【東方SS】世にも奇怪な物語3(事件編)【長編・シリーズ完結済み】
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【東方SS】世にも奇怪な物語3(事件編)【長編・シリーズ完結済み】

2017-01-21 00:40

    これは東方のであり、「世にも奇怪な物語」の続きとなっています。物語は勿論、詳細な注意書きは「世にも奇怪な物語」の冒頭をご参照ください。

    *2017/9/26 数字やマークが消えている不具合を修正しました。





    「たとえ天文学的な確率だったとしても、起きることは当然ある」

    「そしてそんなことが起きてしまったとき、あなたはもしかしたらそれをこう考えるかもしれない」

    「それは『必然』なのだだと」

    「世の中には『偶然』と『必然』という言葉があるけど、人生は一度きり、たった秒前にさえ戻ることはできない」

    「なら、『偶然』に起きた事だってそれは『必然』といえることなのかもしれない」

    「もしそうなのだとしたら……運命って、最初から決まっているのかもしれないわね」

    「そう、劇の脚本みたいに」

    「それなら逆に、どうすればこの劇の脚本を書き換えることができると思う」

    「不可能だ、と思うかしら ふふ、どうかしらね」

    「だけどもしも、その方法があるのだとしたら……次に起きる事、あるいは他人の人生なんかを操る事も可能になるかもしれないわね……?」







    世にも奇怪な物語 #3自慢の推理(こいし視点)









    私にとって、目に見える世の中は全て灰色だった。


    望まれずして生まれた子。誰からも必要とされない子。
    きっと私は、間違えてこの世に生まれてきてしまったんだと思った。
    誰にも期待されない、誰にも可愛がられない、誰にも愛されない。
    私にとって人生とは、ただぼんやりと終焉に向かって歩くだけの日々でしかなかった。

    死にたいと思ったことは無い。死にたいという感情すら、私には湧いてこなかった。


    きっと、他の人間達には世界が美しい色に満ち溢れて見えるんだろうなと思った。
    勿論、私みたいな境遇の子は他にもいるだろうし、私より不幸な子も大勢いると思う。
    だけど、なんていうのかな、そういうのじゃないんだよね。

    私は間違いなく不要な存在だった。
    だけど、私がぞんざいに扱われる事は無かった。
    今にして思えばよくわかる。もしそれをしてそのことが明るみに出れば、大問題になってしまうからだ。
    形式的な子育て、無感情で愛情の無い子育て。ほめられる事も無ければ、叱られる事も無い。
    傍から見ても、きっと私が色の無い人生を送っているなんて夢にも思わないだろう。むしろ私を、感情の無い子だと哀れんでいるかもしれない。
    まぁ、それはあたってる。だって、色の無い世界で生きる人間に、感情など生まれるはずもないから。

    私は『自由』に生きる事を赦された。
    人並みに物は与えてもらったし、人並みの教育を受けさせてもらえた。
    そして成人したのち家から追い出され、私は一人になった。

    別に、世間を恨んでるわけじゃない。それどころか、両親すら恨んじゃいない。
    私はこんな灰色の人生を送るべき人間で、それを全うするのが義務なんだと思っていたから。
    要するに、それは『必然』。最初からそうなる『運命』だったというだけのこと。


    だけど、そんな私にも、大事にしている思い出がある。
    それは、私が中学に上がった時のことだった。
    周りと同じように新しい制服を着て、新しい学校に通い、新しい人間と出会う。
    私は無感情な子だったから友達はできなかったけど、いじめに遭うわけでもなく煙たがられることもなく、ただ一人で今までと変わらない日々をすごしていた。
    有名な議員の娘であり、よくできた姉を持つ女の子。だけど私は、親や姉と比較されることすらなく、本当に誰にも気にかけてもらえなかった。

    そんなある日のことだった。
    私はいつも通り一人で下校し、挨拶の返ってこない家にただいまを言い、薄暗い自分の部屋に戻った。
    暗い暗い部屋。電気をつけても、灰色の部屋。
    だけどその日は、そんな部屋の一部に色がついていた。
    いつも下を向いている私は、思わず顔を上げた。

    「おかえり。えっと、ほら、今日はあんたの誕生日でしょう? これ、あげる」

    そこには姉がいた。
    顔を横に向けまともにこちらを見ようとしないけど、彼女はそう言って何かを差し出した。
    私はそれを手に取り光の宿らない目で眺めた。
    姉は私がそれを受け取ったのを確認すると、そさくさと部屋を出て行った。

    そういえば、今日は自分の誕生日だった。
    十五分くらいしてから、そのことに気がついた。
    私は今まで誕生日を祝ってもらったことが無い。だから当然、プレゼントなんてもらったこともない。
    そんな習慣も無ければ、自分にそういう事は起きないものだと思っていた。
    だから私は、姉が祝福をしてくれたのだと理解するのにとても時間がかかった。
    当時の私は本当に無感情だったから嬉しいという気持ちも湧いてこなかったけど、後でこっそり姉にありがとうとお礼を言った。
    その時はお礼ですら形式的で機械的なものだったけど……その日を境に、私の目にはほんの僅かにだけ色が映るようになっていた。

    これは後で知ったことなのだが、姉はいつも私の事を不憫で可哀想だと思っていたらしい。
    けど、両親はできるだけ私と接触するなと言っていたらしいし、自分ばかり親から祝ってもらって私の誕生日を祝う言葉さえなかなか贈ることができなかったと言っていた。
    そして、そのことを酷く悔やんでいるのだという。
    私が『私はそういう運命だから気にする必要は無い』と言うと、姉は泣いてしまった。

    だけどそれからは、姉は隠れて私に優しくしてくれるようになった。
    両親のいない日は一緒に遊んだりしたし、沢山話もした。
    両親や周りの目があるときは以前のように目を合わせる事もしなかったけど、誰の目もなくなったときはごめんねと謝り抱きしめてくれた。

    とても不思議な感覚だった。
    悲しいとも寂しいとも思わなかった、思う事すらできなかった私が、『嬉しい』と思うようになった。
    その時に理解した。『色』とは『感情』なのだと。私には感情が無かったから、周りに見えるもの全てが灰色に映っていたのだと。

    私は姉に感謝した。
    形式的で機械的な言葉ではなく、自分に芽生えた感情から、『心から』感謝した。

    だけど、私はその言葉をずっと言えなかった。
    私が自分に感情が芽生えていると完全に気づいたのは……心からの気持ちを姉に伝えようと思えるようになったのは、私が一人で社会に放り出された後だったから……

    好きに生きなさい、と言われて家を出された私。
    私なんかには当然行くあてもなく、しばらくの間私は持たされた多額のお金を使って、あちこちを歩き回った。
    できれば姉と過ごしたいと思ったが、それは赦されなかったから。

    そうして私は、遠くの町でなんとなく落ち着き、そこで暮らすようになった。
    姉にもらった感情のおかげで、私は少しずつ普通の人として生活できるようになってきた。
    そうして少しずつ、色んな人に影響を受け、色んな考えを持つようになり、色んな思い出を作れるようになっていった。
    一人にはなったけど、こうして普通の人間として生きることができるようになったのも、姉のおかげだと深く感謝した。

    私は、自分の中で色々と整理がついた頃に、姉に会いに行こうと決めた。
    会って何を話せるかはわからないけど、とにかくお礼を言おうと決めた。
    だけど……


    …………


    私にはもう、感情がある。
    私の目には、沢山色のついた世界が映っている。
    これが悲しみなんだということも、これが怒りなんだということも、今の私にははっきりと理解できる。
    私に色をくれたお姉ちゃんに、私は感謝できなかった。
    だからせめて、私はお姉ちゃんから全てを奪った奴に心から詫びさせる。どんな手段を使ってでも。








    この地方の土地柄なのか、今年の夏もかなりの暑さを見せている。



    2016年7月20日。
    この日私は、生まれて初めて強い恐怖という色を覚えたかもしれない。
    額ににじむ汗は単に気温が高いせいだけだろうか……いや、違う。何か見えない重圧に気おされて、私の持つ数少ない色が全て押しつぶされそうとしているからに違いない。

    7月19日、私は特別対策班の班長八雲紫とその部下河城にとりと共に、第三の被害者であり紫の部下だったアリス・マーガトロイドの家で事件に関する手がかりを見つけた。
    それは、事件の被害者と日にちの書かれた調書で、これから起きる事件さえも予言していた。
    上白沢慧音。2016年7月20日と書かれていて、それは見事的中したと言える。今日7月20日、慧音は何者かによって殺害されたのだ。
    これだけでも、充分ありえない。
    だが……犯人は更にありえない事をやってみせた。

    不可能犯罪……ありえない犯行をやってみせ、私の色を一瞬にして一色に変えてしまった。
    町の大図書館に集まり、別荘になっているパチュリーの自宅の一室別荘・三階を借りてそこへ慧音を軟禁する形で閉じ込めた。
    部屋のドアには鍵をかけ、窓にも鍵をかけた。慧音が部屋に入るとき、にとりが部屋の中を確認し誰もいない事を確かめた。私は廊下でその様子を見ていて、廊下からは誰も近づいてきていないことを確認している。このとき、23時10分頃。
    次に私たちは部屋の外に出て、慧音に部屋の鍵をかけてもらう。そして私たちは部屋のドアの前で二人して見張りを行った。
    このときも私は、にとりと会話をしながら辺りに人が誰も近づいてこないことを確認している。視界に映る範囲に見えた人物といえば、廊下のずっと先でたそがれていた蓬莱会の会長、蓬莱山輝夜くらいだった。
    23時25分ごろ、彼女は階段の所で立ち止まり何を考えているのかたそがれ始めた。それ以降、ずっと彼女はそこにいた。

    そして0時を過ぎた頃、部屋の中から慧音の声が聞こえた。誰かが中に入ったらしく、慧音は大声を上げていた。
    ドアを開けようにも鍵がかかっている。何度もドアをたたいた。
    慧音は尚も叫んでいたが、途中でそれもなくなる。銃声がとどろき、彼女の叫び声をかき消してしまった。

    その後私は、にとりにドアの前を任せ、合鍵を持っているらしいパチュリーを呼びに行く。途中、輝夜とすれ違った。
    階段を降り、左に曲がり、二階の南側廊下へ。そこの廊下に出てすぐ右側にあるパチュリーの部屋のドアをたたく。すぐにパチュリーは顔を出し、私は事情を説明した。
    それから隣の部屋にいるレミリアの部屋のドアをたたこうとしたが、パチュリーに止められる。仕方がないのでそのまま西側の廊下へ走り、自室にいた諏訪子と廊下にいた鈴仙を呼ぶ。
    次に三階へ戻り、咲夜、小悪魔、妖夢を呼ぶ。紫は二階にある食堂へお茶を飲みに来ており、私たちが三階へ戻るときに合流。事情を説明しながら走った。
    私たちが居座っていた廊下まで戻り、にとりと合流。マスターキーで鍵を開けるも、チェーンロックがかけられていた。輝夜が小型ペンチのようなもので鎖を切り、にとりと紫が中へ。私はそれぞれに不審な動きが無いか見ていた。怪しい動きをしていた者はいなかった。
    その場にいなかったのはレミリアただ一人。

    慧音はベッドの上で死亡していた。
    部屋は密室。窓には鍵がかかっていたし、壊された形跡も仕掛けを施された形跡も無い。また、構造上隠し扉や隠し部屋は存在しないという。
    部屋の中にいたのは冷たくなった慧音だけ。部屋のどこを探しても、誰もいなかった。

    ここにいないのはレミリアだけということで、彼女の様子を見に行くべく、私たちは全員でレミリアの部屋へ向かった。
    にとりはパチュリーが不審な動きをしないか見つつ、私は他の面々に不審な動きが無いか監視しながら向かった。
    二階へ降り、パチュリーの部屋を通り過ぎて、レミリアの部屋へ私たちは向かったのだが……


    パチュリー「レミィ、悪いけど、入らせてもらうわよ? 大丈夫?」

    ドアの前に立ち、ノックしながらパチュリーがそう話しかける。
    他は誰一人として言葉を発さない。不審な動きも、今のところは見られない。
    そして、部屋の中からも返事はなかった。

    パチュリー「あけるわね?」

    パチュリーがマスターキーを使い、部屋の鍵を開ける。
    レミリア・スカーレット……第四の事件の被害者フランドールの姉であり、その事件を受けて物言わぬ人形のようになってしまった。
    事件以来ずっとふさぎこんでしまい一切外に出なくなってしまったらしいが、今回親友に会いに行くと言って外出してきた。
    彼女も、事件の被害者だ。身内を失い、心をぼろぼろにさせられてしまった……気持ちは痛いくらいわかる。
    けど、今彼女は少しだけ疑われている。いや、犯人だと疑っているというよりは、無実である事を証明して欲しくて私たちはここへ来た。
    慧音は密室の中で殺された。もし何らかのトリックを使って殺害したのであれば、あの場に集合しなかった人物はどうしても疑われてしまう。
    けど、現場からここまでは離れているし、私たちが通ってきた道を使う以外にここへは戻れない。ならば、部屋にいてくれさえすれば彼女の疑いは晴れる。
    そう私たちは思っていたのだが……事態はそれを確認するだけでは終わらなかった。

    結論から言えば、レミリアは部屋にいた。
    ただし……彼女はベッドの上で仰向けになり、胸部を刺されて死亡していた。

    パチュリーの悲痛な叫びが部屋中にこだまする。
    にとりと紫がレミリアのところへ駆け寄ろうとする彼女をなんとか宥め、鈴仙が死亡診断をする。

    紫「二人も、殺されるなんて……」

    紫が怒りを表情に表している。私だって顔が怒りに歪むのを隠せない。
    誰が、誰がこんな惨いことを繰り返してるんだ!

    にとり「もしかして、ここも密室……」

    こいし「この部屋は……窓が無いね」

    辺りを見回すけど、窓らしいものは見当たらない。となると、出入り口はドアだけという事になる。
    しかし、そのドアには鍵がかけられていた。チェーンロックはかけられていなかったが、内側から鍵を開けるかマスターキーを使わなければ中へは入れない。
    マスターキーを使うパチュリーは確かに鍵を開けていた。少なくとも、あけた『ふり』ではなかった。
    まぁ、彼女のこの泣き叫びようからいっても、パチュリーが犯人だとは思いたくないけど……

    にとり「一応見てみたけど、部屋には誰もいない……」

    紫「密室殺人ね……」

    こいし「いったい何がどうなってるんだ……」



    それから私たちは食堂で、駆けつけた地元警察の事情聴取を受けた。
    紫とにとりは何やら電話ごしに相当怒られているみたいだが……自業自得とも思うけど、今回は仕方ない。処分とかあるかもしれないけど、まぁ紫が何とかするだろう。
    一通り現場検証と事情聴取が終わるまでとりあえずは食堂から出ることはできない。泣き叫びすぎて過呼吸を起こし病院に運ばれたパチュリー以外は。

    にとり「処分はなんとか免れたよ」

    こいし「お、無事だったのね。紫はどんな手を使ったんだか」

    にとり「わかんないけど……にしても、結局予言どおりになっちゃった」

    こいし「悔しいね……けど、状況がかなり限定されてきたと思う」

    今回の事件も痛々しいものだったが、手がかりになりそうな部分もいくつかあった。これから、その辺りを考えていこうと思う。
    辛いけど、うまく切り替えていかなきゃいけない。

    こいし「事件の整理をしよう」

    にとり「そうだね……慧音さんは、密室で亡くなった。室内には慧音さんだけ、窓には鍵、ドアにも鍵、そしてドアの前には私たちがいた」

    こいし「何者かが内部に侵入し、慧音に向けて発砲。その後また姿を消した……」

    にとり「ありえない、ありえないって。閉ざされた空間に入り込んで消えていくなんて。まるで霧そのものだ」

    こいし「壁抜けでもできない限り無理だね……」

    隠し通路や隠し扉の存在は無いとパチュリーは言った。
    けど実際の所どうなっているかはわからない。もしその類のものがあれば、当時姿を確認できた輝夜以外なら犯行が可能ということになる。

    にとり「レミリアさんの時も密室だったね」

    こいし「レミリアの場合は単純な密室だった。こっちは侵入する余地があるかもしれない」

    にとり「そういえば咲夜さんが言ってたけど、レミリアさんは部屋の鍵をいつも持ってるらしいね」

    こいし「そんなのいつ聞いたの?」

    にとり「ついさっきだけど。詳しく聞いてみよっか」

    こいし「そうしよう」

    私たちは咲夜の座っているところまで歩く。
    一人ひとり呼ばれて事情聴取を受けているが、そのあいだ他の人はここでずっとただ待つのみだ。

    にとり「咲夜さん、今回はその……」

    咲夜「悲しい限りです……こんなことになるなら、お屋敷の中にいればよかった……」

    本人が外に出たいと言った事が切欠らしいが、きっと周りもそうするよう語りかけてきたのだろう。咲夜の罪悪感が痛く伝わる。

    こいし「辛いだろうけど、ちょっと教えて欲しいことがあるんだ」

    咲夜「なんですか?」

    こいし「この屋敷の構造の話なんだけど……」

    にとり「それぞれの部屋に鍵がありますよね。それの管理はどうなってるんですか?」

    咲夜「お渡ししているものを除けば、スペアキーも含め全て館長室で保管してあります。ただ、使うことはほとんど無いですし、私でさえ今どこにあるかわかりません」

    こいし「きちんと管理されてないってこと?」

    咲夜「……全てパチュリー様がケースに入れて管理されてますが、館長室の山積みになった本の底にあるかと」

    要するに、それくらいぞんざいな扱いってことだ。でも逆に、そんなところから鍵を持ち出そうとするのは骨が折れると思う。
    咲夜は普段ここにはいない。病院へ送られてしまったパチュリーに訊けないとなると、バイトとして図書館に来ている小悪魔に聞くしかない。後で聞いてみよう。

    こいし「レミリアの部屋の鍵もその中に?」

    咲夜「いえ、お嬢様の部屋の鍵はご自身が常にお持ちでした。あの部屋はお嬢様専用の部屋ですので」

    こいし「その鍵って今どこにあるの」

    咲夜「お嬢様は小さなケースに入れて肌身離さずお持ちでした。ですので、おそらく服のポケットにあるかと」

    にとり「後で聞いてこよう」

    こいし「この屋敷って隠し通路とか無いんだよね」

    咲夜「無いとは言いません。ですが、客室に関しては構造上そういったものは作れないと思います」

    これは後で調べれば分かることだし、今は疑わないでおこう。もし通路が見つかったとしたなら、密室は密室でなくなる。

    こいし「ありがと。また何か聞くかもしれない」

    咲夜「いつでも聞いてください。私も、絶対に犯人を赦せませんから」

    にとり「うん。必ず解き明かしてみせる」

    決意を新たに、私たちは更に考えてみる事にした。
    とりあえず客室の鍵があるという館長室に行ってみるか。



    こあ「館長室はパチュリー様しかご利用になられませんけど、私も仕事でたまに入る事はあるんですよ」

    事情聴取の順番を待っていた小悪魔を捕まえ、館長室へ案内してもらう。
    かなり怒られただろうにきちんと捜査権をもらえている不思議。ほんと、紫のやつはどういう交渉をしたんだか……

    こあ「ここです。出入り口はここと図書館側の二つありますけど、図書館側は館長室からしかドアが開かない仕組みになっています」

    そう言って館長室のドアの前に立ち尽くす小悪魔。

    こいし「えっと、入れないの?」

    こあ「ええ、だってここの鍵はパチュリー様しかお持ちでないですから……」

    にとり「ふむ」

    鍵がかかっているということは、ここに入る事は誰にもできない。
    となれば、鍵を自由に扱えるのはマスターキーを持っているパチュリーだけということになる。
    というかそもそも、慧音のいた部屋はたとえ鍵を何らかの方法で入手していたとしても、ドアの前に私たちがいてなおかつチェーンロックまでされていたからまるで意味がないけど。

    にとり「図書館って19時で閉めるよね。誰か残ってたりする可能性はない?」

    こあ「閉館後は二人がかりで中を見回りますけど……誰もいなかったと思います」

    こいし「でもあれだけ広ければ隠れて気づかれない事もあるんじゃない?」

    こあ「それは、まぁあるかもしれませんけど……」

    要するに、外部犯の可能性だ。
    もし図書館に誰か隠れていたとするなら、実際にこの屋敷にいた人間は12人以上という事になる。
    私たちが顔を合わせていない人物がいるとしたら、話はまた変わってくる。

    こあ「けど、21時に図書館は完全に鍵をかけますので、誰かいたとしても真っ暗な中に一人取り残されちゃいますよ」

    こいし「ん、それはどういう意味?」

    こあ「正面玄関は19時に鍵をかけ、屋敷と図書館を繋ぐ扉を21時に閉めるという事です。そして、図書館とこの屋敷を繋ぐ出入り口は二つしかありません。一つは図書館奥にある扉、もう一つは館長室です」

    にとり「じゃあ、誰かが予め屋敷のほうに入ってきたらわからないって事になる?」

    こあ「いえ、それが無理なんです。図書館から屋敷に入る際は、入ってから必ず鍵をかけることになっていますし。反対もしかりですけど。要するに、屋敷と図書館を繋ぐドアは常に鍵がかかってる状態です」

    こあ「しかも扉の開閉ができるのはパチュリー様のみ。私は鍵を持たないので、もしも屋敷の方に用事があったとしたって、パチュリー様を呼んであけてもらうしかないです」

    つまり、図書館から屋敷へ入る時は開錠してドアを開け通り抜けてからドアを閉め鍵を閉めて屋敷内部へ、屋敷から図書館に行く時は開錠してドアを開け通り抜けてからドアを閉め鍵を閉めて図書館へ、ということか。しかも図書館から館長室へは行けない一方通行だから、実質図書館側から屋敷へのドアは一つしかない。しかも、いずれにしてもこれらを自由に開閉できるのは館長であるパチュリーただ一人。
    確かに、これならこっそり出入りしようにも絶対にできないな。
    要するにこの屋敷自体が、ひとつの密室になっている。扉を通って移動するときは必ず鍵をかけることになるので、誰かが屋敷側から手引きでもしない限り屋敷に入る事はできないか。
    つまりは、共犯の可能性。外部犯説を持ち込むなら、同時に共犯がいる事を確かめなければならない。

    こあ「ちなみに図書館から屋敷へ移動すると、二階の奥に出てきます。この廊下の突き当たりですね。行ってみます?」

    にとり「是非に」

    館長室はちょうどパチュリーの部屋の正面だ。パチュリーの部屋の隣がレミリアの部屋で、その隣にもう一つ部屋があり、その向こうは行き止まり。
    その突き当りの左側にちょっとした階段があって、そこに図書館へ通じる扉がある。
    ちなみに個室があるのは全て図書館に通じる階段の方を向いて右側だ。左側にあるのはその階段と館長室だけ。これは三階も同じ。

    こいし「ここか」

    にとり「すごい扉だね」

    こあ「まぁ大図書館のイメージで作られてますし。大きいですし、鍵も複雑ですよ」

    一見して、簡単に破られそうなものではない。普通の鍵の他に内鍵も三つくらいあり、今日は閉館日としたからかその全てがかけられていた。
    やはり、共犯者がいない限り図書館側から侵入してくるのは無理くさい。

    声「まーたうろうろしてんのか。しかも今回は容疑者候補だって」

    扉を見て色々考えていたら、聞いた事ある声がした。
    この声は、あれだ。地元警察の霧雨魔理沙。

    こいし「魔理沙も相変わらずで。じゃ早速今回の事件について地元警察の見解を教えてほしいな」

    魔理沙「いきなりそれかよ。こっちが教えてほしいくらいだっての……たく、お前の探偵ぶりにも困ったもんだぜ」

    にとり「え、知り合い?」

    こいし「うん。細かい事は後で話すけど、簡単に言えば協力者だね」

    魔理沙「お前の協力者になった覚えはないぜ……」

    現場検証してるだろうし、その辺の情報を教えてもらおう。魔理沙が来ていて助かった。他の刑事だと面識があんまりないから聞き出すのに骨が折れるんだ。

    こいし「現場の状況は?」

    魔理沙「あのな」

    にとり「私からも聞きたいです」

    そう言ってにとりは自分の警察手帳を取り出した。

    魔理沙「あんたが例の……上司から聞いてる。わかった、ついてきな」

    本当にいったい紫は何を言ったのか。もうこの地元警察の協力は完全に取り付けているらしい。
    しつこいけどゆかりんすげー。


    小悪魔を食堂に帰し、私とにとりはレミリアの部屋に来た。

    魔理沙「状況は聞いたよ。密室だったってな」

    こいし「被害者はベッドの上で刺殺されてた。凶器は見つかってないけど、刃物で胸をひとつきって感じだったと思う」

    魔理沙「詳細な結果はまだだけど、傷口から見てそれで合ってるな。部屋中を探したが凶器は見つからず、事件に関係してそうなものも特に見つかっていない」

    にとり「レミリアさん、鍵持ってました?」

    魔理沙「鍵?」

    こいし「この部屋の鍵だよ。いつも肌身離さず持ってるみたい」

    魔理沙「いや、被害者の衣服から鍵なんて出てこなかったな」

    こいし「それほんと?」

    魔理沙「嘘吐いてどうするんだよ。ちなみに、この部屋のどこからも鍵なんて見つかってない」

    ということは、鍵は犯人に盗まれていたってことだ。それなら、この部屋に侵入して犯行に及ぶことができる。
    慧音の方はさっぱりわからないけど、こっちは捜査が進みそうだ。もしかしたら、二つの殺人は別件なのかもしれない。

    魔理沙「あ、でも別の場所でなら鍵が見つかったぞ」

    こいし「え、どこで?」

    にとり「どこの?」

    魔理沙「どこの鍵かはまだ確かめてない。でも、言われてみればこの部屋の鍵なのかもな、無くなったってんなら」

    そう言って魔理沙は近くにいた警官を呼んで、他で見つかったという鍵を持ってこさせる。
    ほどなくしてその警官は件の鍵を持ってきて魔理沙に渡した。

    魔理沙「ほらこれだよ。よし、確かめてみるか……」

    魔理沙はドアまで歩き、鍵を鍵穴に差し込む。そしてひとひねりすると……

    カチャリ

    魔理沙「お、いけたぞ。どうやらここの鍵で正解みたいだな」

    こいし「やっぱり鍵は盗まれてたのか。それで、どこで見つけたの?」

    魔理沙「あ、いや、それがな……」

    魔理沙が言いよどむ。
    なんだろうこの違和感。何か、嫌な予感がする。

    魔理沙「こいつが見つかったのは、あっちで亡くなった上白沢慧音の部屋なんだ」

    こいし「は」

    にとり「そんなまさか……」

    なんてこった……ということはつまり、犯人はレミリアを殺してから慧音の部屋に入り慧音を殺し、レミリアの鍵をそこへ置いてきたって……?
    そんな無茶な話があるかって。

    魔理沙「それでだな、今のところ聞いた話を総合するとだな、ものすっごいおかしなことになるんだよ」

    こいし「な、なによ……」

    雲行きが怪しい。
    このまま話を聞いてしまうと、また私の色が一色に染められてしまいそうな気がする……

    魔理沙「詳しい結果を確認してからじゃないとはっきりわからないんだが……」

    魔理沙「いや、これは本人に聞いたほうがいいかもしれんが……」

    にとり「本人って?」

    魔理沙「えっと、検死したやつがいるんだろ そいつが言ってたことなんだけど」

    こいし「鈴仙か」

    魔理沙「こちらでちゃんと検死はするしすぐにわかることだが、確かな情報かはわからん。まぁ、一応話しておくとだな」

    魔理沙「……被害者の状態や周囲の状況からして、死亡推定時刻がほとんど変わらないらしいんだ」

    一瞬で、私の視界に映るもの全てが一色に染まってしまった。
    いわゆる、ぽかんとした状態。すぐに自我を取り戻すが、今度は軽く頭が痛くなってくる。
    被害者がほぼ同時に死亡してるだって?
    密室で刺殺されたレミリア。窓の無い部屋には鍵がかかっていて、その鍵は慧音の部屋にあった。
    密室で銃殺された慧音。窓もドアも鍵がかかった部屋で、部屋の前には私たちがいた。
    そして、だいたい同時刻に二人は死亡。
    これはつまり、壁やドアをすり抜ける能力を持ったやつが分身して離れた部屋にいる二人を殺害してその後霧散して消えたと……そういうことなわけ……?

    魔理沙「きっと何かがおかしいんだと思う。でないと、こんな状況はできないからな」

    にとり「おかしいって……なんかもう、私の頭がおかしいんじゃないかって思えてきた……」

    こいし「奇遇だね。私もそう思ってたところだよ……」

    鍵の関係からして、別件の犯人による可能性はほぼ封じられた。
    そして、鍵の発見場所からして薄っすら想像していた『慧音がレミリアを殺した』という想像は、被害者の死亡推定時刻により見事に打ち砕かれてしまった。
    外部犯による可能性は薄い。仮に共犯者がいたとして、その二人がそれぞれ殺人を……だめだ、そうしたって鍵の在り処に違和感が残る。
    というかそもそも、慧音の部屋の方は全く持って意味がわからないままで何の進展も無い。

    こいし「いやでも待って。にとり、慧音の部屋を探したとき、鍵なんてなかったよね?」

    にとり「あ、いや、確かに見えるところには無かったけど、あの時は犯人が部屋の中に隠れてないか見てたし……」

    魔理沙「そりゃ、うん、そうだと思う。だって鍵があった場所っていうのが、慧音の上着のポケットだったんだ。クローゼットの中の、ハンガーにかけてあった上着のな」

    岩石で頭を殴られたような衝撃。
    それはつまり、例えば鍵を誰かが持っていて慧音の部屋に集合した時に置いた、という可能性はほぼ無いという事。
    なぜならあの時不審な動きをしている人はいなかった。仮に私の隙を見てどうにかしたとも考えられるが、それは不可能に近い。あの状況で、部屋の中の、しかもクローゼットのハンガーにかかっていた上着に近づく事なんてできない。というか、誰もしていない。

    こいし「こんなの、不可能犯罪だ……」

    魔理沙「ん、新しい情報だ。レミリアから睡眠薬の成分が検出されて……っておーい、聞いてるか?」

    にとり「あ、いえ、ぎりぎり……睡眠薬ですか」

    こいし「……それは、あれだよ。たぶん、普段から服用してるやつじゃないかな」

    にとり「っていうと?」

    こいし「私は同じ立場だから経験ある。姉を殺されたストレスでね、寝れなかった時期があるから」

    魔理沙「なるほど。なら、重要な手がかりというほどでもないか」

    こいし「ちょっと、頭冷やす……わけわかんなすぎてちょっと無理」

    にとり「食堂にもどろっか。他の人の話も聞きたいし」

    魔理沙「私は現場検証を進めるから、何かわかったら伝えるな」

    こいし「ありがと」

    私は気のない返事をして、部屋を出る。
    もしかしたらお姉ちゃんも、こんなわけのわからない相手に殺されてしまったんだろうか……
    ここで起きた事件も、一連の猟奇殺人事件と繋がって……?
    整理しなきゃいけないポイントは沢山ありそうだ……



    それから暫くは、食堂でただぼんやりと過ごしていた。
    事情聴取に一人ひとり呼ばれていく様子をなんとなく眺めながら事件について考えようとするも、すぐに色あせてしまう。
    やる気を失ったとかそういうことじゃない。むしろ、不可能犯罪に立ち向かおうと色々考える方が、不謹慎な言い方だが楽しくはある。
    でも、なんだろう。何かが引っかかって、どうにも推理に集中することができない。

    にとり「ん」

    こいし「……?」

    にとりがコーヒーを淹れてくれたらしい、コップを持った手がにゅっと視界に現れた。

    にとり「相変わらず行き詰まり続けてる感じ」

    こいし「まぁ……」

    素直にそれを受け取り、一口いただいた。
    あったかい。

    こいし「手がかりになりそうなものは沢山あるんだけど……考えれば考えるほどわからなくなりそうで怖いよ」

    にとり「まぁね……私も色々考えてみてはいるけど、一番怖いのは、こうだと思ったものを一瞬で否定されちゃうときかな」

    こいし「それね……東風谷早苗の件とかまさにそう」

    にとり「あの人、ここに来てないからね……事件と関係ないのか、なんて思っちゃう」

    こいし「実になりそうな手がかりが再びその存在を薄くしていく……狙いすましたように」

    何が真実で何がそうでないのか……目的のことを考えるなら、今回の事件にこだわらず、一から考え直した方がいいのかもしれない。
    私はお姉ちゃんの事件にしか興味はないけど……他の事件を解く事で見えてくることがあるのなら、結局はどの事件も一緒に考えないといけないのかもしれない。

    こいし「よし!」

    にとり「うん?」

    こいし「ガチで考えよ。今までもガチだったけど、これまで以上にガチで」

    にとり「……そうだね。もうそこらじゅうスモッグだらけだけど、晴らそうとしなきゃいつまでたっても霧に包まれたままだ」

    決意を新たに、推理を再開しよう。灰色のキャンパスに自分で彩りを加えるんだ。

    こいし「今回の事件は……解決できれば大きな一歩になると思う。でもその前に、他の事件との関連性を見てみたいんだけど、いい?」

    にとり「もちろん」

    こいし「私たちが追ってる猟期殺人事件と同じものとするなら、これは第五第六の事件って事になる」

    にとり「共通するのは、凶器が見つかっていないことと……」

    こいし「それと、予言どおりであること、だね」

    どの事件もいまだに凶器が発見されていない。今回で言えば慧音を撃った銃、そしてレミリアを刺した刃物だ。

    こいし「でも、不思議な点が二つ。一つは、今回の被害者は猟奇的な殺され方をしていない……状況的に無理だったんだろうけど、この点においてこれまでの事件と関連しないとも考えることができる」

    にとり「でも、予言の事を知ってるのは私たちだけでしょ? レミリアさんは確かに予言には書かれていなかったけど、鍵のことを考えると別件とは思えないよ」

    そこだ。繋がるようで繋がらないのは、慧音は予言に書かれていたがレミリアは書かれていない。しかしレミリアの部屋の鍵が慧音の部屋にあったことで、二つの事件は関係していると言わざるを得ない状況なのだ。
    第一第五までが繋がっていて、第五と第六が繋がっている。すなわち、第一第六が繋がっているとも言える。
    ただこの場合、両方に属している第五の事件がやはり焦点になる気はするんだけど……

    にとり「そもそも猟奇的に殺す意味ってなんだろう?」

    こいし「快楽殺人である事が大概かな。あとは、脅しだったり、怨恨が強すぎたとか」

    にとり「猟奇的な部分にメッセージ性は?」

    こいし「そういう事をする人もいるけど……だとしたら、今回猟奇的じゃなかったのにも意味がありそうだね。真意は全く見えないけど」

    にとり「その辺から崩すにはまだ情報が足りなすぎるか……」

    ただ、もし犯人がどうしても対象を殺さなければならない状況にあるのだとしたら、急な外泊作戦は完全な失敗ではなかったかもしれない。
    連れ出していなければ、猟奇的に殺されていたかもしれないのだから。

    こいし「予言については……パスせざるを得ないかな。何かある?」

    にとり「考えたのは、あの予言を他に知る人がいたらって事かな。今は私が住んでるけど、それまでは中身そのままで空き家だったからね」

    こいし「でも、仮にあの予言を知っていたからって、その通りにする意味が全くないよね」

    にとり「まぁね……それこそただの快楽殺人だ」

    こいし「あれって本当にアリスさんが書いたものなの?」

    にとり「うん。見た感じもそうだったけど、筆跡鑑定してもらったらちゃんと一致した」

    こいし「偽装されたわけでもないか……だとしたら、アリスさんは殺害される人物と日時の情報を手に入れたけどそれが犯人に知られてしまって、消されてしまった……」

    にとり「まぁ、そういうことだろうね……」

    それと、にとりにはまだ言えないが、もう一つ私には考えがある。
    それは、アリスさんが事件の加害者側として関与しているのではないかという可能性だ。
    あの調書は予言ではなく予定メモのようなものだとも言える。それに、アリスさんは大量の血を残し姿を消したというだけで、死亡がはっきり確認されたわけではない。
    もしかして今もどこかに身を潜め、次の被害者を狙っているのでは……なんて想像もしてしまう。
    まぁ、かなり無茶な妄想だけど。

    にとり「そういえばさ、神社で諏訪子さんに突っかかってたじゃん。あれなんだったの?」

    こいし「あー、あれは別に何ってないんだけどね。私、人を疑う時はああやって煽ってボロを出させようとする作戦に出ることあるから」

    にとり「なんだ、じゃあ適当なこと言ってただけか。諏訪子さんめっちゃ嫌がってたよ」

    こいし「はは、だろうね。でも、あながち適当ってわけでもないんだよ」

    にとり「っていうと?」

    こいし「あの神社ってさ、祟り神の神社じゃん。だからか、結構変な噂が流れるんだよね」

    にとり「噂」

    こいし「うん。例えば、深夜になると本堂からご神体が現れて境内を徘徊するとか」

    にとり「罰当たりだなぁ。そんな噂流すから祟りに遭うんだよ」

    こいし「意外と祟り神に肯定的だね。まぁ、私もどっちかって言えばそうなんだけどさ」

    にとり「触らぬ神に祟りなしって言うし」

    こいし「それは諺でしょ?」

    にとり「そうだけど。でも、諏訪子さん言ってたよ。無関係の相手には祟りを起こせないって」

    こいし「そういうもんか」

    まぁ、興味はあるけど祟りの話は今は置いといて。

    こいし「それで、どこをどう伝わってったのか、いつしかあの神社には神主以外に誰か潜んでるんじゃないかって話になってるのさ」

    にとり「誰かって、誰?」

    こいし「それはわからないけど……もし行方が知れなくなったアリスさんなら、事件とも絡んでくるよね」

    にとり「ま、まさか……」

    こいし「ただ、そうでなくても一つ関係ありそうな話もあるよ」

    にとり「何」

    こいし「誘拐事件だよ」

    にとり「誘拐って、だいぶ前から問題になってるやつ」

    こいし「うん」

    それは、第四の事件の被害者であるフランドールがそうだったように、数年前から問題になっている児童誘拐の件だ。
    発生時期も場所もまばらで、こちらもいまだに手がかりがつかめず解決に至っていない事件だ。
    先日は誘拐されていたと思われるフランドールが見つかったが、悲しい事に冷たくなってしまっていた。他の被害者のほとんどはいまだに見つかっていない。
    フランドールは数年前に捜索願が出されていたため誘拐事件と関係があるとされてはいるが、事実関係は不明。もしかしたら、全く関係ない別件かもしれない。

    こいし「神社には諏訪子しか入れない場所が沢山あるからね。仮に子供を監禁しててもバレないかもってわけ」

    にとり「あんた罰当たるよ」

    こいし「それだよ。その『罰が当たる』ってのを利用して、周囲からの目をそらすことができる。いくら信仰してないからって、そういう神聖な場所にわざわざ入ろうなんて思わないでしょ?」

    にとり「祟られたくないしなぁ」

    こいし「ほんと信仰深いね君」

    ただ、信仰心なんて持ち合わせていない私でも、祟りって聞くとやっぱり怖いものがある。
    探偵なんかやってるから祟りと聞くとそれを利用して犯罪を行っている物語が浮かんでくるけど、今の状況で例えば階段で足を踏み外して落ちたりしたら、祟りかもと思っちゃうかもしれないな……

    にとり「そういや関係ないかもしれないけど、神社でお祭りやるみたいだね」

    こいし「あぁ、あれ毎年やってるよ。元は神社の神聖な儀式みたいなお祭りだったけど、今じゃただの盆踊り大会だよ」

    にとり「ぼ、盆踊りなのか。にしては町ぐるみでやるんだね」

    こいし「そりゃそうさ。今の形になったのは、町おこしが理由だからね。町おこしに使えないかという事で屋台が増えて盆踊りが始まって、それから町を盛り上げるって所に今は目的が落ち着いてる」

    このお祭りも、昔から考えればかなり大きくなったものだ。
    何十年か前はこの町では住人同士のドロドロした関係が蔓延していて、非常に治安が悪かったらしい。
    治安が悪いというか、町ぐるみで一部の人間を陥れるような風潮があったみたい。何か悪いことが起きると暗に生贄が選ばれ村八分にされる……そんな事がよくあったそうだ。
    それを何とかしようと始めたのが、このお祭りだとかなんとか。西行寺の協力もあり、諏訪子の思惑は見事成功。次第に、町は今のような形に落ち着いてきたらしい。
    まぁ理由は他にもあるみたいだけど。

    にとり「それで定例会でも一番に発表するんだ」

    こいし「ん、定例会にも出たことあるのか。あれ面白いでしょ?」

    にとり「どういう意味でさ」

    こいし「図書館でやるのもそうだけど、うちの親でさえこの町じゃ権力が低いからね。諏訪子みたいなのの方が先に話すし発言力も強い」

    にとり「この図書館ってやっぱり何かあるの? 輝夜さんもそんなようなこと言ってたし、パチュリーさんがそもそも昔はすごい人だったとか班長が言ってた」

    こいし「私もよく知らないんだけど、この図書館っていうか屋敷の方も含めて、昔は要人達の会議に使われる場所に指定されてたみたいだよ」

    にとり「そうなんだ。今でもそうなの?」

    こいし「ううん、今じゃもう使われてないと思う。せいぜい、輝夜たちが使うくらいじゃないかな」

    にとり「主流だったのはいつ?」

    こいし「いやーそこまではわからないんだけど、たぶん建設当初くらいじゃないかな。スカーレット家がこの町に越してきた時、新しい町でもある程度の権力を維持できるように、みたいな理由だったと思よ」

    にとり「なるほど」

    こいし「脱線してきたけど、事件について他に気づいたことはある」

    にとり「私の中で一番の気がかりは東風谷早苗だったけど、第五第六の事件でちょっとわからなくなったからな……」

    こいし「少しずつ推論を混ぜていくけど、この事件の犯人が複数犯だった可能性を考えればまだ繋がる話ではあるよ」

    にとり「それは、諏訪子さんが来てるからってこと?」

    こいし「うん。あの二人が組んでるのなら、今回の犯行を諏訪子が行えば事件は繋がる」

    にとり「確かにそう言えるか……でも、わからないんだよね。早苗さんは本当に記憶を失ってる感じだった」

    こいし「それは、うん。私も実は、そこは疑う余地はないかなと思ってる。記憶を失う前に会って話したことがあるんだけど、そのときも私は嫌な奴を演じててね。けど、記憶を失ってから私を初めて見た時には僅かの変化も見られない、本当に穏やかに迎えてくれた。その後また嫌なやつ演じたから嫌われたけど」

    無意識や反射というのは怖ろしいもので、表に出さないようにと思っていてもふとした拍子にぱっと出てしまうもんだ。
    だからどんなに隠し事がうまい人間でも、いつかは必ずボロを出す。そういう無意識の部分を汲み取るのは得意なんだ。

    こいし「だいたいこんなもんか……」

    にとり「あとはやっぱり、第五第六の謎だね……」

    密室殺人、不可能犯罪。これまでは漠然と手がかりを探すしかない事件を追っていたが、今回は限定的な状況であるにも関わらず全く手がかりを得られない。
    どちらにしても、私たちは手がかりを得る事ができない。本当に、この犯人は頭がいいと思う。

    にとり「何度おさらいしてもワケがわからないね」

    こいし「ほとんどの人間にアリバイが無い状態だけど、慧音の事件があるからアリバイなんて何の参考にもならないからな……」

    誰がいつ何をしていたかわったところで、密室だったあの部屋に入り慧音を殺して霧のように消えてしまうトリックを解明しない事にはどうにもならない。
    しかもほぼ同時刻にレミリアをも密室の中で殺しているという人外っぷり。

    こいし「レミリアの方は、殺害してから鍵を奪って部屋に鍵をかけたって感じであってると思う。それを、どうにかして慧音の上着のポケットに入れたってだけで」

    にとり「まぁそのポケットに入れるってのが最大の謎なんだけどね」

    こいし「レミリアを見つけた後、魔理沙達が来るまで皆揃って食堂にいたもんね」

    にとり「パチュリーさんは過呼吸で倒れて病院に搬送されるし……レミリアさんの部屋に行った後は誰も慧音さんの部屋に近づけなかったわけだから、後で鍵を入れたってのも無理だしね」

    だいたいの密室トリックで問題になるのは『どうやって部屋から出るか』だけど、今回の事件に関しては『どうやって部屋に入ったのか』も問題になっている。
    しかも厄介なのは、レミリアの事件も絡んでくると慧音の事件を解くために立てた仮説が否定されてしまう場合がある事だ。
    例えば、慧音の部屋に予め犯人が潜んでいてにとりが見落としてしまっていた、と仮定しよう。
    そうすれば私たちに気づかれる事なく慧音を殺すことができる。どうやって出たかはわからないけど、何とかして出れたとしても、続けてレミリアを殺すことはできない。
    なぜなら、慧音の部屋には全員が集合させられていたし、そもそもレミリアの死亡推定時刻は慧音が殺された時間とほぼ同じだからだ。
    しかもレミリアの部屋の鍵の問題がある。少なくとも私たちが慧音の部屋に入ってからは誰一人として鍵を上着のポケットに入れるなんて事はできなかった。ちゃんと見張ってたし。

    にとり「私が見逃しただけなのかもしれない……」

    こいし「でも、慧音の部屋に入る時、確かに全員あの場にいたよ。レミリアはいなかったけど、彼女はその時点で既に死んでるわけだし」

    にとり「ならやっぱり外部犯としか思えない。協力者がいるとすれば、その13人目は自由に動き回れるはずだし」

    こいし「つまり、こんな感じか」

    こいし「犯人は閉館後の図書館に身を隠し、協力者に鍵を開けてもらって中へ入った。そしてレミリアを殺し鍵をかけ、慧音の部屋に隠れる。鍵はこのときポケットへ。慧音が来たら殺し、再び隠れる。そして私たちがレミリアの部屋に行った頃に部屋を抜け出し、別の場所に隠れると」

    にとり「その場合私に責任があるわけだけど……」

    こいし「それはにとりのせいじゃないよ。一見これって筋が通ってるけど、これだと一つかみ合わない部分がある」

    にとり「死亡推定時刻か……でも死斑はアテになりそうにないよね、あの状況だと」

    こいし「結構血流れてたしね。でもそれ以前の問題だ。私たちが、慧音が部屋に入るのを確認したのは食後の話。23時過ぎくらいだったよ」

    にとり「事件発生は0時過ぎ……慧音の部屋に予め潜んでいたのなら、23時には既に部屋に居る事になる」

    こいし「そうするとレミリア殺害はその人物には不可能になるね」

    にとり「なら、共犯者を中に入れた人物がレミリアさんを殺して、外部から来たもう一人は部屋で隠れていたとか」

    こいし「それだと鍵が隠せないんだよね。鍵をポケットに入れる事ができるのは、どう考えても私たちが突入する前でしかありえない」

    にとり「でも、13人目なら私たちがレミリアさんの部屋に行った後ならいつでも鍵を隠せるんじゃない」

    こいし「それもどうだろう。一人で二人を殺害するのは無理があるわけだし、そうなると協力者と人目でそれぞれ殺害を行ったことになるけど、鍵の受け渡しができないよ」

    にとり「そこは、レミリアさんの部屋に行くときとかに廊下のどこかにこっそり置いて、それを13人目が回収したとか」

    こいし「うーん、それならまぁ、筋は通るか……」

    それなりに筋の通る仮説は立った。
    ただ、もしこれが事実だった場合、にとりは二度も犯人が部屋に隠れているのを見つけられず、私はレミリアの部屋に向かう最中協力者のとる怪しげな行動を見逃していた、ということになる。
    勿論、私にしたってにとりにしたって完璧な人間じゃない。物事を見落とすことはあるし、たまたまそれが重なっただけかもしれない。
    でも……果たして本当にそうなのだろうか。犯人達には、絶対に私たちに見つからずにそれらができる自信があったんだろうか。日付を指定するほどの犯罪者が、そんなあやふやな事を計画とするだろうか

    にとり「とりあえずこの路線でいくしかないね」

    こいし「そしたら次はアリバイか……これは絶望的だよ。夕飯後のそれぞれの行動は把握できてないんだし」

    にとり「見張ることが最優先だったからね……複数人が別々に目撃証言を出してくれたら、その人はアリバイができそうだけど」

    こいし「それと、部屋の中に隠れられる場所を探すことだね。きっとスペースはそう広くはないし、犯人の髪の毛1本くらいなら落ちてるかもしれない。服の繊維とかもしかしたら皮膚片なんかも取れるかもしれないね」

    にとり「残るは凶器か」

    こいし「魔理沙達が入ってきちゃったし、その前に退避経路の確認をしとくべきだった……」

    にとり「仮に13人目がずっと潜んでたとしても、もうドサクサにまぎれて外に出ちゃったよね……」

    こいし「でも、アリバイが完璧にある人物は除外できるわけだし、聞いて損はないさ」

    にとり「そうだね」




    魔理沙「完全なアリバイがあると言えるのはまぁ、誰もいないな。ただそれは、お前達も含めてだ」

    私たちはそれぞれのアリバイを確かめるべく、慧音が殺された部屋の前で頭をかいている魔理沙に声をかけた。
    現場検証は相変わらずまだ続いているが事情聴取は終わったらしく、他の人は食堂で暇をもてあましているらしい。班長は状況確認を行っているようだ。

    魔理沙「パチュリー・ノーレッジに関しては、落ち着いてからでないと話が聞けないな。頃合を見て病院に行ってみるつもりだ」

    にとり「まぁ、仕方ないね」

    こいし「病院か……」

    魔理沙「何か引っかかることでも?」

    こいし「あ、いや……一昨年の事件でさ、東風谷早苗が病院で記憶を失ったから、まさか同じ事になったりしないかなって」

    魔理沙「無いとは言い切れないが……そうなるともうお手上げだな」

    状況が違うにしても、パチュリーも大事な人を失ったわけだ、そのショックは計り知れない。
    私だって、もし元々姉と一緒に暮らす事ができていたなら、同じように記憶を失っていたかもしれない。幸か不幸か遠くにいたため、こうして自我を保つことができている……皮肉なもんだ。

    魔理沙「とりあえず他の人物いくぞ」

    にとり「お願いします」

    魔理沙「最初に断っておくが、私の言う『アリバイがある』とは『人以上からアリバイを保障されている』という条件が絶対だ。そういう意味ではお前達もアリバイは心もとないという所に一応当てはまる、というだけだ」

    こいし「おーけーいつもどおりだね、問題ない」

    それが魔理沙のやり方だ。確実と言っても差し支えない程度以上の情報しか信用しないという信念。まぁ、そのせいでたまに細かな情報を見逃したりもするみたいだけど。

    魔理沙「最初は蓬莱山輝夜。これはお前達も知っての通り、三階廊下奥の階段の所にずっといた。輝夜も、見張りをするお前達の事を証言している」

    にとり「階段のところに来たのは確か、23時半くらいだったかな」

    魔理沙「それぞれ整合性があるな。輝夜もそう言っていた」

    こいし「ちなみにそれまでは何してたの?」

    魔理沙「食後は魂魄妖夢と話をしていたみたいだな。場所は妖夢の部屋。三階の一番奥だな。妖夢はその後ずっと自室にいたらしい」

    三階の一番奥とは、私たちが見張りをしていた廊下をずっと進んで突き当たりの階段のホールを左に曲がった先だ。彼女の部屋の真下は空き部屋で、その正面が図書館に続くドアのある場所だ。
    輝夜がその場所にいる以上、妖夢がその後部屋を抜け出しても輝夜に気づかれず移動するのは難しいだろう。反対側の廊下へ行くには、角の階段の所を通らなければならないから。

    魔理沙「話の内容は西行寺幽々子について。詳細は話してくれなかったが、あまりいい空気ではなかったみたいだな」

    幽々子はどこにいるのか、という話をしていたのだろう。
    この件については別に興味は無いというか、そういう世界の話なので私には関係ないと思っているんだけど……これが事件の鍵を握ることになる、という可能性も無くはない。
    ただまぁ、この件を深く掘り下げていくのは現状無理だろうな。

    魔理沙「次は洩矢諏訪子。彼女はアリバイが全く無いな。自室でくつろいでいたらしい」

    こいし「鈴仙とは話してなかったのかな?」

    魔理沙「打ち合わせ自体は夕飯の前に終わったらしいぜ」

    にとり「意外にすぐ話が纏まったって感じなのかな」

    魔理沙「その辺についてはわからん。私がアリバイを聞いて回ってるのは夕飯後のことだし、どうなんだろうな」

    こいし「てことは、私が呼びに行くまでずっと自室にいたってことか」

    私が全員を呼びに行った時、諏訪子は確かに部屋にいた。
    彼女の部屋は、慧音の部屋の真下の部屋の隣。私たちが見張りをしていた廊下の真下である二階廊下の一番奥だ。

    魔理沙「で、その鈴仙だが、暫く自室にいたみたいだが途中で食堂に行ったらしい。そこで八雲警部と会ってる」

    こいし「私が呼びに行った時は二階廊下にいたよ。銃声を聞いて部屋を出たって言ってた」

    にとり「食堂に行ってる間はアリバイがあるって事でいいのかな?」

    魔理沙「もう一人くらい証人が欲しいところだが……まぁあると言っていいな。それから自室に戻ってるから、食堂にいた時の前後のアリバイは無いけど」

    鈴仙の部屋は慧音の部屋の真下だ、きっと銃声がはっきり聞こえたに違いない。その点諏訪子はどうだっただろう。

    こいし「諏訪子と鈴仙は、事件当時について何か言ってなかった?」

    魔理沙「そうだな、諏訪子は銃声がしたから部屋から出ないようにしたと言っていた。鈴仙は思わず部屋の外に出てしまったって言ってたな」

    にとり「どうして外に出たんだろう」

    魔理沙「医療に携わるものとして怪我人の事が気になる、ってところだろう。詳細は知らないが、過去に、自分の危険を顧みず怪我人のためにあちこち走るような現場にいたことがあるとは言ってた」

    それは例えば戦地などのことだろう。いったい彼女はどういう人物なんだろうか。

    こいし「魔理沙の見立てではどんな?」

    魔理沙「私か? うん、密室に関しちゃさっぱりわからんが、アリバイから言ってこの二人にも犯行は可能っちゃ可能だと思うな」

    まぁ、そんなところだろうとは思う。他の人物に関してもそうだが、結局のところあの密室トリックが解けない事にはどうにもならないんだ。

    魔理沙「次は、小悪魔だな。ずっと部屋で寝てたらしい。明日を閉館日にすると急遽決まったから、仕事に専念するため泊り込んだらしいな。閉館日の仕事の方が忙しいらしい」

    こいし「てことは、私たちが今回の件を持ち込まなかったら泊まってなかったのかな」

    にとり「かもしれないね」

    魔理沙「まぁ泊まる必要があるなら他の理由でも何でもこじつけるだろ」

    確かに理由なんて何でもいいとは思うが……そもそも慧音がここに来なければ、犯人がここに泊まる必要なんて皆無だ。
    この辺りを考えると、きちんと用事があってここへ来ている人物は犯人の可能性が薄くなる……のか?
    でも、いつどこで情報を聞きつけたかわからない。もしかしてにとりが慧音に電話していたのを盗聴していたかもしれないし、図書館へ向かう私たちを見かけてのことかもしれない。
    この辺りを考えると、やはり外部犯の犯行を協力者がサポートしたという説は強くなってくる気がする。

    魔理沙「次は咲夜だが、厨房で片づけをしていたらしい。八雲警部とも会ってるな」

    こいし「紫の証言だと、日が変わらないうちに部屋に戻ったみたいだね。その直後になら犯行は可能といえば可能だけど……」

    にとり「そういや班長はいつから食堂にいたんだろ」

    こいし「私たちと打ち合わせをした後はずっといたみたいだよ」

    魔理沙「それと、部屋に戻るときに輝夜が姿を見てるな。咲夜も輝夜に会釈したと言っていた」

    私たちが見張りをしていた所からは階段や向こう側の廊下は見えないから、それには気づかなかった。
    ただ、輝夜が見ていたというのなら一応その時間のアリバイにはなる。
    でももし輝夜が共犯だったとしたら あの場にいる事に意味があるのだとしたら
    輝夜が階段のところにいて私たちが彼女の姿を認められていたのは強みだと思っていたが、彼女がそうすることに意味があるのだとしたら事態は一転する。

    魔理沙「で、最後は館長だけど、咲夜が言うには、食後はレミリアに付き添ってたみたいだ」

    こいし「私が呼びに行った時は自室にいたな。途中で戻ったのかな」

    にとり「あんまり疑いたくは無いけど、パチュリーさんならレミリアさんを密室の中で殺せるね……」

    魔理沙「マスターキーを使えばいいだけのことだからな」

    彼女なら確かにレミリア殺しはたやすい話だ。部屋の鍵にしたって予め慧音の上着のポケットに入れておけばいいだけの事だから。
    ただ、慧音殺しの謎は解けないままだし、何より最愛の友人を失って深い悲しみを味わっている彼女を見ていると、彼女が犯人だとは思いたくない。
    それになにより、仮に彼女が犯人だとしたら、慧音殺しも行ったかもしくはそれが行われることを知っていなければならない。そうでなければ、慧音の上着のポケットに鍵を隠す理由がわからない。要するに、共犯者でなら可能性はあるということ。

    魔理沙「被害者についても一応言っておくと、レミリアは食後ずっと自室に。慧音はお前達に見送られ自室に」

    魔理沙「とりあえずアリバイについてはこんな感じだ。何か疑問点は?」

    にとり「答えが出そうな疑問点が思いつかないのが困ったところだね。わからない事だらけだけど」

    こいし「アリバイがあやふやな人ばかりだけど、だからって犯行に結びつくかといえばそうでもない」

    魔理沙「何せ密室の謎が凶悪だからな」

    こいし「実は今、外部犯の可能性を視野に入れてるんだけど、その辺どう思う」

    魔理沙「また漠然とした質問だな……それは、あれか。この中の誰かが手引きをして、屋敷内に外部犯を入れたって事だな」

    こいし「理解が早くて助かるね」

    にとり「今の感じだと、結構誰にでも外部犯を呼び込むことはできそうだし」

    魔理沙「外部犯の可能性は勿論考えてはいるが、そうだとしたらこの部屋に隠れられる場所があったという事になるな」

    そう言って魔理沙は慧音が殺害された部屋を見る。

    こいし「今のところそういう場所は見つかってない?」

    魔理沙「咲夜にも聞いたんだが、確かにここは構造上そういうものを作るのは不可能だな。あるとしても隠し扉で上下左右に移動できること、くらいか」

    にとり「隠れられるスペースは無いってこと」

    魔理沙「無いだろうな。なんなら、一緒に探してみるか? もう私は探し疲れたけど」

    こいし「一応見てみよっか」

    部屋に入る。中では数名の警官が現場検証をしていて、誰もが私たちを一瞥だけした。
    なんとなく軽く頭を下げ、部屋の中を見回す。何度見ても普通の部屋。隠し扉などがあるとは思えない。

    魔理沙「上下左右、どこもそう厚い壁じゃない。人が隠れられるスペースなんて全くないな」

    こいし「怪しい家具とかなかった? 例えば、隠し扉の向こうがクローゼットになってるとか」

    魔理沙「あれだろ? クローゼットが二重になってて、隠し扉を抜ければその裏側に隠れられるってやつ。両隣の部屋の家具を引っぺがしてみたが、そんなものはなかった」

    にとり「上は」

    魔理沙「この上は天井だが、この屋敷に屋根裏はない。天井はコンクリートだから、隠し扉なんか作ってたらすぐにわかるだろ」

    こいし「勿論屋根の上からも調べてみたんだよね?」

    魔理沙「ああ。けど、どこにも仕掛けなんてなかったぜ」

    こいし「そっか……」

    隠し扉や隠し部屋の類も全滅か……ならやはり、予め部屋に隠れていてにとりがそれを見落としていたとしか考えられない。
    でも、こうしてみてみてもわかる、見落としてしまうような場所なんて全くない。

    こいし「やっぱりここがネックか……」

    にとり「うーん……」

    魔理沙「謎過ぎてわけがわからん。番長ならどうしたかな、こういう時……」

    にとり「ややっこしい事する犯人だな……私ならもうあれよ。こんな細かい仕掛けなんかせずに窓ガラス突き破って逃げるけどね」

    こいし「トリックも何もあったもんじゃないなそれ」

    魔理沙「いやいやそれ以前にここ三階なんだが……というか何かその話聞いた事あるぞ。逃げる時に二階から窓ガラス突き破るって話」

    にとり「え、うそ、まじ?」

    魔理沙「ああ。お前昔はワルだったらしいな」

    にとり「黒歴史ってやつだよ……あれはあれで楽しかったけどね」

    こいし「いや、それでも高いとこから窓ガラス突き破って飛び出しはしないっしょ普通……」

    にとり「若気の至りってやつよ」

    こいし「マジでやった経験あるんかい」

    魔理沙「不良が警察に、か……ま、あれだ。二階や三階から飛び降りることがあれば、痛くないよう着地点に何か用意しておいてやるよ」

    こいし「トランポリンでも置いといてあげるともっと楽しくていいかもしれないね」

    にとり「馬鹿にしてるな?」

    魔理沙・こいし「してる」

    にとり「くっそ……」

    まぁにとりの武勇伝笑は置いといて……

    釈然としない。
    こんな、偶然やこちらのミスを想定に入れた犯行計画を実行するなんて考えられない。
    確かに慧音をここにかくまったのは突発的な事態ではあったが、だからって犯人はそんな短絡的な犯行に及ぶだろうか?
    実際成功してしまっているからなんとも言えないが、私ならもっと確実な策を考える。

    こいし「あ、そういや犯行に使われた銃って何だったかわかる」

    魔理沙「そうそう、それなんだけどさ。銃が使われたって事は弾から種類が特定ができると思ったんだが……」

    魔理沙はぽりぽりと後頭部を掻く仕草をした。それだけで、良い話にはならない事がすぐにわかってしまう。

    魔理沙「弾は回収されちまってた。状態からしておそらくベッドの上に寝かされて撃たれたんだろうが……人体とベッドを貫通して床に埋まったが、掘り出された跡があった」

    にとり「あの短時間で部屋から消えるだけでなく、銃弾を取り除く作業までやったっていうわけ……」

    こいし「もうむちゃくちゃだよ……」

    確かにこの状況でも、予めそれなりの準備をしておけば銃弾をほじくりだす事はそう難しいことではないのかもしれない。
    だが、私たちが部屋に入るまでにかかった時間なんて数分くらいのことだ。その間に、部屋から霧になって消えるだけでは飽き足らず、銃弾をも持ち去ってしまうなんて本当に人間に可能なのか……
    というかそもそも、本当に銃で殺されたんだろうか なんかもう、指からレーザーでも出てそれで撃ち殺されたんじゃないかとさえ思えてくる。

    魔理沙「それより、そろそろ現場検証も終わる。一旦皆を帰すことになるが」

    にとり「くそ、今のうちに何とか解きたいけど……」

    こいし「まぁ、相手は皆この町の要人たちだし、逃げるようなことはしないでしょ。それに逃げれば自分が犯人ですと言ってるようなもんさ」

    魔理沙「だな。まぁこの屋敷には立ち入らせないようにするし、証拠隠滅もさせないさ」




    こうして第五第六の事件は何の進展も無いままに一旦幕を閉じてしまった。
    それらしい仮説をいくつか立てることはできたが……こんなにも納得がいかないのは初めてだ。
    あの後、紫とにとりは捜査を立て直すためにとりの家に行ったが、私は少し頭を冷やすために公園でのベンチに座り、ぼんやり町の風景を眺めていた。
    もう夜が明けている。
    朝一に職場へ急ぐサラリーマンが齷齪と道を小走りに進んでいる様子はまるで、流れているビデオを見ているような感じがした。

    こいし「お姉ちゃん……」

    正直、お姉ちゃんの事件だってわからないことだらけだ。
    この事件を解決したいがために探偵になったとはいえ、これじゃあただの一般人と変わらない。
    手詰まりも何も、最初から進むべき道がわからない。仮設を立てたって、それを立証する方法が思いつかない。
    そうやってうだうだしているうちに、二年も経ってしまった。

    こいし「私じゃ、無理なのかな……」

    悔しい。
    どうしてこんなにも人生かみ合わないことだらけなんだろう。
    何かをしようとすれば何かがネックになってそれができなくなる。別の策を考えれば考える程、それを邪魔する要素も増えていく。
    私は、ただお姉ちゃんに感謝したかっただけなのに……どうしてそれをすることさえ、赦されないのだろうか。

    声「……そこで何してるの?」

    こいし「……」

    顔を上げると、蛙柄のかわったスカートが視界に映る。
    意外な来客だった。

    こいし「別に……事件の整理をしていただけだよ」

    諏訪子「ふーん。まだ私の事疑ってるの」

    こいし「…………」

    実際、諏訪子も容疑者のひとりと言うだけで、これといって確たる証拠があるわけじゃない。
    それに元々私が疑っているのは東風谷早苗で、諏訪子はその協力者か何かじゃないかってくらいにしか思っていない。

    諏訪子「貴女も大事な人を失ったんだってね」

    小言の一つでも言われると思ったけど、意外なことに諏訪子は私の隣に腰をおろした。
    ふっ、と白梅の香りが微かに鼻をくすぐる。この人、つけてる香水も意外なやつだな。

    こいし「誰に聞いたの」

    諏訪子「聞いたわけじゃないよ。ただ、貴女の事少し調べたら、古明地議員の娘だってわかったから」

    こいし「……あっそ」

    まぁ、別に隠していたわけじゃない。
    元々家からは勘当されてるし、議員の娘だなんて意識したこともない。
    私は、古明地さとりの妹。ただそれだけ。

    諏訪子「早苗もね、友人を失った。そのショックで記憶が欠けてしまったんだけど……」

    こいし「……アリスさん、だよね」

    諏訪子「うん。隣に住んでた刑事さん。もしかして知り合いだったかな?」

    こいし「顔見知りではあった」

    私は紫とは見知った仲だったけど、アリスさんとはそう親しくしていたわけじゃない。
    最初は刑事だということを知らなかったし、夜中に町をうろつく怪しい人物だとさえ思っていた。
    一度あとをつけてみたら紫と落ち合っているのを見て、警察関係者なんだとわかった。
    事件について調べているのは知ってたけど、なんていうか、個人的に接しにくそうな人物だったというのもあって、あんまり話をしたことがない。

    諏訪子「貴女は犯人を恨んでるよね」

    こいし「……まぁね」

    諏訪子「私も恨んでるよ。早苗をあんな風にしたんだから」

    こいし「それは、自分は犯人じゃないって言ってるわけ?」

    諏訪子「どう思おうと勝手だよ。私が何を言ったって貴女は考えを変えないでしょ?」

    こいし「まぁ」

    人に言われたからってすぐに考えを変えるようでは真実は見えてこない。
    自分が考えを変えるのは、確たる何かが見つかってからでなければならない。
    それが私の信条だ。

    諏訪子「私もね、捜査という捜査はできないけど、私なりに調べてみたりもしたよ」

    こいし「事件について?」

    諏訪子「うん。まぁ、調べられる範囲なんて貴女たちに比べたら狭いもんだけど」

    こいし「それを聞かせてくれるわけ?」

    諏訪子「まぁ、世間話だと思って聞いてよ」

    どういう風の吹き回しだろうか。
    同じ、犯人に恨みを持つものとして私に情報を提供しようとしてくれている?
    それとも彼女が真犯人で、単に捜査をかく乱しようと思っての行動かもしれない。
    どちらにせよ、話を聞くだけ聞いてみるのもいいかもしれない。判断するのは私自身なんだから。

    諏訪子「私は神職に人生を捧げてから、結婚に縁が無くてね。いまだに独り身なわけ」

    こいし「そうなんだ。でもまだ若いっしょ」

    諏訪子「ふふ、そうでもないんだな。こう見えて実はかなり歳とってるよ。華の二十台なんてとうの昔の話」

    こいし「へぇ。でもその見た目じゃ小学生でも通じそうだ」

    諏訪子「うん、褒め言葉として受け取っておくよ」

    こいし「で、見た目の若さ自慢がしたかったの?」

    諏訪子「いちいち刺々しいなぁ。まぁ、そんなわけで子供がいないんだよね。だから、早苗は子供みたいに可愛がってるんだよ」

    こいし「確か早苗は、両親がいないんだったね」

    諏訪子「そう。あの子は一人で生活をしてる。幼い頃に両親を失って、それ以降は孤児院で生活してきたからね」

    それは知らなかった。
    実を言うと東風谷早苗という人物を調べたはいいが、彼女の過去はいまいち把握することができなかった。
    就職をする前、孤児院にいた時代の事は伏せられているのか、彼女について何を調べてもその話は出てこなかった。

    諏訪子「今から言う事、本人に言っちゃだめだよ?」

    こいし「いちいち言わないよ。守秘義務と思って黙ってる」

    諏訪子「頼むね。実は……紙の上では私が、早苗の保護者って事になってるんだよね」

    こいし「養子にしたの?」

    諏訪子「まぁ、そゆこと」

    という事は、東風谷早苗はずっと彼女の庇護下にあるということか。
    このことを早苗が知らないということは、彼女は今でも一人で生きているように自分で思っているってわけね。
    でもこういうのって本人の意思の確認とかしなくていいんだろうか。何だか色々と事情がありそうだ。

    こいし「って事は、幼い頃から早苗の事を知ってるってこと?」

    諏訪子「あー、いや、実はそうでもないんだよね」

    こいし「っていうと?」

    諏訪子「だってほら、当時の年齢で言ったって、例えば小さい子を養子にするっていうのは、ね?」

    高齢出産は特に苦労することが多いと聞くしそれと似たような苦労をしそうという意味で言ってるのだろうけど、もともとのあんたの年齢知らないってば。
    それにしつこいようだけど、見た目を考えれば全然無理はなさそうだと思う。

    諏訪子「だから早苗の事を知ったのは、あの子が高校生くらいの頃かな」

    こいし「もう独り立ちできそうな歳なのに、引き取ったの?」

    諏訪子「あの子を気に入ったっていうのが大きいけどね。就職も、それでちょっとだけ優遇しちゃった」

    こいし「職権乱用じゃん」

    諏訪子「あーうー、まぁそうとも言う、かな?」

    どこの世界でも行われているかもしれないとはいえ、結構な話をぶっちゃけてくれた。
    まぁ、別にだから何ってないけど。私は探偵であって警察じゃないしね。

    こいし「話を急かすようで悪いけど、早苗も犯人じゃないって言いたいのかな?」

    諏訪子「それは勿論だけど、そういうのは前提で話してるんだよね。まぁ、貴女はそうは捉えられないかもしれないけどさ」

    こいし「私はあくまで自分の立場からしか推理しないからね」

    勿論それは、どこかに肩入れした推理をしない、という意味だが。

    諏訪子「私は早苗の疑いを晴らしたい」

    こいし「最有力の容疑者だからね、今のところ」

    諏訪子「確かに、当時事件現場にいてなおかつ記憶を失っている、なんて都合の悪い状況にある。けど、早苗じゃ記憶を失った後の犯行は無理だし、アリスさん以外の犯行だって現実的じゃない」

    こいし「正直に言うけど、私はその穴を君が埋めてるんじゃないかって思ってるよ」

    諏訪子「なるほど、それで嫌に私に絡んでくるわけだ。私は洋館にも行ったし、確かに容疑者としては充分かもしれないね」

    こいし「認めるの?」

    諏訪子「まさか。私はただ、私が知りえた情報を貴女に提供して、貴女が事件解決をするのと同時に私たちの疑いを晴らしてくれることを願ってるだけだよ」

    こいし「調子いいこというなぁ。で、その情報って何なの?」

    諏訪子「早苗はたぶん、幼い頃に誘拐されてる」

    こいし「……なんだって」

    ここへ来て、意外な言葉……いや、どこかで関係がありそうだと思っていた言葉を耳にした。

    諏訪子「憶測でしかないけど、私は貴女達の言う連続殺人事件の裏には誘拐事件も絡んでると思ってる」

    こいし「……その根拠は」

    諏訪子「乏しいけど……早苗は、はっきり言って一連の事件には無関係すぎる。でも、ただ巻き込まれたってだけじゃ納得できない」

    諏訪子「あの子は孤児院で暮らして、就職してからの生活は私がよく知ってる。もし何かあるとしたら、私の知らない時期……その誘拐に関係がある気がするんだ」

    諏訪子「それに、早苗にずっと援助をしていた人物も気になるしね……」

    きっと諏訪子はそこに確たる理由があるというよりは、それしか理由が考えられないという意味で言ってるんだろう。しかも、その説は自分で言いながら説得力は無いと思っているに違いない。
    けど……その推論は、私の中の想像を大きく膨らませる結果となった。

    諏訪子「火の無いところに煙は立たないって言うでしょ? 祟りも同じ。全く接点が無ければ、その人物に祟りは起こせない」

    こいし「事件もそういう事、って話か」

    諏訪子「正直、これでも全てを話したってわけじゃないの。事件とは関係ない部分だからだけど、都合良いように話してる節もある。でも、この話を貴女にすることで少しでも捜査が進展するなら、私たちの疑いが晴れるなら、活用して欲しい」

    こいし「……善処するよ」

    諏訪子「よろしくね。まぁついでにも一つ正直に言うと、あんまり神社に詰め寄って欲しくないのもあるけどね。早苗が警戒しちゃうから」

    こいし「わかった。神社には行かないようにする」

    諏訪子「うん、助かる。もし話があるのなら、私が町まで出て行くから」

    こいし「おーけー」

    そう言うと諏訪子は立ち上がり、ふっと息を吐いた。

    諏訪子「たはは、早苗の話は墓まで持ってくつもりだったのに、また話すことになるとはね」

    こいし「また?」

    諏訪子「前にもこの話をした相手がいるのよ。まぁ、色々あってね」

    諏訪子はもう一度息を吐いて身体を揺らし、歩き始めた。
    そのままこちらを向く事無く、歩いて公園から去っていく。

    こいし「誘拐事件か……」

    確かに、彼女の言うとおり、一連の事件を語る上でちょくちょく話題に上ってくるものの一つがこの誘拐事件だ。
    聞くところによるとかなり前から発生しているらしく、いまだに解決に至っていないらしい。
    誘拐事件が絡んでいると一番思わされたのは、第四の事件、フランドールが被害者となった事件だ。
    フランドールは数年前におそらく誘拐されていた。それが諏訪子の言う誘拐事件と同一であるかはわからないが、誘拐事件と何か関係があると思わせる事件だった。
    なら、猟奇殺人事件の犯人は誘拐事件の犯人でもあるという事なのだろうか
    はは、もしそうだとしたら、誘拐事件に絡んでそうだと思ってた諏訪子もやっぱり容疑者からはずれはしないんだけど……早苗可愛さに彼女を誘拐したのかもしれないし
    けど、誘拐事件についてもっとよく調べてみてもいいかもしれない。何か繋がるものが見つかれば、それが突破口になるかもしれないしね。
    そういえば、誘拐事件といえば何かもう一つこの町で起きた事件があった気がするけど、それはなんだったっけ?




    猟奇殺人事件……これを引き起こす人物は、大きく分けて二種類いると思う。
    片方は、常識や良識の欠如。非常に強い怒りや恨みを持っているために一時的に常識や良識を失っている、あるいは精神が未熟であるが故に常識や良識が著しく欠けている人物。
    もう片方は、猟奇殺人またはその状態になった人体に美的感覚を覚え快楽を満たそうとする人物。
    前者はともかく、後者はたいてい何もかもが普通、いや並以上に常識を持っているにも関わらず、ただ一点においてそれが著しく他と異なっている。
    例えば、人の死や肉体の損失具合をひとつの芸術として捉えていたり、人の異常な死に様や殺し方に快楽を覚えていたり、異常行動に何らかのメッセージをこめていたり。
    一連の事件の場合、無意味に猟奇殺人を行うような精神が未熟な人物による犯行とは思えない。どの事件に関しても、相応の頭脳と判断力が無ければ実現できない。
    だとするなら、これら事件には何か共通するものが存在するはずだ。
    だけど……どうしても、その線で考えると納得がいかない点が出てきてしまう。これだと思うパズルのピースをはめようとしても僅かに形が違うがためにはまらないような、そんな感覚を覚える。

    誘拐事件……これを引き起こす人物を特定するには、犯行の動機が重要になってくる。
    その多くは、自らの性的欲求を満たすための身勝手な犯行であるか、身代金など何かを要求するための手段として誘拐した人物を人質にするためか。
    いまこの町で不定期に起きている誘拐事件は、犯人側からの要求が一切無い。まるで神隠しにでもあったように、子供がある日を境に姿を消してしまう。
    目撃情報どころか心当たりすら誰にも全く無い。故に、何一つ手がかりを得る事ができていない。
    ただ、ここ最近になって、有力な情報と思われる話が地元警察に寄せられていた。誘拐された子と思われる人物がひとり、見つかったというのだ。
    ただ、なんとも奇妙な状況がそこにはあった。ある両親が数年前に誘拐された自分の子を町中で見かけたのだが、その子は全く知りもしない人物の子供になっていた。
    その子の親を名乗る人物が誘拐犯なのではと警察が捜査したところ、その人物はその子を引き取っただけだという事がわかった。
    まさに、洩矢諏訪子と東風谷早苗の関係ような状態。引き取った子供を養子にしていたということ。
    その子は孤児院に長らく預けられていて、ある日その人物に引き取られた。本当に、ただそれだけだった。諏訪子の言っていた早苗の過去と類似する。
    いったい何が目的なのだろうか。この誘拐が、猟奇殺人事件と本当に何か関係があるのだろうか。
    ちなみに孤児院側は、その子はある日孤児院の前に荷物の入った籠ごと置かれていたのだと説明したらしい。
    繋がるような繋がらないような、結局のところ謎が謎を呼ぶだけで解決の糸口になりそうなものは何一つとして出てこない。
    調べれば調べるほど新たな謎が出てきてわからなくなる。歩くことで自ら迷いの森を奥へと進んでいるような感覚だ。



    事件は、まだ終わっていないのだろうか。
    これまで、6人もの被害者が出てしまった。もうこれ以上被害者を出すわけにはいかない。
    私と同じような思いを誰にもさせちゃいけない。深い悲しみなんて知らないまま寿命で死ぬ方が幸せに決まってる。

    こいし「もうすぐお祭りか……」

    今年もまた、守矢神社でお祭りが開かれるらしかった。
    以前は目的が違ったらしいけど、今じゃ町を盛り上げようとそれぞれが力を合わせて楽しむためのお祭りと化している。
    なんてったって、町で相当上位の発言力を持つ洩矢諏訪子が主催する祭りだ、そもそも盛大にならないわけがない。
    今年は、どうしようか。
    去年は事件の事で頭がいっぱいだったからそれどころじゃなかった。今年だってそうだけど、もしかしたら良い気分転換になるかもしれない。
    屋敷の事件に関係してしまった人たちも皆来るだろうし、私も行ってみようか……




    2016年7月30日……守矢神社で毎年恒例の祭りが開催された。
    出店も沢山出てるし来る人も多い。けど、どこか物静かというか厳粛な雰囲気に見えるのは、ここが祟り神の神社だからだろうか。
    今では、信仰している人はごく僅かだと聞いている。けど、祭りの時だけだとしてもこうして神社に人が集まれば諏訪子も嬉しいのではないだろうか。

    輝夜「あら、探偵さんも来てたの」

    こいし「……会長さんか」

    輝夜「お願いだから、お祭りの空気を台無しにしないでね? もしそんな事があれば、容赦しないわよ?」

    こいし「はは、嫌われてるなぁ」

    輝夜「……何よ、元気ないわね」

    こいし「蓬莱会の会長さんに心配してもらえるなんて、光栄ですね」

    輝夜「つまらない発言できるなら、大丈夫か」

    こいし「大丈夫、今日は休業するつもりだから」

    輝夜「そう。ならお祭り楽しんでいきなさいね。何もしないなら、こちらも何もしないから。あなただって町の一員なんだし」

    そう言って輝夜は本堂の方へ歩いていく。周りに数名の取り巻きを連れて。きっと諏訪子に挨拶をしに行くのだろう。
    どうでもいいけど、輝夜と諏訪子ではどちらの方が権力が高いのだろうか。

    こいし「盆踊りか……」

    元はそういうお祭りではなかったみたいだけど、今じゃすっかり盆踊り大会がメインのお祭りになってしまっていた。
    ただ、この頃は祭りになると若者達も張り切るらしく、厄落としなんかも行うようになったらしい。
    境内の中央で大きな焚き火を作り一年の厄を焼いて落とすという趣旨なのだが、そういえばこの行事の発案者は第一の被害者である鍵山雛のものだった気がする。
    彼女は弁護士になる勉強のほかに、こうやって地域活動にも手を出してたんだな。

    早苗「ひよこ! ひよこ!」

    諏訪子「こらこら、あんまりはしゃいじゃダメだよ」

    早苗「でも、とっても可愛いですよ! ひよこ可愛い!」

    諏訪子「ふふ、そうだね」

    すぐ近くで早苗と諏訪子がひよこ売りの屋台を覗いていた。輝夜とは入れ違いになったのだろうか。
    ……こうして見ると、容姿はともかく、本当の親子みたいに見えてくる。確かに、職場の上司というにしてはすごく距離が近いとは思っていたが。
    声をかけたいけど、ついさっき輝夜に探偵は休業すると言ったばかりだしな……

    てゐ「お嬢ちゃんいつも見るね。でも、飼えないんだっけか」

    早苗「うん、そうなんです。悲しいです」

    てゐ「生き物を飼うっていうのは大変なことだからね」

    早苗「うー、それ先輩にも言われました……」

    てゐ「私としてもね、可愛がってくれるだけじゃなくて、責任もって命を扱える人にしか売りたくないんだよね。勿論、君にその資格が無いとは言わないけど、色々事情があるみたいだし」

    早苗「はい……」

    諏訪子「そのうち、境内に鶏小屋を作ってもいいかもしれないね。その時にお願いするよ」

    てゐ「ほう。それは楽しみだ。もしそうなったら、定期的にお参りついでに様子を見にくるよ」

    諏訪子「ええ、ぜひぜひ」

    早苗「そのときが楽しみです!」

    なんともあったかい会話だなぁ。
    私も、お姉ちゃんと普通に過ごすことができたら、こんな会話を交わせたんだろうか。
    私にしても早苗にしても諏訪子にしても……この町にいる人の多くは、愛に飢えている気がする。
    しかし、ひよこ売りか。
    ひよこ売りに出されるひよこは、不要な存在……要するに卵を産まない雄だと聞いた事がある。
    成長すると鳴き声が煩くて近所迷惑になったりするって聞くけど、その辺この町じゃどうなってるんだろうか。

    妖夢「あなたも、この町の『灯』を見にきたんですか?」

    こいし「え」

    ふと隣を見れば、いつからいたのか西行寺家の二番手、魂魄妖夢の姿があった。
    彼女は私の方を向いておらず、境内のほうを眺めているようだった。

    こいし「火って」

    妖夢「灯りの事です」

    ふむ。なら『火』じゃなくて『灯』ってところか。

    妖夢「このお祭りでは、いつも町の灯がよく見えます」

    こいし「よくわからないけど、人間が持つ灯りって解釈でいいのかな?」

    妖夢「まぁ、そんな感じですね」

    なんていうか、面白い感性の持ち主なんだな西行寺二番手。
    頭首である幽々子が姿を消してしまって毎日神経をすり減らしているだろうから、こういう時くらいは落ち着きたいのかもしれない。
    ……いや、これを機に内情を聞いてみるのもいいかもしれない。
    これは探偵活動じゃないぞ、ただの興味だぞ。

    こいし「幽々子さん、今も見つかっていないんですか?」

    妖夢「……あなたは探偵でしたね」

    こいし「いやぁ、これはただの私の興味だよ。探偵は今日はお休みです」

    妖夢「なら、この世界に首を突っ込まない方がいいと思いますよ」

    こいし「だよねぇ。変なこと訊いてすみません」

    妖夢「……まぁ、そろそろ誰かに話してもいいのかもしれません」

    こいし「っていうと?」

    妖夢「むしろ、あなたのような立場の人間になら話したほうがよさそうだ」

    そこで妖夢が初めてこちらを向いた。
    さっきまでの哀愁漂う表情とは打って変わって、西行寺家の二番手としての顔になっていた。

    妖夢「ここなら誰にも聞かれていないでしょうから、手短に話します」

    こいし「う、うん」

    輝夜にもたびたび脅されるが、ここまできちんと『仕事』の顔をされたことはない。
    なんだかんだ、輝夜は表の顔でしか私に接することは無いんだと痛感させられる。

    妖夢「幽々子様の所在は、私も輝夜様も知りません。というか、蓬莱も西行寺も全く知らないのです」

    こいし「その状況は噂には聞いてたけど……本当ってことなんだね?」

    妖夢「そうです。一応表向きは、幽々子様はずっと家にいるということになっていますが……」

    全く姿を見せないわけだし、色んな噂が立っても仕方が無い。口に出さずとも、妖夢がそう沈黙で語ったのはわかる。

    こいし「じゃあ正式に依頼してくれたって事でいいのかな?」

    妖夢「表立っての行動は避けていただきたいですし、お耳に挟んだ程度でお願いします」

    こいし「おーけー」

    まぁ幽々子の所在は気になってたところでもあるし、お姉ちゃんの事件が解決したら取り掛かりたいと思う。
    探偵業、続けていくのもいいかなって気になってきたしね。

    妖夢「前払いではないですが、一つだけお話をしておきたいと思います」

    こいし「なにかな?」

    妖夢「この町で起きた数々の殺人事件ですが……奇妙な姿をした鳥が関係している、という話をご存知でしょうか」

    こいし「鳥?」

    どうして鳥なんか……と思ったが、一つだけ心当たりがあった。
    それは、現場に残された数少ない手がかりのようなもの。第一の事件や第二の事件、第四の事件には日本に存在するどの種とも特定できない鳥の羽が落ちていたのだ。

    妖夢「はい。おそらく突然変異種だと思いますが、この町には奇妙な姿の鳥が住み着いているという噂があります」

    こいし「噂って」

    こういう世界にいる人って俗世の噂を気にするイメージがないから、思わず突っ込みを入れてしまった。

    妖夢「殺された方はみな、猟奇的な殺され方だったと聞いています。その噂というのは、その奇妙な鳥に殺された、というものです」

    こいし「ってことは、なに その鳥は化け物で、被害者達を食い散らかしたってこと」

    妖夢「そこまでは言いませんが……実際に奇妙な鳥らしき生物の目撃例はいくつかあります。その鳥が殺害した、なんて話はあまり信じられるものではありませんが、もしかしたら何か関与しているかもしれません」

    こいし「なるほど。でも、あれだよね。そんな噂だけが『お話』じゃないよね?」

    妖夢「……食えない人ですね」

    妖夢は一瞬だけ表情を緩ませふふと笑みをこぼし、すぐにまた西行寺の顔に戻す。

    妖夢「違法薬物が確認されています」

    こいし「薬物?」

    妖夢「まぁ、麻薬の類です。うちは勿論、蓬莱でもご法度とされていますが……うちの若い衆が流通を確認したそうです」

    こいし「それは、なんとも……どこで見つけたの?」

    妖夢「いえ、流通の形跡を発見したというだけで、実物の確認には至ってません」

    こいし「流通の形跡っていうのは?」

    妖夢「ここからは更に内密な話になりますが……西行寺は蓬莱に諸々譲ったとはいえ、こちらもしのぎが無ければなりません。これは、うちのシマで起きた話なのですが」

    もうこの際だからその手の世界の色々は意識しない事にしよう。うっかり口にした日には、海の底に沈む未来が確定しそうだし……

    妖夢「見慣れない業者がいたのでチェックを行ったところ、不正に流通を行っていた事が発覚しました。問い詰める前に彼は自害してしまいましたが、その彼の手荷物からは微量にですが麻薬のような成分が検出されました」

    こいし「ふむ」

    妖夢「ただ、その麻薬は全く知らないものでした。成分分析を詳細に行える人物はうちにいませんし、咎める側とはいえこれを持って警察や病院には行けません」

    こいし「まぁ」

    妖夢「当時私は今より諸々不安定な状態にありましたから、まずその薬物がどういうものかを確かめようとしました。発見した当時は麻薬だという確信もありませんでしたので」

    まぁそりゃそうだよね。見ただけで麻薬とわかるなら、それは慣れ親しんでる証拠なわけだし。

    妖夢「自分達で行える成分分析の一環として、僅かながらこの薬物の成分を実験的にひよこに投与した事があります」

    なぜひよこなんだ、と言おうと思ったけど、なるほどあそこにいるひよこ売りが毎年沢山ひよこを売りにきてるな……
    ということは、これがあったのは去年か一昨年の今頃って事か。

    妖夢「するとひよこは凶暴化し、自我を失ったように暴れだしたのです」

    こいし「投与した瞬間に?」

    妖夢「瞬間というと語弊がありますが、数分も経過しないうちにです。凶暴化しただけで容姿に著しい変化が見られたわけではありませんが……麻薬のような成分である事は、この実験からほぼ確定しました」

    こいし「ふむ」

    ここにきて『薬物』という新たなピースを手に入れてしまった。今までかすめもしなかった手がかりの登場に、正直困惑を隠しきれない。
    しかも、可能性の話とはいえその薬物で鳥が凶暴化し人を殺すかもしれない、というちょっと驚きのもの。
    まぁ鳥云々は別にしても、この薬物が事件のどこかで使用された可能性は新たに考えるべきなのかもしれない。徒労に終わる可能性もあるけど。

    妖夢「一連の事件にこの話が絡んでいるかはわかりませんが……一つの情報にでもなればと」

    こいし「うん、充分だよ、ありがとう」

    妖夢「いえ。表立って協力はできませんが、何かわかったことがあればお伝えしていこうと思います」

    こいし「おーけー。こちらも、よろしくです」

    妖夢は軽くお辞儀をし、祭りの雑踏へ姿を消した。なんとなく目で追ってみたけどすぐにどこに行ったかわからなくなってしまった。

    こいし「どこも色々ですなぁ……」

    何にしても、西行寺を味方につけることができたのは大きい。
    しかし、諏訪子といい妖夢といい、協力してくれる人物が増えてきた。これはどういう事なんだろうか。
    素直に好意を受け取ればいいんだけど、この辺疑ってしまうのは性格なんだろうなぁ。案外探偵は向いてるかもしれない。

    声「先日は、どうも」

    こいし「ん」

    またしても声をかけられた。あんまり聞いた事ない声だな……そう思って振り向くと、意外な人物が立っていた。

    こいし「あ、これはこれは」

    鈴仙「お祭り、楽しんでもらえてますか?」

    こいし「あ、はい。ただ私、自分が楽しむより周りが楽しんでるの見る方が好きなんだよね」

    鈴仙「なるほど」

    屋敷でご一緒したとはいえ会話なんてしなかったから、初対面も同然だ。
    そして、思い出す。この人、このお祭りの実行委員長だったなぁって。

    鈴仙「この町じゃ楽しい行事なんてほとんど無いですからね。せめて、こういうイベントでも開催しないとと思って」

    こいし「いやいや、良い町だと思うよ。まぁ確かに、若者にはちょっとつまらないかもしれないけど」

    鈴仙「ふふ、貴女も充分若者でしょうに」

    こいし「あはは、まぁ、否定はしないけどね」

    鈴仙「……確かに、この町は事件が多いです。こうも立て続けに事件が起きてしまうと、治安が悪いと言われても仕方ありません」

    こいし「まぁ……ある程度は仕方ないと思うよ。そういうのって、事件を起こす人のさじ加減だし」

    鈴仙「住みやすい町を目指してるんですけどね。どうにもなかなか」

    こいし「鈴仙さんはこのお祭り以外にも、町興しの何かをしてたり?」

    鈴仙「ええ、一応は。この町は町長と呼べる人物がおりませんし、蓬莱の会長さんの存在だけでは上手に纏まらないと思うんです」

    これはまた大胆な発言をされる。
    でも、言ってる事は確かにその通りだと思う。蓬莱は権力こそあるかもしれないが、代替わりしてそう時間が経っていない事もあり、町の細かな部分にまで目が行き届いているとは言えそうに無い。
    それは蓬莱が悪いというわけではなく、この町の特色からいって仕方の無い事だ。そもそも、古くからこの地域に住み着いている守矢神社周辺の集落と、私の家がある町の方とでさえ見えない格差が広がっているのだから。
    だから、輝夜と諏訪子でどちらの方が権力があるのかわからないような状態になる。ただ、それぞれ仲悪いわけじゃないのが救いだけど。

    鈴仙「そろそろ厄落としが始まります。このイベントも、町の人が考えたものなんですよ」

    こいし「鍵山雛さん、でしたよね」

    鈴仙「ご存知でしたか……」

    なんとなく、沈黙が流れてしまう。
    鈴仙さんも町興しを考える者の一員として、鍵山雛が被害者になってしまったのは非常に残念なことなのだろう。きっと、このイベントを行うにあたって何度も話し合いをしてきたに違いない。

    鈴仙「私は、外から人を呼ぶというより、まずは町の中が元気になってほしいんです。例えば、こちらの集落と町の溝をなくしたい」

    こいし「やっぱり溝、あるんだ?」

    鈴仙「ええ、そう悪い状況ではないんですけどね。ここの方達は今でも昔の暮らしや信仰を大事にされていますけど、町の方はそういった物をあまり重んじない方が多いので」

    こいし「まるで都会と田舎、だね」

    鈴仙「どういう事ですか?」

    こいし「都会には各地方から来た人たちや地元の人たちがひしめき合ってるし、当然だけど色んな考えを持った人が集まる。要するに、ごちゃまぜなんだよね。けど、都会の人はあまり田舎には行かない。だから、田舎ではそこ独自の文化が強く栄える」

    鈴仙「なるほど、似てるかもしれません。多種多様な文化が混ざり合う町、ひとつの文化が大切にされている集落……参考になります」

    こいし「どちらも理解が無いわけじゃないんだけどねぇ。あっちの事は関係ない、って思っちゃう。ある意味、迫害しあうよりも深刻な状態かな……」

    鈴仙「あはは、うちはまだそんな深刻じゃないですけどね。こうして祭りをすれば皆来てくれますし、町でイベントがあれば集落の方も来てくれます」

    こいし「単純に距離的な問題かもね」

    町と集落は同じ地域とはいえ、バスで向かっても一時間はかかる。途中に広がるのは森ばっかりで、集落のほうは隔離されていると言われたって納得してしまえるくらいだ。
    こんな状況では、どうしても同じ地域に住んでいると思うのは難しいだろう。そして、そう思えなければ当然考え方も違ってくるし、纏めるには一苦労あるはずだ。

    鈴仙「でも、こうやって何か楽しい事……趣味の世界でも何でもいいですから、交流を持っていればいつかは綺麗に纏まる気がするんです」

    こいし「確かに。楽しい事を共有するってほんとに素敵なことだよね」

    例えば私なら、ダーツの大会とか開いてくれると喜んで参加するんだけどな。

    こいし「鈴仙さんって射撃が趣味なんでしたっけ」

    鈴仙「ご存知でしたか。一応これでも各方面で賞をいただいたりしてますよ」

    こいし「まじで! すごいな。でも私も負けてないよ! ダーツならそれなりに上手いからね。大会とかあってもあんまり負ける気がしない」

    まぁ流石に誇張してるけどね。私の場合は単に趣味が高じただけだから、正式な大会とか出たことないし真面目に言えば出場して優勝したいって欲があるわけじゃないかな。

    鈴仙「ふふ、自負しますか。私も誰にも負けない、と言いたい所ですが……」

    こいし「何かあるの?」

    鈴仙「いえ、以前どうして勝てない相手が一人いましてね。彼女と大会でまみえる度に私は涙を呑みましたよ」

    こいし「はえー、ライバルってやつか。あつい展開だねぇ」

    鈴仙「一度も勝てませんでしたけどね、凄く悔しいです。まぁ、その方も最近は姿も見せませんけど……」

    こいし「引退しちゃったとか?」

    鈴仙「どうでしょう。単に引退したというだけならまだいいのですが……」

    こいし「まぁそれぞれに色々事情があるよね……あ、ねえねえ」

    鈴仙「なんです」

    こいし「ああいう射撃って、だいたいどれくらい上手くできるもんなの?」

    鈴仙「どれくらい、といいますと……」

    こいし「あ、えっと、どのくらい遠くの的に当てる事ができるか、とか」

    鈴仙が趣味としている所とはまた別の分野の話なのかもしれないけど、こういうのって気になる。漫画とかによく書かれたりするけど、あれって現実にも可能なのかなぁって。

    鈴仙「私の狙撃可能距離という事であれば、おおよそ3km程度ですね。ただ、これ程離れた距離からとなると確実には無理ですし、ただ本当に『的にあてるだけ』という事になりますが」

    こいし「さ、3キロって……でも、そのライバルさんはもっとすごいんでしょ」

    鈴仙「どうでしょう。一度、約の距離からの狙撃勝負をした事ありますが、少なくとも彼女には勝てませんでしたね」

    こいし「先の的にあてられるかどうか、的な?」

    鈴仙「そんな感じです。私たちがやったのは、的をつ用意し、何発あてられるかを競いました。結果私はかろうじて当たったものも含め発、対する彼女は全弾的の中央をぶち抜いてましたね」

    こいし「おそろしいなー……」

    そんな実力があるのなら、きっともっと射程距離が長くても当てる事ができるのかもしれない。そんなとんでもない射撃、是非とも生で見たいもんだ。

    鈴仙「まぁ世界には以上の距離から的を撃ち抜くスナイパーもいますからね……あ、火がつきましたね」

    こいし「おお」

    鈴仙と話をしているうちに、いつの間にか境内の中心に囲いのようなものができていた。その中には、木々をはじめ、厄を溜め込んでいるであろう色んなものが入れられている。

    こいし「うん なんだろう、あの袋……」

    鈴仙「袋?」

    こいし「うん。ほら、真ん中のほうに、ねずみ色の大きな袋がない?」

    鈴仙「ありますね……なんでしょう。結構大きいですけど」

    こいし「嫌な予感がするな……」

    鈴仙「嫌なって……」

    囲いはかなりの大きさがある。その袋も結構な大きさだけど、他にも沢山のものが入れられているおかげで目立つと言うほどじゃないんだけど……
    考えてる間にも火はどんどん大きくなる。おそらく、囲いの木々には油か何かがしみこませてあるのだろう、火の手が回るのは早い。

    鈴仙「うっ……なんか、酷い臭いが……」

    こいし「周りも騒がしくなってきたな……というか鈴仙さん、これって……」

    鈴仙「ええ……これは、肉が燃えた臭い……」

    こいし「じゃあやっぱりあの袋って……っ!!」

    鈴仙「こ、こいしさん!」

    人ごみをかき分けて走る。
    すぐに厄落としをしている場所まで辿り着いたけど、もう火がすごい勢いで燃え上がっているため中にあるものを確認することができない。

    にとり「こいしさん!」

    こいし「んあ、にとり」

    紫「貴女も来てたのね」

    こいし「うん。それより……」

    紫「ええ……」

    三人で火柱を見上げる。
    周囲は既にパニックを起こし始めていた。慌てて逃げようとする人、遠くへ避難し事態を見守る人、その場で嘔吐する人……

    にとり「周りを誘導してきます」

    紫「ううん、諏訪子や輝夜がはじめてるから、私たちは消化と確認をしましょう」

    こいし「だね。これはたぶん、警察の仕事だよ……消防は?」

    にとり「もう準備してる。元々、いつでも消化できるよう対策してあるみたいだし」

    こいし「じゃあそこを手伝おう」

    紫「そうね。ぼんやり見てるわけにもいかないわ」



    周囲に控えていた消防班により、厄落としの火柱はすぐに消すことができた。
    私たちは水浸しになった燃えカスから例の袋を探す。やや遅れて、魔理沙がやってきた。

    魔理沙「ひ、人が燃えたって、ほんとか?」

    こいし「うん、たぶん……あれは人が焼ける臭いだった」

    紫「まさか、第七の事件だっていうの……」

    にとり「そんな……あ、ありました! たぶん、この辺りです」

    にとりが袋のかけらを見つける。消火が早かったため一部は燃えずに残っているようだ。
    その周囲を徹底的に探す……ほどなくして、想像していた最悪の事態が現実となったのがわかった。

    こいし「これは酷い……」

    まず見つかったのは足の骨。そこから追って消し炭を除けていくと、胴体や顔があるのもわかった。

    紫「人が燃えていたなんて……」

    魔理沙「なあ、燃えてたのって誰かわかるか……?」

    にとり「ううん、わからない。気づいたときにはもう火の手が……」

    こいし「ねずみ色の袋に入れられていたから、最初は何かもわからなかったよ」

    肉体は焼けきったわけではないが、顔の皮膚はぼろぼろに爛れてしまっていてそれが誰かを判別するには目視ではかなり難しいだろう。
    元々遺体はすぐ燃えるよう細工がされていたのか既にぼろぼろの状態だったのか、男女を判別するのも難しい。体系からして女性だと思うけど……

    魔理沙「そうか……あのな、非常に嫌な予感というか……もしかしたら、心当たりがあるかもしれないんだ」

    にとり「ど、どういう事?」

    嫌な予感……それはきっと、私たちにとっても非常に厄介な事実に違いない。
    できれば私の思うとおりであってほしくない。誰が燃えていたとしても最悪の事態ではあるんだけど、その中でも今死なれると困る人物がいる。
    魔理沙の言葉の続きを、私は聞く準備がまだできていない……

    魔理沙「私がさっきまでこの場にいなかったのには理由がある……ある人物を探していたからだ」

    紫「それは誰?」

    魔理沙「……病院から姿を消した、パチュリーだよ」

    最悪だ。
    最悪の事態の中の更に最悪……嫌な事は言葉なんかにしなくたって、本当になるもんだ……

    にとり「パチュリーさんって、病院で安静にしてたんじゃ……」

    魔理沙「それが、突然病室から消えたらしい。窓が開いてたけど、彼女の病室は三階だから飛び降りて無事でいられるわけはないし……」

    紫「じゃあ誰かが連れ去ったっていうの? あの病院から?」

    魔理沙「わからない。わからないが、もしかしたら、もしかしたらだぞ? その焼死体って……」

    厄落としで燃えていたのはパチュリーなんじゃないか……誰もその言葉を口にしなかった。
    パチュリーは重要参考人として暫く警察にご協力いただく予定になっていたはずだ。
    友人を失い気が動転しているとはいえ、早苗のように記憶を失ったわけでもないし、特に屋敷で起きた事件については色々と聞きたいことがあった。
    もしかしたらパチュリーが犯人かもしれない……そんな想像も、無かったとはいえない。でも……

    こいし「また、命と手がかりがひとつ消えてしまった……」

    手がかりになりそうなものは、つかもうとしたその瞬間に姿を変え……ついには消えてしまう。
    まるで、事件の真相を解き明かそうとしている私たちをあざ笑うように。

    魔理沙「とにかく、鑑定を急ごう」

    にとり「誰だよ、こんなことするやつ……くそ!!」

    殺人自体、赦されたものじゃない。
    たが犯人は豪快にも、私たちの前で堂々と犯行に及んだ。
    前回の密室殺人もしかり、今回も私や警察がいる事を知りながら何食わぬ顔で人間の入った袋を囲いの中に入れ、燃え上がらせた。
    人の命を、私たちを馬鹿にするにも程がある……!

    紫「焼けたのが誰かにも関わらず、これは第七の事件として捉えた方がよさそうね……」

    にとり「やっぱり、そうなりますかね……」

    第七の事件……はっきりしたことはまだわからないが、私もそうなるんじゃないかと思う。
    もう、どんな事件が起きても全てこの猟奇殺人事件に繋がってくるんじゃないかって、そんな気にさえなってしまうよ……



    暫くして、焼死体が誰なのかが判明した。
    私たちはその結果を一番に聞いて、奥歯をかみ締めることになる。

    魔理沙「パチュリーで間違いないそうだ。完全に焼けたわけじゃないから、歯型なんかからはっきり判定できたらしい」

    魔理沙「ついでに、図書館と洋館の捜索も完了したと報告しておく。彼女はどういうわけか衣服を全て脱がされ、服は茂みに捨てられていた。彼女以外の指紋は出ていない。ただ、館長室の鍵もポケットから見つかって中の捜索が可能になったが……スペアキーは確かに館長室にあった。沢山の本に埋もれてた」

    それは要するに、どの部屋の鍵のスペアも持ち出されていなかったということ。つまりは、第五第六の事件にそれらが犯行に使われた事は一切なかったということだ。

    魔理沙「くそ、次の事件に備え切れなかった自分に腹が立つ……」

    にとり「こんなことって……」

    紫「普通に考えれば、彼女から有力な情報を聞き出されないようにするため先手を打ったというところでしょうね」

    こいし「くそ……」

    有力な情報……そうは言うが、パチュリーから聞き出せたことなんてあの屋敷に関することくらいのはずだ。
    これが口封じだとして、いったいどんな真実が彼女の口から語られることを恐れたっていうんだろう?
    第五第六の事件を受けてパチュリーが話す驚愕の事実ってなんだ? そんなもの本当にあるのか?

    にとり「こうなると、咲夜さんも危なくなりそうですね」

    紫「彼女に警護をつけましょう。霧雨さん応援お願いできるかしら」

    魔理沙「ああ、そのように手配する」

    フランドールが死んでレミリアが死んで、パチュリーまで死んでしまった。こうなると次は彼女達に関係の深い咲夜が狙われても不思議ではない。
    というか、そもそも誰も彼も狙われなければならなかった理由がいまいちはっきりしていない。
    彼女達に繋がるものってなんだ? その中にはお姉ちゃんも含まれてるわけだけど、いったい何が彼女達を繋いでるってんだよ……

    紫「これじゃあ私たちが役立たずって言われても仕方ないわね……」

    にとり「起きるとわかっていた犯行も、とめることができませんでしたしね……」

    こいし「もう、犯人は楽しんでるんじゃないかとさえ思えてくるよ……今回だって、私たちの目の前で犯行を行ったわけだし……」

    魔理沙「……そのことだが、パチュリーは死んだ状態で焼かれたそうだ。つまり、別の場所で殺されたって事になる」

    やはりか。あの状況であそこまで燃えてしまったのは、予め遺体に細工がされていたに違いない。

    紫「なら、誘拐した後に殺害、そして厄落としに……」

    にとり「迂闊だった……パチュリーさんが狙われることも予想できたはずなのに」

    こいし「それは仕方ないと思う。それを言ったらキリがなくなるよ……」

    もう、誰が狙われるのかなんてわかったもんじゃない。誰が狙われても納得してしまいそうだ。狙われる理由さえわからないんだから、次に誰が被害者になったっておかしいと思えない。

    こいし「…………」

    ……そういえば予言はどうなったんだろう。慧音のところまでしか書かれていなかったけど、犯行はこうして続いている。

    こいし「……あれ?」

    何か変だ。
    何かが引っかかる。
    ちょっと待て。考えろ、考えるんだ。この違和感の正体は……何

    こいし「……?」

    予言……そもそも、どうして予言なんて話になったんだっけ?
    そう、特対班の一員であったアリスさんの残した手がかりに、予言とも取れる調書が残されていたんだった。
    えっと、それって今誰が持ってるんだっけか。
    いや、違う。そうじゃない。

    にとり「私は咲夜さんの警護に回ります。もしかしたら、犯人が姿を現すかもしれない」

    魔理沙「よし、私も行こう。これ以上犯行を続けさせてたまるかってんだ」

    紫「わかったわ。私は今回の事件について纏めておくから、それがすんだらすぐに向かうわね」

    こいし「…………」

    アリスの調書には被害者の名前と日付が書かれていた。
    でも、今回の事件や一つ前のレミリアの事件については書かれていなかった。でも、犯行はまだ続いている。
    なら、やはりあれは予言ではなかった?
    ……違う、逆だ。
    書かれていなかったのに犯行が行われたんじゃない。書かれていたものを見つけていないだけ……そういえば足りないページは何ページだと紫は言っていた?

    こいし「……23ページ目が、見つかっていない」

    魔理沙「おい、あんたはどうするんだ 私たちはこれから……って、おい!?」

    私は、周りの言う事に反応せず、ひとり、走り出した。




    私の推理が正しければ、これは精巧に仕組まれた連続殺人事件。
    まだ、わからない事は沢山ある。手がかりになると思っていても、全くアテが外れているかもしれない。
    でも……嫌な予感だけは当たるもんだ。なら、その予感だけはきちんと確かめておかなければならない。

    こいし「手がかりになりそうなピースは幾つか出ている……」

    こういう時、探偵もののドラマや漫画だとこう言うんだろうな。
    『私はもしかして、大きな思い違いをしていたんじゃないか?』って。
    これはきっと、私にしたって同じなんだと思う。私は事件を色んな角度から見ているようで、結局は同じような見方しかできていない気がする。
    じゃあ何をどのように変えればいいかなんて考えてもわからないけど……

    こいし「着いた……」

    息を切らせながら辿り着いた先……元はアリスさんの家、今はにとりの家を見上げる。
    アリスさんは調書をわざわざ家に隠していた。それは調書を書いた当時には見せる気がなかったという事。
    きっと彼女は予感していたのだろう。自分が被害者となってしまうことに。
    だからこそ、彼女は残した。後任に、後でこの事件についてを捜査する誰かに、それを引き継いでもらうために。
    そして私たちが見つけた二枚の調書。だが、調書は三枚あったはず。あの時は慧音を守ろうとしていたから一枚足りない事に気づいてなかったけど……残りの一枚も、このどこかにあるはずだ。

    こいし「冷蔵庫にはもうないかな……」

    とにかく、彼女の遊びのような暗号を解いている暇は無い。というか、手元に資料が無いから確認のしようがない。
    被害者の名前と日付が書かれているのだとしたら、見ればすぐにわかるだろうし。

    こいし「名前すらないな……冷蔵庫じゃないのか」

    二枚の調書は冷蔵庫に貼られていた。
    だが、冷蔵庫のどの紙を見ても三枚目と思われるようなものはない。

    こいし「まさかその紙だけなくなったなんて事ないよね……」

    別に、予言の書かれた紙なんてどうでもいいのかもしれない。
    確かに、もしかしたら次の被害者が書かれているかもしれないし、更に別な情報が書かれていたりするかもしれない。
    だけどこうして躍起になって探したって、見つかる保障すらない。

    こいし「……ん?」

    かさ、と何かが足に触れた気がした。
    見てみると、机の下に何かが落ちていた。

    こいし「これは……三枚目!?」

    紙に書かれた名前と数字……間違いない、これが三枚目だ。
    発見した調書を見ている最中に一枚落としてしまっていたんだ。しかもそれに気づかなかったなんて
    でも、これが見つかったからにはもう大丈夫。この予言が本物だと信じて、次の被害者を守りに行く事ができる。
    今度は、今度こそは、予言の通りになんかさせない。絶対に守ってやるんだ。

    こいし「…………」

    紙を手に取り、じっくり眺める。
    暗号とも言えないレベルの暗号に意味を持たせて読んでいく。

    2016年7月20日 レミリア・スカーレット

    2016年7月30日 パチュリー・ノーレッジ

    やっぱりか。やはり二人のこともきちんと書かれていた。となれば、次に書かれている人物を今から守りに行ける。

    こいし「守りに……」

    視線を落としていく。パチュリーの次に被害者となるであろう人物の名前が目に入る。

    こいし「は…………」


    2016年7月30日 古明地こいし


    ゴツン

    こいし「がっ……」

    次の瞬間、後頭部に重く鈍い一撃をもらった。
    そして私の意識は……そこで途切れて…………











    世界が、真っ赤に染まっていた。
    ずっと灰色だった私の人生。でも、お姉ちゃんが沢山の色をくれたおかげで、私の人生はカラフルになった。
    そして今、私の人生はまた一色に染まりつつある。
    だけどそれは、灰色にじゃない。感情を失ったからではなく、彩りを失ったわけでもない。
    ただ一つの色に染まっただけなのだ。他の何色でもない、赤、赤、赤に。

    真っ赤な空が広がっていた。
    真っ赤な星が流れていた。
    真っ赤な雲が浮かんでいた。
    私の手は真っ赤だった。
    私の足も真っ赤だった。
    私の全てが、真っ赤だった。

    お姉ちゃんがくれた懐中時計が、かちゃりと音を立てる。
    初めてお姉ちゃんからもらった誕生日プレゼント。私の、たった一つの宝物。

    ああ、今になって確信を持てたことがある。
    レミリアが刺されて死にそうになった時、どうして助けを求めたりしなかったんだろうと思っていた。
    刺殺ということは、おそらく即死はしていない。今の私のように。
    それに、あの状況だと犯人はレミリアを刺した後すぐにその場から逃げたはずだ。誰かに見つかってしまったら全てが台無しになってしまうから。
    なら、抵抗したり何か手がかりを残したり、そういった事がまだできたはずだ。きっと死に絶えるまで、幾らか時間があったはず。
    だけど彼女は、そういった事を全くしないで、別のことに時間を使っていた。

    妹を失っていた彼女のように、姉を失った私なら、わかる。
    今私は、もう幾許もないだろう僅かな命の時間を、抵抗とか手がかりを残すとか、そういったことに使っていない。
    誰が犯人とか誰が次の被害者とか、私の自慢の推理でさえも、もうどうでもいい。

    お姉ちゃんと過ごした大切な時間、お姉ちゃんとの楽しかった思い出、お姉ちゃんのぬくもり、お姉ちゃんの笑顔、お姉ちゃん、お姉ちゃん、お姉ちゃん……


    お姉ちゃん、私に沢山の色をくれて、ありがとう。
    楽しいとはどういう事か、教えてくれてありがとう。
    私の事、愛してくれてありがとう。

    ずっとずっと、お礼を言う事ができなかったけど、もうすぐ会いに行けそうです。
    また会う事ができたら、その時は、その時こそは…………


























    ここは……どこだろう…………


    混濁する意識の中……真っ暗な闇の中で……私は、何を…………


    もしかして…私はもう、死んでいるの……?


    ……いや、違う


    私はまだ…………


    アリス「生きてる……!」





    世にも奇怪な物語 自慢の推理 終
    自慢の人生 へ続く



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