前編からの続きです。
AMのカウンセリングで「うんこな恋愛はもうこりごりだ。童貞マインドを卒業したい。人と本音で付き合えるようになりたい。こんな自分を変えたい」
そう訴えた一人の精神的童貞に、アルさんはこんな言葉をかけてくれました。
「毒親育ちは、確かに自己肯定感が低くなりがちだし、見捨てられ不安も強かったり、相手に嫌われるのが怖くて本音が言えなかったりしがち。でも、相手次第の部分は大きい」
「相手が受け止めてくれる人だったら、本音を出して付き合えるようになる。そのためにも、自分とマッチングするパートナーに求める条件を3つに絞って、自分のWANTSを確率させよう」
このアドバイスに則り、私はマッチングするパートナーに求める条件を3つ決めました。
それは、
・信頼できる
・対話ができる
・社会的弱者に対して理解がある(ここでいう理解とは、「そういう人もいるんだ」という認知ができることを指す)
今の彼氏と出会ったのは、この条件を決めた後。
彼はまさに、この3項目をクリアしてると思えました。
彼と同棲を始めて半年が過ぎ、私たちはパートナーになることを見据えた付き合いをしています。以前の恋愛とは何もかもが正反対の日々を送る中で、私は今、しみじみとこう感じています。
「私童貞マインド卒業見込みになってる!」
では、いかにしてそのような心境に至れたのか?
本音を話したり素の自分を曝け出したりしても「大丈夫なんだ。怖がらなくていいんだ」と思えるようになったのか?
私個人の経験ではありますが、お話しさせてください。
結論から言いますと、童貞マインド卒業見込みになってると思えたきっかけは、彼と喧嘩が「出来た」こと。
もう少し踏み込んでいうと、自分の「怒り」を表現できたことにありました。
私は元彼と一度も喧嘩をしませんでした(ちなみに友達とも最後に喧嘩をしたのは12年前です)。喧嘩をしなかった……というか出来なかった理由は、以下の3つです。
①自分の本当の意見を主張したら、相手に嫌われると思っていたから
②元彼のことを全く信頼していなかったので、話を聞いてくれるわけがないと諦めていたから
③喧嘩:怒ること=暴力、という図式が頭に強くこびりついていたから
①の原因は、家庭環境です。自分の意見や思いを主張することが暴力に繋がる機能不全家庭だったので、「黙っていないと酷い目に遭う」と学習した私は、他人との関係にもその学習内容を持ち込んでしまっていたんですね。
②については彼の人間性が鉄仮面メンタルだったので、信頼しようがありませんでした。
③は、①と密接しています。
私は両親ともに毒親なんですが、彼らはしょっちゅう喧嘩をしていました。
そもそも喧嘩って、問題を解決するために起こるもので、お互いの意見や思いを話し合って、双方が納得できる結論を出す行為ですよね?
でも彼らを見て育った私は、どうしてもそのことに気づけませんでした。
両親の喧嘩は、問題解決のためではなく、お互いを罵り、攻撃するためにするもの。
しかも、結局は母親が父親に暴力を振るわれて終わる。
そんな光景を常日頃から見ていたので、「怒りは喧嘩を呼ぶ。そして喧嘩は暴力に繋がる。だから怒っちゃいけない。怒って喧嘩をすると、みんなが傷つく。そうならないためには、我慢が一番いいんだ」と認識していました。
では実際に、喧嘩をしない、要は自分の思いを正直に話す機会を作らないことで、恋愛ひいては人間関係がうまくいっていたのか?
いうまでもなく真逆でした。
元彼には自分の本音や思いを言わなければ言わないほど雑に扱われましたし、終いにはフラれました。
その経験があったからこそ、「次に付き合える人は本音を言っても大丈夫だと思えるような人がいい」と強く思ったんです。
マッチングの条件3つを満たした今の彼氏は、信頼感や安心感を覚えるような行動をたくさん取ってくれました。
・LINEのやり取りがリアルタイムに、普通にできる
・既読無視や未読無視を絶対にしない
・毎日連絡がある
・会話を続けてくれる
・不安や悩みを聞いてくれる
・「大好きだよ」「可愛いね」「愛してるよ」とたくさん言ってくれ、ハグもたくさんしてくれる
・仕事や用事の合間を縫ってでも会う時間を作ってくれる
など、ひとつひとつは些細なことかもしれませんが、そんな些細な態度や言葉こそが、信頼関係を構築する基本になるんですよね。
一粒一粒は小さいかもしれないけど、彼の方からそうやってコツコツと信頼に繋がる種をたくさん蒔いてくれたからこそ、私も徐々に彼に歩み寄えるようになっていきました。
そして、彼が蒔いてくれる信頼の種を受け止めると同時に、私の中で不器用ながらも行動していたことがありました。
前述とは別にアルさんから頂いたアドバイスです。
「自分の本音や要望、不満を相手に伝える時は、主語を『自分』にすること。『私は』こう思うと、あくまで自分の気持ちを軸に話をすれば、『なんで●●してくれないの!』的な相手を責める言い方をすることなく、要望も不満も伝えられる」
これです。
行動の難易度としては高くなさそうだし、確かに相手に逃げ道も作ってあげられるし、「あくまで私の気持ちを言うだけなんだから!」と言い聞かせれば、私でもできそう……。
そう思った私は、少しずつ少しずつ、ポジティブ・ネガティブな話題問わず、「私はそれについてこう思う」と彼に伝える訓練を積み重ねました。
こうした積み重ねをしたからこそ、あの日「この人には自分の素を曝け出しても大丈夫」と確信できたんだと思います。
付き合い始めて、4ヶ月経った頃のこと。
自分が乗り越えたい課題は分かっているものの、人に本当の気持ちを伝えたり、素を曝け出してオープンになったりすることを避けてきた年数が長すぎて、その時の私はまだどこか、彼に対してクローズドな部分がありました。
でも、コツコツと信頼の種を蒔いてくれた彼は最初からオープンリーで、私よりも遥かに自己開示をしてくれていました。
だからでしょう。自己開示の延長ぐらいのノリで、ある日、彼が初めてイライラした態度を見せてきたんです。
色んな意味でショックを受けました。
単純に、「彼氏」をイライラさせてしまった・「彼氏」が私に対してイライラしている、ということに対するショック(我ながらガラスがハートすぎる)。
そして、彼のその態度がまるで家族に向ける種類のものだったことに対するショックです。
なんというか、家族にしか見せられないような、「素」の彼の姿に触れたことに、私は戸惑ってしまったんです。
「他人」とは、家族に見せるような姿を見せてくる存在ではない。
「自分の本音を伝えて素を曝け出せ合えるような人とパートナーになりたい」と思っていたくせに、実はまだそんな考えが残っていて、自分が彼にまだまだ素を出せていなかったことを、この時自覚しました。
気がつくと、私はボロボロ泣いていました。
他人の線引きを取っ払った彼の素の態度を、どう受け止めたらいいのか分からなくて、困惑してしまったのです。
しかし上述したように、ここまで私は自分を主語にして彼に思いを伝える訓練を、自分なりに積み重ねていました。
加えて、彼の普段の態度から信頼できる人とも思っていた。
なので正直に、自分が今戸惑っていること、だからどうしたらいいのか分からなくて涙が出ていることを話しました。
すっかりイライラが収まった様子の彼は「ついイライラしちゃってごめんね」と謝ってくれた後、こう続けました。
「ゆっくりでいいんだよ。サイの全てを受け入れるから、サイのペースで全然いいから、俺には気を遣わないで。俺、サイがめちゃくちゃ気を遣ってくれてること、一緒に過ごしててすごくよく分かる。でも、俺は気を遣い過ぎて言いたいことを言えない仲になるのは嫌だし、一方だけが我慢するような付き合い方はしたくない。言いたいことがあったら言って欲しい。ゆっくりで、ちょっとずつで大丈夫だから、俺のことは家族だと思って接して」
ここは、安全基地なんだ。
本当の意味でそう認識できた瞬間でした。
それから約1ヶ月後、ついに私は彼と真正面から喧嘩をします。
正確にいうと、「出来る」ようになっていました。
きっかけは、私の毒母のこと。
毒母に対する積年の恨みつらみが手伝って、母がとってきたある言動に、私は呆れ返っていました。
仕事から帰ってきた彼にその話を愚痴っぽく話すも、彼の反応はイマイチ鈍い。
それどころか「なんで呆れてるのか俺にはよくわかんない」と返された。
つい、私はカッとなってしまいました。
不機嫌をむき出しにして、ムッツリ押し黙っていたら「怒ってるの?」と恐る恐る聞く彼。
「怒ってる!」
生まれて初めて恋人に対して、「怒り」を表現した瞬間でした。
…いやそもそも彼は私とは違う人間で、全く異なる家庭で育ったわけだし、当時の時間も共有してないから、毒親に対する積年の恨みつらみの「感覚そのもの」や、その全てを理解することは不可能じゃね?
てか、彼は私の毒親話に対して、全く抵抗感を示さなかったよね?
私が初めて親の話をした時、彼は私を抱きしめながら「かわいそうだったね。俺も親とは別に仲良くない。しばらく連絡も取ってないし、親と無理に仲良くする必要なんか全然ない。もう別の場所で自立してるんだから」とフォローしてくれた。
「でも親なんだからさ」
「でも育ててくれたんでしょ?」
「そんな悪口言ったら親がかわいそう」
とか、そんな無神経な言葉は決して言わなかった。
後で冷静になってからこれらのことに気付けましたが、カッとした私はこれらの「そもそも」が全部吹っ飛んでいました。
たまたま彼が「自分には分からない」と言った一部の発言を、「私と毒親との関係すべてに対する無理解な発言だ!!」と解釈してしまったんです。
お互いに言い合いになり、「譲らねえぞ」と頑固な気持ちになって、私は自分の怒りを彼にぶつけました。
その後、なんで認識がズレたのか話し合い、誤解し合っていた部分を共有し、私が今まで母親にされてきたことも改めて話したところ、辛かった記憶が蘇ってきて私は号泣(つられて彼ももらい泣き)。
結局、彼が「俺ももう少し理解してあげるべきだった。これから親の話をする時は、お互いに慎重になろうね」という大人な結論を出してくれて一件落着しました。
めっちゃ身勝手ですし、子供っぽい怒りでした。
でも、正直に言います。
私、彼に「怒ってる」と言えたとき、密かに嬉しかった。
私はこの日の夜、妙にジーンとしていました。
「彼氏と喧嘩できた……気持ちを押し殺さずに、我慢せずに、自分の思いを人にはっきり表現できた……」
そんな感動で、胸がいっぱいになってしまったんです。
「相手が受け止めてくれる人だったら、本音を出して付き合えるようになる」というアルさんの言葉は、その通りだと思いました。
相手が、自分にとっての安全基地だと思える。
この人は私から離れていかないと信じられる。
そして、相手に本音を伝えるための練習をとにかく地道に続ける。
健全な恋愛関係づくりには、こうした土台が欠かせないと学びました。
不器用でも下手くそでもいいやと開き直って、ゆっくりでもいいから、自分の気持ちや本当はこうして欲しいと思うことを伝える訓練を積み重ねていたら、童貞マインド卒業は自然と間近に迫っていたのです。
それから、アルさんのカウンセリングを受けた時に取ったメモを見返すと「メンタルが弱ってる時に一緒にいられない男とは付き合うな!」という一言が書いてあって、共感のあまりヘドバンしています。
数ヶ月前に私が上司から言葉のパワハラを受け続けて精神状態が極限に達していた頃も、彼は絶対に離れていきませんでした。
相手が自分の安全基地だと確認するには、メンが細くなっているときの向こうの態度も観察するべきです!
私が童貞マインドを「卒業」する日って、どんな日?
そう考えた時、彼にだけではなく、他の人に対しても自分の本音や思いを恐れずに伝えられるようになった時だな……と思いました。
でも、まずは直近の目標だった恋愛関係において童貞マインドを発揮しないことは、クリア出来つつあります。私はそれを、誇らしく感じています。
彼と別れる可能性は0ではありません。
ただ、童貞マインド卒業証書をチラつかせてくれたのは、ほかでもない今の彼です。
今の彼と出会っていなければ、もっと言うとパートナーに求める条件3つを考え、男の中身を見ること、不器用でも自分の気持ちを主語に話すことを実行していなければ、私はずっと童貞マインドのままでした。
人って変われるんです。それも、人との出会いによって。
今回は、そのことを皆さんに少しでもお伝えできればと思い、筆を取らせて頂きました。
私の経験が皆さんの背中をちょっとでも押せれば、心から光栄に思います。
最後まで読んでくださった方、本当にありがとうございました!
―サイちゃん、コラムの寄稿をありがとうございました!
「(毒親育ちなど)過去の影響で自己肯定感を持てないため、恋愛がうまくいかない」「自己肯定感を高めないと、幸せな恋愛はできないのでは?」という相談をよくもらいます。
でも(私自身もそうでしたが)「自分を受け入れてくれる存在に出会ったことで、自己肯定感が回復して、幸せに生きられるようになる」というケースも多くあります。
対人関係療法の第一人者である、精神科医の水島広子さんは「人は人によって傷つけられ、人によって救われる」という趣旨のことを書いていました。
私も「こんな面倒くさいメンヘラ女は幸せになれない、自分を変えなきゃダメだ」と思っていましたが、夫が「いろいろ大変なことがあったんだから、不安定になって当然だろう。そのままでいいんじゃないか」と受け入れてくれたこと。「それでいいのだ」と全肯定してくれたことで、自分を肯定できるようになり、メンが安定しました。
夫と出会ったのは偶然ですが、夫をパートナーに選べたのは「自分のWANTs」「何を譲れて何を譲れないのか」がわかっていたからだと思います。それがわかったのは、私もうんこな恋愛をして、クソまみれになりつつ学んだから。
クソにまみれるのはつらいけど、人は失敗から学べます。サイちゃんもそうして幸せをつかんだ一人。彼女のコラムが多くの人に届きますように。
次回は「潔癖症のセックス嫌いがレズ風俗に行きましたレポ」をお届けします!
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