【東方SS】真夜中の宴会
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【東方SS】真夜中の宴会

2015-03-08 01:38
    この話は、ある時期の一コマを描いたIFの物語です
    今回の話に限っては、私の書く他の東方SSや私の作る東方動画とは一切関係の無い内容となります
    最初に書くとネタバレになってしまうので、細かい設定は最後に書きます
    普段とは毛色の違う話、独自設定の嵐、物悲しいIFストーリーですのでご注意




    以下内容












    萃香「っくあー……若干眠いな……」

    萃香「先に飲むか……いやいや、流石にそれはダメだ。大人しく火をつけるだけにしとこ」

    人間が寝静まった夜に、それは行われようとしていた。
    満点の星空。博麗神社の裏手に一人の鬼。彼女の前で燃える炎。

    萃香「てか早く来ないと始めちまうぞ」

    針妙丸「存在を無視しないで! ここにいるから!」

    萃香「うん? あぁ、なんだ、そんなとこにいたのか」

    針妙丸「十分前くらいからいたわよ! 頑張って食材運んでたの」

    萃香「そんなの任せりゃいいのに。大変だろ」

    針妙丸「そうだけど、私も何かしたいの。何でもやってもらうだけじゃ嫌よ」

    萃香「そりゃいい心がけだけどさ」

    鬼は腰につけた瓢箪に手を伸ばし……はっとして、すぐにおろした。

    萃香「他の連中は? まだ来ない?」

    針妙丸「吸血鬼ならうろうろしてるの見たけど」

    萃香「なんだよあいつ、来てるならさっさとここ来いよ……」

    針妙丸「肝心の主催がどこかわからないわ」

    萃香「あいつは別に、ほっといても適当に来るだろ。遅刻する事もしない事もできるわけだし」

    針妙丸「はぁ……今年はすんなり集まらないなぁ」

    萃香「はは、今年も、な」

    鬼には何もしなくていいと言われたが、小人は何やら準備を始めていた。
    大きな……彼女の身体から考えるととても大きな鍋を、焚き火の近くに運んでいる。

    萃香「だから止めなって。熱いだろうに」

    針妙丸「近くに持っていくだけだから」

    小人は、まるでそれが自分に与えられた使命であるかのような口ぶりで、準備をしていた。

    萃香「んー、まぁ、あいつが近くにいるなら、もういいか」

    針妙丸「え、もう始めちゃうの?」

    萃香「どうせ具材は沢山ある。それに、メインはこっちだしな」

    ぽんぽんと近くの瓶を叩く鬼。
    彼女の周囲には多くの瓶や食材が並べられている。

    針妙丸「ダシ飛ばさないでね」

    萃香「気を付けるよ。なにせ、去年は大変だったしね」

    針妙丸「全身やけどで死ぬかと思った」

    萃香「私は別に鍋じゃなくてもいいんだけどな。紫が、鍋が良いって言うもんだから」

    針妙丸「鍋でもいいけど、食べにくい事は確かね」

    針妙丸「あっ、チョコレート」

    萃香「一通り楽しんだ後は、闇鍋ってのも良いだろう?」

    針妙丸「うげ、本気?」

    萃香「毎年結局これしないんだからつまんないよな」

    針妙丸「むしろそれをしたがる方がおかしいと思うわ」

    萃香「普通に食べて飲むのもいいけど、他に何か楽しみがないと」

    針妙丸「そういう場じゃないでしょ」

    萃香「そうか? でも確かに、あいつはこういうの乗らなかっただろうなぁ」

    針妙丸「それは普通に食べましょう、そうしましょう」

    萃香「はいはい、わかったよ……ん、ちょっと飛ぶかもしれないから、離れてな」

    針妙丸「うん」

    焚き火の上に鍋を釣るし、そこにだし汁を入れていく。
    既に温めてあったのだろう、すぐに鍋が煮え立った。

    萃香「えーっと、こういうのは何から入れるんだったか……いつも忘れるんだよな」

    針妙丸「何からでもいいんじゃない? 私も覚えてない」

    萃香「鍋奉行したがるやつがまだ来ないからなぁ。自業自得って事で、勝手にやるか」

    針妙丸「うーん、そうしましょうか」

    鍋に野菜を入れていく鬼。それを少し離れた所から眺める小人。
    人数が揃うまで待つつもりはもうないのだろう、二人の前には既にお酒が並べてある。

    萃香「すぐに出来上がるだろ。よし……飲むぞ」

    針妙丸「あは、そっちももう待たないんだ」

    萃香「もうだいたい約束の時間だろ。遅れるやつが悪いよ」

    針妙丸「それはそうだけど……二人とも何やってるのかしら」

    レミリア「何って、そりゃ夜の散歩よ」

    噂をすれば影。暗闇から吸血鬼が姿を現した。

    萃香「来たか。何やってるんだよ、すぐ来いよ」

    レミリア「ここに来るのも久しぶりだからね。ちょっと見て回ってたのよ」

    針妙丸「あれから全然来てないんだっけ?」

    レミリア「うん。だから、一年ぶりかな」

    萃香「一年じゃたいして何も変わらないよ。強いて言えば、前より小綺麗になってるってくらいだ」

    レミリア「みたいね。まぁ中にまでは入ってないけど、寝てるだろうし」

    レミリア「それより私もお酒ちょうだい。寒いし、あったまりたい」

    萃香「火の調整してないから、ってかできないから、まだ強いしそこであったまりなよ」

    レミリア「身体の内からあったまりたいのよ」

    萃香「今日は酔いつぶれるなよ~? おととしだっけか、すぐ寝ちまいやがって」

    レミリア「すぐって、明け方ではあったでしょ。日の光には弱いんだって」

    針妙丸「それって別に寝ちゃった理由になってなくない?」

    レミリア「うるさいわね。あ、食材どこ置こうか」

    萃香「その辺でいいよ。あとは紫に任せよう」

    レミリア「ほいさ」

    針妙丸「……変なのないよね?」

    レミリア「ちゃんとあんたらに合わせて準備したわよ」

    萃香「咲夜が?」

    レミリア「パチェが」

    針妙丸「相変わらずの人任せ……自分でやらないの?」

    レミリア「怠けてるわけじゃないわよ。やろうとしたけど、既にパチェがしてくれてたのよ」

    萃香「まぁ、あこにいると、何でもかんでも先にやられてしまいそうではあるな」

    針妙丸「優れすぎた配下も考え物ねぇ」

    レミリア「悪い事ないんだから良いのよ、その方が。あ、野菜掬うよ? んで、肉投入」

    萃香「まだ早いって。キノコ入れようよ」

    レミリア「んじゃ一緒に入れようよ」

    針妙丸「あはは、紫がいないと無茶苦茶ね」

    きっとどこか丁度いいタイミングで会話に混ざって来るに違いない。
    そう思っているのか、三人は真夜中の宴会を始めた。

    萃香「んじゃ、かんぱーい」

    レミリア「既に飲んでるじゃない……乾杯」

    針妙丸「かんぱいっ」

    萃香「くー、やっぱ良いねこの酒は」

    レミリア「今日はどこの?」

    萃香「華扇の隠し持ってるやつだよ」

    針妙丸「通りで美味しいと……っていうか、大丈夫なの?」

    萃香「大丈夫じゃないけど、わかってくれるだろ」

    レミリア「理由があるにせよ……よくやるわ」

    萃香「日常茶飯事だしね、こういう事は」

    針妙丸「だとしても、隠してるやつをどうして見つけ出せるのか……」

    萃香「挙動を見ればだいたいわかるけど、まぁ勘だね」

    レミリア「同じ鬼の名がつく者としても、その勘は若干羨ましい程だわ。パチェも咲夜も物隠すの上手過ぎて見つけらんない」

    萃香「何か見つけたいものでもあるの?」

    レミリア「二人とも私のおやつを隠すのよ。好きな時に食べたいのに、食べさせてくんないの」

    針妙丸「なにその子供みたいな」

    レミリア「子供じゃないっつの。別にいつ何食べても勝手でしょうに」

    萃香「いや、お菓子食べたせいで晩御飯食べられないってなるのは困るだろう」

    レミリア「それは、そうだけど、おやつ食べたいじゃない」

    針妙丸「一瞬で言葉に詰まったわね」

    レミリア「あーもう、うるさいうるさい……って、寒っ! 今日なんか一段と寒くない?」

    寒空の下、真夜中に吹く風は容赦なくレミリアの肌を撫でてゆく。

    萃香「ならあったかい恰好してこいよ」

    レミリア「大丈夫な気がしたの」

    針妙丸「パチュリーとか咲夜は心配しなかったの?」

    レミリア「着て行けって言われたけど、断ったの」

    萃香「なんでだよ……」

    針妙丸「あ、あ! 鍋、お鍋!」

    萃香「ん? おっと」

    気が付けば、鍋のダシが吹きこぼれていた。

    萃香「火が消えたらシャレにならんな」

    レミリア「ねえ、他にも焚き火作らない?」

    萃香「管理と後片付けがめんどいでしょうよ」

    レミリア「まぁ、そうか……」

    鬼は煮えあがった具材を小皿にとり、配る。
    そして、とうとう肉が煮上がるまでに紫は来なかったな、などと思いつつ箸を進めた。

    萃香「…………」

    針妙丸「…………」

    レミリア「…………」

    なんとなく、無言が続く。
    何かを考えているのか、あるいは何も考えていないのか。それぞれがそれぞれの方を向き、一息ついていた。

    が、数分も経たないうちに沈黙は破られる。

    紫「はぁい。お待たせ」

    萃香「遅いじゃないか。何してたんだよ」

    急にスキマから姿を現す大妖怪。
    顔だけを覗かせ挨拶した後一旦スキマの中に消え、自分の席に一瞬にして登場する。

    紫「ちょっと色々。はいこれ、食材とお酒」

    レミリア「今回は何があるかな~」

    針妙丸「去年は、なんだっけ。土瓶蒸し?」

    萃香「酔狂なものだった事は覚えてる」

    紫「何でも持ってこれるからこそ、よ。今年は蕎麦にしてみたわ」

    萃香「ありがたいけど、焚き火で鍋してる所にふさわしいものがほしいんだよね」

    レミリア「蕎麦ならまだあり……かな?」

    紫「最近の鍋は、シメにラーメンや蕎麦っていうのもあるのよ」

    萃香「外の世界の事情なんか知らないよ」

    針妙丸「らーめんってのはよくわからないけど、おうどんは最高ね」

    レミリア「私、おじやがいい」

    萃香「レミリアがおじや好き……合わなさすぎて笑う」

    レミリア「食べてみたら美味しかったんだし、別に好きになるのはいいでしょ」

    紫「あの時は蟹鍋だったし、いい味出てたものね」

    針妙丸「今日は蟹ないの?」

    紫「蟹がいいの? 必要なら持ってくるけど」

    萃香「なんだその袋」

    紫「今日は少し変り種。カレー風鍋よ」

    レミリア「か、カレーだって?」

    針妙丸「カレーが鍋で鍋がカレーで……わけわかんない」

    紫「あくまで風っていうだけで、カレーじゃないわよ。カレーの味がする鍋よ。今の掬いきったら、次これにするわね」

    萃香「よくわからんが、美味いなら何でもいいや」

    鍋に残る野菜や肉を取り切り、後の事は任せたとばかりにおたまを大妖怪に渡す鬼。

    紫「もう乾杯したの?」

    萃香「した」

    針妙丸「だって遅いんだもん」

    レミリア「遅れるのが悪いのよ」

    萃香「お前はしれっと言うね」

    紫「せめてお酒くらい待っててくれればいいのに、もう」

    萃香「鍋くらいなら待たなくもなかったけどね。はい、お酒はこれでいい?」

    紫「ん……そのお酒、またあの仙人が怒らない?」

    萃香「はは、鋭いね紫は。まぁ今日だけ特別特別」

    紫「まぁもらうけど」

    紫「……ふう、流石にこれは美味しいと言わざるを得ないわね」

    萃香「だろう? 知ってる酒の中でも、一二を争う銘酒だ」

    針妙丸「にしても……うーん、やっぱり紫は色っぽいわねぇ」

    紫「何よ突然。褒めても何も出ないわよ」

    針妙丸「頬を紅くした美人……絵になるわぁ」

    レミリア「もうおばさんじゃん」

    紫「む、あんただって年齢で言えばおばさんってどころじゃないでしょう」

    萃香「ははは、これじゃ年増の宴会だ」

    紫「ねえ、言ってて悲しくなるだけだし、こんな話はやめましょう」

    レミリア「あ、逃げたぞ。やーい」

    紫「だから人の事言えないでしょうって」

    レミリア「見た目が幼いから赦されるのよ、私は」

    萃香「ん? じゃあ私も赦されるのか」

    紫「私だって別におばあちゃんみたいな姿してないでしょ!」

    針妙丸「歳の話になると紫は怒るね。妖怪なんだから気にしなくてもいいのに」

    紫「何とでも言いなさいとは思うけど、何度でも言いなさいとは思えないのよ」

    萃香「ん……そうだね。ちょっと思い出しちゃったなぁ」

    紫「あぁ……そういうつもりじゃなかったのだけれど」

    レミリア「貧乏も、何度もネタにしてたらそんな風な返事が返ってきたわね~」

    針妙丸「懐かしいなぁ」




    紫「紅魔館は最近どう?」

    レミリア「どうとは?」

    紫「調子とか」

    レミリア「あぁ、うん。まぁいつも通りだよ。って言っても、以前に比べるといつも通りではないけど」

    針妙丸「……やっぱり、受け入れてはくれないの?」

    レミリア「大分考えてくれる所まではきたんだけどね。今のままだと、たぶん無理かなぁ」

    萃香「不思議なもんだね。あれだけ主と館の為に尽くしてきたってのに」

    紫「気持ちはまぁ、わからなくはないけど……もし藍が同じ運命だったらどうしていたかしら」

    針妙丸「考え方はそれぞれだから、何とも言えないわね……」

    萃香「自分の立場とか色々あるからね。当たり前のように毎日を過ごしていても、一日一日の価値なんてそれぞれ違うもんだ」

    紫「だから、自ら命を絶つ人もいるし、何が何でも生き延びようとする人もいる……まぁ、それは妖怪も同じだけれど」

    レミリア「わっかんないわね。生きてればいつか楽しい事があるのに、それめがけて生きればいいだけなのに」

    萃香「そう単純なものでもないって事だよ。お前だって、思い悩む事くらいあるだろ?」

    レミリア「そうだけど、それすらも生きてればこそ、じゃない?」

    レミリア「いや、自ら死を選ぶって事に対して言ってるのよ?」

    萃香「わかってるよ」

    紫「それが愚かだとわかっていても、行わずにはいられないのよ……そういう事が、悲しいけど、往々にしてあるの」

    針妙丸「でも、咲夜は……そういうのとは違うでしょ?」

    レミリア「…………人間の気持ちなんてわかんない」

    針妙丸「私は、ちょっとだけわかる気がするな」

    針妙丸「誰に決められるものでもない、自分の、自分だけの短い限られた人生だから。だからこそ、自然に逆らおうとしないんだと思う」

    萃香「逆らう者は地獄から迎えがくるしね。厳しい事を言えば、摂理を捻じ曲げるのなら、今後辛い事ばかりになるのかもしれない」

    レミリア「まぁ……」

    紫「でも、レミリアの場合は? 吸血鬼の存在を考えれば、摂理を捻じ曲げる事にはならないと思うけど」

    萃香「うん、どうなんだろう? 私に訊かれてもな」

    針妙丸「今度映姫に訊いてみようか?」

    レミリア「ううん、いい。訊いても訊かなくても、答えは決まってるし」

    レミリア「今日も笑顔で見送ってくれたけど……あの笑顔の下では、何を考えてるのかしらね……」

    ばちり、と焚き火が小さく爆ぜる。
    大きく燃え上がっていた炎も、今では冷たい風に晒され続けて安定した大きさになっていた。

    レミリア「そういう紫は? 最近どうなの?」

    紫「うちこそ、何の変りもないわよ。去年と同じ」

    萃香「いや、わかんないぞ。去年よりも沢山の仕事を藍に任せてるのかもしれん」

    針妙丸「あり得る……なんか適当な理由つけて押し付けてない? あつっ! うえー、白菜が熱いよう……」

    レミリア「ちゃんとふーふーしないから」

    針妙丸「素材が大きすぎるのよ」

    萃香「ん、次からもうちっと細かく切って渡すよ。それで、紫は藍に結構色々押し付けてそうだね」

    紫「ち、話が戻った……別に押し付けてなんかな、なないわよ」

    レミリア「なんでどもるの?」

    紫「あーもう、変な詮索はやめてちょうだい! 私だって、あれから色々と考え直したんだから」

    萃香「今でもここには通ってるのか?」

    紫「当たり前よ。それも務めだもの」

    針妙丸「この前も雑談に来てたわよね」

    紫「雑談だなんて失礼ね。列記とした仕事の話よ。ん、そろそろカレー鍋にするわね。全部掬っちゃって」

    萃香「へいへい」

    針妙丸「カレー鍋……カレーだし、美味しくない事はないだろうけど」

    紫「もう、疑り深いわね」

    萃香「初めてのものにたいしてはそうなるもんだよ。はい、空いたよ。だしは?」

    紫「んー、だしもセットで入ってるから、もったいないけど捨てちゃいましょうか」

    萃香「ほいさ」

    レミリア「だしもセット? その妙な絵の描いてある袋にだしが入ってるの?」

    紫「そうよ。これを入れるだけでだしが完成するの」

    針妙丸「すごい便利ねそれ」

    萃香「外の世界は何でもアリだなぁ……で、何の話だっけ?」

    紫「私がこの神社に来てるって話」

    レミリア「あぁ……それで、最近の事はよく知らないけど……もう紫が世話焼く必要ないんじゃないの?」

    紫「うーん、そういうつもりじゃないのだけれど……」

    針妙丸「ここもすっかり平和になったからねぇ。毎日訪ねてきては厄介事を運んでくる人も妖怪もいなくなったし」

    萃香「宴会の機会が減ったのは、正直困るね」

    レミリア「だからって、うちを会場にしようとするのやめてよ? 知ってるのよ、そういう計画が持ち上がってる事」

    萃香「何でバレてるんだ? おっかしいなぁ」

    針妙丸「私は、良い事だと思うけどなぁ。どこかで賑やかしが無いと、活気が出なくなっちゃいそう」

    レミリア「……まぁ、パチェは色々と寂しがってるけどね。魔理沙の泥棒だって、もう無いと思うと寂しいもんだし」

    萃香「複雑だねぇ。泥棒とかされて困る事しかなかったのに」

    紫「それが『当たり前でなくなる』って事よ。誰しも、良い事も悪い事も、最中(さなか)に在る時は何も思わないけど、失われればそこで初めて気づくものもある」

    針妙丸「当たり前が当たり前でなくなるって、本当に怖ろしくて悲しくて、寂しいね……」

    萃香「その魔理沙は最近どうなの?」

    レミリア「家で大人しくしてるってさ。パチェとアリスがたまに通ってるって」

    紫「あの子は生きながらえる事に今でも貪欲だものね。案外良い方法が見つかってきてるのかもしれない」

    萃香「でも、何度も迷ったんだろう?」

    針妙丸「そりゃ、迷うわよ。考え方一つでその先の人生ガラッと変わるんだから」

    紫「霊夢の事が一番大きかったみたいだけど……たぶん、今はもう当時の魔理沙と心は同じじゃないかしら」

    萃香「ん? じゃあ、今でも魔法使いになる方法は教えてないのか?」

    レミリア「さあ? それかやっぱり、まだ迷ってるんじゃないの?」

    萃香「まぁ、それもそうか。その気になれば蓬莱の薬とかあるしな」

    針妙丸「あれって今でも作れるのかな? 可能でも、作ってくれなさそうな気がするけど」

    萃香「魔理沙の頼みとあれば、どうだろうね。可能であるなら、試してくれそうな気はする」

    レミリア「どうしても無理なら、私が眷属にすれば済む話よ」

    紫「それは断りそうだわ、魔理沙が」

    針妙丸「華扇は? あの人なら色々知ってるんじゃないの?」

    萃香「確かにあいつは博識だけど、実際仙人というわけじゃないしなぁ。せいぜい長寿の秘訣くらいしか教えられないんじゃないかな」

    レミリア「ま、たまには私も顔を出してやるか。明日か明後日くらいに」

    針妙丸「あ、また、鍋!」

    紫「あら、すっかり忘れてたわ」

    萃香「小さいのによく気が付くね」

    針妙丸「小さいからこそ、何かたれてきてるのがよくわかるの」

    萃香「へぇへぇ……んあ、もうなくなっちまった」

    鬼は空になった瓶を後ろに置き、次に飲む酒を選ぶ。

    萃香「……しまったな、華扇の酒先に飲んだら、後から飲む酒の味が悪く思える」

    紫「そういう時は……はい、これ」

    レミリア「なにそれ?」

    紫「御口直し……というと聞こえが悪いけど、味覚をリセットするものよ。良いお酒の味をリセットするのはもったいないけど……次を楽しむには必要でしょう?」

    萃香「準備は完璧だな。じゃあ、口直しして、新しい酒入れたらまた乾杯するか」





    レミリア「……それで、針妙丸はどう? その、最近は」

    針妙丸「もう慣れたよ。慣れてしまったら、かなり過ごしやすい事もわかったし、何の不自由もないわ」

    紫「そうね。何もかもが完璧。でも、だからこそちょっと寂しいけれど」

    萃香「何代か前の巫女も似たようなものだったな。宴会しに来たら、めっちゃくちゃ怒られた」

    紫「あれは室内で暴れたからでしょ? 今みたいに、ちゃんと許可もらって外でやればいいのよ」

    萃香「いきなり始めるから面白いんじゃん」

    レミリア「その当時の事は知らないけど……霊夢なら、きっと喜んで参加したわね」

    針妙丸「文句言いつつも、結局一緒に騒いだでしょうね」

    萃香「今ここにいたら、絶対この場にまじってるな」

    紫「そうね……」

    もう粗方鍋は食べてしまった。
    大妖怪は鍋に残った野菜や肉を取りきると、麺の入った袋を取り出す。

    針妙丸「え、ここに蕎麦いれるの?」

    紫「そうよ。カレー南蛮蕎麦みたいにするの」

    針妙丸「ふーん。おだしから作り直すのかと思ってた」

    紫「だから、最近はこういうのがあるって言ったじゃない」

    萃香「おいおい、それって本当に美味しいのか?」

    紫「騙されたと思って食べてみなさいって」

    レミリア「カレーに蕎麦……考えた事ないわ」

    紫「油揚げもたっぷり入れるわね」

    萃香「藍が飛んでこないか」

    針妙丸「ていうか家の持ってきたの? 藍泣いてない?」

    紫「今日くらいは赦してもらいましょ」

    レミリア「美味しかったら今度作ってもらおうかしら」

    針妙丸「パチュリーに?」

    レミリア「うん。まぁ、横で咲夜が教えてくれるだろうし、大丈夫とは思うけど」

    萃香「自分で作るって発想はないんだな」

    レミリア「え、いや、まぁそのうち?」

    紫「これね~、最初は霊夢も文句言ってたんだけど、食べさせてみたら結構気に入ってね」

    萃香「そうなのか。本当に美味しいらしいね」

    針妙丸「おだし充分に滲みさせてね。でないと蕎麦の味しかしないし」

    紫「一応鍋用のお蕎麦なんだけど、上手にやらないとあんまり美味しくないのよね」

    レミリア「……そういえば、もう一つの神社は? 最近どうなの?」

    萃香「守矢? この前暇だったから覗いてきたけど、まぁ相変わらずかな」

    紫「早苗もかなり寂しがってたものね……もう慣れてしまったみたいだけど」

    針妙丸「慣れて、か……私も、そうなってるのかな」

    萃香「誰だってそうだろう。それが『変わる』って事なんじゃないか?」

    紫「あら、珍しい事言うわね。酔いが深まってきたかしら?」

    萃香「何とでも言うがいいさ。まぁ、これだけ長く生きていれば、変わる事の感覚も麻痺してしまいそうだけどね」

    レミリア「変わらないものは無い……細かい意味では沢山の変化があるけど、大きい意味で言ったら私たちは変わってるのかしら?」

    針妙丸「私は変わったわよう。こうして神社に住む事になったんだもの」

    萃香「じゃあ、それからは?」

    針妙丸「それから、うーん……」

    針妙丸「…………やっぱり、霊夢がいなくなっちゃったから、変わったわよ」

    レミリア「…………」

    紫「…………」

    萃香「…………」





    萃香「ふいー、食った食った」

    レミリア「お蕎麦美味しかったわね……」

    針妙丸「今度からこれも悪くないわね」

    紫「でしょう? 結構うちではお気に入りなのよこれ」

    レミリア「油揚げが入ってるし、藍も喜びそうね~」

    萃香「じゃ、片付けよろしく」

    紫「え、どうして私を見るの?」

    萃香「準備は私たちでやったんだから、片づけはそっちでするのが普通でしょ」

    紫「う、ま、まぁ、そうね」

    針妙丸「その理屈で言えばレミリアもだよね」

    レミリア「あーもう余計な事言わなくていいのに!」

    紫「逃げるのはよくないわよ? さあ、やるわよ」

    レミリア「み、水かけるのはちょっと」

    紫「水はかけないわよ。鍋とかの片づけをまずするの」

    萃香「あれ、レミリアって片付けした事なかったっけ?」

    レミリア「え、あ、うん」

    紫「なおのことやらないといけないわね。腹を括りなさい」

    レミリア「ちえー……」

    針妙丸「私も手伝うよ」

    紫「準備もした上その身体なのに……見習いなさい」

    レミリア「わかったから。やるから、もう」

    萃香「ははは」

    萃香「んじゃ、私は星でも眺めてようかねぇ」

    瓶を片手に、夜空を仰ぐ鬼。

    萃香「星が、綺麗だ」


    あれからもう、何年も経ったんだなぁ。

    ここで一緒に星を眺めていたのが、昨日の出来事みたいだよ。

    まさか、こんなに早くいなくなるなんて思いもしなかったけど……

    こうして、年に一回でも集まって思い出す日があるんだ。それを思うと、あんたの影響力は凄いもんだって思い知らされるよ。

    みんな、口にしないだけで、寂しいのさ。ここにいない連中だって、それは同じだと思うよ。

    ま、しんみりするのもあんたにゃ似合わないか。

    あんたに似合うのは、貧乏と、巫女服と……

    妖怪たちも皆が好きになる、不思議なやさしさかな。

    ホレ、あんたも気に入ってくれた名酒だ。たーんと飲んでくれや。


    レミリア「あっつ! なんか火の粉飛んできた!」

    紫「ちょっとかかったくらいで騒がないの。今何時だと思ってるの?」

    針妙丸「まぁそもそも深夜に集まって宴会って時点でおかしいとは思うけど」

    萃香「賑やかだなぁ」

    レミリア「あ! 萃香もう勝手に始めてるし! 私だって色々持ってきたんだから」

    針妙丸「私はもうお供え済ませてるわ」

    紫「え、ちょっと。私もまだなんだけど。去年は一緒にやったじゃない」

    針妙丸「しんみりするのもあれだし、各々のタイミングでって話になったよ」

    紫「あれ? そうだったかしら」

    萃香「これが噂のアルツハイm」

    紫「それ以上言ったら怒るわよ」

    レミリア「敏感すぎ」

    萃香「あははは」

    「ねえ、まだ騒いでるの?」

    レミリア「んあ、ごめんごめん、もうすぐ寝るよ」

    紫「焚き火がきちんと消えるまでは見てないといけないのよ」

    針妙丸「でも……ふわ、ちょっと眠いかも」

    萃香「じゃあ残りは紫に任せて、私たちは寝るか」

    紫「どうして私だけなのよ!」

    「うーん、私は別にいいんだけど、他所に迷惑かからないようにしてね」

    レミリア「他所ったって、かなり遠いでしょうに」

    「貴女達の場合、それでも心配になるから」

    針妙丸「返す言葉も見つからない、ってやつね。って、私も含まれてるの!?」

    萃香「よし、寝るか。じゃあ後は任せた」

    紫「本気!?……まぁ、いいけど」

    針妙丸「ごめんねー」

    「布団は用意してあるから、いつもの所に」

    萃香「いやいや、ありがとう」

    萃香「あ……やっぱりあと二分くらいだけ」


    楽しい時間なんて、あっという間に過ぎるもんだ。

    今日の宴会だって、今日までの一年だって、あんたが生きてた何十年だって。

    あんたはどうだ? 死んでしまうまでの何十年、楽しかったか?

    ……なんて、訊くまでもないよな。

    ふ、なんか私らしくないなこんなの。やめだやめ。


    だけど、霊夢……




    来年も、また会いにくるわ。



















    細かい設定とか

    なんか、霊夢が死んだ後ってこんな風に年に一度くらい集まったりするのかなーと思いながら書いてみました
    元はまどマギの話で、ほむらと杏子とマミがこんな風に話をするっていう、結構よくある設定です(何番煎じだろう)

    面子は、なんとなく思い浮かんだ四人にしていて、関連性が深い四人ですけど、他に特に深い意図はないです。神社にいる針妙丸、繋がりの深い紫、何かと絡むことの多いレミリア、霊夢大好きだろうなって萃香
    他の面子は、呼んでないというよりは、何となく集まったのがこの四人というだけで、なんとなくそれ以降もこの四人だけで行う形になったという話です
    華扇なんかはやるとしたらきっと、こうやって集まらずに一人で弔ってるんだろうなと思います
    早苗さんたちも交えた大勢でやるやつはまた別にある感じ

    原作設定ガン無視した所もあるわけですが、霊夢は寿命で死んだ設定になってます
    魔理沙はまだ死んでないけど、もう長くはない感じ。ただ、寿命を延ばしたり不死になったりして今後も生きるのかもしれません
    咲夜さんは、天命を全うしようとしていて、永く生きる事はしないでいるつもりです。かなり老いてますので、メイドとしての仕事も引退し、できる範囲でレミリアの世話を焼いている感じです
    博麗神社には新しい巫女が来ていて、里や妖怪と上手くやっています。ただ、妖怪の方に関しては、ここにいた四人くらいしか交流はありません(早苗達とは仲良くやってます)。礼儀正しく真面目な良い巫女です

    きっとどれだけ巫女が代替わりしても、霊夢の事は忘れないんだろうなぁと思って書きました


    普段以上に原作設定の改変を行ってしまっていると思いますが……
    でもこれはIFの物語
    もしかしてこんな未来もあるかもしれない、というだけの話ですので、普段のSSや動画とは何の関係もありません
    ちなみに、カルタグラの「雪割草」を流しながら読むとちょうどいい感じかも。私はそれ聴きながら書いてました
    たまにこういうのが書きたくなるだけです、はい
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