めるまがアゴラちゃんねる、第109号をお届けします。
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・ゲーム産業の興亡(120)
マイクロソフトによる「マインクラフト」のMojongを25億ドルの背景
新清士(ゲームジャーナリスト)


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特別寄稿:新清士(ゲームジャーナリスト)

ゲーム産業の興亡(120)
マイクロソフトによる「マインクラフト」のMojongを25億ドルの背景

マイクロソフトが、スウェーデンのゲーム会社のMojangを25億ドルで買収したと9月15日にMojangの公式ブログに、告知する形で公表された。

Mojangは09年に開発を始めた「マインクラフト」で世界的な成功を獲得したゲーム会社だ。今年3月に、Facebookが、ヘッドマウントディスプレイのOculus VRを買収した金額は20億ドルだったため、それを大きく上回る。

Mojangのヒットタイトルは、この1タイトルでしかないため、これほどの高額な買収額が適切かどうかについては、疑問の声も上がる。しかし、Xbox Oneの不振という厳しい状況に直面するマイクロソフトが、是が非でもヒット作が欲しいと感じたと思われる。


■家庭用ゲーム機版やスマホ版が大ヒット

「マインクラフト」は、Markus "Notch" Persson氏が、開発会社につとめつつ、自作していたゲームだった。ゲーム内に登場するすべての空間を3Dの立方体で表現することで、処理することが必要なプログラムのデータ量を減らし、ゲーム内の世界はすべてプロシージャル(自動生成)と呼ばれるテクニックを利用する事によって、ゲーム内で発生することは、プログラムで記述される。ゲームそのものの実行ファイルは極めて小さい。

このゲームの魅力は、ゲーム内容が自動生成されることから、人によりゲームプレイの展開が大きく変わることだ。ゲームの基本となるサバイバルモードでは、地下に鉱山を切り開き、希少金属をモンスターと争いながら手に入れていく。地下には巨大な空洞が存在していることがあるが、その空間はプレイヤーが掘り進むに連れて自動的にプログラムで計算され生みだされる。プレイする人により、すべてゲームの展開は違う。

その先が予測できないおもしろさが、ユーザーの評判を呼び、世界的なヒットへと結びついていく。

Notch氏は、09年5月に、最初のバージョンを公開した後、少しずつゲームシステムを拡張していった。10年にMojongを設立、パソコン向けのベータ版をサイトより直接販売することを開始した。最終的な完成版は12年2月にリリースされている。初期バージョンは7名のスタッフで開発を行っていた。

ゲームは、その後、家庭用ゲーム機ではXbox 360の独占で配信され、14年6月に1200万本以上売り上げている。パソコン版は1500万本で、iPhoneやアンドロイド用なども含めると5400万本という大ヒットゲームとなっている。

マイクロソフトのゲーム機に独占的に提供される時期は終わったようで、昨年12月にはプレイステーション3版が、9月4日には、プレイステーション4版が、欧米圏ではリリースされている。


■マイクロソフトが欲しがったのはゲームとユーザーのエコシステム

米ウォールストリートジャーナル誌によると、Mojongの13年1〜12月の売り上げは3億3000万ドル。この金額は、「アングリーバード」で知られるフィンランドのロビオエンターテインメントの2億2000万ドルを大きく上回る。Mojongには、社員数が40名しかいないこともあり、非常に高い利益を生みだしてきたと思われる。世界全体で起きているインディペンデントゲーム開発企業では、最も成功した企業に上げられる。

ただ、買収金額は、売り上げの7.5倍にも及ぶことを考えると、かなりの高い買収であることには違いない。それにも関わらず買収に踏み切る決断を選ばせた背景には、単に「マインクラフト」がゲーム単体に留まらず、ゲームを使って多様な遊びがユーザーに広がっており、それらを「マイクロソフト」が欲しがったという背景もあると思われる。

日本で、「マインクラフト」がブームになったのは、ニコニコ動画に投稿されたプレイ動画がきっかけだ。10年に投稿された「史上最大の(中略)マインクラフト実況」と呼ばれるシリーズは特に人気を集め、160万回再生されている。

当時の「マインクラフト」は、まだ日本語化されていなかったが、どういうゲームなのかが、日本のユーザーにも知られるきっかけとなり、日本でのブームを生みだす役割を担うことになった。ゲームが決められた展開にならないために、見ている側もどうなるのかドキドキしながら見ることができたのだ。

また、プレイ動画を中心に展開したことで成功した動画サイトの米Twitchでも、「マインクラフト」は人気コンテンツの一つだ。常時、数万人のユーザーが放送するプレイ動画を視聴している。

マイクロソフトが欲しがったのは、ゲームとユーザーとを結びつけるエコシステムであるとみられている。Xbox One事業は危機に立たされている。

PS4はすでに1000万台の販売台数を超えているが、Xbox Oneは500万台前後と、発売1年で2倍の差が付いた。Xbox Oneの人気を集めることができるような人気コンテンツはどうしても欲しいところだろう。また、ゲームから広がるユーザーの遊び方も取り込みたいというのが本音であろう。

ただ、マインクラフトのファンのユーザーからは、様々なプラットフォームに展開しているゲームが、Xbox Oneなどのマイクロソフトのプラットフォームでしか遊べなくなるのではという懸念が聞かれる。同時に、買収額に見合うほどの伸び代がないようにも感じられる。

それでも、買収をしなければならない点に、今のマイクロソフトのゲーム事業が厳しい状態に置かれていると感じることができる。



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新 清士(しん きよし)
ジャーナリスト(ゲーム・IT)。1970年生まれ。慶應義塾大学商学部、及び、環境情報学部卒。他に、立命館大学映像学部非常勤講師。国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)名理事。米国ゲーム開発の専門誌「Game Developers Magazine」(2009年11月号)でゲーム産業の発展に貢献した人物として「The Game Developer 50」に選出される。日本経済新聞電子版での執筆、ビジネスファミ通「デジタルと人が夢見る力」など。
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