【デレマス小説】新世界楽章 第2章「視線の向こう追いかける」
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【デレマス小説】新世界楽章 第2章「視線の向こう追いかける」

2019-12-09 18:00
    センター街から外れて、繁華街を歩いていた。

    高層ビルがやたらと奥まで立ち並んでおり、通りが1つ違うだけで別世界の様だった。
    この通りには外人の観光客が多いのか、片手にタピオカミルクティーを持ちながら、家族連れやカップルなど、みんな笑いながら通りを歩いている。

    そう言えば、今朝から何も口にしてなかった事に気付いた。
    私は肩掛けバッグから財布を取り出すと小銭が数枚あった。
    先ほどの外人たちが飲んでいたタピオカミルクティーくらいなら余裕で買えるだろう。

    すぐ近くにあったカフェでタピオカミルクティーを買う。
    片手でクルクルとカップを回しながら、カラオケ店前の電柱に寄り掛かって飲む。
    これを飲み干したら、街外れの通りまでぶらついてみよう。
    そう思った私の横で、マイクを片手に歌を歌っている少女の姿が見えた。

    緊張しているせいか、その少女は俯いたまま小さな声で歌っている。
    あまりにも気になって仕方がなかった私は、少女に歩み寄って尋ねた。

    「歌の練習をしているの?」

    少女は驚いた顔で私を見上げる。
    やや赤めのツインテールがそよ風でなびき、右腕に付けているハートのアクセサリーが日光に反射してキラキラと輝く。
    まだ緊張しておどおどした様子だったが、ようやく私に話し掛ける。

    「ここで、練習をしていたんです。
     でも、人前だと緊張するから…せめて人通りの少ない場所でやろうと思って…」

    確かにこの繁華街は人通りが少ない。
    先程のセンター街とは違い、観光客がぶらぶらと歩いて平穏な場所でもある。
    だがこんな小さな少女一人で、ましてや通りの真ん中で歌の練習だなんて不思議で仕方がなかった。

    私は他にも歌の練習に適した場所があると提案するが、少女はゆっくりと理由を言う。

    「私、本当は歌手になりたくて。
     私の歌でみんなが明るく、笑顔になってくれたら嬉しいなぁと思って…。
     デビューにはまだ時間が掛かるかもだけど、歌を届けるなら、せめてみんなの顔をちゃんと見なきゃなって…。」

    私は少女が歌っていた理由に驚いた。

    それはかつて、私も自分の夢のために歌を始めた理由と一緒だったからだ。
    誰がどんな歌を歌うのかは自由のはずなのに、教育だ、道徳だ、宣伝素材だとか。
    いつしか表現の自由が規制され、夢を諦めてしまった人たちを私は思い出していた。

    この少女が歌が好きで、この都会の真ん中で歌っている事に、感動が抑えられなかった。
    自由に歌を歌う事が出来ない世界の中で、夢を諦めずに頑張っている人が私の前にいる。

    「私が聞いてあげるから、自信を持って歌ってみて。」

    そう言うと、少女は少し驚いたが、嬉しそうな顔で私に微笑む。
    その姿はまるで、森の中でどんぐりを見つけたリスの様に可愛らしい姿だった。
    すると少女は「あ」と呟き、小さなポシェットの中から何かを取り出して私に差し出す。
    それは四葉のクローバーを押し花にした栞だった。

    「これ、良かったらどうぞ。
     私の知り合いに栞作りが上手な人がいて、作って貰ったんです。」

    四葉のクローバーなんて早々見つからないし、そんな大切なものなんて受け取れない。
    気遣いなんて要らないと遠慮する私だったが、少女はにっこりと笑ってこう言った。

    「四葉のクローバーは、また探せば見つかる小さな幸せです。
     でも、あなたとの出会いは、もう二度と無いかもしれない大切な幸せだから。」

    その少女の眼は、先ほど緊張して俯いていた姿とは違い、希望に満ち溢れていた。
    私は「ありがとう」と微笑んで少女から栞を受け取り、肩掛けバッグへ大切に仕舞う。
    少女はゆっくりと深呼吸をしてマイクを握る。

    そして、少女の最初のライブが始まった。
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