意外と知られていない?「同人」の理念(もしくは建前)と実情 ※長文です
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意外と知られていない?「同人」の理念(もしくは建前)と実情 ※長文です

2014-05-24 22:07
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かつて、インターネットが今のように一般に普及する前は、いわゆる「同人」というものの存在は「オタクと呼ばれる人種の中でも、更に限られた人のみに縁のある世界」でしかありませんでした(あるいは、明治時代の文芸の世界を真っ先に思い浮かべる人もいたかもしれません)。

しかしながら2014年現在では、「同人誌」「同人CD」「同人グッズ」といったものについて「全く聞いたことが無い」という人は、少なくともまともにネットに触れている人間の中にはほとんど存在しないのではないでしょうか。

ですが「そもそも同人って何?」と訊かれて正確に答えられる人は、実はいまだにかなりの少数派であるような気がします。
そしてネット上で同人に関する話題が数多く繰り広げられるようになった中で、そもそも同人の理念(もしくは建前)を全く理解していないと思われる人たちが、微妙にピントのずれた議論を交わすことも増えてきているようです。

そんなわけで、現在の「同人」というものが一体どういった理念の上で動いているものなのか、以下にまとめてみました。
もちろん、これらは全てのサークルの実態を表しているわけではありませんが、少なくとも「建前としては」概ねこの理念をベースに動いていると言っても間違いではないでしょう。
(注:以下で説明する「同人」はいわゆるコミックマーケットなどで行われている“アレ”のことを指します。明治時代の文芸云々とは共通点もあれば全く違う点もあるようです)
  • 同人誌(あるいは同人○○)は、同好の士によって自費出版される発行物である。
  • 営利を主目的とはせず、あくまで発表すること自体が目的である。
  • 「作り手」と「読み手(受け手)」の関係は基本的に対等であり、そこに「お客様」は存在しない。
  • 出版にかかる費用はまず作り手側が負担するが、読み手(受け手)側がその一部を負担するために有償頒布という形を取ることが多い(無償の場合は作り手が全て負担することになる)。
  • 内容については限定されない。オリジナル(一次創作)・パロディ(二次創作)の別や、非エロ(全年齢向け)・エロ(18禁)の別、男性向け・女性向け・両方向けの別、媒体(本、CD、グッズ、etc.)の別などを問わず、全てを包括する概念である。
  • 二次創作に関しては、本来であれば原作権利者の許諾が必要である。無許可で二次著作物を作成し発表した場合は著作権侵害となり、「権利者に訴えられて敗訴した場合は」罪に問われることになる。
それでは、今回も張り切って各項目について説明して参ります。


  • 同人誌(あるいは同人○○)は、同好の士によって自費出版される発行物である。
要するに「好きな人が好きな人に向けて発行する」物、ということです。
そこに会社の意向などは存在せず、あくまで個人が好き勝手に作るわけですので、制約が無い代わりに後ろ盾もありません。
そのため基本的に商業誌と比べて小規模なものになりがちで、ゆえに同人誌を指して「薄い本」などと呼ぶスラングも存在します。
なお、同人誌を発行する主体は慣例的に「サークル」と呼ばれており、多くは1人~数人程度の「私的な集まり」です(「学漫」と呼ばれる学校内サークルなどを除く)。

こうして作られた同人誌などは、大きく分けて二つの方法で発表されます。
一つは「コミックマーケット」に代表される同人誌即売会で自ら手渡しする方法、そしてもう一つは「とらのあな」や「メロンブックス」などに代表される同人ショップに委託する方法です。
かつてはサークル自らが通販を行う方法も盛んでしたが、住所などの個人情報を公にすることに対する危機意識からか、今ではだいぶ下火になっているようです。

なお、「コミックマーケット」、あるいは略称の「コミケット」「コミケ」という名称が「同人誌即売会全般」を指す用語として扱われることもあるようですが、本来これらの名称は「コミックマーケット準備会によって開催されるイベント(2014年現在、日本最大規模の同人誌即売会であり、年2回、夏と冬に行われる)」のみを指す固有名詞です。


  • 営利を主目的とはせず、あくまで発表すること自体が目的である。
ザ・建前第一号です。
とはいえ、実はほとんどのサークルにとって、この建前は本音でもあるようです。
コミックマーケット準備会が行ったアンケート調査によると、コミックマーケットの参加サークルのうちおよそ7割が赤字、という結果になったようです。年に20万円以上の黒字を計上するサークルは1割にも満たず、これなら普通にバイトでもした方がよほど効率的でしょう。
ですがその辺の事情は意外と知られておらず、筆者も昔、友人(いわゆるアニメオタクかつゲームオタク)に「同人って儲かるの? えっ、儲からない? それってやる意味あるの?」と訊ねられて脱力した覚えがあります。
今では、単純な作品発表の場という意味では、物理媒体にこだわらずネットでいくらでも発表できる、という考え方もあります(事実、多くの同人作家はネットでも作品を公表しています)。しかしながら受け手との対面コミュニケーション、更には本やCDといった媒体へのこだわりなど、ネットのみでは代替不能な部分というのは依然として強固な存在感を放っているのです。

しかし、一方で明らかに「お金を稼ぐために」活動しているサークルというのも確かに存在するようで、あまりにも露骨に金稼ぎに走ることで悪評が立った、などという話は数多く耳にします(金儲けがしたいなら商業でやれ!と言われてしまうわけです)。
中には「弱小エロゲメーカーに所属するイラストレーターが、それだけでは食べていけないので同人誌を売って糊口を凌ぐ」などといった涙ぐましい話などもありますが……。


  • 「作り手」と「読み手(受け手)」の関係は基本的に対等であり、そこに「お客様」は存在しない。
商業ではないのだから当然「顧客」なんて存在しませんよね、というお話です。ザ・建前第二号。
あくまで「読んでほしいので頒布し、読みたいので受け取る」という関係に過ぎない、というわけです。元々は作り手同士でのやり取りが主流だったことから、このような風潮が生まれたのではないかとも考えられます。
また、読み手(受け手)側が「消費者としての権利」を本気で振りかざし始めると、作り手側の負担が「趣味として許容できるレベル」を軽く超えてしまい、活動の継続そのものが困難になる、という懸念もあります。

とは言え、これについては実はかなり議論があり、いつでもどこでも通用する理念というわけではないようです。

例えばコミックマーケットにおいてはこの理念が徹底しており、「そこにいる人間は全て『参加者』である」という鉄の掟によって動いています(そもそも3日間で50万~60万と言われる一般参加者を「お客様」として遇するのはまず不可能、という事情もありますが)。あそこで「俺はお客様だぞ!」などと言って駄々をこねようものなら、即座にスタッフにつまみ出されても仕方ありません。意外と知られていませんが、あそこはあくまで「参加者以外立入禁止」のクローズドなイベントなのです(ルールさえ守れば誰もが『参加者』になることが可能なので、一見するとオープンに見えますが)。

一方で、例えば同人ショップなどはあくまで商売として営業しているわけで、ショップの視点から見れば、自分のところで同人誌などを買う人は当然「お客様」として認識することになります(ショップとサークルの間の関係に関しては、これはどちらが客なのかは微妙なところでしょう)。

ではサークル(作り手)側から見るとどうなのか、というと、これははっきり言って「サークル側の判断次第」という部分があります。
実際には「お客様かどうかは置いといて、とにかく読んでくれる人には大感謝」くらいに考えているサークルさんが多いのではないでしょうか(推測ですが)。
中には「○○(気に入らない別サークル)の紙袋を持っている人には頒布しません!」などとやってしまって炎上した大手サークルのような極端な事例も存在したりしますが……。


  • 出版にかかる費用はまず作り手側が負担するが、読み手(受け手)側がその一部を負担するために有償頒布という形を取ることが多い(無償の場合は作り手が全て負担することになる)。
ザ・建前第三号。
本やCDなどの媒体に収めた作品を本格的に作ろうとすると、それなりの費用が必要となります。
発行の規模が大きくなればなるほど、とても個人で賄い続けられる金額ではなくなってきます。そのため作り手側だけではなく、読み手(受け手)側にも相応の費用を負担してもらおう、という発想です。
なお、営利目的でないことを強調するために、同人の世界では「販売」ではなく「頒布(はんぷ)」という言葉が好んで使用されます。

この理念に従えば、頒布価格は「ちょうど原価を回収できる分」に設定するのが正しいように思えますが、そうは問屋が卸しません。
「原価」には、厳密には媒体制作費用(印刷費やプレス代など)、配送料、イベント参加費、交通費、あるいは作品を作る段階での材料費(紙代・インク代・トナー代)、場合によっては機材やソフトウェアの購入費まで含めて考えることもあります(サークル内部の人件費に関しては普通は含めません。これを含めると「お仕事」になってしまうので)が、ここでは最も比率が大きいと思われる「媒体制作費用」について考えてみます。

この費用についてですが、例えばコピー本(コピー機で印刷したものを自分で製本したもの)を作る場合、1部あたりの費用は何部製作してもほぼ一定なのですが、業者に頼んでちゃんとした製本を行う場合、部数によって大幅に単価が変わってくるのです。

例として、筆者も度々お世話になっている印刷業者「ポプルス」の料金表を参照しつつ、いわゆる「表紙フルカラー、本文モノクロ、A5サイズ32ページ」の本を「30部(これくらい売れればそろそろ零細サークルは卒業かもしれない)」作る例を考えてみます。
料金表(2014/5/23現在)によると、この場合の料金は11,630円(単価にして約388円)なので、例えばこれを1部あたり500円で頒布して見事に完売した場合の収支は、
 (500円 × 30部)- 11,630円 = 3,370円の収益
となります。実際にはこの程度の収益はイベント一回分の参加費だけで吹き飛んでしまいますから、事実上の小赤字と言えるでしょう。

では、今度は同じ仕様の本を「1,000部(中堅~大手と呼ばれる数)」作る例を考えてみます。
同じく料金表を参照すると、この場合の料金は121,515円(単価にして約122円)となり、これを1部500円で頒布して見事に完売してしまうと、収支は
 (500円 × 1,000部)- 121,515円 = 378,485円の収益
となり、見事に確定申告と納税が必要なレベルの黒字になってしまいました。

だったら原価に近い150円で頒布すればいいじゃないか、とも言い切れません。
仮に大手サークルが皆150円で頒布し始めたら、零細サークルも同じように価格を下げる必要が出てきて、そうなると「何をどうしたところで大赤字決定」という非常に厳しい状態になってしまうわけです。
いわゆる商業の世界でのダンピングに近い状態に陥るわけです。いかに営利目的で無いとはいえ、何度も大赤字を繰り返せばそもそもの活動資金そのものが底をついてしまいます。

そんな背景もあり、実際の頒布価格設定にはある程度の「相場」が存在し、概ねそれに近い金額に設定されることが多い(そのため、大量に頒布した際の収益は一気に跳ね上がる)、というのが実情です。

ちなみに余談ですが、いわゆる音楽同人CDの相場は同人誌(本)の2倍程度(そして製造原価もCDプレスは製本のおよそ2倍程度)であるにも関わらず、一般的な商業漫画本の相場は同人誌のそれよりだいぶ安いのに対して、一般的な国内商業音楽CDの相場は同人CDのそれよりだいぶ高いのは何故なんでしょう。ふっしぎー。


  • 内容については限定されない。オリジナル(一次創作)・パロディ(二次創作)の別や、非エロ(全年齢向け)・エロ(18禁)の別、男性向け・女性向け・両方向けの別、媒体(本、CD、グッズ、etc.)の別などを問わず、全てを包括する概念である。
なんだかんだで「同人=パロディ(二次創作)」と考えている人は非常に多いです。
そして「同人=エロ」と考えている人も非常に多いです。特に「同人のほとんどは男性向けおかず本である」と考えている男性や、「同人のほとんどはBL(やおい)本である」と考えている女性がやたらと多いです。ほんとに。泣けてくるくらい。
2chやニコ動で頻繁に用いられるスラングとして「薄い本が厚くなるな……」というものがありますが、これは「いかにもエロパロ(二次創作のエロのこと)同人誌のネタになりそうなシチュエーションだな」という意味合いで使われることがほとんどです。

要するに「エロパロは売れる」んです(男性向け・女性向け問わず)。
頒布されている「種類数」という点では、必ずしもエロパロが圧倒しているというわけでもないのですが、「部数」という意味ではそれこそ圧倒的でしょう。

これは「そもそもエロパロネタというのは、商業ベースでは非常にやりにくい」という事情があるため、「あの○○(キャラ名)、あるいは△△×□□(カップリング名)のあんな姿が見られるのは同人誌だけ!」という状況が多々発生することにより、その部分での需要が非常に高くなっていることに由来するようです。
逆に言えば「オリジナル作品が見たいなら商業で探せばええやん」と言い換えることもできます。実に身も蓋もないですが。

ですが、今後はそのあたりの状況も変わってくるかもしれません。
例えば「オリジナルの同人音楽CD」などというものは同人の中でも主流からは程遠い代物でしたが、それが行くところまで行って「オリジナルの同人音楽CDを作っていた人が、そこから人気に火が付いて商業デビュー、更にアニメの主題歌を担当したと思ったらいつの間にか紅白歌合戦に出ていた、な、何を言っているのかわからねーと思うが(略)」などという話が実際にあったばかりです。
こういう出来事を機に、多くの人が様々なジャンルに目を向ける機会が増えてくる――かもしれません(希望的観測)。


  • 二次創作に関しては、本来であれば原作権利者の許諾が必要である。無許可で二次著作物を作成し発表した場合は著作権侵害となり、「権利者に訴えられて敗訴した場合は」罪に問われることになる。
これは実に多くのサークルが頭を悩ませているポイントですね。
(なお、実在の人物をモデルとしたいわゆる「ナマモノ同人」については著作権というより肖像権や名誉棄損などが問題になるため、似て非なる問題になってきます)

著作権者の「二次創作同人」に対する対応は、主に以下の3つに分類されます。
  1. ガイドラインを定め、それに則っている限り公認する。
  2. 公式には認めないが、特に実害のない限りはわざわざ訴えたりせず事実上の黙認状態を続ける(問題のあるものについてはその限りではない)。
  3. 一切認めず、法的措置を含む厳しい態度をもって臨む。
これはあくまで「ファン活動としての同人」に対する態度であり、「営利目的の商業活動」と判断された場合、どんな権利者であっても断固とした措置を取る(もしくはロイヤリティを要求する)のが普通です。

上記の1.のパターンは比較的最近になって出てきたもので、主にキャラクターのイメージを壊されてもダメージが少ない場合(原作が18禁ゲームである場合など)に適用されることが多いです。二次創作で盛り上がる→原作の知名度も上がり人気が出る、といった効果を狙う側面もあるでしょう。

3.のパターンは実はそれほど多くなく、特に著作権に厳しいと言われるディズニーでさえ、実は何でもかんでも取り締まっているわけではないそうです。

全体の中で圧倒的な多数を占めるのが2.のパターンです。
権利者が企業である場合、二次創作を「公認」することは少なからぬリスクを負うことになります(何か問題が起きた場合に、「公認」したことに対する責任問題に発展しかねない、など)。しかし、全面禁止して片っ端から訴えていくことに対するメリットは小さくデメリットが大きい、となれば「原則黙認、問題が起きそうになったら動く」という姿勢が最も無難と言えるわけです。

そしてこの2.のタイプの権利者の作品に対して二次創作を行うことは、法的には「グレー」な状況となります。
そもそも著作権侵害は親告罪(違法状態にあったとしても、権利者が訴えない限り罪に問われない)であるため、極論すれば「訴えられて有罪になったらアウト、そうでなければセーフ」という話になります(第三者が「著作権侵害だ!違法だ!犯罪だ!」叫んでも意味は無いわけです)。
このケースで権利者が実際に動くのは、先に述べた「営利目的とみなされた場合(特にグッズ系などではそう判断されることが多いようです)」、そして「作品のイメージが壊され、実害が生じる危険のある場合(例えば子供向け作品に対する18禁ネタなど)」がほとんどであると思われます。

つまり、多くの二次創作同人は「権利者によるお目こぼしのおかげで犯罪にならずに済んでいる」という、非常に危うい状態にあるのが現状です。
ほとんどの権利者は、事前警告無しでいきなり法的措置に踏み切るようなことはしないので、二次創作を行う場合「警告が来たら即座に撤収する」姿勢を貫けば概ね安全、と言われています(既に作ってしまった在庫がお蔵入りになることによる、金銭的なダメージを受ける可能性などは考慮しておくべきでしょう)。

ここで注意が必要なのは、真正面から権利者に「○○(作品名)の二次創作をやっていいですか?」と問い合わせた場合、権利者によっては「(本当は目くじら立てたくはないけど立場上)ダメです(としか言えないんです)」となるケースが多い、という点です。藪をつついて何とやら。
しかし「勝手にやると怒るけど、正式に申し入れがあれば受け入れる」権利者も存在すると言われており、一概にこうするべき、と言えないのが難しいところです。

なお、二次創作であろうと何であろうと「他人が作った作品を、あたかも自分の作品であるかのように装って公開すること(盗作)」は、上記の著作権侵害の場合と違って親告罪ですらない(つまり権利者が訴えなくても、というか合意していた場合ですら犯罪になり得る)のでくれぐれも注意しましょう。盗作、ダメ、絶対。



とまあ、こんな調子で解説して参りましたが、あくまでこれは実際に活動していた中で見聞きして実感したものに、ネット等で調べた情報を補完した程度のものです。
同人の世界は、ジャンルや地域によって固有の空気やしきたりが存在するので、必ずしもありとあらゆる状況で通用するものではない、ということを気に留めておいて下さい。

(本当は「18禁同人誌と青少年健全云々」の話についても触れたかったのですが、デリケートかつナーバスな話題である上、その一件だけで今回の記事よりも長くなってしまいそうなのでまた別の機会に……)



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超基本ですなぁ。知られていないのか・・・
62ヶ月前
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>>1
コミケに毎年通ってるような人や、身近にサークル者がいるような人なら大体ご存じとは思いますが……いわゆるオタな人なら誰でも知っている、というわけでもないようです(ということを知った時は結構びっくりしましたが)。
ましてや「ニコニコユーザー」って括りで考えると明らかに少数派のようです……。
62ヶ月前
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日本ではイギリス等と違って私人訴追が認められていないので、権利者はあくまで民事訴訟を提起するか警察・検察に刑事告訴するだけです。刑事訴追が認められてるのは検察のみです。権利者に訴えられて敗訴した場合でも金銭を支払えば前科が付くわけではありません。
9ヶ月前
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