個人情報からのデータ活用は、"アドテク"(アドテクノロジー)=ネット広告が大変盛んだ。そもそもの基本のところから最新事情まで、グーグルの広告事業に携わった初の日本人で、ネット広告に詳しいアタラ代表取締役の杉原剛氏に訊いた。
■そもそもアドテクとは?
「理想の広告とは、正しい相手に正しい場所で正しいタイミングに知らせること。それをより効率的に行なうための技術がアドテクです」
以前のネット広告は、決まった枠と金額の中で売買されており、テレビや新聞など旧来の広告の範疇を出てなかったが、近年はアドネットワークなどの利用による“運用型広告”と呼ばれる手法が主流となっている。アドネットワークとは、複数の出稿先ウェブサイトを集めた広告配信ネットワークのこと。広告主は、各サイトに対して、一括で広告配信できるのがメリットだ。ユーザー情報や掲載先、広告の分析・評価を行ない、ウェブブラウザーを通して得た匿名化されたクッキー(訪問記録)情報などからユーザーに合わせた広告を配信する。
「これは金融市場の取引にとてもよく似ています」と杉原氏。金融取引では、伸びそうな銘柄を複数選び、合計で利益が出るようにする。同様に、広告主はグーグルやフェイスブックなどから最も多く適切な露出が期待できそうな掲出先を選ぶ。また固定費用ではなく、1回の露出にいくら払うか、という入札型になっているのも特徴。
露出回数やクリック頻度はリアルタイムに数値化されて実績となり、刻々と変化する状況をモニタリングしながら、いっせいに広告売買市場への広告入札(アドエクスチェンジ)が行なわれている。サイトへ広告が表示(インプレッション)されるたびに入札が行なわれ、評価や金額は刻々と変化している。
運用型広告の場合、金額だけでは決まらず、情報の品質も考慮される。広告配信社にとって、ユーザーに有益かどうかも重要となる。
「品質とは、ユーザーの求める情報、広告のクリック率を中心とした指標の高さです。この入札額×品質によって、表示可否や表示順位が決まります。入札型では複数の企業広告の金額×品質を比較して売買を行なうことで、ユーザー嗜好精度の高い広告表示ができるのです」
広告の配信先は入札によって決定する。より効果の高い掲載先を獲得すべく、水面下では激しい入札バトルが繰り広げられているのだ。
■個人へのマッチングはどのようにされている?
一度ECサイトで見た商品が、他のサイトにでもバナー表示され、まるで広告に追いかけられているように感じることはないだろうか。通販サイトなどでの閲覧は、その情報が広告配信社へ渡り、匿名化したクッキー情報と照合して瞬時に入札され、サイトのバナーとして生成されている。「現在、マッチングには、匿名のクッキー情報のほか、SNSやウェブサービスの登録情報/閲覧履歴、実店舗など、あらゆる情報が利用されています」
年齢や性別、出身校、家族構成、身体的特徴、行動パターンまで、自分のことを知り尽くしているかのような広告が表示されると、薄気味悪く感じるかもしれない。だが一方で、探している情報をコンシェルジュのように先回りしてドンピシャに提示されると、販促効果は上がりやすい。
サイトを訪れたユーザーに対して、別のサイトで広告を配信して、再訪を促すリターゲティングといった仕組みは誰しも体験したことがあるはずだ。収集データは匿名性を確保するように慎重に扱われており、それほど不安にならなくても大丈夫だが、気になるようであれば、自分自身でガイドラインを決め、どこまで個人情報を提供するかを設定するといい。グーグルやフェイスブックなどには、広告への情報提供を止めるオプトアウトという設定が用意されている。
「そもそもグーグルでは、ユーザーの検索に対して唯一の答えをヒットさせることを目指し、マッチング精度を高めてきました。とはいえ、探しているものだけではなく、偶然の情報との出会い(セレンディピティ)もあったほうが楽しい。今後は、趣味嗜好を正確に把握しつつ、さらに新しい情報にも触れられる情報提供の仕方へとより洗練されていくでしょう」
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■多様化するデバイス対応
スマホの普及により、アプリの利用が広がっているのは紛れもない事実だ。業種によっては、広告の露出量、購買/登録につながるかといったリーチ率は、スマホのアプリがウェブを上回るケースもある。ただし、ユーザー行動は多様化しており、広告の配信先をウェブかアプリのどちらか一方にしぼると、取りこぼしが多くなってしまう。
「PC/スマホ/タブレットなどで個人を特定するクロスデバイスへ対応し、ウェブのバナー、SNSアプリ、メールなど、あらゆる手段で広告を配信していかなければなりません。プログラマティックテレビの実現も間近です。ユーザーにとっては選択肢が増えて便利になりましたが、反面、広告主にとっては受難の時代ですね」
動画配信が普及している米国を中心に計画が進められているプログラマティックテレビでは、テレビ広告もネット同様に個人の嗜好に合わせて運用/配信される。テレビは登録情報に加え、視聴パターンなどの嗜好を把握しやすく、より効果の高い広告市場として期待されているという。
日中はスマホ、自宅ではPCやテレビというように、クロスデバイスで利用するようになれば、ブラウザーに保持されるクッキー情報による従来の識別方法から、IDなどによるユーザーの特定へと移行するだろう。その点、フェイスブックなどのSNSは有利と言える。ユーザーの登録情報のすべてをターゲティングに利用して、広告配信できるのが強みだ。
SNSアプリへの広告はますます増加する。広告の配信先は、クロスデバイスへ。SNSは、IDによる個人の特定や、登録情報からの嗜好分析がしやすいのがメリット。 複数のデバイスにわたってユーザーを正しく認識し、広告を配信するしくみが『クロスデバイス』。
■リアル世界の連動がアツい
モバイル端末を持ち歩き、ユーザーが常にオンラインで行動するようになったことから、リアル店舗の情報と結びつけた広告が増えているのが最近の傾向だ。位置情報を利用して、近くの店舗や施設の案内する技術は、以前からカーナビなどで使われていた。
「今では、近くの家電量販店の在庫情報もわかりますし、居酒屋の空席なども調べられます。地域の情報を収集して、マップ上に表示するといった情報の整備は今後さらに進められていくでしょう」
位置情報特定には、GPSやIPアドレスなどが利用されているが、注目なのがビーコンだ。低電力消費ブルートゥース( BTLE)を使ったスマホでの通信技術で、バッテリー消費量が少ないうえ、GPSやWiFiが利用できない場所でも通知できる。
そのため、アプリと連動したリアルな場でのウェブ誘導・マーケティング利用が期待されている。検出そのものはアンドロイドでも可能なうえ、設置コストも安い。施設の窓口や店頭の売り場など、より狭い範囲でピンポイントにプッシュ通知広告を配信できる。
「映画館や公共施設などあらゆる場所にビーコンがはりめぐらされ、近づくと自動的に情報が入るようになります。日常生活の中で、近場の必要な情報を知りたいとき、ネット上の膨大な情報から探し出そうとするのは手間です。今後は、趣味嗜好を設定しておけば、最寄りの情報が飛び込んでくる、といったプッシュ型の情報配信が見直されてくるのではないでしょうか」
ボタンを押すと製品が届く、アマゾンの『ダッシュ・ボタン』は米国で実現。IoTで購入も自動化へ。週刊アスキー4/28号 No1025(4月14日発売)』掲載の特集『Google、Facebookはすべて知っている ネット個人情報の裏側』では、ネットでの個人情報利用についてイチから紹介。便利なサービスの裏側にある仕組みを紹介している。
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