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めるまがアゴラちゃんねる、第072号をお届けします。
発行が遅れまして、大変申し訳ございません。
また、本年のメルマガは今号が最終です。
2014年は1月5日号より始めます。
読者の皆さまには本年もご愛読ありがとうございました。
来年もどうかよろしくお願い申し上げます。
コンテンツ
・ゲーム産業の興亡(83)
大ヒットソーシャルゲームの成長の限界(1)
新清士(ゲームジャーナリスト)
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特別寄稿:新清士(ゲームジャーナリスト)
ゲーム産業の興亡(83)
大ヒットソーシャルゲームの成長の限界(1)
11年頃に大きな流行を生みだしていたブラウザを使ったソーシャルゲーム(ブラウザソシャゲ)が、本格的に成長の限界に達しつつあると、肌感覚で感じるようになってきている。
筆者が継続的に遊んでいる、11年11月より始まったブラウザソシャゲの一つ「アイドルマスターシンデレラガールズ」(運営元DeNA、開発Cygames)を通じて感じられることだ。このゲームは、バンダイナムコゲームズのアイドル育成ゲーム「アイドルマスター」のキャラクターを使って開発されたゲームだ。獲得ユーザー数は350万人を超えている、ブラウザソシャゲを代表する大ヒットゲームの一つだ。
しかし、「ゲーム内経済の崩壊」を顕著に感じるようになっている。端的にいうと、ユーザーが楽しいと感じるよりも苦痛に感じる度合の方が多いように見えるのだ。
それはゲームバランスが壊れてきており、新規のユーザーを集めることが難しくなろうとしている。一方で収益性を確保するために、既存のユーザーによりお金を支払ってもらうように、ゲーム側からの働きかけが厳しくなってきていることを意味する。
これは過去のオンラインゲームや、ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)でも起きていることだ。いかにユーザーの動向をビックデータとして手に入れ、常にゲーム内容をおもしろくするように調整しているソーシャルゲームでも、同じ現象が起きるものだということを実感している。
数回にわたって、その人気ソーシャルゲームの中で、何が起きているのかをレポートする。
■確立されたブランドの強さを証明した「モバマス」
筆者は、取材をきっかけに、11年5月からこのゲームを遊び続けている。1年半以上遊び続けているので、粘りの強いゲームだと思っている。一度、自分が熱心に遊び始めたソーシャルゲームはサービスに近いため。それは、単品の家庭用ゲームが作品に近く数日で一応クリアして終わりになるのに比べると、長期間ユーザーを遊ばせるための力があることを強く感じさせる。
筆者は、特に昨年末の正月休みの時には、ずいぶんと隙間時間を使って熱心に遊んでいた。
「アイドルマスター」は、元々05年にゲームセンター用のゲームとして開発され、07年にはXbox 360用にアイドル育成ゲームとして発売された。ゲーム内で3Dキャラクターを使ってプロモーションムービーを作ることができる機能を持っていた。
当時、サービスが始まって間がなかった、動画サイト「ニコニコ動画」に、ユーザーによりその機能を使って作成された、勝手プロモーションムービーが多数アップされたこともあり、ブームが作り出された。
キャラクターの追加衣装がダウンロード販売され、中には1000円といったアイテムであっても、熱心なユーザーがこぞって購入した。キャラクターの追加の衣装の販売だけで、月に2数億円売り上げたこともあった。しかし、11年2月に発売された続編の「アイドルマスター2」の内容がユーザーの期待にそぐわない内容であったために、人気は急激に下がり始めていた。
だが、コアなユーザーをすでに獲得していることから、ヒットをすると見込まれて、DeNAはバンダイナムコゲームズと提携し、ソーシャルゲームとして「アイドルマスターシンデレラガールズ」をリリースした。ユーザーの間では、DeNAが運営していることから「モバマス」という通称で呼ばれている。
当時は、ファンタジーのモンスターを育てるゲームが主流で、アイドルを育てるというテーマのゲームがなかったこともあり、高い人気を集めた。また、すでにブランドを確立しているゲームの強さを証明することにもなった。
■ガチャを収益源とする典型的なブラウザソシャゲ
ゲームの内容としては、ブラウザソシャゲで一般的な内容であるといっていい。ヒットタイトルの「神撃のバハムート」(DeNA)とほぼ同じだ。開発している会社がCygamesでもあり、ゲームを動作させる基本プログラムがまったく同じであるからだ。
ゲーム内では、ユーザーはプロデューサーという設定で、アイドルの「キャラクターカード」を手に入れ、それらで「アイドルユニット」を編成し、他のユーザーと競いながらゲームを進めていく。
細かい内容のゲーム内容は説明しないが、基本的な収益源は、他のソーシャルゲームと同様に「ガチャ」だ。1回の300円でランダムに手に入れる事ができる「キャラクターカード」の「レアカード」が存在する。カードには。「レア」「スーパーレア」「スーパーレア+」など、ガチャを利用して手に入れることができるカードは、後者に行くほど難しい。
ユーザーはお気に入りのアイドルのレアカードを手に入れるために、何度も「ガチャ」を行うことになる。新しい限定カードを入手するには何万円といったお金が必要になる。これが高収益を生みだしている。
■実際に遊んでいるユーザーは推計10万人
もちろん、このゲームも、他のソーシャルゲームと同様に、課金してゲームを続けるユーザーの数は多くないようだ。ゲームを遊んでいる5~10%であることは、間違いない。筆者は、ゲーム内を進めることでポイントを獲得できるが(このゲームでは「ファン」と呼んでいる)、1週間ごとに「プロデューサーランキングアワード」と常に注目している。この発表を通じて、ゲームを実際に遊んでいるユーザー数を大ざっぱな水準ではあるが、把握することができる。
筆者は、1年半以上遊んでいるとはいえ、全体を通して数千円程度しか課金していない。典型的な低課金、もしくは無課金ユーザーに近い。熱心に遊んでいたちょうど1年前の12年12月頃では、その状態で「プロディーサーランキングアワード」では10万位前後だった。
しばらくゲームを遊んでいなかったが、今年11月に入って、もう一度熱心に遊んでみた。そうすると94000位につけた。筆者の数字は、ほぼ、現在熱心に遊んでいるユーザーの数と見ていいと推測している。そのため、登録ユーザー数こそは、350万人抱えているものの、実際に遊んでいるのは、10万人前後と変化していない。
このゲームの売り上げは、12年ピーク時には月に5億円程度だったと見られている。もちろん、ブラウザソシャゲでこれだけの売上を出すのは信じられないほどの大成功だ。
■ゲームのキャラクターカードのデフレが止まらない
しかし、ゲーム内で月に1万円以上使っている、重課金ユーザーがゲーム内チャットで不満を漏らすようになった。「キャラクターのデフレが止まらない」と。1年前には、1万円相当する「レアキャラクターカード
が、今では、300円で手に入るようになっている。
これは、ゲームとしての成長の限界に、完全にぶつかっていることを示す。ユーザーを引き止めるために、様々な工夫が行われているが、それでもゲーム内デフレは止まらない。これは、過去の特にオンラインゲームで起きた現象と同じだ。
ゲーム内でユーザーは、自分のカードはデジタルなものでしかないのに、カードに資産価値を感じている。何千円から、何万円をもかけて手に入れたレアカードが、デフレによって、その資産価値は目減りする。それは「ゲーム内経済」が危機に直面していることを意味する。これはユーザーの不満を生みだし、離れていく現象を引き起こす。
□ご意見、ご質問をお送り下さい。すべてのご質問に答えることはできないかもしれませんが、できる範囲でメルマガの中でお答えしていきたいと思っています。連絡先は、sakugetu@gmail.com です。「新清士オフィシャルブログ」http://blog.livedoor.jp/kiyoshi_shin/ も、ご参照いただければ幸いです。
新 清士(しん きよし)
ジャーナリスト(ゲーム・IT)。1970年生まれ。慶應義塾大学商学部、及び、環境情報学部卒。他に、立命館大学映像学部非常勤講師。国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)名理事。米国ゲーム開発の専門誌「Game Developers Magazine」(2009年11月号)でゲーム産業の発展に貢献した人物として「The Game Developer 50」に選出される。日本経済新聞電子版での執筆、ビジネスファミ通「デジタルと人が夢見る力」など。
Twitter ID: kiyoshi_shin