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長岡市の子どもたちと三角関数 / shi3z
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長岡市の子どもたちと三角関数 / shi3z

2014-10-27 09:03
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     ひょんなことから生まれ故郷である新潟県長岡市で、参加無料のプログラミング教室をやることになった。
     長岡市役所が協力してくれたので、地元の長岡大学の教室を無料で借りることが出来た。

     教材として使ったのは、enchantMOON。

     PCまたはiPadとMOONBlockで説明するのでもよかったけど、全員がiPadを持っていることが想定しにくい田舎町だったので、タブレットをこちらで用意するとなるとenchantMOONしかなかった。

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     長岡市の人間は必ず読んでいる「市政だより」による告知で会場は超満員。
     告知した当日に定員に達してしまった。

     インターネットで事前に告知したときはぜんぜん人が集まらなかったのに。


     というのも、結局「親世代」の人の情報源は地元に密着したメディアに限定されるということ。
     今回は長岡市が全面的に協力してくれたので、市政だよりはもちろん、各学校への周知も徹底的に行われた。次回は定員を二倍にしたい、というありがたい意見もいただいた。



     今回のワークショップはハッカソン方式でやってみた。
     子どもたちを対象にハッカソン方式をやるのは初めてだったけれども、利発そうな子どもたちが次々といろいろなアイデアを形にしていった。

     印象的だったのは、「まずハイパーリンクだけでクイズゲームを作ってみよう」という課題で、5分間でクイズを作らせた時に、一人の小学生(たぶん、4、5年生)が「次のなかで正弦定理はどれ?」というクイズを作ったことだ。


     これはどういうことかというと、「僕は見た目は子どもだけど、三角関数くらいは知ってるんだぜ。舐めるなよ、オッサン」ということである。


     少なくとも僕はそう解釈した。なにしろ僕がそういう子どもだった。


     そこで彼のために少し三角関数の使い方を説明した。
     それともうひとつ、普段なら絶対に意識しない「三角関数の実用的な使い方」について。


     しかし驚くべきことに、そのへんにいた適当な保護者の男性に「正弦(sin)と余弦(cos)を組み合わせるとどうなるか想像できますか?」と聞くと、「円運動になるのでは?」という答えが返って来た。これは東京のどのワークショップで同様の質問をしても決して得られなかった正しい解答である。


     そこではたと思い至った。

     僕が三角関数を小学生の頃から知っていたのは、親父が強電系のエンジニアで、家に三相交流のための参考書が山ほどあったからだ。なぜなら、長岡市は工場が沢山ある。工場には発電機があり、工場で働く技術者は、たとえ高卒であっても三相交流の仕組みを知らなければならないし、熱収支の計算くらいはできなければならない。ボイラーの熱収支の計算を行い、正しい発電量を見積もるプログラムを自分で書かなければ仕事にならない。複素電力や電圧ベクトルの知識がなければ命を落とす可能性すらある。


     そしてそれは、長岡市に住む人ならごく当たり前の光景なのだ。

     田舎だから工場があり、工場で従事する労働者たちは決して単純な繰り返し作業をしているわけではない。東京に住んでいると、工場の仕事というのは、アルバイトでやるもの、というイメージがある。単純な繰り返し作業で、良品と不良品を見分ける、とか。しかし長岡に住んでいる人が、アルバイトで工場で働くというのは聞いたことがない。単純労働みたいな工場がないのだ。単純労働は工場作業のごく一部分であり、重要なのはボイラー、発電機、取水機、浄水器などの機械が正しく動作していることであり、故障率を下げるための日々改善を繰り返す作業である。

     日本酒の工場も、製紙工場も、食品加工場もあって、それぞれが高度な数学によって支えられている。美味い日本酒を作るためには高度な数学が必要になる。朝日山の銘酒、久保田も、絶妙なバランスの数学によってあの洗練した味わいを実現している。決して経験と勘に頼って作っているわけではない。


     だからちょっと利発な子どもが三角関数を知っているのはこの街では当然であり、なにか変わったことに興味を持てば、膨大な蔵書を誇る長岡市立中央図書館でいくらでも高度なことを調べることが出来る。今はコンピュータさえも珍しいものではないから、その気になればいくらでも三角関数の動きを確かめることができるのだ。

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     これは長岡に限らず、地方の工業都市ならばごく当たり前のことだと思う。
     が、東京では違う。


     東京の大人を捕まえて、「三角関数のsinとcosをxy方向に合成するとどうなりますか?」と聞いて即座に正しい答えを返せる人はほとんどいない。


     僕も東京に移り住んで20年になり、いつのまにか東京が日本で最も進んだ都市だと考えるようになっていたけれども、数学の教育ということに関してはその認識を改める必要があるのかもしれない。


     「知識として知っている」ということと、「実用的な道具として使える」の間には大きな隔たりがあるが、長岡で暮らす大人たちの中には、数学を実用的な道具として使わなければ生活できない、という人たちがどうやら一定数居るようなのだ。


     絶対数でいえばもちろん東京の方が多いだろう。
     しかし都市にとって重要なのは知性の絶対数ではなく、知性の密度である。
     東京は工場の密度が低い。数学的能力よりも社会的能力が重視される社会だ。
     
     
     そういえば深圳も、若くてもコンピュータの知識が豊富な人々が多かった。
     故障したスマートフォンを分解して修理できる人がそのへんにゴロゴロ居たのだ。

     これもまた、生活のために実用的な知識が必要になる地域ということかもしれない。
     学力を平坦な方法で測ること自体が大きな誤りなのだろうか。


     たとえば数学のある分野には強いけど、他の分野には弱い、という地域もあるはずだ。
     地域によって生活に必要とされる知識が大きく異なるからだ。


     数字に関することを全て「数学」という門切り型の視点で見ると、数学の総合的な能力を常に要求されることになる。それは代数幾何だけでなく、確率・統計、微積、集合論といった多岐にわたる分野だ。全て数字を扱うが、代数幾何と確率統計は同じ分野と思えないほど根本的な考え方が違う。共通しているのは数字と変数を扱うことくらいで、他の共通点は全くない。これは日本語を扱っているけれども、ドキュメンタリーと推理小説ほども似ていない。広辞苑とマンガくらい違うものだ。両方できなければ数学的能力が高いと看做されないのは、評価法の欠陥であると言っていい。

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     10分製作して発表し、また10分製作して発表する、ということを繰り返して、目を見張るべき成果を出した人たちが何人か居た。

     
     このイベントはまずまずの成功をおさめたと考えていいだろう。


     実際に長岡に住む子どもたちにプログラミングの魅力の片鱗くらいは伝えることが出来て僕は嬉しかった。

     またやるかもしれない。
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