• 【デレマス小説】灰色の空で笑うあなたへ 第5話「Take your heart」

    2020-06-30 18:00
    何もかも失った私は、自宅に篭ってただ寝るだけの日々を送るようになった。

    何かを夢見て歩き続けてきた。
    だが、歩いた先で自分の目指していた夢が、あっけなく消え失せたのだ。
    何も考えられず、誰も信じられず、私は私の夢を消し去った。
    これまで歩き続けてきたものが全て壊れ、心は薄汚れた灰色のように。
    とてつもない虚無の中、私はただ眠りを繰り返すだけの毎日を送っていた。

    そんなある日の夜。
    なかなか寝付けない私は、仕方なく気分転換に夜の散歩へと出掛けた。
    昼間と違って夜は人が少なく、点々と灯る家や街の明かりがキラキラと瞬き、
    暗闇の中で照らし続ける満月は、どこまでも美しく輝き続けていた。

    途中のベンチで腰を下ろし、私は満月を眺める。
    あの月のように、私は輝ける人生を送りたかった。
    誰かの心を照らせるような、そんな人間になりたかった。

    昔見た淡い夢を思い出していたその時だった。

    「あなたも夜のお散歩かな?」

    突然、声が聞こえた。

    私は驚き、あたりを見渡す。
    すると、私の後ろに一人の女性が立っていた。
    金色の長い髪に赤い眼をしたその彼女の容姿は、さながら吸血鬼のようだった。

    「夜に女性の一人歩きは危険だよー?って、アタシも他人のこと言えないけど。」

    冗談めかしたような発言が癪に触ったが、どこか悪い人には見えなかった。
    ジッと彼女の眼を見つめる私に、彼女はニヤリと笑いながら思わぬ事を私に告げる。

    「君さぁ、ウチに来ない?」
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  • 【デレマス小説】灰色の空で笑うあなたへ 第4話「目眩く閃光と 何処までも混沌を」

    2020-06-23 18:00
    退院後、私は会社に辞表を出した。

    今後、仕事を続けてもまた同じように身体を壊しかねない。
    病院の医師からドクターストップを通告され、もうこれ以上、絵を描き続ける事が出来なくなってしまった。

    半年間だけの就職活動に自ら終止符を打ち、やっとの思いで私は家に帰った。
    自宅のアトリエには、これまで私が描き続けてきた絵の数々が壁一面に広がっていた。

    新製品のファンデーションで綺麗な肌を魅せる女性の絵。
    スタミナドリンクで仕事を乗り越えようとするサラリーマンの絵。
    政治改革やヘイトスピーチを訴える市民の絵。

    私は私の描きたい絵を描きたかった。
    その描いた先に広がる美しい世界を、私はずっと望んでいた。
    しかし、見えてくるのは浅はかな人たちの薄汚れた欲望や妬み。
    人の心に潜む暗闇が自分の心を蝕んでいくような、そんな気がしてならなかった。

    私は何を描きたかったのだろう?
    私は何になりたかったのだろう?
    私はどこで間違えたのだろう?
    私はこれからどう生きればいいのだろう?

    頭を抱えて私は苦しむ。
    そして、引き出しの中からパレットナイフを取り出し、振りかぶって絵を切り裂いた。

    何度も、何度も、ズタズタに切り裂かれる絵は、もはや何の価値もない紙くずとなった。
    その紙くずを拾い集め、丸型バケツに少量の灯油を注いで火を点ける。
    そして、紙くずをそのバケツの中に放り込んだ。

    淡い炎が揺らめきながら、紙くずが燃え尽きるのをずっと眺めていた。

    私の夢は、この炎と共に消え去った。
  • 【デレマス小説】灰色の空で笑うあなたへ 第3話「心を縛る鎖のように」

    2020-06-16 18:00
    ひょんな事から都内のデザイン会社でバイトをする事となった。

    と言っても、下請け会社の広報担当として雑誌の表紙なんかを描く仕事なので、
    自分の望んでいた仕事とは少し違うが、引き受けた手前で贅沢は言えないし、
    このご時世で自分から仕事を選べるなんて到底出来ず、社会人の下積みと考えれば、
    案外易い仕事とも思えた。

    毎朝6時に起床し、電車で1時間半ほど掛けて出社して、デスクの前にあるPCからIllustratorやPhotoshop、時にはペンタブなんかを使って表紙の下書きを何枚も描き下ろし、
    それを編集長に提出して許可を得られた絵だけが採用され、雑誌の一面広告となる。

    読者が興味を惹かれる絵、雑誌の部数が飛ぶように売れるような絵。
    自分の描きたかった絵ではなく、「お金に変われる絵」を描き続けている事にようやく私は気付いたのだが、その頃にはとっくに手遅れで、売れる絵を描かなければ生活が出来ない。
    そんな窮地に追い込まれながら、睡眠時間を最低3時間まで削って摂るようになり、
    ただひたすらに、窮屈で閉鎖されたような空間の中で、私は絵を描き続けていた。

    そんな日々が続いたある日、あまりの貧血に私は自宅で倒れ込んでしまった。

    視界がぼやけ、頭の中が真っ白になる。
    色褪せていた綺麗な世界が、途端に薄汚れていき、そのまま目の前が真っ暗になった。
    描きたかった世界、私が見たかった世界。
    そんな世界など本当にあるのだろうか。

    気が付いた私は、都内の総合病院のベッドで横たわっていた。
    しばらく点滴を打てば治るそうだが、体調管理を考慮して2~3日ほど入院するらしい。
    机の上に置いてあるスマホからLINEの着信音が鳴り響く。
    会社からの上司で、退院出来たらすぐにでも新刊のイラストを描いて欲しいとの事だ。

    こんな状態になっても、まだ私は「お金に変われる絵」を描かなければならないのか。
    そもそも私の描きたかったものとは何なのか。

    病院から眺める窓の景色は、ずっと曇天のままだった。