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話題の経済理論MMT(現代貨幣理論)の評価するべきところと、不十分なところ
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話題の経済理論MMT(現代貨幣理論)の評価するべきところと、不十分なところ

2019-05-09 05:20

    今、世間を騒がせているMMT(現代貨幣理論)についての私の感想を書きます。


    結論から言えば、MMT理論は、正しいところと、不十分なところを併せ持っている。

     

     

    正しいのは、自国通貨建ての財政赤字なら、中央銀行が協力すれば破綻はしないというところだ。

     

    不十分なのは、景気対策として財政支出のみを強調しており、実体経済向けの信用創造量の拡大という概念を使用していないところだ。

     

     

    私が聞きかじったMMTの特徴は、


    1 自国通貨建てでの国債発行であれば、いくら財政赤字を積み上げても破綻はしない。なぜなら、自国通貨は中央銀行がいくらでもつくれるので、中央銀行が自国通貨建ての国債を買い取れば、借金は事実上、存在しなくなる。(中央銀行が保有する国債の利払いは、国庫に納められるため)


    2 そのために政府は財政赤字を気にせず、完全雇用(職を求めている全ての人が雇用されている状態)を実現するまで財政支出を拡大するべき。ある程度のインフレ率の上昇リスクよりも完全雇用を優先するべき


    という内容である。


    このMMT理論の見本は何と日本だという。



    (朝日新聞デジタルより以下転載)

     

    日本学び「財政赤字恐れるな」 米「伝道師」の異端理論

     

    今、アメリカを席巻している経済理論「MMT(Modern Monetary Theory、現代金融理論)」。経済の実力を最大限に発揮させるために、政府は財政赤字など気にせずもっと大規模な支出をしてもいい、との主張で、今や経済論争の主役だ。その「伝道師」ともいえるニューヨーク州立大教授のステファニー・ケルトン氏が朝日新聞の単独取材に応じた。巨額の財政赤字を抱える日本でも財政破綻(はたん)の懸念によるインフレは起きておらず、米国もそこから学ぶべきだという。

    https://www.asahi.com/articles/ASM4J4SN7M4JULFA01S.html?iref=pc_extlink



    「現代金融理論(MMT)」を提唱する米ニューヨーク州立大学のステファニー・ケルトン教授=2019年4月15日、ニューヨーク市、江渕崇撮影

    (転載終了)

     

     

     

    実は日本はGDP(経済規模)と比較して財政赤字(国債の発行額)が世界一多い国だ。

     

    1位 日本 対GDP比 237.12%

    2位 ギリシャ 183.26%

    <リンク>世界の政府総債務残高(対GDP比)ランキング

     

    2位のギリシャが破綻したのに対して、日本は一向に破綻する気配がない。

     

    それどころか、日本国債は安全資産として日本の金融機関が購入しており、金利はマイナス0.3%と歴史上の最低金利を記録している。(国債の場合、金利が低いほど人気がある。人気のないギリシャ国債などは金利を高くしないと誰も購入してくれない)

     

    日本がこれだけ莫大な財政赤字を積み上げても一向に破綻しない理由は、MMT理論が述べるとおり、

    ・自国通貨建ての国債(破綻したギリシャなどはユーロ建て。過去に破綻した新興国の多くもドル建てで自国通貨ではない)

     

    ・国債の9割を日本の投資家が購入(金利は国内の投資家に支払われるので、借金の増加は資産の増加と同じになる)

     

    この2つの条件を満たしているからだ。

     

    MMT理論の述べるとおり、このような状況では、いくら政府が国債を発行しても自国内で資金が循環し、かつ財源の支払いは中央銀行が処理できる(銀行から国債を購入している日銀の量的緩和はその実践)

     

    財務省などが述べてきた「このままでは日本は破綻する」などと脅して消費税を増税させたがる手法に対しての適切な反論になる理論だ。

    <リンク>財務省がMMTに異例の反論 財政拡大論の広がり警戒

     

     

    一方で、MMT理論が不十分なところは、景気対策の部分である。

     

    なぜなら、MMTが手本としてる日本は、ここ30年間もの間、莫大な財政赤字を作ってきたが、全く経済成長をしていないからだ。

    (日本の公債残高の累積 財務相HPより)




    (社会実情データ図録より転載 https://honkawa2.sakura.ne.jp/4500.html)




    つまり、日本を手本にして、財政赤字を拡大しても破綻はしない、という理論は、経済成長を促進するという理論とはイコールにならないのである。

     

    日本政府がここ30年の間に莫大な財政支出を増加させても経済成長させることができなかった。

     

     

    その理由について最も説得力のある説明をしているのはエコノミストのリチャード・ヴェルナー氏である。ヴェルナー氏によれば、90年代の日本では政府が公共事業を行うために財政支出をすると、その分、民間の投資が減少してしまったという。なぜなら当時、国債の主要な購入者であった年金基金や保険会社は国債を購入する時に、他の投資先を引き払った資金で国債の購入にあてたためである。保険会社や年金基金は銀行のように無からお金を創りだす信用創造機能をもっていないので、国債を購入する時は他の資産を売却しなければならない。

    そのため、購買力の増加は起きず、他の資産から国債に移行しただけ(量的クラウディングアウト)なので景気回復に失敗したという。

     

    また2000年代には銀行が大規模な国債の購入を行った。この場合は年金基金や保険会社と違い信用創造が生じる。しかし、銀行は国債の購入を増やした分、貸出額を減少させた。そのために実体経済向けの信用創造量の拡大は生じなかった。(これも量的クラウディングアウト)

     

    つまり政府の財政支出が景気の拡大を作り経済成長を実現するには、量的クラウディングアウトを起こさず、純粋な購買力の増加を実現させる政策でなければらない。

     

    これを実行したのは戦前の大蔵省の高橋是清である。

     

     

    高橋是清蔵相は、1930年代の犬飼内閣の時に、政府が発行する国債を日銀に直接引き受けさせた。(信用創造量の増加)

     

     

    その日銀が信用創造した資金を政府が政府支出として公共事業に使用した。(実体経済向けの信用創造量の増加)

     

     

    そのために実体経済向けに使われた購買力は純増して、日本は世界恐慌からいち早く不景気を脱することができた。(景気回復・経済成長)

     

    上記の政策が現在の日銀の量的緩和と違うのは、日銀は民間銀行が保有している国債を購入しているということだ。

    民間銀行に何百兆円も資金を渡しても、その資金は日銀当座預金という民間銀行が日銀に預ける口座にブタ積みにされているだけだ。

    その資金は実体経済の取引に使われることはない。だから、黒田日銀が400兆円も資金供給をしても物価上昇率2%も達成できないのである。

     

    MMT理論に基づいて景気拡大・経済成長を実現するには、財政支出の中身を以下のようにしなければならない。

     

    ・実体経済向け信用創造を純増させる財政支出

    ・量的クラウディングアウトをひき起こさない財政支出

     

    この条件を満たさない財政支出はこの30年間の日本が行ってきたように、財政赤字だけを拡大させ、経済成長を実現しない政策になってしまうだろう。

     

    それに対する解決策は、

     

    ・上記の高橋是清時代に行われた日銀の国債の直接引き受け

    ・公共貨幣の発行(政府が直接、貨幣を発行する。つまり政府通貨)

    ・民間銀行が貸し出しを減少させない条件の下での国債購入

     

    これらのいずれかになるだろう。どれも通貨発行権に対して政治の管理が必要になる政策であり、その部分についての改革が必要になる。

     

    MMT理論に対する結論は、財政破綻論に対する反論としては有効であるが、景気拡大・経済成長を実現させるための理論としては、財政支出の中身を「実体経済向け信用創造量を純増させる方法」と限定しない限り不十分なものだということだ。

     

     

    <関連動画>

    https://youtu.be/NQuNKxYZ-q0

     

     

     

     

    (記事終了)

     

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