アリス「不思議の国?」【東方SS】
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アリス「不思議の国?」【東方SS】

2017-08-31 00:13
    これは東方のSSです。





    -さわぐウサギと問う狐-



    ある昼下がり。
    あまりに良い天気だったので家の外でお茶を飲みながらうとうとしていると、森の奥のほうからてゐがあわてた様子で走ってきたのに気づいた。
    手には懐中時計。そんなに見ても仕方ないだろうってペースで何度も時計を見ては『やばいやばい』としきりに呟いている。
    そんなてゐは私の目の前を通り過ぎていったが、私に気づいた様子もなく、森の西側に向かって走って行く。

    アリス「集会でもあるのかしら」

    彼女がそういった事を行っているかはわからないが、動物たちは集会を開くことがあると聞く。特に、ウサギたちの統率を取っている(らしい)てゐなら、そういう会を主催していても不思議ではない。

    アリス「何だか気になるわね……」

    単なる気まぐれかそう思える何かが無自覚にあったのか、私はてゐの後を追いかけていた。
    追いかけるといっても、いざ走ってみるとてゐの速い事速い事。見る見るうちに間が離れていってしまう。
    だけど不思議なもので、彼女を見失うことはなかった。徐々に遠く離れてるとはいえ、感覚的なものだったのかもしれない。

    アリス「……あら?」

    暫く追いかけていると、てゐは急に姿を消した。
    見失ってしまったわけではない。
    今、私のすぐ目の前には大きな木が立っていて、彼女はその身を木の根元……大きな「うろ」になっている部分に滑り込ませたのだ。

    アリス「真っ暗ね……というか、こんな所に穴なんてあったのね」

    人が一人入り込んでしまえる程に大きな入り口だというのに、うろの中は真っ暗でよく見えない。
    こんな所に飛び込むなんてよほどの勇気が無いと難しいと思う。つまりてゐは、この先がどこへ繋がっているのかを知っているか、よほどの怖いもの知らずかと言う事になる。
    勿論私はどちらでもないので、てゐの後を追いかけるのを躊躇った。

    アリス「きゃっ!」

    しかし、次の瞬間、私の体はうろの中へと落ちていった。
    足を滑らせた……のだろうか。少なくとも自分の意思で落ちたわけではないが、まぁ結果は結果だ。

    アリス「暗く……ない?」

    穴というと地底を思い出す。
    キスメでも出てくるかと思ったが、そんな気配は一切なく、代わりに本棚やテーブル、チェアなどが出現し始めた。
    それらはどこかで見覚えのあるものばかりで、こんな状況にも関わらず不思議とそれをおかしいとは思わなかった。

    アリス「あれは……魔導書?」

    他にも、木苺のケーキやニルギリの紅茶、アルカリイオンの水なんかもテーブルに乗っていた。
    そういえばお茶の途中だった……そんなことを考え始めた次の瞬間、至極当たり前の心配が頭をよぎる。

    アリス「落ちすぎじゃない?」

    そう、とても、すごく、長い時間私は落ち続けている。
    いくら木の下に穴があってどこかに繋がっているとはいえ、こんなに地中深くまで落ちていけば本当に地獄へ落ちてしまうんじゃないか。
    それに、うまく着地できる自信もない。飛べるから地面に激突する事はないにしろ、このままでは色々とまずい。
    それとは別に、一つ大きな疑問も存在する。

    アリス「……スカートが重力や風に逆らってるわ」

    私はずっと下に向かって落ち続けているわけだけど、どういうわけかスカートがばっさりめくれるなんて事になっていない。
    まぁ幻想郷に住む妖怪なんて女の姿をしたやつらばかりだし、そういう配慮があるのかもしれない。

    アリス「ってどんな力が働いてるのよそれ」

    誰もいないのに、思わず自分でツッコミを入れてしまう。早苗が隣にいたら叩いていただろう。

    アリス「…………」

    不思議といえば、これもそうだ。
    ここ最近、私は周囲からやたらツッコミ役と呼ばれている。
    でも、以前はそんな事全くなかったはず。ぼっちとかさびしいとか引きこもりとか、色々間違った見方をされることはあったけど……
    まぁ早苗がよく来るようになってからはあながち間違いでもない言動をしてはいる。要するに彼女のせいなのだ。
    彼女は私以外にも多くの住人たちを巻き込んで好き放題している。あまり酷いと紫から注意を受けるらしいが、そもそも藍を引き込んでいる時点で上手に調整する事も意識してそうだ。
    そういえばこの前なんて、入手困難らしい「にんてんどーすいっち」なるものを仕入れてきていた。早速輝夜達が遊んでいたが……彼女たちも、すっかり早苗のペースに乗せられているような気がする。
    考えれば考えるほど、彼女の人たらし(と言っていいかは不明だけど)は怖ろしい。紫がいなくなったとしたら、実質ここを支配するのは守矢じゃないだろうか……

    アリス「ん……底が見えてきたわね」

    どれだけ落ちただろう? 100メートル? 1キロ?
    よくわからないけどとにかくもうすぐこの落下にも終わりが来ることは確からしい。
    でも、不思議と恐怖はない。こんなわけのわからない状況に陥りつつも、内心私は不思議と冷静だった。
    だって、どうやって着地してやろうか、なんて考えてるくらいだし。

    アリス「っ、と」ストン

    迷った挙句、結局素直につま先から降りる事にした。
    衝撃等は一切無い。地面に激突しそうになる直前、浮力を働かせてそれを免れた。そこからゆっくり姿勢をかえ、あたかも最初からきちんと着地したように見せて地に足をつける。

    アリス「さて……」

    実は私、この状況を全く知らないわけではない。
    「不思議の国のアリス」という話を、私は紅魔館の図書館で読んだことがある。あの時は別の調べ物があったのとパチュリーにある薬品製作について相談していたのできちんと読んだわけではないが、この場面は覚えている。
    狭い部屋の中央にテーブル。その上には飲み物とお菓子。部屋の下の方にあるドアは小さくて今の姿じゃ通れない。鍵だってかかってる。

    アリス「……お菓子はおろか、テーブルすらないわね」

    しかし、状況はそうやさしいものではなかった。
    もし状況がそのまま、あるいは酷似しているのなら、私はその物語を追憶(は言い過ぎか)しているだけ……要するにこれは夢なのだと、明晰夢なのだと結論付けることができた。
    いや、状況が異なっているからこそ、夢なのかもしれない。夢とは、いつのそれもいろんな記憶が混同して形成されているものなのだから。

    アリス「にしてもこれ、私閉じ込められてる?」

    狭い部屋に、私一人。他には何も無い。
    最初に飛び込んだてゐはどこへ? もしかしたら隠し扉でもあるのかしら……

    アリス「あ」

    振り返ると、いつの間にかドアが出現していた。小さなドアではなく、普通サイズの木製のドア。
    鍵は……かかっているようで、開かない。押したり引いたりしてみるけど、びくともしない。
    まるで脱出ゲームでもしている気分……そういえばこの前、早苗が持ってきたやつで遊んでみた事があったっけ。

    藍「そうだな、それで正解かもしれない」

    アリス「うわびっくりした」

    藍「すまない……驚かすつもりはなかったのだが」

    アリス「ううん、それはいいんだけど……」

    むにゅむにゅ

    とても狭い部屋に二人でいると、身体が密着して困る。
    特に藍はスタイルがいいから場所を取る。おかげで私は藍のご自慢のそれに潰されそうになっている。

    アリス「どこから出てきたの……」

    しかし、口をついて出た言葉は、至極当然の疑問だった。
    狭い部屋に一人でいたはずが、急に藍が出てきたんだから驚きもする。

    藍「どこからも何も、私は最初からここにいたぞ」

    アリス「いやいやいや」

    藍「いやいやと言われてもな……私はずっとこの木の麓で瞑想をしていたのだ」

    アリス「木?」

    言われてあたりを見回した。
    そこはどこかの森の中で、私は道の真ん中で藍に抱きついていた。
    狭い部屋など跡形も無い。まるで最初から存在していなかったかのように。

    アリス「えっと、ごめん」

    藍「かまわないが」

    ゆっくりと藍から身体をはなす。名残惜しいような気が少ししたが、それが妖狐の力なのだろう。同姓にまできくとは恐れ入る。

    藍「さて、お前はどちらへ進みたい?」

    アリス「どっちって急に言われてもね……というか、ちょっと待って。色々と訊きたいんだけど」

    藍「なんだ? もう後に道など無い事か?」

    アリス「へ?」

    振り向いてみると、すぐ後ろは森だった。
    どうしてだろう、その森に入ると二度と外には出られないような気がした。気がしただけで、実際どうなのかは知らないけど。
    そして前を向くと、そこには大きな木が立っていて、それの麓(というか目の前)に藍が立っている。彼女の両側にはそれぞれ道が伸びていて、これまた直感だけど、二つの道は永遠に交わることはなさそうに思えた。

    アリス「えっと、私の勝手な印象だけど、ここにいるのって猫じゃない?」

    藍「燐? ヤツなら死体を餌にとっ捕まえて縛り上げておいた」

    アリス「ひどい」

    どうやらやはり、この夢は私が読んだ物語とはずいぶんと違うらしい。
    早苗ではないが、ここではある意味常識が通じないのだろう。「常識が通じない世界の常識」も含めて。

    藍「さて、私は読書でもするかな……」

    アリス「え、何も教えてくれないの?」

    藍「なんだ、ヒントがほしいのか」

    アリス「え、あ、うん」

    藍「フィボナッチ数列をだな」

    アリス「やっぱりいいや」

    藍「そうか」

    ここが独自に形成された世界だとしたら、私の考える常識なんてあてにならないだろう。
    それどころか、この道をどちらに進むのかさえどうでもいいまである。

    アリス「じゃ、私は行くわね」

    藍「右の道に進むのか」

    アリス「右には何があるか教えてくれるの?」

    藍「フレデリック・ソディを知っているか」

    アリス「さようなら」

    どうしても数学の話にしたいらしい藍を置いて、私は右の道に進むことにした。
    藍は私にそこまで興味がないのか、もう声をかけてこなかった。
    彼女が見えなくなるまでに何度か振り返って見てみたけど、彼女は本に没頭しっぱなしだった。
    何の本を読んでいたのだろう、今にして少し気になった。






    -なぜ鳥は忘れてしまうのか-



    アリス「これはまた斬新な展開ね……」

    右の道に進んで五分程度。
    森の中を進んでいたと思っていたのだけど、いつの間にか私は洞窟の中を歩いていた。
    振り返ってみても同じような洞窟の道が続いているだけ。これまた勝手な想像だけど、この道を戻っても藍のいた場所に戻ることはできないと思った。

    アリス「ま、進むしかないか」

    仕方が無いので前に進む。
    どういうわけか洞窟の中は明かりも無いのに壁から地面までよく見えて、歩くのに困る事はなかった。

    アリス「あら?」

    また暫くこんな道を歩かなきゃいけないのかと思っていると、すぐに変化が現れた。
    目の前に、屋台が出現したのだ。
    出現するというとおかしいか。急に視界に屋台が映ったというか……気づいたらそこにあった。

    ミスティア「いらっしゃい」

    アリス「……どうも」

    暖簾をくぐるか迷っていると、先に向こうから声をかけてきた。
    声の主は私が想像していた人物その通りで、私は暖簾を潜って椅子に座ることを決めた。

    ミスティア「今日のお勧めは『地下の丸穴』だよ」

    アリス「なにそれ?」

    ミスティア「ざっくり言うと、そこを潜ったら別人にされた、というお話」

    アリス「???」

    料理の名前ではないらしい。察するに、怖い話か何かだろうか……にしても、先にオチを言ってしまうのはどうかと思う。

    ミスティア「リゾートバイトやコトリバコは明日以降にならないと入荷しないね」

    アリス「はぁ」

    入荷、とはどういう意味だろう。ミスティアが話してくれるわけではないみたいだ。
    テープやディスクでも入荷して再生するんだろうか……ほんと、早苗のせい(おかげ?)でいろんなものが普及し始めてしまっている。
    本当に、外の世界を超えてしまう日が来るのも近いかもしれない。

    ミスティア「あれ、何の話だったっけ?」

    アリス「鳥頭め」

    そしてミスティアは、直後に自分が言った事を忘れていた。世話無い。

    ミスティア「でも、忘れる、ってとても大事な事だと思わない?」

    アリス「まぁ……場合によるとしか」

    ミスティア「嫌なことなんかだとすぐに忘れられるとストレスがなくていいよ」

    アリス「それだけ選別して忘れられたら一番なんだけどね……」

    そんな都合のいい事なんて起こせやしない。現実はいつも非情なんだ。

    ミスティア「だけど、もしも私が私であることを忘れてしまったら……それは誰になるんだろうね?」

    アリス「難しいこというわね。怖い話とかけてるの?」

    ミスティア「なにそれ?」

    アリス「忘れたなら別にいいわ」

    ミスティア「私を私たらしめてるのって、私自身? それとも、例えば今目の前にいるアリスさん?」

    アリス「両方、といいたいところだけど……」

    ミスティア「そうか、答えは簡単だった」

    アリス「正解に辿り着いたの?」

    ミスティア「いいえ、ケフィアです」

    アリス「あ、はい」

    ミスティア「大根に結構だしがしみこんできたと思うのよ」

    完全に鳥頭らしい、さっき自分が話してた事も忘れてしまったみたいだ。
    まぁ、さして重要な話というわけでもないし、私も気にするつもりも蒸し返すつもりもない。

    アリス「ここで何をしてるの?」

    ミスティア「何って、商売だよ」

    アリス「こんな誰も通らないところで?」

    ミスティア「アリスさんは来たよ」

    そりゃそうだけど。

    ミスティア「さあ、商売の邪魔邪魔!」シッシッ

    急に態度が横柄になりだした。わけがわからない。
    そして、私はお客として認めてもらえないようだ。

    アリス「邪魔したわね……」

    仕方が無いので席を立ち、再び歩き始める。

    ミスティア「らぁ~! らぁ~! らぁ~!♪」

    そしたら急に後ろから歌声が聞こえてきた。なんだろう、綺麗な声なんだけど、色々通り越してもうなんか怖い。
    これまた怖い話じゃないけど、某鼠の歌なんか歌われたら一気にホラーに変わってしまいそうだ。

    藍「そうだな、それは狸の仕業に間違いない」

    ふとすぐ後ろで狐の声がしたような気がしたけど、ミスティアが急に歌い出したこともあって、もう振り返る気にはなれなかった。






    -えらく不気味な診療室-



    さて、洞窟を抜けたと思ったらそこは竹林だった。
    目の前には見た事があるような建物。そして、庭先で掃除をしているうさ耳をたらした少女。
    なるほど、どうやら永遠亭に辿り着いたらしい。するとてゐはここ目掛けて走っていたわけだ。察するに、薬の材料でも取りに行っていたのか……

    輝夜「あら、アリスさん、珍しい。ふふ、今日は永遠亭にご用事かしら?」

    前言撤回。やはりこの世界はおかしいらしい。

    アリス「……そうね」

    輝夜「永琳にお話があるの? 今は少し立て込んでいるから、あがってお茶でもしていくといいわ」

    アリス「アリガトウ」




    輝夜「いま、お茶を淹れてもらうから少し待っててね」

    アリス「オキニナラサズ」

    輝夜「うふふ、アリスさんどうして片言なの? とっても面白いわ」

    アリス「ソウカシラ」

    なんだろ、なにかしらね、はっきり申し上げて、ものすごく違和感で仕方が無い。
    これ誰? 輝夜の姿をした、誰?
    いや、本当はこういうお淑やかな人なのは知ってるけども……
    輝夜は……なんていうかこう、もっと自分の欲に忠実というか、変にはっちゃけてる印象が強くなってしまった。
    藍やミスティア同様に、彼女も「この世界」の住人としておかしくなってしまったのだろうか。
    いや、もともとの性格に戻ったのなら、正常になったと言うべきか……

    輝夜「? どうしたの?」

    アリス「あ、いや……」

    テセウスの舟を思い出す。
    これは、人間や妖怪に対しても同じことが言えるのではないだろうか。
    テセウスの舟は、少しずつ修理に修理を重ねて長年航海を続けている舟だが、今となっては一番最初に使われていたパーツは何一つ残っていない。そこにあるのは、同じ形をしたパーツの集まり。
    人や妖怪だって、いろんな物に出会ったりいろんな人と触れ合ったりして、少しずつでも変わっていく。それは例えば、何十年ぶりに会った相手の性格が昔のそれとは違っているように……私たちも、同じことが言えるのかもしれない。
    それは、平行世界理論のようなもの。たった一つの、ほんの僅かな選択の差で、誰かが大きく変わるかもしれない。

    こぁ「だから薄い本があるんです!」

    何か聞こえたけど、無視することにした。

    輝夜「難しい顔をしているけど……」

    アリス「ん、ごめんなさい。ちょっと考え事をね」

    輝夜「楽しいことや面白いことならいいけど、悪い事ならあまり思いつめない方がいいわよ?」

    アリス「そうね、うん、ありがと」

    輝夜「いいのよ。私には、話を聞いてあげる事くらいしかできないもの」

    そう言って輝夜は屈託の無い笑顔を向けてくれた。
    黙っていればこれ以上無いくらいの美人だとは思っていたけど、なるほど世の男たちが惑わされても無理はないと思う。

    でも……
    輝夜は地上に興味がわいた事からわざと禁忌を犯してここへ来たと聞いた。箱入りお嬢様が生活に飽きて、という話は図書館でよく読んだけど、「今の」輝夜を見る限りではそういった思い切った一面は見て取れない。
    本人にしてみれば「ええいっ」て感じでやっちゃったのかもしれないけど、どちらかといえば早苗たちと一緒になってゲームを楽しんでる輝夜の方が、そういう事をやるのにしっくりくる。
    もしかしたら、当時の生活や潜在的な所から、箍が外れたような状態になったのかもしれない。人も妖怪も、いつどこで何が起きてどうなるかなんて、わからないという事……なのかな?

    輝夜「ん、そろそろ永琳も空くかな? 一緒に診察室に行ってみましょう」

    アリス「あ、うん」

    別段用事があって来たわけではないが……永琳の近くにてゐがいるかもしれない。追いかけてきた手前、なんとなく彼女の姿は見ておきたい気もした。

    輝夜「じゃあ、案内するわね」

    アリス「ありがと」

    ゆっくりと立ち上がり、背筋を伸ばして引き戸まで歩く姿はまさに「おひめさま」にふさわしいと思った。
    まぁ、日ごろから着物きてることもあってかどれだけだらだらしてても身のこなしだけはきっちりしてたけどね。

    アリス「……静かね」

    輝夜「あら、賑やかな方がお好み?」

    アリス「ううん、そういうわけじゃないけど……」

    静か、とは勿論単に音がしないというだけの意味ではない。
    無駄にはしゃぐ人物がいないというか、誰も悪ふざけをする事もないというか……
    凛として前を歩く輝夜、風になびいて涼やかな音を鳴らす竹林、鳥たちの歌声、時々診療室の方から聞こえてくる物音……
    平和って、こういう事なんだなぁってふと思った。
    勿論、日々の生活に不満があるわけじゃないし、例えば急に訪ねてくる早苗が心底嫌というわけでもない。
    ただ、こういう日常もありなのかなと、この光景を見て思った。

    輝夜「永琳、今いい? 入るわよ?」

    診療室のドアを軽くノックした後、中へ入る輝夜。私も続いて中に入る……

    永琳「あら」

    諏訪子「ん~~~~!!」

    手術台のようなところに諏訪子が縛り付けられていて、永琳がそれをメスを握って眺めていた。

    アリス「前言撤回せざるを得ない」




    諏訪子「ふう、助かったよ」

    アリス「……うん」

    いわゆるブラックジョークというやつだったのか、私が「やめてあげて」と言うと永琳はすんなり諏訪子を開放した。
    解体してみたいという話をどこかで聞いたことがあるようなないような……カエルとはいえ、祟り神だ。自分が不死だからってよくメスを入れようって気になる……

    永琳「あなた、とても疲れてるみたいね。ちょっと休んでいったら?」

    アリス「変なことしないでしょうね」

    永琳「いやだわ、しないわよぉ」バシバシ

    アリス「…………」

    なんていうか、永琳がどこぞのおばさんみたいになっていた。
    早苗が言っていた「きゃら崩壊」というやつなんだろうなと思う。
    ……あれ? でも、そんな事言い出したら、どこからが崩壊なの? それはつまり、時の流れを無視した内容にならない?

    永琳「貴女は、道が知りたいの?」

    アリス「道?」

    永琳「貴女の中には、色んな複雑な思いがあるみたいね」

    アリス「それはまぁ否定しないけど……誰もがそうじゃない?」

    永琳「その通りね。だけど、これは貴女の、貴女だけの物語。違う?」

    アリス「言ってる意味はわかるけど、どうして今それを言ってるのかはわからないわ」

    諏訪子「ん~難しい話はパスだなぁ。終わったら教えてよ、私が次の道を教えてあげるから」

    輝夜「あらお昼寝かしら。私も少ししてこようかな……」

    諏訪子「じゃ向こうで寝よう」

    そう言って二人は診療室を出ていってしまった。諏訪子はどこから取り出したのか、アイスを三本手に持っていた。
    それとほぼ同時に、永琳は手術台の上についているライトの部分に飛び乗った。ぐらぐらゆれて、非常に危なっかしい。

    永琳「ふふ、落ちないわよ」

    アリス「自分でフラグ立てなくていいから」

    永琳「でも、そうね。貴女は、考えなきゃいけない。その答えを、いつかは出さないといけないのかもしれない」

    アリス「意味深な事を言っているようで、その実何も的を射てないわね」

    永琳「予定された調和内でしか、物語が進まないのよ」

    アリス「予定? 調和?」

    永琳「本当に狂っているのだとしたら、常人が理解できる範囲に収まるとは思えないんじゃないかしら?」

    アリス「何の事を言ってるの……」

    永琳「さあ、そろそろ時間よ。諏訪子に次の場所へ案内してもらったら?」

    アリス「よくわからないけど……」

    永琳はニコニコしながら私を見ている。どうも、これ以上何を訊いても答えてはくれなさそうだ。
    仕方が無いので踵を返して診療室のドアに手をかける。

    永琳「きゃっ!」ドサッ

    振り向かない、振り向かないわよ。







    -がっかりなお茶会-



    諏訪子「次の場所がどこだかわかる?」

    アリス「どこって?」

    諏訪子「次の場所だよ」

    アリス「何の事?」

    諏訪子「本当はもう気づいてるんでしょ?」

    アリス「えっ?」

    次の瞬間、私はどこかのお茶会の席に座っていた。
    諏訪子の姿はどこにも無い。かわりに、目の前では早苗、鈴仙、ナズーリンが奇妙なお茶会を開いていた。
    どうして奇妙だと思ったかというと、彼女たちの言動があまりに不可解だったからだ。

    早苗「お砂糖は一個? 二個?」

    鈴仙「50個にして~」ドボドボドボ

    ナズーリン「Zzz」

    早苗「あれアリスさんじゃないですか、アリスさんじゃないですか。どうしたんです?」

    アリス「何で二回言ったの」

    早苗「二回も言ってませんよ」

    鈴仙「それより、勝手に座るなんて」

    アリス「気づいたら座ってたんだから仕方ないじゃない。椅子あきまくってるし別にいいでしょ」

    早苗「あいてませんよ!!」

    アリス「じゃあ私は今どこに座ってるのよ!」ダン!

    早苗「」ビク

    鈴仙「まあまあ、ワインをどうぞ」

    アリス「ワイン……?」

    昼間っからお酒を飲んでるのかと思ったけど、そんなものどこにも見当たらなかった。

    早苗「何か話して、どうぞ」

    アリス「唐突すぎぃ」

    早苗「じゃあナズさんに話してもらいましょ」

    鈴仙「なず! 出番ですよ!」

    ナズーリン「寝てない、寝てないよ」

    早苗「寝てましたよ。ポットに突っ込みますよ」

    ナズーリン「怖いよ、君」

    アリス「はぁ……」

    早苗に関してはまぁどこかで出てくるとは思ってたけど……ここで出てきたか。女王役でもやってるかと思ったけど。

    早苗「そういえばアリスさん知ってますか? アリスさん知ってますか?」

    アリス「何を?」

    もう突っ込まない。

    早苗「なにをって、それはアリスさんがご存知なのでは?」

    アリス「早苗が質問してきたんでしょ? 私にわかるわけないじゃない」

    早苗「なんでですか! アリスさんのことなんですから、私にわかるわけないじゃないですか!」プンスカ

    アリス「…………」

    鈴仙「まぁまぁ、聞くに、女王の裁判の話らしいじゃないですか」

    アリス「裁判?」

    早苗「どきどき魔女……あ、これ審判か」

    ナズーリン「Zzz」

    早苗「えいっ」バチーン

    ナズーリン「いひぃぃいい」

    鈴仙「え、だって次の次の次の次の次の次のもう一つ更に次の裁判でアリスさん証人になるんですよね?」

    アリス「どれだけ先の話なのよ……」

    鈴仙「だってそうなるって、狐が」

    アリス「藍?」

    鈴仙「そんな感じの名前だったような」

    早苗「なら、私がついていきましょう」

    アリス「いりません」

    早苗「うう……」ウルウル

    アリス「……わかったわよ」

    鈴仙「じゃあナズーリンをポットに押し込むのは私がやるね」

    ナズーリン「いひぃぃいいい」







    -犯人は誰?-



    意味不明なお茶会を出て、私は早苗の少し後を歩いた。
    あたりはいつの間にか暗くなっていて、満月と星空が淡い光で世界中を照らしている。
    こんな世界でも綺麗なものは綺麗なんだな、なんて思ってると早苗が急にこちらを振り返った。

    早苗「こんばんは、アリスさん」

    アリス「ふぁ? さっきまで会ってたじゃないの」

    早苗「えっ? ふふ、おかしなアリスさん、今会ったばっかりなのに」

    よくわからないけど、ここはもう相手に合わせた方が楽だろう。

    早苗「アリスさんは、どうしてここへ来られたのですか?」

    アリス「私にもさっぱり。てゐを追いかけてきただけなんだけどね」

    早苗「てゐさんですか」

    アリス「ええ……」

    ふと、違和感を覚える。今が今日初めて会ったような挨拶をされた事ではない。
    紙に書いて何がどう変か説明しろといわれると難しいけど……

    早苗「永遠亭もお忙しいでしょうしね。私も、信仰のために頑張らないと」

    アリス「そうね……」

    早苗「アリスさんは確か、里の方でたまに人形劇をされているのでしたっけ」

    アリス「本当にたまによ? って、早苗よく知ってるでしょ」

    早苗「あ、いえ、どういう感じなのかなと」

    アリス「どうって……別に、普通?」

    早苗「普通、ですか……」

    アリス「な、なによ」

    早苗「いえ……普通、ってやっぱり、すごく素敵なことなんだなって」

    アリス「……どうしたの?」

    ああ、違和感の正体がわかった。

    早苗「私は幻想郷に来て、常識に捉われない事の重要性を知りました。勿論それは、好き放題する、というものではなくて」

    違うんだ、さっきまでと。

    早苗「変に自分を縛り付ける必要なんてないんだ、って学びました」

    さっきまでというより、私の所へよく来るようになった早苗と……

    早苗「勿論、私は私です。ただ、たとえこの先どうなったとしても、それは間違いなく私、なんですよね」

    これはおそらく……以前の、ううん、もとの? もとの、早苗……なのかもしれない。

    早苗「なんて、ちょっとしんみりしちゃいましたね、すみません」

    アリス「あ、ううん……」

    彼女もまた、何かを切欠に箍が外れたのだろうか。
    私は正直、いつもの状態の早苗しか知らない。元気で前向きという所は同じだろうけど、きっとどこか基点があってそこから少しずつあちこちに動いているのだろう。

    あれ?
    でも、それじゃあ私は?
    私は、以前の自分と何か変わった?
    わからない。自分ではよくわからない。
    誰かに言わせてみれば、ものすごく変わったといわれるのかもしれない。案外に変わってないのかもしれない。

    そもそも、「変わった」と定義づけるものって何?
    今までではありえない事をするようになったら? 喋り方や動き方がかわったら? 周囲との関係がガラリとかわったら?
    その線引きすらも、きっと人それぞれ。私と早苗でも、たぶん意見が違ってると思う。

    だけど、私は私であって他の誰でもない。早苗は早苗だし、他の誰にもそれは言えることだ。
    いえるんだけど、じゃあこの世界の皆は? 彼女たちは彼女たち足りえる?
    それを決めているのは、誰?

    早苗「アリスさん?」

    アリス「……うん?」

    早苗「いえ、ずいぶんと考え込まれていたようなので」

    アリス「あぁ、ごめんなさい。ぼんやりしてたわね」

    早苗「それはかまいませんけど……」

    アリス「それで、どこへ行く話になってたんだっけ」

    早苗「女王様のお城ですよ! さあ、もうすぐ着きます」

    アリス「いつの間に……」

    どこか楽しそうに、小走りに道を行く早苗。
    その後姿を見ていると、とてもほほえましく思える。

    早苗「アリスさーん! 置いていっちゃいますよー!」

    アリス「はいはい、今行くわ」




    藍「……本当は、もう気づいているのだろう?」








    アリス「で……」

    早苗と一緒にお城にやってくる。
    そしたらなぜか歓迎されて、なぜか図書館へ通された。
    それだけでも意味不明というか不可解なのに、図書館では更におかしな光景を目にすることとなる。

    アリス「魔理沙はそこで何をしているわけ?」

    魔理沙「何って、本を読んでるんだが」

    アリス「どうして?」

    魔理沙「どうしてって……図書館だからだろう?」

    アリス「……持って帰らないの?」

    魔理沙「ん? あぁ、勿論持って帰るぜ」

    そう言って魔理沙は当たり前のように図書カードを私に見せびらかしてくれた……

    早苗「どうしたんです?」

    アリス「いや……」

    パチュリー「こほん。本はいくらでも読んでくれてかまわないけど、館内では静かにね。カウンター通してくれたら、借りて帰ってもいいから」

    魔理沙「お、すまんすまん。気をつけるよ」

    早苗「はぁい」

    アリス「…………」

    本を盗まない魔理沙と、読むのも借りるのも自由にしてくれというパチュリー。
    正直これは、違和感とかいうレベルの話ではない。もはや異常事態と言っていい。これは流石に、私としても頬を引きつらせてしまう。
    どうしてこんなことになっているのか。聞けば、とても簡単な話だった。

    何でも魔理沙は家を失い、この城に住ませてもらっているのだとか。
    持ち帰る先がそもそもないのだから、盗むも何も無い。律儀にカードを提出している点は不可解だが、それがこの城のルールと言われてしまえば、居候の身としては守らざるを得ないとか。
    一方でパチュリーの方は、女王様に貸し出し自由にするよう言われたらしい。
    女王様とは、すなわちレミリアのことだろう。なるほど、彼女に言われたのなら従っても納得はいく。

    要するに、何? 条件さえ揃えば、この不思議な光景が出来上がる可能性はある、ということなの?
    だとしてもこれは受け入れられない……とても受け入れるのは難しい。そうなった、といわれればそれまでだけど……うーん。
    ここは私の夢……なのよね? だけど私はこんな光景望んじゃいないし、そうなってほしいとも思ってない。
    いや、盗んだりするのはよくないとは思うけど、いちいち私が首突っ込もうとも思わないんだけどさ。

    早苗「あ! 女王様が庭で何かしてますね! ゲートボールでしょうか!」

    アリス「クロケーじゃないの?」





    レミリア「さあ! 今日も遊ぶわよ!」

    咲夜「お嬢様、どうぞ」

    咲夜は方ひざを地面につけ、両手でミスティアを差し出した。

    レミリア「うん! さ、楽しむわよ~」

    ミスティア「ひいいいい」

    ナズーリン「ハリネズミじゃないんだけど!」

    どうやらミスティアを槌に、ナズーリンをボールにしているらしい。
    というか、ミスティアは最悪無理に納得するにしても、ナズーリンは丸くないからどう頑張っても無理じゃないかなと……

    早苗「女王様、こんばんは!」

    アリス「普通に行くの? フランクね~友達だからかな?」

    レミリア「誰こいつら?」

    アリス「知り合いですらなかった!」

    咲夜「貴様らどこから侵入してきた!」

    早苗「正門から普通に入りましたけど」

    レミリア「美鈴の首をはねましょ!」

    フラン「はねていいの!?」

    レミリア「ううん、やっぱり可哀想だからフライングクロスチョップにしましょ」

    フラン「え~」

    アリス「ずいぶんとお手柔らかな女王様ね……」

    レミリア「なんだって? そんなに処刑されたいの!」

    早苗「まぁまぁ、ここはゲートボールで対決してはいかがでしょう」

    アリス「だからクロケーだって」

    レミリア「ふふん、それいいね! じゃああんたには……これ貸したげる」

    文「あやややや。どこで道を間違ってしまったのでしょうねぇ」

    アリス「…………」

    レミリア「私はこれでやるもんね! 負けないから!」

    ミスティア「お、おたすけー!」

    咲夜「む、ボールが消えているわね……」

    ミスティア「あいつ逃げやがった!」

    咲夜はやけに瀟洒な動きで辺りを見回し始めた。
    レミリアはミスティアの感触を確かめている。ミスティアは迷惑そうに眉をひそめている。
    早苗はいつの間にか少し遠いところで地面にシートを広げてお茶していた。

    藍「やあ、首尾はどうかな」

    むにゅむにゅ

    アリス「うわびっくりした」

    急に声がしたかと思うと、柔らかなものに顔が埋まってしまっていた。

    藍「女王様はどうだ?」

    アリス「どうって、いつもどおりの我侭娘でしょ」

    フラン「うわっ、酷いこと言ってる! 先生に言いつけてやろ!!」

    アリス「先生って誰よ」

    フラン「せんせー! アリスがいじめをやってます!」

    慧音「そうだな、プロテインだな」

    パチュリー「大変よ、おやつの時間に食べるはずだったパイが無くなったの」

    こぁ「ぱいぱいならここらに沢山ありますけどね! ぐへへへへ」

    咲夜「首をはねるわよ? 割と本気で」

    こぁ「ごめんなさいもうしません」ドゲザ

    レミリア「それじゃあ私のおやつはどうなるの!」

    パチュリー「無しになるわね」

    レミリア「きーっ! 犯人を探し出して処刑よ処刑!!」

    霊夢「ほーひょ、ひょへいひまひょ!」モグモグ

    アリス「犯人見つけたんだけど」

    咲夜「お前たち、裁判の準備を!」

    妖精メイド達「はいっ!」





    アリス「ああ頭痛くなってきたわ……」

    私は裁判の席に座らされていた。隣では早苗がうとうとしている。
    正面を見ればレミリアが一番高い所に座り、その一段下の両側にはパチュリーと咲夜がいる。
    フランは退屈だからかこの場にいない。けど、出入り口の外でちらっと羽が見えたので、もしかして出て行こうとするやつを血祭りに上げるつもりなのかもしれない……

    レミリア「んじゃ裁判開始! 証人は一人ずつ前へ!」

    霊夢「ふぁい!」ムグ

    アリス「まだ頬張ってるんかい」

    パチュリー「では霊夢、証言を」

    霊夢「んく。キッチンに入っていく怪しい人影を見たわ!」

    アリス「うわぁ」

    早苗「ヒトカゲ?」

    アリス「で、あんたはいつの間にかまたそうなっちゃったのね」

    早苗「?」

    レミリア「次!」

    鈴仙「だから私は言ったんですよ。お~いお茶にしておけばよかったとね!」

    ナズーリン「Zzz」

    早苗「ところがぎっちょん、鈴仙さんが言うにはですね」

    鈴仙「私は言ってません!」

    早苗「えっ」

    鈴仙「言ってません!」

    咲夜「もういいやお前ら帰れ」

    早苗「はいっ!」

    パチュリー「次は……アリス、前に」

    アリス「えぇ?」

    咲夜「早くなさい」

    アリス「はぁ……」

    はやくって言われても……普通に霊夢が犯人だって言っていいのかしら。

    レミリア「で、証言は?」

    アリス「いや、霊夢が犯人だと思うんだけど」

    パチュリー「どうして?」

    アリス「普通に食べてたから」

    霊夢「!?」

    早苗「!?」

    アリス「いやなんであんたが驚くのよ」

    早苗「なんとなくそうしなきゃいけないかなと」

    意味がわかりません。

    レミリア「ふーんそっか。んじゃ犯人決まりだね。可哀想だけど、お別れしなきゃ」

    霊夢「まぁ」

    アリス「否定しないんかい」

    早苗「異議あり!!」バシーン

    レミリア「なんとっ!」

    早苗「言ってみたかっただけです!」

    レミリア「そうかっ!」

    アリス「帰ってもいいかしら……もう判決出るでしょう?」

    レミリア「いいや、判決より裁判が先だね」

    アリス「いやもう犯人わかったし」

    レミリア「なにおぅ! こいつ生意気ね、首をはねておしまい!」

    アリス「はぁ……って、何か近づいてくる!?」

    周りがいっせいに襲い掛かってくるのかとも思ったけど誰も席を立たず、代わり?に入り口の方から何かが勢いよく飛び掛ってきた。

    フラン「その首いただき!」

    アリス「普通に大ピンチなんだけど!」

    藍「任せろ」

    フラン「!?」

    藍「表に出るがいい」

    フラン「望むところよ!」

    アリス「あれぇ? この辺で目が覚めるはずなんだけどなぁ」

    ???「無理もないわ、だってこれ、夢じゃないもの」

    アリス「えっ……?」

    誰か聞いたことある人の声がした……そう思った次の瞬間、私はどこともいえない不思議な空間に立っていた。
    あたり一面に広がる、なんとも形容できない風景。異世界というか、亜空間というか……前も後ろも右も左も上も下も、どこを見ても同じ光景。さっきまで周りにいた皆の姿も無い。
    あまりの唐突な事態にただただ驚いていると、さっきの声の主が姿を現す……

    紫「こんばんは」

    アリス「出たわね紫……」

    紫「あら。まるで私がいる事、最初からわかってたような言い方ね」

    アリス「夢じゃないって言ったわね。という事はこれは言わば異変。そしてこんな芸当ができるのは……貴女くらいでしょ」

    紫「ふふ、そうねぇ。半分だけ、正解かしら」

    アリス「半分……?」

    紫「言うなれば、私は実行犯。つまり、主犯は別にいるということよ」

    アリス「主犯……」

    紫「でも、そうね。これはただのゲーム。異変と言うにはあまりに稚拙で、だけど誰もが無視できない問題」

    アリス「それで、私はどうすればいいの? その犯人を突き止めたらおしまい?」

    紫「このゲームに終わりはないわ。貴女が終わりと思えば終わり。答えを出したいのなら、それが叶った時点で終わり」

    アリス「そういわれてもね……」

    いったいこの妖怪は私に何をさせたいのか……ただの観測者でいるつもりなら、こうして私の前に姿を現したりはしないだろう。
    つまり、こいつは私に何かを望んでる。
    ただの暇つぶしかもしれない、気まぐれかもしれない。けど、紫の中では何かを期待しているからこそ、こうしてやってきた。
    ならその目的を言い当てることこそが、この異変の終わりなんじゃないか……



    -人はなぜ疑うのか-



    紫「ふふ、考えてるわね」

    アリス「……一つ思う事があるわ」

    紫「何かしら」

    アリス「貴女は、自分が主犯ではないと言った。でも、この主犯は、貴女が意図している形でこういう事をしたわけじゃないんじゃない?」

    紫「というと?」

    アリス「例えば誰かが異変を望んでいたとして、あなたはその手助けをした。でも、貴女はその異変を利用して、別の何かを観測しようとしている……」

    アリス「どう? 違ってる?」

    紫「……ふふ」

    アリス「な、なによ」

    紫「うふふ、あはははっ!」

    紫「ふふ、ごめんなさい、まさか貴女がそこまですぐ気がつくとはね」

    アリス「やっぱりそうなのね……」

    紫「後付だといわれればそれまでだけど、その通りよ。でも、どうしてそう思ったの?」

    アリス「いくら幻想郷の支配者とはいえ、自分が思う形以外での異変は望まないはず。観測者か傍観者でいるか、若しくは自分の思う通りに進めるため解決しに行くことさえあるはず」

    アリス「それを、手助けだなんて……主犯でないとしたら、利用しようとしてるとしか思えないわ」

    紫「意外と聡明なのね。全く以ってその通り。数分の狂いもないくらい」

    紫「なら、話は次に進むわね……」

    紫「でも、その前に主犯が誰かを当ててほしいわね、私としては」

    アリス「それは難しいわね……夢なら私のせい、と言えるけど……早苗くらいしか思いつかないわ」

    紫「あらあら、早苗が可哀想ねぇ」

    アリス「推測できるとしたら、この異変を観測できる人物でないと意味はないはず。まさか、無作為にこういう事をするだけして満足、というわけではないだろうし」

    紫「そうね。少なくとも私が主犯なら、自分が起こした異変を見ておきたいわね」

    アリス「なら、犯人はこの世界に出てきた人物に絞られる」

    紫「それは、誰?」

    アリス「てゐ、藍、ミスティア、早苗、輝夜、永琳、鈴仙、ナズーリン、レミリア、パチュリー、魔理沙、咲夜、フラン、文、こぁ、慧音……」

    アリス「ダントツで早苗が怪しいんだけど」

    紫「ううん、それはなんともいえないわね……」

    紫「でも、仮に早苗だとしても、せめて動機が挙がらないと断定はできないわね」

    アリス「動機は無理そうね……となると、証拠しかないか」

    アリス「……詰んでない?」

    紫「まぁ、普通に考えて無理でしょうねぇ」

    紫「状況だけ説明してあげると、この世界は確かに現実の世界ではないわ」

    アリス「? でも、夢でもないのでしょう?」

    紫「そう。これは幻、幻想よ」

    アリス「幻想……」

    紫「現実と幻想の境目をいじくってこの世界を実現させたの。それは私の目的とも合致しているわけだけど、ふふ、つまり主犯も、この能力が必要だったというわけよ」

    アリス「必要って、境目をいじること?」

    紫「後は考えてみなさい」

    とはいえ、境目をいじった所で何か得をする人物なんて思いつかない。
    これが幻想であるならばそれは現実ではないという事で、例えば物欲なんかは実際に満たすことができない時点で意味をなさない。
    幻想を見せる、あるいは見せている幻想を見る事で得をするもの……いや、そもそも損得勘定の話じゃないのかもしれない。
    そうなってくると、除外される妖怪もいくらかいる……ううん、もっとよく考えてみて……
    この状況、少なくとも言動が普段と変われば観測の意味が無い……いや、普段と違う自分を見てどう思われるか考えてほしいのならありえる話……

    コテリン!

    アリス「それって、もしかしてそういう事……?」

    紫「あら、コナン君みたいにひらめいたかしら?」

    アリス「ううん、でもこれじゃあ誰が犯人でもありえる話よ……」

    紫「なら、別の角度から見てみればいいんじゃない?」

    アリス「別の?」

    紫「そうね、例えば……自分の事だけが心配なのだとしたら、こんな世界わざわざ作らなくてもいいはずよ」

    アリス「なら、犯人はこの異変を通じて、自分以外の誰かの何かを観測したかったと……」

    紫「あるいは、そのもの全てを、ね」

    アリス「うーん、理屈はわかるけど……」

    紫「観測者って、我侭なの」

    アリス「……なに? 急に反省会?」

    紫「その現象を、その場面を見ていながらも、自分の中では『こうあるべき、こうあってほしい』って思考が存在する」

    アリス「?」

    紫「その末で結果を受け入れる事ができる者もいれば、そうでない者もいる」

    アリス「え、えっと」

    紫「その基準すらも、人によって千差万別なの」

    アリス「はぁ」

    紫「だけど、私はね……そこは問題ではないと思っているの」

    アリス「それってもしかして、この世界の事を言ってるの?」

    紫「半分正解ね。ただ、この世界については問題に『している』から、残り半分は不正解」

    アリス「よくわからないけど……」

    紫「藍、せりふお願い」

    藍「現象には必ず理由がある」

    アリス「わっ、びっくりした……」

    紫「ありがと」

    急に藍が現れて、急に姿を消した。

    紫「反対側から見た時の言い方だとね、そうなってしまう事には理由があるの。必ずね」

    アリス「そんなの、当たり前じゃない?」

    紫「そう、当たり前。当たり前だからこそ、遵守されなければならないものなの」

    アリス「遵守も何もそうである事でしか、そうはならないでしょ」

    紫「ふふ、現実は、ね。だけど、幻想なら、また話は変わってくるんじゃない?」

    アリス「それはつまり、この世界で出てきた皆はワケも無くおかしくなったって事?」

    紫「うーん、鋭いときは鋭いけど、鈍いときは鈍いのね……まぁいいわ」

    そういわれるとむっとするけど、言い当てられなかったようだから返す言葉もない。

    紫「もしもこれが『夢』なら、どう?」

    アリス「どうって言われても」

    紫「変な夢を見た、で終わるでしょう?」

    アリス「あぁそういうこと。確かにそれで終りね」

    紫「なら、これは、この不思議の国は、本当に夢なのかしら?」

    アリス「不思議の国?」

    紫「そう、不思議の国」

    アリス「夢じゃないって最初にあんた言ったでしょ」

    紫「夢の私がそう言っただけかもしれないわよ? なら、その発言に信憑性がそもそもあるのかしら? 現に、証明できるものは何一つとして存在しない」

    アリス「それは……そうだけど」

    でも、少し考えて、すぐに答えに辿り着いた。

    アリス「急に場面や場所が変わるから、少なくとも現実でないことは確かね。夢か幻想かはわからないけど。もし夢なのだとしたら、明晰夢って所かしら」

    紫「なるほど。それは確かに、現実ではありえない事だものね」

    アリス「可能性として実現不可能な現象は否定に値する」

    紫「そう。要は、その適応範囲の問題なの」

    アリス「何が言いたいの?」

    紫「言いたいんじゃなくて、見たいの。『それ』をね」

    アリス「それが貴女の目的……」

    紫「いち段階に過ぎないけどね。でも、楽しませてもらったわ。あなたの『それ』」

    アリス「え、ちょ結局何が何なのかよくわからないんだけど」

    紫「ふふ、いいのよ。あなた『も』それで」

    アリス「よくないんだけど」

    紫「そろそろ世界が崩れるわ。ここから避難しなきゃ」

    アリス「ちょっと!」

    世界が激しき揺れ始める。
    何も無い空間のはずなのに、大きな音を立てて辺りが崩れ始めている。
    だがそれに気を取られることなく、私は紫を怒鳴りつけた。
    だからだろうか。どこかへ歩いて行ってしまう紫が、最後にこちらを振り向いて言った。

    紫「貴女、本当はもうわかってるんでしょう?」








    アリス「ん……」

    気がつけばそこは昼下がりの魔法の森の中だった。
    目の前には冷めた紅茶の入ったティーカップ、朝に焼いたクッキーの乗った小皿もある。
    変な体勢で寝てしまったせいだろう、身体は痛いし、頬の辺りに「かた」がいってしまってる。

    早苗「あ! アリスさん起きましたね」

    アリス「……なんでいるの」

    若干寝ぼけながら辺りを見回すと、私が起きたのに気づいたらしい早苗がこちらへ駆け寄ってきた。
    向こうには魔理沙や藍の姿もある。どうやら私が寝てる間にここにやってきたらしい。

    早苗「あれ忘れたんですか? 今夜は霊夢さんとこで飲み会ですよ!」

    アリス「そんな話になってたっけそういえば……」

    早苗「夏祭りお疲れ様会ですよ」

    アリス「一切関与してないけどね」

    早苗「とにかく、準備してはやく行きましょう! 着いた人から宴会を始めるルールになってるんです!」

    アリス「あの神社も暇ねー」

    準備を手伝うつもりなんだろうか、早苗は私より先に家の中へ入っていく。それならテーブルの上を片付ける手伝いをしてほしいと思った。

    藍「そちらは私が手伝おう」

    アリス「エスパーやめろ」

    魔理沙「お、やっと起きたのか。まぁ、のんびり行こうぜ」

    アリス「そうするわ」

    今日は魔理沙がいるけど、早苗や藍が来るのももういつもの事になってしまった。
    以前から考えれば、想像もしなかった光景。たぶん、そうやすやすと実現しないであろう、シーン。
    なら、私が今見ているこの風景こそが、夢? それとも、そんなことを考える時点でナンセンス?
    順を追えば納得もできる話。過去を一つ一つ掘り起こしてみれば、別段不思議もない話。これも、数多の可能性から生まれた一つの世界に過ぎない。
    早苗たちがいることも、私がここにいることも、この世界が存在するのも。
    でも、平行世界を証明することができないのなら、夢でなければこれは現実、なんだけど……なんだかもっと色々考えてた気がする。ここではない、どこかで。
    まぁなんにしても、寝ぼけた状態で考えることじゃないわね……

    アリス「寝覚め悪いわね今日は……変な時間に寝たせいだわ」

    早苗「アリスさん着替え用意しておきましたよ!」

    アリス「なんでタンスの中身把握してるのよ」












    紫「そう、もしかしたら、これは幻想なのかもしれない」

    紫「でも、それを考えない事もひとつのルール……だけど、忘れてはいけないものよ」

    紫「ふふ、さあ、これからもどんな風になっていくのか、とても楽しみね」

    紫「とりあえずは、私もたまには宴会にまじってこようかしら。主犯さんにも一言添えたいしね」

















    ~意味も無いあとがき~

    そもそも支離滅裂で意味があるとも思えない内容ではありますが。支離滅裂な事に意味がある、ということにさせてください。
    真犯人も暗示している内容も、よく読めばわかると思います。真犯人にいたっては名指しされてます。
    不思議の国のアリスのお話を少しベースにしていますが、基本的には外枠だけ拝借して中身はほとんどオリジナルです。
    本当はいもむしやらグリフォンやら出してもっと深刻な話にしようとも思いましたが、長くしすぎるのもなと思ってやめました。
    不思議の国のアリス以外にも色々とパロネタが入っているので、見つかると面白いかもしれません。
    鋭い人はおいおいと思ったかもしれませんが、それの批判等をしているわけではありませんので、お間違えのなきよう。

    不思議の国のアリスをベースにしたお話はこれのほかにも沢山考えているので、機会があればここでも書いてみたいですね。
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