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稲葉ほたて「彼女たち」のボーカロイド――"初音ミクの物語"からは見えない世界(PLANETSアーカイブス)
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稲葉ほたて「彼女たち」のボーカロイド――"初音ミクの物語"からは見えない世界(PLANETSアーカイブス)

2019-10-11 07:00
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    今朝のPLANETSアーカイブスは、ライター・編集者の稲葉ほたてさんによるボーカロイド文化論です。ネットのアングラ文化の一つとして登場したはずが、いつの間にかガールズカルチャーの最先端になってしまったボーカロイド。その市場とそれを巡る言説のねじれについて論じます。(初出:文化時評アーカイブス2013-2014)
    ※本記事は2014年5月29日に配信された記事の再配信です。
    日本文化の象徴になった初音ミク
     
     ボーカロイド、中でもとりわけ初音ミクは現在、単にネット上の創作文化にとどまらない、現代日本の文化におけるイコンになっている。特に10年代に入ってから、初音ミク関連のビジネスやグッズ展開は著しい。かつてはテレビにミクが登場するだけで事件になっていた時代があったことが、懐かしくさえ思えるほどだ。
     たとえば、ボーカロイド関連のニュースを毎日紹介している「初音ミクニュース」【注1】を見てみよう。毎日のようにボカロ関連の新製品やイベントが登場していることがわかるはずだ。その内容も、もはやフィギュアやCDなどのオタク関連商品にとどまらない。昨年で言えば、少女マンガ誌「りぼん」(集英社)にボカロとコラボした付録が挟まれ、前年のearth  music & ecologyにつづいてMILKのようなガールズブランドもボカロとコラボしている。一方で、ボカロPや歌い手出身の歌手がアニメのテーマに抜擢されるのも、もはや珍しくない。近年は“ぐるたみん”や“りぶ”、伊東歌詞太郎などのような多くの人気の歌い手が商業進出を果たし、オリコンでも好調な成績を上げた。音楽業界における歌い手への注目は、ある意味でボカロP以上に高まる一方である。
     こんなふうにボカロ関連が商業とのコラボを華々しく展開していく状況は2007年、初音ミクの登場したあの夏【注2】から人々が見てきた夢が、まさに実現した状況といえる。
     何らのフィクショナルな物語に裏付けられていないバーチャルなキャラクターが、あたかも身体を持つ我々のごとき実在感を獲得して、市場やマスメディアで氾濫する。それはさまざまな人々の無数の創作やつぶやきの膨大な記憶を背負った「集合知」そのもののキャラクターであった。しかも、その過程でメディアに評価されずに来た数々の才能が表に出ていって活躍を始めていったーーそんな物語の全てがたかだか数年で実現したのだから、これは現代における痛快事と言ってよいだろう。ゼロ年代の参加型キャラクター文化は、ここにおいて一つの達成を見たとさえ言えるのではないだろうか。
     しかし一方で、2012年頃からだろうか。「ボカロの熱気が終わった」という声が、現場の空気をよく知る人々の間でささやかれ続けている。【注3】
     こうした問題に、決定的な形で定量的な回答を出すのは極めて難しい。新規投稿数はともかく、動画の総再生数や市場規模で言えばボカロは拡大の一途だからである。だが、10年代に入っての商業化が、2007年に始まった初音ミクを象徴としたボカロの物語に「上がり」の空気をつくりあげたのは、このシーンを追いかけてきた多くの人の体感ではないだろうか。
     そうした状況の中で、ついに2013年はハイカルチャー側からの接近も始まった。渋谷慶一郎のような現代音楽の作り手が初音ミクでオペラ(『THE END』)を上演したり、六本木ヒルズの森美術館での「LOVE展」に、初音ミクが展示されるということもあった(そこで皇后陛下が「これが、ミクちゃんですか」と口にするという「珍事」もあった)。
     ボカロ文化の商業的隆盛とハイソな人々からの接近が進行する一方で、足下でボカロ離れは着実に進行している――そんなふうに祝祭的な時間の「終焉」「衰退」を物語る声は、いまさまざまな場所でぽつぽつと上がり始めている。
     だが、その「物語」というのは、果たして「誰の」物語なのだろうか。
     
    「彼女たち」のボーカロイド
     
     一昨年の冬、筆者はボカロ小説について、mothy_悪ノP氏に取材したことがある。ボカロ小説というのは、人気のボーカロイド楽曲の歌詞を小説化【注4】したもので、近年驚異的な売上をあげているジャンルである。mothy_悪ノP氏は、自身の楽曲『悪ノ娘』の小説化によって、このブームの端緒を切り拓いた人物であった。この取材中、とても印象的だったのが、彼とその編集者が「いざ出版してみたら、読者は中高生の女子だった」という話をしていたことだ。当時(2010年)はまだ、ニコニコ動画は主に大学生以上の男性オタクのサイトというイメージが強く、ボカロもまたそのイメージで捉えられていた。そもそも数々の歌い手がステージに上がったドワンゴの「ニコニコ大会議」ツアーで、会場に多くの女子中高生が詰めかけていることが話題になったのが、やっとこの時期のことである。
     この頃に顕在化したリスナーの低年齢化(と、女子)へのシフトが、実際にいつ頃から起きていたのかを特定するのは極めて難しい。だが、こうしたユーザーたちに話を聞いてみると、ryoの『メルト』などの比較的初期に投稿されていた楽曲の思い出が語られるのが興味深い。彼女たちの話を鑑みるに、実は極めて早い段階からボーカロイドには低年齢層のリスナーがついていたのではないかと筆者は考えている。

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