ウイスキーリンクチャンネルにご参加いただいた皆様ありがとうございます。

本チャンネルでは刊行予定の原稿・草稿の執筆がメイン企画ではありますが、せっかく有料かつ限定されたメンバーにお付き合い頂くからには、少しはタイムリーでお役に立てる情報も掲載していこうと思います。


【ニューリリース期待値】

ニューリリース情報に対して筆者が【飲む前】にどれぐらいの期待をするか、買うのか、ダースで行くのか、盆栽か、モルトマニアとして飲まなければいけない義務的ボトルなのか、などなど遠慮無く公開するものです。当記事はサンプル記事ですが、登録後はさらにメンバーのみに活きた情報を掲載する予定です。


企画【ニューリリース期待値】

*取り上げているボトルは、A,B,Cの三段階に含まれた期待値の比較的高いものだけです。



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Glenmorangie 1993 Ealanta / 19 Year Old / Virgin Oak Casks

70cl / 46%

2013/01/16発売

(£58.54 Ex. VAT)

【総合A-】【期待度A-】【期待スコア/80-85/B-】【買いA-】【マニア義務A-】【コスパB】【将来のプレミアムB】

モーレンジのプライベートエディション、詰め本数に言及がないものの毎度小ロット、1993のモーレンジは実験樽が多く、基本的にハズレはない。ただ今回トーストされたミズーリ州オザーク山の新樽ホワイトオークとのことで、日本で言えば余市の新樽詰めのイメージか。あまり色気は望めないが、ラムズデンの新しい樽使いの動きは追ったほうがいい。



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Caol Ila 1982 / 29 Year Old / Cask #6484 / Signatory

70cl / 56.3%

2013/01/8発売

(£108.33 Ex. VAT)

本ボトルについては購入後即開栓、直後の印象で評価いたします。

開栓直後スコア 88pts

【総合A-】【期待度A-】【期待スコア/85-90/A-】【買いA-】【マニア義務B】【コスパB+】【将来のプレミアムB-】

飲んだ印象、かなり麦麦しく、なおかつヨードが行きすぎていない良質のカリラ。オレンジラベルカリラの印象を受け継ぎ、加水でかなり素朴で柔らかい印象に変化する。余韻に若干のコールタール。難を言えば、やや色気に欠ける、突出した印象にかけるというところ。ラス前の一杯に最適。



Ben Nevis 1992 / 20 Year Old / Sherry Butt #2524 / Signatory

70cl / 46%

2013/01/8発売

(£35.41 Ex. VAT)

【総合C+】【期待度B-】【期待スコア/75-80/C】【買いC】【マニア義務C】【コスパB+】【将来のプレミアムC】

ベン・ネヴィスも個性的な蒸溜所で、シェリー樽でないとなかなか魅力が出ない。しかしながらその魅力が土っぽさ、アーシーさにあり、ドリンカーに対して汎用性のある人気とは言いがたい。中でも92ヴィンテージはラトレー、ブラッカダ、クライデスデールで一応実績はある。シェリーバットだが加水。ピックアップしたくなるが、突き抜けはないか。。。




Bunnahabhain 1997 / 14 Year Old / Cask #5554-6 / Peated

70cl / 46%

2013/01/8発売

(£32.46 Ex. VAT)

【総合C】【期待度C+】【期待スコア/75-80/C】【買いC】【マニア義務C】【コスパB+】【将来のプレミアムC】

ブナハーブンも経営危機らしく、最近ネゴシエーターに多くの樽が流出している。アイラに合って個性がないが、ブランドイメージにこだわらず、飲みやすさを目指すならば、ピーテッドかつ加水は悪くない。




Caol Ila 1997 / 15 Year Old / Cask #7816+7 / Signatory

70cl / 46%

2013/01/8発売

(£43.54 Ex. VAT)

【総合B】【期待度B+】【期待スコア/80-85/B】【買いB】【マニア義務C】【コスパB+】【将来のプレミアムC】【盆栽向き】

外さないカリラ、90年代後半も良好で、なおかつ当ボトルは15年の短熟かつ加水。一応盆栽向き推奨しておきたい。ヴァッティングもプラス評価。



企画【最近の見方】シグナトリに見直しの動き。



直近売れ線、そうでないに関わらず、豊富なリリースを続けているシグナトリ。

ダグラスレイン、ダンカンテイラーなども同様に多種類リリースがあるものの、加水や香味づけなど一工夫されているケースが多い印象です。

まだ最近のダグラスレインはカスクストレングス詰めも増えてきてナチュラルなのかなというところ。

G&M、ケイデンヘッドはリリース本数が一時期に比べてだいぶ減ってきました。

そんななかで、シグナトリは四方八方に撃ちまくり。確かにこだわるナチュラルカラー、ヴァッティングも積極的に行い、多種類のリリースのなかで、特に日本国内に引っ張ってこられるものには、欧州の売れ残りという感じもあってか、従来「外れるボトラー」の印象があったかもしれません。

ただ、ここ最近ドイツ系ボトラーの多くが、ただホグスヘッドとだけ謳い、あらゆる香味加工を施している(であろう)ために、かねてのアラン蒸留所のオフィシャルのように、「どこが蒸留所持ち前の部分なのか」「どこが今回のボトルにだけ特徴的な部分なのか」が判別できないという、副作用が生じてきています。

特にMoSは、よく言えば革新的、そうでなければハウススタイルの原型をとどめないボトリングも増えてきました。おそらく引っ張ってきている詰め替え用のシェリー樽が独特な(オロロソではない)のでしょう。

こうしたなかで、同じ蒸留年、同じ熟成年数、それが極めてナチュラルに、素性の良さとして窺えるという点で、シグナトリに出番が回ってきています。

熟成年数の長短による特徴わけよりも、実は蒸留年別にハウススタイルの変遷を捉えたほうが、よっぽど意味があるということは2000年以降公然の事実だと思いますが、これをつかむにも、「素の土台」が分からなければ、何が素顔で、何が化粧なのかわかりません。

BB&Rも似た印象がありますが、こうしたナチュラル、かつ無加水ハイプルーフ、ヴァッティングもやってしまうというボトラーの存在は、今後より見直されていくでしょう。

短期熟成モノも多く、盆栽にも適していますし、あの肩張りのボトルはめったなことではコルク破損の心配はありません。金属の缶も、他社の紙製に比較しても強度、遮光の点で優れており、価格も安い。しっかりとした見抜く目さえあれば、シグナトリはむしろウェルカムなボトラーなのです。

派手な化粧のボトルがいいか、むしろ土台を見極めてからのほうがいいか、その両方ともを体験することで初めてお互いの存在意義を認めることにもなるのでしょう。


最新のテイスティングを執筆直後にアップいたします。

企画【テイスティング】




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グレンドロナック Glendronach 40yo 1972/2012 (49%, OB, Batch7, Cask#710, 109/356Bts.) Oloroso Sherry Butt

【2012/12/13発売】

開栓当日

【現状スコア】92 pts



9 【ファースト】 濃い琥珀 明らかに赤いイメージ 杏(+) 巨峰 プルーン イチゴは確かにあるが、大きく香りを吸い込むことでその存在を確認する感じ(既存リリースでいうとC#712ほどの前面イチゴではない) 時間とともにビターチョコレート さらに時間経過で珍しくシェリー由来要素が弱まる場面があり、赤黄色のトロピカルフルーツのよう(パパイア・マンゴーほどの粘性ではない)、パイナップル、グレープフルーツの皮が現れる(+++)

10 【ボディ】 分厚く上質 シェリー由来の杏・巨峰要素、それにオブラートされたビターチョコレート、ウッディさ(程よく行き過ぎていない) 高貴にオイリー

9 【フィニッシュ】 返り、鼻抜けともにしっかりしている 熟成感が従来リリースの中でも上位(++) 余韻に香りでも感じた、赤黄色の果実味が残り、そこに弱めのスパイス、渋みは程よく、チャー的な焦げは感じるが、硫黄火薬は皆無



ドロナック1972に関しては、現在リリースされうる樽の中で、最も完成度が高いと言って差し支えなく、直近2年間のMMAチャンプでもあります。



カスクナンバー順に過去のリリースを並べてみると、


700 Glendronach 1972 Single Cask for Taiwan 38 49.5% 2010 700 ml


703 Glendronach 1972 Single Cask for Japan 37 54.4% 2010 700 ml

704 Glendronach 1972 Single Cask for China 40 54.3% 2012 700 ml

705 Glendronach 1972 Single Cask for LMDW 37 53.3% 2009 700 ml


709 Glendronach 1972 Single Cask for Taiwan 38 51.0% 2010 700 ml

【710】Glendronach 1972 Single Cask - Batch 7 40 49.0% 2012 700 ml

711 Glendronach 1972 Single Cask for Kensingt 39 49.8% 2011 750 ml

712 Glendronach 1972 Single Cask - Batch 4 39 49.9% 2011 700 ml

713 Glendronach 1972 Single Cask for LMDW / W 40 2012 700 ml

714 Glendronach 1972 Single Cask for Japan 39 48.6% 2011 700 ml


716 Glendronach 1972 Single Cask - Batch 5 39 54.4% 2011 700 ml

717 Glendronach 1972 Single Cask for Shinanoy 39 53.0% 2011 700 ml

718 Glendronach 1972 Single Cask - Batch 2 38 51.5% 2010 700 ml

719 Glendronach 1972 Single Cask - Batch 1 37 54.8% 2009 700 ml


721 Glendronach 1972 The Millennium Malt Light 48.0% 1999 700 ml


もうかなりの樽がOB(または限定国向け)にリリースされていることが分かります。

ビリー・ウォーカー軍団が、ベンリアックを含めて、鉄は熱いうちに人気があるうちに値上げともども樽を売り切る姿勢だと思われ、蒸溜所を買い既存樽に付加価値をつけて売り抜けたのち、さらに他者へ手放してしまうのではないかと心配されるほどです。

他方、ドロナックも振動に弱い印象があり、ある程度静止させた後の開栓や、1年以上盆栽した上での開栓がいいのではないかと思っています。

複雑性も持ち合わせていてデリケート、開栓後は良いところ悪いところ入れ替わり噴出しながら1本を飲み切るイメージ。

MMA(年末)頃に思い出されたように話題になるボトルが多いので、開栓後はその時期を通過するよう、ゆっくりじっくり飲むのが良さそうです。


企画【原稿/草稿】


「経験則に根拠の下支えを」

この本では、テイスティングの具体的な方法や、各蒸溜所の解説をさせていただくのですが、もう一つというより、一番大事な項目として「ウイスキーが人にどのような作用を与えるのか?」、その根拠についても明らかにしたいと思っています。

正直なところ、ウイスキーだけに独特という内容ではなく、飲食物全般、音楽や映画その他あらゆる文化的嗜好の全てに関わるシステムについてのお話なので、ちょっとややこしいと思われるかもしれませんが、一度理解すると(私はそうでした)大げさな話「人生観」が変わるかもしれません。

従来ウイスキーの言論に関しては、個々人の経験則が先行しすぎていて、その根拠が曖昧でした。これはワインでも、食でも味わうという行為と感想というのはすべからくそうだったと思います。

なぜ美味しいのか? それはこういう香味で、食感だから。もちろんそれが根幹であることに間違いありません。

でも逆に「こういう香味で、こういう食感」だったら、なぜ「美味しいと思うのか?」についてはどうでしょうか?

食物の化学的構造骨格、それらを検出・分析して紹介することはあったでしょうが、実際それがどういう作用を人体に及ぼすのかを解説はあったでしょうか?


先に「モノ(物質)」があり、それが人体にどのような作用を及ぼすのか?

これを解明し、人間の生命に役立てること。

ある意味、これが薬学の出発点です。


私も薬剤師の端くれとして、ウイスキーを愛するものとして、なるべくわかりやすく、理解するコツのようなことも含めて書かせていただこうと思います。

最初に申し上げておくと、聞きなれない専門用語がどうしても出てくるわけですが、惑わされずに済むためにも、それら人体関係の部位やシステムの単語というのは、数々の重なりあうグルーピングをされているものだということを覚えておいてください。

例えるなら、Aという野球選手がいると、その人はある野球チームに所属していて、それはセ・リーグの中の1チームであり、他にパ・リーグがあり、合わせてプロ野球のリーグというみたいなものです。

でもあれこれ上位に所属があったとしても、根幹は「A」という野球選手です。

このAさんが非常にバッティングが上手だと、これがAさんの機能・性質です。まずその根幹について知るということ、これを大事にして、続いてBさんについては守備がうまい、この二人が所属している野球チームは攻守のバランスがいいという認識を重ねていくことがコツです。

どんな分野でもそうだと思います。アイラ島を知るというときに、含まれる蒸溜所をブナハーブンしか知らなかったという場合と、アードベッグしか知らなかったという場合でも大きく印象が違います。

まず含まれる個々の蒸溜所に対する印象をひとつひとつ形作ってから、上位の概念に対する総合的な評価をしないといけません。

そんなつもりで挑んでみてください。


「報酬系の根幹」

最初に申し上げると、人間の「快楽の中枢」「側坐核」という部位に存在します。

グルーピングを言うと、大脳の基底部にある大脳基底核、そこに線条体、尾状核、被殻、淡蒼球、視床下核、黒質があり、そのうち線条体は背側線条体と腹側線条体に分かれますが、この腹側線条体の別名が側坐核であって、大脳基底核とは、大脳皮質下から脳幹に散在する構造システムの総称であります。

。。。などと言っても、最初からこれを覚えるというのは土台無茶な話で、それぞれの用語がどのような性質を持つのかを知らなければ意味もない話です。

ですので、ここでは「快楽の中枢」それは「側坐核」であるとだけ把握してください。

この側坐核の中には、快楽を促進するニューロン(ニューロン=神経細胞)と、抑制するニューロンとがあります。快楽のプラスとマイナスを調節するための機構です。

快楽促進の役割を担うのが、MSニューロンと呼ばれる中型有棘ニューロン。

MSニューロンに対して快楽抑制の役割を担うのが、コリン作動性ニューロンです。このMSニューロンに対して、抑制というのがミソです。


基本的に、神経の伝達というのは電話回線みたいなもので、個々の部位に、実際に現物、物理的に存在する回線が張り巡らされているイメージを持っていただくといいと思います。

側坐核にも、中にあるMSニューロン、コリン作動性ニューロンに対して、他の部位から回線が来ています。

ちょっとここでややこしいのですが、これは覚えておいていただきたいのが、人体の部位、システムに来ている「回線」に伝わる信号には、ことごとくプラスとマイナスの信号があるということです。

プラスの信号のことを、単に刺激とか、亢進、促進という表現が用いられます。
マイナスの信号に対しては、抑制、ストップという表現が用いられます。


ですので、側坐核内部の、

MSニューロンにプラス信号(刺激、亢進、促進)が伝わると、快楽は↑アップします。

MSニューロンにマイナス信号(抑制、ストップ)が伝わると、快楽は↓ダウンします。ただこの場合は、元々MSニューロンは快楽の促進の役割を担っているので、快楽の促進が抑制されたというのが正しいところです。

コリン作動性ニューロンにプラス信号(刺激、亢進、促進)が伝わると、MSニューロンに抑制をかけることで結果として、快楽は↓ダウンします。

コリン作動性ニューロンにマイナス信号(抑制、ストップ)が伝わると、MSニューロンに抑制をかけるパワーに抑制がかかることで結果として、快楽は↑アップします。ただこの場合は、元々コリン作動性ニューロンは、MSニューロンに対して抑制をかける役割を担っているので、快楽の抑制が、抑制された、結果快楽がアップされたというのが正しいところです。


いかがでしょうか、大変申し訳無いのですが、とっつきにくい話だとは思います。

ただ、快楽の中枢は側坐核にあり、ウイスキーなり、食事なり、映画でも音楽でも、それを感知した他の部位が、側坐核において快楽を上昇する信号を送れば、我々は快楽を享受すると、そういう仕組になっていることがわかりました。

次なる問題は、回線(神経網)です。

側坐核に対して入力を行うための回線がどうなっているのか、どういう経路をたどるのかによって、快楽の質、強弱も変わってきます。


「報酬系の代表的システム:ドーパミン系」

快楽の中枢が、側坐核に存在することが分かりました。

美味しい、嬉しいといった快楽的感覚を得るということは、この側坐核に繋がる回線を通して信号が伝達されることで実現されるわけです。

では具体的に、この側坐核にインプットを行う回線にはどんなものがあるのかをご紹介します。

なんといても側坐核にインプットを行うことが出来る、快楽をうながす代表的なニューロン(=神経細胞)といえば「ドーパミン作動性ニューロン」です。

有名な名称なので、ドーパミンという単語は聞いたことが有る方も多いと思います。

このドーパミン作動性ニューロンは、腹側被蓋野に存在します。そして先ほど解説した、側坐核のMSニューロンに入力しています。

ドーパミン作動性ニューロンを通じて、MSニューロンを刺激することで快楽を得ることが出来る構造なのです。


実は側坐核には、ドーパミン作動性ニューロンだけではなく、他にも沢山の回線入力があります。ですがそれらは、どちらかというと本能的な価値判断、例えば不足していた栄養素を満たす食事をとったなどを元に信号が発せられるものです。

一方ドーパミン作動性ニューロンは、より人間の嗜好を反映する役割を担っています。


「嗜好の根幹」

人間の五感、各感覚器で捉えられた「感覚」は、神経回線を伝って、脳内の視床に一度集められ、そこから大脳皮質にある各感覚を処理する器官に、そして海馬、扁桃体、前頭前野にも伝えられます。

簡単にまとめると、

前頭前野は知性、理性、創造力を担う器官で、物事を認知、判断、決定をしている場所です。感情が正しいかどうかも、認知、判断しています。

海馬は脳の記憶や空間学習能力に関わる器官で、記憶をもとに、扁桃体に対して、どんな時にどんな感情を生みだすのかという情報を提供する役割も担っています。

扁桃体は情動的な出来事に関連付けられる記憶の形成と貯蔵を行う器官で、「好き」「嫌い」「うれしい」「悲しい」「不安」などの感情が生まれる場所です。


こうした五感から得られる感覚が、主に海馬、扁桃体、前頭前野において価値判断され、その結果「快(こころよい)」となると、ドーパミン作動性ニューロンへ信号を出し、その終端からドーパミンが放出され、それが側坐核のMSニューロンで受け止められて、快楽となるというわけです。

これが人間の嗜好の根幹です。


。。。というよりも、人間の行動原理そのものが、「欲求→行動→満足」というサイクルで回っているのです。

脳の中で、ある行動についてうれしいと判断されて、実際その行動をしたら満足感を得た(ドーパミン作動性ニューロン→側坐核)という記憶があるとすると、またその満足感を得るべく期待してその行動をしたくなる。

このサイクルです。

記憶の出し手が海馬。うれしいという感情を形成するのが扁桃体。最終的に判断して(司令塔として)行動させるのが前頭前野のはたらきです。


このサイクルを担うシステムのどこかが欠けても、人間は行動できなくなってしまうと言われています。事実、ドーパミンが不足するパーキンソン病では、手足が動かなくなってしまいます。

もし嫌だなと思う行動であっても、前頭前野で理性的に、それはするべきだと判断されればその行動をすることが促されます。でも苦痛が蓄積され、もうその行動を行ったとしても十分なドーパミンが放出されないとなると、その行動はできなくなります。


ここで重要なことがあります。

ウイスキーというお酒、物質をあつかう以上覚えておかなければならないことなのですが、いわゆるドラッグと呼ばれているものは、このドーパミンの「量」をコントロールする物質なのです。

代表的な物質としては、

アルコール・モルヒネ・ヘロインはドーパミン放出を妨げる機能を麻痺させます。放出の邪魔をするものを麻痺させますから、結果ドーパミンの量は増えます。

ニコチンはドーパミンの放出を促進させます。

覚せい剤・コカインはドーパミンの再吸収(代謝・排泄)を選択的に(ピンポイントで)阻害します。一度出たドーパミンがなかなか再吸収(代謝・排泄)に回らず残りますから、結果ドーパミンの量は増えます。

余談ですが、女性の場合、女性ホルモン(エストロゲン)の働きで、もともと側坐核へのドーパミン放出が男性より多いとされています。行動薬学では、女性がコカインやアンフェタミン系の覚せい剤を使用すると最初の一回で精神依存が定着するとも論じられています。


 

これまで見てきたように、ウイスキーがアルコールを含み、また豊かな香味やテクスチャを持っている物質であるために、その嗜好という観点では、海馬、扁桃体、前頭前野による価値判断に加えて、アルコール自体が直接ドーパミンの量を増やす(快楽を増す)ドラッグとしての側面があるという、両面があることを理解しなくてはならないでしょう

前者による価値判断に基いて快楽を得たのか、後者のドラッグとしてのドーパミン量増大によって快楽を得たのか、これらを分けて考えるためにも、ある種の努力、工夫をしなくてはいけないと思っています。


---原稿・草稿では本サンプル号のような薬学的目線の解説だけではなく、テイスティングの具体的な手法、蒸溜所ごとの解説など、幅広い内容を執筆いたします。---