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自己啓発の歴史(1)CIAとLSD
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自己啓発の歴史(1)CIAとLSD

2013-02-13 18:33
    自己啓発の歴史(1)CIAとLSD

    今回は橘玲さんのブログ『Stairway to Heaven』からご寄稿頂きました。

    ■自己啓発の歴史(1)CIAとLSD

    予定外の仕事が入ってなんだかすごく忙しくなってしまい、ブログの更新ができないので、『残酷な世界』*1のために書いて、けっきょく使わなかった原稿をアップすることにします。

    *1:『残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法 』[単行本] 橘 玲 (著) 『amazon』
    http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4344018850

    *********************************************************************

    1943年4月16日、スイス、バーゼルの製薬研究所で新薬の研究をしていたアルバート・ホフマン博士は奇妙な経験をした。麦角菌(小麦やライ麦に寄生する菌類の一種で、麦角アルカロイドと呼ばれる毒性を有する)の派生物から合成した薬物を偶然、指先からほんのすこし吸収してしまったのだ。

    その体験を、博士は日記にこう書いた。

    「目をとじて横になっていると、幻想的なイメージがつぎからつぎへとくるくる変わりながら浮かんでは消え、浮かんでは消えていった。どのイメージも実にありありと立体感にあふれ、カレイドスコープのように鮮烈な色彩が交互にいり乱れていた」

    この不思議な体験は3時間ほど続き、徐々に回復した。

    博士はその3日後に、自分の身体を実験台にしてこの新しい薬物の効果を確かめてみた。そのとき服用したのは250マイクログラム(1マイクログラムは1グラムの100万分の1)という微量だったにもかかわらず、博士は一昼夜にわたって幻覚の世界をさまよい、幽体離脱でソファに横たわる自分の身体を眺めた。

    ホフマン博士の発見した奇妙な幻覚剤は、麦角菌からの25番目の合成物だったためLSD‐25と名づけられた。

    第二次世界大戦が終わり、ソ連(現在のロシア)など共産圏との冷戦が始まると、CIA(米中央情報局)は来るべき「世界最終戦争」に備え、極秘裏にさまざまな軍事研究に乗り出した。そのなかでも彼らがもっともちからをいれたのが、敵のスパイから情報を聞き出すための自白剤の開発だった。

    CIAの研究者たちが最初に試したのは、マリファナだった。大麻エキスの入った煙草を吸わせると、諜報員はたちまち酩酊状態に陥り、慎重さや用心深さなどの機能が麻痺してしまう。しかしその一方で性的な抑止力が低下し、笑いへの耐性がなくなり、ささいな冗談で腹を抱えて笑い出し、気分の異常な高揚で事実かどうかにかかわりなくひたすらしゃべりまくった。

    その後、海軍とCIAの軍事研究所は、メスカリン(ペヨーテサボテンに含まれる幻覚物質で、メキシコの呪術師が宗教儀式に用いた)、アンフェタミン(覚醒剤)、コカイン、ヘロインなどを片っ端から試した挙句、1950年代初頭にLSDにたどり着いた。

    当初の見込みは有望だった。LSDを投与されたCIA局員は、「重大な軍事機密」だと厳命されていたにもかかわらずたちまち詳細をしゃべってしまい、おまけに自分が機密を漏らしたことをまったく覚えていなかった。

    だが神秘の薬を発見したという興奮は、たちまち落胆へと変わった。LSDは扱いが難しく、なにも知らせずに投与すると、時間や空間のいちじるしい歪曲や奇怪な幻覚のために被験者は大混乱を起こし、全能の神になったように妄想をしゃべるか、内にひきこもって貝のように口を閉ざしてしまうのだ。

    だがCIAは、きわめて安価に生産でき、少量で驚くべき効果のあるこの薬物を簡単にあきらめることができなかった。開発元であるスイスの製薬会社からLSD10キロ、1億服分というとてつもない量を購入すると、全米の大学や研究所に無償で配布して軍事利用の可能性を探った。

    そのなかには、LSDを自国のスパイに携行させるというアイデアがあった。敵に捕えられても、先にトリップしてしまえばどのような尋問も無効になる。

    あるいは、敵国の政府要人をLSDで失脚させるという作戦が考えられた。キューバのフェデル・カストロが演説中に支離滅裂なことをしゃべり出せば、信用が失墜してキューバ革命政府は崩壊するというマンガじみた話が真剣に検討された。

    きわめつけは、戦闘用化学兵器の開発研究だった。敵国の都市にLSDを散布すれば、兵士も住民も誰も彼もがトリップしてすべての都市機能が停止する。その間に地上部隊が進撃し、無抵抗のまま都市を占領してしまえばいい。この“幻覚攻撃”は、敵にも味方にも死傷者を出すことなく確実に勝利を手にする究極の作戦とされた(一部の精神的に不安的なひとびとが重篤な精神障害になる可能性は考慮されていた)。

    1959年、米陸軍のウィリアム・クリーシー少将は、連邦下院の科学・宇宙航空委員会でLSDの効用を説いた。

    「いくら私だって、たとえほんの数時間とはいえ、人を発狂させるのがおもしろいなんていうつもりはありませんよ」クリーシー少将はこう弁じた。「でもあなたがたは、一時的に化学薬品で発狂させられるのと、焼夷弾で生きたまま焼き殺されるのと、どちらがいいですか?」

    下院議員たちは少将の話に魅了され、幻覚兵器の開発に了承を与えたばかりか、敵国からの幻覚攻撃に備え、あらかじめ米軍兵士にLSDを体験させておくべきだと考えた。こうして陸軍は、1500名にものぼる将校をトリップさせることになった。彼らのなかには軍の研究所から幻覚剤を盗み出し、兵舎でトリップパーティを開く者も現われた。

    このようにして1960年代に入ると、アメリカじゅうの研究機関が膨大な量の麻薬物質を保有するようになった。そのなかには軍事研究を離れ、LSDをもっと意義のあることに使えないかと考える研究者もいた。

    参考文献:マーティン・A・リー、ブルース・シュレイン

    『アシッド・ドリームズ―CIA、LSD、ヒッピー革命』*2

    *2:『アシッド・ドリームズ―CIA、LSD、ヒッピー革命』[単行本]

    マーティン A.リー (著), ブルース・シュレイン (著), 越智 道雄 (翻訳) 『amazon』

    http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4807492039/

    執筆:この記事は橘玲さんのブログ『Stairway to Heaven』からご寄稿いただきました。

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