0efca8cd0140b7a3693e2dc1b8dcfd09453dd8bc

クトゥルフ朗読劇 華蝕の匣~書生の夢現~

台本制作用セッションリプレイ

 

 2019105日(土)、6日(日)に横浜YTJホールにて、クトゥルフ神話を題材とした『クトゥルフ朗読劇 華蝕の匣 〜書生の夢現〜(かしょくのはこ・しょせいのゆめ)』が公演されました。

 今回は、朗読劇の原作作成のために、原作者の芝村裕吏さんと、番頭役の酒井広大さん、書生役の菊池勇成さんのお二人が事前にセッションしたリプレイテキストを公開します。
 リプレイの最後には、プレゼントもありますよ。

酒井広大さん(番頭役)/菊池勇成さん(書生役)
416d6b12201b4c0a4bfecf67cc920b4edfb4a83b05836bfc4c5c0b876e1dd6e0fdd269f821669de7

 

朗読劇前日譚 ~TRPGで台本を作る?~



 

『クトゥルフ朗読劇 華蝕の匣~書生の夢現~』。


 我々が過ごす日常の陰には、宇宙的な規模の人智を超えた存在がおり、それに気付いてしまった者は正気を保ってはいられない。そんなコズミック・ホラーの金字塔として世界中で愛される『クトゥルフ神話体系』の作品群。同じ世界観を共有する「シェアード・ワールド」方式で、この世界観を背景に持つ様々な小説やゲームなどが、今なお生まれ続けています。


 この朗読劇もまた、その『クトゥルフ神話体系』の世界観をベースに、大正時代の日本を舞台とした物語となっていました。



 

 その朗読劇の台本は、ただ原作者が空想で書き上げただけのものではありませんでした。


 『クトゥルフ神話体系』の世界観を持つ、テーブルトークRPG『クトゥルフ神話TRPGCall of Cthulhu』(以下、『CoC』)。クトゥルフ神話の世界の登場人物となり、さまざまな恐怖が潜む物語を追体験できる、テーブルトークRPGというゲームの中でも歴史が深く、世界中で人気を博すタイトルです。


 こちらを用いて、朗読劇原作者である芝村裕吏さんがゲームの進行役である「キーパー」(ゲームマスター)を、朗読劇の演者である声優の酒井広大さん(番頭・日達貫太郎役)と、同じく演者で声優の菊池勇成さん(書生・喜央正午役)が、物語の登場人物を担う「プレイヤー」を務めてゲームをプレイすることで、台本の元となる物語が作られていたのです。



 

 今回はそのゲームプレイの模様を、子細にお伝えできればと思っております。朗読劇を鑑賞し、台本をすでにお持ちの方は、また違った見方で楽しんでいただけることでしょう。



 

 なお、日本の大正時代が舞台となるため、『クトゥルフ神話TRPG』の世界観をさらに拡張する書籍『クトゥルフと帝国』が非常に参考になります。


 また、今回のゲームプレイ(セッション)では、20191220日(金)に発売予定となっている、『クトゥルフ神話TRPG』の第7版となる最新ルールブック『新クトゥルフ神話TRPG ルールブック』のデータも一部先行して採り入れられており、芝村流のアレンジルールで運用されています。



 

朗読劇原作者・芝村裕吏氏(以下、芝村) ではまず、『CoC』の基本的なところから解説させていただきます。とは言っても、そこ(キャラクターシート)に書いてある数字がそのまま全てなんですよね。



声優・酒井広大さん(以下、酒井)
  へぇー?



芝村  
成功率100%のうち何%か、ということがそこに書いてある各数字の意味でして、何か行動の成否を決定する時には、十面体ダイス(サイコロ)を2個振っていただきます。たとえば数字が「50」と示された場合、本日用意してありますその黄色い十面体ダイスを十の位、白い十面体ダイスを一の位の数字として振ってもらうことになります。



酒井  
なるほど、じゃあ(ダイスを振る。黄色いダイスが「0」、白いダイスが「5」)この場合は「05」ということになるんですね。



 

 テーブルトークRPGでは、登場人物であるプレイヤーキャラクターの立場にプレイヤー自身が立ち、キャラクターの行動を宣言していくことで、物語が動いていきます。しかしその中では、「亀裂の向こう側へとっさに跳ぶ」、「久しぶりに会った人の名前を思い出す」など、その行動が成功するかどうか分からない場面も多く出てきます。


 その場合、ダイスを振って「判定」を行い、成否を決めることになります。『CoC』ではキャラクターの得手不得手を表す「能力値」や「技能」の数値によって計算された、0100の値が用意されており、それらはすべて「キャラクターシート」に、キャラクターの設定などとともにまとめられています。


 ゲーム進行役の「キーパー」が指定する、その行為の判定に適した値をキャラクターシートを見て探し出し、ダイスを振って出た値がその値以下であれば、判定は成功したことになります。



 

芝村  『CoC』では「能力値」を使った判定や「技能」を使った判定などがあるんですが、基本的には全て0100%の数値ですので、判定の方法に違いはありません。「●●を使って判定してください」と言われたら、その数値を使っていただければOKです。


 ただ、能力値は汎用的な使い方をする場合がありますので、なんとなく覚えておいていただけると助かります。たとえばこの、「STR」なんですが。



 

酒井  あー、よくRPGで見るやつですね!



 

芝村  ですね。STRは物理的な力、CONは耐久力、POWはパワー、精神的な力を表します。プレイヤー側が使うことはあまりないんですが、魔力の基準になったり、たまに神に捧げたりすることもあります。



 

声優・菊池勇成さん(以下、菊池)  なるほど、神にパワーを(笑)。



 

芝村  DEXは器用さなんですが、どちらかというと他のゲームで言うアジリティー(AGI、敏捷性)のような使い方をすることが一般的です。次にAPP、これは魅力ですが、TRPGではデータ的にはかなり適当なものなので、実際は演じているプレイヤーが出す魅力が全てと思っていただいても結構です(笑)。



 

酒井  本人の魅力が問われると(笑)。



 

芝村  続いてSIZですが、これの判定が必要だった場面はあまり見たことがないんですが、体のサイズ(大きさ)を表します。身長と体重の合計値ですね。これが高いと背が高かったり、太っていたりします。



 

菊池  高いと細いところに入れないとか、そういうことになったりするんですかね?



 

芝村  そういうシーンもあるかも知れませんが、戦闘になるとSIZが高い方が圧倒的に有利なんですよ。アメリカ人が作ったゲームなので、アメリカ的に体が大きいことがいいことだ、という世界観になっていますので。さらに能力値同士に相関性はないので、体が大きいけど素早い、なんてキャラクターも作れちゃいます(笑)。



 

酒井  なるほど(笑)。



 

 能力値でそのキャラクターの外見などもイメージできるのが、テーブルトークRPGの面白いところです。また、SIZが大きくても太っていたり、マッチョであったりと、自分で設定を加味することもできます。生まれ故郷や過ごしてきた環境なども、場合によっては自分で自由に設定できるのです。


 そうした設定によって肉付けされたプレイヤーの分身のことを、テーブルトークRPGでは「プレイヤーキャラクター」と呼びます。『CoC』では特に彼らは「探索者」とも呼ばれ、知られざる恐るべき存在……民間伝承の陰にちらつく異形の陰や、眉唾と思われた邪教信仰が本当に呼びおろしてしまった超常存在などといった、神秘的かつ恐るべき存在が実在する事件にかかわっていくことになります。


 そういったホラー映画やミステリー小説などの、登場人物のひとりになり切れる、といったイメージが分かりやすいでしょう。



 

芝村  そして次の能力値、INTですね。これは知力というより知能指数のようなものです。次の能力値EDUは学歴でして、大学卒相当など、こちらも頭の良さを表します。


 高学歴の天才博士で「頭がいいけどバカな人」って、たまに出てくるじゃないですか。逆に学歴はないけどクラブでNo.1の頭が切れるホスト、なんて人もいるわけで、そういう状態を表現するためにINTEDUが分かれているんです。



 

菊池  学はないけど頭がいい、みたいな感じになるわけですね。



 

芝村  で、このゲームの全ての能力値は、以前は3つの六面体ダイスを振って決めていたんですが、最新のルールでは値を割り振って決める方式になっています。現時点だと、まだ日本では最新のルールは発売されていないんですが……ええと、既存のルールと新ルールのキャラクターシートを見ていただけると……。



 

酒井  (キャラクターシートを見比べて)なるほど、分から……あ、いや、能力値は5倍の値になってるんですかね?



 

 『CoC』の最新ルール(第7版)では、能力値については従来の6面体を3つ振ってランダムに決める方式(結果は318、平均値は10)から、ポイントを割り振って能力値を好きなように決める方式(平均値は50)に変更されています。


 旧ルールでは、各能力値に「×3」「×5」などの計算を入れて出した値を判定に使用することが多かったのですが、新ルールでは、たとえばSTRが「50」と書いてあれば、STRの判定の成功率は基本50%で成功するなど、成功率が一目で分かるようになっています。



 

芝村  判定が難しい場合、その値を1/21/5にした値で判定してもらう場合もあります。旧ルールでは「5倍の値で判定してください」という場面が多かったんですが、いちいち計算するのが面倒なので、新ルールでは最初から5倍の値が書いてあると思っていただければと。


 あと覚えておいていただきたいのは、「副能力値」ですね。特に大事なのは<幸運>です。



 

酒井  幸運?



 

菊池  幸運。



 

芝村  モンスターに襲われたりした時に、幸運以外の何物でも回避できない、なんて場面はわりとあります。非常に重要なパラメーターなんですが、なぜか新ルールになってもランダムで決定するのが変わっていないんですよね(笑)。


 また、複数人で行動している場合は、一番低い人の値で判定することになります。



 

菊池  すると……僕か!?(<幸運>45



 

酒井  そうだね、5違う。



 

芝村  というわけで、おふたりで行動している場合は45で判定していただきます。まぁ、これもホラーの定番なんですよね。



 

酒井  なるほど、足を引っ張っちゃう感じなんですね。映画とかでも「こっちの部屋でフラグ立てるな! シャワーひとりで浴びてこい!」みたいに思うシーンありますよ(笑)。



 

芝村  次に「HP」ですね。これはSIZCONを合計して10で割って算出するもので、言わずもがな耐久力ですね。



 

酒井  え、ふたりとも11? って、弱くない……?



 

芝村  いえいえ、平均的な値です。まぁ、戦闘やイベントでダメージを受けると減っていくとやばい、ということは分かるかと思います。そして『クトゥルフ』では減るとまずい代表的な副能力値として、ほかに「SAN」(サニティー)、正気度というものがあります。これは他の作品などでも聞いたことがあるんじゃないでしょうか。


酒井  SAN値、ピンチ……ニャル子さんだ(笑)。



 

 SANはそのキャラクターの精神の強さ、意志の力を表す副能力値で、高いほどショックな出来事などに強いことになります。


 SANを基準として算出される「正気度ポイント」は、ショッキングな出来事や恐怖体験に遭遇するたびに減少していくことになります。恐怖に直面した人間がどうなっていくのかを表現し、その立場に立ったプレイヤーがどう行動するのかを味付けする、『CoC』の要となるシステムです。



 

芝村  これはHPよりも大事な値です。人間の体が崩壊するよりも先に、精神が崩壊してゲームオーバーになることの方が多いです(笑)。



 

酒井  ゼロになったらおしまい、というわけなんですね。



 

芝村  おしまいというか、NPC(ノンプレイヤーキャラクター)になってしまい、自分では扱えなくなってしまいます。



 

菊池  確かこれ、一回にこれだけ減っちゃうと何かが起こる、みたいなことがありませんでしたっけ。



 

芝村  あります! 一撃で大量に正気度ポイントを失うと、狂気に囚われたりします。



 

 すでにお気づきの方もいるかも知れませんが、酒井さんは『CoC』のプレイだけでなく、テーブルトークRPG自体も初体験となります。逆に菊池さんには、『CoC』のプレイ経験があります。


 この違いも念頭に置きつつ、おふたりの様子を見比べてみると、より以降のリプレイを楽しんでいただけるかも知れません。



 

芝村  また、新ルールでは<信用格付け>という新たな要素が加わっています。これはお金の代わりですね。この値が0なら無一文、ホームレス状態であることになります。



 

菊池  あれ、僕ぜんぜん持ってませんよ!?(<信用格付け>9



 

芝村  9ですと、最低限のレベルですね。逆に酒井さんのキャラクターは60ありますので、贅沢、裕福な生活ができます。


 たとえば、今回のシナリオの時代背景となる1920年~1930年代の日本では、2000円でビルが建ちます。でも、ゲーム中にいちいち所持金を減らしていくのは面倒ですから、判定で済ませようということになったんです。



 

菊池  確かに、いちいち計算していくのは面倒ですねー。



 

芝村  馬に乗りたいから馬を買う、という場合は、この<信用格付け>で判定することになります。かなり簡単になったわけですね。


 新要素はこれくらいで……あとは、一度に正気度ポイントを5点以上喪失すると「一時的狂気」というものが発生することも覚えておいてください。一時的狂気に陥った場合、INTの判定に「成功」すると事態をより理解してしまい、まずいことになります。



 

酒井  あっ、これヤバいやつだ! と(笑)。



 

芝村  むしろ、なんでこんな目に遭ってるんだろう、と分からないままの方が酷い目に合わないわけですね。頭がいい人は、逆に悲惨な目に遭いやすいです。



 

菊池  確か、<アイデア>で判定するんですよね。



 

芝村  旧ルールではINTから算出する副能力値<アイデア>で判定でしたね。新ルールだと<アイデア>がなくなり、INTの値そのままで判定するようになっています。



番頭キャラクターシート
ccc477ea7c95290fc0acb1c576bec343309531c2


書生キャラクターシート 

1ea4bb4db13862b97ea932814a74e9e3ecf2e592

 

大正浪漫講義 ~大正時代とは~



 

芝村  では、突然ですが……今回のシナリオの舞台は大正時代になりますがおふたりは大正時代についてはご存じですかね?



 

菊池  ええ? いえ、あんまり。えーと、昭和の前ですよね?



 

酒井  えーと、戦争の前、いや戦争は終わってたっけ?



 

芝村  日本は明治維新以降、大きな戦争を何度も起こしていますからね。日清戦争が終わり、日露戦争が終わり、太平洋戦争はまだ起こっていない、という時代になりますね。



 

 太平洋戦争は昭和16年(西暦1941年)に勃発しているので、今回のシナリオの時代からは後の話になります。大正時代はその大戦争に至る直前、日本がかつてない変化と繁栄に沸く、「大正浪漫」の時代となります。



 

芝村  では恐縮ですが、これから30分くらい、まずは大正時代の説明をさせてください!



 

ふたり えー!?



 

芝村  どうしてかと言うと、大正時代について覚えている人というのは、現代ではほぼいないんですよ。印象がとても薄くて、昭和のことは知っていても大正のことは知らないという人が多いんです。



 

酒井  大正浪漫! で片付けちゃってる感じですよね。



 

芝村  おふたりは朗読劇の際にも、大正時代の雰囲気を出しつつ演技をしていただくことになりますからね。ちなみに江戸時代から大正時代までの流れで説明するか、現代から大正時代への流れで説明するかの2パターンがありますが。



 

菊池  ええー? どっちがいいんだろう……。現代からの方が、分かりやすい気もしますけど。



 

酒井  それじゃあ、現代からの方でお願いします!



 

 江戸や明治から、そして昭和からも近く、混沌極まる日本最大の過渡期となった大正時代。皆さんも一時、今回の物語を楽しむためにも、お勉強にお付き合いください。



 

芝村  では、現代からどんどん引き算していきましょう。まず、スマホがありません。ネットがありません。それどころか、携帯電話がそもそもありません。


 ドローンもパソコンも、がん治療などの高度医療もありません。平均寿命が昭和初期で30年、大正時代で40年下がります。



 

酒井  すると、もう40歳くらいで寿命が……。



 

芝村  そうです、50歳はもう老人なんですよ。



 

酒井  すると、僕のキャラクターは32歳なんですけど、結構ヤバい年齢なんですね。



 

芝村  江戸時代には35歳で隠居が許されていましたからね。江戸時代と比べれば、脚気(かっけ)というビタミン欠乏症の対策が森鴎外などの尽力で見つかって、大正時代の平均寿命はこれでも伸びた方なんですよ。



 

菊池  あれですね、膝を木槌で叩いて足がピーンと伸びなかったら脚気、ってやつ。



 

酒井  えー!? なにその判断方法、面白い!



 

 日本人の平均寿命が50歳を超えるのは、第二次世界大戦と太平洋戦争が終わった以降からです。乳幼児死亡率の高さや疱瘡(ほうそう)、麻疹(はしか)などの対策となる高度医療が確立するまでには、膨大な時間が必要とされました。



 

芝村  さらに続けると、高層ビルも、CDも、FAXもございません。さらに抜かれるもの……年金も、アメリカ文化も抜かれてしまいます。高度成長をまだ知らないので、勤勉さというものも皆さんから抜いていただきます。日本人は今では勉強するのが普通なのですが、それがありません。9時~5時に働くのは当然とはいえ、サボれるならサボっちゃえ、というのが、当時の日本人の一般的な考え方です。



 

酒井  いいなぁ(笑)。



 

芝村  当時はまだ、一生懸命働けば成功するというビジネスモデルがそもそも思いつけなかったんですね。さらに、年を取っても年金がないから士気が低く、みんなチャンスがあれば会社をバンバンやめていたんです。



 

 大正時代にはまだ国民年金制度がなく、軍人や海上労働者の一部などのみを対象とした公的な年金制度が存在していました。当時の外国の年金制度を模範として労働者年金保険法が制定されるのは、1941年(昭和16年)のことです。



 

芝村  なのでこの時代、会社から人材の流出があまりにも激しくなってしまったわけです。



 

菊池  この時代、会社というものはあったんですね。



 

芝村  あったんですが、これは江戸時代からの繋がりで、人の名前がそのまま商店の名前「屋号」になっていました。酒井さんのキャラクターが番頭を務める、「鈴木商店」のような感じですね。つまり、代々鈴木さんが経営しているわけです。


 現代日本だと、三井グループが三井家から経営者を代々輩出していたりしますね。現代日本の三大自動車メーカーなども、すべてこの時代の屋号から受け継がれた、人名を基にした社名となります。



 

酒井  すごいなー、今もずっと受け継がれているんですね。



 

芝村  ああ、あと大事なものが抜けていましたね。固定電話が、この時代では非常に珍しいものになります。一般家庭にはありませんが、庄屋さんに行くと置いてあったりします。



 

 「庄屋」もまた江戸時代から存在する、一帯の百姓を統率する顔役のことです。明治維新以降、政府はこの慣習を払拭しようとしましたが各地方に根強く残った慣習は消えず、その地帯の有力者としての慣習が残り続けました。



 

芝村  たとえば、アニメ映画『となりのトトロ』では、村の一番大きな家にだけ電話があったりしましたよね。そのように、電話はどこにでもあるわけではなかったんです。さらに記録媒体としてはテープもなく、テレビもありません。そして何より、「命が大事」という思想がございません。



 

菊池  ええ!? そうなんですか!?



 

芝村  この時代、自殺者の数が半端じゃないほど多いんです。現代日本も自殺者が多いとされていますが、現代よりも遥かに命の価値が低かったんです。たとえば仕事で納期に遅れたりすると、腹を切ったりしています。



 

酒井  物理的にですか!?



 

芝村  ええ、物理的に。そして命の価値と言えばこの時代、強権を持つ警官の信用が低いです。さっき出した『トトロ』の例だと、警官が来ると子供たちが「隠れろー!」と逃げたりしていましたが、大正時代は本当にそういう見られ方をしていたんです。警官に関わると何があってもしょっぴかれてしまう、という怖い印象があったんですね。



 

菊池  いまだにそういう苦手意識はあるかも知れませんねー。



 

酒井  何も悪いことしてないのに!(笑)



 

 大正時代の警察官は、現代のような市民の安全を第一に考える存在ではなく、治安維持を第一とする高圧的な存在でした。1924年(大正12年)からは刀剣のほか、拳銃も一部に配備されます。


 強権を持つ彼らに検挙された被疑者は、真偽を問わずほぼ立件率が100%になるという、恐ろしい存在だったのです。



 

芝村  当時と比べれば、今はいい人ばかりなんですけどね。さらに生活環境の話に戻りますが、当時はマイカー、洗濯機どころか、電気もぼちぼちしかないです。敗戦を経験しておらず、文民統制(シビリアンコントロール)の考えもございません。戦うか戦わないかの選択になると、まぁ殴るかという江戸時代に近い発想をしていました。



 

酒井  火事と喧嘩は江戸の華!



 

芝村  時代の尺度で言えば、大正時代は現代よりも、江戸時代の方にずっと近い時代です。江戸時代の発想で考えた方がいいかも知れません。



 

菊池  だから最初に、江戸時代から説明するかどうかと言ってたんですねぇ。



 

酒井  え、でも例えば、車自体はあったんですよね?



 

芝村  アメリカにフォードというとんでもない天才が現れて、T型フォードという車を、大量流れ生産と言う画期的な製造方法で世界中に産出していきました。日本だと当時は「円タク」という、1円で乗れるT型のタクシーが出始めたころですね。



 

酒井  それは普通に、ガソリンエンジンの車だったんですよね?



 

芝村  ええ。そうしてガソリンエンジン車が普及していくに従って、石油が必要だけど圧倒的に足りない、ということが分かり、その後太平洋戦争へと突き進んでいくことになるんです。



 

菊池  そうですよね、自国領だと燃料が採れませんし。



 

酒井  面白いなぁ。ちゃんと歴史の勉強しなきゃだなぁ……授業を受けてた学生時代はつまらなかったんですけど。



 

菊池  今改めて聞くと、ほんと面白いですよね。



 

 昭和初期や世界大戦の時代については、テーマにしている作品やゲームも多く、興味を持って調べてみたという人も多いかと思います。それらの時代よりも大正時代はさらに多くの謎と混沌に包まれた、まさに「小説より奇なり」の時代です。興味が湧いた方は、ぜひ調べてみてください。



 

芝村  そして、この時代の『CoC』をプレイする上で決して忘れてはならないのが、「関東大震災」です。今回の舞台は大正14年か15年くらいなんですが、関東大震災は大正12年、西暦1923年に起きています。



 

酒井  物語の23年前に起きているんですね。



 

芝村  この震災で、東京、神奈川、千葉、茨城、静岡の一部に大被害が出てしまいました。また、一番被害者が出たのは揺れによるものではなく、火災による被害者が圧倒的多数になりました。当時の日本は木造建築が一般的だったため、とにかく火事に弱く、強い風も吹いたため、死因の第一位となったんです。


 それで復興が始まるんですが、そのお金を自力で集めることはできなかったため、「外債」という外国への借金で集めました。これを全額返せたのは、西暦2000年ごろになります。



 

菊池  ええ!? わりと最近なんですね。



 

芝村  100年ローンとか立ててましたからね。そこで集めた莫大なお金の半分は、一切民間の復旧には使われず、火力発電所の建設に使われます。今回の舞台となる震災から23年後の時代には、大借金で完成した火力発電所から皆さんの家庭へと、電気が行き渡り始めているんですね。日本が電気を使い、明るくなり始めるのはこの時代からなんです。



 

菊池  じゃあ逆に、この震災がなかったら……。



 

芝村  そうですね。大きな借金もせず、火力発電所も一気に作らなかったので、現代にここまで電化は進んでいなかったかも知れません。ただ、お金が半分も来なかったせいで、民間は自力救済になってしまったんです。



 

酒井  そりゃもう、自分たちでどうにかするしかないですよね。



 

芝村  するとどうなったかと言うと、家を自力再建できない人たちが大阪に流れていって、大阪は人口ナンバーワンの都市になりました。東京はナンバーツーになり、56年でやっともとに戻ります。埼玉なども、ここで一気に人口が増えました。



 

菊池  被害が少ない場所に、人が集まっていったんですね。



 

 この関東大震災のほかに、江戸時代の大火など、東京一帯は幾度かの大災害と大復興を体験し、その記憶と経験が後世に刻まれていくことになります。太平洋戦争終戦後にはそれが爆発的な規模となり、奇跡的な復活と高度経済成長を果たすに至ったとされています。



 

芝村  あと覚えておいてほしいことは……新聞ですね。東京では印刷所がなくなり、新聞社の家族も離散したため、記事が作れず情報がまったく出回らなくなります。そうなると民衆が配給などの情報を求め始めるため、動物園から猛獣が逃げ出したとか、外国人が暴れ出したとか、デマが大量に出回るようになって殺人事件などにまで発展し、社会不安になっていくんです。


 それを解決するために、大阪から大量に新聞記者が移ってきて、大阪で印刷した新聞を東京で配るようになっていきました。現代の日本の三大新聞社のうち、朝日と毎日は、元は大阪に本社があったんですが、この時代に東京に進出して移転したんです。それにシェアを取られてたまるかと、東京で立ち上げられたのが読売ですね。情報がどうしても欲しいという震災後のニーズが、この三大新聞社を生み出したんです。



 


 

二人道中顛末 ~ふたりの人物の経歴~



 

芝村  以上、大まかに大正時代について重要な部分を説明してきましたが、実はおふたりが演じるキャラクターはいずれも震災の影響を大きく受けた人物です。



 

番頭 、日達貫太郎の場合



 

酒井  ええと、そもそも僕のキャラクターの「日達貫太郎」の職業の「番頭」って、どんな職業だったんでしょうか?



 

芝村  番頭というのは、まだ株式会社がなく「商店」という個人経営の会社しかなかった時代に、「丁稚」(でっち)という店を手伝う店員さんたちの中で、一番偉くなった人のことです。


 番頭さんになると、店では実質ナンバーツーです。さらに番頭が複数いる巨大な商店もあったのですが、たいていの商店ではこれより上は支配者一族というか、創業家の人しかいないという、今で言えば平の取締役よりも偉い立場ですね。


 仕事は何をするかと言うと、基本的には人の差配をします。



 

酒井  人事的なことですかね?



 

芝村  人事ですらないんです。直接、丁稚に「お前は●●をやれ」とその場で采配します。日達貫太郎が勤める「鈴木商店」には300人の丁稚がいるんですが、その全員の名前と性格を知っていて、どの仕事が適しているか把握しているんです。



 

酒井  指示係、というわけですね。



 

芝村  今回のシナリオの冒頭ではおふたりには借金取りに向かってもらうんですが、普通だったら番頭は借金取りなどに使われることはありません。雲の上の人なんです。なのになんで借金取りに来たかというと、相手が貴族様なんですね。



 

酒井  ああー、それじゃ平の人だとちょっとまずいんですね。



 

 日本における貴族制「華族」は、明治2年から昭和22年まで存続していました。この時代にも華族は司法や財産保護など、あらゆる面で国からの手厚い支援を受けており、第三者からの財産差し押さえからほぼ無条件で逃れることさえできました。


 大正5年には華族当主の意志で世襲財産の解除が行えるように法制定がされたものの、当時「借金の取り立て」に一般人が華族のもとへ向かうこと自体、相当恐れ多いことだったのです。



 

芝村  立場がある人でないと、この取り立てはまずいんですね。酒井さんはぜひ、ここまでは覚えておいてください。また、当時は学校を卒業してリクルートして会社員になる、という概念は、あと10年後くらいまでは薄いんです。日達さんの場合、9歳で丁稚になって叩き上げで番頭になった感じで、32歳となると番頭としてはわりと遅咲きになります。普通なら「暖簾(のれん)分け」といって、30歳くらいには商店からお金をもらって独立した支店を作るのですが、ちょうど日達さんが30歳のころに大震災が起き、鈴木商店は傾いてしまったんです。



 

酒井  ちなみに、鈴木商店は何を扱ってる会社だったのかという設定はあるんでしょうか?



 

芝村  なんでも扱います(笑)。基本的には薬を扱っていたんですが、やがて飴を扱うようになります。現代日本でも、飴をあつかっている製薬会社って多いですよね。



 

菊池  ああー、そうですよね! 龍角散のど飴とか。



 

芝村  薬って当時、良薬口に苦しというわけで、とにかく苦かったんですよ。とても飲めたものではなかったので、飴で包んで飲むのが一般的だったんです。なので飴問屋と薬師は仲が良く、やがて一体化して薬も飴も作る商店が増えたんです。そうして大きくなっていった商店が今は龍角散のど飴などを作る会社になっているわけですが、鈴木商店もそうした商店なわけです。


 あと、おふたりは「富山の薬売り」ってご存じですかね?



 

酒井  いや、全然分かんないです。



 

菊池  僕も分かりませんね……。



 

芝村  常備薬の薬箱が、おばあちゃんの家に置いてあったりしませんでしたかね?



 

酒井  ああー! ありました。使った分だけ売りに来た人から買っていくやつ。



 

芝村  昔その訪問販売をやっていたのが、富山の薬売りたちだったんです。鈴木商店もそうした商いをしていますので、売りに行く店員が信用できるかどうかを見定めて、薬やお金を預けて派遣するのも番頭の仕事でした。


 ただ、明治時代以降どんどん仕事が増えていたため、多くの商店は仕事の種類がどんどん増えて、総合商社に発展していったんです。三菱や三井、紀伊国屋などが有名ですね。本だけでなく食材を扱うようになったり、とにかく当時は頼まれたら嫌と言えない人がいっぱいいたんです。



 

酒井  ちなみに、鈴木商店は実在する商店なんでしょうか……?



 

芝村  モデルは実在していますが、気にしないでください。鈴木という苗字の人は、当時からいっぱいいますからね(笑)。


 そんなそろそろ卒業となる番頭さんの日達さんですが、卒業が遅れています。30歳を目途に暖簾を分けてやろう、と言われ「これでやっと奥さんを持てる!」と喜び勇んでいたんです。



 

 当時は奉公務めをしている間には、婚活はしないというのが一般的な考え方でした。



 

芝村  ところが大震災で鈴木商店は大損害を受けてしまい、卒業が遅れているどころか、お金を貸している大貴族がお金を返してくれず、鈴木商店自体が危ないわけです。自分の独立のためにも、今回はなんとしても借金を取り返したい、という設定になります。



 

酒井  金貸しのようなことも、商店ではやっているわけですね。



 

芝村  当時は約款がないため「会社でこんなことはやってはいけない」という決まりがなかったのと、銀行に信用がなかったので、商店にお金を借りることがよくあったんですよ。特に貴族は、銀行より大商店から借りることの方が多かったんです。



 

書生 、喜央正午の場合



 

芝村  では続いて、坊ちゃん、書生」である菊池さんのキャラクター、喜央正午ですね。書生というのは、貴族や旗本といった人たちのところに居候して、勉強していた人たちです。


 田舎で勉強がすごくできる人というのは、東京まで出てきてそうした寄宿生活をしていたのが一般的でした。当時は熊本県なら細川家の藩邸があった東京・銀座の近くで居候をしたりと、地域ごとのネットワークがあったんですね。



 

菊池  居候となると、立場は弱いんですね。



 

芝村  そして喜央さんは書生としても頭がよく、早稲田大学にも入りましたが、大震災の影響で休学となってしまいます。校舎と本が焼けてしまい、先生にも何人か連絡がつかない状況なわけです。その時に寄宿先が焼けたりして身を持ち崩して、鈴木商店に借金をしてしまったんですね。



 

菊池  なるほど、そこで繋がってくるんだ!



 

芝村  貴族のところへ取り立てに行くのに選ばれたのが番頭さんだったわけですが、さすがに自信がないわけです。俺には学(EDU)がない! というわけですね。



 

酒井  借金取り立てのために、頭のいい坊ちゃんについてきてもらおうって話なんですね。



 

芝村  坊ちゃんの借金なんて、貴族の借金と比べたらほんの少額ですからね。なんなら帳消しにしてあげますよ、みたいな話になっているわけです。


 休学中の大学生というのは当時非常に価値がある存在でして、当時は大学に行ける人なんて今よりも全然少なかったんです。大学進学率は、1%もなかったんですよ。



 

菊池  なるほど、相当頭がいいんですね。



 

芝村  当時の平均からは、飛びぬけていたと思ってください。だからこそ、酷い目に合わされることもあったわけですけどね(笑)。



 

菊池  まぁ、そりゃ借りてる身ですし、来いと言われたらはい、としか(笑)。



 

・貴族について



 

芝村  また、今回取り立てに向かう貴族も、被災した貴族なんですね。元は白金台という場所に大きな屋敷があったんですが、地震と火事が怖くなってしまったのか、引っ越してしまったんです。しかもよりにもよって、千葉と茨城の間にある「ちばらぎ」というところに。



 

菊池  ええー!?(笑)



 

芝村  いやいや、皆さん「ちばらぎ」と聞くと笑っちゃうかと思うんですけど、これは最近の言葉じゃないんです。江戸の末期ごろからちらほらと、この言葉は出てくるんですよ。意外と歴史がある言葉なんです。



 

酒井  ええ? それは知らなかった……。



 

芝村  そしてその貴族はそこの海沿いに黄泉荘という屋敷を建てたんですが、その建築費用を鈴木商店から借りました。そろそろ返す時期になったはずなんですが、一向にその気配がありません。現代だったらメールとかで聞けばいいんですが、それはできない。電話もない。手紙を出しても、届いていないと言われればそれまでです。となると、実際に出向いて取り立てないといけないわけです。


 そういうわけでおふたりは、黄色い電車に乗って「津田沼」まで向かいまして……。



 

酒井  津田沼! 総武線ですか?



 

芝村  総武線は明治になって、陸軍工兵隊が練習のために作った線路なんですよ。



 

菊池  練習!?



 

芝村  当時は戦争における基本輸送というものを、鉄道で行っていたんです。馬が少ないという当時の日本の問題を、鉄道で解決しようとしたわけですね。そのために必要な線路を、まず工兵隊に敷かせたわけですね。その練習のために敷いた線路を、今でも使っているんです。



 

酒井  しかも当時から、黄色い電車だったんですね。



 

 総武線各駅停車の電車車両には、近年も黄色がイメージカラーとして採用されています。



 

芝村  そうして津田沼に着いたら、そこからは馬車に乗ります。自動車ではありません、残念ながら馬車です。乗り継ぎ乗り継ぎ40時間くらい、そうしてようやく海岸線までやってきました。



 

菊池  今じゃ考えられませんね(笑)。


芝村  そんなところからゲームは始まるわけですが、ここに至るまでに何かやっておきたいことなどはありますか? また、自分がこんな雰囲気なのかなぁとか、そういうことがあれば。



 

菊池  これ、ふたりの立場はどんな感じなんですかね? 坊ちゃんお願いしますよーと頼まれてはいるわけですけど、こちらはお金を借りているわけで……。



 

芝村  そうですね、微妙な関係ですね(笑)。



 

菊池  しかも普段からそんなに会っているわけではないですよね。たまたま選ばれた、という感じで。



 

酒井  一応、Win-Winの関係ではあるんでしょうけど……。そうなると、そこまで主従関係や立場が決まっているような関係ではないんじゃない?



 

芝村  そうです、そうです。そこはふたりで話し合って決めていただいて、それで問題ありません。



 

菊池  あと、このキャラクターシートの「探索者の履歴」の性格のところにある、「素早い動きを叱られて育つ」と言うのは?



 

芝村  当時はですね、旧武家の立ち振る舞いというものがまだありまして、クイックイッと素早く動くと怒られたんですよ。



 

菊池  えっ!? ゆ、優雅に動けと……?



 

芝村  いえ、ゆっくり動けということです。日本舞踊もそうなんですが、「堂々たる」という動きに、素早さは入っていなかったんです。現代でも武家の人には古い生活習慣が残っている場合がありますので、子供のころに呼ばれて「はーい」と勢いよく立ったりするとすごく怒られたりしていると思います。



 

菊池  なるほど、それでゆっくりとした振る舞いを心掛けているうちに判断も遅く……なるのはおかしいですね。DEXの低さが、そういうところなんですかね。



 

芝村  そのように考えていただけるとよろしいかと。あとはこの時代、帽子を被っていないということはありえない話なので、おふたりとも被っています。



 

酒井  確かに、この時代の人ってハンチングとか被っててオシャレなイメージですよね。



 

芝村  帽子はハンチングですけど、下は和服ですからね(笑)。



 

菊池  和装と洋服が混ざっている感がありますね。かっこいいなー。



 

芝村  喜央さんはモボ(モダン・ボーイ)ですからね。それはもうオシャレです。



 

 大正時代には帝都・東京にあらゆる国から最新の文化が流れ込み、それは情報が重要視されつつあった民間でまたたく間に広がっていきました。明治時代の文明開化と異なり、この情報の伝達力を伴った大正浪漫の伝播は、比較にならないほどの変化だったのです。


 その中で服飾やカフェなどの社交場など、日本と海外の文化がまじり合う独特の雰囲気には、今も愛好者の方が多くいます。情報社会となりつつあった帝都でモボ、モガ(モダン・ガール)と、もてはやされた彼らの独創的なファッションは、一見の価値ありです。



 

芝村  さて、ほかに質問などは? だんだんと雑談から始まって、お話の入り口に入りつつあるわけですが……。



 

酒井  そうですね、あとはもう気にしすぎるとガチガチになっちゃいそうですね(笑)。



 

芝村  まぁ、ある程度は適当になっても何の問題もございませんので(笑)。では、そろそろ始めてみましょうか……。



 


 

遠方鈍色漁村 ~屋敷近くの村にて~



 

 『CoC』をはじめとするテーブルトークRPGのセッションは、物語進行役であるゲームマスター(『CoC』ではこの役職を「キーパー」と呼称します)と、参加者であるプレイヤーの掛け合いで進んでいきます。いわば、基本的な舞台の設定をキーパーが決めて伝え、役者たるプレイヤーとその分身にして登場人物であるキャラクターが行動を決める、「即興劇」のようなものです。


 ではここからは実際に、キーパーとなった芝村氏と、日達貫太郎、喜央正午というふたりの大正時代を生きる人物を演じ、その行動を決めていく、酒井さんと菊池さんとの掛け合いの様子を見ていきましょう。



 

芝村→キーパー(以下、KP では最初は、電車のシーンから始めてもいいですが、いよいよ借金を取り立てに行こうと現地を歩いているところからでも大丈夫です。どこから始めましょう?



 

菊池書生  そろそろ着きますよ、ってくらいの方がいいですかね?



 

酒井番頭  なるほどね! 道のりじゃなくて、そろそろ電車降りて馬車に乗って、そろそろ着くかなってところですね。



 

KP  馬車ってこの時代、借りると結構なお金がかかりますが、番頭さんは<信用格付け>が60なので何の問題もありません。



 

書生  書生とケタが違う!(笑)



 

KP  そうしてお金と時間が買えてしまう番頭さんですが、当時の馬車は残念なことにスプリングがありません。特にちばらぎは地面がよくない。当時の日本の道路舗装率は、0.3%なんです。



 

番頭  うわ、全然ないじゃんもう!



 

KP  しかもそのほとんどが、東京に集中していましたからね。この辺は砂利はあるわ、そろそろ歩いた方がいいんじゃないかというくらいです。



 

番頭  運転手さんもいるわけですよね?



 

KP  いるわけですが、ドアを開けて大声で「すいませーん!」と呼びかけないと気付かないでしょうね。



 

書生  だからもう、アレですよね。「人生で一回乗れるかどうかと思っていましたけど、一回でいいですね!」ってくらい(笑)。



 

番頭  お尻も痛くなるだろうしね。二度はいいかな(笑)。もう頭とかぶつけまくっちゃって、帽子が変形してそう。



 

KP  はい、そんな感じで進めていきましょう。



 

番頭  え、こんな感じでいいんですか? なんか雑談してるみたいなんですけど(笑)。



 

KP  大丈夫ですよ。ゲームとしては「テーブルトーク」と言うくらいですので、みんなで雑談しながらゲームをしていこうという感じなんです。



 

 雑談の応酬にも見えるかも知れませんが、KP が途中、「道は砂利だらけで揺れがひどい」など、事前に用意した物語の骨子となる「シナリオ」に書かれた状況描写をプレイヤーに伝えました。それに対してその状況に置かれた喜央の立場に立った菊池さんから、「二度はいいかな!」という、キャラクターのセリフともなる感想が出ていることが分かるかと思います。これだけでも映画などのワンシーンのような、物語の一幕が出来上がるわけです。


 こうした行動決定や、話しかける言葉を実際に口にしたりして決めることで、キャラクターの動向を決めていくことが、「ロールプレイ」と呼ばれる行為です。テーブルトークRPGは、進行役の出す情報と、それに対するプレイヤーたちのロールプレイの積み重ねで進行していきます。



 

 また前述の通り、今回のセッションは台本制作のために行われました。上記のやりとりについても、朗読劇の台本をお持ちの方はぜひ目を通してみていただければ、共通する描写やセリフが見つかるのではないでしょうか。



 

KP  ではそろそろ、馬車の窓からは外に海が見えてきます。鈍(にび)色の海が。



 

書生  汚そう(笑)。



 

KP  いえいえ、まだ当時は千葉にコンビナートがなく、銚子漁港が作られるか作られないかという時代ですからね。砂浜が広がっているわけですが、そこに漁船を引き上げたり、何人かのふんどし一丁姿の人が鰯(いわし)を1トン単位で大きな板に乗せ、坂を1020人で登ったところで鰯をちょっとずつ配り、残りはそのまま放置して帰っていったりしています。



 

書生  え、放置プレイ!?



 

番頭  何やってんねーん!(笑)



 

KP  これについて知識があるのか判定してみてもいいですし、もちろん誰かに聞いてみても構いません。



 

番頭  ええ!? これってどういう……?



 

KP  知識があるかどうか、EDUの能力値で判定できます。



 

書生  それに成功すると、「僕これ知っていましたよ」ってことになるわけですね。



 

番頭  それは、その知識があるかどうかでプラスになるということは……?



 

KP  ぶっちゃけ、何にもならないです(笑)。ただ、そういうキャラクターであるという押し出しができていくわけですね。



 

番頭  へー、面白そうですね! 判定してみようかな、頭良さそうですし。



 

KP  番頭の日達さんのEDUは、40ですね。



 

番頭  えー、40%って微妙……これを下回ればいいんですよね。(ダイスを振る)30



 

KP  では日達貫太郎さんは、「いいかい、ありゃあ」という感じで説明ができます。鰯は天日干しにして、肥料にするんです。この肥料が関東一帯に出回って、野菜を育てるんですね。



 

番頭  食べるものじゃないんですね。でも僕、振ったはいいけど本人にはそんな知識がない(笑)。



 

書生  そんな感じの情報を、つらつらと僕の方に語ってくれたんですね。「こっちの方には来ないので、知らなかったですねぇ」と。



 

KP  乾いて土のようになっているので、農村に行っても鰯とは分からないかも知れませんね。ただ、この肥料がこの地域にとっては、非常に重要な産業です。この肥料で稼いだお金で青山に土地を買った人が、後にいっぱい出ます。



 

番頭  おおー、(書生に向かって)だって! 儲かってたんだよ(笑)。



 

KP  いや、100年後の話なんですけどね(笑)。



 

 判定の結果ひとつ次第でも、こうして物語のシーンが作られていきます。


 また、今回の鰯のことのように、プレイヤーが知らないからといって、キャラクターがその知識を知らないことにしなくてはならないということはありません。その逆に、プレイヤーが知っているからといて、キャラクターがそのことを自動で知っていることにはなりません。知っているかどうか、判定が必要かなどは、その都度キーパーが判断して伝えます。



 

書生  ところで、これから僕たちが向かう先の貴族の人は、なんて名前なんですか?



 

番頭  あ、こういうのも僕たちが決めていいんですか?



 

KP  もちろん、決まっている時はキーパーが話しますし、決まってない時は「決めていいですよー」と声がかかってくる場合があります。



 

書生  すると、今回は……。



 

番頭  菊池だよ。



 

書生  えっ? あー、どっちかというと菊池はこの時期はこっちにはいないんじゃないかなー、九州・宮崎の方の苗字だと……(笑)。



 

番頭  大正時代でわりと有名な貴族の名前とか、あるんですかね?



 

書生  いや、そもそもその貴族の設定とかはあるんですか?



 

KP  ありますよ。



 

書生  (でもあえて番頭の方へ)で、誰なんですか?



 

番頭  わかりません!(笑)



 

書生  いやいやダメでしょ!? これから取り立てに行くんですから!(笑)



 

番頭  いやでも、え? もう決まってるんですよね?



 

KP  ええ、白井さんと申します。



 

ふたり ええー!?



 

 白井さんといえば、白井悠介さん。朗読劇では、執事の「柳」の演者さんでした。なお、貴族の名前はさすがに朗読劇本番では、別の名前に変更となっていました。



 

書生  なんでだろう、どこかで聞いたことがあるような(笑)。



 

番頭  いやでも、白井家ってなんか由緒正しそうなんだよなぁ(笑)。なんかわかんないけど!



 

書生  いや、でもお金返してくれないんですから。



 

番頭  本当だよ、独立かかってんだから!



 

書生  僕も成功してくれないと、借金がチャラになりませんし。



 

番頭  もう、ムラムラしてるんだから!



 

書生  ええ!?(笑)



 

番頭  結婚もできないし、いい年ですよ! そろそろ子孫をね!



 

KP  確かに、結構焦ってていい時期ですね(笑)。



 

番頭  なんかこう、ボルテージが溜まってるんです! いろんなね?



 

KP  と言っているうちにですね、馬車が止まっちゃいました。



 

書生  止まったということは、着いたんですかね?



 

KP  それがですね、御者の人が降りてきてドアを開けて、「ここから先は道が悪くて、馬車じゃちょっと……」みたいなことを言ってきます。無理を言ってもいいですし、じゃあ歩きますと言ってもいいですよ。



 

書生  正直、ここまででガタガタ揺れてたせいで、体力的にも限界かと思いますし……。



 

番頭  そうだね、それにお金ももったいないしね。いや、番頭としてはお金はあるんだけど。



 

書生  そこに関しては出せる身じゃないので、そちらで決めていただけますと(笑)。



 

番頭  そうだね。お金払っても快適じゃないなら、もう歩いていこう。



 

書生  従います!



 

KP  では、ふたりでトランクなどちょっとした旅の道具を持って歩き出すわけですが、濡れた砂を踏む感覚が気持ち悪く、あなたたちの足跡も長く残っています。このまま海岸線を歩いていってもいいですし、海岸線からちょっと山に入ったところとは聞いていますので、そちらに向かってもいいです。あと、馬車から降りて改めて分かりますが、とにかく生臭いです。



 

番頭  え? ああ、天日干しの匂いか!



 

KP  ですね。一日で魚が嫌いになりそうな勢いの匂いです。



 

書生  これは、鼻にくるなぁ……。山側に移動します?



 

番頭  いやぁ、海風とかも全然慣れる慣れる。大丈夫だよ。



 

書生  え、大丈夫ですか? じゃあこのまま行きましょうか。



 

番頭  ほら、変な方向に行くと迷ったりしそうだしね(笑)。まっすぐ行こう!



 

KP  スマホなどで調べられない時代ですから、道を外れてしまうと大変な迷子になる可能性もある時代ですしね。では、そうして歩いていくと、村が見えてきます。この時代の村にしても古めかしい、板を合わせて造った家の屋根の上に丸い石をいっぱい置いてあるような、時代劇にありそうな家ばかりの村です。



 

番頭  あー、イメージできたわ……。



 

KP  そして、不思議なことに……いや、その不思議なことに気付くかどうかは、<幸運>で判定してください。一番低いのはどちらですか?



 

書生  僕ですね、45です。圧倒的に低い!



 

KP  いえいえ、45なら圧倒的というほどではないです。



 

 前述の通り、『CoC』の判定値はそのまま%で表されます。45なら45%ということで、ほぼ半々で成功する確率です。



 

書生  とうっ!(ダイスを振る)75、失敗です!



 

KP  普通の村っぽいですね(笑)。



 

書生  ぜんっぜん気付かなかったわ!(笑)



 

番頭  なんだったんだろ、気になるー!?



 

書生  いえいえ、なんか村ありますねー。よくある村ですよねー。



 

KP  いえ、もうちょっと調べてみてもいいかも知れませんけどね。



 

書生  今は何時くらいなんでしょうか?



 

KP  お昼の1時くらいですかね。



 

書生  うーん、なら急ぎましょっか? 目につくものも特にないですし。



 

番頭  そうだねー。一刻も早く借金を取り立てたい!



 

KP  そうですねぇ。では、そうして歩き出します。ところが村の中では、皆景気よく魚を獲っているのかと思いきや、人気はあっても生気がない村です。



 

書生  あれ? そんなに栄えていない感じなんですね。



 

KP  強いて言うと、村の入り口に出来が悪すぎる地蔵があるくらいですかね。



 

番頭  ん? なんかちょっと不気味な感じはするけどね、まぁ一応拝んでおこうかね。



 

KP  本当に出来が悪すぎるんで、何かに気付くかも知れませんね。



 

書生  ん? なんかこのお地蔵様、かわいそうな感じがしますね。



 

番頭  そうだねぇ。手作り感?



 

KP  <博物学>とかあれば、判定できそうですけど。



 

書生  <博物学>は……10



 

番頭  僕も10だねぇ。



 

KP  さすがに<図書館>などは使えないでしょうね。



 

書生  <地質学>もおかしいですよね?



 

KP  <地質学>で調べれば、別のことは分かるかも知れませんね。むしろここでは、<生物学>が使えるかも知れません。



 

書生  え、いや1%しかありません……。<物理学>はダメだろうし、<オカルト>も5%しかないや。



 

番頭  こっちも一緒だね。



 

書生  あ、<考古学>は!?



 

KP  お、21%ありますね。いけそうですし、10%よりはいいですね。どうぞ。



 

 <博物学>や<生物学>といった「探索者の技能」の判定値は、基礎となる初期値に、割り振ったポイントの量に応じて決まります。


 「このキャラクターは<博物学>に造詣がある」「このキャラクターの職業は接客業なので<心理学>にも多少通じている」などといった設定をプレイヤーの手で決めることができ、キャラクター間の得手不得手といった特徴も演出できるのです。



 

書生  では!(ダイスを振る)68で失敗!(笑)んーと、村の人が作り出したんじゃないですかね?



 

番頭  不気味だけどね、まぁこんなのもあるよね?



 

KP  この時代の人なら誰でも知っている知識として、地蔵尊というものは、まだお経が唱えられない年齢の子供が死んでしまった時に、人を選ばず誰もを救ってくださるお地蔵様にお願いするのですが、この地蔵は目が皿のようにまん丸ですし、口も鼻もほとんどないです。



 

書生  でも、気付けない(笑)。多分ね、不器用なりに頑張ったんですよ!



 

番頭  一生懸命供養しようとしたんだけど、不器用だったんだなぁ!(笑)



 

書生  ちょっと感動したところで、そろそろ行きますか!



 

 このあたりは、朗読劇の台本とはまったく異なる掛け合いになっていますので、見比べてみると別の楽しみがあるかと思います。



 

KP  そのようにふたりで話をしていると、よたよたと、がに股の住民が近づいてきます。ふんどしに法被(はっぴ)を羽織っているだけのようで、皿のような目をしていますね。



 

書生  ん? 似てません……?



 

番頭  あの人をモデルに作ったのか!?(笑)



 

KP  そうなのかも知れませんねぇ。首にはいくつも切れ目があり、模様のようになっています。



 

番頭  ちょっと、声かけてみようか?



 

KP  むしろ、向こうから声をかける気満々ですよ。「ここは危ないよ」みたいなことを言ってきます。



 

番頭  ええ? 不気味な感じしかしないけど……。



 

書生  僕たちの目的地とぜんぜん違う場所ですけど、これは素通りできませんよね。こんにちは!



 

KP  あなた方が声をかけると、村のあちこちで住人たちが、あなた方の様子を伺っているのに気付きます。中には四つ足で歩いている住人などもおりますね。



 

番頭  よ、四つ足!?



 

KP  そしてがに股の話しかけてきた人は、「ここは危ねぇですよ」と言ってきますね。



 

書生  いや、何が危ないんですかね? この先の道? 白井さんの家に用があるんですけど……。



 

KP  「白井さん」という名前を聞くと、がに股の住人はその皿のような眼をギョロギョロと動かしながらぼそぼそと続けます。「あそこは駄目だよ、あそこに行った人間は何人も帰ってきてないんだよ。それも、若い娘ばっかりな」



 

番頭  若い娘!? 今一番欲しているものですよ!(笑)



 

書生  僕も2番目くらいに欲しているものですかね(笑)。



 

番頭  それはもう、怪しいね。村娘たちを……生贄? 奉公させてる? それとも、いかがわしいことに? 娘だけってのが怪しすぎますよ。



 

 ちなみにこの下りで、ゲームをしている周囲には『CoC』を知っているギャラリーやスタッフが何人かいたのですが、ずっとニヤニヤとしていました。


 カエルのような見た目の村人に、なぜそんな反応をするのか。あえてその理由は、ここでは語らないでおきます……。



 

書生  他にも、何かあったりしたのか聞いてみたいんですが。



 

KP  「特にあの家に近付くと、帰ってこれない人間が多すぎるので、この辺の住民は外に出る事すら避けている」ということが聞けます。



 

番頭  だからみんな、家の中から様子を見ているのか。



 

書生  どうします? 行くの止めますか?



 

番頭  いやいやいや!?(笑) それ言っちゃダメだよね!



 

KP  書生の立場だったら、そう言えるんですよ(笑)。



 

書生  帰りましょう。僕お金返す気はちゃんとありますので! 怖いじゃないですか!



 

番頭  いやいや、だからと言ってね? はるばるちばらぎまで来て、馬車に電車に乗って、歩いてまで来てね?



 

書生  いやでも、帰ってこないんですよ?



 

番頭  いや、こちとら出世がかかってるしさー。



 

書生  じゃあ、この件で僕の借金は確実にチャラにしてくれるっていうことですよね?



 

番頭  そりゃあ、ついてきてくれたらもちろん! ひとりで行くと不安じゃない、今の話聞くとさ! なんなら男ふたりなら力合わせれば、何かあっても逃げられるだろうし……。



 

書生  なんならこれ、時給発生しません?



 

番頭  そんなぁー!? 時給とかこの時代に制度あったか知らんけど、まぁ、追加で払うからさぁ! 結果次第で!



 

書生  あー、そりゃついていくしかないですよね。今後の勉学のためには、お金はどうしても欲しいんで!



 

 ちなみに上記のおふたりのノリノリの掛け合いの間、キーパーはとても楽しそうに、ギャラリーともども笑い転げていました。



 

KP  今あっと言う間に建前が作られましたね(笑)。



 

書生  それじゃあ僕も怖いですけど、ついていきますよ。しょうがないなぁ。



 

KP  住民は鬱蒼(うっそう)とした緑に包まれた小道を指さして、「あそこから行けるが、注意しなせぇよ」と告げます。そのまま黙って行ってもいいし、何かしらのお礼などを渡したりしていっても構いません。



 

番頭  それじゃあ、身を守れるようなものを、お金を渡して譲ってもらえないか言ってみようか?



 

書生  お金を使うのは僕じゃないので、いくらでもどうぞ!



 

番頭  うん、念には念を入れてね。何か使えそうなものはないですか?



 

KP  おお、いいですね。では<信用格付け>で判定してみましょうか。60ですから、そうそう失敗はしませんね。



 

番頭  さっきから失敗が続いてますけど(ダイスを振る)00! って、これは?



 

書生  だ、大失敗!(笑)



 

 判定時に十面体2つの出目がいずれも0(ダイスによっては10と書かれている場合もあります)だった場合、「100」が出たことになり、『CoC』ではこの場合、判定が「ファンブル(大失敗)」したことになります。判定は失敗したものとなり、キーパーの状況判断次第では、ただの失敗以上に悪い結果が降りかかります。



 

KP  住民はあなたの申し出に感謝はしているものの、何も出せるものがなく、「ああ……」と悲嘆に暮れてしまいます。



 

番頭  ああー……。(こちらも悲嘆に暮れる)



 

書生  いやでも、そうだ! <目星>で何か武器っぽいものを見つけられませんか! なんなら石でもいい!



 

KP  石ころならその辺にありますが、それとは別に住民が何かを持ってきてくれました。鰐(ワニ。サメの古い表現)の歯ですが、お守りになるはずだそうです。ホオジロザメの歯ですね。



 

書生  それって、どれくらいの大きさなんですか?



 

KP  いえ、小さいものですね。紐を通してあり、小さな文字がいっぱい書き込んであって綺麗なものです。



 

番頭  刺したりするのには使えなさそうだねぇ。



 

書生  まぁ、お守りですからね。



 

KP  <考古学>か、<目星>など使えそうな技能があれば、何か分かるかも知れませんね。



 

書生  <生物学>が使えそうだけど、1%しかないしなぁ。



 

KP  では、EDUでもいいですよ。 



 

書生  では!(ダイスを振る)ははははは99!(笑)



 

KP  失敗ですね。綺麗だなー。



 

番頭  あ、これは僕も振ってもいいんですか?



 

KP  もちろん、構いませんよ。



 

番頭  では、振ってみますかね!(ダイスを振る)……って、100!?



 

書生  ま、また大失敗!(笑) と言うか、99100って!



 

KP  ははは、仲いいなー!(笑)



 

番頭  いやー、きれいなものをもらいました!……これ僕、2回目の100とか、今日の帰り道で大変な目に遭ったりするんじゃないかな!?



 

書生  まぁ、きれいなものですしお土産ですよ、お土産。



 

 ダイスの結果は完全にランダムですので、判定に失敗しても深く悔いる必要はありません。むしろ物語上、そこでは失敗するべきという流れがあったと受け入れたり、逆に失敗劇をその後の物語のスパイスに変えていく方が、ゲームをより楽しめるでしょう。



 

番頭  心もとないけど何かから守ってくれるかもだから、その気持ちを胸に行こう。何も武器ないけど!



 

KP  ちなみに、今の季節は1月です。当時、借金を返すのはだいたい12月末日だったので、12月に返してくれないものを1月に取り立てに来ました。本来なら師走(しわす)の12月に駆け回って取り立てるんですが、相手が大口の貴族だったので無理だったんですね。



 

書生  あ、あと最後に住民に聞きたいんですが、白井さんを見たことはありますか?



 

KP  住民はあなたの姿を映した皿のような目で見つめてきつつ、ふるふると首を横に振って、そのまま居なくなります。



 

書生  この村からは、これ以上情報は出てこなさそうですね。他に気になることはあります?



 

番頭  行ったら戻ってこないんだもんねぇ。手がかりがないなぁ。



 

書生  ここで疑いすぎても、先に進めませんしね。何より我々は何も気付いていませんし、借金を取り立てることが第一ですから!



 

番頭  そうだね、普通に行こう! ちょっと不気味だなーって思う程度だし、さっさと返してもらいに行こう!



 


 

四季混合庭園 ~貴族の屋敷にて~



 

KP  では、おふたりは鬱蒼とした、歩くたびに草の感触が伝わってくる緑の道を進んで行きます。半分、緑に埋もれかけの、獣道のような道ですね。



 

番頭  当時の靴って、どんな感じの靴なんでしょう?



 

KP  あなたは多分、ブーツを買っていると思いますよ。和装ですが、長旅には足袋は適しませんので、ショートブーツあたりを選ぶんじゃないでしょうか。



 

番頭  なら、草むらでも足は守れますね。



 

書生  古~い革靴かなぁ、僕は。



 

KP  この時代は革靴は何度も修理して使うんで、革を何度もつぎはぎした靴でしょうね。



 

書生  いいですねぇ番頭さんは、身なりも丈夫そうなもので。僕なんか傷だらけですよ、体。すでに帰りたいですよ。



 

番頭  いや、待って待って!?



 

書生  これはもう、いろいろ弾んでもらわないと……。



 

番頭  手当て! 手当て出すから!



 

書生  この番頭さん、ちょろいな(笑)。



 

KP  ではそうして少し歩いていくと、草花が濡れている様子が見えます。雨などは降っていなかったはずなのですが、いろいろな虫もいて、しかもじめじめとしてきました。



 

書生  じめじめ? 虫? おかしいな、今は1月のはずですけど。



 

KP  さらに進むと、だんだんと暖かくもなってきました。いろいろな生命がむせ返るような、日陰の臭いがしてきます。



 

書生  1月にしては、やたら暖かくなってきましたね……。



 

KP  1月とは思えない花も咲いていますね。菜の花も咲いていますし、ひまわりもあるし。



 

番頭  ええ!? 季節感めちゃくちゃじゃない?



 

書生  確かにおかしいですね。<地質学>かな?



 

KP  などと気にしていると、館が見えてきますね。



 

書生  んん? まぁいいか、進みましょう。



 

 テーブルトークRPGでは、気になったものに対して判定をそのたびにしていくと、ゲームのプレイ時間はどんどん伸びていってしまいます。


 その場面で判定を行うかどうかはキーパー(ゲームマスター)が最終的に決めますので、進行上の時間管理なども兼ねて、キーパーは判定を希望されても却下されたり、判定を省略して情報を伝えたりすることも可能です。



 

番頭  余計不気味になってきましたね……今の時期や風景に似つかわしくないような。



 

KP  門が見えてきたところで、セミの鳴き声が聞こえてきますね。



 

番頭  セミ!?



 

書生  ちょっと、これは……帰りません?



 

KP  セミの声がしたから帰った、というのはちょっと斬新な理由ですね(笑)。



 

書生  セミはちょっとダメですね、僕虫が苦手なんで!



 

番頭  まったく、これだからボンボンは!(笑)



 

書生  1月で虫が出てこないから、森の中にも入ったんですよ僕は!



 

番頭  今帰ったら、ゼロだよ?



 

書生  そ、それはちょっと困りますよ!?(笑)



 

番頭  借金の話もゼロだし、普通に帰りの電車賃とかも出さないよ!



 

書生  あれ、すると僕には帰る方法がない……?



 

番頭  お金持ってないでしょ? もう行くしかないの!



 

KP  では、門を開けて中に入ってもいいですし、声をかけたり観察したりしてもいいですよ。



 

書生  うーん、ちょっと見てみますか?



 

番頭  いや、見ない! さっそく門を叩こう。



 

書生  おお、いきなり「ごめんくださーい」と行きますか。まず居るかどうかも分かりませんしね。



 

番頭  まずは門を叩いて、「白井さーん、いらっしゃいますかぁー?」と声をかけます。



 

KP  あなたが声をかけると、「お待ちください」という落ち着いた声が返ってきます。



 

番頭  あれ、いるじゃん?



 

書生  今まで返事返してなかったのにねぇ。



 

KP  しばらくすると、山羊の形をしたドアノブが動いて、門が少し動き、「どなた?」と、番頭さんよりも少し年上くらいのスーツ姿の人が出てきます。だいぶ痩せているような感じもしますね。番頭さんと同じで、苦労人のような雰囲気はありますね。



 

書生  (番頭さんに)白井さん、ですか?



 

番頭  いや、これは白井さんじゃない……はず?



 

KP  「自分は、執事の柳と申します。当家に何か御用でしょうか?」



 

番頭  あ、では……「私、日達貫太郎と申します。東京の鈴木商店で番頭をやらせていただいている者です」



 

 番頭さんは執事・柳に対し、白井さんの借金の期限が過ぎても返済がまだであること、そのためはるばる訪ねてきたことを、自分の目的(独立)がかかっていることは伏せて説明しました。


 ところが……。



 

書生  あれ? すると僕はどういう立場でここに来たと説明すればいいんですかね?



 

KP  そういえば、その辺は決めていませんでしたね。



 

番頭  よし、今決めよう! 部下と言うことにしますかね。



 

KP  しかし、見た目でいかにも書生ということは分かるかと思いますが。



 

書生  すると……分かりました。「以前白井さんにお会いしまして!」



 

番頭  え、ウソをつくの!?



 

KP  ほう、ではそうして決めずに来たから、怪しくキョドったということでよろしいですか?



 

書生  いえ、ここは……「以前白井さんとお会いしたことがありまして、一度ご挨拶させていただいたんですけど、今回日達さんがこちらに来られるということでご一緒してご挨拶がまたできればと……」



 

KP  <言いくるめ>で判定してみましょう!



 

書生  <言いくるめ>はあるかな……い、いや5%しかない! あの、<説得>ではダメですかね?



 

KP  なるほど、<説得>は55%ありますね。そちらでどうぞ。



 

書生  では!(ダイスを振る)30! 成功です。



 

KP  すると結構怪しい説明でしたが、柳さんは納得したようです。「主人は今体を悪くして伏せっておりますので、夜にならないと出てこれません。もう少しお待ちいただければ」と言いながら一歩身を引いて、「どうぞこちらへ」と招き入れてくれます。



 

書生  おお、中で待たせてもらえるみたいですね。ほっと胸をなでおろします。



 

 この執事のような、プレイヤーではなくキーパーが行動を決定する、NPC(ノンプレイヤーキャラクター)たちに対してどのような行動を取っていくのかも、ロールプレイの大事な一環です。その対応によっては彼らは時に味方にも、敵にもなりうるのです。



 

KP  門を抜けると、そこには中庭があります。そこには四季の花々が咲き乱れ、右側には神社といいますか、小さな祠(ほこら)のようなものがあります。その他には裸婦像がたくさん並んでいまして、ヘタクソな地蔵よりはぜんぜん綺麗ですね。



 

書生  お金は持っていそうですね?



 

番頭  そうだね。お屋敷の大きさ的にもね。



 

KP  借金で作ったのかも知れませんけどね。木陰になると、白い金属製の椅子とテーブルがあり、椅子は座る部分の真ん中に大きな棘がありますね。



 

番頭  ええ!? それ、座るとケツに刺さるやつじゃ……。



 

書生  拷問器具か……?



 

KP  そしてその下には、眠っている犬が一匹います。



 

書生  あれ、でもワンちゃんも飼えるほどなら、これは返済にも見込みがあるのでは?



 

番頭  これだけの暮らしをしてるんだもんねぇ。お金はあるだろうねぇ。



 

KP  さて、この中庭でこれ以上、何かに気付くかもしれないし気付かないかも知れませんね。



 

書生  うーん、自分のキャラクターの性格がよく分からなくなってきた(笑)。まぁ、「はっきりしない性格」とは書いてあるんですけどね。気にはなるし……。



 

番頭  気付くかどうかは、どう判定するんでしょう?



 

KP  <幸運>で判定することが多いかと思いますが、<生物学>があればそちらで判定もできますね。他に使えそうな技能があれば、そちらでも。



 

番頭  <生物学>はもう、何度見ても1%しかないからなぁ……。



 

書生  他には<目星>、<歴史>……。どうでしょう、<歴史>の観点からこういう変わった椅子があったかどうか、とか。



 

KP  おお、いいですよ。



 

番頭  ああ、なるほどね! そうやって言葉でキーパーを<説得>して、使わせてもらってもいいんだ。



 

KP  もちろん、行動宣言の内容次第ですけどね。



 

 キーパーが判定に使う能力値や技能を決定するのは、あくまで最終的なものです。その場や状況に沿ったものや、物語が盛り上がりそうなもの、納得のいく説明が伴うものなどであれば、プレイヤーの方から使いたい能力値や技能をこうしてキーパーに提案し、決定してもらうこともできます。



 

書生  では判定を……(ダイスを振る)あっ、全然わかんないですね。僕の知っている歴史の中で、あんな椅子は存在しませんね。



 

KP  まぁ、そもそも椅子として用をなさないですよね。



 

書生  あれはむしろ、椅子ではないのでは?



 

番頭  うーん、気になるぞ……。



 

KP  そうして椅子を見つめていたあなたは、下で寝ている犬がまったく動いていないことに気が付きます。



 

番頭  あら? いやでも、学がある喜央君が気付かなかったんだし……。



 

書生  いや、椅子はそうですが、犬は……あれ?



 

KP  どうします? 触ってみます?



 

番頭  ちょっと待ってくださいね。まずは声をかけてみます。「おい?」



 

KP  すると向こうにいる柳さんが、声を立てて笑ってきますね。「それははく製ですよ」


ふたり ああー!



 

番頭  なんだぁ、恥ずかしい! よく出来たはく製ですねー!



 

KP  「そう言っていただけますと。当家なかなかお金が苦しく、番犬が飼えませんので」



 

番頭  あ、ではついでに。「あと、こちらは椅子なんですか?」



 

KP  「元は奥様が座られる椅子だったのですが、前からここにハトがどんどん来るので、ハト避けに立てております」……と言っていますが、そのわりには一本だけ? と思うかも知れませんね。



 

番頭  そうですよね。一本だけ?



 

KP  そのような説明を受けつつ、いよいよ中庭を抜け、屋敷の中に案内されます。広い玄関ホールが広がっていまして、柳さんは「主人が参りますまで、談話室でお休みください。そちらがお嫌でしたら、カードルームもございます」



 

書生  カードルーム?



 

KP  カードルームと聞いて、知っているかをEDUINTの好きな方で判定していいですよ。



 

番頭  INTなら80ありますね!



 

書生  あ、こちらも80ですね。



 

番頭  僕、さっきから100を連続で出しちゃってるから、そっちで頼むよ。



 

書生  僕も似たようなものですけどね……(ダイスを振る)61、成功です。



 

KP  イギリスで遊ばれている「ブリッジ」というゲームを遊ぶための部屋です。日本でも偉い人たちが何度も遊んでいたのですが、ついぞ庶民には広まりませんでした。なぜかというと、「花札」というカードゲームがあまりにも庶民の間で浸透していたため、流行る余地がなかったんですね。



 

番頭  なんだよー、花札だったら分かったのに!



 

書生  じゃあカードルームよりも、談話室の方がいいですかね。



 

番頭  そうだね、話そう話そう。ちょっと話そうよ。



 

書生  どういう関係なんですか、もう(笑)。



 

KP  なんだか、弥次喜多道中みたいになってきましたね(笑)。不安はあるせいか、年齢差があっても仲良くなってきたような。



 

番頭  「温厚で親切」って書いてありますからね!(笑)



 

書生  どれくらいで主人とはお会いできるって話でしたっけ?



 

KP  「日が暮れたら」と言っていましたね。



 

書生  さっき村に寄ったのが、お昼ごろでしたよね。長旅で疲れましたし、まったりしていましょうか。



 

番頭  大学にいたって言うし、そのころの話とか聞きたいよ!



 

KP  そうして入った談話室ですが、かなり広いですね。調度品が整いすぎているような感じがします。



 

書生  え? これ、本当にお金ないんですかね……?



 

KP  そして談話室の中にも、はく製がいくつか。



 

番頭  はく製、好きだねー。



 

書生  さっきのも、やたらよくできていましたけど。何のはく製ですか?



 

KP  雉(きじ)と、大きな鹿ですね。執事の柳さんは、部屋の入り口で「どうぞお好きなところにおかけください。飲み物を持って参ります」と、そのまま出て行ってしまいました。



 

番頭  これ、ついていくことはできるんですか?



 

書生  ちょっと!? なんでいきなりついていくんですか(笑)。



 

番頭  うん、この(キャラクターシートを指さして)<忍び歩き>っていう技能が目についただけ。



 

書生  怪しく思って、忍び歩きでついていくわけですか!?



 

番頭  本当に主人がいるのかなー……と。まぁ、そんな奇行はやめときますか。



 

書生  さすがにふたりでついていくのはアレですし、ひとりここに残されるのも怖いですよ!



 

番頭  じゃあ、やっぱり雑談しようよ雑談。



 

書生  ちょっと周りを見つつ、「ちょっとお金がないというわりには、品がありすぎる気がしますよねぇ」と。



 

KP  そうですね。時計も立派ですし。



 

書生  何かほかに、変わったところなどはありますかね?



 

KP  調度品が立派というのと、最近になって造られたんだろうなぁという新しい家の匂いがする以外は、特に極端におかしなものなどはありませんでしたね。



 

書生  特に写真立てとかも、ない感じですかね? あ、でも写真ってこの時代には……?



 

KP  この時代にも、そしてこの部屋にもありましたよ。暖炉の上などに置いてありまして、綺麗な奥様と、そのとなりに冴えない中年の男性が写っています。



 

番頭  上が取引していただけだから、直接会ったことはないけど……これが白井さんかな?



 

書生  だとしたら、うらやましいですねぇ。奥さん綺麗で。



 

 大正時代にも写真はありましたが、当然当時は白黒写真でした。しかし当時は海外から芸術写真の概念が流入してきたことで、日本の各都市に写真館や写真研究会が広まり、著名な写真家も登場するようになっていました。



 

番頭  あ、さっきの椅子はこの奥さんのってことになるんですかね。



 

KP  そうですね。写真に写っているのはこの屋敷の庭だったっぽい感じですね。ここで違和感に気付けるか、<写真術>で判定してもいいです。



 

番頭  <写真術>なんて技能まであるんだ……。



 

書生  10%しかないですけど、振ってみますか?



 

番頭  あ、僕もだ。一緒だ。奇跡を信じて振ってみようか。



 

書生  では……(ダイスを振る)だー! 僕は気付けませんでしたね。



 

KP  まぁ、いい夫婦の写真ですよねー。



 

番頭  じゃあ僕も……(ダイスを振る)うん、基本気付けないですねお互い。



 

KP  そうして楽しく過ごしているとノックの音がして、柳さんが飲み物を持って入ってきます。「井戸の水で冷やしたものですが」と、お茶を出してくれますね。



 

書生  まぁそれは、お礼はちゃんと言いつつ受け取りますよね。「ありがとうございます」



 

KP  そして柳さんは続けて、「お帰りの時間にもお困りでしょうから、ぜひ今宵は当家にお泊りください」と言ってきます。



 

番頭  いやでも、泊まっていきたいかどうかは……時間次第ですね。



 

書生  それはもう、交渉が早く終わるか次第じゃないですかね。



 

番頭  では、もしもの時はお世話になるとして、「できれば早く帰りたい」とは伝えておきます。



 

KP  そう聞くと柳さんは「そうでございましたか」と、特に何も聞かずにいますね。



 

書生  まだ去っていってはいませんよね? では、「そこにある写真は、やはり奥様と白井様ご本人の?」と聞いてみます。



 

KP  「そうでございますね」と言ってきますね。はて、「そうでございますね」というのも、変な言い方ですよね?



 

番頭  あれ? 確かになんか、他人事だ。



 

書生  「柳さんは、ここにお勤めになって結構長いのですか?」



 

KP  「当家に勤めて、かれこれ20年近くになります」



 

番頭  「20年も勤めているわりには、お若いですよね。その秘訣を聞いてもいいですか?」



 

KP  「……肉を、食べることですかね?」と返してきますね。「本日は夕食をお取りになるかと思いますので、良い肉をご用意いたしましょう」



 

番頭  この時代には、肉は何肉が基本なんですか?



 

KP  基本なんでも食べますが、肉が嫌いな人も多くいて、そういう人はマグロやカツオを食べていました。カツオのタタキなどは、肉の表面だけを焼いているのにヒントを得て作られた物です。



 

番頭  肉と魚だと、どっちの方が高価なんでしょう?



 

KP  それはもう、お肉ですね。



 

番頭  じゃあ、お肉をいただきたい!



 

書生  まぁ、僕もなかなか食べられませんからね、お肉。



 

番頭  そこはご厚意に甘えるかも、時間次第で判断ですかね。



 

書生  あと聞くことは……「当時、お金を借りられる際にはどのような経緯があったんですか?」



 

KP  「私はよくは存じません」と、使用人らしい回答が返ってきますね。



 

番頭  当人同士の問題なんだから、あんまり聞くもんじゃないよ。



 

KP  さて、このままですと柳さんは出て行ってしまいますけど、何か聞いておきたいことなどはありますか? 呼び止めて話をすることもできます。



 

書生  「ちょっとお時間ありますし、白井さんについてお聞きしてもよろしいでしょうか?」



 

番頭  おお、積極的。



 

書生  「僕は以前お会いしたとはいえ、落とし物を拾っていただいた際に本当に挨拶をした程度の関係ですので、改めてお礼など言いたいと思って参りましたので……」



 

KP  すると柳さんは、「当家の主人はとても人嫌いなので、お知り合いという話をお聞きした際には妙だと思いました。しかし物を拾ったといったお話であれば、納得した次第です」と言ってきます。



 

番頭  「ちなみに僕は、お金を取り立てに来た身ですので、お金さえいただければ、あまり興味はありません」



 

書生  いやいやいや!(笑)そこは何か聞いた方がいいんじゃないですかね。たとえばお金が払えそうかどうかとか。



 

番頭  なるほど、算段があるかどうかは気になるね。これだけ立派な屋敷なのに、さっきは「お金がきつい」みたいな話をしてたのも変だし。「柳さんもね、お給料とかちゃんといただいてるんじゃないですか?」



 

書生  ちょ、ちょっとお待ちください!(笑)まぁまぁ、綺麗なお屋敷ですよねぇ。



 

番頭  このお屋敷を見る限りだと、借金を返せないとは思えないんだけどなぁ。



 

KP  「そうでございますね。主人には主人の考えがあるかと思いますので、実際にお会いした際にお聞きいただければと存じます」



 

番頭  「お給料は、お給料はいくらですかぁ?」



 

書生  それ、聞くの!?(笑)



 

番頭  それによって分かるじゃん、どれくらい潤ってるのか!



 

書生  うわぁ、グイグイいきますねぇ……。



 

KP  柳さんはニコッと笑いますが、それ以上答えてはくれませんね。



 

番頭  そうですよねー。さすが。



 

書生  これ、僕もういらないんじゃないですか?(笑)あ、いや、そう言えば……「他にこのお屋敷に、従業員はいないのですか?」



 

KP  「今はおりません」



 

書生  「では、今はおひとりでこのお屋敷を切り盛りしていると……」



 

番頭  「この広いお屋敷を? 大変だなぁ」



 

KP  「たまに手伝ってくれる者が、何人かおります」



 

書生  たまに?……そうですか、ありがとうございます。



 

 書生・喜央正午こと菊池さんは、随所でキーパーが発する言葉の違和感に、すでに気付いているようです。このようなミステリーテイストもまた、『CoC』の恐怖を彩る魅力となります。



 

KP  さて、では「夜までごゆっくり」と柳さんは出て行っちゃいましたが、どうします? 時間を夜まで飛ばしてもいいですし、それまでに何かしたければ行動することもできます。



 

番頭  そうか、どこまで出歩いていいかは聞いておけばよかったですね。カードルームの方も、行ってみますか?



 

書生  え? でも特に許可をもらったわけでもなかったと思いますけど……。



 

番頭  いやでも、ここまで来ると気になってきちゃうからね。勇気を出して行ってみて、なんか言われたらこう、興味が湧きましたものですいません、みたいな感じで。



 

KP  では、カードルームに向かって、よく音の鳴る廊下を歩いていくことになります。ギコギコと。



 

番頭  うぇぇ、木造か……。



 

KP  そうして歩いていると、左手に「コレクションルーム」、その一個先に「カードルーム」、さらにもう少し歩くと「書斎」があるみたいですね。その先は普通の構造なら、キッチンやパントリー(食料庫)などがある場所だと思います。



 

書生  なんか、コレクションルームとか書いてありますけど……。



 

番頭  ちょっとだけ覗いてみようかなぁ?



 

書生  集められるようなものがあるんですかね? 借金してるのに。



 

番頭  そうだよね、借金してるんだもの! 最悪、お金が払えないなら差し押さえだよ。見る権利はあるよね? ちょっとだけ覗いて……。



 

書生  いや、ドア越しに<聞き耳>立ててみていいですかね?



 

番頭  それ、意味あるぅ?(笑)



 

KP  どうぞ。判定値は25%ですね。



 

書生  25しかないと……(ダイスを振る)あー、やっぱり失敗。



 

KP  まぁ、何の音もしませんね。



 

番頭  それじゃあ、恐る恐る覗いてみますか。



 

KP  部屋の中を覗いてみると、はく製がたくさん並んでいます。大変残念なことに……そのはく製、だいぶ人型をしていますね。



 

番頭  ………………。わっ。これやばいもの見ちゃったんじゃない!?



 

KP  はい! やばいものを見ました。では、正気度ポイントが残念なことに、6面体サイコロ1個分(1D6)減ってしまいます。



 

番頭  いぃっ!? 結構減る! それだけ精巧なはく製ってことですかね?



 

書生  それだけ精巧なものと気付いちゃったからこそ、正気度が減るってことでしょうね。



 

番頭  (ダイスを振る)3点減少!



 

書生  結構えぐい……(ダイスを振る)って、5!?



 

 一度の正気度ポイント喪失で5点以上を失った場合、「一時的狂気」が発生し、キャラクターは泣き叫んだり逃げ出したりといった衝動的な行動を取ってしまいます。ホラー映画やミステリー映画の登場人物が恐怖に駆られて取る行動と、ほぼ同じものです。


 ランダムの表でどんな狂気に囚われるかを決める方法もありますが、キーパーがその場面や物語の流れに即した、一定の結果に決めることもできます。



 

KP  では正午さんは、大きな悲鳴を上げてひとりで外へ逃げ出そうとしてしまいました。



 

書生  いーやー!! いやいやいや何ですかあれ!



 

番頭  ちょ、ちょっと待って! 止めることはできるんですか?



 

KP  もちろん止められますよ。頑張れば(笑)。



 

番頭  それじゃあ、後を追いかけます。「正午くん、どうしたんだい!?



 

書生  「いやいやいや、あんなの見て正気でいられるわけないじゃないですかー!」



 

KP  では、外に駆け出した正午くんを番頭さんが追いかけていくところで……ちょっと休憩にしましょうか。



 

番頭酒井  うわー、気になる何これ、めっちゃ面白い! これ、ゲームマスターの人って話この場で考えてるんですか!?



 

KP芝村  いえ、ちゃんとシナリオが用意されています(笑)。



 

酒井  そうなんですね。すごいアドリブ力あるなぁと思ってたんですけど!



 

芝村  もちろん、アドリブも入りますよ。プレイヤーがどんな行動を選択するか、シナリオを書く段階では予想しきれませんからね。



 

書生菊池  急に壁を壊します、とか言い出す可能性もありますからね(笑)。



 

酒井  ああそうか、そう言うこともアリといえばアリなんだ。すごいなぁ、初めてやったけど面白いなぁ!



 

菊池  (ぼそりと)やばいなぁ……今日はダイス運が悪いぞ……。



 

狂乱剥製奇譚 ~狂気の果てに~



 

芝村KP  では、正午さんが走って逃げたところから再開としましょうか。



 

菊池書生  「いやあああああ! 人間のはく製ぃぃぃぃ!!



 

酒井番頭  「正午くん、待って!?」追いかけます!



 

KP  追いかけるのはいいんですが、捕まえることができるかどうかの判定をしましょう。DEXでの判定になります。



 

番頭  DEXDEXは……70ですね。



 

書生  僕のDEXは低いんですよね、40です。立ち振る舞いがゆっくりしているので(笑)。



 

番頭  この差って、何か関係するんですか?



 

KP  DEXの差による「対抗判定」というのもあるんですが、今回はDEXそのままの数値で大丈夫です。



 

 CoC』では、複数人の人物が相手との力比べや、今回のような足の速さを比べるといった場面などでは、「対抗判定」を使用します。この判定では競争する両者のSTRDEXといった適した能力値を比べ合い、その差の数値から判定値が決められます。


 ただ、そのたびに差分を計算したりするのも時間がかかり、テンポの悪化につながります。今回のように省略してしまうのも、キーパーの判断次第ではありです。



 

番頭  それでは判定を……(ダイスを振る)69



 

書生  うわぁ、超ギリッギリ!(笑)



 

番頭  僕自身もはく製を見て驚いてるし、そのあとの悲鳴でさらに驚いてますから、庭に出たあたりでやっと捕まえられたんですかね。



 

書生  結構逃げられたなぁ、遅いわりには。



 

KP  では、そこで……庭に裸婦像がいくつも置いてあったのを、覚えていらっしゃいますか?



 

番頭  ああ、あるって言ってましたね。覚えてます。



 

KP  これ、色が塗ってあるだけかも知れないですね。



 

番頭  ……え?



 

書生  それに関しては僕、発狂中なので何も言えません(笑)。



 

番頭  え? 人に対して、色が塗ってあるだけ?



 

KP  はい。これもはく製ですよ。と言うことで、六面体ダイス一個分を。



 

番頭  あ、また正気度が!



 

書生  あれ、僕は発狂中だから大丈夫ですよね!?



 

KP  いえ、発狂中でも減っちゃうんですよ。



 

書生  メチャクチャだぁ!(ダイスを振る)4点減った! 待って、僕これ死ぬんじゃないの?



 

 正気度は減り続けて0になると、そのキャラクターは完全な狂人となり、NPCとしてキーパーに行動決定が委ねられることになります。恐るべき存在の信者と化してしまったり、狂える連続殺人鬼になってしまったりと、その顛末も様々です。


 少なくとも、二度と正道や人間的な暮らしに関われるようなことはないですから、実質的には死と変わりありません。



 

番頭  (ダイスを振る)1点だけ減少!



 

KP  番頭さん、もう慣れてますね(笑)。



 

書生  なんでそんなに冷静なんですかー!?



 

番頭  こんな人っているよね、事件現場とかに。死体を見ても意外と冷静な登場人物って。ここは経験と言うか、年齢のおかげじゃない?(笑)



 

書生  そんな冷静に語られましても、こっちは発狂中なんです(笑)。



 

KP  そのように庭でおふたりが暴れていると、エプロンを着けた柳さんがやって来ます。「お客様、ここではあまり大声では……」



 

書生  「いーやぁぁぁぁぁ! 柳さーんエプロンかわいいー!!



 

番頭  そういう発狂なんだ(笑)。



 

KP  柳さんは「お気を悪くされているようなら、お休みになられては?」なんてことを言ってくるわけですが。



 

番頭  「そうさせてもらおう」と言って、まずは正午くんを落ち着かせるためにちょっと休ませてもらいましょう。



 

KP  分かりました。正午さんはそのまま、客用の寝室に運ばれます。ドアを閉められ、外に出られなくなりますね。



 

番頭  え、軟禁状態?



 

書生  そもそも、僕はいつまでこの状態なんでしょうか……?



 

KP  発狂が何時間続くかは、六面体ダイスを一個振って決めましょうか。最短で1時間です。



 

書生  今日はほんとに……(ダイスを振る)33時間かぁ。



 

番頭  ちょっとリアルな数字になりましたね(笑)。



 

KP  日が暮れるまで叫び続けたんですねぇ。



 

書生  「早く帰りましょうよ、こんなところ!」



 

KP  では、貫太郎さんはどうします? そんな声を遠くに聞きながら、柳さんと話をすることになるんですが。



 

番頭  ここは核心について聞きます。「実は時間があったので、カードルームも覗いてみようと向かう途中でコレクションルームのことが気になりまして、中を見てしまったんですよ」



 

KP  「……。」



 

番頭  「すると中に、ものすごくリアルな人間のはく製があって……また中庭に戻ってみたら、最初は気付かなかったんですが、同じようなはく製が……」



 

KP  もし、そこで使えそうでしたら、<目星>を使うことができます。



 

番頭  <目星>は45ですね。意外といけそう!(ダイスを振る)うわぁ、全然ダメだ! なんでー!?



 

KP  何一つ気付くことはありませんでした(笑)。そして、人間のはく製があったのですが、と柳さんに言ったところで、「はぁ、それが?」



 

番頭  え? それがどうしました、ってことですか……?「あれはよく出来てますよね。どこで手に入れたんですか?」



 

KP  柳「主人の趣味で」



 

番頭  趣味? これ、どうしたらいいんだろう。この先を掘り下げていくのか……正午くんは本物だと勘違いしていて、僕自身は多分、よく出来た偽物だと考えていると思うので(笑)。



 

 番頭・日達貫太郎こと酒井さんの場合も、ご本人はこれが本物であると気付いていますが、あくまで行動は番頭の立場で考えています。むしろこの場面ではそれがプラスに働いていたので、気付かなかったことも結果オーライと言えるかも知れません。


 ところが……。



 

KP  では、INTでチェックを行ってください。これに成功すると、大変残念ながらあれは「本物」であると気付いてしまいます。失敗すると、「リアルだなぁ」と(笑)。



 

番頭  INT80! そりゃ気付けるよね。



 

書生  気付いたらまずいんですよ?



 

番頭  あ、そりゃそうか!(ダイスを振る)気付いちゃった、余裕で(笑)。



 

KP  めっちゃ本物じゃないですか、といった感じです(笑)。



 

番頭  「じゃああれは、本物!? なんであんな本物が何体もあるんですか!?



 

書生  理解しちゃったけど、すげー冷静ですね(笑)。



 

KP  「ですから、申し上げました。主人の趣味であると」



 

番頭  趣味(意味深)。「いや待って、趣味で人体をはく製にするって、常人には考えられないんですけど。人身売買とか、何か悪い事をしてるんですか、ここの主人は?」



 

KP  すると突然、柳さんが怒り出しますね。あなたを壁ドンしちゃいます。



 

番頭  壁ドン!? イケメンだ(笑)。



 

KP  「手前どもの主を、悪く言うのはおやめください」



 

番頭  近い近い近い! でも、対抗したいな。「あれは明らかに、本物の人間のはく製でした。一刻も早く、借金の件も含めて白井さんの考えを聞きたいので、呼んでください!」



 

KP  「ですから、夜になるまでは……」



 

番頭  「分かりました、そこまで言うのであれば一旦待ちます」



 

KP  「では、こちらでお待ちください」と、談話室に案内されると言うか、入れられますね。さらに外から、鍵を閉められます。



 

書生  まずいですね。僕は別の部屋ですし、発狂してて動けませんし。



 

番頭  完全にひとりプレイじゃん!



 

KP  あと二時間くらいは発狂したままですね。部屋の中で、ただ待っているだけでもいいですよ。



 

番頭  最初に入った部屋ですよね。ならもう調べる場所もないですし、待ちます。



 

KP  じゃあ、2時間経って正午くんはなんとか復活しました!



 

書生  はぁ……落ち着いてきた。



 

KP  寝室のドアが空いて、「お客様、気が付かれましたか」と柳さんに言われたりしますが。



 

書生  「へ、あ、ふぇ? 何がですか?」



 

番頭  記憶がないことになってる(笑)。



 

KP  「お食事の用意ができました」



 

書生  「ええと、日達さんは今どちらに?」



 

KP  「応接室でお待ちです」



 

書生  「そう、ですか……。ではちょっと会いに行ってきますね。僕もどうかしてたので」と、落ち着いたことを伝えにいきます。



 

KP  ではふたりは合流できますが、柳さんも後ろからゆっくりとついて来ます。「食堂はこちらでございます」などと言ってきますが。



 

書生  「合流次第向かいますので、先に行って待ってていただいても大丈夫ですよ?」



 

KP  「主人も楽しみにしておりますので」と言った後に……少し間を置いて「ああ、そうだ」と思い出したかのように、「この時間です。足元が悪いので、外に出ようなどとは努々思わぬよう」



 

書生  は、はーい。「ご忠告ありがとうございます」と、波風立てないように。



 

番頭  もう出られないということか……。



 

KP  では、おふたりはやっと合流できました。



 

番頭  「大丈夫かね!?」と、まずは安否をね。



 

書生  「よかったー!」と、抱きしめます!



 

番頭  近いっす、近いっす(笑)。



 

書生  「すいません、ご心配をおかけしました。僕がいない間はどうされていたんですか?」



 

番頭  「あれは、僕も気が付いた。あの時見たのは、間違いなく本物の人間のはく製だった!」



 

書生  「いやいや、そんなわけないじゃないですか!」



 

番頭  「いや、確信したんだよ。人の手で作れるものじゃないよ、あの質感、ツヤ、綺麗な髪!」



 

書生  そんな確信持っちゃうと、僕はまた……(笑)。



 

KP  説得されて、仲間に殺されちゃう(笑)。



 

番頭  <説得>ですか。やってもいいんですかね?



 

書生  僕は偽物だと思い込みたいんですけど!?「分かりました、それが本物かどうかはとりあえず置いておいたとしても、ヤバくないですかね? ここは」



 

番頭  「ああ。だから柳さんを問い詰めてみたんだよ」



 

書生  「問い詰めたんですか!?



 

番頭  「柳さんは何も言ってくれなかった。主人の趣味の一点張りだ。それも含めて、食事会で白井さんに聞いてみようと思っているんだよ」



 

書生  「ええー? お金と命、どっちが大事なんですか! あそこまで来るともう、肉料理も怖いですよ!」



 

番頭  ……確かに。肉、肉料理を出してくると言っていたが、人間の肉の可能性も?



 

KP  ほほう?



 

番頭  「とにかく、この状況では外にも出られない。もはや白井さんと話す以外に、道はないよ!」



 

書生  「そんなに正義感あふれる人なんですか!?



 

番頭  あれを見て正義感に目覚めたのかな(笑)。いや、正義感なんてどうでもいいんだ。真実、真実を確かめたい。



 

書生  分かりました。これはもう、借金どころの話じゃないですね。



 

番頭  お金との関係も気になるんだよ。悪いことで稼いでいる可能性もあるわけだし。



 

書生  「生きて帰れたら、ちゃんとお金弾んでもらいますからね!」



 

番頭  「ああ、最後までよろしく頼む。状況を打破するためにも、まずは食事の場に行くしかない!」



 

書生  「分かりました、行きましょう行きましょう。」でも、何かしら護身用にできそうな何かはありませんかね?



 

KP  大きな時計とかはありますが。



 

書生  行く途中の廊下とかには?



 

KP  ランプはありますねぇ。あとは絵画の額。



 

書生  手に持っていけるようなものはないか……。談話室の写真立てを、とりあえず懐に隠して持っていきます。



 

KP  分かりました。ちなみにこのタイミングで、遠くで犬の声がします。



 

書生  え、犬?



 

番頭  ……はく製だったんじゃないの?



 

書生  いや、別の犬ですよ!



 

KP  窓の外を、見てもいいですよ?



 

書生  僕は見ませんよ(きっぱり)。僕は、見ませんよ!(力強く)



 

KP  今のは、かなり役者らしかったなぁ(笑)。



 

番頭  いや、僕は気になるから見るよ? と言うか、ワンワンっていう鳴き声を聞いて、自然と見ちゃうと思います。



 

KP  ではここで、正気度チェックをしましょうか。あなたの<正気度>の残りは何点ですか?



 

番頭  46です!



 

KP  では、46%で判定ですね。



 

番頭  (ダイスを振る)16



 

KP  成功したので、正気度は減りもしませんでした。



 

 『CoC』では眼前の恐怖や異変に対して心を強く持てるかどうか問われるシーンで、キーパーによって今回のように「正気度チェック」を要求されることがあります。


 ここまでは自動的に六面体ダイス1個分の正気度が減少していましたが、この判定に成功すれば正気度の減少が抑えられるのです。逆に言えば、失敗すると大量に正気度を失うケースが多いわけですが。



 

KP  では、中庭を見ますとね。はく製の犬が動いていますよ。



 

書生  はく製ー!?



 

番頭  あれ!? ということはやっぱり……「あいつはく製じゃなくて生きた犬だったんだよ! ということは、他のはく製も生きているのでは」



 

書生  いやいやいや、そうなるとまた話が変わってきちゃいますよ!?「いや、あれはやっぱり他の犬なんじゃないですかね?」



 

番頭  「いや、あれはあのはく製の犬だよ! なんで動いてるんだろう?」



 

書生  「不思議なもんですねー」



 

KP  ああ、いいとぼけ方ですね(笑)。



 

番頭  よく分かんないけど、とりあえず食堂に行こう!



 

KP  では、食堂に移動するのですね。食堂にはランプがいくつか用意されています。この時代の晩御飯の場は、暗いんですよね。明かりがもったいない庶民の間では、明るいうちに食べてしまうので「夕食」と言っていたんです。



 

書生  電気もあんまり通ってなかったって話でしたしね。



 

KP  食堂には長いテーブルがありまして、その端に主人が車椅子で着席しています。



 

番頭  出たな、白井!



 

KP  <目星>があるなら、ここで使ってもいいです。



 

書生  <目星>なら僕は50あるんで、まず振ってみますね。(ダイスを振る)何も気付けない!(笑)



 

KP  きっと目がすごく躍ってるんですね(笑)。



 

書生  キョドりすぎてもう、何も見えない!



 

番頭  ここで気付いたらカッコいいよね。(ダイスを振る)93! 我々は何も気付けない!(笑)



 

書生  なんでこんなに薄暗いの? より怖いんですけど、って思ってます(笑)。



 

番頭  車椅子ということは、足が不自由なのかな。



 

KP  車椅子は、柳さんが手押ししていますね。主人がぼそぼそと話したらしい言葉を、柳さんが聞いて伝えてきます。「ようこそいらっしゃいました」



 

書生  まぁ、はるばるとね? 来たくはなかったんですけどね?



 

番頭  待て待て、まずは自己紹介だよ(笑)。



 

 怒らせたら怖い、と始終ビクビクしている書生はさておき、番頭の方からふたりがこの屋敷まで来た理由が説明されました。


 そして……。



 

KP  「今日は遠路はるばるよくいらっしゃった。ささやかながら、今夜は宴をご用意しました」と主人からの言葉を柳さんが伝えると、部屋のドアを開いて、銀の皿に乗せた肉料理が運ばれてきます。柳さんではなく、女性が持ってきますね。



 

書生  ……あれ?



 

KP  この女性に、見覚えがあるかも知れません。



 

番頭  あ、まさか!? 写真立ての写真に写ってたやつ?



 

KP  かなー? というわけで旧ルールでの<アイデア>ロール、今回はそのままINTを使って判定してください。



 

番頭  分かりました、80ですよね。



 

書生  お願いします!



 

番頭  (ダイスを振る)あああ、84! 失敗!



 

KP  ぜんっぜん知らない人だなー、と思いました(笑)。



 

書生  僕、手元に写真立てを持ってきているんですけど、見られないように見比べることで可能性を上げられませんか?



 

KP  判定をするまでもなく、彼女ではない、ということが分かります。が、見覚えはあります。



 

 テーブルトークRPGではこのように、状況を有利にできそうな行動宣言によって、ゲームマスターなどの進行役の判断で、判定値にボーナスをもらえる場合もあります。また、今回の場合は写真と比べればすぐに別人と分かる状況だったため、判定そのものが免除されました。



 

書生  ええと、誰だろう? 判定値は60です。(ダイスを振る)34! 気付い……ちゃった?



 

KP  あなたは、コレクションルームでこの女の人を見たことがあります。



 

ふたり ………………。



 

KP  はく製だった人ですね。



 

書生  (長い長い溜息を吐く)。



 

KP  それはそれとして。正気度チェックをしましょうか。



 

書生  ですよねー!?(笑)<正気度>の現在値は41!(ダイスを振る)失敗!



 

KP  1D6(六面体ダイス一個)ぶん減りまーす。



 

番頭  ちょっと、また発狂しないでよ!?



 

書生  (ダイスを振る)2! よかったー!



 

KP  お話的にも、発狂が避けられてよかったです(笑)。



 

書生  番頭さんは何も気付いてないですけど、こっちはもう、ガタガタガタガタと(笑)。



 

番頭  うん。「綺麗な人だなー」くらいにしか思ってない。



 

KP  そして肉ですが、ちゃんと綺麗に切り分けて焼かれているので、何の肉かは分かりません。



 

書生  (裏返った声で)「あのー、そのー、つかぬ事をお聞きするんですけど、このお肉は一体何のお肉なんですかねぇ?」



 

番頭  それ聞くんだ(笑)。



 

KP  聞かないで食べるのと聞いて食べるの、どちらが怖いかですよね。「付近で獲れた、新鮮な肉を使っております」と言ってきます。



 

番頭  これ、見た目で判断したりはできないんですか?



 

KP  <解剖学>などがあれば使えるんですが。<博物学>でもいいですよ。



 

番頭  その辺も、<生物学>もないんだよなぁ。



 

KP  となると、EDUよりはINTかも知れませんね。INT1/2での判定でもいいですよ。



 

番頭  すると、僕は40ですね。(ダイスを振る)73です。



 

KP  おいしそうな肉にしか見えないですね(笑)。



 

番頭  ダメだよー! ここで気付いたらちゃんと判断できたのに!



 

書生  ではこっちも、新鮮な肉と言われてよーく見た上で!(ダイスを振る)おお!?



 

KP  大成功じゃないですか!



 

書生  いやでも、これ、気付いてよかったのかな?



 

番頭  確かに、そもそもね(笑)。



 

KP  見た感じ、カエルの肉のようにも見えますが、人間の肉のようにも見えますね。



 

書生  ……あれ、これ、また僕の正気度が。



 

KP  もうお分かりのようですが、正気度チェックをお願いします(笑)。



 

番頭  なるほど! こうして精神が追い詰められていくゲームなんだねー。



 

KP  そうです、『CoC』ってそういうゲームなんです。



 

書生  (ダイスを振る)32! 成功! ここまで来たら、何が来てももう驚かないぞ!



 

KP  なんとか人肉じゃないような気がする、ということに気付けたようですね。実際、人肉ではないことは確信できます。



 

番頭  「では、せっかく出していただいたんだしいただこうか。お腹も空いているだろう?」



 

書生  「僕はあのー、お腹痛くてー、どうぞー」



 

番頭  では僕は、ぱくっと。



 

KP  すると確かに、魚のような、カエルのような、人間のような味がしますね。



 

番頭  なんとも美味し……人間!?(笑)



 

KP  イチジクのソースがよく効いていますね。



 

番頭  うん、酸味が効いていて美味しいよ。



 

書生  僕は食べるフリをして、横のサラダを食べています。



 

KP  夏の野菜が揃っていますね。



 

番頭  野菜にはね、人菜とかないからね。まぁ、1月なんだけどね今! それじゃあ、まずは核心に入る前に雑談しようか。「ここに来るまでに季節外れの花が咲いていたんですけど」



 

書生  「これもよく見ると、夏野菜ですよね?」



 

KP  「ここはどうも、お恵みが豊富らしくて」



 

番頭  「さっきなんて、セミの鳴き声が聞こえてたもんなぁ」



 

書生  「この辺は、暑い気候なんですかね」



 

KP  「きっと、神のご加護があるんだと思います」



 

 あまりにも怪しげな単語が羅列されていきましたが、情報が少なく、こうして後ろから見ている我々とは異なって状況を俯瞰できないおふたりは、それらの関連性に気付けないでいました(菊池さんは薄々感づいていましたが……)。


 しかし、彼らが気付いていようといまいと、物語と事態は進んでいきます。



 

番頭  「では、白井さんの奥さんは今いらっしゃるのでしょうか? 綺麗な姿の写真があったんですけど」



 

KP  「いらっしゃいました」と、柳さんが答えます。



 

番頭  「ああ、それは……失礼しました」



 

KP  「しかし、見てみたいとおっしゃるのでしたら、庭におりますから見ていただければ」



 

番頭  庭に、おりますから!?



 

書生  えっと、大丈夫ですー(笑)。



 

KP  正しいロールプレイですね(笑)。



 

書生  僕らとしてはね、用件を済ませてとっとと帰りたいんです!



 

KP  さて、ここでも庭を見に行っても構いません。



 

番頭  え、これどうしよう? 貫太郎だったら、どうするんだろう。



 

 テーブルトークRPGではこのように、有利になる選択を客観的に選ぶよりも、自分のキャラクターがその状況でならどう考え、どう動くかを考えて行動を決めると、より没入して楽しめます。



 

番頭  今は食事中ですし、席を立つのは失礼だと思われるんじゃないですかね。なので、「後ほど見させていただきます」と切り返します。



 

KP  柳さんは「それがいいでしょう」と言ってきます。



 

書生  (ひそひそ声で)「そろそろもう本題に入って、とっとと用件済ませて帰りましょうよ!」



 

番頭  そうだね、そもそも我々がここに来たのは借金の取り立てが目的だった。「今回伺ったのは12月に未返済だった借金についてでして、今日は屋敷を見させていただきましたが、財力については問題ないとお見受けしました。できるならば、今すぐきっちりとご用意していただきたいのですが!」



 

KP  白井さんがぼそぼそと答え、それを柳さんが伝えてくるには、「今ようやく『製品』の出荷ができるようになりまして」



 

番頭  製品の出荷……まさか、はく製!?



 

書生  まだ分かんないですから、まだ!



 

KP  「これが出回れば、あっと言う間に借金はお返しできます。ですので、もう少しだけお待ちいただきたい。もちろん、只で待っていただこうとは思っておりません」



 

番頭  ん? 何か条件があるのかね?



 

KP  しばらくすると、主人に目配せされた柳さんが、3人を連れてきますね。若い女たちです。



 

書生  あっ!?



 

KP  「どれかお好きな者を選んでいただければ、それを利子にしていただこうと」



 

番頭  ちょ、ちょっと待って! 「正午くん、これはまずいよ!」



 

書生  村、村の!



 

番頭  そうだよね、村通って来たじゃないか。村人が言うには、「若い女たちがいなくなった」と言っていたよね?



 

書生  そうですねぇ。えーと、日達さんが好きそうなのがいっぱいいるって言ってましたよね?(笑)



 

番頭  ひょっとすると、彼女たちがそうなのか? いや、彼女たちだろう。



 

書生  だとして、どうするんですか!?



 

番頭  「彼女たちは……生きているんですよね?」



 

KP  「お好きな者を選んでいただければ、すぐにはく製にしてお届けします」



 

番頭  ああ、そういうことかぁ! って、柳さんは「はく製にして」って言っちゃったんですよね?



 

KP  言っちゃってますね。



 

番頭  「私にそんな趣味はない!」



 

書生  いやー、日達さん、結婚相手を探してましたよね?(笑)それなら子孫を残したいってことで、生きたままの方がぁ!



 

番頭  うん、そうだね。それもひとりと言わず、みんな返してほしいな!



 

KP  「生きるも死ぬも、あまり関係ないと思いますが」



 

書生  こ、怖ぇ……。(ひそひそと)「もうお金とか、いいんじゃないですかねー?」



 

番頭  ビビりすぎだよ!(笑)



 

KP  いや、『CoC』では最高に正しいロールプレイです(笑)。



 

書生  「最悪、これで娘さんたちを助けて帰れれば、とてもいいことですよ!」



 

番頭  「しかし、彼らは生身では返してくれない。はく製にして、と言っているんだよ。人質を取られているようなもんだよ」



 

書生  「生死はあまり関係ないと言ってますし、生きたまま返してくれてもいいんじゃないですかねー?」



 

番頭  「うん、だけど生きたままではダメだと」



 

書生  「ダメって言っていましたっけ?」



 

番頭  「あ、いや、それはまだ確認していない!」



 

KP  この錯綜っぷり、めっちゃ面白いですねぇ(笑)。



 

番頭  じゃあ一応、「はく製ではなく、生きている状態で、3人を返してほしい。お金は出す!」



 

KP  ほほう? では、<言いくるめ>か<説得>で判定になります。



 

番頭  <言いくるめ>だと、5%しかない!



 

書生  僕が<説得>55%あるんで、「いや、あのー」と口を挟みます。



 

KP  そう、このために連れてこられたんですよね正午くんは(笑)。普通のホラーなら、絶対に失敗するところですが。



 

書生  「お金の目途は立ってるわけですよね? 待ってほしいということでしたら、そちらの娘さんたちを生きたままお返しいただければ、こちらとしても待ってあげてもいいんじゃないですか、ねー?」



 

番頭  「そうだな!」



 

書生  (ダイスを振る)27、成功!



 

KP  白井さんの口が、ありえない形になりつつ笑っています。そうですね、30センチくらい開いたり戻ったりしながら。



 

番頭  怖い怖い怖い!



 

KP  柳さんは白井さんの口に耳を寄せて、「大変欲深い話だ」と言葉を伝えてきます。そして「いいでしょう、乗りましょう」と。



 

番頭  Win-Winですね。まだ借金はありますけど、それは後々でも。



 

書生  「僕らとしては、返してもらうという約束ができたんで、ここらへんでお暇(いとま)しても……」



 

番頭  「いや、見ちゃったじゃないか我々。これ、そのままやり過ごせるか君は! 人として!?



 

書生  「日達さん、よく考えてくださいよ! 僕らはこのあと、この3人を連れて帰らないといけないんですよ!?



 

番頭  「それも分かるが、君は人の子かね!? この状況を見たまえ、白井という人間は村人たちを連れ去っているんだぞ?」



 

書生  「僕としてはこの3人を助けるよりも、自分の命が大事ですっ!」



 

KP  正午くんらしいですね(笑)。



 

番頭  うん、確かに正午くんっぽいね(笑)。



 

書生  「そこをね、僕が頑張って3人助けるって方向にしたんですから! 帰りましょう!!



 

番頭  「じゃあ分かったよ! 君への報酬、2倍だ2倍」



 

書生  ここでお金の話にしてきたぞこの人! 超やべぇ!(笑)



 

番頭  見ちゃったからには、見過ごせないんだよ!



 

KP  探索者としては、完璧なロールプレイです(笑)。



 

 普通に考えれば、自分の命を第一にして行動する正午くんの行動の方が自然に思えるでしょう。しかし『CoC』のプレイヤーは「探索者」と呼ばれる通り、常人よりも強い好奇心を持ち、真実の解明に積極的であれ、と言うのも、『CoC』では一般的な考え方です。


 どちらが正しい、ということはありません。どちらを貫いても、宇宙的恐怖に彩られた物語は、面白い方に転がっていくことでしょう。



 

番頭  「白井家は! 人をはく製にして! 出荷しているんだぞ!?



 

書生  もうこの人置いて帰りたーい! でも、この人いないと家に帰れなーい!!(笑)作戦とかあるんですか!?



 

番頭  金は返してもらわないといけないが、出荷しないと目途は立たないらしい。



 

書生  いやもう、お金は後々でいいじゃないですかー!



 

番頭  いかん、これだと話がまたループしてしまう(笑)。



 

KP  そんな話をしているうちに、食事の時間が終わってしまいました。



 

番頭  あー、しまった!?



 

書生  どうしたいんですか、結局!?



 

番頭  うーん、一晩一緒に考えよう!



 

書生  ええー!?(笑)



 

番頭  いやもう、止まるしかないじゃろ? ん、じゃろって何だ(笑)。さっきの言葉を思い返してみろ、「努々、外には出るな」と。この機密を知って、只で帰してもらえるとは思えないよ。



 

書生  確かに、夜中に暗いじめっとしたあの森で襲われたら大変ですよね……。



 

番頭  敵陣の中にいるというのは恐怖かも知れないが、逆に言えば秘密を暴ける場所にいるわけだよ。だから、2倍! 僕一人じゃ無理なんだ(笑)。



 

書生  3倍! いやむしろここは5倍くらい出してもらっても(笑)。



 

番頭  よし分かった、2.5倍で手を打とう(笑)。勉強したいんだろう、大学生?



 

書生  なんかもう勉強とか言ってられない気がしますけど、「分かりました! 2.5倍ですよ2.5倍!」



 

番頭  よし。とにかく今日は泊まるしかないな。



 

KP  すると外では、だんだんと雨の音がしてきます。バチャバチャという音と、犬が鳴いている音が聞こえてきますね。窓の外、見ます?



 

書生  僕は見ません!



 

番頭  僕は先ほどの言葉が気になったので、それを思い返しながら見ます。



 

KP  すると、白い服を来た女の人が、あの庭にあった椅子に据え付けられています。



 

番頭  え!? あの、トゲがあった椅子に?



 

KP  そうですね。それに動かないように、まぁはく製っぽいですけどね。さて、正気度チェックです。



 

番頭  現在値は46なので(ダイスを振る)87



 

KP  では、1D6の減少を。



 

番頭  やばい、頼む! ここで発狂したら大変だ!(ダイスを振る)3点減少で済みました!



 

KP  ここで失敗したら、最高のバッドエンドだったんですけどねぇ(笑)。



 

番頭  「そうか、あれははく製だったのか。奥さんだった人、の、はく製なのか……」



 

KP  と、そのように眺めていると、寝具を持ってきた柳さんが解説してくれます。



 

書生  僕、耳閉じてまーす! 部屋の隅にいまーす!(笑)



 

KP  「あの女は、不義の女でして。旦那様を裏切って、私に声をかけてきたのですよ」



 

番頭  なるほど、色目を使ってきたと。



 

KP  「そこで、はく製にして飾ることにしたのです」



 

番頭  え? どういうこと? 柳さんがはく製にしたんです?



 

KP  そんな話を聞いてしまうと、あなたの正気度がまた疑わしくなってきますよね? 正気度チェックです。



 

番頭  うわぁ、頼むよお願いしますよ!(ダイスを振る)あ、大丈夫だ!



 

KP  あなたはもう、それくらいでは減らないようですね。動じないというか、凍り付いているのかも知れませんが(笑)。



 

書生  「そろそろ終わりましたー? お話ー?」



 

番頭  それは……可哀そうな人だったんだな、と同情しますね。



 

書生  なんかあの人、あっちで急に同情してるー(笑)。こんな狂気的な家の人に同情するあの人も、どうなんだろう……。



 

番頭  白井さんの愛が足りなかったのかも知れないじゃないか。優しくしてくれた柳さんに気が向かってしまうのも、仕方ないじゃないか。可哀そうに、そんな人のはく製が雨に濡れているんだなぁと。さあ、もういいですね! 部屋に向かいましょう!



 

 この辺から番頭こと酒井さんはエンジンがかかり、グイグイと突き進んでくれていました。慎重派の菊池さんとの相性が、ある意味良くなってきたとも言えますが……?



 

KP  寝室に着きますと、窓の外がよく見えます。外はすごい雷雨で、雷の白い光が時々庭全体を写します。すると来た時にも見えていましたが、小さな神社がありまして。



 

番頭  ああ、ありましたね、祠(ほこら)。



 

KP  その祠の扉が、開いていますね。風で揺れているので、よく分かります。そのまま観察してもいいですし、寝てしまってもいいです。



 

書生  ……とりあえず、ちょっと会議しましょう。



 

番頭  僕は気になるから、見に行くよ!



 

書生  会議しましょう!



 

KP  有無を言わさず(笑)。



 

書生  どうするんですか? このまま朝までどう過ごすんですか? 明るくなってから脱出するんですよね? あの女の子たち、連れてきていませんけど。



 

番頭  そういやそうだった。大丈夫、まだはく製にされていないよ。



 

KP  まさに今、されているかも知れないですけどね?



 

番頭  いや、ん!? い、いやこれは、ここまで来たからにはお金は返してもらいたいけど、お金は用意できていない。どうしたらいいんだ!



 

書生  いや、あの……日達さんの正義感には負けましたよ。せめてあの女の子たちだけでも助けて戻りましょう。



 

番頭  そうだな、そうするしかないだろうけど、この状況をどうやって上に説明するんだい?



 

書生  とりあえず、まださっきの今で殺されたりはしていないでしょうし、3人は部屋に呼びましょう? いや、いやらしく見られてもいいですよここは。



 

番頭  どういうこと!?(笑)



 

 どういうことかは明記せず、皆さんのご想像にお任せしますが、つまりそういうことです。



 

書生  なんかもう、取引がそういう感じじゃないですか。僕、そういう説明の仕方しちゃいましたもん。日達さんが子孫残したいから、生きたまま返してって(笑)。



 

番頭  なるほど! 我々の近くに置いておけば、3人は安全だな!


 今すぐ全てを暴くことは我々にはできないから、一端救える命を救って戻って、助けを呼ぼう! いいよ、いいよその作戦で。



 

書生  なんだかんだでチョロいな、この人(笑)。



 

KP  では、3人を連れてくるための話をしないといけませんね。



 

番頭  柳さんか。確かに、あの人くらいしか話せる相手がいませんね。呼びに行きます!



 

KP  ではその前に、ここで何かに気付くかも知れません。<幸運>で判定をお願いします。低い方はどちらでしたっけ?



 

書生  僕ですね。気付けー!(ダイスを振る)24、気付いた!



 

 ついに異変に気付けた書生こと正午くんですが、そこに見えたものは、彼らの想像をはるかに超える、まさに超常的なものでした。



 

 窓の外にはたくさんの、人間とも、魚とも、カエルともつかない姿の者たちがいたのです。



 

書生  ………………(か細い声で)ああー、気付いちゃいけないヤツだぁ。



 

KP  皆、皿のような目をしていますね。がに股です。庭が稲光で照らされて見えるのですが、首にいっぱい付いていた傷みたいなものが、パクパクとエラのように開いていますね。



 

書生  うええ、気持ち悪ぅ……。



 

番頭  気付いちゃったんだねぇ。あれ、まだ気づいたのは正午くんだけ?



 

KP  そうですね。ひとりだけ正気度チェックをお願いします。



 

書生  正気度は39!(ダイスを振る)65、失敗です……。



 

番頭  お願いしますよ!? ここでひとりにしないでよ!?



 

書生  ここで発狂はまずい!(ダイスを振る)6だー!! これはもう「いやー!」どころか、気絶するレベルでは?



 

KP  そうですね、気絶とかしちゃいますね。ここからは、おひとりですね(笑)。



 

番頭  またかよー、頼むよ起きてよ正午くーん!



 

書生  僕、もう何もできませんので(笑)。



 

 ここでも「一時的狂気」の結果を、プレイヤーの発想に任せてキーパーが承認する形で決定しています。もっとも、気絶して休みたかったのは、ロールプレイではなく菊池さんの本心だったのかも知れませんが……。



 

KP  では、どうします? 部屋の外に出ますか?



 

番頭  部屋を出ようとしたら、窓を目にした正午くんが急に倒れちゃったんですよね? なら、まずは正午くんを落ち着かせます。「どうしたんだね、正午くん!?



 

KP  なるほど。すると、部屋からは出ないんですね?



 

番頭  はい、出ません!



 

KP  分かりました。すると外でものすごい音が響きます。ガラスが割れる音、バタバタと走る音、何かが倒れる音、火が付いたような音、それらが同時に襲い掛かってきます。



 

番頭  うおおおお……。



 

KP  正気度チェックをしましょう。ここはね、成功した方がいいと思いますよ(笑)。



 

番頭  ああっ、優しい!(笑)現在値は43!(ダイスを振る)72。……72!? じゃあ、六面体ダイスも振りますね。



 

書生  ここで正気失ったら、本当に終わっちゃう……。



 

番頭  (ダイスを振る)おおおおおお! 4!!



 

書生  すごい、本当にギリギリのところで正気保ってる!(笑)



 

KP  あなたが必死に耐えていると、急に部屋のドアが開きます。半分魚みたいな、カエルみたいな、がに股の……会ったことがあるかも知れない人がそこにいますね。



 

番頭  え!? 会ってたっけ?



 

書生  僕は何も言えません(笑)。



 

番頭  村で、村で会ってたのかな? 分かりません!



 

KP  するとその会ったことがあるか分からない人は、がに股で近付いてきて、「お守りは持っていてくれたようだね」と言ってきます。



 

番頭  あ、そうだ! お守り持ってた! サメの歯のやつ!



 

KP  「おかげで、結界が破れたよ」



 

番頭  え、何それ? 結界を破るための道具だったの? それで、一体……?



 

KP  「そして、娘たちを助けてくれたらしいじゃないか」



 

番頭  え、加勢しに来てくれたのこの人たち!?



 

KP  すると、あなたは不意に気付いてしまうかも知れません。暗かったので、分かりづらかったのですが……。<幸運>の判定を、してみませんか? 失敗したら、あなたは気付かないままです。



 

番頭  はい! 気付け、いい加減気付け!(ダイスを振る)21、気付きました!



 

書生  いやー、いいところで気付くなー!



 

KP  はい、あなたは気付いて「しまいました」。



 

番頭  ……えっ?



 

KP  その魚のような人は、片手に白井さんの首を持っています。



 

番頭  おいおいおいおいおい!? はぁぁー! なんでだ!?



 

「やっと、殺せた。海に、帰れる」



 

「お前も、早く、巣に帰れ」



 

KP  その人はそのようなことを言って、去っていこうとします。呼び止めてもいいですし、そのまま震えていてもいいです。これがこのゲーム、最後の選択になります。



 

番頭  あ、そうなんですね!?



 

 テーブルトークRPGは、皆で物語を作っていくゲームです。そのため、物語のテンポやより盛り上がるクライマックスを生み出すために、こうしてキーパーから情報を開示したり、プレイヤー同士が相談してロールプレイを決めたりすることも、場合によっては推奨されます。



 

 この物語の最後の選択を託された日達貫太郎、その決断は……。



 

番頭  では、呼び止めます。



 

書生  (すごい小声で)番頭さーん!



 

番頭  いや、これは呼び止めるでしょう!



 

KP  呼び止めて、なんと言います?



 

番頭  呼び止めて……「おい、これは一体どういうことなんだ!?



 

書生  やばい、超正義感に溢れてる(笑)。



 

番頭  「なぜ、君が、白井の首を……?」



 

KP  魚人は頭(かぶり)を振ると、「こいつら、新しくやってきて、ここを荒らしまくった。我々を狩りまくった」



 

番頭  魚人たちを、狩った……?



 

KP  「だから、これは、復讐」それだけ告げて、なんじゃそりゃあ、という様子のあなたを置いて去っていきますね。ちなみに、館がそろそろ焼け落ちそうなんですが、どうします?



 

番頭  ああ、燃えてるのか!?



 

書生  脱出してくださーい!



 

KP  脱出するなら、素早さ、DEXの判定が最後に残っています。



 

番頭  これ、脱出できなかったらどうなるんですか!?



 

KP  それはもう、館からは誰も出てこなかったということになりますよ。



 

書生  しかも、僕は発狂した状態です。



 

KP  ちなみに、正午くんも連れていくなら判定値にマイナス20%がかかりますが、どうします?



 

番頭  (間髪入れず)連れて行きます!



 

書生  よし! 正義感がここで活きてきたぁ!(笑)



 

番頭  マイナス20でしたよね? DEX70だから、50! 意外といいんじゃないのこれ?



 

KP  これまでのダイス運を振り返ると……?



 

番頭  信じろ、自分の力を!(ダイスを振る)おお、26!!



 

KP  では……。どうやって担いでいきますか? 背中に背負ったり、肩に担いだり、お姫様だっこしたりできますが。



 

番頭  背中に背負っていきます。両手が空くので。



 

書生  僕発狂してますけど、暴れたりしても背負えるんですかね?



 

KP  気絶していることにしましたから、大丈夫です。自分で気絶したことにしていましたからね、ナイスプレイでしたね(笑)。



 

書生  よかったぁ、これがTRPG!(笑)



 

番頭  では、これで館から出ていけるんですね。



 

KP  その途中で見えますが、庭の祠(ほこら)はめちゃくちゃに破壊され、ありとあらゆる血や汚物などで穢されています。まぁ、それについてはあなたにそう見えたというだけで、何も気付くことはないのですけどね。



 

番頭  ……。



 

KP  さて、その後朝が来て、あなた方はなんとか帰ることができました。



 

 このお話は、これで終わりです。



 

番頭酒井  えっ…………えー!? どういうこと!? 何が起きたの!?



 

KP芝村  何が起きたのか、どういう宇宙的な恐怖が潜んでいたのか、何ら知ることはなく、このお話は終わりです。



 

書生菊池  そうですね、前半で何も気付けていなかったですからね(笑)。



 

酒井  そうか、判定に失敗してたからか!



 

菊池  気付きたいなーと思ったところ、何一つ気付いてません!



 

酒井  そうだよね、全然分からないよね。白井さんがなぜ人間のはく製を作ってたのかとか、なぜ復讐のために魚人が来たのかとか。



 

芝村  いい感じに判定に失敗しまくって、何一つ話が出てこないという(笑)。



 

酒井  そういえば、最初に寄った村にいた人たちも魚人だったんですよね?



 

芝村  そうですね。その村の魚人が何だったのかは、『クトゥルフ』的には探索者経験者ならみんなが知っている怪物だったんですけどね。



 

酒井  ああ、そこの村の娘たちが狩られて、さらわれていたと。じゃあはく製は、全部魚人のはく製?



 

芝村  魚人のはく製も入っていますが、人間のはく製も入っていました。なぜそのはく製が動いていたかも、一切分からないままです。



 

酒井  分からーん! 分からないよー!



 

菊池  食べていた肉も、結局何の肉だったのか分からないままでしたね。



 

芝村  それは魚人ですね。なので魚のような、カエルのようなと。



 

酒井  ああ、そうかー。僕、普通にうまいとか言っちゃってたような(笑)。



 

芝村  それは気付いてしまった今、正気度チェックですね(笑)。



 

 『CoC』をはじめ、テーブルトークRPGは「ボスを倒す」「得点を集める」などといった目標により、勝敗を決するゲームではありません。プレイヤーたちのロールプレイの結果、ゲームが終わった時に一つの、そこにしかない物語が出来上がることを楽しむことができるゲームです。


 今回のように、判定や行動次第で、謎の半分も解き明かされないようなことも、『CoC』ではままあります。しかし、世間一般のホラー映画などにも、こうした「理不尽」や「謎めいた結末」があってこそ面白い作品があるように、参加者の皆さんが最後まで走り切り楽しめたなら、どのような結末も素晴らしいものなのです。



 

芝村  朗読劇に来て下さった方には、黒幕のヒントをなんとか用意して配ることにしたいですね(笑)。



 

酒井  ですね。じゃないと、本当に僕らと同じ感じで終わっちゃいますからね! ただ屋敷に向かって、お金も回収できず、娘の救出も村の人が自力で……。



 

菊池  いやでも、僕らは結界を破るお守りを持ち込んでたみたいですからね。僕らがやったのは、それだけかもですが(笑)。このあとお金を回収できなかった番頭さんは、路頭に迷うことに……。



 

酒井  そんなの最悪じゃないかー! え、これ本当にどういう朗読劇になるんだろう? 大丈夫ですか!?



 

芝村  大丈夫じゃなかったら、大丈夫になるように頑張ります(笑)。



 

酒井  このプレイは、何らかの形で皆さんにお見せしたいですね、どうしてこうなったのかって(笑)。



 

芝村  最初から最後まで、完璧なロールプレイでした。お疲れ様でした!



 

 『クトゥルフ朗読劇 華蝕の匣~書生の夢現~』の台本の元となった、テーブルトークRPGセッションの模様は以上となります。


 実際に朗読劇を鑑賞された方には、あの場面はこうして生まれたのかといった発見や、原作者が「頑張った」部分についても、見比べていくといくつも分かるかと思います。



 

 そして、すでにお分かりの方も多いかとは思いますが、テーブルトークRPGのゲームプレイの結末は、プレイヤーのロールプレイ次第で常に変化し、同じシナリオでも同じ展開や、結末は決して訪れません。


 朗読劇や今回のゲームプレイの結末に納得がいかず、その先の真相をも暴き立てたいという好奇心旺盛なあなたは、「探索者」にとても向いていると言えるでしょう。『クトゥルフ神話TRPG』の世界は、いつでもそんな皆さんに門戸を開いております……。



 ◎プレゼント
朗読劇本番の装飾に使用したオリジナルタペストリーを、クトゥルフ神話TRPGチャンネル会員の希望者の中から抽選で2名さまにプレゼント致します。
4e0674d15e57578fe879db5a69d2c2de7447baa1※本番で使用済みの開封品となりますので、この条件にご了承いただけるかたはご応募ください。
応募締切は2019年11月18日10:00です。

◎プレゼント応募ページ
https://passmarket.yahoo.co.jp/event/show/detail/0149xp10krdcg.html


Call of Cthulhu is copyright (C)1991,2003 by Chaosium Inc.; all right reserved. Arranged by Arclight Inc.


Call of Cthulhu is a registered trademark of Chaosium Inc.


PUBLISHED BY KADOKAWA CORPORATION


see you next level?