)"という言葉を使う。ここでの"儀礼"は、「一定のスタイルや型によってかたち作られた身振りや慣習行為を指」(p.111)す。日本でいうと、平成初頭のギャルの嗜みになっていたルーズソックスや厚底ブーツが儀礼慣習行為の代表例である。
     こうした儀礼行為を共有する集団を"部族(tribe)"と呼ぶ。部族は儀礼行為だけでなく階級や人種など他の要因とも関係性をもち、その関係を追うのがカルチュラル・スタディーズでも重要な論点である。
     本文中では一例として、ヨーロッパのパンクや若者たちが象徴的に用いるナチスの鉤十字について触れている。鉤十字はナチスのファシズムを象徴するものであり、忌み嫌われていた。一方パンク文化はナチズム・ネオナチ・保守主義には反対する立場であって、彼らが鉤十字を掲げるのは一見矛盾しているように思える。実際にはかれらは、鉤十字というマークの「社会や体制から嫌われるもの」という意味だけを引き剥がし、シンボルとして使っていた。カルチュラル・スタディーズのみならず社会学では、儀礼行為のなかにこのような社会や制度に対する「抵抗」を見出す。

    *

     音MADの周囲では、内輪ネタの範囲を超えて慣習行為として根付いたものが多くある(膳サムネ統一やテンプレ化したコメントなど)。これは音MADに関わる人間がそれらの儀礼を通じて一つの部族として無意識的に行動していることの現れであると思う。サムネイルもタイトルも統一してしまうことは、ニコニコ動画の動画検索システムに対する「抵抗」とも取れる。
     内輪ネタの範疇を超えた儀礼化といえば、RED ZONE界隈のことにも触れる必要があるだろう。RED ZONEは、その楽曲としての出典からは意味が剥がされ、そしてRED ZONEをもちいた最初期の音MADでの意味も剥がされて「テクニック」だけが形式として残り、界隈内でシンボルとして使われ続けている。山田航平はRED ZONE界隈について「RED_ZONE界隈の動画は知人(既知の人)に向けて制作されている」と分析しており、これはまさに儀礼慣習行為と言えるだろう。RED ZONE界隈とその他の音MAD作者の間に溝を感じるのは、彼らがこういった儀礼慣習行為によって既存の音MADの部族との世代の差異に無意識的な「抵抗」をしているのを嗅ぎ取っているからかもしれない。部外者であること、部族の外にいることをよしとする文化については、北川純子の「音のうち・そと(勁草書房、1993年)」が詳しい。

    (注1) 音MADを芸術の一分野とみなすことについては賛否両論あると思うが、これはおそらく、芸術の定義が各人で揺らいでいることに依る。芸術というと高尚なもので、ある種低俗な音MADとは相反するものであると感じる人もいるかもしれないが、ここでいう芸術とは「表現物を通じて、鑑賞者に感情の変化をもたらそうとするもの」程度の認識でよい。くだらない音MADを見て笑ってしまったら、感情が動かされているのでそれは立派に芸術なのである。

    (注2) 本文によれば、「強いて言えばサブカルチャーは高級文化でも大衆文化でもない、またしかし同時にそうなることもありうるような、幅の広さとあいまいさをもった文化の領域だということになる」「カルチュラル・スタディーズはまさに特定の文化がもつこうした動的かつ不安定なあり方に繊細な注意を払う」「ある文化の定義が問題だからではなく、ある文化が特定の社会的文脈においてどのような意味とはたらきを担っているかを問題にする」(p.109)とある。定義を問題にせず、音MADがどのような意味とはたらきを担うかを考えていくことは、今後の進歩に一役買うかもしれない。



     2. 動物化するポストモダン オタクからみた日本社会 東 浩紀 講談社現代新書 2001年 
     音MAD雑アダン3のコメントの中に、「データベース消費」という言葉が出てきた。この本はデータベース消費という概念を最初に導入した本であり、また我々の親しむオタクの文化について分析を試みたものである。本書はどうやら賛否両論あるようだが、「データベース消費」を提案した功績は大きく、この概念に基づいた書籍もいくつか刊行されている。
     個人的には、データベース消費はオタク文化のいろいろな側面をよく説明できる優れたモデルであると感じるが、それのみによって全てが説明できているわけでもなく、東がこの本で論じるような「ポストモダンの本格的な到来」には2020年現在でも至っていないのではないかと思っている。また、本の中でいくつかの言葉の意味があいまいなまま議論が進行しており、それが厳密な検証を難しくしている部分がある。
     とはいえ、私には結論の真偽を論じられるほど周辺知識への理解がなく、ポストモダンというものについて問われてもはっきりと答えられないので、本書の構成は取り上げずに、注目したい概念の紹介に留める。

     音MAD的に注目したい概念の紹介 その1 シミュラークルと二次創作 
     広義には、音MADは二次創作であると言えるだろう。オタクの文化において二次創作が無視できない要素になっていることは、ポストモダンの到来の証拠の一つであるという。

    *

     フランスの社会学者ジャン・ボードリヤールは、ポストモダン到来後の社会においては作品や商品のオリジナルとコピーの区別が弱くなり、それらの中間形態であるシミュラークルが支配的になると予想していた。実際、アニメやゲーム周辺の文化を見てみると、オリジナルとコピーの区別は弱まっている。例えば「お疲れ様本」はアニメの制作に携わったスタッフたちが出す同人誌だが、その存在は限りなくアニメ公式の資料集に近い。MOD導入の余地を最初から設けているゲームなどの例を見ても、オリジナルと模倣品の区別はとても弱まっていると言えるだろう。
     日本ではいつごろからその傾向にあるのだろうか? 東によれば、アニメ制作会社が同人・二次創作的な振る舞いを自らするようになったのは「新世紀エヴァンゲリオン(1995年)」以降であるという。キャラクターだけを流用して世界観を参照しないような関連商品を出すようになったのはエヴァ以降なのだ。

    *

     シミュラークルはオリジナルとコピーの中間の形態であって、同人誌や音MADはこの特徴を多分に含む。しかし同人誌と音MADではそのあり方が大きく違うのもまた事実だ。
     例えばあるアニメを題材にした二次創作の同人誌を例に取って考えてみよう。同人誌では原作からキャラクターやその関係性という深層を"コピー"し、絵やストーリー、場合によっては世界観などの表面的な部分において"オリジナル"な表現を行う。
     音MADではどうか。古典的な音MADを例に取れば、"コピー"されているのは絵そのもの、音そのものである。音MADの中で"オリジナル"な表現といえるのは、その加工の手段の選び方であったり、配置であったり、組み合わせであったりする。その結果、深層であったはずの原作のキャラクター性がないがしろにされることも少なくない。
     同人誌と音MADでは、仮に同じ原作を引いていても加工の対象が異なっている。同人誌が原作の深層をそのままに表層だけを書き換えているのに対して、音MADでは深層に切り込んで編集を行っているように見える
     深層と表層とは何か? それに答えを与えるのが「データベース」を導入した捉え方である。

     音MAD的に注目したい概念の紹介 その2 萌え要素とデータベース 
     萌えアニメをはじめとするキャラクタービジネスでは、原作と全く無関係なシチュエーションによるイラストやフィギュアが発売されることが少なくない。水着や寝間着といった「単に描写されなかっただけ」の服装・シチュエーションから、バニーガールやメイド服や魔法少女などの、ともすれば「それは世界観的におかしい」と言われそうなコスチュームまで存在する。それらは、二次創作で描かれるキャラクターのイラストと本質的に差はない。
     世界観的におかしな破天荒な組み合わせは、音MADの作品中においても頻出する。ツッコミどころの一種として使われることもあるが、一方で妙な納得感を与えることもある。荒唐無稽にも思えるキャラクターとコスチューム・シチュエーションの組み合わせはなぜオタクに許容されるのだろうか?

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     東は、「デ・ジ・キャラット」を例に上げ、オタクによるメディアの消費形態が70年代から90年代にかけて変化しつつあることを指摘している。デ・ジ・キャラット、通称でじこは、1998年にマスコットキャラクターとして生まれた。マスコットキャラクターとして「萌え要素」を散りばめられてデザインされた彼女は、後に設定を与えられ、アニメやゲームに登場することになる。今でこそキャラクター先行のメディアミックスは珍しくないが、東はこれを大きな転換点と見ているようである。
     『デ・ジ・キャラット』を消費するとは、単純に作品(小さな物語)を消費することでも、その背後にある世界観(大きな物語)を消費することでも、さらには設定やキャラクター(大きな非物語)を消費することでもなく、そのさらに奥にある、より広大なオタク系文化全体のデータベースを消費することへと繋がっている。筆者は以下、このような消費行動を、大塚の「物語消費」と対比する意味で「データベース消費」と呼びたいと思う。(p.77 - 78)
     東はこの節で、消費の対象を4つに分類している。
    1. 作品とストーリー - 小さな物語
    2. 世界観 - 大きな物語
    3. 設定やキャラクター - 大きな物語
    4. オタク系文化全体のデータベース


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     私の解釈では、オタクにとって、作品(ストーリー)から世界観と設定・キャラクターは分離可能だ。分離可能であるから、キャラクターがストーリーや世界観を無視した(あるいは、入れ替えた)コスチュームを着ていても受け入れることができる。
     ストーリーのある作品を作るにあたっては、世界観や設定やキャラクターを必要とする。一方で、世界観や設定やキャラクターは必ずしもストーリーを必要としない。また、設定やキャラクターはオタク同士で共有されたデータベースから紡がれるが、データベースそのものは設定の一部でありこそすれ、キャラクターではない。この一方通行の関係に気づくことができたのが、この本を読んだ最大のメリットのひとつである。前の節で触れた表層と深層とは、作品とデータベースのことであった。
     
     90年代以降のオタクは、データベースそのものから消費を生むことができる。「金髪縦ロールの高飛車なお嬢様」(注3)だとか「銀髪で狐耳のついたクールで小柄な和服の女の子」(注4)などという要素の列挙だけで萌えられるのは、データベースを元に設定やキャラクターを脳内で補って消費できるからである。もちろん、私達は作品や世界観を消費することもできるが、それと同時にデータベースを消費することもしているのである(注5)
     東は2000年に書いたこの本で90年代までを議論の対象としているが、2010年代までのうちに、作品とキャラが分離可能であることを前提とした作品がアニメやゲームにものすごく増えているように感じられる。単なるクロスオーバーにとどまらない世界観とストーリーの交差と交換は、00年代から10年代での一つのトレンドだったように感じられる。

     では音MADではどうか? 音MADでは、素材に元から存在していたキャラクターとはかけ離れたキャラクター設定が音MADのためだけに自然発生する例がある(注6)が、これは当然、素材本来のデータベースからは発生し得なかったはずのものである。そういった設定が継承されて他の動画でも使われ、コモンセンスを得ていく。そういった設定の継承は、音MAD専用のデータベースから、音MAD専用のキャラクターを紡いでいる状態にある。今の音MADは素材と同じデータベースを参照するだけでなく、音MAD独自のデータベースを参照して制作される。そして音MAD専用のデータベースからキャラクターを紡ぐことができるなら、当然世界観やストーリーも紡ぐことができる。それが「音MADユニバース」なのだろう。

    (注3)(注4) 単に私の趣味である。
    (注5) 当然のことだが、全員が全員データベースの消費をできるわけではない。ストーリーしか消化しないタイプの人間や、逆にキャラクターしか消化できない人間もいるが、ここではアニメのストーリーを楽しみつつキャラクターにも萌えられるようなオタクを指して議論している。
    (注6) モーニングレスキューのCM出てくるオッサンは「セルニモン」ではないし、真島茂樹は男性器も女性器も出さない。クンナ・ダッシュは最悪インド人ではないし、松岡修造は食べすぎてデブにならない。



    以上、2冊を読んでのざっくりとした考察でした!
    他にも何冊か読んだんですが、音MADに直結して書けそうなのはこの2冊だけでした。
    もし間違ってるところがあったら教えて下さいね。

    おわり!