「エリザベートを観劇した人それぞれ皆様の心の中に、それぞれのエリザベートが宝物のように存在している」
この言葉はトートを演じた芳雄さんが、小池先生から伺った言葉としてご自身の千秋楽挨拶で教えてくれたものだ。

今年も暑い夏が終わった。
僕らシングルキャストは3ヶ月という期間の中で108回の公演をやり遂げた。 

お客様と同じ様に
僕らのひとりひとりの中にもエリザベートという作品が108回分、心の中に積もっている。
いつか噛みしめられる日が来るのかもしれない。

辛い日も楽しい日もあった。
僕らの力ではどうしようもない事だって、どうにかこうにかやれる事を探し、精一杯やってきた。

だけど、本当の事を言えば
そんな舞台裏の事情に対して
観にきたお客様が心を砕く必要は全くないと個人的には思う。

もちろん心配して心を寄せて下さるのは有難いけれど、むしろ、余計な事など考えず、ひいては、こちらの苦労など知ることなく、手放しに作品を楽しんでくれたらいいな、といつも闇の中から祈っている。

さて、偉そうな話をしてしまったが、実はここから書く事は作品の内容から大きく離れ、舞台裏の話が中心になってくるので、
「私のエリザベートの光り輝く思い出を一介のダンサーの文章で曇らせられたくない」と
思われる方は即座にこのページをそっと閉じて、華麗にご退出頂ければと思う。

あらゆる感情をあらゆる角度から感じ、
自分で自分をどう保つかを試され続けた3ヶ月に
僕らが何を考え、どう生きたかを垣間見るためのヒントになるお話かもしれない。
少なくとも僕には書き記しておくべき事柄だと思い、この文章を書いた。

僕らが多くの時間を過ごす楽屋では、
あらゆる話題が飛び交う。なにせ男8人の部室の様な楽屋なので話の内容は、、、ご想像にお任せしたいが、
皆が疲れている時は、オチが見えている話や最後は、皆がハッピーになれそうな話が積極的に話される気がする。

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例えばこういう風。

「今年のヒロキ君の誕生日は何しようか」
と声を一番に発するのは大抵、和也(楢木和也)だ。
「なんや?ヒロキ、誕生日なんか?いつや?」
と良いタイミングで話を被せてくるのは乾さん(乾直樹)。
「サプライズでお祝いするからね!サプライズでお祝いするかね!」と
意気揚々と隣の席で息巻いているのが耕司君(五十嵐耕司)。
「今年のヒロキさんの誕生日も楽しみやなぁ!」となぜか楽しむ側の視点でいるのが竜平(小南竜平)。

新しく入ったメンバーの
ジャル(鈴木凌平)、けんけん(渡辺謙典)、ゆうじ(谷森雄次)は「こいつらアホか?こいつらにこの長丁場の公演、ついて行って大丈夫なのか?」という戸惑いの表情を隠すようにニコニコとしてくれている。

そう。
ありがたいことに楽屋の仲間たちが、僕の誕生日のサプライズ計画を僕の前で話してくれるのだ

僕もその言葉に答える。
「今年の流れだとプレゼントは皆とお揃いのサンダルにしよう!」と

この、「サプライズを本人の前で話し、本人もそれに乗っかる」という流れ。
最初は笑いが起きてたような気がするが、
途中からは僕の受け答えも自然になりすぎて、これといって笑いが起きてなかった様に思う。もう普通の会話になっている。
そこは申し訳ない。鮮度の問題であろう。

ここでひとつ。

これ以降の出来事を楽しんで頂くためにも
センス抜群なミュージカル女優さん
可知寛子さんが2015年にお書きになったブログを参照されたい。


可知さん、本当にありがとう。


さて
誕生日前日である。

ここからは今まで以上に雑な展開が待っていた。

和也「カンパニー全体の連絡網にヒロキ君からサプライズの段取りをしといて?」
大樹(そうきたか。)「…わかった!でも、最年少のゆうじがやった方がリアリティ出るかも知れない。ゆうじのキャラをみんなに知ってもらいたいし、ゆうじにやってもらおう!」
ゆうじ「…えぇ!めっちゃ勇気いりますやん…」
大樹「大丈夫!文章はおれが考えるから、ゆうじは送るだけ!安心して!」
和也「おっけー!」

僕が考えた文章を何度かみんなに見てもらって、大樹サプライズ用の文章ができた。

『皆様お疲れ様です。
トートダンサー谷森です。
きたる8/23がトートダンサーの岡崎大樹さんの誕生日です。
つきましては23日の昼夜間の17時に、マッサージから帰ってきた本人を待ち伏せしてサプライズでお祝いしますので、お手すきの方は17時にトートダンサー楽屋にお集まり頂けると嬉しいです。
くれぐれも本人には秘密でお願いします!
よろしくお願いします!』

この文章を送れば、みんな「また今年も岡崎の変な企画やんのか」と察してくれるはずだった。
はずだった。。

今年は誤算があったのである。
2019年からのメンバーは過去の事例を知らないのだ。

メッセージ発信直後に携帯にメッセージが届いた。
平方元基君からだ。

「ねーねーねー!これはどう受け止めたらいいの?笑笑」

ゆうじが、サプライズを公表してしまっていて大きなミスをやらかしたと勘違いし、ピュアに心配してくれているのだ。誤算だった。
「ごめん!いつもやっているサプライズ企画だよ。安心して」と僕から伝えると
「みんな、きっと、凍りついたよ  楽しみでーす!」
と返ってきた。
元基君はとっても優しい人だ。

そして当日を迎えた。この日はとても忙しかった。

楽屋入りしてから、会うひと会うひと、皆、自然に振舞ってくれた。誰も、お誕生日おめでとうとは言わないのである。さすが百戦錬磨の人々が集まる統率のとれたカンパニーだ。

あ、ひとり、皆と違った反応をしてくれた人もいた。

本番1時間前くらいになると、ステージ上を役者が使える時間が少しある。
そこで舞台面での自分のコンディションチェックを欠かさない俳優といつも会う。
ソンハさんだ。