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  • 憧れという駆動装置

    2016-09-05 07:00  
    102pt
     子供の頃に見た秋葉原は、なんだかとっても眩しく見えた。 所狭しと並んだパーツショップ。  エレキットに半導体、真空管、マイコン、基盤、マイクロロボット。 本でしか見たことのないような機械があちこちにあって、ここは天国かと思った。 ちっぽけな島国で敗戦国、日本の首都の東京がこうなのだから、きっと世界一のハイテク国家、あめりかのニューヨークや、その名も驚くシリコンバレーあたりには、もっと凄い電気街があるに違いないと信じていたが、いざアメリカに渡ると、秋葉原のようなところはアメリカのどこにもない、それどころか先進国のどこにもないことを知り、愕然となった。 秋葉原のようなところは、どうもアジア特有の現象らしい。 北京にも上海にも、そしてもちろん、深センにも、秋葉原のような街がある。 それでも秋葉原がそうした電気街と根本的に異なるのは、「パーツ」を売っていることだろう。 深センも確かに面白いが、売っているものの大半は完成品、既成品である。 もちろんパーツも売ってはいるが、こんどはパーツとして細かすぎるか大雑把すぎる。 たとえば純正品そっくりに作らたiPhoneのフロントパネル。タッチセンサー、USBケーブル(かなり断線してるアウトレット品)などだ。 ところが秋葉原のパーツは洗練されている。 無駄なものは売っていない。 深センにも上海にも千石電商や秋月電子のような店はない。 深センの電気街にとって、電気製品やパーツというのは「生活の糧」であって、おそらく憧れの対象ではないのだろう。 赤外線サーモグラフィにしろ、ロボットにしろ、ラズパイにしろ、なにか僕らの心の奥底にある、ある種の憧れを刺激されている気がする。 それが即座になにかの役に立つというわけではないが、確実に世の中を変えていくような、そんな可能性を秘めた秘密の道具への憧れ。 たとえば、1990年代に、自宅に電話回線とモデムを引いて、草の根BBSを開局する。 そのためにはけっこうな設備投資と維持費がかかるし、壊れたら会員から苦情が来る。仕事でもないのに直さないとなんない。 けれどもなんていうか、それをやっている人たち、ようするに草の根BBSのホスト局(むかしはこう呼んだ)をやっているシスオペ(システムオペレータ)の人たちというのはどこか共通して、飄々とした近所の趣味人のおっさんだったりアンちゃんのようなオーラを持っていて、常に楽しそうにしているのだ。鬱々としたシスオペなど見たこともない。ニフティあたりには居たかもしれないけど。 そこにはどこか「コンピュータ通信」という、最先端の技術への憧れと、それを自分の手中に収めているという満足感、その2つがあるのではないか。 その意味では、ディープラーニングや人工知能が極端に注目を集めているのも、ある種の憧れの発露と言えるのかもしれない。 UEIでは今年の頭からDEEPstation DK-1というワークステーションを売っている。 これを企画したのはちょうど一年前の今頃で、マイクロソフトでアルバイトしていた頃にお世話になった大塚さんという方(MSXの初代メタルギアのプログラマー!)が、ドスパラでお馴染みのサードウェーブに転職したというので、一緒に組んでワークステーションを企画しないか、と持ちかけたところ、さすが元プログラマーの大塚さんだけあって、ほとんど瞬間的な説明で企画が決定した。こんな感じだ。 「うちで作ったディープラーニングの学習GUIを乗っけたワークステーションを作らない?」 「ディープラーニングに特化したハード構成をうちが提供してタッグで売るのね、それは売れるよ」 大塚さんの予言通り、DEEPstationは今や日本国内100箇所の研究機関や大学で使われているベストセラー機種となった。 特にエントリーモデルのBASICエディションは24万円という圧倒的低価格と、コンパクトなボディがウリだ。  ドスパラがゲーミングPCのために特別設計したエアフローとベアボーンが組まれている。 GPUは90度にも達するので、ちゃんとしたエアフローを設計しないと到底使いものにならない。そういう意味では上位機種でもエアフローをきちんと設計した筐体になっていて、同業他社の同価格帯のモデルよりもワンランク上の筐体を採用している。 これを企画した時に思ったのは、「最先端の人工知能を自宅に置く」という、うまく言葉にならないワクワクするような気持ちをみんなと共有したいということだった。DK-1という名前から分かるように、イメージとしてはTK-80だ。何に使うのかはわからないけど、これがあればとりあえず人工知能を始めることができる。そういうスタートラインです、ということを表明したかった。 そのためには、まず熟練者でも苦労するGPUのドライバやChaienrやTensorFlowといったミドルウェアのインストールを省くだけでなく、誰でも使いやすいGUIによる深層学習環境を最初から揃えておくことが重要だった。 そしてこれさえあれば、誰でもすぐに深層学習をとりあえずためしてみることができる、というところまでもっていって、次に始まったのは、社内でのDEEPstation DK-1の計算リソースの奪い合いだった。プログラマーはもちろん、営業やついにはゴトー博士まで触り始めた。それくらい、人工知能には目に見えない魅力があったのだ。 とある芸術家に、「どうすれば素晴らしい絵が描けるんですか?」と聞いたことがある。 すると返ってきたのは、「心に憧れを抱くこと」という答えだった。 そう言われた時には、正直あんまりピンと来たわけではなかった。