【東方SS】世にも奇怪な物語5(解決編)【長編・シリーズ完結済み】
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【東方SS】世にも奇怪な物語5(解決編)【長編・シリーズ完結済み】

2017-01-24 19:20

    これは東方のSSであり、「世にも奇怪な物語4」の続きとなっています。物語は勿論、詳細な注意書きは「世にも奇怪な物語1」の冒頭をご参照ください。

    なお、当記事「世にも奇怪な物語5」は、1~4の解決編にあたります。1~4をご覧になられていない場合、そちらから読む事を強く推奨いたします。
    当話にて、一連の事件の犯人や不可能犯罪の密室トリックにはっきりとした答えが示されます。

    では、解決編をどうぞ。








    「人が起こす行動には、必ず理由がある」

    「それは一滴の喜びかもしれない。それは一抹の怨恨かもしれない」

    「人は何かを切欠にして、何かを成し遂げようと思い立つ。そして、それに向けて動いていく」

    「その意思は時に、何よりも固く何よりも重く、そして何よりも美しい」

    「意思は不条理をも覆す。だが、誰の手でも行く末を操ることなどできない。誰もその結末を予測することはできない」

    「ならば抗おう」

    「そして全てを凌駕し尽くした時、私は神になる事ができるのだ」

    「それってとっても素敵なことじゃないかしら? うふふ、ふふふふ」










    真っ白な雪の華が咲いていた。

    小さな音をたてて、その上を歩く。

    もうすぐきっと春が来て、この辺り一帯は春の訪れを知らせる者達であふれるのだろう。

    だけど、私に春は来ない。

    いつまでも真っ白な景色の中、ただ凍えて、ただ震えて、春の訪れを待ちわびる。

    やがて辺り一面が緑色に染まろうとも、待ち望んだ春を口にしようとも、私の足は凍り付いてしまってその場から離れることができない。

    私には、やらなければならないことがあるのだ。

    全てを捨て、この手を血に染めてでも行わなければならない事が。それをする事でしか、私の冬は別れを告げてくれないから。

    もしも成し遂げることができたなら……私は、誇ることができるのだろうか。

    私の人生にも春が来たと。これこそが、私の自慢の結末なのだと。











    ある年の夏のこと。
    この地方の土地柄もあって、今年の夏もかなりの暑さを見せている。


    小高い丘の上に、私の家はあった。
    人里から少し離れた所にひっそりと建っているけど、少し不便なくらいで特に苦労はなかった。
    私の両親は、町で商売をやっている。お店はとても繁盛していて、町の人たちとも仲良くやっていた。
    私は病弱だったからあまりその光景を見に行く事はできなかったけど、月に一度だけ遊びに出かけることができた日には、常連客達にとてもよくしてもらった。
    家にいる日だって、両親は私に優しくしてくれたし、毎日遊んだりもしてくれた。

    あたたかい家庭、穏やかな日々。こんなぼんやりした幸せが、ずっとずっと続くと思っていた。

    けど、ある日を境に、私は一日たりとも町の方へ出て行くことができなくなってしまった。
    病気のせいではない。両親に、町へ出るなと止められていたのだ。
    それに、いつからだろう。仕事から帰ってくる両親の顔から笑顔が消えたのは。
    お仕事が上手くいってないのか……幼心に、ただそう思っていた。

    でも、そんな日々も長くは続かない。
    ある朝、私が目を覚ましていつものように朝ごはんを食べに行くと……両親が床で冷たくなっていた。


    悲しいとか寂しいとか、そういう感情は勿論あったけど、何よりわけがわからなかった。
    どうして両親は私を置いてどこか遠いところへ旅立ってしまったのだろう。いったい、私の知らないところで何があったのだろう。
    誰一人として私に教えてはくれない。誰一人として、私を相手にしようともしてくれない。
    常連客だった人たちも、仲良くしてくれていた人たちも、いつも声をかけてくれていた人たちも、まるで私なんて最初から知らないみたいに、誰も何も話してはくれなかった。


    まぶたを閉じれば思い出す。昨日のことのように覚えている。
    私の、人生で一番辛かった出来事……



    近年稀に見る、暑い夏の日の事。






    世にも奇怪な物語#5 自慢の結末 (にとり視点ルート)





    彼女の葬式はひっそりと執り行われた。
    身内がいない……わけではないのだが、諸事情により彼女の両親は参列することを拒否した。
    だから、町の寂れた小屋の中には私と班長含めて僅か五人しかいなかった。
    経をあげる人間もいない。彼女はそれなりに信仰はあったみたいだけど、言うなれば『自分教』だったし、生前から自分の死後はそういうものを何も望まなかったのだ。

    ……彼女は私の家で大量の血を流して死んでいた。その手に懐中時計を握り締め、安らかな顔で眠っていた。
    ほんの十数時間前までは、一緒に事件の謎を解こうと頑張っていたというのに……

    にとり「くそ……」

    古明地こいし……正直、最初はすごく嫌いなやつだった。
    でも、事件について一緒に捜査していくうちに、気がつけば不思議と打ち解けていた。彼女は幼い頃は感情も無しに育ったと言っていたが、私には全くそれがわからないくらいだった。
    もしかしたら、こいつと話すのは楽しいかもしれない。そんな風に思い始めた矢先に……

    にとり「……こいしは、どうして殺されなきゃいけなかったんでしょうか」

    紫「わからないわ……でも、もしかしたら何かに気づいたのかもしれない」

    にとり「それを知った犯人に殺されたって感じですか……くそ、ふざけるな……」

    紫「気持ちはわかるけど、今はおさえて……」

    葬儀はほぼ終了している。というか、彼女を弔ってから火葬するくらいしか私たちにはできない。

    後頭部に致命傷があったことから他殺は明らかで、凶器もほぼ絞り込めたということで解剖に回されることはなかった。
    こいしの遺体は八意病院で綺麗にしてもらい、今まさに火葬場へ向かう直前に最後の別れを惜しんでいるところだ。

    魔理沙「……もう、終わりにしてほしいぜ、こんなの」

    にとり「うん……終わらせよう。私たちが、終わらせなきゃいけないんだ」

    先輩のためにも、慧音のためにも、こいしのためにも、この事件で亡くなった全ての方のためにも。
    ここで、立ち止まっちゃいけない。私が、私たちが、事件を追うことを止めちゃいけないんだ。

    諏訪子「親族はお墓に入れる事を拒んだから、私の方で用意するね」

    紫「それがいいわね……お願いするわ」

    にとり「…………」

    こいしは両親と色々あったみたいだった。追い出されたとか勘当されたとか言っていた気がする。
    だけど……顔も見せないのはどういうつもりだ。血を分けた親子だろう。くそ、何から何まで腹が立つ。

    魔理沙「っ……わ、私は、これで戻るよ。ちょっと、最後まで耐えられそうにない……」

    魔理沙は大粒の涙をこぼしながら、こいしに最後の別れを告げ、走り去ってしまった。
    こいしは魔理沙と親しげにしていた。きっと彼女達の間には色んな思い出があるんだろう。気持ちはよくわかる。痛いくらいに。

    諏訪子「名残惜しいけど……みんな、そろそろ」

    ここへ来た人はそう多くない。けど、ここにいる人たちは皆、こいしの事を大切に思っている人たちだ。
    それぞれに、それぞれの思い出がある。彼女の顔を見ていたら、ひとつひとつ蘇ってくる。
    あの時には戻れない。彼女の声を聞くことはもうできない。彼女の笑顔ももう見る事ができない。それが、死ぬということ。
    これまで大切な人を何人か亡くしてきたけど……いつだって思う。どうしてこんな経験しなきゃいけないんだって。
    思い出はいつだって楽しいものだったはずなのに、今だけは、この瞬間だけは…………




    にとり「正直、あなたが来てたのは意外でした」

    諏訪子「……そうだろうね」

    神社の裏手に立派なお墓がたてられた。みんなそれぞれ別れを済ませ、今はこうして諏訪子と並んで彼女の前にいる。
    私は、自分が好んで飲んでいるお酒を墓前に供えた。こいしは少し嗜む程度だと言っていたから、きっとこれなら気に入ってくれると思う。
    約束、してたしな。

    諏訪子「仲が悪いように見えたでしょ? 実際間違ってないけど、私は別に嫌ってたわけじゃないよ」

    にとり「それは意外」

    諏訪子「むしろ早苗が嫌がってたから、それであんまり神社には来て欲しくなかっただけ」

    にとり「なるほど……」

    そういえば早苗は『いじめ』とまで言っていた気がする。早苗からの印象はそういいものではなかったんだろうな。
    なんか、そういうの思うと複雑だ。

    にとり「なんだかんだ、悪い奴じゃなかった。というか……割と好きだった」

    諏訪子「どこか憎めないんだよね。大胆な言動の割に等身大というか」

    にとり「そうそう。とっつきにくいと思っても、話してみるとかなり砕けてたりね」

    諏訪子「人の話もきちんと聞いてくれたしね」

    にとり「ほんと、ほんとに……」

    子供の頃ずっと感情がなかった分、取り戻そうと必死だったんだろうな。で、気がついたら周りの人より感情豊かになってるってやつ。実際、私よか豊かだと思うし。
    もしもこんな事件に関わることがなかったとしたら……明るくて人懐っこい、そんな女性に成長していったのかもしれない。

    諏訪子「……ねえ」

    にとり「うん?」

    諏訪子「あなたは当然、事件をこれからも追うよね?」

    にとり「勿論。犯人は絶対に赦さない。全て解決するまで……どんなに困難だとしても、この身が滅ぶその時まで、私は事件を追い続けるつもりですよ」

    諏訪子「だよね。うん、わかった」

    にとり「諏訪子さん?」

    諏訪子は目を閉じ、深呼吸する。
    それからゆっくり目を開き、私をしっかりと見据えた。

    諏訪子「ならば私は伝えるよ。私の調べた事件の情報を……私の知る全てを」

    にとり「え……」

    諏訪子「人に話す事はほとんどなかったけど……私も、実は事件について調べてたの」

    驚いた。
    まさか、諏訪子も事件の事を調べていたとは……いや、新しい情報を持っているとは。
    早苗の事があったから大人しくしてるわけはないとは思ってたけど……

    諏訪子「ごめんけど、何もかもを話すわけにはいかない。その中には、私以外の人物の大切な情報が含まれているから」

    にとり「わかった。そこは詮索しないようにする」

    諏訪子「ありがとう。それじゃあとりあえず、社務所の方に来てもらえないかな」

    諏訪子はそう言うとこちらを見る事無くこいしのお墓に背を向け、歩き出した。
    それは、私の事を信用してくれたという証に見えた。



    社務所に入ってドアや窓を締め切り、クーラーをきかせた室内で諏訪子から話を聞く。
    彼女から聞いた情報はどれも知らないものばかりで、ひとつ聞くたびに私は驚くことになった。
    それは例えば、東風谷早苗の事。彼女は幼い頃に誘拐されその間に両親を亡くし、孤児院で育った。何者かに援助を受けながら成長し、成人した頃に諏訪子が引き取り養子にしたのだという。
    早苗は元々情緒不安定な子で、大人になってからも心の病を患っているらしかった。
    中でも子供の頃に大事にしていたペットには執着があり、死んでしまった今でも生きているかのように振舞うのだという。ただ、記憶を失ってからはどういうわけかそのペットの事は口に出すこともないらしいが。

    にとり「(なるほど、それであの時……)」

    早苗にペットの話をした時、諏訪子がすごい形相で私に詰め寄ってきたのはそういう事だったのか。
    他にも、彼女はこの町で起きている児童誘拐事件と猟奇殺人事件が何らかの関係がある可能性を示唆した。
    特に第四の事件が起きた事でその可能性は強まったという。
    諏訪子の言う推論は、誘拐した子供を犯罪者に仕立て上げるというものだった。子供の頃から洗脳していくことで、立派な駒に育てるのだという。
    第五の被害者、慧音は子供を教育する立場にあった。彼女はそういった面から脅威とみなされ、排除された可能性があるという。
    なるほど、確かに筋は通っている。それに、そういう事情のある者達が犯人だとしたら、いくら探したって見つからないはずだ。

    諏訪子「ただ、これはあくまで仮説に過ぎない。結構前からこの可能性を疑ってはいるんだけど、証拠が何もないからね……」

    にとり「それを証明するには誘拐事件を解決しないといけない……事件を解決するために事件を解決するのか」

    諏訪子「でも、微妙にわかってきた事もあるよ」

    にとり「それは何です?」

    諏訪子「私がこの仮説を立てた当時は、事件が二件しか起きていなかった。でも、あれから今に至るまでに、更に六件も事件が起きてしまった……」

    最初の事件が四年前。次が二年前の春で、先輩の事件がその年の夏。そして今年の梅雨に四件目、そして五件目から立て続けに八件目まで発生した。

    諏訪子「中でも第三の事件なら、知りえる情報が多い。彼女達の事情を、私は知ってるからね」

    にとり「正直、あの事件が一番私は知りたい所なんです。教えてください」

    先輩が被害者になってしまったあの事件……私はようやく、その謎を解き明かすことができるのだろうか。

    諏訪子「早苗は、心の病気を持っていた。ペットは何も飼ってない。空の籠は、そういう事。そして、アリスさんは早苗をペット泥棒の犯人だと疑っていた」

    にとり「そうだったのか……じゃあ先輩は、早苗さんの家に忍び込んでそれを確かめたってこと?」

    諏訪子「管理人が鍵を借りに来た人物がいる、それも警察の人だったって言うし、そういう事だと思う」

    にとり「……でも、それからがわからない。どうして先輩は消えちゃったんだろ?」

    諏訪子「その前に早苗についてだけど、あの子はここで仕事をしていた。早退はさせたけど、それでも夕方にはなってた。アリスさんが鍵を借りに行ったのは昼過ぎらしいから、鉢合わせしたって可能性は薄いね」

    にとり「けど、その後のことは?」

    諏訪子「早苗の記憶がまだあるうちに聞いたのよ。アリスさんの家に入っても誰もいなかったって。それで、階段の所で籠と大量の血を見たって」

    にとり「それで気絶しちゃったと?」

    理由になってはいると思うが、それだけで気絶なんてするだろうか。

    諏訪子「正直、早苗が疑われて当然な状況だったし、ヘタな事言うと早苗が警察に連れていかれそうだったから諸々伏せてた情報がある」

    にとり「……なんですか、それは」

    諏訪子「早苗は思い出したんだよ。空の籠と大量の血を見て。自分のペット、ぴーすけはもうずっと前に死んじゃってるんだって」

    にとり「なるほど……それでショックが大きすぎて、気絶したのね。それならわかる」

    諏訪子「正直、早苗が記憶を失ったのはそっちが原因だと思うのよ。そのショックは計り知れないものだと思う」

    中には自我崩壊して戻らない人もいると聞く。心の病とはそれ程に危険なものなのだ。

    諏訪子「あそこがアリスさんの家とはいえ、早苗にあの血がアリスさんのものだと断定はできないしね」

    にとり「確かに、そうだと判明したのは後の調査でだしね……」

    けど、結局誰が先輩を襲ったのかはわからない。早苗がおそらく無関係とわかった事で進展はあったが、やはり一連の事件の犯人を突き止めない事には話が進まないみたいだ。

    諏訪子「第五の事件で事態は急変したよね。一見だけど、容疑者がかなり絞られた」

    にとり「けど、諏訪子さんの言う仮説だと外部犯って事になっちゃいますよ」

    諏訪子「確かにね。図書館に集まった面子の過去を調べても孤児だったという事実は出てこないし、そもそも全く関係ない所で生まれ育ってる人も多い」

    にとり「となると、あの中に共犯者がいるってことになるのか」

    諏訪子「どちらにせよ、その辺りに関してはあの不可能犯罪を解かないとわかりそうにないけどね」

    そう、慧音の事件に関してはレミリアの事件ともどもあの不可解な密室の謎をどうにかしないと話が進まない。
    仮に犯人を特定できたとしても、あのトリックを解かなければシラをきりとおされるだけだ。
    凶悪な密室トリック、離れた場所で同時に殺された被害者……状況から考えれば、諏訪子の言う通り犯人は単独ではないだろう。洋館での事件は、複数犯であればやりようがあるのかもしれない。

    にとり「(そうすると問題は鍵だけなんだよな……)」

    仮に犯人が二人いて別々に犯行を行った場合、レミリアの部屋の鍵をどうやって慧音の部屋に持って行ったかがわからない。
    スペアキーは当時鍵がかかっていた館長室で本に埋もれている事を確認したから、レミリアの部屋の鍵は開けるのも閉めるのも慧音の上着のポケットに入っていたものでしか行えない。

    諏訪子「こうなると、『何をどうやって』じゃなくて『誰がどうして』を考える方が利口のような気がする」

    にとり「……つまり、誰が共犯者か、ってことですか」

    諏訪子「中にいた人がしたにしろ外部からの人間を招きいれたにしろ、私たち含めた12人の中には必ず犯人が含まれる。なら、誰なら共犯者となりうるか、じゃないかな」

    諏訪子「……まぁ、見当もつかないけどさ」

    にとり「動機が全くわからないし、こう言っちゃ皆に悪いけど、誰が犯人でもおかしくないですからね……」

    誰が犯人になるうるかは確かに重要だけど、例えば外部にいる共犯者を中へ入れる作業なんて誰でもできる。ほぼ全員にアリバイらしいアリバイがないのだから。

    諏訪子「でも、どうして殺害方法がそれぞれ違ったんだろうね」

    にとり「刺殺と銃殺……やっぱり、犯人が別々だからじゃないです?」

    諏訪子「う~ん、そうなんだろうけど、どうにも不自然だと思わない?」

    にとり「ていいますと?」

    諏訪子「だって、片方は大きな音出して殺してるのに、もう片方は遺体を発見するまで殺害されていた事さえわからなかった。まぁ犯人の気まぐれって可能性もあるだろうけど、私は意味があるように思えるんだよね」

    にとり「銃殺することに意味があるか、刃物で刺す事に意味があるか」

    諏訪子「もしくは、その両方か」

    慧音は銃殺でなければならなかった、レミリアは刺殺でなければならなかった……でも確かに、諏訪子の言う通り、単なる犯人の気まぐれとは思えない。これはもしかして、密室トリックに必要だったのかもしれない。
    なんだろう、何か引っかかる。何か思いつきそうだけど、出てこない。何だ、考えろ、考えるんだにとり……

    諏訪子「ねえ、被害者二人ってほとんど同じ時間に亡くなったんだよね?」

    にとり「同じとは言わないけど、だいたいはそうですね」

    諏訪子「死因は? 慧音はおそらく即死だったろうけど、レミリアはもしかして失血死じゃない?」

    にとり「そんな事まで知ってるんですか……」

    諏訪子「ううんただの想像だけど、合ってるんだね。でも失血死って事は、刺されてからすぐに亡くなったわけじゃないんだね」

    にとり「それはそうだけど、動脈やられてたし、長くはなかったと思いますよ」

    諏訪子「だけど、犯行は同時ではない可能性があるってことだよね、それ」

    にとり「つまり、レミリアさんを殺害してから慧音さんを殺害したって事ですか?」

    諏訪子「ううん、共犯者がいてそれぞれが別々に殺害を行ったのなら時間を合わせる事は可能になる。でもあの時、私たちはこいしに呼ばれて慧音の部屋へ行ったんだよ」

    にとり「銃声がしたのは0時過ぎ……って事は、その時点で既にレミリアさんは刺されてたと」

    諏訪子「鍵の事もあるしね、刺殺銃殺の件(くだり)もあわせたら、慧音殺害は後じゃなきゃつじつまが合わない」

    鍵の事もちゃんと知ってるのかこの人……おそろしい神主様だ。

    にとり「でももう一つ実は疑問があるんです。レミリアさんが先に刺されたなら、こいしが集合かけた時には既に殺されていたわけで。あの時はたまたまパチュリーさんがレミリアさんは呼ばないでって言ったけど、あのタイミングでレミリアさんの部屋にマスターキーで入ってたら?」

    諏訪子「発見の順序は問題じゃなかったんだと思う。レミリアをその時点で発見しても、銃声は鳴った後だからね。その時点でレミリアが死亡していなくても、致命傷だった事にかわりは無かったと思うし、何か話せるような状態でもなかったんじゃないかな」

    にとり「そこまで計算のうちだったって事ですか」

    諏訪子「想像でしかないけどね」

    じゃあ、やっぱり鍵を上着のポケットにしまうのは全員が集合した時でしかありえない。
    レミリアの部屋の鍵を閉めるには鍵が必要で、その鍵は上着のポケットにあったものしか存在しない。慧音の部屋に行ったのは全員を集合させた時だけで、レミリア発見の後は警察が来るまで食堂に集まっていた。
    つまり、レミリア殺害より後で、レミリア発見より前の段階。しかも、慧音の部屋の前には私とこいしがいた。
    全てを度外視してこの状況だけで考えるとしたら、鍵をしまえる人物はおのずと決まってくるけど……

    にとり「(何考えてんだ私……)」

    諏訪子「うーん、人物さえ仮定できればこれまでの事件と合わせても何か見えてくると思ったんだけど……」

    にとり「まぁ誰がって、要するに犯人ですしね。それがわかれば全て事件解決ですし、苦労はないかと」

    諏訪子「そうなんだけどね……そういえば、警察は何でこれらの事件を一連のものだと考えたの?」

    にとり「それは……信用してもらえるかわからないけど、それを示唆するようなものがあるからですよ」

    諏訪子「それは何?」

    にとり「えっと」

    どうする、どこまで話していいものだろう?
    私個人としては特に疑っているわけではないが、こうして話をしてくれているとはいえ、可能性の問題として諏訪子も容疑者の一人と言う事に変わりは無い。それ以前に、捜査の情報を一般人に漏らすのも本来よくない。
    でも……多少は話さないとここでの話も進まないかもしれない。

    にとり「こういう紙が、先輩の家で見つかったんですよ」

    少し考えた末、私は先輩が書いた例の予言書を見せた。
    殺害された人物とその日付が記載されたメモ……事件のそれぞれが一連のものだと示す情報の一つ。
    書かれていないと思われたレミリアやパチュリー、そしてこいしは、死亡時にこいしが握り締めていた紙に書かれていた。
    予言の三枚目……三人で調書を見つけた時にだろう、机の下に落ちた事に私たちは気づかなかった。そしておそらく、こいしはこれを探しに私の家に来ていたんだ。そこを……

    諏訪子「驚きだな……自らの死後の事件まで書かれているなんて、本当にこれは予言だよ」

    にとり「先輩がどういう状況でこれを書いたかはわからないですけど、筆跡鑑定もしてありますので先輩が書いたことに間違いはないです」

    諏訪子「ふむ……」

    にとり「何か分かったこと、あります?」

    諏訪子「あ、いや、予言書はこれで全部なのかなって」

    にとり「おそらく……」

    簡単に調書の話をする。勿論捜査資料なので諸々伏せつつではあるが。

    諏訪子「ふむ……ひとつ疑問なんだけどさ」

    にとり「はい」

    諏訪子「予言書って事は、事件が起きる前に誰かが見てないと意味ないよね?」

    にとり「まぁ……でも、後から見つけても予言は予言じゃないですか?」

    諏訪子「ううん、それだと目的が予言になっちゃうよ」

    にとり「えっと……」

    諏訪子「この予言の意味が何かを考えるんだよ。予言通りに人が死ぬ様子を見せ付けたいのか、殺害が予言されていた事実を強調したいのか……はたまた犯人の余興なのか、予言自体にメッセージがあるのか」

    にとり「ふむ」

    諏訪子「書いたのがアリスさんでしかも亡くなってしまったという状況で……仮にアリスさんが予言者だとしたら、これを報告しないわけがないよね?」

    にとり「確かに……でも先輩はこれを書いた時、まだ見せる段階じゃないと言ってたみたいです。つまり、仮説を確かめたかったんじゃないかとも思いますけど」

    諏訪子「その場合でも誰かに一言くらいはありそうじゃない?」

    確かに、先輩の性格を考えると誰にも何も言わず一人で仮説を確かめる行為に出るとはあまり思えない。最低でも班長にくらい報告してから行動に出るだろう。
    となるとやはり、何か別の理由があるのだろうか。

    諏訪子「敢えてはっきり言うけど、アリスさんが『犯人じゃない』とした場合」

    にとり「っ……」

    諏訪子はそういう言い方をしたが、それは要するに、先輩が犯人もしくはその一味である可能性も存在すると言っている。
    先輩の遺体はいまだに見つかっていない。実は生きていて、犯人として暗躍している可能性だって確かに無いわけじゃない、けど……

    諏訪子「思った以上に身構えさせちゃったね……心配しないで、私は言葉通り、アリスさんが犯人とは疑ってないから」

    にとり「……はい」

    諏訪子「うーん、どうしよう……まぁ、良いか……」

    私の様子を見てか諏訪子は少し考え込み、何か話をすることを決めたようだ。

    諏訪子「アリスさんはね、いなくなる前の日まで私と事件についてこんな風に話してたんだよ」

    にとり「え……まじすか!!」

    諏訪子「うん」

    先輩が、この人と……?
    ってことは、なんだ、先輩はこの人の事は信用できる人物と判断したってこと?

    にとり「どんな話をしたんですか」

    諏訪子「彼女との事は後できちんと話すよ。でも今は、事件についての話がしたい」

    にとり「……わかりました」

    先輩と接点があったからって完全に信用できるわけじゃないが、俄然協力体制をとってもいい気はしてきた。
    先輩……ほんとに、色んなところで色んな捜査をしてたんだな。私は全然先輩の足元にすら及んでない……

    諏訪子「私が言いたいのは、今状況を見ればこの予言内容は一応確かなものだから、できれば『事前に誰かの目に触れさせたい』という意思が存在する、ということ」

    にとり「ただ、先輩は当時、その紙を隠している様子でしたよ」

    諏訪子「捜査かく乱になってしまうから隠したのか、犯人に見つかる可能性を考慮して隠したのか……真意はわからないけど、今後犯行が行われるとしたら予言書の通りである可能性は高い」

    にとり「それはわかりますけど……でも、もう予言書は無いので犯行はこれで終わりって事になります」

    諏訪子「事件にメッセージ性が何も無いらしいし、本当にこの予言書だけが浮いてる存在なんだよね。アリスさんの動向と矛盾してる気がしてならない」

    にとり「ほんとに先輩が情報として入手したわけじゃない……? で、でも、もしそうだとしたら、予め先輩が掴んだ情報でもなさそうってことは……」

    諏訪子「うん。そこに『アリスさんは犯人ではない』を足すと」

    にとり「この情報に気づいて書いた直後に被害に遭ったって事ですか。なら、調書の情報は細工をされてると……」

    諏訪子「それか私は『誰かに書かされた』とも思ってる」

    にとり「!」

    その線では考えたことなかった。
    どうして先輩はこんなものをとばかり思っていたけど、書かされたとなれば話は全く変わってくる。

    諏訪子「彼女がいなくなる前日まで事件について話し合ってたからね。少なくともアリスさんはいなくなる前日まで、この情報は知らなかったと思う。次に被害者が出るかどうかすらわからなかったんだから」

    にとり「だったらその説、マジもんじゃないすか」

    諏訪子「まぁ、確証はないけどね。あの様子じゃそうは思えなかったけど、私たちには話さなかっただけかもしれないし。ただ、書かされたとしたら、これは予言なんかじゃなくただの犯行予告。一つでも計画が狂えばこの情報は本来の意味を成さない」

    にとり「だとしたら、犯人は予告した以上何が何でもこの通りに実行しなきゃいけなかったと」

    ただ、犯人にはその予告どおりに全ての殺人が行える絶対の自信があったのだろうか。
    実際全部予告どおりに起きてしまっているからなんとも言えないが、私たちはこの紙を見つけてしまったわけだし、慧音のときは犯行を起こさせまいと画策もした。

    パチュリー『目の前の事象が、自分の常識が、どこでも常に一定であるとは限らない。視点を変えれば、それもまた真実……かもしれないわ』

    パチュリーの言葉を思い出す……つまり、逆なんだ。
    予言だから事件が起きる前に誰かが見ておく必要があるんじゃなくて、事前に余計な事をされないためにこの情報は後から見つけてもらう方が都合が良い。事件が起きた後に紙を見つけたって、その紙に書かれた内容は確かに事件が起きる以前に書かれたものであるとわかるから。
    ましてやいなくなってしまった先輩が書いたものだと判明するわけだから、少なくとも先輩が消えた後に起きた事件に関しては予言として成立することにもなる。

    諏訪子「なんてことない単純な予告殺人。難しく考える必要は無かったのかもね」

    にとり「で、でもとりあえずもう予言は無いわけですし、これで終わりですよね?」

    諏訪子「それはわからない……もしかしてまだ家のどこかにあるかもしれない」

    にとり「そんな……今から探してきます!」

    諏訪子「私も行くよ。でも、その前によりたい所があるんだけど、いい?」

    にとり「よりたいところ?」





    そこは町で一番広いお屋敷の中だった。
    大きな家に広い庭。竹林なんかも敷地内にあって、家の周りや内部には黒い服を着た人が沢山見回りを行っている。
    町一番の有名人。言わずと知れた、町の統治者。蓬莱山輝夜の居城である。

    にとり「うへ……緊張するな」

    諏訪子「どうして?」

    正面から蓬莱邸を訪れた私たち。私の姿を見るなり入り口にいた黒服が目を細めたが、諏訪子がいることを確認するとこちらには何も言わずにトランシーバーで何かを報告していた。
    するとすぐに中から黒服たちを纏めているであろう人物が姿を見せお辞儀をした後、私たちをここへ案内してくれた。
    通されたのは中庭のよく見える広い和室。おそらく客間なのだろう、机の上にはお茶菓子なんかが綺麗に並べられている。
    昔っからいわゆる不良娘として過ごしてきたもんだから、こういうきっちりした所には慣れてない。だから足の裏がむずむずするというか、眉の辺りがかゆくなるというか……

    輝夜「待たせたわね」

    輝夜が黒服と共に登場する。思わず立ちあがったけど、諏訪子は座ったまま手を挙げていた。
    輝夜が私の姿を見て、ふふっと笑みをこぼす。なんか、恥ずかしい。
    輝夜はその後黒服に合図をして下がらせ、凛とした表情で部屋に入ってくる。なんていうか、本当にこの人は美しくて、優れた人なんだと思い知らされる。

    輝夜「かしこまらなくていいわよ。家にいるみたいにしてもらって大丈夫」

    にとり「あ、はい……」

    諏訪子「お茶菓子変えたね」

    輝夜「あなたは平常運行すぎるわね」

    和ませてくれているのだろうか、諏訪子は机の上にあった苺大福の袋を開けていた。

    輝夜「遠慮の欠片もない人にはセンブリ茶でも振舞おうかしら?」

    諏訪子「抹茶がいいよ、割とまじで」

    輝夜「図々しいわぁ」

    にとり「…………」

    なんだろう、ここって『そういう場所』のはずなんだけど、その頭と神社の神主が普通の家で会話してるみたい。
    そういえばご登場の際に隣にひかえていた黒服もすぐに下がらせた。図書館のときも思ったけど、輝夜って意外と一人で行動する事が多い気がする。そういうのって大丈夫なんだろうか。

    輝夜「で、話があるのよね?」

    諏訪子「うん。でも、何も言ってないのによくわかったね」

    輝夜「来る頃だろうと思って、一部には指示しておいたのよ」

    諏訪子「洞察力あるね」

    輝夜「それはどうも……で、そんな事よりも。どの話かしら?」

    輝夜が表情を変える。その瞬間、この場を支配する空気も張り詰めた。
    うん、やっぱりこの人は蓬莱会の会長なんだ。

    諏訪子「結論から言うと、力を貸して欲しい」

    輝夜「それは蓬莱会に、という意味かしら?」

    諏訪子「まぁ、結局はそうなるね。頼みたい事があるけど、それはまぁ後でいい」

    輝夜「ならば私個人への用事もあるということ?」

    諏訪子「そうだよ」

    にとり「…………」

    私は諏訪子から何も聞かされていない。だから、ここで諏訪子が何を輝夜に言うのかも、何を協力してもらうのかもわからない。
    極端な話、突然諏訪子と輝夜が私に襲い掛かってきて殺される事だってある……のかも。警戒しすぎか?
    まぁ、とりあえずは大人しく成り行きを見ていよう。私も呼ばれているということは、嫌な想像の通りでないのだとしたら、警察としての身分が必要という事なのだろうから。

    輝夜「そちらの方がいらっしゃるということは、事件の話ね。蓬莱は関わりを持っていないと話したはずだけど」

    諏訪子「うん、だからこそだよ」

    輝夜「うちに、事件の真相を探れと? それは無理な相談ね」

    にとり「どうして無理なんですか?」

    輝夜「蓬莱会は町を統治する立場にあるけど、表向きは公平性を保つために極力各個には干渉しない事にしているの。更に言うと、蓬莱会に強く悪影響が出ないものに関しては、世間的にどんなに悪いものであっても積極的に干渉はしないってこと」

    にとり「でも、殺人鬼なんて町に恐怖を振りまく存在ですよ?」

    輝夜「うちは警察じゃないの。例えば目の前で強盗が起きたとして、被害に遭った店がうちのしのぎに関係ある店なら『対処』するけど、無関係の店なら恐怖する一般客を装うのよ。余計な面倒を引き受けてしまわないようにね」

    にとり「そうですか……」

    その辺はまぁ組織として色々あるんだろう。私にはあまりよくわからない。

    諏訪子「私のお願いはそういうのじゃないよ。事件について知ってる事を話してほしいだけ」

    輝夜「知ってることねぇ……蓬莱は一切関係が無いという事と、さっきの例で理解してもらえるであろう通り、蓬莱関係にはあまり被害が出ていない事ね」

    諏訪子「でも、顧問弁護士の娘と議員の娘は亡くなったよ」

    輝夜「最初は思ったわよ、蓬莱を失脚させようとする者の犯行じゃないかって。でも、実際多少困る事はあっても、そう大きく影響してないのよ」

    諏訪子「っていうと?」

    輝夜「鍵山氏には変わらず顧問弁護士として続けてもらってるし、古明地夫妻も議員としての仕事はきちんと果たしている。ご息女が亡くなられたのは確かに悲しい出来事だけど、どちらも仕事に大きな穴をあけることはなかったわ」

    諏訪子「そうか……なら、あの仮説は成立しないな……」

    輝夜「なに? アテがはずれたかしら?」

    諏訪子「ううん、そうだけどおかげで絞り込めてきた」

    輝夜「よくわからないけど、役に立ったの?」

    諏訪子「かなりね」

    輝夜「たったあれだけで?」

    諏訪子「私には充分すぎる情報だったよ」

    私にもよくわからないけど……一連の事件に蓬莱がほとんど関係ないとわかった事で大きな進展があったんだろう。
    諏訪子と話していたことから推測するに、誘拐され犯罪者に育てられた人物達がいずれは蓬莱を脅かしてこの町を支配する……みたいな仮説だったのかもしれない。

    諏訪子「さて、じゃあ蓬莱会へのお願いなんだけど」

    輝夜「先に言っておくけど、おそらく協力はできないわよ。事件絡みのようだし、ここで蓬莱が個人的な事情で動くわけにはいかないの」

    諏訪子「それでも一応話してみるよ。だから、聞いて」

    輝夜「えらく強気ね……あなたまさか……もしかして『審判』なの……?」

    審判? なんだろう、またわからない単語が出てきた。

    諏訪子「ふふ、想像に任せるよ。仮にそうだとしても、そうだと答えることはできないからね」

    輝夜「蓬莱の会長を脅すつもり?」

    諏訪子「とんでもない。ただの『お願い』だよ」

    輝夜「これはこれは、世界で一番怖ろしい『お願い』だこと……」

    諏訪子「調べ物をしてもらいたいだけだよ。そう難しい話じゃない」

    輝夜「はいはい。見てから判断するわねー」

    諏訪子は一枚の紙を輝夜に手渡す。四つおりにされていて、何が書かれているかはわからない。

    諏訪子「じゃ、私たちは帰るね」

    輝夜「あらそう」

    え、もう帰るのか。
    なんだかよくわからないうちに用事が終わってしまったようだ。

    輝夜「……気をつけて。無理はしないように」

    諏訪子「もちろん」

    諏訪子は笑ってそう返事すると、振り返ること無く部屋を出た。それに私も続く。

    にとり「結局なんだったんですか?」

    諏訪子「何って、話してた通りだよ。仮説を確かめてたの」

    にとり「はぁ……」

    よくわからないけど……うちに着いたら諸々話してくれる事を期待するとしよう。
    どちらにしたって、この場所じゃ話しにくいし。



    家に着いてからすぐに、私たちはキッチンへ向かった。
    先輩の残した予言書が、もしかしたら他にもあるかもしれない。そう思っていたのだが、ここへ向かっている途中の会話で別の方へ話が進んでいた。
    もし例の調書が誰かに書かされたものだとしたら、あれは本物の調書ではないということになる。となれば、本物の21~23ページ目がどこかに存在するかもしれないという話だ。
    班長が聞いた言葉から考えても、その可能性は高い。

    にとり「考えるんだ……先輩が何かを隠すとしたら、どこに隠す?」

    もしもこの仮説が正しいのなら、先輩はどこかに本物の調書を隠しているだろう。今の今まで見つかっていないということは、そういうことだ。
    でも、どこに……やっぱりキッチンにあるのか? それとも、書斎? 案外全然関係ない意外なところかもしれない。
    ああ、考えれば考える程わからなくなる。

    にとり「先輩、まじむずいっす……」

    だいたい先輩はこういうの考えるのは苦手なはずだ。そう思えば、冷蔵庫に貼ってあった例の偽(仮)調書だって納得がいく。
    確かにあれもヘンテコな暗号だったけど、それすら先輩なら考えられないんじゃないか……

    にとり「……単純すぎて見落としてる、のか?」

    先輩と話していたときのことを思い出せ……先輩は事件の事なんてほとんど話さなかった。たまに変な時間に電話をかけてきては、調子はどうだのちゃんとやってるかだの、離れていても私のお節介ばかり。
    でも、唯一先輩は自分の事を話してくれた時がある。それは予言の調書のヒントにもなっていた、料理が趣味になったこと……

    にとり「……料理?」

    趣味になったということは、それまでは特に意識してやってたわけじゃないってことだ。
    先輩が元々料理上手かどうかは知らないけど、料理を趣味にしたってことはいろんな料理に挑戦してみたに違いない。
    元からレシピを自分で考えられるような人なら、急に趣味にしただなんて話すか? つまりは、趣味になってきた事で、色んな料理に挑戦していったということだ。
    ならもしかして……

    私は書斎に移動し、本棚を見回す。

    にとり「おや?」

    と、本棚の隙間に何かが挟まっているのを見つける。木箱のケースのようだ。

    にとり「これは……」

    開けてみると、中にはダーツの矢がひとつ入っていた。

    にとり「こいし……」

    ダーツか……あいつの趣味だったな。一度も見る機会はなかったけど。
    ただ、彼女の矢は一緒に焼いた。ということは、これはもしかして私に教えてくれるために用意したものなんじゃ……
    そういやこいし、いつか教えてくれるとか言ってたっけ。

    にとり「ほんとに、まっすぐなやつだったな……」

    本当に昔は感情を失っていたのかと疑うくらい、純真で無垢なやつだった。
    これからもっと色んな事を、それこそダーツの話だってしていきたかったのに……

    にとり「……泣いてる場合じゃない」

    にじんできた涙を親指でぬぐい、息を吐く。
    私はその木箱をポケットにしまい、頬を叩いて再度本棚と向き合う。
    今は先輩の残した手がかりを探すことに集中するんだ!

    にとり「先輩の性格からして、どうせあの辺りに……」

    一段ずつ本棚に並んでいる本たちを見ていく。
    目的の本は決まっている。そしてそれは、二段目の右端辺りに幾つか纏めて並べられていた。

    にとり「……先輩、単純すぎまっせ」

    そこから料理のレシピ本を片っ端から取り出して中を開いてみる。
    その中の一冊、「今日の夕飯」という本の『ハンバーグ』のページに、それは小さく折りたたまれ挟まれていた。

    にとり「ほんと、こういう事、全然なんすから……」

    本当に後輩思いの良い先輩だった。自惚れかもしれないけど、もしかしたら先輩は私があとを引き継ぐことになると考えてくれていたのかもしれない。
    ならば、私はその期待に応えたい。胸張って良い結果を報告できるように。

    にとり「これは……」

    紙には『これが本物の調書だ』と証明するように、事件に関する先輩の考察が沢山書かれていた。
    中には諏訪子と話をした事も書かれていて、彼女の言っていた事が嘘ではないとわかる。しかも行方不明になっている幽々子をかくまってるのが諏訪子ときたもんだ。こりゃ驚いて声も出ない。
    はは、協力しようと近づいてきた諏訪子が実は真犯人、みたいな妄想もしてたんだけどこりゃ無さそうだな。

    にとり「神社の奥のにわとり小屋?」

    他にも気になるメモが沢山ある。例えばこのにわとり小屋。まだ、私の知らない場所があちこちにあるらしい。

    にとり「因幡てゐ……」

    聞いた事あるようなないような名前も出てくる。
    なんだろう、これはどこかで聞いた事のある名前だ。どこで聞いたっけか……

    にとり「……ひよこ売りだ」

    そう、この前の祭りに来ていた人物が確かそうだ。
    その人物が、このにわとり小屋に少女をかくまっている……なんか更にわけがわからない話になってきた。
    事件に関係があるのだろうか。先輩も半信半疑のままメモは終わってるけど、もしかしたら何かあるのかもしれない。
    他にも謎の地下室や早苗についてのことなど、私の知らない話が沢山書いてあった。

    諏訪子「にとり、大変だよ。予言がまた見つかった」

    にとり「えぇ、まじすか!?」

    諏訪子「うん。見せてもらった予言書を参考に探してたんだけど、まだ冷蔵庫に貼ってあった」

    にとり「見落としてたのか……いや、後で貼られた可能性もあるな。それに、書かされたとしたら調書のページ番号が狂ってても不思議じゃないか。それで、何て書いてあるんです?」

    諏訪子「それが……」

    諏訪子が私にその紙を渡してくれる。

    にとり「こ、これは!」

    その紙にははっきりと年月日と、そして被害者となるであろう人物の名前が書かれている。


    2016年8月2日 八雲紫


    白紙の紙にたった一人だけ書かれた名前。それも今日の日付だった。






    諏訪子「紫がいる場所知らないの?」

    にとり「宿泊してるホテルは知ってるけど……寝に帰るくらいでだいたい捜査に出てるから、いる可能性は低そうです」

    家を飛び出したはいいが、班長がどこにいるかはわからない。事件についてわかったことをまとめているのならホテルの部屋にいるだろうけど、捜査に出ていたらどこにいるかは全く見当もつかないんだ。

    にとり「電話も繋がらないな……班長、まじどこにいるんすか……」

    と、班長に電話をかけている最中にキャッチが入る。ディスプレイを確認すると、それは魔理沙からだった。
    一旦班長への電話を中断し、魔理沙の電話に出る。

    にとり「何かあった?」

    魔理沙「お、こっちは繋がったか。いや、先日の図書館の件の報告書が詳細に纏まったんで渡そうと思うんだが……」

    にとり「その件か……」

    ちょっと待て。今魔理沙、『こっちは繋がった』って言った? てことはもしかして、班長にも電話かけてたのか?

    にとり「ねえ、もしや班長に電話した?」

    魔理沙「おう、したぞ。繋がらなかったけど」

    にとり「いつごろ?」

    魔理沙「一時間くらい前かな。葬儀の後署に戻って作業して、それが終わってからだったし」

    結構前じゃないか……ならもしかして、班長も既に……っ! 馬鹿な、そんなわけないに決まってる。あの班長だぞ、縁起でもないこと考えるな私。

    魔理沙「で、その報告をしておきたいんだが……」

    にとり「ごめん、ありがたいけど今それどころじゃないんだ。例の予言、今日班長が狙われる事になってる!」

    魔理沙「なんだって!?」

    にとり「とにかくそれで探してるんだけど……見当たらなくて」

    魔理沙「宿泊先にもいないんだよな? じゃあ現場とかじゃないのか?」

    にとり「一応第一の現場に向かおうとはしてるけど……」

    宿泊先も見に行ったわけじゃないけど、そこにいるなら電話が繋がらないなんて事はないはずだ。風呂などで偶然繋がらなかったみたいな感じならいいんだけど……予言の件もあるし、そんな悠長な考えしてられない。

    魔理沙「とにかく待て。私も合流する。ちょうど町中まで出てきたんだ」

    にとり「それじゃあ……図書館前で落ち合おう。図書館内を見回ってから神社に行く予定で」

    魔理沙「りょーかい」

    電話を切る。その流れで班長にもう一度電話をしてみるが、やはり繋がらない。
    コール音はしてるんだけどな……もしや電話中か? 留守電設定にしてない可能性はある。

    諏訪子「繋がった、わけじゃなさそうね」

    にとり「うん、魔理沙だった。合流するってさ、図書館前で」

    諏訪子「なるほど。でも、もしかしたら図書館にいるかもしれないね」

    にとり「あの現場での事件が一番不可解だからね。もう一度検証しに行ったのかもしれないし」

    諏訪子「とりあえず急ごっか。何なら手分けして探してもいいね」

    にとり「それがいいかも」




    てゐ「……風が騒がしいな」

    ミスティア「そうですか?」

    てゐ「あ、いや、何でもないよ。ただそれっぽいこと言ってみただけ」

    ミスティア「そうですか」

    海の見えるにわとり小屋で、ふたり。
    てゐは思いつめた表情を浮かべながら、ぎゅっとミスティアの手を握っていた。
    海からやってくる潮風が髪を揺らし、頬を撫でて通り過ぎていく。

    てゐ「っ、だめ!」

    ミスティア「?」

    突然、てゐはミスティアをきつく抱きしめた。

    ミスティア「なんですか?」

    てゐ「うん、なんでもない、大丈夫」

    そう言っててゐはミスティアの頭と首を優しく撫でる。
    彼女はミスティアの首筋に浮かんできた青筋を見逃さなかった。
    それは過去の傷であり、彼女の犯した罪でもある。油断をすれば、全てが壊れ、失われる。

    てゐ「……もう時間か」

    てゐは暫く彼女を抱きしめていたが、やがて名残惜しそうに身体を離し、ミスティアに柔らかい笑みを見せる。

    てゐ「ちょっと、出かけてくる。ちゃんとここで良い子にしてるんだよ?」

    ミスティア「はい……」

    てゐは走り去る。後ろを振り返らずに。未練を断ち切るように。

    ミスティア「ごしゅじん……」

    てゐの笑顔には哀愁がにじみ出ていた。
    彼女は決意していた。自分の犯した罪を償う事を。そして、決着をつけようとしていた。
    感情を失っているミスティアに、その意味がわかっただろうか。ミスティアはただてゐが走って行った後をじっと眺めて……

    ミスティア「…………」

    影がまたひとつ、にわとり小屋から姿を消す。





    魔理沙「おい、こっちだ!」

    にとり「魔理沙!」

    図書館まで来ると、既に魔理沙がそこまで来ていた。

    魔理沙「紫のやつが狙われてるってほんとか?」

    にとり「たぶん。私の家に、今までの予言と同じような紙があったんだよ」

    そう言って例の紙を見せる。
    魔理沙はその紙を見て表情を少しばかりゆがめた。

    魔理沙「これが例の予言書ってやつか。にわかには信じられないが……」

    にとり「そっちの調書にも書いてあったと思うけど、これまでの予言書は全て的中した形になってる。だから、もしかしたら班長も……」

    考えたくはないがその可能性は充分ある。慧音のときなんて、日付が変わってすぐに事件が起きてしまった。だから今回もいつ予言の通りになるかわかったもんじゃ……

    にとり「(あれ……なんだ、この違和感……慧音の時でさえ予言の通りに……だから、今回も……?)」

    諏訪子「ねえ、魔理沙が持ってきた資料っていうのは?」

    魔理沙「ああ、これだけど、今それどころじゃなくないか?」

    諏訪子「話しながらでも探せるでしょ。それに、わざわざ纏めてきたってことは、新しく分かったことがあるんじゃないの?」

    魔理沙「それは、そうだけど……」

    にとり「とりあえず図書館に入ろう。走りながら話してくれるかな」

    諏訪子「手分けして一気に探そう。話は電話で」

    魔理沙「そういうわけなら資料はとりあえず渡しておく。手短にだけ話すな」

    にとり「りょーかい」

    図書館の鍵は事件の後ずっと閉められている。管理者のパチュリーが死んでしまった事もあり、もしかしてもうこの図書館は一般公開されない事が決まっているのではないか。
    だが、ダメ元で押してみると、音を立てて扉が開いた。

    魔理沙「開いたぞ」

    にとり「ってことはここにいる可能性はあるな」

    諏訪子「行こう……ん、電話だ」

    立ち止まっている暇はない。はやく班長を見つけ出さないと!



    図書館内部を手分けして探す。流石に調書を読みながら探すのは難しいから、大まかな内容を魔理沙から電話で聞く事にした。
    諏訪子は図書館を、私は屋敷の方を、魔理沙は屋外の図書館周辺を走っている。

    魔理沙『この屋敷で起きた事件について、奇妙な点が幾つか。ひとつは、硝煙反応の件だ』

    にとり「もしかして誰かから検出されたの?」

    魔理沙『いや、そうじゃない。あの時は全員検査をしたけど、一人を除いて他は誰からも検出されなかったからな』

    にとり「鈴仙か……」

    鈴仙の趣味は射撃。図書館へ来る前に射撃場にいたということだし、その帰りだったからか道具も一式担いで来ていた。
    犯人は慧音を銃殺しているから、きちんと対策していなければ硝煙反応が出るはず。あの場にいた者たちは事情聴取と共に硝煙反応検査もされたが、鈴仙以外の人物からは検出されていない。
    当然鈴仙は容疑者の最有力候補という話になったが、射撃場にいたことは現地にいた人に証明されているため、証拠としてはほぼ機能しなかった。

    にとり「硝煙反応はアテにならないか……」

    魔理沙『そういう意味ではな』

    ならやはり外部犯による犯行なのか?
    いや、内部犯だとしても硝煙対策をしたり、落とす暇くらいはあったのかもしれない。一応私やこいしが目を光らせていたとはいえ、絶対に誰も何もしていないかと言われると頷けはしない。勿論、99%誰も怪しい事はしていないくらいは言えるんだけど。

    にとり「なら奇妙な点っていうのは?」

    魔理沙『硝煙反応が出たのは現場の部屋のベッドと布団にその周辺、それと真下の部屋なんだよ』

    にとり「真下?」

    魔理沙『ああ。それも天井辺りにな』

    真下の部屋の天井に硝煙反応? まさか真下から上に向けて撃ったってのか?
    いや、それは無理だろう。どこにいるかもわからない相手に向けて撃って殺すなんて現実的じゃない。
    それに慧音の部屋の天井に弾痕は見つかってない。というか、それで殺したとしても弾丸を回収する暇がないし、だいいち慧音は犯人に会ってるんだ、ありえない。
    でも、一応訊いてみてもいいかもしれない。何か他に分かることがあるかも。

    にとり「真下の部屋から撃った、なんてことはないよね」

    魔理沙『ああ、それはありえないと思う。何らかの方法でベッドの上に誘導したとしても、真下から撃ち抜けるタイミングなんかを考えると不可能だろうな』

    にとり「ベッドのどの辺に寝るかもわからないしね……」

    魔理沙『だな。それに、角度からして無理なんだ』

    にとり「角度?」

    魔理沙『ああ。慧音は頭を撃たれて死んでいた。こめかみの辺りからな』

    にとり「こめかみだって?」

    魔理沙『つまり、ベッドに仰向けになっていたわけじゃなくて、横向きに寝かされて撃たれた後仰向けになったってことだ。もし下から撃とうものなら、ベッドに誘導させるだけでなく横にならせる必要まで出てくる。まぁ、偶然そうなっただけかもしれないけど』

    私はあの時きちんと慧音の被害状況を確認していなかったから詳しくは知らなかったけど、そんなことになっていたのか……
    だとすると、犯人は慧音を追い詰めてベッドに押し倒し横向きに寝かせ、撃ったって事になる。
    そもそも慧音は部屋で犯人と遭遇してるんだ、下から撃ち殺す状況がまずおかしい。

    にとり「(やっぱり同じ部屋の中で撃ったとしか考えられないか……)」

    撃った銃弾は一発。表には私たちがいるという緊迫した状況。そんな状態でわざわざこめかみを撃って殺そうとするか普通?
    一発で確実に殺さなければならなかったとしたって、もっと他に撃つ場所はあるはず。至近距離なんだから心臓も頭も口元も狙えそうなもんだけど……

    にとり「…………?」

    なんだこの状況、物凄い違和感があるんだけど……なんだ、何が引っかかるんだ……霧を晴らすんだ、私……!

    にとり「……真下の部屋って、鈴仙さんの部屋だよね」

    魔理沙『そうだったみたいだな。まぁ彼女なら射撃の腕はあるようだし、撃とうと思えば他の連中よりは下から撃っての殺害も確率は高いだろう。でも、あんな不確定要素だらけの状況じゃどんなプロでも一発でこめかみを撃ち抜くなんて不可能ってか、普通やろうとなんて思わないぞ』

    にとり「だよね。鈴仙が撃ったってのは無理があるか」

    魔理沙『それなら、裏の森に向けて窓から射撃の練習してたから硝煙反応が出たって言われるほうがまだ納得する。いやまぁ、森に向けてとはいえ実際に発砲してたら逮捕もんだけどさ』

    にとり「それもそうか……でもそんな音は聞こえなかったけどね」

    魔理沙『そりゃまぁ、練習してたとしても弾はこめてないだろうし、サイレンサー的なものつけてやるだろ。近所迷惑になるし』

    にとり「クレー射撃用の銃にサイレンサーなんてつけれるの?」

    魔理沙『詳しくは私も知らんが、可能みたいだぞ。今の技術は相当進歩してるからな、本当におもちゃの銃で撃ってるみたいな音しかしなかったりするらしい』

    にとり「そりゃすごいな……」

    でも、そんなすごいものが出回っているというのに、今回の犯行では大きな銃声が轟いた。確かに、慧音をここへ連れてきたのは急な判断だったが、そんな状況でも犯行可能な人物が果たして銃声の対策をしないなんてことがあるのだろうか?
    予言の内容からして、殺害は日を跨いだすぐ後でなければならない事はなかったはずだ。ならば慧音が寝静まった頃に、サイレンサーをつけた銃で殺してしまえば、私たちが気づくのも遅れただろう。
    仮にサイレンサーがどうしても用意できなかったとしても、予言内容からしてそもそも銃殺にこだわる必要はないはず。布団を押し付けるなどして刺し殺すなり窒息させるなりすれば、もしかしたら私たちは犯行にしばらく気づかなかったかもしれない。

    にとり「(要するに、逆なんだ……)」

    私たちに知られないように犯行を済ませることができなかったんじゃない。
    犯人は、『銃声を私たちに聞かせる必要があった』んだ。
    それは、私たちに殺害を知らせるため。きっと、慧音が叫ぶだけでは足りなかったのだろう。
    いや、違う。知らせたかったのは殺害それ自体じゃない。私たちに『銃声』を聞かせる事が重要だった……?

    にとり「(犯行をたった今行ったぞとアピールするのが目的……レミリア殺害と時間を合わせるため? いや、それは調べればわかる事だから意味は無い……)」

    それにもう一つ、違和感がずっと頭の片隅にこべりついて離れない。
    もう一度あの状況を思い出せ……突然部屋の中から声がして、大きな銃声が鳴り響いて……けど、その銃声は私たちに聞かせるためのものだったとして……
    なんだ、何がおかしい? 何が不自然なんだ? あの状況を考えるに、不思議な事が何かあるはずだ。

    にとり「(……………………音?)」

    あの時、部屋の中からは慧音の叫び声と銃声がした。叫び声と銃声『しか』聞こえなかった。
    だけど、それはありえない。だって、慧音はおそらくベッドに押さえつけられてこめかみを撃たれていた。
    相手に頭や体を掴まれて銃口を向けられ押し付けられて、そして射殺される。銃口を向けられているとはいえ、一連のこの流れの中で、物音一つ立てずにいられるだろうか……?
    だけど実際、これといって他に物音はしなかった。それって、つまり……

    にとり「(慧音はロクに抵抗もできなかったって事か……?)」

    でも、なぜ? いくら銃を向けられているとはいえ、大声を出した時点ですぐ外にいる私たちに状況は伝わっている。
    だが、あの時慧音は、すぐには殺されなかった。そんなに長い間ではなかったが、彼女が第一声を叫んでからすぐに撃たれたわけじゃない。
    それに、私たちはドアを叩いている。仮に私かこいしのどちらかがマスターキーを持っていたとしたら、すぐにでもドアを開ける事ができたかもしれない。二重ロックがされてはいたが、隙間から中の様子はある程度見えるわけだし……
    慧音にしたって、今にして思えば不自然だ。抵抗という抵抗の跡もなければ、時間稼ぎをした様子もなかった。それどころか、まるで犯人に話しかけようとさえしていたような……いくら学校の先生だからって、勇敢すぎないか……?

    にとり「(まさか……慧音も……)」

    いや、それなら殺される意味がわからない。予言からしても慧音は殺害が予定されていた。殺害を予定されているのに犯人に与するなんて、意味がわからない。

    魔理沙『おい、大丈夫か?』

    にとり「え、ああ、まぁ」

    魔理沙『あともう一つだけ情報なんだが……形跡から考えて、慧音は中距離で撃たれてると思われる』

    にとり「中距離?」

    魔理沙『ああ。中距離っても、至近距離じゃないってくらいの意味だけどな。火傷の跡は無かったからゼロ距離ではないし、血の飛び散り具合から考えて被害者の目と鼻の先じゃない』

    にとり「なんだって?」

    そうなると、状況はかなり変わってくる。
    私はてっきり、慧音はベッドに押し付けられて射殺されたのだと思っていた。だって、そうでもしないとこめかみを撃たれるなんて状況にはならないだろう。
    それに何より、銃声しか目立った音はしなかった。慧音がベッドに倒れこむ音なんて聞こえなかった。慧音が叫んでいない時の声が聞こえてたくらいだ、倒れる時の音くらい聞こえても不思議じゃないはず……
    なら、ベッドで寝ているところを少し離れた所から? いやいや、銃口を向けられているのに横を向くなんて事、普通しないだろう。

    魔理沙『だけど、変なんだよ。慧音の腕には、掴まれたような跡が僅かに見られたんだ。手袋の繊維も僅かに採取できたらしい』

    にとり「はぁ? だって中距離から撃たれたんでしょ? なのにどうして……」

    ……そんなの、答えは一つしかない。
    犯人は二人いて、片方が慧音を掴んでおさえ、もう片方が銃を撃ったんだ。

    魔理沙『複数犯の可能性は視野に入れてたんだろ? ならたぶん、そういう事じゃないか?』

    にとり「だね……」

    でも、だからどうした、という感じだ。だからって、あの密室から霧のように消えてしまえるようになるわけじゃない。それとも複数いれば、それが可能になるとでも?

    にとり「(複数……?)」

    いや、それは何かおかしいぞ……? 思い出せ。あの時慧音はなんと言っていた?


    慧音【おい、なんだお前はいきなり。どこから入ってきた!】


    そう『お前は』。単数だ。
    相手が複数いるというのにこれはおかしい。だが、状況や形跡から考えれば少なくとも二人はあの場にいた事になる。

    にとり「(って事は、慧音を掴んだのは死亡確認の際に鈴仙が触ったとしか……)」

    確認のために、跡が残るくらい強く? どうしてそんな必要が?
    そんな必要があるとは思えない。なら、やはり銃声のしたあの時しかありえない。でも、慧音の発言を考えれば、その時の相手は一人。けど、慧音は掴まれた跡があり、銃は中距離から撃たれたもの。
    ……おかしい。ひとつひとつ見ていけば、何ら不思議な事はない。でも、それらを繋ぎ合わせようとすると、途端に噛み合わなくなってしまう。
    だけど、これを一つに纏められる状況って、本当に無いのか? 私は本当に、どんな可能性も当てはめて考えてみているか?

    本当に、何の先入観も持たず、全てを公正に見る事ができているのだろうか……?

    にとり「(……!?)」

    にとり「(こ、これって、もしかして、もしかすると……まさか!)」

    全ての先入観を取っ払い、全ての事象を都合よく繋ぎ合わせてみようとした結果……全ての点が線となって繋がった気がした。

    にとり「いや、ううん、だけどそれは……ありえない、それはありえない……」

    魔理沙『ん、どうした? 何かわかったのか?』

    私のこの推理が正しければ、犯人は……
    違う……そんなはずはない……けど、これなら密室も破れるし殺害方法も理解できる……全ての不可解な出来事を、説明する事ができる……
    レミリア殺害も慧音殺害も、鍵を上着のポケットに入れる事も、密室と思われたこの状況を作りだすことも、全部、全部……

    にとり「……魔理沙」

    魔理沙『なんだ?』

    にとり「分厚いマット、用意して外で待っててくれないかな」

    魔理沙『は? なんだそれ、いったい何を……』

    魔理沙の返事を待たず、通話を終了する。
    電話を持った腕をだらりとたらし、走るのを止め身体を壁にあずける。

    にとり「はは、こりゃねーよ」

    もし、もしも、私のこの推理が正しいとすると、確かに全ての辻褄が合ってしまう。
    動機の方はさっぱりわからないけど、まさか、密室トリックを解けば第五第六の事件全ての謎が解けるだなんて思いもしなかった。
    他の事件に関しては正直わからない事だらけだけど……少なくともこの事件だけは、解決に向かわせることができる。

    にとり「……行きますか」

    でも、これは可能性でしかない。一つの可能性であって、それ以上でもそれ以下でもない。
    ただ、この可能性が真実となったとき……私は……

    にとり「慧音さんのいた部屋……」

    第五の事件現場前。こいしと共にここに座り、見張りをしていた場所。
    この中に、この部屋の中に『彼女』はいるだろう。少なくとも、慧音を殺した犯人が。そしてもしかして、一連の連続殺人事件の犯人が。





    我らが特別対策班の班長、八雲紫が。






    ドアを開ける。
    この部屋はまだ片付けられておらず、事件当時の様子が幾らか窺えた。
    電気は……ついている。それは、この部屋に誰かがいることを意味している。

    にとり「班長……」

    果たして、彼女はそこにいた。
    静かに窓の外を眺めているようで、ドアが開く音がしてもこちらを振り向こうとする様子すらない。
    彼女は私の声に気づいているのだろうか。気づいた上で、声に反応することすらせずにじっとしているのだろうか。

    にとり「班長」

    もう一度、今度はやや強めの声色で話しかける。
    班長はふっとため息を吐いて、ようやくこちらを見てくれた。
    その表情は、どこか物悲しいものだった。まるで、私の推理を見透かしているように。私が事件の謎を解き明かそうとしているのを知っているように。

    紫「何か進展があったかしら?」

    にとり「ありましたよ……ううん、少なくともここで起きた事件の犯人が、わかりました」

    紫「……そう」

    班長は表情を一切変えない。
    もしかしたら、こうなる事を予想していたのかもしれない。わかっていて、それでこうして……

    にとり「単刀直入に言います……」

    私は息を大きく吸い込んだ。

    にとり「自首してください」

    紫「……気づいてしまったのね」

    班長は、私の言葉を否定しなかった。
    自分で立てた推理とはいえ、本人の口からそう言われると胸が痛む。
    私は歯を食いしばり、言葉を続ける。

    にとり「正直、動機はわからないしはっきりした証拠があるわけでもありません。ただ……」

    紫「ただ?」

    にとり「この部屋で起きた事件……これが、完璧すぎたんです」

    紫「そうね。不可解な事だらけの事件だったわ」

    にとり「完璧な密室。私たちがすぐ近くにいながらの犯行、そして霧と消えた犯人……でも、違ったんです。私達は大きな思い違いをしていました」




    図書館には誰もいなかった。だからにとりが走っている屋敷の方に、諏訪子もやってきた。
    屋敷の二階、ちょうど食堂の辺りを通りかかった時、中に人影が見えた。

    警戒しながら足音をしのばせ、部屋に入る。そこには、見知った人物の姿があった。

    諏訪子「君は確か……」

    食堂の奥の方で倒れている少女……因幡てゐだ。どうして彼女がここにいるのだろうか。
    とりあえず声をかけようと近づく諏訪子。

    声「近づいたらいけません」

    諏訪子「ん?」

    てゐのいる辺りまで来た所で、声をかけられる。
    どこにいたのだろう、振り向けば鈴仙が姿を現していた。

    鈴仙「彼女は……犯人です」

    諏訪子「なんだって!?」

    鈴仙「一連の事件の犯人、それが彼女だったんです」

    鈴仙はもう一度強めの口調でそう言った。

    諏訪子「でも、倒れてるみたいだけど……」

    鈴仙「襲われたので、ちょっと……」

    もみ合いになったのか抵抗して気絶させてしまったと、そういう事らしい。

    鈴仙「警察呼びますね」

    諏訪子「あ、今ちょうど警察の人が来てるから、彼女も呼ぶね」

    鈴仙「はい」

    鈴仙は携帯を耳にあて、電話を始めた。彼女は、窓の外の方を向いている。つまりは、諏訪子に背を向けているというわけだ。

    諏訪子「…………」

    諏訪子は電話を手にする事無く、鈴仙の姿をじっと見ていた。そして、ゆっくりと彼女に近づいていく……

    諏訪子「っ!」

    鈴仙「な、なにを!?」

    諏訪子は鈴仙を後ろから羽交い絞めにして捕まえる。当然鈴仙は抵抗するが、諏訪子はその見た目からは想像もつかないくらい強い力で彼女の動きを封じた。

    諏訪子「下手な芝居はやめなよ。もう、わかってるんだからさ」

    鈴仙「何の話です!」

    諏訪子「あんたなんでしょ? 一連の事件の犯人は」

    鈴仙「!?」

    抵抗していた鈴仙が、その言葉に大人しくなる。

    鈴仙「何を根拠にそんな事を」

    諏訪子「地下室だよ」

    鈴仙「地下室……?」

    諏訪子「町のはずれにある小屋、そこに地下への通路があるね。あの通路が、八意病院の地下と繋がっていた」

    鈴仙「それで、どうして私が犯人って事になるわけ?」

    諏訪子「あの地下施設は研究施設なんだよね? それも実験を主に執り行う……人体実験のね」

    鈴仙「…………」

    諏訪子「あんたは病院で病理医として働きながら、地下で研究を進めていた。誘拐してきた子供たちの人体を基盤に、盗んできた動物達の細胞を植え込む、いわゆる人体改造計画」

    諏訪子「まんまと騙されたよ。誘拐事件は、将来の犯罪者を育てるための計画だと思っていた。それも、蓬莱を失脚させる材料なのかと踏んでいた。でも、それは事件を解こうとする者にそう思わせるっていう、君達の思惑だったわけだ」

    鈴仙「作り話にしては面白いわね」

    諏訪子「まだ惚けるのか。いいよ、なら知ってること全部話すわ」

    諏訪子「地下の実験室は酷いもんだった。何度も実験を繰り返してきたんだろうね、それはもう人間の所業とは思えない程残忍で残虐な実験の跡が見える部屋だったよ」

    諏訪子「様子を見るに、実験はいまだ成功していないって所かな」

    鈴仙「誰か知らないけど、その研究者も報われないわね」

    諏訪子「研究が思うように進まない事に焦った君は、もっと踏み込んだ実験を行う事にした。今までは細胞移植のみにとどめていた実験から、生態系に関わる部分までを移植し始めた。移植と言うより、組み込んだという方が正しいのかな?」

    諏訪子「まぁ適合しないと意味がないから、この実験も結局一度しか行われなかったみたいだけど」

    鈴仙「移植の絶対条件だものね、適合っていうのは」

    諏訪子「みたいだね。これ、全部地下にあった資料に書いてたよ」

    鈴仙「そうなの。いち病理医の私にはわからない話だわ」

    諏訪子「確かに、それら資料に君が関わった証拠は何も書かれていない。まぁ資料に書いてあったとしても、こんなものはいくらでも偽装できるからね」

    鈴仙「そうね。というか、あなたの言う実験を行っていたのが、そこで寝ている因幡てゐなのよ。さっきここで問い詰めたら白状したわ」

    諏訪子「そう来るか。まぁ彼女が無関係じゃないって事はわかってるけどさ」

    諏訪子「因幡てゐは主に誘拐担当だった。子供やペットを誘拐してきて実験材料にあてがう、それが彼女の役目」

    諏訪子「それともう一つ。奴隷売買の市場も握ってたみたいだね、資金繰りの為に。遠くの地で孤児を買った家から証言が取れたよ」

    鈴仙「酷いことするのね」

    諏訪子「この町は犯罪が多い。それもそのはず、大小あれど犯罪に少なからず協力している人物が多いからね」

    諏訪子「鍵山夫妻や古明地夫妻は多少の事件は黙認しているし、町の地区長達もちょっとした不正なら見過ごしたりしてやってきてる」

    鈴仙「だから鍵山の娘や古明地の娘は殺されたと?」

    諏訪子「どうだろうね。鍵山の娘さんは私にはわからないけど、古明地の娘さんならわかるよ。彼女は病院に来た際、あの地下に来てしまったんだ。誰にも見つからずに上に戻ったらしいけど、君はそれを見てたんだろ?」

    鈴仙「何言ってるのかさっぱりわからないわ」

    諏訪子「まぁ、誰がとはかかれてなかったけど、顛末を記した資料が見つかってるからね。何か見られたと思って口封じ。第四のフランドールは、実験中に逃げ出したからやむなく、といったところかな。暫くは監禁していたけど、実験が中途半端な段階で逃げられたから再開もできず、用途に困って結局殺したと」

    諏訪子「犯行に使われた凶器など、諸々未解決な部分は共犯者がうまく操作したんだよね?」

    鈴仙「いつまで妄想を垂れ流しているわけ? 神主は辞めて、小説家にでもなったら?」

    諏訪子「ここまで話して全く動揺しないってのもすごいね。まぁ、あんな非人道的な実験してるくらいだし、こんなんじゃ動じもしないか」

    諏訪子「だけどね、これは私の想像なんかじゃない。それをこれから教えてあげる」

    鈴仙「…………」




    にとり「私は沢山の事を思い違いしていたんです。この部屋には隠し部屋も無ければ隠し通路も存在しない。それどころか、私たち以外の誰もドア以外のところから侵入していない」

    紫「そうね」

    にとり「結論から言いますよ。『密室殺人』、これが、一番の思い違いです」

    少しずつ事件を紐解いていく。私の推理を、犯人と思われる班長めがけてぶつけていく。
    班長は何をするでもなく、静かに私の話を聞いてくれている。

    にとり「まずレミリアさんの件ですが、犯人は彼女を刺殺してから部屋に鍵をかけた。そして慧音さんを殺しに行ったんです」

    紫「でも、死亡推定時刻は同じくらいじゃなかったかしら?」

    にとり「ええ、刺されてすぐは死に至りませんから。一部動脈をえぐられてましたが、即死ではなく失血死。死に至るには、犯行からやや時間が空いたはずです。刺されてから少しして、彼女は息絶えたんです。だから死亡推定時刻が同じくらいになった」

    紫「その間にダイングメッセージでも残されたかもしれないわよ?」

    にとり「犯人は覆面をしていたなどしたでしょうから、誰だかわからなかったと思います。そもそも彼女が町の住民の、要人達の顔と名前すらはっきり知ってるとも思えませんし」

    紫「確かに。生粋の箱入りお嬢様だったようだし、町のことなんて何ひとつ知らなかったでしょうね」

    にとり「ええ。しかもその当時、彼女は最愛の妹を失ったショックで常に失意にありました」

    にとり「……こいしは、姉からの贈り物である懐中時計を握り締めて死んでいました。たぶん、レミリアさんも同じです。最期の時間を、妹との走馬灯に使ったんだと思います」

    紫「そう……」

    にとり「次に、慧音さんの部屋の密室です。慧音さんが侵入者を見つけ騒いだとき、私たちは部屋の前にいました。そして直後に銃声。私たちが部屋に入った頃には、彼女はベッドの上で倒れていた」

    紫「犯人は部屋からどうやって逃走したのかしら?」

    にとり「いえ、誰も部屋から逃げてはいませんよ。それどころか、最初から誰も部屋に入ってなんかいないんです」

    紫「なら、慧音は自殺だっていうの?」

    にとり「それも違います。というかそもそも、あの時点で慧音さんは生きていました。銃声が鳴り響いた後も、ね」

    紫「……ふうん」

    にとり「簡潔に話します。まず犯人は慧音さんに予め、『犯人をあぶりだしたいから、時間が来たら誰かが侵入してきたと騒いでくれ。そして銃声がしたら、この血のりを使って倒れてくれ』と伝えておきました」

    にとり「血のりは実際に本人の血でしょう。でないと、後から調べた時おかしなことになりますからね。以前から少しずつ献血などと称して集めていたんじゃないでしょうか」

    紫「随分と前から計画されていたのね」

    にとり「みたいですね。とにかく、私たちが部屋に入った時、慧音さんは生きていた。あれはただの狂言だったんですよ」

    紫「でも、彼女は確かに死んでいたわよ」

    にとり「はい。でもそれは、魔理沙さんたちが来てからの診断です。犯人は私たちがレミリアさんの部屋へ移動する時に、サイレンサーつきの銃で慧音さんを手早く射殺したんです」

    にとり「レミリアさんの部屋の鍵はこの時上着のポケットに入れたのでしょう。これで、不可能犯罪を思わせる密室の完成です」

    紫「よくできた話だけど、それだけ? これじゃあただの妄想でしかないわよ?」

    にとり「いえ……真下の部屋、つまり鈴仙さんの部屋の天井から硝煙反応が出てます。あの時の銃声は、そこで空砲を撃ったのでしょう。できるだけ慧音さんの部屋で音がしたと思わせるため天井に近いところで撃ったんだと思います。元々硝煙にまみれていた鈴仙さんなら、いくら撃っても変わりませんからね」

    にとり「あと、慧音さんはこめかみの辺りから撃たれている。下の部屋から撃つには難しいし、この狭い部屋でわざわざこめかみを撃つなんて少し不自然です。自殺に見せかけているわけでもないのに」

    にとり「更に言えば、慧音さんの腕には強く掴まれた跡がありました。つまり、誰かが腕を掴んで、別の誰かが銃を撃ったと考えられます」

    紫「犯人は複数いたってことね」

    にとり「はい。でも、おかしいんです。慧音さんが部屋で犯人と遭遇した時に彼女は『誰だお前は』と、犯人は一人であるような発言をされています。しかも、慧音さんは至近距離で撃たれたわけじゃないとわかっています」

    にとり「つまり、これらの条件を満たせるのは班長と鈴仙さんが慧音さんに近寄っている時だけ……その時でしかありえないんです。まさか、死亡診断するのに腕を強く掴む必要なんてありませんし」

    にとり「でも、この犯行は、私たちが部屋に入った時に慧音さんが生きていると気づかれてはいけない。周りを何とか騙さないといけない。なら、少なくとも倒れている慧音さんの元へ犯人以外の誰かが行ったらバレてしまう……」

    にとり「だから班長は最初に彼女の元へ駆け寄り、私に部屋を探させた。他の人たちを見張る役も当然必要になりますから、そこはこいしを利用した。そして私が一通り部屋を探した後、一行はレミリアさんを見に行こうという話になる。そう話し始めたのは班長でしたね」

    紫「そうね」

    にとり「そうして私がパチュリーさんを見張りつつ、こいしが他の面々を見張る。そして班長が鈴仙を見張るという名目で最後尾につく……この一瞬、本当にこの一瞬で犯行が行われたんです」

    にとり「班長がパチュリーさんと話している間は鈴仙さんが部屋で準備を進め、私やこいしが廊下を歩き始めた頃に部屋へ戻る。そしてたぶん、班長が慧音さんを掴んで固定し、鈴仙さんが銃殺した……こめかみを撃ったのは、正面から銃を向ければいくらなんでも慧音さんは騒ぐから、でしょうか。どちらにしろ一瞬の出来事だったでしょうけど」

    にとり「班長が慧音さんの腕を掴んだその瞬間、鈴仙さんは射殺を行った……彼女なら、造作も無い事だと思います」

    にとり「そして手早く弾を回収し、私たちの後を追いかけた。多少遅れても、遺体に処置をしていたとか適当に理由はつけられます。他の誰でもない、班長が見張っている、という事実だけで誰も何も疑わなくなる」

    紫「……よくできた話ね」

    にとり「勿論、賭けではあったと思います。私が無理にでも慧音さんのところへ駆け寄ったかもしれないし、慧音さんがくしゃみの一つでもしてしまうかもしれない……」

    紫「杜撰な計画ね」

    にとり「それも仕方ありません。状況が状況でしたから。綿密に計画はしてたのでしょうけど、慧音さんに協力を申し出て受け入れられるかどうかまではわかりませんでしたし」

    紫「そうね」

    にとり「それで……更には凶器。凶器は班長が持っていました。でも私たちは身分を信用されているため、簡単な事情聴取しかされなかった。あの状況で凶器を隠し通す事ができたのは、私か班長しかいません。これは、他の事件に関しても同じ。不可解な部分に関しては、あなたが情報を操作していたから、私や先輩に何も情報が回ってこなかったんです……」

    にとり「ともあれ、これらを全てクリアする事ができるのは、班長と鈴仙さん、あなたたちしかいないんです」

    紫「そう。なかなか面白い推理だけど、甘いわね。確実な証拠も何も無いなら、あなたのただの妄言で終わるわよ」

    にとり「はい、全ては私の、ううん、私たちの推理です……だから私にあなたを逮捕する事はできない。だから、自首して欲しいんです」

    紫「ふふ、むちゃくちゃね」

    にとり「はい、自分でもそう思います」

    二人して笑いあう。
    けど、私にはなんとなくわかる。班長はきっと、私の推理を否定しない。きっと彼女は、私に言い逃れをして立ち去る事なんてしない。
    おそらく彼女は、全てを終わらせようと思ってここへきたのだ。
    事件は全て予言されていたようだった。それは、予告殺人とも取れる。つまり、何らかの動機のもと殺害する人物は最初から決まっていたということ。
    そして今、もう彼女に、彼女達に殺すべき人物はおそらくいない。犯行は終わったのだ。

    紫「さすが、あの子が見込んだだけあるわね。ただの不良娘だったあなたも、ここまで成長していたか……」

    にとり「……認めてくださるんですね?」

    紫「ええ、認めるわ。私が、一連の事件の犯人よ」

    ずきりと心が痛んだ。
    いつも尊敬していた先輩と同じくらい尊敬していた人が、自分の追っている事件の犯人だったなんて……今更ながらに、じわじわとやりきれない思いが募ってくる。

    にとり「でも、どうして……」

    紫「……私はね、親を殺されたのよ」

    にとり「親を……?」

    紫「ええ。私が幼い頃にね。私、昔はこの町に住んでいたの」

    にとり「そうだったんですか」

    紫「この町のはずれにある丘の上に家があってね、両親は町でお店を構えて仕事してた」

    紫「幸せな生活だったわ。贅沢はできなかったけど、あったかい家庭で、いつも笑顔が絶えなかった……」

    紫「けど、それにも終わりが来たの。両親は身に覚えの無い罪を着せられ、犯罪者扱いされ、村八分にされた……そのせいで、両親は自殺してしまったの」

    にとり「そうだったんですか……」

    それを話す班長はとても悲しい目をしていた。
    冤罪ってやつか……どういう状況だったのかはわからないけど、きっと周囲がでっち上げられた偽りの事実を真に受けて非難したに違いない。
    少しでも状況を判断できる人間がいれば本来こういう事は起きないはずなんだけど……人間の悲しいところで、こういうのは一度起きてしまうと歯止めがきかない。いわゆる『そういう流れ』ができてしまう。
    誰も彼も壊れた機械みたいに同じように『流れ』に乗ってしまい、真実を知ろうとしない。表面だけで判断して、全てを否定してしまう。

    図書館で定例会があった後の事を思い出す。
    ああいう場面を見て班長が熱くなるのは、そうか、昔それで辛い思いをしたからなんだ……

    にとり「あなたが殺した人は、その関係者だったって事ですか?」

    紫「鍵山夫妻はね。あいつらが元凶だったって、調べてわかったわ。あいつらは私の両親を、自分達がのし上がるための生贄にしたのよ」

    にとり「生贄に……で、でも! 殺されたのは当人達じゃなく、娘さんだった……それは赦されない事じゃないですかっ!!」

    紫「こんな事を言っても信じてもらえないだろうけど、殺すつもりはなかったのよ」

    紫「確かに鍵山夫妻にずっと恨みは抱いていたし、できる事なら殺してやりたかった……でも、できなかった。だから警察になって彼らの不正を全て暴いてやろうと思った」

    紫「でも、その途中でね、娘さんと口論になったのよ。その時に……」

    にとり「なるほど……」

    もみ合った時に突き飛ばすなどしてしまった際に、頭を強く打ち付けさせてしまったりしたのか……

    にとり「でも、猟奇的に殺したのはどうしてですか? あれはどう見ても事故で死んでしまった風ではなかったはずです」

    紫「その部分に関しては、正直私は正確にはわからないのよ。鍵山の娘さんの殺害は当初の計画になかったものだから」

    にとり「あれは班長がしたわけじゃないと?」

    紫「ええ。そう処理する事にしたと後から聞いたの」

    にとり「……どういう状況だったんです?」

    紫「私が……彼女を殺してしまった直後、鈴仙が現れたわ。今にして思えば、私の事をどこかで見かけて後をつけていたのかも。信じられないくらい都合のいいタイミングで現れて、とても冷静にそれからの提案を私にしてきたから……」

    紫「きっと私の事は調べてあったのね、彼女は私が持つ恨み辛みを知ってて、一連の殺人事件の計画を私に持ちかけてきたわ。今回のこれを、一連の事件の発端としようって。それで、お互いの無念や恨みを晴らそうって……」

    紫「あとは……ご存知の通り。私たちは幾つも事件を起こし、一連の事件を作り上げてしまった……事件の後処理はほとんど彼女が行ったから、実は事件について私もあまり知らなくてね。猟奇殺人を選んだ本当の理由は、私にはわからないわ」

    紫「だけど、私も同罪。そこは、何の言い訳もするつもりはないわ」

    にとり「……最初の時点で、自首は考えなかったんですか」

    紫「しようとも考えたわ。でも、一周回ってしまったの。私の中の怨嗟が渦巻いてきて、じわじわと私の全てを染め上げていって……一つ事を起こしてしまったのなら、残ってるやつらをどうにかしなきゃって。もう彼女の計画に、自分自身の怨嗟に抗えなかったの……」

    にとり「古明地夫妻もその一人……」

    紫「鈴仙は、そうだったみたいね。私が殺したのは、鍵山の娘とレミリアとパチュリーの三人だけ。私は古明地さとりには何の感情も抱いていなかったし」

    にとり「レミリアさんたち……?」

    紫「スカーレット一家はね、私に何の断りもなくあの場所に洋館を建てた。あそこには私の昔の家と、両親のお墓があったのよ。それを潰したの」

    にとり「それはまぁ、確かに酷いですけど、だからって殺す事は……」

    紫「あなたにはわからないでしょうね。墓参りに行った時、その土地の視察に来ていたレミリアが、そこにあった両親の墓石を蹴っ飛ばしていたのを見て私がどんな思いを抱いたか……あの場で殺そうとすら思ったわ」

    にとり「そ、そんな事したんですか……」

    紫「妹が死ぬまでは本当にただの我侭娘だったからね。思い通りにならないと、周りの事なんて何も考えない。自分の家を建てるのに気に入った場所にお墓があったって、邪魔だからって蹴っ飛ばすような餓鬼なのよ」

    にとり「パチュリーさんも同じ理由で……?」

    紫「あの人は……あの人に関しては、弁解する余地はないかもしれない」

    紫「彼女は政府の不正を正してしまうくらい真面目で力を持つ人だったわ。けど、彼女はレミリアに盲目的に恋していたから……彼女の言う事する事に関して、どんなに悪い事でも最後は赦してしまう。だから、レミリアを殺した後は脅威になると思ってしまった……」

    紫「ただ一つ弁解するとしたら、彼女に関しては相方も消したがってたから、私だけの思惑というわけじゃないわ……でもまぁ、ただの言い訳よ」

    にとり「……じゃあ残りは鈴仙さんが?」

    紫「そうね……古明地の娘やフランドール、慧音、こいしも彼女の仕業」

    にとり「先輩はっ!! 先輩は……どうなったんですか……」

    紫「……正直、鈴仙とは手を組んでいたけど、彼女が普段からどういう行動を取っていたかはわからないの。お互いがお互いの犯行をカバーし合う関係だったけど、彼女がどうやってさとりやフランドールを殺したか、アリスを消したかは……」

    にとり「そう、ですか……」

    くそ……やっと事件の真相がわかったのに、まだ先輩のところへは辿り着けないってわけか……
    でも、もうすぐだ。鈴仙に全てをはかせれば、全部わかる。それまでの辛抱だ。

    にとり「でも、何で手を組んだりなんてしたんです」

    紫「……どんなに強い人間でも、脆くなってしまう時があるの。そういう時って、甘言に惑わされちゃうものなのよ」

    にとり「班長だけは、そういう人じゃないと思ってました」

    紫「そう……私も人の子、ということね」

    誰にでも、弱ってしまうときはある。死にたくなることや、誰かを殺したくなることはある。
    不幸なんて人それぞれで、軽い不幸しか味わわない人もいれば、最低最悪の不幸に何度も見舞われる人だっている。
    けど、そういうのに負けちゃいけないんだ。
    軽い不幸しか味わったことのない人間と強い不幸を味わった人間を同じものさしではかるのは、本当なら間違ってる。けど、だからって犯罪を認めるわけにはいかない。
    理不尽とか不公平とか、世の中には沢山嫌と言うほど転がっている。私はそれらを一喝なんてできないし、自分だって人の事なんて言えない。
    けど、もうどうにもならないと思ったとき、こういう負の感情に負けてしまいそうになったとき……誰かが隣にいてくれたり、手を差し伸べたりしてくれたなら……犯罪なんて起きないのかもしれない。
    警察は悪い奴らを捕まえるだけじゃなく、こういう意味で市民の味方になれる人間であるべき……そう教えてくれたのが先輩であり、班長だった。
    こんなにも理想を語り実現しようとしている班長が、私と出会う前からそれに負けていたなんて……本当に、悔しい。

    紫「でも、もう終わりよ。最後の一人を始末すれば、私の復讐は終わる」

    にとり「最後って、まだ、誰か残って……っ!?」

    班長がゆっくりと右手を上げる。その手には拳銃が握られている。
    彼女はその銃を……自分のこめかみに押し付けた。

    にとり「は、班長、何を……」

    紫「これが最後の復讐よ」





    鈴仙「想像じゃないっていうけど、何の証拠もないんでしょう? なら、どうやってそれを信じろというの?」

    諏訪子「確かに、地下にあった資料をここへ持ってきたわけじゃないし、現段階では君を犯人だと特定できるものがここには何も無い」

    鈴仙「だったらやっぱり貴女の妄想でしかないじゃない。証拠は無い、根拠も無い、仮に私が犯人だとして、それで私がはいすみませんでしたってなると思う?」

    諏訪子「ねえ、私がどうして、こんなに詳しく地下の事を知ってると思う?」

    鈴仙「はぁ? そんなの、自分がもぐりこんで調べたんじゃ」

    諏訪子「輝夜に協力してもらったからだよ。まぁ、真相を聞いたのはついさっきだけどね。でも、成り上がりとはいえ、蓬莱会は表裏合わせてここら一帯を牛耳ってる存在。本腰入れて地下の調査を行って、無事でいられるだなんて思わないよね?」

    鈴仙「そんな馬鹿な! 蓬莱が地下の調査なんてするわけがない! 彼女達は早い段階で不介入を決め込んだはず……」

    諏訪子「まぁ、彼女のご両親は赦さないだろうね。最悪、蓬莱会の崩壊に繋がるかもしれない。今回の件は、完全に現頭首、蓬莱山輝夜の独断だから」

    鈴仙「なら、こんなことに協力なんてするはず……ま、まさかあんた……」

    諏訪子「この町の要人達は『審判』には逆らえない」

    この町はひとつの組織によって取りまとめられていた。ただ、それは武力や暴力による支配ではなく、町全体でひとつの組織のようなものとして機能させるための存在として、だった。
    だが、会社に監査が入るように、昔は西行寺に今は蓬莱に、それぞれ監視がつくことになっていた。
    会社でいう社長や部長の位置にいる彼女達が不正を行わないように、町の不利益になるような事を起こさないように。
    そのため、町で起きる良い事にも悪い事にも、西行寺や蓬莱は原則不介入を決め込む決まりがあった。警察が民事不介入を掲げるのと同じように。
    この監視における最高責任者は『審判』と呼ばれていた。そしてこの存在こそ、実質的な全組織のトップ。真の意味で、町を統治している人物。
    誰も『審判』には逆らえない。

    鈴仙「お、お前が……審判だったなんて……」

    諏訪子「ん? 私が審判だなんて言ってないよ? そうかもね、ってだけ」

    鈴仙「くっ……こんな所に誤算があるとは……」

    諏訪子「お、罪を認めるの?」

    鈴仙「おそらくとはいえ審判様にそこまで見抜かれてたんじゃ、ここで逃げおおせてももう私の計画は頓挫を余儀なくされるわ。だったら私はもう終わりよ」

    鈴仙は力を抜いてため息を吐いた。
    諏訪子は暫く様子を見ていたが、やがて彼女から手を離す。鈴仙は逃げる素振りも見せなかった。

    諏訪子「……私には細かい動機なんかはわからない。だから、あなたの気持ちは察せない」

    鈴仙「マッドサイエンティストの考える事なんて一般人にゃわからないわよ。ただ、でも……物凄く理不尽な理由で研究を阻害され続けてきた私には、もう研究への執念と邪魔する者への憎悪しか残ってないのよ……」

    鈴仙「元々両親はこの研究を人々のために行っていた……でもそれが不正なものだと決め付けられ、罪をでっち上げられ、殺された! おかげさまで、雑誌にまで取り上げられる事になったわ。姫海棠はたてだっけ? そいつも本当なら殺してやりたかったけど、世間を見返す計画の為には不要な殺しはひかえなきゃいけなかったし」

    諏訪子「……研究は君が引き継いだんだね。でも、人々のためを思ってならどうして」

    鈴仙「何か勘違いしているようだけど、私は今でも人々のために研究を行っているつもりよ? たとえそれが非人道的なものだとしても、何事にも犠牲はつきもの。現代医療だって、色んな犠牲……経験を積み重ねてここまできたんだから」

    諏訪子「理屈は、確かにわかるけど……」

    鈴仙「その理屈を通せるかどうかが、私たちとの違いって事。ま、理解してもらおうなんて思ってない。ただ、途中で諦めるわけにはいかなかった、それだけよ……あとは、貴女が推察したとおり。よくそこまで予想できたわね」

    諏訪子「……私もこの事件で辛い思いをしたからね」

    鈴仙「あ、そ」

    鈴仙は食堂の出入り口に向かって歩き始める。諏訪子もその後を歩く。
    近くにはにとりがいるし、もう少ししたら魔理沙も中へ入ってくるだろう。
    やっと事件は終わったんだ……そんな気持ちが諏訪子の中にも流れ込んでくる。

    諏訪子「あ、電話しとくか」

    きっとさっき鈴仙が警察に電話したというのは本当だろう。てゐに罪を着せるつもりだったようだし。
    ならばと諏訪子は今度こそ魔理沙に電話をしようと携帯に手を……

    声「きゃっ!」

    諏訪子「何が……さ、早苗!? どうしてここに……」

    ほんの僅かな時間だった。
    諏訪子が一瞬目を離した隙に、何故かここまでやってきていた早苗を鈴仙が捕まえていた。
    しかも、鈴仙の手には銃が握られている。

    鈴仙「動くんじゃないよ。こいつの頭をぶち抜かれたくなかったらね」

    諏訪子「私が神社を出たからって心配して後をつけてきたのか……ちゃんと言っておくべきだった!」

    鈴仙「あんたも運が悪いわねぇ。悪いけど、ここで研究を諦めるわけにはいかないのよ。あれは絶対成功させなければならない! この実験が成功すれば、この国の未来が変わるわ! 世界中にこの国が最も優れていると見せつけられるのよ!」

    諏訪子「馬鹿な真似はやめて! 早苗を離せ!」

    鈴仙「でも、あんたにバレたのは計算外だったわ。紫も抱きこんでるし、警察や特別対策班だか言うのの対策はしてあるんだけど……まさか神社の神主様が、審判様が出しゃばるとはね」

    早苗「す、諏訪子先輩……」

    鈴仙「抵抗するんじゃないよ。神主様も、ヘタに動いたら本当にこいつ殺すから」

    鈴仙は銃を早苗のこめかみに押し付けている。この状態で外まで出て逃げるつもりだろうか。
    いや、彼女はこの場をしのいでまだ研究を続ける気でいる。となれば、自分に罪が降りかからない手立てを考えているのかもしれない。

    諏訪子「そんな事をしたって研究再開はできないよ。隠れてやったって、いずれ捕まる」

    鈴仙「私が犯人っていうのを知っているのは、あんたともう一人の警察だけでしょ? なら、いくら審判様といえどもあんたらの口さえ封じれば問題ないわよねぇ」

    諏訪子「何を……」

    鈴仙「どうするかって? 教えるわけないでしょ。でも私にはあるのよ、あんたらの口を封じてなおかつ私が疑われない、完璧な策が」

    諏訪子「くっ……」

    早苗「諏訪子、先輩……私なら、大丈夫ですから……この人を、捕まえて」

    諏訪子「早苗!」

    鈴仙「早苗……んー? なんかどこかで見た事あると思ったら……こいつ、あれね。役に立ちそうにないから施設に投げられたっていう餓鬼ね」

    鈴仙「頭が弱い子だったから捨てたらしいんだけど、まさかここまで大きくなってるとはねぇ。当時は私も幼かったし、なんだかちょっと感慨深いわ」

    諏訪子「やはり親の代から誘拐は行われていたのか……」

    鈴仙「そりゃそうっしょ。じゃないとあたしらの年齢に合わないし。ま、正確には今とやり方は結構違うんだけどさ」

    彼女の両親もやはり、誘拐してきた人間を主に使って人体実験を行っていたようだ。地下で見つかった資料には古いものも存在していたらしいが、読んでいけばそのあたりの事も書いてあるだろう。
    早苗は鈴仙の両親の実験材料としてさらわれた……それが今、娘の鈴仙の手にかかろうとしている。二代にわたって早苗を苦しめているのだ。

    鈴仙「さ、諏訪子様。そこにあるロープでその辺の柱とあんたの手足を結びなさいな。自分でやるのは難しいかな? まぁとにかく、すぐには動けないようにすれば何でもいいわ。少しでも加減や細工をしたら、こいつの頭ぶっ飛ばすから」

    諏訪子「言うとおりにするから、早苗は離してあげて」

    鈴仙「まずは行動で示すのね。話はそれからよ」

    諏訪子「わかったよ……」

    鈴仙は更に強く銃を早苗に押し付ける。それを見せ付けられては、諏訪子は素直に言われたとおりやるしかなかった。
    諏訪子は落ちていたロープを手に取り、柱にくくりつけてから自分の左手を反対の手で結ぶ。同じようにもう一つのロープで柱と足を繋いだ。
    右手だけはフリーの状態だが、ヘタな事もできないので結び目はきちんと強く結んである。よって諏訪子が行動を起こそうとしても、すぐには動けない。

    鈴仙「これであんたは逃げられない。じゃ、この建物と一緒に死ぬんだね。さようなら、お疲れさん」

    諏訪子「話が違う!!」

    鈴仙「普通に考えて言った通りにするわけないじゃん。馬鹿じゃないの? そのまま死ねよ」

    早苗「だめ! 諏訪子先輩は助けてあげて! おねがい! おねがい!」

    鈴仙「黙れよ。お前は人質なんだよ、理解しろよ」

    早苗「だめ! だめ!」

    早苗を連れてこの場を去ろうとする鈴仙。だが、途端に早苗が、暴れているとまではいえないものの抵抗をし始めた。

    鈴仙「ちっ……そうだな、冥土の土産に教えておいてやるか。あんたのペットの事を。そしたら少しは黙るだろ」

    早苗「ぴーすけのこと……?」

    鈴仙「あぁ、そんな名前だったかしら。施設にいた頃、小汚い鳥を大事に大事に育ててたわよねぇ? あの子どうなったと思う?」

    早苗「どうにもなってない! ぴーすけはまだ生きてる!」

    何かのスイッチが入って記憶が戻ったのだろうか。早苗はぴーすけの事を思い出しているようだった。

    鈴仙「そりゃあんたの妄想の中での話ね。実際は、とうの昔に死んでるから」

    早苗「死んでない!」

    鈴仙「あんたがまだ子供の頃に死んだ……そう聞かされてるはずよ。でも、あれも微妙に事実じゃないの。厳密には、あんたの鳥は盗まれたのよ」

    早苗「盗まれてない! ぴーすけはおうちにいるもん!」

    鈴仙「さっきの話を聞いてたかは知らないけど、動物を人体実験に使ってるのよ。つまり、わかる? あんたの鳥は、実験に使われたの。生きたまま解体して、人間の子供に移植したのよ」

    鈴仙「ま、その子供は奇跡的に鳥と適合こそしたものの、記憶や感情を失った役立たずのゴミになったわ。だから処分したけど」

    早苗「そんなはずない、ぴーすけは生きてる、ううっ、死んでないもん、盗まれてないもん、今日も朝あいさつしてきたもん、ぐすっ……」

    鈴仙「ちっ、今度は泣き始めたよ、いい歳してもこれか……面倒なの人質にしちゃったな」

    早苗「ううっ、うあっ、ぴーすけぇ…ひぐっ、ぐすっ…ぴーすけ……ぴーすけーーー!!」

    鈴仙「ああもうなんでもいい、さっさと連れて逃げ……」

    その時、何かが廊下に姿を現した。
    小さな少女だった。
    ゆっくりと音も無く登場し、そしてじっと食堂の方を見ている。彼女は鈴仙を見ているのだろうか。いや、更に奥の方を見ているようにも見える。

    鈴仙「なんだよお前、どこから出てきた」

    ミスティア「……ごしゅじん」

    鈴仙「ご主人? なにこいつ……いや待て、こいつどこかで……あぁ、あんたもしかしてあの時捨てたできぞこないか。処分したはずなんだけど、何で生きてるわけ?」

    鈴仙は少し不思議そうにしていたが、すぐに答えに思い当たったようで、更に不快そうな顔をして言葉を続けた。

    鈴仙「こいつてゐになついてたし、まさかあいつ今まで……ちっ、あいつまで私の邪魔しやがるのか」

    ミスティア「……さなえ?」

    鈴仙「は? あぁそっか、こいつにあんたの鳥を組み込んだから、一応こいつも親ってわけだ。あはは、これは傑作ね! ほら見なよ、あんたが会いたがってるぴーすけだよこいつ。もっとも、中身だけ移植したから原形とどめてないけどね」

    早苗「っぐ…………っう、ぴー、すけ……?」

    少女は早苗を見ていた。さっきまで部屋の奥を眺めていたように。優しく暖かく、甘えるような目で。
    鈴仙の言葉など、全く耳に入ってもいないようだ。

    鈴仙「感動の再会は済んだかい? だったら邪魔だからそこをどけ! どかないなら強行突破してもいいのよ?」

    鈴仙が脅しをかける。だが、彼女は全く動じない。じっと早苗を見て柔らかな笑みを浮かべている。
    それを見て鈴仙は更に苛立ちを募らせる。表情がみるみる険しくなっていく。

    鈴仙「できぞこないが私の崇高な計画の邪魔をするなぁ!! 失敗作の癖に、何の役にも立たないゴミ屑の分際で……」

    ミスティア「いま、そっちに行きます」

    鈴仙「は? 何を……」

    一瞬の出来事だった。
    鈴仙は銃を早苗のこめかみにつきつけながら怒鳴っていた。早苗は強く掴まれながらも、現れた少女を見ていた。てゐは気絶したままで、諏訪子は成り行きを心配していた。

    ……その動きが人間の目に映っただろうか。

    突然現れた少女は突然消えたと思うと、次の瞬間には早苗を抱きかかえ食堂の奥に移動していた。

    鈴仙「…………は?」

    ミスティア「……さなえ」

    早苗「ぴーすけ……?」

    ミスティア「うん。ただいま」

    早苗「ぴーすけ!」

    抱き合う二人。
    愛するペットの死を受け入れられずその面影にずっと縋り続けてきた少女。
    大好きな主の下から連れ去られその身が引き裂かれる最期の瞬間まで懸命に鳴き続けた小鳥。
    この光景を言葉で表すとするならば、それは奇跡――――

    鈴仙「ば、馬鹿な、いったい何が……くっ! おのれ貴様らぁ!!」

    我にかえった鈴仙が銃を構え、その照準を純真な奇跡に定める。

    鈴仙「っあああっ!!」

    が、次の瞬間にはそれを落とし、反対の手で手の甲を押さえる羽目になった。
    彼女の手からは真っ赤な血が流れ出ている……何者かに攻撃を加えられたのは誰の目にも明らかだった。

    鈴仙「な、何が……まさか…狙撃!? い、いや、ありえない! ここは、この位置は、周りに高い建物なんて存在しない! あるとすれば、ずっと遠くにある山だけ。でもそんな所から狙撃できるやつなんかいるわけ……」

    鈴仙「遠くの……まさか、まさか、生きていたのか?…………あの女がっ!」



    幽々子「ふふっ、やった命中♪ ちょ~っと距離が遠かったけど、私の腕も衰えてないわね」

    幽々子「にしても祟り神様は人使いが荒いんだから。こんな所から犯人を殺さないように撃てだなんて、無茶すぎるわよ」

    幽々子「こんな形であなたと決着をつけることになるなんてちょっと残念だけど……悪く思わないでね、私のライバルさん」



    鈴仙「っ、ぐっ、がっ……」

    致命傷にならない程度の銃弾の雨が彼女に降り注ぐ。
    手先、腿、わき腹……銃器の扱いには自信を持つ鈴仙ですら難しいであろう距離からの狙撃であるにも関わらず、全ての銃弾が正確に彼女を撃ち抜いていた。

    鈴仙「まだだ、まだ…終わらない!」

    鈴仙は身体中を撃たれながらも、なんとか落とした銃の所へ走る。
    致命傷にこそならないが激痛で立ってもいられない程の傷であるはずなのに、彼女は執念で動く。それは、いかに彼女が強い信念で生きてきたかを物語っている。
    だがそれより先に、主と再会を果たしたミスティアが鈴仙の銃を拾い上げた。

    鈴仙「あ……」

    ミスティア「人を傷つける道具は直ちに破棄します」

    そして、そう言って彼女は片手で銃を粉々にしてしまった。
    瞬間、中に入っていた火薬が爆発する。こめられていた弾丸が彼女の手を貫通し、床に埋まる。
    それでもミスティアは表情一つ変える事無く、なんと、弾が貫通した部分を一瞬で再生させてしまった。

    鈴仙「ふぁ……」

    それを見て、ぺたんと地面に座り込んでしまう鈴仙。その表情には驚嘆ばかりか、恐怖すらにじみ出ているようだった。

    鈴仙「はは、あはは……なんてこった……あいつ、失敗作なんかじゃなかった……私の実験、ばっちり成功してるじゃん……お父さん、お母さん、私やったよ、やっちゃったよ……あは、あはははははは」

    もう、彼女には動く気力すらないようだった。
    ぼんやりと天井を見て、ぶつぶつと何かを呟いている。それこそ、壊れた機械のように。

    諏訪子「さて……起きてるんでしょ?」

    てゐ「……あ、バレた?」

    諏訪子「床の埃が動いていたからね」

    てゐ「ははぁ。あんたも探偵の素質あるよ」

    諏訪子「あはは…………ぴーすけ…ううん、彼女は、君が?」

    てゐ「うん。私は確かに彼女の協力者だった……でも、すぐに事の重大さに気づいたから……少しでも実験させないようにって、色々画策してたんだ」

    てゐ「奴隷市や施設送りも実験に使われるより良いと思ったし、研究から遠ざけるための納得できる理由にもなると思った。まぁ、だからって私の罪が消えるわけじゃないけどさ」

    てゐ「ミスティアが私の目を覚ましてくれたんだ。けど、私は彼女が実験に使われるのを止める事ができなかった……」

    諏訪子「捨てられた彼女を、どこかでかくまっていたんだね」

    てゐ「うん。殺せと言われたけど、できなかったから……まぁ、私が見てない間に結構あちこちうろついてたみたいだし、いつバレるか怖かったよ。事件現場にも行ったみたいだし……」

    諏訪子「まさか、現場に残されてた羽って……」

    てゐは『さあ?』と不適な笑みを浮かべると立ち上がって諏訪子のロープを解き、呆然としている鈴仙の前にやってくる。

    てゐ「鈴仙……私たちの実験は、確かに目的は崇高なものだと思うよ。いつか人々のためになる日がくるかもしれない。でも、そのためにやり方を間違っちゃいけなかったんだ」

    鈴仙「……あんたが影で裏切ってるのは前から知ってたよ」

    てゐ「違う、違うよ。私はただ、鈴仙にも気づいてほしかったんだ。もっと他に方法があるって事」

    てゐ「だから、罪を償おう。それで今度こそ、目的の為に頑張ろう。手段を間違わずにね」

    鈴仙「…………そうね」

    鈴仙とてゐは色んな話をし始めた。もしかしたら二人は、単なる研究仲間というだけでなく、親友なのかもしれない。
    狂気に塗れた挙句全てを失い呆然とした彼女も、てゐの言葉には耳を傾ける気があるようだった。

    諏訪子「二人にしてあげよっか」

    早苗「はい……」

    ミスティア「そうします」

    てゐもまた、ミスティアの親でもある。ミスティアをここまで育ててくれたのはてゐだし、誘拐されてからもミスティアはてゐにずっとよくしてもらっていた。
    けど、今のこの時だけは、ミスティアもてゐと鈴仙を二人だけにしてあげようと思った。感情を失ったはずのミスティアだが、どうしてかそうしたいと思ったのだ。
    彼女は少し名残惜しそうに二人を眺め、諏訪子のあとに続いて歩いた。






    にとり「銃をおろしてください、班長」

    紫「私はこんな自分も大嫌いなの。あの時泣くことしかできなかった私、恨みや殺意しか抱いてこれなかった私、結局自分の罪に負けた私……」

    にとり「銃をおろしてください!! それは、それだけはやっちゃいけない!!」

    紫「いいのよ。私は罪を償う事からも逃げるの。私が本当に復讐したいのは、自分自身だったのかもしれないわね」

    にとり「ふざけるな!! これ以上、これ以上罪を重ねて何になる!! あなたは、あんたは確かに最悪の犯罪者かもしれない。でも、でも……私や先輩に色んな事を教えてくれたじゃないか!! その時のあんたは何だったんだよ!!」

    紫「ふふ……私はもしかして、その頃から既に私じゃないのかもしれないわね」

    にとり「何を……」

    紫「本当の私はきっと、随分前に雷に打たれて死んだのよ。でも、もう一つ別の雷が沼に落ちて今の私を作り上げた……そういうことなのかもしれないわね」

    にとり「ワケのわからない事言わないでください! 私にとって班長は班長です! お願いですから、罪を償って、それでまた私たちに……」

    悔しい、悔しすぎる……理不尽な世の中も、班長の言動も、こんなことになってしまった運命も……
    どうして私は、大事な人を次々と失わなきゃいけないんだ……これが私の償いだっていうのか……
    こんな運命しか選べないのなら、贖罪なんてクソ食らえだ。ふざけるな、こんなの認めない、絶対に認めないっ!

    紫「こんな私の為に泣いてくれてありがとう。あなたは、あなただけは、強く生きるのよ」

    紫の指が動く。引き金がゆっくりと引かれていく。



    声「させるかあああああっ!!!」





    紫「なっ、きゃあああっ!!!」

    にとり「!?」

    突然班長が後方に吹っ飛んだ!?
    班長は壁にぶち当たってその場に倒れこむ。その衝撃で班長は銃を落とし、私はそれを即座に蹴っ飛ばした。

    にとり「あ、ああ……」

    そして私は、現れた人物に涙する。
    屑みたいだった私の人生を変えてくれた人。私を救い出して、私に道を示してくれた人。
    誰よりも尊敬する、私の大先輩。

    アリス「たく、班長程の人がそんなんでどうするのよ」

    にとり「せんぱいいいいいいいい!!」

    アリス「うわっ、きゃ、こらこら、急に抱きつかないで。私もまだ傷が癒えたわけじゃないんだから。普通に痛い!」

    にとり「先輩、生きてたんすね! 幻覚じゃないっすよね、別人じゃないっすよね!」

    アリス「私が私じゃなかったら誰なのよ。スワンプマンとでも?」

    にとり「ですよね! よかった、よかったよぉ……ふええ」

    アリス「あ、こら泣かないの。全く……」

    先輩、やっぱり生きてた!
    希望を捨てないでよかった。どこかで生きてるって信じててよかった!
    ふふ、やっぱ先輩はタダで死ぬような人間じゃない。なんてったって、私の尊敬する素敵な人なんだから。

    紫「いたた……」

    アリス「班長」

    紫「アリス……生きて、いたのね」

    アリス「これでも結構しぶといですから。まぁ、死の狭間を何度も行き来しましたけど」

    紫「鈴仙……最後はアリスに罪を着せるつもりだったのかしら」

    アリス「どうやらそうだったみたいです。けど、この様子だと全部終わったみたいですね」

    にとり「せ、先輩脱出してきたんですか?」

    アリス「ううん、助けてもらったのよ。蓬莱の会長さんに」

    にとり「輝夜さんに?」

    アリス「そ。何でも諏訪子の『お願い』で私が閉じ込められていた地下に突入してきたみたいでね~。騒がしいと思ったら、保護しにきてくれたってわけ」

    にとり「あの時のお願いはこういうことだったのか……」

    こういうことなら私にも話してくれたってよかったのに。サプライズのつもりだろうか、どこまでもくえない神主様だ。

    アリス「さ、班長。さっさと自首して、罪を償ってまた班長やってください。でないと私、ものすっごい怒りますから。本気で、100%で」

    にとり「ひっ」

    瞬間、先輩が『ものすごく怒った』時の事を思い出して身震いする。
    私が不良娘だったときに一度『ものすごく』怒られて、突っ張ってた当時の私でさえ酷く竦み上がったんだ。

    紫「ほんと……あなたたちには恐れ入るわ」

    にとり「班長……」

    紫「わかったわ。自首する。戻ってこれるかはわからないけど……」

    アリス「是が非でも戻ってきてください。無理そうなら、司法取引してでも戻しますから」

    紫「あなたも、知らない間に随分と怖ろしくなったわね」

    にとり「いやこれ前からっすよ」

    アリス「うるさい」

    ゴツン

    にとり「ぎゃっ」

    紫「ふふっ」

    三人から笑みがこぼれる。なんだか、本当に久しぶりに笑った気がした。


    ドォォォオオオン!!


    アリス「な、なに!?」

    突然大きな音がして建物が大きく揺れた。
    まさかとは思うけど、これは……

    にとり「うわわわ、なんすかなんすか! 爆発すか!?」

    紫「どうしてもう爆発が……」

    アリス「もう、ってどういうことですか? 何か知ってるんですか!?」

    紫「……この屋敷は爆破する予定だったの。私もろともね。鈴仙の計画にこの屋敷の破壊もあったから」

    にとり「ど、どうしてそういう事はやく言わないんすか!」

    紫「時限式の爆弾なんだけど、爆破は今日の深夜のはずだし、仕掛けてからは触らない事にしているはずなのよ。それに、二人とも起爆装置は持ってないし……」

    アリス「鈴仙が実は起爆装置を持っていて、押したって事は?」

    紫「どうかしら……その予定はなかったけど、今彼女が何をしているかはわからないわ」

    と、私の携帯が鳴った。こんなときに、とも思ったけど、そうだ、この状況を外にも伝えないと。

    にとり「もしもし」

    諏訪子「建物が倒壊する! こっちは何とかなったから、はやく逃げて!」

    にとり「こっちも何とかなったとこですよ。でも、どうして爆発なんて」

    諏訪子「わからないけど……とにかく早く出なきゃ!」

    にとり「ですね。こっちもすぐに行きます」

    電話を切る。細かな状況を伝えている時間はないけど、諏訪子達は逃げるようだし大丈夫か。

    アリス「急いでにとり! 急いで出ればまだ間に合うはず……」

    紫「ごめん、無理みたい……」

    アリス「ど、どうして!?」

    班長は眉をしかめ、右手を私たちに向けて突き出した。

    紫「鈴仙のやつ、念には念を入れていたのね……私の腕時計にも爆弾を仕掛けてたみたいよ。それも、このサイズにして結構な威力のものを」

    にとり「な、なんだって!?」

    班長の腕時計は一見して普通の腕時計のようだが、班長にはここに爆弾が仕掛けられているとわかるらしい。

    アリス「は、はずせないんですか!?」

    紫「きっちり固定されているわ。きっと無理にはずしてしまうとその時点で爆発する仕組みね」

    にとり「そんな……」

    紫「おそらく建物の爆弾と連動しているから、解除するにはまず起爆装置の方を何とかしてからじゃないと厳しいわね。でも、その時間は無いかもしれない」

    アリス「時間が無いって、そんな……」

    班長の時計を見る。デジタル時計だっただろう時刻を表示するはずのディスプレイには、私が見たときは10:32と表示されていた。
    そしてその時間はどんどん減っていっている……残り時間は10分32秒って事か!
    だとしたら、ここから急いで外に出たとしても爆発物処理班を待っている余裕なんてない……くそ!!

    紫「おそらくこの表示は起爆装置作動までの時間を示すもの……だから起爆装置を止めればこの時計も止まると思うけど、もう時間が無いわ。あなたたちだけでも逃げて」

    アリス「アホ言わないでください、絶対逃げませんから。にとり、起爆装置を何とかするわよ!」

    にとり「勿論っす! 班長、どこにあるんですか!」

    紫「もう、頑固な子たちね! もういいわ……起爆信号はメイン機からの発信のはずだから、あの時の鈴仙の部屋、ここの真下よ!」

    アリス「よし、急ぎましょ!」


    部屋を出て階段へ急ぐ。
    その間にも二回ほど爆弾が爆発し、建物は少しずつ崩れていく。廊下に瓦礫が落ちて道をふさぎ始めてるし、はやく行かないと起爆装置にすらたどり着けなくなるかもしれない。

    アリス「っ、足場が悪くなってきたわね……」

    にとり「こういうとこは任せてください! 昔廃屋とか走り回ってましたから」

    アリス「まさか不良経験が役に立つとはね。人生わからないわ」

    にとり「ほめられてると思っておきます……では、お先に!」

    とにかく早く起爆装置にたどり着かないと。状況は刻一刻、変わっていってるんだ!

    にとり「ここか……ち、厄介な事になってるな……」

    いち早く目的の部屋の前まで来れたはいいけど、ドアの前に大きな瓦礫が落ちてきていてドアを開けそうにない。
    勿論全力でどかしにかかるけど、間に合うかこれ……

    にとり「うおおおおお!」

    アリス「はぁ、はぁ、な、なにこれ」

    にとり「先輩、めっちゃ厄介な状況っす」

    アリス「見ればわかるわ。こっちから引っ張るわね」

    にとり「頼むっす」

    二人がかりで瓦礫を引っ張って、なんとかドアの前から引き剥がす。
    やっとこさひとつどかせたけど、こんな瓦礫がまだ何個もあるんだ。

    紫「装置は奥の壁に取り付けてあるの。ドアが開けば見えるはずよ」

    にとり「開いたら一目散に走ってきます」

    アリス「解除はどうすれば?」

    紫「キャンセルボタンを押せば当面は大丈夫だけど、配線を切って信号をそもそも送信できなくするのが確実ね」

    にとり「赤を切るか青を切るか、みたいなことになりませんか~?」

    紫「ただの発信装置だからそんなことにはならないわ。バッテリーも積み込んでないし、古い電化製品の電源引っこ抜くみたいなものよ」

    アリス「電化製品て」

    変な例えに笑いそうになるが、和んでる場合じゃない。

    アリス「後はこれだけね……ふんぬぬぬ」

    紫「私たちがどかすから、にとりはドアが開いたら隙間からすぐに入って頂戴っ」

    にとり「了解っす!」

    先輩と班長が懸命に最後の瓦礫をどかしにかかる。

    にとり「二人とも危ない!」

    アリス「きゃ!」

    紫「っ!」

    上から新たな瓦礫が降ってくるのを察知し、二人を後ろに引き剥がす。
    次の瞬間には瓦礫が落ちてきて、さっきまで二人がいた場所を埋めていた。

    紫「本格的に倒壊してきたわね……」

    アリス「ん、でも見て! ドアが壊れたわ!」

    更にドアがふさがれたかと思われたが、天は私たちに味方してくれたのだろうか、その衝撃でドアが壊れて部屋の中が見えた。
    この屋敷は頑丈にできていると聞いた気がするけど、流石に倒壊しかけたらドアも壊れるか。

    紫「え……そ、そんな……」

    アリス「どうしたん……」

    何とかなるかと思った矢先、班長が嫌な声を出す。
    先輩がその言葉に聞き返そうとするも、部屋の中を見て状況を理解し、言葉を失う。

    にとり「そんな、ここまできて……」

    ドアが壊れて中に入れると思ったが、それは叶わなかった。
    なぜなら、ドアが開いた向こう、部屋の中は既に瓦礫でいっぱいになっていて、起爆装置が設置されているであろう場所まで行けそうにないからだ。

    アリス「装置は……」

    紫「一応、見えてはいるわね……この、向こうよ」

    班長が瓦礫の隙間を指差す。私の目線くらいの高さから部屋の奥を見る事ができた。
    落ちてきた瓦礫のほんの僅かな隙間から、丁度起爆装置の正面が確認できる。班長の言っていた配線やキャンセルボタンもここから見えた。

    にとり「小人にでもなれってのかよ……くそ、くそ!」

    なんで、なんでだよ……ここまできて、ここで諦めろっていうのかよ……!

    紫「こんな小さな隙間しかあいてないなんて……」

    アリス「ううん、箒なんかを使えば届きません!?」

    紫「距離がありすぎるわ。それに、ボタンはケースの蓋をあけないといけないし、配線を狙うにしても箒なんかじゃ切れない……」

    アリス「ならもう瓦礫をどかすしか!」

    にとり「んぎぎぎ! やれるだけはやりますけど、上から次々降ってきたみたいでもうビクともしないっす……」

    どうやら私たちが部屋を出たすぐ後にそこが倒壊し、この階にまるまる落ちてきたようだった。
    ということはどれかの爆発は、私たちがいた部屋の近くで起きたということ。なるほど、鈴仙は本当に班長も始末する気だったんだ。

    にとり「動け、動けよおおお!!」

    アリス「せめて通り抜けできるスペースでもできれば……」

    紫「……もう、いいわよ、二人とも」

    アリス「よくない! どうして諦めるんですか!」

    にとり「そうっすよ! なんとか、まだ何とかできるかもしれないのに!」

    紫「そうね、何とかなるかもしれない。けど、この状況、最善はあなたたちを逃がす事だわ。低確率で三人助かるより、確実に二人助かる方が良いに決まってる」

    アリス「最善は三人で帰ることです。他は最低以下です、ありえません」

    にとり「最悪は三人が死ぬ事っすけど、一人でも欠けたらそれだって最悪っすから!」

    紫「ありがとう。だけど、聞きなさい。班長としての命令よ。勿論私は最後まで足掻くから、あなたたちは……」

    アリス「だったら私は班を抜けます。そうすればもうあなたの部下じゃなくなる。命令も聞く必要がないわ」

    にとり「おっいいっすねそれ。んじゃ私も」

    紫「お願いだから、お願いだからあなたたちは先に逃げて」

    にとり「急に不良の血が騒いできちゃったぞーっと」

    アリス「あら、それなら私がすぐ隣で矯正してあげないとね」

    紫「誰が見てももう無理ってわかるでしょ! 瓦礫を動かすこともできない、こんな隙間じゃ通せる物も無い、どうしようもないのよ!」

    確かに状況は詰んでるかもしれない……けど、だからって諦められるわけない!
    何か、何か方法があるはずだ! 策が、解決策が、この状況を打開するやり方が、何か!

    コトン

    アリス「ん……何か落ちたわ」

    にとり「これは……」

    それは私が持っていた木箱だった。
    あいつが残してくれた形見。私にくれるはずだったであろう、ダーツの……

    にとり「これだ!!」

    アリス「な、何か方法が浮かんだの!?」

    にとり「先輩……これ、ダーツの矢が入ってるんです。一本だけですけど、これならこの隙間を通して装置までたどり着かせる事ができます」

    紫「ダーツの矢って……まさかあなた、それを投げて向こうに届かせようっていうの? 無理よ、そんなの!」

    にとり「やってみなけりゃわかりません。無理かもしれませんけど、やらないよりマシです」

    木箱から矢を取り出し、手に持つ。
    この局面でこの展開……もしかしたら、このチャンスはこいしが私にくれた奇跡なのかもしれない。

    アリス「にとり、投げたことあるの?」

    にとり「ぜんぜん……班長か先輩は……」

    二人とも悔しそうな表情を浮かべて首を横に振る。

    紫「でも、わかったわ。あなたを信じる。ただし、これでダメだったら、二人は逃げなさい。いいわね?」

    私も先輩も頷かなかった。
    けど、もう時間が無い事はわかっていた。班長の言う通り、これで失敗したらもう他に方法を考える余裕も無いだろう。
    これが、この投擲に全てがかかっている。

    にとり「……っ」

    矢を持って瓦礫の隙間を見据える。
    けど、そもそも持ち方も投げ方も全くわからない。足場だって悪いし、まっすぐ飛ぶ保障は全くないし、何よりここから投げて隙間にすら入らないかもしれない。
    隙間に入る前にはじかれれば投げなおせるが、隙間に入ってしまえばもう失敗は赦されない。手の届かない所で落ちてしまえば、この策もおしまいだ。
    手が震える。息が整わない。
    こんなことならきちんと習っておけばよかった。
    ダーツなんてこの先楽しむことなんてないだろうと思って、教えるって言われたときも断ってしまった。
    私はなんて馬鹿なんだろう。折角こいしが奇跡をくれたのに、私はそれを生かすこともできない。それも、自分のせいで。
    昔からそうだった。不良娘になって馬鹿やってた頃だって、いつも私は自分の判断ミスで馬鹿を見てきた。
    その結果がこれだ。
    私は先輩に怒られて変わったと思っていた。けど、人間心の底はそう簡単に変わるもんじゃない。私は自分の悪い部分をいつまでも引きずってしまっていて、そのせいで結局なにもかもダメにしてしまう。
    私は本当に愚かで、屑で、救いようが無い人間なんだ。

    にとり「(こいし……)」

    けど、今はそれを嘆いている場合じゃない。是が非でもこれは成功させなければならない。
    何とか息を整える。
    立ち方とか投げ方とかさっぱりわからないけど、とりあえず目標を見据えて、気持ちの上では投げる所まではきた。
    あとは投げるだけ……手の震えはおさまらないし、投げようと思っても矢が手からなかなか離れない。

    にとり「(力を貸してくれよ……頼む、頼むよ……)」

    『グリップとスタンスにも種類があってね、自分に合うものを見つけるんだけど』

    にとり「え……?」

    足音が聞こえた。
    顔を上げた頃には、私の手から矢を掴む感覚が消えていた。

    にとり「え、あ、え……うそ、なんで……」

    私の視界に少女が映る。
    ダーツの矢を持って得意げに笑っている。

    こいし「ほら、探偵って何かひとつくらい特技無いとね?」

    そして生意気にも、私たちに向けてこう語った。

    にとり「こ、こっ、こいし!! なんで、死んじゃったはずじゃ……」

    こいし「話は後。まずはこの局面、バッチリ決めさせてもらうよ。ほら、どいたどいた!」

    にとり「え、あ、はい……」

    こいし「いやー、中々にあつい展開じゃないの。でもまぁ、ここから投げるなら相当な腕が必要だね。足場も状況も悪いから基礎も何もあったもんじゃない。でも私なら……」

    こいし「余裕」

    こいしが矢を持ち、構える。
    ほんの僅かに息を吐き、まぶたを閉じる。
    そして目を開き、次の瞬間……

    こいし「ふっ!!」

    こいしの手から矢が投げられる。
    矢は吸い寄せられるように隙間に入り、まるで瓦礫に神聖な物と認められ道を通されているように、そして、装置の配線が自ら切断される事を望むように……
    はっと気づいた時には、起爆装置の配線は見事にぷっつり、ダーツの矢に貫かれ切断されていた。

    アリス「んなアホな……」

    にとり「すごい……あ、あんた、まじすごい……すごいよ!」

    こいし「ふはは、これくらい名探偵なら当たり前なのだよ」

    偉そうに無い胸を張るこいし。だけどもう、あれよ。本当にこいつは偉い!
    この局面に登場して状況を覆すなんて、悔しいけど真の主人公はこいつなんじゃないの。

    紫「な、何なのいったい……ありえないわ……」

    こいし「残念だったね紫。君が犯人だとは思わなかったけど……主人公サイドは必ず勝つのだよ。補正がかかってるからね」

    紫「奇跡でも何でもお手の物、名探偵古明地こいしか……これはもう、認めざるを得ないわね」

    にとり「おいしいとこ全部もってかれた感」

    アリス「この状況なら仕方ないわよ……というか、早くここから出るわよ。ぼやっとしてると下敷きになっちゃう」

    にとり「そりゃそうだ。詳しい話は後で聞くとして……今は脱出を最優先に考えよう」

    紫「はぁ。もうどーにでもして頂戴」



    私たちが逃げ始めたすぐ後に、装置のあった部屋やその前の廊下に瓦礫が降ってくる。本当に間一髪だった。
    図書館の方は倒壊していないらしいから、あとはこの廊下を突っ切って図書館まで抜ければもう大丈夫だろう。

    アリス「見えたわ、はやくここから!」

    紫「なんとか、間に合ったわね……」

    こいし「スリリングすぎるよう」

    にとり「はぁ……これで一件落着……」

    それなりに安全な場所まで逃げて来れて安堵の息を漏らす。
    するとこの辺りで待機していたのだろう、すぐさま諏訪子がこちらに駆け寄ってきた。

    諏訪子「皆、こっち! ここもどうなるかわからないから、外まで走って!」

    にとり「ん、そっちも何とかなったみたいね」

    諏訪子「まぁね。鈴仙も観念したし、今度こそ事件は終わりかな……」

    にとり「長かったね……」

    諏訪子「まぁね。ま、そういう話は後で。先に行ってて」

    にとり「まだ何かあるの?」

    諏訪子「その鈴仙とてゐがまだ中にいるのよ。食堂に。彼女達が来るのを待ってないと」

    にとり「なんだって!? 中はもうかなり崩れてきてるってのに……ちっ!」

    諏訪子「え!? ちょ、にとり!?」

    私は単身、崩れてゆく屋敷の中に今一度走った。



    にとり「おい、なんしてんだよ!」

    彼女達はすぐに食堂で見つけることができた。ただ、少々様子がおかしい。

    てゐ「あんた来てくれたのか! 大変だよ、鈴仙のやつ死ぬつもりだったみたいで、目を離した隙に薬飲みやがった!」

    にとり「死んでは……ないな。眠ってそのまま爆発に巻き込まれるつもりだったのかな? よし、連れ出してすぐさま病院に送ろう」

    てゐ「そうだね。っつつ」

    鈴仙をおぶり、出入り口を見る。まだ何とか図書館に向かって走れば間に合いそうだ。

    にとり「んじゃ走るよ」

    てゐ「あ、うん……先に行っててよ」

    にとり「この局面で何言ってるんだよ、あんたもさっさと……」

    言いながらてゐを見ると……彼女は足をやられていた。きっと降ってきた瓦礫に潰されてしまったのだろう、かなりの量の血を流している。

    てゐ「私は何とか逃げるから、先に鈴仙を」

    にとり「ああああもうお前らは誰も彼も同じような事言いやがってくそめんどくせええええ!!」

    てゐ「な、何を言って……ふぁ!?」

    私は鈴仙をおぶったまま両手でてゐを持ち上げる。バランス悪いし重いし色々酷い。けど、んなの知るか馬鹿野郎。

    てゐ「ま、まさかこの状態で走るっての!? 無理、無理無理無理!!!」

    にとり「無理じゃねーし! 元不良なめんな!」

    てゐ「いやいやいや」

    にとり「うおおおおお!」

    鈴仙を落とさないように気をつけながら、渾身の力を振り絞っててゐを両手で抱きかかえる。
    こんなもん、火事場の馬鹿力で何とでもなるもんだっつーの!

    にとり「うおっ!?」

    出入り口の辺りで大き目の瓦礫が落ちてきた。完全にふさがれたわけじゃないが、あの辺りはすぐに次々と瓦礫が落ちてくるだろう。
    となると、図書館の方へ走るのは非常に危険だ。流石にこの状態で落ちてくる瓦礫をよけながら走るなんて事は、火事場の馬鹿力でも何とでもなりそうにない。

    にとり「二階か……」

    食堂の出入り口の方へは行けない。となると、建物内から図書館を通って外へ行く事はできない。

    にとり「…………」

    ならもう、方法は一つしかないじゃないか。

    てゐ「いいから私は置いてって。自分で逃げるから」

    にとり「うるさい。私にも見せ場が欲しいんだ」

    てゐ「は? いったい何言って……」

    天井の高い屋敷と言ったって、ここは二階。一般的な家屋でも6Mちょっとが大体だし、この屋敷でも流石に10Mもするほど高くはないと思う。
    屋敷の裏手は山側だし、裏庭は岩肌がむき出しになってるような場所ではなかった気がする。
    食堂の窓ガラスは普通のガラス。強化ガラスなんかじゃなかった。
    なら、死にはしないだろう。打ち所が悪くなければ。

    にとり「ふう……うし!」

    私は、走り出す。
    出入り口とは反対の方へ。
    部屋の奥へ、窓の見える所へ、そして、窓の外へ。

    てゐ「え、ちょおま、まさか窓から!?」

    にとり「しっかりつかまってろよー!!!」

    てゐ「うっそおお!? いやいや無茶だよ冗談っしょ!? まじでなん!? えあああああああああああ!!!!」

    窓ガラスを突き破る。瞬間、冷たい風が頬を撫でて通り過ぎた。

    にとり「いやっほおおおおおおう!!」

    てゐ「ぎゃあああああああ!!」

    懐かしいなぁこの感覚。不良やってた頃も逃げ場を失った時、こうやって脱出したっけ。
    いやぁ、風が気持ちいいですなぁ。

    ドゴオオオン!

    にとり「あっつ!!!」

    ちょうど後ろで爆発が起きた。あぶね、もう少し遅れてたら爆発に巻き込まれて死んでたなこれ。
    しかし結構良い絵になってそうだけど、誰か写真撮ってたりしないかなぁ。
    あ、でもやっぱり意外と高いわここ。こりゃ複雑骨折のパターンだな。二人は何とか無事に落として、自分は死なないように頭から落ちるのだけは防がなきゃ……

    ボフン

    にとり「!?」

    もうすぐ地面に落ちて激痛かと思った頃、何かが急に割り込んできてその上に落ちることになった。
    痛いけど柔らかい……これは、マットか何かかもしかして! うわー助かった! 大怪我せずにすんだよー!

    魔理沙「ふー、なんとか間に合ったか……たく、アホだろこいつ」

    咲夜「そう言いつつ、しっかり事前にクッションを用意していましたね」

    魔理沙「だって用意しておけって言われたからな」

    咲夜「……まさか最初から飛ぶ気だったと?」

    魔理沙「知らねーよ。くっそ、マットじゃなくてトランポリンにしときゃよかったぜ……」

    アリス「にとり!」

    にとり「いてて、うーんクッションの上に落ちたとはいえ腕折れたなこれ。めっちゃ痛いし動かねぇ」

    アリス「あんたとんでもない馬鹿やるわね……」

    にとり「逃げ道なかったんすよ、窓しか」

    アリス「はぁ……今回はお手柄だけど、前と何も変わってないわね」

    にとり「あはは……もしかしてクッションの位置は先輩が指示を?」

    魔理沙「そうだ。私はこれ用意して待ってたんだが、どこに置いていいかわからなかったしな。にしても、何でここだってわかったんだ?」

    アリス「勘、かしらね……」

    魔理沙「まじかよ」

    そうは言うが、私の行動なんて全部お見通しなんだろうなぁと思う。
    だって、その昔先輩に追い回されてからというものどこへ逃げてもいつも先回りされてたもんなぁ。

    アリス「ま、病院でゆっくりしてらっしゃい。反省にもなるでしょ」

    にとり「何のっすか?」

    アリス「諸々の」

    なんでだろう、若干怒られているような感じがするのは。私なんか悪い事したかなぁ。

    魔理沙「休むのはお前もだよ。何年も監禁されてたってのに何でそんなぴんぴんしてんだ」

    アリス「完全な健康状態とは言えなかったけど、点滴やらである程度は健康維持されてたのよ。運動面もね。でないと、私を犯人に仕立て上げられないから」

    にとり「でも、先輩が生きててほんとよかったっす」

    アリス「お互いね。病院から出られたら、ゆっくりお話しましょ」

    にとり「うっす。そのときは是非、料理振舞ってくださいね。できればハンバーグ!」

    アリス「気が向いたらね」

    にとり「そんな~」

    アリス「さ、班長を見送ってくるかな」

    にとり「私も行きます」

    班長を探すと、救急車の近くで爆弾処理班に腕時計を解体してもらっている所だった。
    その横にはてゐの姿もある。彼女はミスティアと話をしていた。

    紫「ん、あなたたち本当にお手柄だったわね。知らない間にこんなにも成長していたなんて」

    アリス「いやまぁ、今日のは大分無理があったというか……」

    にとり「無我夢中ってやつっすね」

    紫「でも……おかげで踏ん切りもついたわ。ひとつ残念なのは……あなたたちとはもっと前から、あの頃から出会っていたかったわね……」

    アリス「班長……」

    にとり「なーに言ってるんすか! 過去は過去、現在は現在。んで、未来は未来でこれから始まってくんすから、もう出会ってるし関係ないっすよ」

    アリス「にとりがまともなことを言ってる……」

    にとり「えええ、私は前からまともですよ」

    紫「ふふ……」

    こいし「ちらっ」

    にとり「こいしが仲間になりたそうな目でこちらを見ている」

    こいし「仲間にしますか?」

    にとり「いいえ」

    こいし「」

    にとり「冗談だって! 名探偵さん」

    こいし「推理ほとんどしてないけどねぇ……」

    てゐ「君らはほんと賑やかだね。私たちも、そうありたかったな……」

    アリス「やり直せばいいじゃない。どういう形であれ、あんたとあの子は友達なんでしょ?」

    てゐ「うん……私たちのしたことは赦されることじゃない。これから、一生かけて償って詫びていくつもり。けど、できるのなら、それは鈴仙と一緒にやっていきたいね」

    こいし「私だって、ひとつ間違えれば紫たちと同じ道を辿ったかもしれない。けどそうならなかったのは、色んな人と出会って触れ合っていったからなんだよね」

    アリス「過去は変えられない……けど、これからの事ならいくらでも変えていけるわ。自分にその気があれば、ね」

    にとり「ごちゃごちゃめんどくさいこと考えるより、今を精一杯生きる事を考えましょう! 楽しい事辛い事沢山出てくると思いますけど、自慢の結末を迎えられるよう、前を向いて歩いていきましょ!」

    にとり「明日へつづくこの道が幸せに繋がるその日が来るまで……」

    そう言って空を見上げてみる。
    そしたら先輩と班長、こいしまでが私の額や頬に手をあてやがった。なんてやつらだ。




    エンディング


    原作:紅咲ありす「蕗の薹」


    キャスト(原作の人物名を使用していないので役名=本名)

    特別対策班班長:八雲紫

    特別対策班:アリス・マーガトロイド

    特別対策班:河城にとり

    探偵:古明地こいし

    守矢神社神主:洩矢諏訪子

    守矢会会長:八坂神奈子

    巫女見習い:東風谷早苗

    蓬莱会会長:蓬莱山輝夜

    西行寺家頭首:西行寺幽々子

    西行寺副頭首:魂魄妖夢

    図書館館長:パチュリー・ノーレッジ

    図書館バイト:小悪魔

    スカーレット家頭首:レミリア・スカーレット

    スカーレット家頭首妹:フランドール・スカーレット

    スカーレット家メイド:十六夜咲夜

    八意病院院長:八意永琳

    病理医(ずんだもち):鈴仙・優曇華院・イナバ

    看護士(桜もち):因幡てゐ

    古明地家長女:古明地さとり

    鍵山家長女:鍵山雛

    ぴーすけ(移植後):ミスティア

    教員:上白沢慧音

    地元刑事:霧雨魔理沙


    他、脇役一同











    早苗「っていう話を作ってみたんですけど、どうでしたか!」

    霊夢「な、長すぎる……」

    華扇「疲れたわ……というか、ヤクザ刑事って何よヤクザ刑事って!! きいてないわよ!」

    早苗「ひぃ、すみません~><」












    あとがきを別記事にて記載しておりますので、よかったらそちらもご覧いただけたらと思います。必要な解説等も載せておりますので。

    ここまでお付き合いくださり、本当にありがとうございます。
    独自に書いていた話を無理矢理東方キャラで書きなおし強引に纏めたのでかなり無理があったかと思われますが、どうかご容赦の程お願いします。
    動画化するのもアリかと思いましたが、かなり時間かかるのでやってもAVG風のサウンドノベル程度のものかなと思っています。他のも作らなきゃだしね……

    では、今回はこれで。ありがとうございました。
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