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AKB48峯岸みなみを坊主頭にさせたのは誰か
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AKB48峯岸みなみを坊主頭にさせたのは誰か

2013-02-12 20:03
    AKB48峯岸みなみを坊主頭にさせたのは誰か

    今回は柴 那典さんのブログ『日々の音色とことば:』からご寄稿いただきました。

    ■AKB48峯岸みなみを坊主頭にさせたのは誰か

    ●恋愛禁止という「校則」
    AKB48の峯岸みなみが恋愛報道を機に坊主頭になって謝罪をした。もう昨日からいろんなところで言われていることだと思うけれど、この動画の持っている衝撃性はすさまじくて、目にした人の感情を(悪い意味で)揺さぶるものになっている。

    ファンも、ファンじゃない人も、これには、さすがに多くの人が不快感を抱いたと思う。僕もそう。AKBも含め女性アイドル全般を「夢を実現させる少女たちの物語」として追っかけていた人にとっては「こんなものは見たくない」という気持ちがあっただろうし、遠巻きにブームを見ていた人はただ単にドン引きしただろうし。どちらにしろ、なにか胸がつかえるような気持ち悪さがあった。古くはシネイド・オコナーとか最近ではICONIQとか、坊主姿の美しい女性というのはいるので、ルックス自体の話じゃない(インパクトあるけど)。少しでもメディアリテラシーを持っている人ならば、この動画が反省の証として「公式チャンネルに」「高画質で」公開されたことの意味はわかるはずで、そこがやはり気持ち悪さの原因になっていた。

    僕のツイッターのタイムラインを見ていても、場末の茶番だと皮肉っている人も含めて「何か言いたくてたまらない」人たちが沢山いた。おそらく胸をざわつかせる何かがあの動画にあるんだろうと思う。

    ただ、「気持ち悪い」「不快だ」とだけツイッターでつぶやいて、「だからAKBはバカバカしい」とか「アイドルブームはもう終わりだ」とか切断処理して片付ける人も沢山いて、それはそれでいいんだけど、僕はそんなつもりにもなれなかったので、深夜にいろいろと考えた。で、僕にとって改めて印象的だった、考えを深めていく発端になったのは、動画の中でふと出てくる「秋元先生」という言葉だった。

    AKB48は「学校」のメタファで動いている。

    それは改めて僕が指摘することでもなく、普通に界隈で使われる用語を見ていればわかる。卒業、◯期生、研究生――。まあAKB48だけじゃなくてハロプロやスターダスト系もそうなのかもしれないけど、一方でジャニーズ系にそういう用語がないことを考えると、やはり女性アイドルグループ特有の文化なんだと思う。で、秋元康自身がAKB48を「学校」のメタファで捉えていることは、たとえば以下の対談の中でも語られている。

    『GQ JAPAN』

    http://gqjapan.jp/

    「2013年、“推しメン”は彼女だ!──あっちゃんなきAKBの未来、10の予言」 2013年01月25日 『GQ JAPAN』

    http://gqjapan.jp/2013/01/25/2013akb48/

    そのメタファに乗っかってあの動画の意味合いを捉えると、あれは「校則を破ってしまったけれど退学にしないでください」という峯岸みなみの涙ながらの訴え、ということになる。で、研究生に降格という処分は「停学」にあたる。

    「週刊誌に恋愛をスクープされた」というのは恋愛禁止というグループのローカルルール(=校則)を破ったことに過ぎないわけで、その“罪”と、20歳の女性が髪を剃り上げるという見た目のインパクトを含めた“罰”の、あまりに釣り合わないバランスが、まず感情をざわつかせている要因の一つなんだと思う。

    ●AKB48と『桐島』がメディア空間を「学校化」した?
    で、興味深いのは、沢山の人がこの動画を、桜宮高校の自殺事件を発端にした体育会系部活に存在する体罰やパワハラの問題とからめて語っていること。もちろんタイミングってのはあると思う。坊主頭ってまさに「部活」の文化だし。

    桜宮高校の事件は大きくメディアを賑わせた。さらに女子柔道の日本代表における暴力行為の告発がそれに拍車をかけた。振り返ると、大津の高校生自殺を発端にしたいじめ問題へのクローズアップもあった。

    でも、ずっと僕は不思議に思っていたのだ。なんで皆そんなに語りたがるんだろう?って。若くして自ら命を落とした人のことは本当に悼ましく思う。自殺なんてしなくてすむようになってほしい、暴力がなくなってほしいと心から願う。僕としては思うことはそれで終わりだったので、ツイッターでもたいして何かを言うわけでもなかった。

    マスメディアではコメンテータや著名人が「ご意見番」として、いじめや体罰を語る。ソーシャルメディアにも同じ構造が頻出する。でも、いじめも体罰も、それを語っている人自身は当事者ではない場合がほとんどだ。もちろん、たとえば過去の経験に今もとらわれていたり、親としての心配を抱えていたり、問題が「他人事」ではなく「自分ごと」な人も多いのだとは思う。それでも、「ケースバイケースで粛々と対応していく」ことではなく、炎上しながらいろんな意見が紛糾するさまはマスメディア、ソーシャルメディアの双方に顕著に表れている。他にも語るべき社会問題は沢山あるのにそこにフォーカスが当たっている。社会が「学校化」し、メディア空間が「学級会化」しているのだ。

    で、僕はそういう社会状況と、日本の今のカルチャー状況は相関関係にあると思っている。その象徴が2012年で言うならばAKB48と『桐島、部活やめるってよ』。『桐島~』については他にも語るべきことは沢山あるけど、あの作品がヒットして一年を象徴する映画になったことは「“学校”の舞台装置で人間関係を、つまり社会のあり方を語る」ことの有効性を証明したということに他ならないと思うし。

    AKB48のシステムとしての成功と君臨は、まわりまわって「メディア空間の学級会化」=「社会の学校化」をもたらした。そのことも、今回の騒動の遠因にはあるんじゃないか、とも思う。

    カイム=サン@_caym

    AKBのルールが気に入らなければAKBそのものを一切無視すればよいだけの話だが、AKBを見ない層が普段見ないのにルールだけに腹を立てる。AKBのルールはうまいこと社会のルールをなぞっているから、普段から社会に対して持っている不満をぶつける対象にしやすい。

    2013年01月31日

    https://twitter.com/_caym/statuses/297098600952000512

    こういうツイートもあった。なるほどね。

    ●誰がそれを望んだのか

    コンバットREC@combat_rec

    昨年のドキュメンタリーと同じことを言いたい。「少女たちは傷つきながら夢を見る」って傷つけてんのおめえらじゃねえか。

    2013年01月31日

    https://twitter.com/combat_rec/statuses/296947801110233088

    上のツイッターでの発言には心底同意。で、この「おめえら」をどう捉えるかで、その人なりの立ち位置と意見は変わってくると思う。単に運営側と捉えるか、ファンやアンチも含めてブームに加担した全ての人と捉えるか。僕は後者。

    ライムスターの宇多丸さんがウィークエンドシャッフルの「シネマハスラー」で『DOCUMENTARY of AKB48 Show must go on. 少女たちは傷つきながら、夢を見る』を語っていたときに、中心的なテーマになっていたのは、やっぱり、AKB48やアイドルブームが持っている構造的な残酷さだった。「アイドル映画の金字塔」「日本型アイドル進化史のひとつの到達点」としながら、そもそもアイドルのファンであること自体がそのアイドルを追い詰めてしまうということの“業”を語っていた。

    (追記・上のツイートのコンバットRECさんも宇多丸さんとの「放課後ポッドキャスト」で「おまえら」にファンが含まれることを語っていたと指摘がありました)。

    「これ以上踏み込んでしまうとジャンルそのものが壊れてしまう、臨界点」

    とあの作品について宇多丸さんは言っていたけれど、その臨界点の“先”で起こったのが、今回の騒動なんだと僕は捉えている。

    コミックナタリー編集長の唐木元さんはこんな風に書いている。

    唐木 元@rootsy

    秋元康のリビドー読みは正確無比だから、あれこそ多くの大衆の求めるところなのだろう。そして「現実は正解(by談志)」なのだ。それが胸糞悪さをもたらしている。

    2013年01月31日

    https://twitter.com/rootsy/statuses/296965627439087617

    アイドルが大衆の欲望を写し鏡のように反映したような存在だとするならば、「峯岸みなみを坊主頭にさせたのは誰か」という問いへの答えも、やはり「大衆の欲望」ということになる。「精神的に不安定になり、誰にも相談せず発作的に髪を刈った」というのは、それを過剰に内面化することが自罰的な行動につながったということを示している。円谷幸吉を殺したのは誰か?というのと、同じ類の問いだ。

    ただ、「大衆」って言葉を使うと自分をそこからうまく切断できたつもりになっちゃうけど、そう簡単にもいかないよなとも、思う。

    だって、やっぱり高校野球だって同じことなわけだしね。高校野球の「全力疾走」を称揚する美学と、アイドルの「全力」を称賛する価値観は、やはりどこかで通じ合っていると思うし。

    夏になれば、坊主頭の若者が炎天下の甲子園という過酷な環境で肩を壊すまで投げ続けるのを、我々日本人はドラマとして楽しんできた。正月になれば、コタツに入りながら箱根駅伝を眺め、彼らが倒れ込みながらタスキを繋ぎ、脱水症状を起こして走れなくなったりするさまを、エンターテイメントとして消費してきた。

    そこに設定されたゲームのルールのもとで、若者たちが期待を背負い、輝く一方で、ときに残酷なまでに壊れてしまう。それを「見世物」として求める無意識化の欲望が、大きな歪みとして現れたのが今回の騒動なんだと思う。

    そう考えると、個人的にはいろいろ納得いく。

    でもまあ、20歳の女性がその歪みの前に壊れてしまったさまで話題を作ったということ、そのことが引き起こす炎上さえシステムに取り込んで物語化できるという判断に対しての気持ち悪さの感覚は、やっぱりぬぐえないけどね。

    執筆: この記事は柴 那典さんのブログ『日々の音色とことば:』からご寄稿いただきました。

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