• 【デレマス小説】道しるべ 第4話「連なって輝く」

    2019-05-31 12:00
    私はもう一度、その人に問いかけた。
    しばらく考え込んだ後、その人がペットボトルの水を飲み干し、帽子を整えると、

    「一曲だけならいいよ」

    そうしてその人は、ギターを背負う。

    「何かリクエストはあるかな?」

    その人が問いかける。
    色々な曲が頭に浮かんだが、私のリクエストは決まっていた。

    「あなたの夢が叶えられるような、そんなロックな曲をお願いします。」

    その人は軽く「OK」と言って、ピックを持って演奏を始めた。

    その姿を見守るように、私は彼の歌をただただ聴いていた。
    大都会の真っ只中、一人のロックバンドと一人のロック好きがこうして出会った。



    ロックは魂の叫びでもあり、その人の世界。
    ロックで世界を、夢を追い続けて行こう。

    それが私の夢―





    私、多田梨衣菜の道しるべ―
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  • 【デレマス小説】道しるべ 第3話「君に伝わりますように」

    2019-05-23 12:00
    初めてその人の声を聴いたが、どこか悲しげな、それでいて透き通るような声だった。

    色んなロックバンドやアーティストの曲を聴いているので、色んな人の歌声も聴いてきたが、こんな声を聴いたのは生まれて初めてだ。
    その人の返答が気になって、私はさらに問いかける。

    「どうしてですか?いつもここで歌っているんでしょう?」

    すると、続けてその人は答えた。

    「いつもとは限らないよ。
    昔はバンドもやっていたし、ライブなんかもたくさん出ていたけれど。
    誰も聞いてくれなくて、認められなくて、それでメンバーも居なくなってね。
    それ以来、僕一人でこうして時々歌っているんだ。」

    過去に何かあったのだろうか、気まずい事を聞いてしまった。
    ライブなんて、学校であの子がやった一回だけしか見ていないので、本格的なライブの事情なんて全然分からないけれど、その人が酷く気の毒に感じた。

    たった一人でこの大都会の路上で歌っている事を考えると尚更だ。
    あまりの気まずさに、すぐにその場から立ち去ろうとした時、その人が話し掛けてきた。

    「でも、こうして話し掛けてくれたのは君が初めてかな。
    歌うのは僕一人だし、聴かせる相手なんて誰も居ないんだけど…
    歌を聴いてくれてすごく嬉しかったよ。」

    私は立ち去ろうと、そっぽを向こうとした足を止めた。
    私が初めての観客…そう思った瞬間、あの日に見たライブの事を思い出した。

    『ライブ見に来てくれてありがとう!
    歌うのは私一人で、聴かせる相手なんて居ないんだけど…
    歌を聴いてくれてすごく嬉しかったよ!』

    初めて見たライブで、あの子が私に言った言葉だ。

    その子も一生懸命に頑張ったんだろう。
    誰も聴いてくれない人だって居たのに。

    それでも必死に歌い続けたんだ。
    きっとこの人も。



    「歌、聴いてもいいですか?」
  • 【デレマス小説】道しるべ 第2話「道へと続くサイン」

    2019-05-11 00:00
    音楽を聞きながら物思いに老けていると、路上ライブをしているギターの男性が見えた。

    シワシワのジャケットを着て、少し猫背な姿勢でアコースティックギターを持ち、折りたたみ式の丸いパイプ椅子に座りながら慣れない手つきで演奏していた。

    都会に限らず地下の連絡通路とか、どこにでも居るごく普通の路上ライブに思えたけれど、その人は何故か黒い帽子を深々と被っていて、顔付きがよく見えなかった。

    恥ずかしがり屋の性格なのかな?
    一生懸命にギターを弾こうとしているその姿は、カッコイイと言うよりもどこか情けない姿に見えた。
    そのせいか観客は誰一人もおらず、ただただその人が歌っているだけだった。
    路上ライブとはそんなものだけれど、振り向いたりチラっと見るどころか、立ち止まる人すら居なかった。

    印象の問題もあるかもしれないけれど、私はあまりにもその人が可哀想に見えてきた。
    さっきまでCDプレイヤーに入っていた曲を聴いていたけど、その時は何故か、その人の演奏する姿が気になって仕方がなかった。

    私はヘッドフォンを外して、その人の傍に歩み寄った。

    歌い終わった後なのだろう。
    その人はペットボトルの水を一気に飲み続けていた。
    やっぱり帽子を被っているせいで顔がよく見えず、水を飲み終えた後、額の汗を拭いながら深くため息を吐いていた。

    ようやく私の存在に気付いたのか、一瞬だけ私の方をじっと見た。
    緊張のあまり何を話せば良いのか分からないのか、しばらく固まったまま何も話し掛けようとしない。
    私はおもむろに、その人に話し掛けた。


    「お兄さん。もう歌わないんですか?」


    驚いたのか、その人の身体が一瞬だけ震える。
    そんなに緊張するのなら、路上ライブなんてしなければ良いのに。
    少し呆れ気味になった私だったが、ようやく口を開いて私に話し掛けてきた。





    「僕の歌は、誰も聞いてくれないよ。」