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  • 【遙かなる時空の中で1〜5】鬼の一族

    2014-08-29 02:32
    これは夢、なのかな……?

    福地桜智はポツリと呟いた。

    自分は闇の空間に漂っていた。
    いや 自分だけでない、何人か浮いていて誰もが『鬼の一族』ということ。
    現在の鬼の一族は金の髪を持つものは希だが幾人かは日に浴びる稲穂のような輝きで外国の金の髪とは似ているがどこか違っている。

    「ここはどこだ……」
    怪訝な声で烏帽子を被り赤い直衣を着た男が額に手をあてて呟いた。

    (皇族?公家?)
    桜智は男の姿から推測したが、もっとよく観察すると、野心家の風采があり、鋭利で端正な顔は悔しさや憎しみの色も見えなくはない。

    もう一つ声が背後であがった。

    「ここは……時の狭間か……?時空移動の失敗か……」

    振り返ると金の髪を豊かに流す長身で体格のよい男が虚空を見上げていた。

    こちらはマントをはおり『忍』のように動きやすい格好と顔の下半分を隠している。だが表情が全く見えないと言うわけでは無さそうだ。

    桜智は声をかけようかどうか悩んだ。
    が、

    「そなたらは鬼の一族……か?」

     赤い直衣を着た男の方が訪ねてきた。

    「……一応、そうだけど」
    「……そうだ」
     桜智と覆面の男・リズヴァーンは答えた。
    「私は鬼の首領、アクラム。そなたらの長だ」

     尊大な態度で名乗った。ふとすれば高笑いもでそうな勢いだ。
    「ところでここはいったいどこだ……」
    「それはこっちのセリフだよ」
     はぁ……とやる気のないため息ついて少年が近づいた。
    (これはまた……古くて新しい)
    ふと目についたのは勾玉連なる首輪だ。
    (鬼道使い、というところかな?)
    「禍魂の気配をおったらこんな場所につながるなんてもってなかった」
    「お前も鬼の一族か、」
    「鬼の一族? なにそれ?」
     はあ? と目を瞬く。
    「それにあんたたち誰だよ? ああ俺は那岐。葦原那岐」
     名乗られては名乗らないわけにはいかない。
     アクラムはむっとしながらも名乗り、リズヴァーンも名乗る。
     桜智も名乗らなければならないなと、場の空気を読んで名乗った。ちょっとした肩書きをつけて。
     もしかしたらこの場に集まっている人間……いや鬼の一族はそれぞれ違う時代の人間ではないかとおもいかまかけも含めて。
    「私は福地桜智……幕僚だよ」
    「幕僚って、江戸? まさか幕末の人間?」
    「幕末、……というと……、ゆ、ゆきちゃんと同じ時空の人?」
    「ゆきちゃん?」
    「ああ……天女のような可憐な少女で……白龍の神子で…ああ、」
    「おいおい突然顔を赤くして…熱でもあるじゃない?!」
    「「白龍の神子!?」」
     心配しつつ後ずさる那岐とちがってアクラムとリズヴァーンがビックリするほど異口同音に声を上げた。
    「ああ、ゆきちゃん…」
     リズヴァーンが怪訝におうちに尋ねる。
    「もしかして、八葉なのか?」
    「ああ、八葉だよ……一応地の白虎」
    「「八葉…だと!」」

     二人の驚きようは種類が違うように見えた。

    「おのれっ、我が一族が神子に加勢するとは情けない!」
    「私の他にも鬼の一族が八葉に選ばれたか…よかった」

    「よくわかんないけど、服装的にそっちのアクラムは平安時代で、リズヴァーンさんは……なに時代?」
    「………源平だ」
    「で、桜智さんが、幕末……となると、一番古いのは僕か。あっちの世界で言えば古代神話だものな」
    「なるほど…だから鬼の一族のこと知らなかったんだね」

    「………鬼の一族はこんなにも増えているということは…いつか我が一族が京の支配者になる日はあるということか」
     ふふふ、となにか楽しげのアクラムに、

    「ありえないよ、リズヴァーンさんの時代だと平氏と源氏の戦いで鬼なんて出る幕なさそうだし」
     那岐の発言に腕を組んでこくこくと頷くリズヴァーン。
    「幕末なんてイギリスとかきてんじゃないの?」
     話をふられたので桜智も話に乗る。
    「そうだね。瞬間移動使わなければ、外国人鬼の一族の区別なんてできないし。とても厳しい偏見は江戸初期までだね。目や体格はともかく金の髪なんて散らばった一族から連絡来てないし。いまは外国人にまぎれてしまえはそれまでだよ」

    「く、我が一族がこんなにも不甲斐なくなっているとは……」
    「日本じゃなく京だけに目を向けてるあんたのほうがみみっちい感じがするけどな」

    「不毛な会話はさておき、どうやってここから出るかだ」

     うーん、と悩んでいると愛おしの人の声が聞こえた。
    『桜智さん……』
    「ゆきちゃん…」
    『那岐、那岐!』
    「千尋?」
    『先生! リズ先生!』
    「神子…?」

    「ぬ、ぬしらだけ帰るのか!」

    「だって、神子が呼んでくれてるから」

     薄れていく三人をどこか恨めし気に見送るアクラムに桜智は告げた。
    「貴方にも呼んでくれるものは必ずいるとおもうよ……でなければ私たちは未来にいないと思うから」

     消えた三人の奇跡を握り締め、アクラムは皮肉げにつぶやいた。

    「私の……神子、か」

     この後アクラムは少しの間時の狭間に閉じ込められることになるが、それは別の話。



    「桜智さん、桜智さん」
    「うう、う……は、は! ゆきちゃん!」
    「こんなところで寝てるとお風ひきますよ?」
    「ゆきちゃんが、わ、私を心配してくれるなんて、ああ…っ」
    「桜智さん顔赤いですけど…?」

     この時点で桜智は春の夜の桜が見せた邂逅をすっかり記憶からなくしていた。


     それはどの時代の鬼の一族に当てはまることだった。
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  • 【遙かなる時空の中で4】血潮

    2014-08-29 02:30

    「——!」

     俺はとっさに剣を薙いだ。

     一瞬でもおくれていたら俺が死んでいた——確実にそして悲しませた、絶望させた、だから死ぬわけには行かない。

     斬ったのは、一人の女だった。

     その女は荒魂に支配され正気と狂気の中に嘖まれていた儚い、そう儚い女性だった——俺の刃に倒れた彼女はこの世で最も大切な者の名を言の葉にのせた——

     ——忍人——

     と。

     ☆

    「あら、私の息子とおなじ名前!」

     女は手を叩いて声を明るくした。
    「息子はいま遠いところにいるのだけど…ふふ、向かいに行くまでにあなたのようにかっこよくなっていればいいのだけど」

     その女は——葉香は古志の生まれで芸人として各地を転々としているらしい。

     特技は剣舞——刃のない剣を舞うように操る女性で祭りの夜の余興でみたがそれは妙技だった。

     露出度の高い赤い衣——白い肌を惜しみもせずみせ、妖艶にまた戦うように舞う——柄の先に付いた鈴が爪先が地に着くたびシャン、シャン、シャン…! と調子よく奏でる。

     最初は如何わしい芸だと思っていたが——思わず魅かれてしまった。

     そして魅かれなければ彼女が荒魂に支配されているとは気付かなかっただろう。

    「う!」

     突然剣が手から放れ、ギャシャン…と不協和音が響き、集まっていた者たちが悲鳴をあげて蜘蛛の巣を散らすように逃げていく——。

     倒れた彼女は苦痛の悲鳴をあげるとともに異変がおこり、異形となる。
     玉のような肌は焼けただれ、桜貝のような繊手は獣のような鋭う爪が地面をえぐっている。

     俺は舌打ちして彼女に剣を振るった——だが硬い肌は刃をとおすことはかなわない。

     何合か渡り合ったすえ、彼女は突然苦しみだし、もとの姿にもどる——。

    「ごめんね、忍人…ごめんね…忍人」

     ……忍人?

     思わずドキッとした——だけれどそれは俺を呼んでいるわけではない。

     とりあえず彼女を連れて外に出たのだった。

     



    「私は神との間に生まれた異端なんだよ」

     あばら屋で目を覚ました彼女は開口一番そういった。

    「…中つ国が滅んですぐ私の身体にも変化がおこった——血の半分が神の血——それが荒魂になってしまって…」
    「……、休んでいろ…」
    「あんた、名前は?」

    「忍人…」

     しばらく俺は彼女が元気になるまでそばにいた——いまでもなぜか解らない。

     捨て置けなかった…と言えばそれば一番あっているのかもしれないが、他にも理由があるきがした。

    「私は忍人がいればよかった。でもいまはいないから寂しい」「この腕の中に抱きしめたい」「忍人…忍人、忍人」

     葉香は自分の息子のことを思っては涙した。

     でも俺は葉香の子どもの話を自分から離しかけようという気になれなかった。

     聞くのが怖かったからだ——でも。

     ある夜。

    「子どもは実は生きてないんだ——」

     ぽつりと呟いた彼女の言葉にさもありなん…とおもった。

    「この手で殺してしまった…」

     彼女は声をころして泣き俺は彼女をただ抱きしめ、萎びた髪をなでて慰めた——。

     忍人と呼ぶ声は、もう何年も聞いていない——俺の母も元気だろうか?

     切ない思いにかられたのは久しぶりだった。


    「大丈夫、忍人さん!」
     千尋が青ざめ駆けつけそれに続いて風早たち仲間もそばによる。

     俺は大きなため息をついて破魂剣をおさめ彼女の骸をだきしめた。


    「もし、私が荒魂になったら殺してね」

     別れの挨拶に葉香は俺の背にそう声をかけた——。

     彼女は荒魂に完全に支配されていなかった——その証拠に腹部は人間のままだったのだから。

    「神子——彼女が無事黄泉を渡れるようにいのってくれ」

     ——忍人、忍人…。

     愛おしくよぶ彼女の声がいつまでも俺の中で響いていた…
  • 【遙かなる時空の中で4】ふたりっきりのせかい?

    2014-08-29 02:29
    私は那岐とここ黄泉に残ることにした――。

     一人那岐をおいてなんか行けないし、なにより大好きな那岐と一緒にいたかったのが本音だ――。

     見知った教室は那岐と私だけにある空間…。茜が射す教室、長く黒い私と那岐の陰が重なる。

     ずっと一緒にいようね、
     
     そんな視線をジッと那岐に投げると、那岐は照れ臭そうに視線をそらす。でもそっと私の頬に手を伸ばして唇を重ねようとした……――そのとき。

    「もー! やだ! 将臣くんのばかああ!」
    「まてよ!望美! あやまるから!」
    「あやまったて許してあげないんだから!」

     二人だけの教室、二人だけの学校――のはずなのに、聞きなれない男女の声が響き、タ、タ、タ!と軽やかに廊下を走る音がしたとおもったら、「バン!」と扉が思いっきり開かれた――。

    「あれ?」

     ここは私たち二人っきりの世界ではないの?

     そんな視線が互いに読み取れた。



    「望美さん、もしかしてあなたも黄泉に?」
    「――黄泉? ……まあそんなところかな?」
     そうたずねられて私――春日望美は耳に髪をかき上げながらこたえた。

     私は将臣くんと――還内府と戦いたくなくて二人で「あのとき」に逃げた。

     二人まだなにもしらないころのあの頃、教室に――。

     でも、今日いきなり男女の仲を求められて私はビックリして、また心の準備ができてなくて思いっきり将臣くんを蹴倒して逃げてきてしまった――。しかもいい雰囲気な那岐くんと千尋の間を邪魔をして…。

     那岐くんは明らかに機嫌が悪く前髪をかいている。

    「それって、そーゆう演出ねらってんの? 狼となんたら…」
    「那岐!」
    「そ、そんなんじゃないわ! ただ教室でそんなことするの、なんか…その…だれもいないとおもっても、やっぱり他に人はいたんだし…」
     もじもじと人さし指と親指をくっつけこして見せる。
     そのときだ、教壇のほうの扉が開いて鎧姿の男性が現われた――。
    「望美ここにいたのか!」
    「なんでもとの姿にもどってるのよ! あーもう! 私と一緒にいるのがいやになったんだ!」
    「そんなんじゃねえよ! でも…戻んなきゃ行けねえそんな気がするんだ」
    「もう! 自分勝手なんだから! もうこうなったら私は時空移動してやる!」
     私はキレて白龍の逆鱗をとりだし、もう一つの懐かしい時空――那智滝へ飛んだ。
    「ひでぇ! おれも連れて還れ!」
     
     ☆

     私と那岐は白い空間に消えていった二人を呆然と見送った――いったい、何だったんだろう?


     私たちもここに残らず黄泉から出たほうが楽しいのかも知れない――。